ベネッセプロジェクト



「グループワークをベースとしたキャリア開発教材のコンセプトモデル」

 人々の社会生活をめぐる環境と価値が大きく変わりつつある現在において,彼または彼女がどのように自己の能力を開発・深化させていくか,そのスタイルとルールも変わりつつある.一定の経済的成長と,直線的なスキルアップを前提とした組織運営は,営利・非営利をとわず,大きな見直しを迫られている.世界的な大競争時代の到来は,スピードを重要な競争優位にする組織運営を必然化するとともに,他方で,経済発展以外の価値観をとりこんだ多くの市民・消費者に対応した「魅力ある生き方の提示」としての企業活動を不可欠とするようになっている.
 このような,価値軸の転換点において,個々人に必要とされる能力(competencies),定義されたスキルといったものも変化せざるを得ないであろう.その大きなベクトルは,脱組織人,起業,資格・学歴の重視という,パーソナルなトレーニングによる武装とマーケッタブルなスキル獲得という方向に向いているように見える.しかし,はたしてほとんどの人々が独立し,あるいは独立を目指し,個人的な資格・学歴獲得に汲々とすることが,新しい時代のキャリア開発なのであろうか.組織の時代は終焉し,インターネットを駆使した個人の時代が到来するのであろうか.
 このようなパースペクティブは,少し早計である.営利企業に代表される現代の組織活動の現場で生じていることは,すべての企業活動の解体と再編成(ベンチャー化)ではなく,IT(情報技術)の全面的な活用による企業活動のフロー化とそれによる組織革新なのである.「個人」の能力やスキルに対する社会的なスポットライトは,組織の時代の終焉を意味しているのではなく,新しい「組織」の時代に必要なスキルのありかたの革新を象徴しているのである.そして,ひとりひとりのキャリア・パスという観点から見ると,新しい組織の時代を特徴づける最も重要なポイントは,企業にせよ非営利の組織にせよ,ITによって全組織の情報が共有化されることで,組織の歯車的存在の個人が無意味化することにある.すなわち,組織は無味乾燥な指揮・命令で運営されるヒエラルキーではなく,そこに参加する人々が目的を共有して協働する水平的な社会集団として「共同体的に再構築」されうる可能性こそが重要なのである.
 そうであるならば,組織の歯車から脱却するための起業・独立・資格獲得というキャリア開発のベクトルだけではなく,自分が帰属しうる(したくなる)集団へ「参加することによる自己再発見・再定義」というベクトルが大きな意味を持つと思われる.本研究では,この意味における集団への「内発的参加」を,新しい組織の時代におけるエンパワーメント(empowerment)の主要な内容としてとらえ,全面的な情報化を前提とする新しいスキルとしてのグループワークをモデル化し,さらにその要素スキルを可能な限り分解することを目的とする.我々の仮説では,それは情報や資源を見渡して(spanning)活用する力=編集力(editing ability)というべきベースをもつ,新しい総合的な能力であると考えている.
  1. 研究成果報告書(概要、PDF:4Kbyte)
  2. プロジェクトのワーキングルーム