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2018/07/22

足がしびれた名主どん


 むかーし、ある家(うち)ん祝儀があってな、そうへ祝(ゆや)ぁに出かけて行ったぁ時ん話だ。 昔、ある家に結婚の披露があって、そこへ祝いに出かけて行った時の話だ。

 名主どんが先(さい)ん立ってな、四人の男(おとう)が一緒ん連れ立って出かけたぁわけだ。 名主さんが先に立って、四人の男が一緒に連れ立って出かけたわけだ。

 そんころは、こうゆうことがあっ時は、あんでも名主どんの真似せゃーしてれば、きっとまちげゃーがねゃーっちゅうわけで、あんでも名主どんがやらっしゃるとおりんやってたーっちゅうこっだぁ。 そのころは、こういうことがある時は、なんでも名主さんの真似さえしていれば、きっとまちがいがないということで、なんでも名主さんがやられる通りにやっていたということだ。

 だーかん、名主どんが「こんにちは。」って言(ゆ)うっちゅうと、連れん者は、みんなひとりずつ、「こんにちは。」「こんにちは。」って続けたぁそうだ。今度(こんだ)は、「ごめんなさいまし。」って名主どんが言(ゆ)うっちゅうと、次から次へと、「ごめんなさいまし。」「ごめんなさいまし。」って続けて言うもんだかん、知らねゃーよそん者は、吹い出さずにいられなーったっちゅうこっだぁ。 だから、名主さんが「こんにちは。」と言うと、連れの者はみんな一人ずつ、「こんにちは。」「こんにちは。」と続けたそうだ。今度は、「ごめんください。」と名主さんが言うと、次から次へと「ごめんください。」「ごめんください。」と続けて言うものだから、知らないよその者は、吹き出さずにいられなかったということだ。

 こん日(ひ)もそんとおりで、集まってたぁ人たちは、腹ぁかけゃーて笑ったぁそうだ。 この日もその通りで、集まっていた人たちは、腹をかかえて笑ったそうだ。

「まあ、よういらっしゃいましたね。どうぞあがってくださいましよ。」 「まあ、よくいらっしゃいましたね。どうぞおあがりください。」

って座敷(ざしい)へ通されて、ごっつぉーんなってたぁだ。長ぁ座ることには慣れてる名主どんも、足が痛ぁなって、だんだんがまんできなーなってきたぁかん、そおっと便所へ行ぐことんしたぁだ。 と座敷へ通されて、ごちそうになっていた。長く座ることには慣れている名主さんも、足が痛くなって、だんだんがまんができなくなってきたから、そっと便所へ行くことにした。

 とこんが、痛(いて)ゃーばありか、片っぽぉん足がしびれてきて、立つべえっちゅっても爪先(つまさい)がダラッと下がって、てんで立てなーなっちゃったぁだ。そんためん、ヒョコンとひっくりげゃーりそうんなって、思わず片手ぇ付(ち)いちゃったーだって。しょうがねゃーかん、風(ふう)が悪(わり)いのをがまんして、四つんべゃーで行ぐことんしたぁだ。 ところが、痛いばかりか、片方の足がしびれてきて、立とうとしても爪先がダラッと下がって、全く立てなくなってしまった。そのためにヒョコンとひっくりかえりそうになって、思わず片手をついてしまったそうだ。しょうがないから、恰好が悪いのをがまんして、四つんばいで行くことにした。

 そうしっと、一緒ん来たぁ四人の男(おとう)も、名主どんの真似ぇして、四つんべゃーんなって便所へ続いて行ったぁわけだ。またな、名主どんはあわててたぁもんで、ふんどしのおたぐりがはずれてんのに気が付(ち)いてなーっただぁ。とこんが、連(つ)れん四人は名主どんのやったぁとおりに、おたぐりまではずして行ったぁだって。 すると、一緒に来た四人の男も、名主さんの真似をして四つんばいになって便所へ続いて行ったわけだ。また、名主さんはあわてていたので、ふんどしのおたぐりがはずれているのに気がついていなかったのだ。ところが、連れの四人は名主さんのした通りに、おたぐりまではずして行ったそうだ。

 名主どんは、連(つ)れん者(もん)があんでも自分の真似ばありするもんで困ったもんだぁと思ってたぁとこへ、便所まで付(ち)いてきては大変だぁと思って、便所ん中さ飛び込んで戸をぎゅうっと押せゃーちまったぁだ。そんで、中から、 名主さんは、連れの者がなんでも自分の真似ばかりするので困ったものだと思っていたところへ、便所まで付いてきては大変だと思って、便所の中へ飛び込んで戸をぎゅっと押さえてしまった。それで中から、

「使用中。」 「使用中。」

って言(ゆ)ったぁとこっが、外で四人の者(もん)が、「使用中。」「使用中。」・・・って連発して言(ゆ)ったぁもんだかん、これぇ見てたぁ人たちゃぁ、腹ぁかけゃーて笑いころげたぁっちゅうこっだぁ。 と言ったところ、外で四人の者が、「使用中。」「使用中。」・・と連発して言ったものだから、これを見ていた人たちは、腹を抱えて笑いころげたということだ。


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