ある日、大風が吹(ひ)いてよ、棚ん上へ乗せといたぁ石臼(いすす)が落ちちゃってよ、上ん方(ほう)がぶっかえちまったぁだって。
しょうがねゃーかん、竹ん箍(たが)ぁ掛(か)えて使ってたーけん、ゴロゴロ、ゴロゴロ回(まー)すたんびん、ガタガタ、ガタガタやるもんで、とうとう使えなーなっちまったぁだって。
だーけんどよ、石臼(いすす)ぅ買あだけん銭(ぜに)ん持ち合ーせが無ーったもんで、薪(まき)ぃ作(つう)って石臼ぅ買あことんしたぁだって。
何日かたってよぉ、やっとこせゃーたぁ薪ぃ、山んよーん馬ん背中さ積んでよ、那古(なご)さ売りぃ行ぐことんしたぁだぁ。
増間かん那古までは下り坂が余計(よけー)だぁかん、大(てゃー)したことは無ーっぺと出かけたーけん、途中ん登り坂へ来(く)っと,馬はフーフー息ぃきって、汗ぇいっぺゃーけゃーて、やっとんことで那古さ着(ち)いただって。
あたりめゃーなら二回で運ぶとうろを、一回で運んだぁもんだかん、すっかりくたびれちゃったぁ馬ぁ見て、久兵衛は、
「ほんとん、すまねゃーことぉしたぁなあ。」
って、馬がかわいそうんなっちゃったぁだって。
久兵衛は、薪ぃ売ったぁ金ぇもらって、石屋(いっしゃ)で石臼(いすす)ぅ一つ買って帰(けゃー)ることんしたぁだぁ。
だーけん、来ながら、あんだけ汗ぇけゃーてくたびれちゃってる馬に、石臼(いすす)ぅ乗っけんのがかわいそうんなっただっぺぇ、
「今度(こんだ)ぁ、おが、石臼ぅしょってやんべえ。」
って、石臼ぅ、
「セーノー、ヨオッー。」
って、自分の背中んしょって、やぁび出した。
そんで、町んはずれん土手んとうろまで来て、土手ぇ台(でゃー)んして、そおっと馬ん乗って帰(けゃー)って来(く)っとよ、町ん方へ行ぐ仲間ん者(もん)に出会っただって。
そうしたら、そん増間ん男(おとう)がよ、
「久兵衛どん、あーで、自分がしょって乗ってんだぁよ。」
って訊(き)ゅうっちゅうと、久兵衛は、
「そうかよ。」
って言(ゆ)ったぁそうだぁ。
だーけん、そんだけん話で、増間ん男(おとう)は不思議にも思わずん、ずんずん行っちまったーっちゅうこんだぁ。
しばらく行ぐとよー、旅ん者(もん)が通りかあってよ、
「こんちは。おめえさん、あんで馬に荷物をつけねえで、自分でしょって乗ってなさんのかね。」
って訊(き)いたぁとうろがなぁ、
「馬がなぁ、かわいそうでなんねゃーかんだよ。」
って、久兵衛は言(ゆ)ったぁそうだぁ。
旅ん者は、おっかしいのをがまんして、
「馬が、そんなんかわいそうだら、自分が下りて、荷物だけつけたらあじょうですかいよ。」
って教(おせ)えてやったぁとうろが、久兵衛はすました顔で、また、
「馬が、かわいそうだかんなあ。」
って言(ゆ)ったぁもんで、旅ん者はびっくりしたぁ顔で、
「おめえさんは耳が遠きいんですかい。それとも、わたしの言(ゆ)ったことがわからねえんですかい。」
って訊(きゅ)い返(けゃー)したんだって。
そうすっと久兵衛は、
「聞こえてっよ。」
って、小(ちい)せゃー声で言(ゆ)ったぁそうだぁ。
だーもんで、旅ん者はすっかり腹ぁ立てて、ぷんぷんしながら、
「おめえさんと話してっと、日が暮れちゃうよ。おめえさんは、増間ん者(もん)だっぺぇ。」
っちゅって、ずんずん、ずんずん行っちまったぁっちゅう話だぁ。