卒業研究について

令和7年5月12日
深尾 浩次

もうしばらくすると、4回生の方々に論文紹介をしていただきます。その論文をそろそろ決めたいと思います。理想としては、自分の興味に合わせて、自力で探していただくことがベストです。自分で適当な論文を見つけることが難しい方には、こちらから提供できるテーマ、論文を以下に提示いたします。なお、論文紹介の内容で卒研の実験をしなければいけないというわけではありません。論文紹介で色々なテーマの話を聞いて、やりたいことを決めていただければと思います。論文紹介後に、実際の卒研のテーマを決定します。その際には、いくつかの制約ありますので、そのもとで決めたいと考えています。
1) 一部のテーマに偏ると、実験装置がパンクしますので、なるべくバラけるようにする。
2) 研究室として継続して行いたいテーマもあります。
3) 私からのテーマと吉岡さんからのテーマがありますので、いずれかに偏ると よろしくないので、偏った場合は調整します。


研究テーマ

1. 高分子多層膜におけるガラス転移、相互拡散 DRS, DSC, NREF ( B4)

概要: 高分子薄膜を多数積層することにより得られる高分子積層膜では、 積層したままの状態では、単一の薄膜が示すガラス転移ダイナクスを示すが、高温でのアニールより、バルクでのダイナミクスへクロスオー バーすることが観測される。このことは薄膜間の界面領域の存在が、 薄膜のガラス転移挙動を支配している。アニール過程で生じる膜間の相互拡散とガラス転移ダイナミクスの関係を誘電緩和、中性子反射率測定を通して明かにしていきたい。(今年度はJ-Parcでの中性子反射率測定の利用予定はありません。)  

(1) M.Ooe, K.Miyata, J.Yoshioka, K.Fukao, F.Nemoto, N.L.Yamada, J. Chem. Phys. 151, 244905, (2019). (OoeJChemPhys2019.pdf)
(2) T.Hayashi, K.Segawa, K.Sadakane, K. Fukao, N.L.Yamada, J. Chem. Phys. 146, 203305 (2017).(HayashiJChemPhys2017a.pdf)
(3) K. Fukao, T.Terasawa, Y.Oda, K.Nakamura, D.Tahara, Phys. Rev. E, 84, 041808 (2011).(FukaoPhysRevE2011a.pdf)
(4) T. Hayashi, K. Fukao, Phys. Rev. E 89, 022602 (2014). (HayashiPhysRevE2014.pdf)
(5) C.J. Ellison, J.M. Torkelson, Nature Materials, 2 (2003) 695.(EllisonNMat03a.pdf)
(6) Y.P. Koh and S.L. Simon, J. Polm. Sci.: Part B: Polym. Phys. 46 (2008) 2741 (SimonJPSPP2008a.pdf)
(7) K. Fukao et. al., Phys. Rev. E84, 041808 (2011). (FukaoPhysRevE2011a.pdf)

2. イオン液晶の相転移とダイナミクス DRS, TMDSC, X-ray (B4)

概要: このテーマはイオン液晶の一種である1-methyl-3-alkylimidazolium saltsが 示す結晶、スメクチック液晶、等方液体相間の相転移を誘電測定、X線回折、DSC測定により調べる研究である。この系では、電極分極による誘電緩和が観測されるので、その起源を明らかにするのは興味深い。また、スメクチック化、結晶化に際して観測される多彩な構造変化をSPring-8での放射光を用いて調べている。最近は、アルミナ細孔中でのイオン液晶の相転移ダイナミクスに関する研究もスタートしている。誘電測定は研究室のインピーダンスアナライザーで、構造測定はSPring-8で行う。

(1) H.Nobori et al., J. Chem. Phys. 160 044902 (2024). (NoboriJChemPhys2024.pdf)
(2) Y.Nozaki et al., J. Phys. Chem. B, 120 (2016) 5291-5300. (NozakiJPhysChemB2016.pdf)
(3) S.Cheng, S.J.Xie et al, ACS Nano, 11, 752-759, (2017). (ChengACSNano2017.pdf)
(4) J. D. Holbrey and K.R. Seddon, J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1999, 2133. (HolbreyJChemSocDaltonTrans1999.pdf)
(5) L. Li et al., Chem. Mater., 2005, 17, 250. (LiChemMater2005.pdf)
(6) M. Yoshino et al., Chem. Lett., 2002, 31, 320. (YoshinoChemLett2002.pdf)
アルミナ細孔関係の論文
(7) Y. Yao et al. Macromolecules, 51, 3059 (2018). (YaoMacromolecules2018.pdf)
(8) Y. Yao, Macromolecular Rapid Comm. 39, 1800087 (2018). (YaoMacroRapidComm2018.pdf)
(9) M. Yoshino et al., Chem. Lett., 2002, 31, 320. (SuzukiPolymer2016.pdf)

