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2017.11.30

バクテリアが体内時計を持ってるって本当?

夜になれば眠くなり、朝になったら目が覚める。人間は体の中に持っている体内時計のおかげで、一日24時間のサイクルに合わせた生活をすることができます。
実は、体の中に「時計」を持っているのは、人間だけではありません。27億年以上も前から地球に存在しているバクテリアをはじめ、地球に住むほぼすべての生き物が、同じような体内時計を持っていることがわかってきました。目に見えないほど小さなバクテリアが時計を持っているって…本当なのでしょうか!?

生き物の大先輩「シアノバクテリア」

生命科学部生命科学研究科の大山克明さんは、「シアノバクテリアの体内時計」の仕組みの解明を目指して、研究を進めています。そもそも、シアノバクテリアとはどういう生き物なのでしょう?

シアノバクテリアは、簡単にいえば私たちの『生き物としての大先輩』です。人間は夜になれば眠くなりますし、朝になると目が覚めますよね? それは体の中に『体内時計』を持っているからです。シアノバクテリアは、その『体内時計』を持つ最古の光合成微生物だと言われています

▲この緑色をしているのが「シアノバクテリア」

シアノバクテリアは、細胞のなかに「核」を持たない、原核生物と呼ばれる生物です。27億年前から地球上に存在し、大気中の二酸化炭素を吸い込んで光合成を行い、酸素を排出することで、いまの地球の大気を作っていったと言われています。その辺の池や水たまりでも見つけることができますが、温泉や南極などの厳しい環境でも繁殖することができます。
このきわめて原始的な生き物が、体内時計の仕組みを体に備えるようになったのは、「理由の1つとして、光合成を効率的に行うためだと考えられます」と大山さん。

光合成をより効率的に行うには、日が昇る前に、それに使うタンパク質をあらかじめ細胞内に用意しておく必要があります。そのためにシアノバクテリアは進化の過程で、体内時計を作ったのではないかと言われています

ノーベル生理学・医学賞に貢献!

このシアノバクテリアの体内時計を世界で初めて発見したのが、名古屋大学の近藤孝男教授と石浦正寛教授。

それまで体内時計は、バクテリアのような生物には存在しないと考えられていたので、世界中に衝撃が走りました

さらに近藤教授らは、シアノバクテリアの細胞から、「時計の本体」と考えられるタンパク質を生み出す「kaiA、kaiB、kaiC」という3つの遺伝子を発見しました(Kaiは「回転」の回から名付けられた)。

▲シアノバクテリアの体内時計について解説する大山さん

現在、体内時計の役割を担うタンパク質を作り出す遺伝子がわかっている生物は他にもいますが、タンパク質(時計そのもの)で概日振動(24時間周期の規則的な振動)することがわかっているのは、シアノバクテリアだけです。2017年のノーベル生理学・医学賞は、ショウジョウバエの体内時計の仕組みの一部を明らかにした3人の科学者に贈られましたが、シアノバクテリアの体内時計研究もこの分野を盛り上げるのに大いに貢献しています

時計タンパク質「KaiABC」の秘密を探れ!

近藤教授の研究室は、日本における体内時計研究のメッカと呼ばれているそう。そこから巣立った研究者の一人で、現在、大山さんの指導教員を務めるのが、寺内一姫先生です。

▲生命科学部の寺内一姫教授

地球上に棲むほとんどすべての生き物は、24時間周期の昼と夜の環境変化に合わせて生活しています。私たちの研究は、シアノバクテリアの体内時計の仕組みを解明することで、生命が地球の自転周期をどのように細胞内に記憶し、命を育んできたのか、解き明かそうとしています

時計タンパク質であるKaiA、KaiB、KaiCは、それぞれがくっついたり、離れたりすることで24時間の周期を刻んでいることまではわかっています。シアノバクテリアからその3つのタンパク質を分離し、試験管に入れて、エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を与えると、外部から隔離して光などの刺激をいっさい与えずとも、24時間のリズムを刻みます。

しかし、アミノ酸がつながったタンパク質であるKaiABCにおいて、時計の『歯車』や『発振器』にあたる部品はなんなのか。どういうメカニズムで時を刻んでいるかは、ほとんどわかっていません。その構造と仕組みを解き明かすことができれば、やがて時計タンパク質を使った新しい医薬品の開発や医療などへと、大きな貢献ができるはずです

寺内教授はこれまでの研究で、シアノバクテリアの体内時計の進行が、KaiCによるATPの加水分解によって決められていることをつきとめました(ATPは加水分解されることでエネルギーを放出する)。そして、その速度は周囲の温度が変化しても、ほとんど変わらないことも見出しました。大山さんは寺内教授の指導のもと、さらなるKaiABCの時計メカニズムの解明を目指して、さまざまな実験を行っています。

▲電気泳動による分析実験の様子。青色に見えるのが時計タンパク質

現在は、液体クロマトグラフィーと呼ばれる装置で条件を変えながら時計タンパク質がATPをどのように消費しているか解析したり、時間経過で分けた時計タンパク質を電気泳動(電気を流して、ゲルの中でタンパク質を分離する)によって分析するなどの実験を中心に行っています

▲コンピュータを使ったシミュレーションの様子

また、インターネット上のタンパク質のデータベースを使って、KaiABCがどんなふうに結合するか、詳細なコンピュータ・シミュレーションも実施しています。自然は偉大なので、シミュレーション通りに行かないことももちろんありますが、うまくデジタルを活用しながら研究を進めています

最先端の研究に取り組む喜び

面白いものがあるんですよ。これは3Dプリンタで作ったシアノバクテリアの細胞内にあるKaiC分子の模型なのですが、6つ円柱状につながったKaiCは、真ん中に穴が空いていて、まるで時計のように見えませんか?

▲3Dプリンタで作られたKaiCの模型

しかも6つのタンパク質のそれぞれには2つのATPが結びつく穴があり、アナログ時計の数字のように12の構造をとっていることも判明したのです。面白いでしょ?この形がわかったとき、世界中の研究者がびっくりしました
自然を対象に研究していると、こういった神秘的な発見に驚かされます。シアノバクテリアの体内時計の研究は、日本が世界でもトップを走っています。この研究の面白さは、世界中で誰も今まで知らなかったこと、わからなかったことを、自分がいちばん最初に知ることができることですね
体内時計の仕組みについて、1枚ずつベールを剥がしていくような感覚を持ちながら研究を進めていると、自然は本当に偉大であることを実感します。探求すればするほど謎は深まりますが、それを少しずつ解明することの喜びは他に比べようがありません
立命館大学 生命科学部

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