2019.02.08

高所作業は危険がいっぱい!ドローンに任せられないかな?

ここ数年で、世界中に一気に普及した空飛ぶ機械、「ドローン」。複数のプロペラを回転させることで自在に飛び回り、空中でピタリと静止することも可能なドローンは、近年、テレビや映画などの空撮に活用されるほか、世界的な通販企業の宅配の手段としても実用段階に入っています。理工学部ロボティクス学科の下ノ村研究室では、そのドローンを改良することで、「人間に代わって危険な作業を行わせる」ことを目指し、日夜研究にのめり込んでいるんだとか。学生を惹きつけてやまないドローンの魅力って…!?

高所作業用のドローンを開発せよ!

▲下ノ村研究室のメンバー。左から細川雄也さん、小南貴雅さん、Jiang Ruiさん、宮崎遼さん

僕たちは、高所作業用ドローンの開発に取り組んでいます。電線に絡みついた紐などを取り除いたり、高圧線の鉄塔の修理などの高所作業は、たいへん危険ですが、これまで命綱をつけた人間がやる以外の方法がありませんでした。そういった高所作業がドローンによって代替できれば、多くの人の生命を危険にさらさずに済むようになります。
▲下ノ村研究室が発表した高所作業用ドローン
僕はその中でも、ドローンの下部に取り付けた「アーム」(マニピュレータ)の改良を担当しています。

▲この部分がドローンのアーム。作業を行う「腕」となる場所だ

ドローンはいわば「自ら飛ぶロボット」。空中で作業ができることはドローンの大きな利点ですが、屋外では風の影響により、作業の位置を正確に決めることが難しく、またバッテリの容量のせいで作業に必要な飛行時間を確保するのが難しいという課題がありました。そこで下ノ村研究室の開発したドローンは、上部に「グリッパ」という名の固定装置を搭載し、構造物をつかむことで自らを「固定」することにしました。

▲ドローンの上部に取り付けられた「グリッパ」が構造物をつかんで機体を固定する

グリッパで固定することによりその間はプロペラを動かす必要がなくなり、バッテリの消耗を減らせます。またバルブを回したりといった、大きな力を加える作業もドローンに行わせることが可能になりました。現在、アームの動く角度等の自由度を上げて、さまざまな作業を行わせる研究を進めているところです。
僕はJiang君と二人で、ドローンに搭載したカメラで撮影した映像をもとに、3Dマップをコンピュータ上に構築する「組み込みビジョンシステム」の研究を行っています。基本的に今のドローンの多くは、ラジコンのように手元のリモコンで操作しますが、それだと精密なコントロールがどうしても難しくなります。

▲ドローンに搭載されたカメラ。ここで撮影されたデータが、飛行制御の重要な情報となる

ドローン搭載のコンピュータが、3Dマップのデータとカメラの画像を解析して自動で動くようになれば、人がドローンや対象物を見えない場所でも作業することができるようになります。現在は小南くんと僕の二人で、カメラから入力された画像データをより精度・速度ともに優れた処理ができるように、アルゴリズムに検討を加え、改良したプログラムをドローンにインプットして実際に飛行実験を行っているところです。将来的にはレーザーなどを用いたセンサーを搭載することで、夜間でもドローンによる作業が可能になることも想定しています。
僕は今、2台のドローンが空中でドッキングして、一緒に作業を行う研究を行っています。空中でバーを受け渡すことはすでに成功しており、その先には、複数のドローンが一つの重いものを持ち上げるなどの共同作業の実現を目指しています。また、「ロングリーチマニピュレーション」と呼んでいますが、ドローンの下部から垂直に3〜5メートルぐらいアームを伸ばして作業を行う研究も行っています。そうすることで、人が入っていけないような狭い場所でも、プロペラの風の影響を与えずに作業が行えるようになります。
▲研究が進められているドローン。空中で2台のドローンがドッキングする