3. 高分子薄膜のガラス転移とダイナミクス DRS, AFM, TMDSC (B4)

概要: 高分子の超薄膜でのガラス転移温度はバルクと比較して十分に低下していることが知られている。この低下の起源については種々議論がある。これまでは、 PSなど極性の強くない高分子での薄膜の研究が中心であるが、最近、極性の強いナイロンで種々の膜厚の薄膜を作製し、そのガラス転移温度の膜厚依存性を明 らかにしている。現在、4にも挙げている大阪府大より提供いただいたサンプルPDEF(poly(diethyl fumarate)を対象として、薄膜を作成し、その誘電ダイナミクスの膜厚依存性測定に挑戦している。CH2スペーサーが存在しない幾何学的な制約を持った高分子のダイナミクスがどのようなconfinement効果を示すのは大変興味深いと思える。

(1) N. Taniguchi, et al. Phys. Rev. E 91, 052605 (2015). 1743. (TaniguchiPhysRevE2015.pdf)
(2) K. Fukao and Y. Miyamoto, Phys. Rev. E61, (2000) 1743. (FukaoPhysRevE00.pdf)
(3) Y. Kubota, K. Fukao, Y. Saruyama, Thermochimica Acta, 431 (2005) 149-154. (KubotaThermChimActa05.pdf)
(4) K. Fukao et. al., Adv. Polym. Sci., DOI:10.1007/12_2012_172, (2012). (FukaoAdvPolymSci2012.pdf)

4. 高分子のダイナミクスと誘電緩和 DRS, TMDSC (B4)

概要: 高分子のダイナミクスを研究する際に誘電緩和は非常に有力な実験手法であり、同一の測定で非常に広い温度・周波数範囲での測定が可能である。本研究室では、いくつかの研究機関より高分子試料の提供を受けて、新規な誘電緩和測定によるダイナミクス評価を行っている。
(a) 米国 UMASSより試料を提供いただき、P(S-2VP)/OAPSナノコンポジットの誘電緩和測定を行っている。ポリスチレン(PS)とポリ2ビニルピリジン(P2VP)という二つの高分子の共重合体に、OAPSというナノ粒子を加えた混合系となっている。ナノ粒子を加えることにより、P(S-2VP)という高分子のダイナミクスに対して、界面の相互作用をコントロールした状況を作り出す。Confinement効果の一つである、界面・表面効果のガラスダイナミクスに対する効果を調べることが可能な系となっている。 この系では、低周波数側で直流伝導成分の下に、新たな緩和過程が隠れていることが最近の測定で明らかになった。したがって、α過程に加えて、この新たな過程に本質を明らかにして行きたい。 (b) 大阪府立大学松本研究室より提供されたポリフマル酸系高分子のダイナミクス評価を行っている。この高分子は剛直なポリ置換メチレン構造のために、汎用ビニル高分子と異なり、高い熱的・機械的な特性を示すことが知られており、新規なマテリアルとして注目されている。
(c)名古屋大学高野研究室より提供されたポリアルキルスチレン(poly(alkyl styrene)のダイナミクスに着目した誘電緩和測定を行っている。この系では、側鎖として付いているアルキル鎖長が長くなると、ガラス転移温度が低下することが知られている。通常に、アルカンの結晶では、アルキル鎖長が長くなると、融点は上昇するので、全く逆の鎖長依存性となっており、鎖長の増大により、自由体積の増加が生じることを意味しており、興味深い系となっている。このような系のガラス転移に関係したダイナミクスを明らかにしたい。

(1) W.Young et al., Macromolecules 55, 6590-6597 (2022). (YoungMacromolecules2022.pdf)
(2) K. Miyata et al., Polymer, 245 (2022) 124671. (MiyataPolymer2022.pdf)
(3) Y.Suzuki, K.Miyata, M,Sato, N.Tsuji, K.Fukao, A.Matsumoto, Polymer, 196, 122479 (2020). (SuzukPolymer2020a.pdf)
(4) N. Taniguchi, et al. Phys. Rev. E 91, 052605 (2015) 1743. (TaniguchiPhysRevE2015.pdf)
(5) K. Yamada et. al., Polymer, 27, 1054 (1986). (YamadaPolymer1986.pdf)
(6) K. Nakamura et. al., Macromolecules, 44, 3053 (2011). (NakamuraMacromolecules2011a.pdf)



5. 液晶の相転移とリエントラントネマチック現象 (B4)

