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2018/07/22

若布んミチ引き


 むかーし、増間かん一人ん百姓が、長芋を背負籠(しょいかご)にいっぴゃー入れて、那古ん方へ売りぃ行ったぁだって。そーしたら、観音様ん下まで行ぐうちん、ぜーんぶ売れちまったぁだよ。そん男(おとう)は船形ん方まで行ぐつもりで出かけて来たぁのが、あんまり早ぁ売れちまったぁかん、ほくほく嬉しがりながら、懐ん財布(せゃーふ)へ手ぇ突っ込んで勘定始めたぁだ。だーけん、人も通るし馬も来るもんで、そっちぃ気ぃとられて、幾(ゆう)らんなったか分かんなぁったけん、あんちゅったってどっさり売れたぁかん、本当ん嬉しそうだっただよ。

 そんで、何(あん)か珍しい物(もん)を土産ん買って帰(けゃー)んべえと思って、乾物屋ん入(ひゃー)ったぁだよ。特に珍しい物(もん)も無(ね)ゃーようだったけん、海草(けゃーそう)ん茎ん付(ち)ぃたんががあって、値段も安うったかん、これぇ三把(さんば)買ったぁだ。そっから、

「こらぁ何(あん)ちゅう物(もん)で、あじして喰うだかい。」

って聞いたら、

「こんですか、こらぁ若布ですよ。この堅(かて)ゃーところをミチっちゅって、若布はこのミチを引いて食べんですよ。新しいから柔らかぁっててんでうまいですよ。さんばい酢でも汁の実でもいいですよ。」

って教(おせ)えてくれたぁだ。

 そうすっと増間ん男(おとう)は、藁縄ぁもらって、茎んところ(とうろ)を堅ぁしばって出て行ったぁだ。そんで、通りへ出っと、縄ん端を肩かん腰ぃ巻いつえて、若布をズルズル道ぃ引っぱりながら歩(やぁ)び出しただよ。そのうちん町はずれまで来(く)っと、犬が二匹(にひい)も三匹(さんびい)もそれぇ面白(おもしろ)そうに追っかえて、盛んに吠えただでぇ。そん男(おとう)は犬が大嫌(でゃーきれ)ゃーだったかん、後ろも見ずん縄ぁソロソロと手元ん手繰(たぐ)って、縄んままポーンと背負籠(しょいかご)ん中へ放り込んで、大急ぎで帰(けゃー)っただぁ。

 家(うち)ぃ着(ち)いて女房に、

「今日は、若布っちゅう物(もん)を買ってきたぁだ。」

っちゅって、籠から出して見っと、柔らけゃー所(ところ)はスッカリすり切れて、影も形も無(な)あって筋ばあり残ってたぁだ。家(うち)ん者(もん)は初めてなもんで、別ん何(あん)とも思わなぁったかん、そん筋ん所(とうろ)を洗って細(こま)っかぁ切って汁鍋ん入れて煮っと、みんなが、

「うんめゃあ、うんめゃあ。」

っちゅって舌鼓ぃ打っただぁ。子どもが、

「お父っつぁん、こらぁ何(あん)ちゅうもんだぁかヨ。」

って聞ゅうと、

「これか、こらぁ若布んミチっちゅうもんだ。」

って言(ゆ)ったぁだって。そうすっと子どもが、

「また買ってきやっしゃぁ。」

って言(ゆ)ったぁだってさ。


【注釈】


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