Profile2

Back English


T.現在私が進めている研究課題

 現在,次のような5つの研究課題をもっております。

1.「アジア太平洋学」の構築

 「アジア太平洋学」の構築は、2000年4月〜2004年3月の間学長をつとめていた立命館アジア太平洋大学(APU)の学術的基本課題です。APUに拠点をおく「立命館アジア太平洋研究センター」はその研究拠点です。

この構想の基本的な視点と枠組みについての私自身の考え方は、2003年9月刊行拙著『アジア太平洋時代の創造』(法律文化社)の第2章に示してあります。

私見ですが、この研究の基本視点は第一に、これまでのアジア太平洋研究が,アジア太平洋地域の自然・生態条件の違いを基本視点とした、諸地域間の特性、多様性を強調する地域研究を主流としてきたのに対して、諸地域間のネットワークや相互依存関係に視点をおいた、新しいアジア太平洋研究の体系の開発を目指していることです。

第二に、これまでの研究がアジア太平洋地域の実態の解明に重点をおいてきたに対して、これを基礎に、さらにこの地域の直面している社会的諸課題の解決や解決方法に重点をおいた、政策的な研究を目指していることです。

第三に、上のようなアジア太平洋の実態的、政策的研究を21世紀における「アジア太平洋文明」の到来とその積極的創造という、文明史的視点から進めることです。

上記の研究と関連して近年、「東アジア共同体」構築を念頭においた地域研究への関心が高まっています。また、私の所属する立命館大学では、東北アジア地域の研究推進をめざす「東北アジア地域センター」や「コリア研究センター」を立ち上げています。これらの研究センターも、立命館における上記の「アジア太平洋学」研究の最重要な一環を担っています。

2.現代企業の経営改革に関する研究

本研究は、国内外の代表企業の経営改革のエッセンスを抽出し、21世紀社会における企業の組織のあり方や社会的責任の担い方について社会的に啓発することをめざします。

(1) GE社の組織改革の研究

近年、企業組織改革の動向のなかで、合衆国GE社の組織改革への関心がたかまっています。

この研究は、120年にわたるGE社の経営戦略と組織改革の歴史をあきらかにし、その中にJ.ウェルチ会長のすすめた1980年代、1990年代20年間の改革を位置付けてみようとする研究です。さらに21世紀になって、2001年9月ウェルチを引き継いだルメルト会長の改革をフォローしようとする研究です。

これまでの、その成果は拙著『新版GEの組織改革』(法律文化社)を参照して下さい。GE社は100年にわたり、機能別部門組織→事業部制組織→戦略事業単位組織(SBU)と、企業組織改革の先端モデルを創造してきましたが、その歴史の中で、ウェルチ会長の改革がどのような位置をもつことになったのか、これが本書の要点です。

(2)IBM社の経営改革の研究

この20年間における合衆国大企業の経営改革で、GE社と並んで注目されているのは、IBM社です。IBM社は1950〜70年代、コンピュータの大型機時代に圧倒的な市場支配力を誇りましたが、1980年代後半から90年代にかけて、小型化、オープン化、ソフト化といったコンピュータ産業の地殻変動が進む中で、その収益構造は大打撃を受けました。
一時は「もうIBMの時代は終わった」とまでいわれましたが、IBM社は1992年外部より、ガースナー新会長を迎えて、見事な経営構造の転換を果たし、ソフト・サービス重視企業としてよみがりました。さらに2002年1月ガースナーを継いだパルミサーノ新会長の下でガースナー改革を上回る勢いで改革が継続しています。
かつて1985年、私はハード・大型コンピュータ全盛時代のIBM社の経営改革を辿った拙著『IBM−経営戦略と組織改革』(ミネルヴァ書房)を刊行したことがあります。これを今日の時点にたって見直し、この間のIBM社の経営のダイナミズムをあきらかにすることが本研究の主旨です。

(3)わが国代表企業の経営改革の研究

これまで肝心のわが国企業の経営改革について本格的な研究を本格的に手がけてこなかったのですが、これからさらに、@トヨタ自動車、Aキヤノンなどの経営改革を対象として、日本の代表企業が創出しつつある、世界に普遍性を持つ新しい「日本的経営」方式、ひいては「アジア太平洋型経営」方式を定式化したいと考えています。

3.「21世紀社会システム」の展望に関する研究

この研究の第一段の成果は、1991年刊行の拙著『21世紀システム』(東洋経済新報社)で出されています。

しかし、いよいよ実際に21世紀を迎え、改めて本格的な「21世紀システム」論を展開しなければならないところにきております。前著では、「生産システム(ものづくりシステム)」の変革を基本視点として論を展開しましたが、21世紀におけるその有効性が改めて問われていると考えております。

