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2018.12.25

持久力を養う低酸素トレーニングは短距離種目の選手にも効果あるの?

低酸素トレーニングといえば、マラソンなどの長距離種目で持久力を鍛えるトレーニングとして有名ですね。実際に日本でも多くのマラソン選手が、酸素の薄い高地に赴いてトレーニングに励み、成果を出してきました。その低酸素トレーニングを、短距離走など瞬発力が求められる選手が行うとどうなるんだろう、もしかすると効果があるかも? そんな好奇心から実験をスタートさせた立命館大学スポーツ健康科学部 後藤研究室の笠井さん。研究を重ねるうちに、効果をもたらすメカニズムもわかってきました。

低酸素トレーニングのメカニズム

▲スポーツ健康科学研究科博士課程後期課程3年の笠井さん

低酸素状態で運動すると、私たちの身体はヘモグロビンを増やすようになります。ヘモグロビンは酸素を運ぶタンパク質ですから、その量が増えるとより多くの酸素が体に行き渡り、その結果として、有酸素系の運動能力である持久力が伸びる。これが低酸素トレーニングによって持久力が強化されるメカニズムです。
では、持久力ではなく瞬発力が求められる短距離走や球技などの選手を対象にした低酸素トレーニングには効果がないのか。これが笠井くんの最初の問題意識でしたね。
僕自身が短距離をやっていたこともあり、もし何らかの効果を期待できるなら低酸素トレーニングを採り入れたいと考えたのです。

▲同じ研究室に所属するスポーツ健康科学研究科博士課程前期課程1年の山口さん

おもしろい発想ですね。その仮説を確かめるために、どんな実験を行ったんですか?
ラクロス部の女子選手32名に協力してもらい、低酸素環境、通常酸素環境に分かれて全力ペダリングテストを行い結果を比較しました。今日は山口くんに被験者になってもらって、テストを再現してみましょう。
体力には自信があります。まかせてください!

低酸素環境での全力ペダリング!その効果は!?

▲通常の酸素濃度が21%であるのに対して14.5%という低酸素環境でトレーニングは行われた。

それでは、無酸素性運動として10秒間、全力でペダリングしてもらい、トレーニング中の動脈内の酸素飽和度と心拍数をモニタリングします。またトレーニングの前後に、太もも内部のクレアチンリン酸とグリコーゲンの量を計測します。

用意はいい? 3・2・1・ゴーッ!

▲トレーニング中、リアルタイムに計測が行われる

さあこいでこいで、全力でこいで!
……!!!
OK、10秒です。ちょっと休んで。
この全力ペダリングってめっちゃきついっすね…。これを何セット、繰り返すんでしたっけ?
10セットだね。
まじか…

ートレーニング後ー

お疲れさま。結構大変でしょ? 今、山口君にやってもらったトレーニングを週2回、4週間にわたって実施しました。結果は次の通り。「低酸素群」と「通常酸素群」の平均パワーを比べてみると、結果は一目瞭然です。

「低酸素群」はトレーニング後、全セットで平均パワーが上昇してる。すごい効果ですね!
その後に行った別の研究では、筋肉内部のクレアチンリン酸とグリコーゲンの量が増えていることもわかりました。これは無酸素性の運動能力が向上したことを意味しています。
同じ低酸素トレーニングでも、マラソン選手の高地トレーニングとは負荷のかけ方が違いますよね。
そこが重要なポイント。負荷の高いトレーニングを低酸素で繰り返すことで、短期間で完結する無酸素性運動の能力が高まるんだ。
この研究を笠井君が手がけたのは、学部3年生のときでしたね。研究成果をヨーロッパの学会で発表し、英語で書いた論文は国際誌に掲載されました。その論文は今でも海外の研究者によく引用されています。

なぜ低酸素トレーニングは、短距離選手にも効果があるのか

どうして無酸素性のパワーが高まるんですか?
同じ人が全力でペダリングをするなら、無酸素状態、通常酸素状態のいずれでも10秒間程度なら発揮されるパワーそのものに違いはほとんど出ない。逆にいえばわずか10秒間とはいえ、低酸素なのに通常の酸素状態と同じだけのパワーを発揮していることになるよね。
吸い込む酸素の量が少ないにもかかわらず、同じパワーを出すためには、何か別のエネルギー源が必要になる…?
その通り! 低酸素状態では酸素に依存することなく糖を分解してエネルギーを作っているんです。そう考えると何か思いつきませんか。
糖を分解すると乳酸がたくさんできるはずですよね。なるほど、それで筋肉が乳酸に耐えるように鍛えられるわけか。
そういうこと。
僕はクラブ活動でカヌーをやっているのですが、このトレーニングを応用してみたいですね。これまで行われてきたのは、下半身に対するトレーニングですが、メカニズムを考えると上半身にも低酸素トレーニングは有効なはずです。
それは面白そうだね。

さらに別の負荷を加えると、どうなる?

低酸素という負荷がトレーニング効果を高めるのなら、もう一つ別の負荷をかけると、さらに効果を増すんじゃないですか?

▲二人の研究を指導する後藤先生

実は、低酸素かつ暑熱、つまり酸素濃度が低く非常に暑いという負荷の高い環境下でのトレーニングにも既に着手しています。先ほどと同じ10秒間の全力ペダリングテストを繰り返したところ、「暑熱・低酸素環境」では「通常環境」よりも前半セットでの発揮パワーが大きくなることや、血中乳酸濃度が高まることなどがわかってきました。
ということは、低酸素+高温下での高強度トレーニングも効果が期待できそうですね。

「暑熱・低酸素環境」は、これから世界で活躍することを目指す選手たちの有効なトレーニング法となる可能性があります。日本選手が好成績を残すためのお手伝いができるよう、研究を進めていきましょう。
立命館大学 スポーツ健康科学部 立命館大学研究活動報 RADIANT

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