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2017.09.28

観光が探検になるってどういうこと!?世にも不便な「観光ナビ」

ナビゲーションといえば、まず思い浮かぶのがカーナビ。カーナビは現在地から目的地までの最短ルートを、音声案内と経路図でわかりやすく示してくれます。ところが、情報理工学部ソーシャルコミュニケーション研究室で開発された「観光ナビ」は、カーナビとはまったく逆。表示されるのは、あえてわかりにくく加工した地図だけです。同研究室で、観光ナビの研究に取り組む情報理工学部情報コミュニケーション学科の藤本さんと植木さんは、このユニークなナビの誕生秘話を聞くため、発案者である仲谷先生の元を訪ねました。

先生、こんにちは!「観光ナビ」のことで、ちょっと先生に聞きたいことがあるんです。
ナビゲーションの意味を調べたら、辞書には「経路誘導」と記されていました。カーナビは、まさに目的地まで最短時間、最短距離でたどり着ける経路が示されます。でもこの研究室の「観光ナビ」はまったく違いますよね。

▲「観光ナビ」について、二人に解説する仲谷先生

君たち二人も「観光ナビ」の開発に参加しているから、概要はわかっているでしょう。「観光ナビ」では基本的に、現在地と目的地だけを明示し、途中の経路情報はわざと曖昧にしています。
そこなんです!自分で開発していながら、あえて不親切にする理由が、いま一つピンきていないんですよね……。
じゃあ、まずは二人で「観光ナビ」を試してきてもらおうかな。

「観光ナビ」を体験!

▲現在地周辺が隠された「観光ナビ」を手に、目的地を目指す二人

目的地はもうこの辺のはずなんだけどな……。

▲方角を頼りに周囲を探し、ようやく目的地を見つけることができた

あ!あれじゃない?
え?どこ?……あ!本当だ!やっと見つかったー!

観光の意味ってなんだろう?

先生、行ってきました!目的地のすぐ側まで来ているのに、なかなか辿り着けなくて大変でした。
先生はなんで、わかりにくい「観光ナビ」を作ろうと思ったんですか?キッカケを教えてください。
まず考えてほしいのが「観光」の意味です。そもそも観光とは、何をすることだと思う?
うーん、目的の場所を見て回る……とか?

▲「観光ナビ」の開発秘話に耳を傾ける植木さん(左)、藤本さん(右)

最近は、何でもWebで検索すれば、ひと通りのことがわかります。観光でも、奈良の大仏を見に行こうと思えば、キーワード「奈良&大仏」で調べればいい。奈良駅からの経路情報をスマホに表示して歩けば、迷うことはないでしょう。そして東大寺にたどり着いたことを確認して、「よし、見た!」として次の目的地を目指す。観光地訪問はWeb情報の確認作業になっています。また、歩いている間はスマホの画面を見ているから、途中の風景などは見ていない。目的地に効率的に着けることが楽しい観光でしょうか。
そう言われれば、目指す場所に迷わず着くことがだけが目的になっていて、それ以外の面白さはないかも。
「観光」とは「光」を「観る」と書きます。自分の見知らぬ場所、その土地に降り注いでいる光、すなわち風景や出来事を見る。人に出会う。これが本来の観光です。単純に目的地に達することだけが、観光ではないのです。
確かに、さっき藤本くんと一緒に、あっちにうろうろ、こっちをキョロキョロしながら、普段とは違う光景を観て、いろいろ体験するのは楽しかったな。
そうした道中での「非日常の体験」も旅の楽しさですね。

わからないから発見がある!

実際に観光客が、何を楽しんでいるのかを知るための調査をしたことがあります。ある観光地で目的地だけを決めて、自由に歩かせます。その後で実際に歩いたルート図を描いてもらい、印象に残ったエピソードなども書き込んでもらいました。すると、エピソードのほとんどが途中の経路に関するもので、肝心の目的地については記号と名前しか書かれていなかったのです。

▲調査の際に実際に描かれた地図のサンプル

まさに「道」を歩けば「未知」との遭遇があるというわけだ(笑)
ということは、地図を見ながら歩くのではなく、まわりの風景を見ながら歩かなきゃだめってことか。
そこで、現在地の周囲の地図を隠す「観光ナビ」を作ることにしたんです。スマホにマップを表示し、現在地と目的地がわかるようにピンを立てます。歩いて移動すればそれに連れて、現在地のピンも移動する。ただし、現在地のまわり、半径100メートルのエリアは見えないように隠しました。

▲現在地の周囲100mの地図をあえて消す「観光ナビ」

目的地に向かって歩けば、その分だけ、それまで見えていた場所の情報が見えなくなるんですよね。これ、結構不安になりました。
隠す範囲が半径100メートルなのは、何か根拠があるのでしょうか。
文献情報によれば、人は方向がわからない状態で100メートルぐらい歩くと、不安になるようです。引き返そうと思う限界もそれぐらいで、100メートルを超えると「もういいや、このまま行ってしまえ」となる。しかも100メートル先が見えないと、目的地に近づいたときに地図から目的地が消えてしまいます。
めっちゃ不安だけど、その分、まわりをよく見るようになりました。この辺にあるはずだから探してやろう!って。

よく見るようになると、結構色々な発見もあって面白かったよね。なるほど、それが「光」をよく「観る」、つまり観光の意味というわけか。

人を幸せにするための研究

要するに、観光する際に、周りをしっかり観察するように「いざなう」仕組みが「観光ナビ」なのです。これまでに多くの学生によって、さまざまな「いざない方」が提案されてきました。例えば、表示した地図全体に最初からモヤがかかったような状態にしておき、移動したところだけがクリアに見えるようになるタイプがあります。この場合、モヤの部分をはっきりさせたいという気持ちにさせて、新たな観光行動を生みますね。また何も表示されていない画面上に、現在地と目的地、途中にあるいくつかのランドマークのピンだけが立っているタイプもあります。ピンをタップすると写真が表示され、それを風景の中に探すという、オリエンテーリングのような観光です。最初は1歩も進めないと思いますが、道は目の前にある訳ですから、勇気を出して移動すると、目的地との位置関係の変化がわかり、ピンの場所に近づいているかどうかが確認できます。

▲現在地と目的地、ランドマークに立っているピンの情報だけを提供する「観光ナビ」

観光ナビ開発時の課題は、提供情報をどこまで曖昧にするか。その仕組次第で、いくらでもバージョンができますね。
あまり不親切だと不安が高まって嫌になるし、かと言って簡単にわかると面白くない。心理的にギリギリのラインを突けば、観光が探検ゲームになりそうです。
迷いながら途中を楽しむのだから、地図は方向さえわかればいいのです。後で「こんな良いところがあったのに見逃したよ」と教えてあげれば、もう一度来なくちゃと思わせることもできます。迷いながらも最終的には目的地に到達できれば、大きな達成感を得られて、幸せな気分になれるでしょう。最初は使うのが不安だけど、一度使ったに人は病み付きになります。つまりこのような観光ナビは、人を幸せにするツールでもあるのです。観光とは何なのか、どうしたらもっと楽しくなるんだろう、幸せになれるだろうと、物事の本質を追求していくと、必ず新しい発見が生まれます。そんな体験をこの研究室でしてほしいですね。
立命館大学 情報理工学部

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