技術イノベーションの現代的展開(4)

経営の新展開を探るトヨタのフランス工場


兵藤友博

 昨夏、同じ経営学部に所属する安藤哲生先生と共に、トヨタのフランス工場:Toyota Motor Manufa cturing France S.AS.を訪れた。その工場はパリからTGVで1時間40分、フランスの北東部にあた るノール県バランシェンヌ郡南エスコーバレー工業団地にある。この工業団地にはいくつか日本企業も 進出しているが、これは雇用問題を意図したものである。というのは失業率はフランス全体では10%程 度であるが、当地は25%(2000年)に達している。会社設立(資本金17億フラン)は三年前の1998年10 月、230ヘクタールの敷地の造成、道路建設、完成車輸送のための鉄道の敷設、従業員のトレーナー費 などの提供を受け、約40億フランを投資し、工場は建設された。

 マザー工場は高岡工場とのことであるが、工場のラインの配置は、工場中央のショップ・オフィスに プレス・溶接、塗装、プラスチック部品、組立の各工程を集結させ、3割程度縮減させ、実際30分余り で全ラインを一回りできる。なお、塗装ラインはガラス張り、一台ごとにカットリッジで色変えができ るという。

 フランス工場の立ち上げ速度はこれまでになく早く、「2000年欧州カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞 した1999年より欧州で販売されたワンリッターカーの小型車「ヤリス」(日本名ヴィッツ)を今年1月 より生産している。私たちが訪れた頃には二直に入っており、製造規模はほぼ目標の年産15万台の水準 に達しているとのことである。とはいっても、当日私たちをガイドしてくれたジェネラル・マネージャーの高木 さんによれば、人材的に見て適正な1100名の従業員を雇い入れることができたかというと、かなり苦労 し、他企業の季節工の契約切れを待ち、まかなったということである。やがて生産が軌道に乗れば2000 名程度に増強するが、これにも応えなければならない。

 ところで、部品調達は日本国内では部品企業が輸送費込みでジャスト・イン・タイムで供給している が、バランシェンヌではこれとは異なって、トヨタ自体が物流費を担い、トレーラーや水運を使ってミ ルクラインのようにうまく集結することでコスト減を図っている。目下のところ為替フリーのもとで欧 州戦略(欧州での2005年の販売目標80万台)を立て、70−80%の部品を現地で調達している。たとえば、 エンジンはイギリス・ウェールズから調達しているように、場合によっては数百kmを超える産業圏をホ ローしなければならない。将来は、加工度の高いエンジンはバランシェンヌにおいて生産、トランスミ ッションは日本からではなくポーランドから調達する計画を持っている。

 工場を一巡してから、これまで海外の工場の立ち上げに関わってきた渡辺社長と懇談した。そのなか で印象に残ったことは、当然のことながらフランスは日本国内とも異なるが、アメリカともイギリスと も違う特殊性があり、先の部品供給の問題もその一つでもあるが、工場の現場はフランス語通訳を介し てコミュニケーションしなければならないことや、週35時間労働制やバカンスにより年間総労働時間数 は1600時間余りにしかならず、フレキシビルな労働編成、等々、経営の新展開を必要としているという ことである。そもそも日本企業の海外進出は経済摩擦の解消からはじまったものの、その後の経済の国 際化の進展はそれぞれの国情に応じた、より根を張った経営の創出を求めているのであろう。

*この小論は、立命館大学の『ROSSI四季報』第14号(2001年)に掲載されたものに加筆したものです。

   

◆関連アルバム

2001夏 トヨタ・フランス工場/バランシェンヌにて




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