平成8〜10年度 文部省科学研究費補助金
萌芽的研究 「CSCWについての経営学的研究」



 企業における情報システムの意義と役割は大きな転機を迎えている。その大きな特徴は、システムが情報を処理・加工してビジネスを「支援」するだけでなく、企業組織の編成原理からマネジメントの方法まで経営活動そのものを「革新」していくインフラストラクチャー/ツールになろうとしている点にある。電子メールを始めとして、遠隔電子会議、共同データベース、共同文書編集、共同プログラミング、共用ホワイトボードなど総称してグループウェアと呼ばれるネットワーク・コンピューティング・システムがその代表であり、ホワイトカラーの生産性向上をテコにして国際競争力の復活を果たしたといわれるアメリカ企業を中心に、最近急速に普及し始めている。その状況をうけて、ACM(アメリカ計算機学会)の主催する国際コンファレンスによってCSCW(コンピュータに支援された協調活動)という学際的研究分野が確立されてきている。

 しかし、この分野の研究には二重の偏りが見られる。そのひとつは、CSCWが主に企業におけるホワイトカラー労働の革新をメインテーマとしているにもかかわらず、コンピュータサイエンス系の研究が主導であり、経営学的・組織論的・組織心理学的な研究アプローチが明らかに遅れているという点である。とりわけ、マネジメントの視点から経営学的にアプローチした体系的な調査・研究はわが国においては散見されない。この意味で日本におけるCSCWの経営学的研究は萌芽的状況にある。

 そしてもうひとつは、この分野の研究・開発・導入実践のいずれもアメリカ合衆国が格段に先行しているという事実である。この点については、情報スーパーハイウェイ構想や広範な電子メールシステムの普及などのインフラ=客観的な条件の相違が第一の問題であるが、それに加えて、コンピュータの個人的・社会的利用の歴史と文化の相違が背景に重くあるように思われる。わが国でも情報ネットワークの社会的基盤整備が叫ばれているが、それに加えてコンピュータ・ネットワークの「文化的あるいは社会的ありかた」という問題を系統的に考えていく必要がある。その第一歩となる必要かつ緊急な課題は、これから急速に浸透してくるであろうCSCWがもたらすインパクトを経営学の立場から理論的・臨床的に研究していくことである。

  1. 平成8年度研究概要(PDF:8Kbyte)
  2. 平成9年度研究概要(PDF:8Kbyte)