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2019.06.11

V Rデッドボールって何?球に当たる確率を45%下げる驚きの練習法

ここは情報理工学部の研究室です。おや、何やら頭に機械を装着した学生が、バットを手に、床に描かれたバッターボックスに入って構えています。見つめる先にはパソコンしかありません。しばらくすると「うわっ」と、上半身を大きくのけぞらせて、何かを避けました!いったい何が起こったのでしょうか。

いま彼は、僕たちが作成したVR(バーチャル・リアリティ)による「デッドボールのシミュレータ」を体験したところです。

情報理工学部のメディアエクスペリエンスデザイン研究室では、VR(バーチャル・リアリティ)を用いた「野球のバッティングの能力向上」シミュレータを、スポーツ健康科学部との共同で研究しています。情報理工学部4回生の山岡仁さんは、代々の先輩からその研究を引き継ぎ、新たに「デッドボールを回避する」シミュレータに取り組んでいるそう。

▲情報理工学部4回生の山岡仁さん

デッドボールはだいたい平均すると、1試合に1度は発生しています。しかし時速130キロ以上にもなる野球のボールが体に当たるのは、たいへん危険ですよね。

実際に、プロ野球では頭部にデッドボールが当たった選手が大怪我をして引退をしてしまったり、アマ野球でも高校生が練習中に亡くなったりという深刻な事故が起きています。

デッドボールはそもそも危険なので、それを避ける練習もリアルに行おうとすれば、危険が避けられません。プロ野球の世界でも、ごく一部の選手が、キャッチャーの防具をつけて避ける練習をたまにするぐらいと聞いています。それに、デッドボールをもらうと打者は一塁に進塁できるため、「当たりどころが良ければラッキー」と考えられている節があって、積極的に避ける練習に取り組むチームはほとんどないのが現状なんです。

ピッチャーが「デッドボール」を投げてくるVR

そんな状況を打破するために山岡さんが取り組んでいるのが、VRを使って、安全にデッドボールを回避できるシミュレータの開発です。

▲デッドボールのシミュレータの様子

彼が頭につけている機械は、ヘッドマウントディスプレイと呼ばれ、視界には360度で球場の様子が広がっています。実際の球場で野球をプレイしているのと同じようにピッチャーはボールを投げてきて、そのうち5球に1球はランダムで、避けなければ体に当たる危険球となるように設定しています。

▲頭に装着するヘッドマウントディスプレイ

▲ヘッドマウントディスプレイを装着すると目の前に球場が!

このシミュレータに使っているピッチャーのデータは、実際の大学野球部選手のモーションキャプチャーから作成したデータを利用しています。ボールの軌道は本物のプロ投手が試合で投げた球と、一緒なんですよ。
私たちの研究室では、代々の学生たちが野球のバッティングのVRシミュレータに取り組んできました。山岡くんの先輩たちは、「どうすれば打撃能力が高まるか」という観点でシミュレータをブラッシュアップしてきましたが、その観点を保ちながら、デッドボールを避けるシミュレーションを付け加えたのが、山岡くんの研究のポイントになります。

構えたバットをスイングしたり、デッドボールを避けたりすれば、リアルタイムでVR映像にも反映されます。バットの位置や、体の動きはどのように判定しているのでしょうか。

バットの先に取り付けた反射材(マーカー)を、天井にある4つのハイスピードカメラが撮影して、高速処理することで位置を割り出しています。体の姿勢は、現在は頭の位置だけですが、ヘッドマウントディスプレイの中にセンサーが入っているので、それで解析しています。

▲バットの先端に取り付けられた反射材(マーカー)

▲周囲にセッティングされたハイスピードカメラが、マーカーを認識しバットの軌道を捉える

VRでも練習成果はでる!

自分がどうデッドボールを避けたか(あるいは避けられなかったか)を、シミュレータではミリ秒単位のスロー動画で振り返ってみることができます。そうしたフィードバックを選手に与えることで、シミュレータ練習前に比べて練習後は、デッドボールに当たる確率を平均して45%下げることができました。

▲フィードバック動画の1シーン

実戦で役立つシステムを作るには野球経験者の視点が欠かせない、と山岡さん。どういったフィードバックを与えれば成果につながるのか、スポーツ健康科学部との共同研究の中で議論を重ねたといいます。

10年以上の野球経験者に何人も体験してもらいました。僕は野球をやらないので、選手側からの意見をもらえるのが非常にありがたかったですね。

▲情報理工学部のロペス・ロベルト准教授

被験者の中には、デッドボール経験者もいて、「当たった後はバッターボックスに立つのがしばらく怖かった。バットを振るタイミングにも悪影響があった」と話していました。彼らはデッドボールの実際の痛みがわかっているから、シミュレータでも実にリアルな反応を示してくれます。
このシミュレータを通じて、デッドボールの危険を下げることができれば、プロ・アマの野球界に大きく貢献できる可能性があります。

VR×スポーツは相性抜群

VRを使ったシミュレータは、屋内でもできるので天候に左右されない。一人でできる。そして、練習の成果を具体的・客観的な数値で把握できるなど、数々のメリットがあり、今後ますますの広がりを期待させます。

自分以外の選手とデータで動きを比較できる。これはVRの大きな魅力ですよね。野球に限らずスポーツの世界ではこれからどんどん取り入れられていくでしょう。山岡くん、私たちのシミュレータは、どう改良していきましょうか?

いまはヘッドマウントディスプレイがある頭部だけを解析しているので、これを体全体の動きを解析できるようにしたいですね。そうすることで、単に「避けた/当たった」を判定するのではなく、「より上手な避け方」がわかってくるはずです。
デッドボールの避け方もさまざまですからね。しゃがんだり、お辞儀のような姿勢をとったり、のけぞったり。
「この場所に飛んできたデッドボールは、こう避けるのが正しい」という法則を見つけられたら嬉しいですね。

「世界の第一人者」になれる研究

この研究の面白いところは、「自分が世界の第一人者」になれるところです。このVRを用いたデッドボールシミュレータも、先行研究がまったくなく、デッドボール自体を科学的に考察した研究論文も、2本しか確認できませんでした。世の中のスポーツ選手が求めていることを、VRとつなげることで、世界で唯一の研究に取り組めるのが何よりのやりがいですね。
私たちの研究室では、4年前から大手スポーツメーカーのミズノとの共同研究を行っています。また、立命館大学のスポーツ健康科学部の先生や、福岡工業大学の先生とも一緒に研究を進めており、ともにスポーツの練習にVRを活用することを推進していこうとしています。スポーツが好きで、研究を通じてスポーツに関わっていきたいという人が集まっているので、とても刺激に満ちていますね。
このデッドボールシミュレータを使うことで、今まで取り組めなかった「危険(デッドボール)回避」のトレーニングが、安全に、かつ効果的に可能になります。選手の安全・安心につながる、非常にユニークで有意義な研究だと感じますね。スポーツという共通のテーマに対して、さまざまな立場の人が違う視点でアプローチすることにより、新たな発見が生まれますし、それこそが学部を超えた共同研究の魅力ではないでしょうか。
立命館大学 スポーツ健康科学部 立命館大学 情報理工学部 立命館大学研究活動報 RADIANT

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