現在の時点にたって「生産システム」の変革ということを考える場合、2つの柱が不可欠です。第一は、伝統的な「ものづくりシステム」としての「生産システム」の変革です。その根幹は21世紀「環境革命」の時代に相応しい、19、20世紀型の「連続式大量システム」から「資源・エネルギー循環型生産システム」への転換です。

第二は、「ものづくりシステム」から「ソフトウェア(情報・サービス)生産システム」へのウェイトの転換です。

この点については、2006年3月刊行「『21世紀』の歴史的位置をめぐって」(『立命館経済学』第54巻第6号所収)を参照して下さい。

4.現代の「大学経営」に関する研究

私は1980年代半ば以降、本務校立命館の管理運営に様々なレベルで関わってきました。その間、立命館大学の新キャンパス、びわこくさつキャンパス(BKC)の開設や新展開(経済、経営学部移転)、九州大分での立命館アジア太平洋大学(APU)の開設に直接関与しました。このような経験を通して、大学経営のあり方、特に私学としての経営のあり方について多くのことを学びました。

今日、日本の大学は、国際化や18歳人口減、さらに旧国立大学の法人化など、大きな存立基盤の変動期に直面しています。このような状況の中で、今こそ私学がこれまで蓄積してきた経営の底力を試される時代を迎えています。このような変動期、変革期に求められる「大学経営」のあり方とは、どのようなものか。これが本研究の主旨です。

上記の私の大学管理運営経験のうちで、APU開設については2006年3月刊行「立命館アジア太平洋大学(APU)創設を振り返って−開設準備期を中心に」(『立命館百年史紀要』第14号所収)を参照下さい。

さらに、上記APU開設経験を含めて、私自身の関わった大学管理運営上のイノベーションをすすめる上で私が経営学・経営改革の研究過程で学んだことを『「大学行政」が経営学と経営改革から学んだこと』(仮題)として刊行予定。

U.私の発想に影響を与えた本

1.湯川秀樹『創造の世界』(湯川秀樹自選集4,1965年,朝日新聞社)

この本は、日本最初のノーベル賞受賞者湯川博士が科学者の心を分かりやすく説いたエッセイ集です。
 
特にこの本に納められた「科学者の創造性」というエッセイで,科学者の創造における「類推」と「直感」の役割を教えられました。

2.チェスター・バーナード『経営者の役割』

(Chester I.Barnard,The Function of the Executives,1938,邦訳新版1963年,ダイヤモンド社)
この本は,近代組織理論の考え方を打ち立てた記念碑的な文献です。
この本から,組織の存続において、組織目的の実現(組織の有効性)と組織構成員の満足(組織の能率)を両立させることの重要さを学びました。また、権限は受容されることによって発現すること(権限受容説)を学びました。権限受容説の考え方は、実践的に組織運営におけるトップダウンとボトムアップが一体のものでありうることを教えています。

3.アルフレッド・チャンドラー『経営戦略と組織』

(Alfred D.Chandler,Jr., Strategy and Structure,1962,邦訳1967年,実業之日本社)
この本は、企業史の実証研究にもとづいて、組織論の基本である「組織は戦略に従う」という命題を打ち出した、企業組織論の基本文献です。
 
この本から、組織は経営戦略にしたがって柔軟に変化しなければならないことを学びました。

4.ピーター・ドラッカー『断絶の時代』

(Peter F.Drucker,The Age of Discontinuity,  1969,邦訳1969年,新訳1999年)
この本は、まだ重厚長大産業全盛の1960年代末に、21世紀社会の特徴である「知識社会」の到来を説いた先駆的な文献です。
 
この本から,時代の転換期を認識させられました。この本は,今日30年を経て、ますます迫力をもって私たちに迫ってきているようです。

5.アリフィン・ベイ『アジア太平洋の時代』(1987年,中央公論社)

この本は、1980年代の早い時期に「アジア太平洋の時代」の到来を説き、さらにそのための備えとして、「アジア太平洋大学」創設の必要を説いた本です。
 
しかも著者は、「アジア太平洋大学」の開設を2000年と提案しています。立命館アジア太平洋大学2000年開学をすでに予測していたかのようです。このようなこともあって,著者ベイさんには立命館アジア太平洋大学のアカデミック・アドバイザーをお願いしました。ベイさんからは、折に触れ,立命館アジア太平洋大学に励ましのお言葉が寄せられています。この本は,私の今も座右の書です。

V.好きな言葉・大切にしている言葉

  ―――P.F.ドラッカーの言葉から

(1)「未来を予測する最もよい方法は,自ら未来を創造することである。」

この言葉は,2000年度4月、立命館アジア太平洋大学入学式の挨拶のなかでも借用しました。

(2)「立命館アジア太平洋大学が成し遂げようとしていること,すなわち高等教育を通じてアジア太平洋地域を融合することは、世界の経済や社会にとって最も重要な仕事です。それによって、この地域の経済的成功を達成するための、人間的基盤が築かれるのです。」

