「ヒーガンにはお坊さんが来(き)さっしゃいますか。」
って嫁が聞いたら、姑は、
「坊さんは頼まねゃーば来(こ)ねゃーよ。」
って答(こて)ゃーてから、
「お前(めゃー)はヒーガンて言(ゆ)うけん、ヒガンが本当だぁよ。」
って言(ゆ)ったぁって。だーけん、嫁は負けず嫌(ぎれ)ゃーだったかん、
「あんが、ヒーガンが本当ですよ。」
って言(ゆ)ってきゅあなぁったもんで、二人(ふたーり)は、とうとう喧嘩んなっちゃったぁだって。
「ヒーガンなんちゅうことはありゃしねゃー。」
「ヒガンなんちゅうのは聞いたぁことがねゃーですよ。」
って言い合って、どっちも譲んなぁったって。仕方がねゃーかん、善通寺んお坊さん所(とうろ)へ聞(きゅ)ぃ行ぐ事んなっただ。
姑が先ぃお寺ん行って、
「御前(ごぜん)様、彼岸(ひがん)のことでお尋ね申したいと思って伺いました。
ヒガンとヒーガンではどっちが正しいですかい。嫁はヒーガンだと言(ゆ)ってきかねゃーですが、私はヒガンの方が正しいと思うですよ。どっちが本当か教(おせ)えてくださいまし。」
って頼んだだって。坊さんは、えらく頭んいい人だったかん、
「それはヒガンが本当だよ。」
って言ったぁかん、姑は懐から百文の銭ぃ出して、紙ん包んで坊さんに渡したぁって。
「有り難うござんした。あとから嫁が来たら、ヒガンの方が正しいって言(ゆ)ってくださいまし。」って頼んで帰(けゃー)って行ったぁって。
姑が帰(けゃー)っと、今度(こんど)は嫁が出かけて行って、
「御前様、ヒガンとヒーガンではどっちが正しいですか。私はヒーガンの方だと思いますが、どっちが本当か教(おせ)えてくださいまし。」
って聞いたぁって。すると、坊さんは、
「ヒーガンの方が本当だよ。」
って言(ゆ)ったぁかん、嫁は懐から百文の銭ぃ出して紙ん包んで坊さんの手ん渡したぁって。
「有り難うございました。母が来ましたら、ヒーガンの方が正しいとおっしゃってくださいまし。」
って頼んで、帰(けゃー)って行ったぁって。
二人が石臼(いすす)ん所(とうろ)で一緒んなっと、姑が先に、
「坊さんはヒガンの方が本当だぁって言(ゆ)ったぁよ。」
っちゅうと、
「あぁんが、坊さんはヒーガンの方が正しいって言(ゆ)いましたよ。」
って、嫁も負けてなぁったって。
「そんななぁ筈(はず)があるもんで。」
って姑が言うと、
「そんな訳ねゃーですよ。」
って嫁もきゅあなぁった。でぇ、二人(ふたーん)で一緒ん行って坊さんに聞いて来(く)べえ、っちゅうことんなったって。二人(ふたーり)とも百文出して頼んで来たぁかん、間違(まちげ)ゃーねゃーと思って出かけて行ったぁって。
坊さんは、二人一緒ん来られては困ったことんなったと思ったけん、何(なに)食わねゃー顔ですましていたぁだって。
「御前様、ヒガンとヒーガンとどっちが正しいですかい。」
って姑が尋ねっと、坊さんは、
「ヒガンもヒーガンもどっちも正しい。」
って言ったぁって。嫁が、
「どうゆう訳でどっちも正しいんですかい。」
って聞(きゅ)ぃ返(けゃー)したら、坊さんは胸ぇ張って答(こて)ゃーただって。
「春の方は日が長いからヒーガンで、秋の方は日が短いからヒガンだよ。」
二人がポカーンとしてっと、坊さんは、
「ヒガン、ヒーガン、二百文チョロリン。」って言(ゆ)って、奥へ引っ込んじゃったぁって。おしまい。