「新版GEの組織革新」 要約

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本書は、アメリカの代表的な巨大企業ゼネラル・エレクトリック社、通称GE社の今日までの歩みを、主として経営組織のイノベーションの側面からあきらかにする。GE社は、1879年、周知のエジソンの白熱電灯システムを企業化するために設立されたエジソン・エレクトリック・ライト社に始まる。同社から発展したエジソン・ゼネラル・エレクトリック社が、1892年に、業界の宿敵トムソンーーハウストン'エレクトリツク社との大合同を果たして成立したのが、今日のGE社である。以来100年余、GE社は一貫してアメリカを代表する巨大企業として、したがってまた世界の巨大企業として、その地位を保ってきた。第2次大戦前には、総資産額を指標とした全米鉱工業企業ランキングで、その位置を1909年の16位から1948年の9位に上昇させた。また戦後は、『フォーチュン』誌の鉱工業ランキングによれば、売上高で今日までほぽ一貫して10位以内を確保してきている(1996年全米4位、全世界では9位。この点についてくわしくは、本文第1章2を参照)。『ビジネス・ウィーク』誌1997年7月7日号が発表した世界企業の株式時価総額ランングによれば、そのトップの座を占めているのは、GE社である(1980.9億ドル)。つまり、現在世界でもっとも市場価値の高い企業は、GE社であるということである。また『フォーブス』誌1997年4月21日号が発表した1997年の「スーパー100社」のランキングによれば(これは、売上高、利益、資産、株式時価総額などのランキング指標を総合したものである)、GE社はエクソン社とならんでトップにランクされている。1996年5月26日、ニューヨーク株式市場の、周知の株価指数、ダウエ業株30種平均が誕生から一〇〇年目を迎えたが、この記念日にニューヨーク証券取引所で開業のベルを鳴らしたのはGE社のジャック・ウェルチ会長であった。それは、GE社がこの100年にわたって、ダウ構成銘柄の座を維持し続けてきた唯一の企業であったからである。

こうして、GE社は、その生誕以来今日まで100年余にわたって、一貫してアメリカを代表する巨大企業として、したがってまた世界の巨大企業として、その地位を保っている。GE社といえば、その歴史から「総合電気機械メーカー」というイメージが強い。しかし、今日のGE社の事業実態は、伝統的な電機メーカーの枠をはるかに超えたものである。伝統的な電機製造部門も事業の一翼であるが、製造部門でも航空機エンジン、高機能プラスチック、医療システムなどの先端技術部門に重点が移っており、さらに製造部門から、金融サービス、放送、情報サービスなどのサービス部門に事業の重点が大きくシフトしている。総売上高の40%、営業利益の三分の一を金融サービス部門が占めるという状況からすれば、GE社は単純な「メーカー」の域をはるかに超えた、製造・サービス総合企業であるといわなければならない。このようなGE社の100年の歴史を振り返ってみるとき、その多角的な事業展開のめざましさと同時に、注目されるのは、同社の経営組織の展開が一貫して20世紀における経営組織イノベーションの話題を提供してきたことである。まさに、GE社の歴史は20世紀における経営組織イノベーションの歴史そのものであった。@19世紀末に、GE社の成立にともなって形成された機能別部門組織は、化学会社デュポン社のそれとともに、20世紀の垂直的統合企業を管理する組織としての機能別部門組織を先駆的につくり上げた。A1951〜53年に第5代社長コーディナーによって確立されたGE社の精徴な事業部制組織は、その典型的なありようを体現するものとして、この組織形態の戦後の世界的な普及にモデル的な役割を果たした。Bまた一九七〇年代に入って、「利益なき成長」の状況を克服するために会長ジョーンズが採用したプロダクト・ポートフォリオ管理の手法と戦略事業単位組織(SBU組織)は、当時、石油ショックを契機に収益性低下に直面していた世界の多くの企業に、経営組織再編成の恰好の手段として普及した。Cさらに1980年代に新しい会長ウェルチの手ですすめられている企業家精神や行動様式重視型の経営組織の導入は、情報技術の革新や新たな国際化、グローバル化のなかで,長期的な視点からの事業開発や市場開拓をもとめて、分析手法重視.機構重視型の経営組織からの脱皮を模索している世界の企業に、新しいタイプの組織イノベーションを提供した。

Dそして、1990年代に入って、「スピード、簡潔、自信」を唄い文句に、ウェルチ叢り組みはじめた組織風土の改革は、ドラッカーが提起した21世紀型の経営組織への具体的なアプローチを示すものとして、その成否が注目されている。

こうして、GE社の経営組織の展開は、20世紀における経営組織イノベーションの歴史そのものであった。本書は、このような20世紀の経営組織のイノベーターとしてのGE社の歩みを、とくに戦後に焦点を当て、段階的にあきらかにしようとしている。