「21世紀システム-資本主義の新段階」  要約

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ピーター.F.ドラッカーは、近著『新しい現実』(邦訳、ダイヤモンド社、1989年)の序文の冒頭でつぎのようにのべている。「本書は、これからおこるであろうことや、つぎの世紀について書いているのではない。つぎの世紀は、すでに始まっている。しかもそれは、始まって久しい。これが本書のテーマである。「本書は、未来学の書ではない。今日すでに発生し、今後さらに長い間、現実であり続けるであろう関心、問題、論争を明らかにしようとするものである。『21世紀システム』と題した本書のテーマ、問題意識は、いみじくもこのドラッカーの言葉に表現されている。21世紀を間近かにした今日、すでに1970年代半ばごろから急速にすすみ始めた新しい技術革新、マイクロエレクトロニクスの発展と情報処理技術の革新、さらに光テクノロジーやバイオテクノロジーなどの新技術の登場によって、20世紀を支配してきた資本主義経済や社会の仕組み、生産や生活のシステムが大きく変革されつつある。周知のように、1980年代以降、企業活動や金融システムの国際化も、その新しい段階、いわば「グローバリゼーション」の段階にすすみつつあるが、このような今日の企業活動、経済活動の国際化の新たな段階を推進する基盤となっているのも、現代の新しい技術革新である。また、このような経済・社会の変化の結果として、個性化や多様化、嗜好の高級化など、人々の欲求や価値観のありようにも大きな変化が生じている。こうして、今日、とりわけ1970年代半ばごろから急速にすすみ始めた新しい技術革新を基盤として、資本主義経済.社会のメカニズムが大きな変化の時代を迎えている。そして、これが意味しているのは、もはや「20世紀資本主義システム」は終焉を告げ、すでに「三世紀資本主義システム」が動き始めているということである。

このような時代認識は、多くの人々にとって次第に一般的なものとなりつつある。冒頭に引用したドラッカーの著書も、同様の認識をもって書かれたものである。本書は、以上のような問題状況を背景にしながら、あらためて、現代の技術革新が資本主義経済システムにどのような新しい段階をもたらそうとしているのかを、資本主義経済システムのこれまでの発展過程を視野においてあきらかにする。

ところで、資本主義経済システムの段階的な展開に際して、どのような籍革新が変革的な役割を果たしてきたかという場合、留意しなければならないのは、資本主義経済システムを構成するつぎのような重層的な諸要因、すなわち@技術革新そのもの(「基盤技術」の革新)、A産業構造 B生産システム、C企業システム、D産業組織、などの諸要因である。つまり、資本主義経済システムの新しい発展段階の展開という場合、いずれにしても、以上のような重層的な諸要因のそれぞれのレベルで、技術革新によってもたらされた構造的な変化があったということである。そこで、本書では、これらの諸要因について、具体的に19世紀における資本主義経済システムの確立以来の歴史の基本的な展開をたどってみる。これによって、19世紀自由競争資本主義20世紀寡占資本主義経済の各段階に独自な技術的基盤を確認するとともに、さらに20世紀末の今日すすみつつある資本主義経済の新しい変化が、これまでの二つの大きな段階に対応する新しい段階への展開を意味していることをあきらかにする。ところで、この際、技術革新と経済システムの段階的な展開をつなぐ結節点として、筆者がとくに重視しているのは、「生産システム」の革新である。この生産システムの革新は、資本主義経済システムの段階的な展開を基礎づけるとともに、その革新を主導する国の交替が「世界システム」を主導する「覇権国」の交替や「覇権」のあり方につながる点で、とくに重要な意義をもっているというのが、筆者の考えである。現在みられるパクス.アメリカーナの動揺を念頭において、最後の第5章では、このような視点から、今日すすみつつある生産システムの革新が、企業システムと経済システムのグローバリゼーションのなかでどのような21世紀の世界システムをつくることになるのかを問題としている。