世界に評価されたドローン研究

こうした先駆的な試みが評価され、下ノ村研究室で開発したドローンは、昨年7月にニュージーランドのオークランド大学で開催された「AIM 2018」というロボティクスとメカトロニクスの国際的な学会で、数百件の発表の中からわずか4件しか選ばれない賞の一つである、「AIM-Machines Best Paper Award」を受賞しました。

▲研究室で学生たちを指導する下ノ村教授

ドローンは現在、「空撮」と「輸送」が主たる用途として世界中で活用が始まっていますが、その次には必ず、ドローンによる「作業」がさまざまな領域で行われるようになるはずです。橋梁工事やトンネル工事などの高所作業の他にも、林業における「枝打ち」、また環境調査や高山の植物サンプルの採取など、ドローンが代替することで人間の負担と危険を削減できる作業は非常にたくさんあります。
 またドローンを使えば、現在の物流倉庫や生産工場を、高層ビルのように縦長にすることも可能になるでしょう。国土が狭い日本では、そうした「立体倉庫」「立体工場」の需要も将来出てくるのではないかと考えています。

ドローンに惹かれる理由

ドローンの未来に目を向け、様々な可能性を模索する下ノ村研究室のみなさんは、とにかく楽しそう。ドローンを研究するやりがいや面白さは何なのでしょうか?

地上のロボットとは違って、地形の影響を受けずにいろんな作業を3次元で行えることですね。現在の研究では、産業用途を中心に想定していますが、僕の個人的な興味としては、「レスキューロボット」としての活用を考えています。山で人が遭難したときや、高層ビルの火災現場など、人が助けに行きにくい場所でも、ドローンならいち早く駆けつけることができます。災害用のドローンに、人に渡すGPS装置、救命器具、薬や食料などを搭載すれば、多くの人の生命を救えるはずです。

飛行ロボットの分野は、この10年ほどで急激に盛り上がってきた領域なので、まだまだ新しい可能性が眠っています。学生の自分もその第一線で研究に取り組み、世界ではじめてのアイディアを考えて実現できるのが何よりも面白いですね。

ドローンがこれだけ急速に普及したのは、搭載する電池の性能がアップして、飛行時間が少し前に比べて10倍ぐらいにアップしたのが大きな理由です。飛行の制御装置の精度も、MEMS(マイクロ電子機器)の進歩によって飛躍的に高まり、数千円で買えるトイドローンでも飛行中の姿勢が正確に制御できるようになりました。それらの部品や制御プログラムは誰でも手に入れることができ、機体そのものも3Dプリンターで短期間で自作することができます。そうした環境で、スピーディに試作機を自分たちで作って、実際に飛ばして実験できることが魅力ですね。
立命館のロボティクス学科は、3Dプリンター等の製作設備も充実していますし、飛行ロボットづくりにはまたとない環境だと感じています。僕は高校生のときからロボットに興味があったのですが、多くの大学では大学院に進んでから、初めてロボットの実機を製作するのに対し、立命館は学部1年生からロボット製作に必要な知識を教えてくれ、実機に触れることが何より魅力に感じました。

私も学部から立命館に留学生として入学しましたが、ロボティクス学科の良いところは、ロボット製作に必要な様々な分野のエキスパートの先生が揃っていて、しかも「垣根」が低いところだと感じています。飛行ロボットづくりでは機械制御系の知識はもちろん、デジタル画像処理やプログラミング、航空力学や電子工学、電池など、さまざまな知識が必要となります。それぞれに関して詳しい先生に、とても自由な雰囲気で質問できるのは、この学部のまたとない良さだと思います。

みんなが言うように、ドローンの開発には、高校で習う理系分野の多くの知識を総動員することが必要になります。それだけでなく、世の中に役立つロボットを作るためには、今の社会で何が問題となっているのか、改善すべきテーマはどこにあるのか、といった幅広い関心を持つことも欠かせません。飛行ロボットの研究に打ち込むみんなには、社会に対するアンテナをできるだけ大きく広げていてもらいたいですね。
立命館大学 理工学部 立命館大学研究活動報 RADIANT

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