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ファミコン発売から20年〜楽しさ提供、生活定着

 「ファミコン」はコンピュータの持つ可能性をわかりやすく引き出した点がお茶の間に受けた。音声や映像によって五感に直接訴え、想像力を喚起しながら、双方向のやりとりの中で、物語に参加できる。ファミコンはゲームが産業として世界で注目されるきっかけとなる「シーズ(種)」だった。

 ゲームは、映画やテレビなどに次ぐメディアの一つとして肩を並べた。ファミコンは世界に普及し、1000種以上のソフトが発売された。この20年間に様々なデジタルの娯楽の実験場ともなった。ゲームから人気キャラクター数多く生まれ、他の産業への波及効果も大きい。「たまごっち」などキャラクターを育てるおもちゃや、iモードのように携帯電話で情報を双方向的でやりとりするなども、アイデアの原点はファミコンソフトに詰まっていた。

 最近、ゲームソフト開発者に話を聞くと、新たなアイデアが枯渇しているというが、原点のファミコンソフトをもう一度見直してみる価値があるのではないか。ファミコンソフトに文化的、歴史的な資産としての価値があると思う。私は、これらを電子的に保存するデジタルアーカイブ作りを進めている。全ソフトを集め、タイトル、発売年、発売元などを既に入力しており、将来的には次の世代がこれらの娯楽をもう一度楽しめる方法がないか考えている。

 ゲームはアニメや携帯電話のコンテンツなど様々な波及効果を生んだのに、今のゲーム業界はその効果を十分に取り込めていないのが残念だ。ファミコン発売以来、韓国や台湾などもゲーム産業に目をつけるようになった。日本は長年、世界の先端を走るゲーム産業の国だと言われていたが、最近はこれらの国や地域に急速に追い上げられている。業界と政府はもっと危機感を持つべきではないか。

 ファミコンなどコンピュータゲームと、少年犯罪への影響を短絡的に結びつける人がいるが、正しくないと思う。ゲームも、映画やテレビと同じメディアの一つだ。問題は人がゲームにどう接していくか、という点にある。メディアリテラシー(メディアを読み解く能力)を向上させることが重要であり、社会問題の責任をゲームに転嫁することは適切でないと思う。




立命館大学教授 細井浩一
1958年金沢市生まれ
情報経営学、情報メディア論
ゲームアーカイブ・プロジェクト代表
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掲載紙:『朝日新聞』 2003年7月16日朝刊