『増間の昔話』ホームページ、 『<鶏っちゅうあだ名の男ん話>』(方言・標準語訳ページカタカナ・標準語訳ページ逐語訳付きページ
2018/07/22

<鶏>っちゅうあだ名の男ん話


 むかーし、増間の奥ん方に、<鶏>っちゅうあだ名の付(ち)いた男(おとう)がいた。

 あんでこんあだ名がつけらえたかっちゅうと、こん男(おとう)はとんでもねゃぁ忘れっぴい男(おとう)だったからだ。鶏っちゅう動物は忘れっぴい動物で、三、四歩(ぽ)も歩うと、今そうで追払(おっぱら)われたことも忘れちまって、籾や麦ぃ干した上へ又ノソノソ集まって来るっちゅうことからその名前(めゃー)が生まれた。

 こん男(おとう)はあだ名ん通り本当ん忘れっぴい男(おとう)だった。今自分で話してたぁことでん、ちぃっと経ったら何(あん)かん拍子ん、はあ忘れちまってるっちゅう程だった。人かん聞いたぁ事ばぁしでなぁって、自分で人ん話ししたことまですぐ忘れるっちゅう男(おとう)だった。

 だぁけん、こん男(おとう)の女房は全く反対(はんてゃー)で、人並以上に覚(おべ)えがいい女だった。何(あん)につけてん、一度言(ゆ)われたぁ事はいつんなっても中々忘れねゃーっちゅうふうだった。

 だぁかん、亭主がザルで水ぅすくうように、すぐぬけちまっても、近所ん遣(や)り取り、村ん付きやぁ、年貢の事なんか、何(あん)もかんも女房任せで、かかあ天下で家(うち)を切り盛りしてたぁだ。<鶏>は、忘れっぴい男(おとう)でも、増間んことだかん村ん者(もん)からとがめられることもなぁって、人並ん家(うち)を維持してたぁだよ。

 ある日んこと、<鶏>は、隣村ん知りやぁん所(とおろ)へ遊びぃ行って、モロコシ団子を御馳走(ごっつぉー)んなっただ。「自分の物(もの)より人の物(もん)」で、兎(と)に角(かく)人ん物(もん)は良ぅ見(め)えるもんで、モロコシ団子にしてもそれほど珍しい物(もん)でなぁったけん、そんがすげぇうめゃーったかん、家(うち)ぃ帰(けゃー)ったらおらがかかあにも作(つく)ってもらぁべぇと考(かんげ)ゃーただ。

 <鶏>は、屈託ねー男(おとう)だったけん、こんなことんなっと特に力ぁ入れたがる男(おとう)だった。その帰(けゃー)り道、<鶏>はそんことばぁし考(かんげ)ゃーて歩(やあ)んだ。だぁけん途中に一寸(ちょっと)したぁ流れがあって、其処(そう)を渡る時に、「ドッコイショ」って飛び越えた。そのとたんにモロコシ団子のことぉ忘れて、「ドッコイショ」が頭ん残って、「ドッコイショ」「ドッコイショ」と考(かんげ)ゃーながら、家(うち)ぃ着(ち)いた。

 <鶏>が女房に、

「ドッコイショを作ってくれ。」

っちゅうたら、女房は、

「そんななぁ物(もん)は知らねゃぁ。」

っちゅうたぁ。

「こんかかあ、人を馬鹿んしやがる。」

ってカンカンに怒っちまって、竈(かまど)んそばにあった火吹竹(ひふいだけ)で女房の頭をぶん殴った。

「この親爺、ひでえ親爺だ。人を打(ぶ)ちやがって。見ろ、団子みてゃーなこぶができた。」

っちゅうて、女房は飛びかかった。

 <鶏>は、女房のこぶぅ見て、忘れてたぁ物(もん)を思い出したみてゃーに笑いながら、

「おい、ドッコイショでなぁって、そん団子んことだぁよ。勘弁してくれ。」

っちゅうて、女房に平謝りに謝ったんだって。



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