この言葉は、私と高元先生(立命館アジア太平洋大学教授)が1998年2月9日、ドッラカー博士をカリフォルニア州クレアモントのご自宅をおたずねしたとき、立命館アジア太平洋大学への励ましのメッセージとして、直接いただいたものです。 この言葉は私たちAPU創設に関わったものを大いに励ましてくれました。
※ドラッカーさんは、2005年11月11日、95歳の生涯を閉じられました。

W.趣味

1.JAZZを聴くこと。

原稿を書くときもJAZZを聞きながら書くことが多い。
JAZZは、20年前ニュ−ヨークに留学し,この都市に住んだときに好きになりました。
住んでいたのがニューヨークのダウンタウン、グリニッチ・ビレッジでしたから。秋吉敏子さんのJAZZも愛好のものの一つ。秋吉さんが別府のご出身であることのご縁で,立命館アジア太平洋大学のアドバイザー・コミッティのメンバーに加っていただいています。以前から秋吉さんのJAZZのフアンでしたが、立命館アジア太平洋大学が別府にできたことで、このようなご縁ができるとは予想もしませんでした。
近い将来、立命館アジア太平洋大学の舞台(ミレニアム・ホールか野外ステージ)でコンサートを実現したいと願っています。

2.スポーツを観ること。

スポーツはなんでも観ます。とくに好きなのは、野球とアメリカン・フットボール。
野球は子供のときから。
アメリカン・フットボールが好きになったのは、1980・90年代、立命館大学パンサーズの中心メンバーがゼミナール生だったからです。
 
音楽もスポーツも自分でできないのが残念です。

X.学生にすすめる本

1.アマティア・セン『経済開発と自由』2000年、日本経済新聞社

この本から自由と民主主義の大切さ、アジア太平洋の経済発展における人的能力開発の意義を学んで下さい。
セン博士は、立命館アジア太平洋大学のアカデミック・アドバイザーをつとめて下さっています。
 
2.船橋洋一『アジア太平洋フュージョン』1995年、中央公論社
この本から、アジア太平洋地域ですすんでいる政治、社会、文化などさまざまな面でのフュージョンの意義について学んでください。
著者船橋洋一氏は、著名な朝日新聞コラムニストですが、同氏も立命館アジア太平洋大学のアカデミック・アドバイザーをつとめて下さっています。

3.平松守彦『地方からの発想』1990年、岩波新書

この本は、前大分県知事平松守彦氏が、同氏自身が知事時代に提唱し、推進した「一村一品運動」に焦点をあてつつ、地域振興についての同氏の考えを分かり易く述べてたものです。
平松氏に対しては、同氏がAPU開設に尽力された功績をたたえ、APUより2003年4月、名誉博士号が送られています。
4.寺島実郎『国家の論理と企業の論理』1995年、中公新書
この本から20世紀世界を基本づける国民国家が企業のグローバルな活動と情報システムの発展によって内部から揺られていること、その中で、特にアジア太平洋において日本がとるべき外交的進路はいかにあるべきかを学んでください。寺島氏も立命館アジア太平洋大学のアカデミック・アドバイザーをつとめて下さっています。
5.ドラッカー『イノベーションと起業家精神』1997年(新訳)、ダイヤモンド社
イノベーションは社会活性化の基本です。この本から、イノベーションはどのようにして起こせるのか、その実践的なヒントを学んでください。
6.『孟子』岩波文庫、講談社学術文庫(貝塚茂樹著)
「巻第13:尽心章句上」冒頭に「立命館」の由来を示す次の句があります:
「殀寿貳わず、身を修めて以て之を俟つは、命を立つる所以なり。」
この由来にちなんで、2005年夏、中国国務院新聞弁公室より「孟子像」が立命館に寄贈されました(像は現在、衣笠図書館入口ロビーに設置されています)。

Y.学生へのメッセージ

1.知的好奇心

未知の世界へ挑戦する意欲の源泉は、旺盛な知的好奇心です。これが、若者の活力の源です。

2.楽観的思考

ものごとに悲観的にみることは簡単です。しかし,悲観的な思考からは新しいものは生まれません。新しいものを生み出すのは、楽観的な思考です。しかし楽観的な思考には、しっかりした意思が必要です。
フランスの哲学者・アランの言葉:「悲観は単なる気分に過ぎないが、楽観は『大いなる意思』の所産である。」

3.積極的行動

どれだけ立派な思考や計画があっても、積極的な行動が伴わなければ、それは実現しません。成果を生み出すのは積極的行動です。未知の世界に、果敢に挑戦してください。