概要: 液晶とは、結晶の対象性と液体の流動性を併せ持つ物質である。 等方相から液晶相、液晶相から結晶相への相転移は、X線回折、DSC、 光学顕微鏡観察などにより調べられている。本研究では、等方液体相 からの冷却により、ネマチック相、スメクチック相、再度ネマチック 相が出現するリエントラントネマチック相の存在に興味を持って、そ の物理的な機構の開明を目指して研究を行う。液晶物質としては、 6OCBと8OCBのブレンドを用いる。

(1) J. Jadzyn et al. Phys. Rev. E 64, 052702 (2001) (JadzynPhysRevE2001.pdf)
(2) A. Madsen et al. Phys. Rev. Lett 90, 085701 (2003) (MadsenPhysRevLett2003.pdf)
(3) M.Simoes et al. Phys. Rev. E 71, 051706 (2005) (SimoesPhysRevE2005.pdf)

6. 高分子液体薄膜の dewetting とパターン形成 OM, AFM (B4)

概要: 高分子薄膜はガラス転移温度以上の液体状態では、基盤との相互作用に 応じて、dewettingが生じる。すなわち、高分子と基盤の斥力的な相互作用が強 い場合、高分子薄膜液体は凝集して、基盤との接触を少なくする方向に変化する。 この際に、条件に応じて様々な美しいパターンが発生する。この様子を光学顕微 鏡やAFMによって観測する。さらに、最近、Tsuiらは、dewettingのパターンの解 析から高分子薄膜の粘弾性挙動を引き出している。このあたりまで行ければ素晴 らしいでしょう。

(1) O.K.C. Tsui, et. al., Eur. Phys. J. E12, 417-425 (2003) (TsuiEPJE2003.pdf)
(2) O.K.C. Tsui, et. al., Macromolecules, 41, 1465-1468 (2008) (TsuiMacromolecules2008.pdf)
(3) Zhao H. Yang, et. al., Macromolecules, 41, 8785-8788 (2008) (TsuiMacromolecules2008b.pdf)
(4) Zhaohui Yang, et.al., Appl. Phys. Lett. 94, 251906 (2009) (TsuiAppPhysLett2009.pdf)
(5) R. Seemann, et.al., J. Phys.: Condsens. Matter, 13 4925-4938 (2001) (JacobsJPhysCondMatt2001.pdf)
(6) G. Reiter, Phys. Rev. Lett. 68 (1992) 75. (ReiterPhysRevLett92.pdf)

7. コロイド分散系でのエイジングとレオロジー UBM, DLS (B4)

概要: コロイド分散系の一種であるラポナイト懸濁液はラポナイトの濃度や添加塩濃度に応じて多様なエイジング現象を示す。このエイジン グの際にレオロジー的も大きく変化することが知られている。この変 化を粘性弾性挙動の変化として観測する。今年度は、ラポナイト分散液のダイナミクスの温度依存性の添加塩依存性を調べたいと思います。

(1) D. Bonn et al., J. Phys.: Condens. Matter, 16, 2004, S4987. (BonnJPhysCM2004.pdf)
(2) Y.M. Joshi, et al., Proc. R. Soc. A, 2008, 464. (JoshiProcRSocA2008.pdf)
(3) D. Saha, Y.M. Joshi, R. Bandyopadhyay, Soft Matter, 10, 3292, 2014. (SahaSoftMatter2014.pdf)

8. コレステリック液晶滴におけるらせん転傾(B4)

ネマチック(N)液晶において欠陥構造は、何らかの要因で配向ベクトルが不連続となることで発現し、一般に転傾(disclination)と呼ばれる。例えば、固体基板と空気界面に挟まれた球欠状のN液晶の滴において、基板に水平配向処理を施せば配向に関するフラストレーションが発生し、直線上の欠陥構造(転傾線)が形成されることが知られている(1)。空気の領域を液体溶媒であるPF656で満たしても、上記と同様の状況となり、やはり液晶滴内部には線欠陥が発生する。ここで、N液晶の代わりにコレステリック(Ch)液晶を用いて滴を作製すると、上記の転傾線が直線でなくなりらせん状に変形することが観察された。このようならせん状の線欠陥は理論的に存在が示唆されているものの、それを実際に実験的に観測、実証したという報告は稀である(2-4)。そこで本研究では、上記のCh液晶滴を観察、解析し、らせん状の転傾線を安定化させている内部配向場を解明することを目的とする。

(1) “Using Droplets of Nematic Liquid Crystal To Probe the Microscopic and Mesoscopic Structure of Organic Surfaces”, V. K. Gupta and N. L. Abbott, Langmuir 15, 7213 (1999) (GuptaLangmuir1999.pdf)
(2) “Topological zoo of free-standing knots in confined chiral nematic fluids”, D. Sec, S.Copar and S.Zumer, Nat. Commun. 5, 3057 (2014) (SecNatComm2014.pdf)
(3) “Hidden topological constellations and polyvalent charges in chiral nematic droplets”, G. Posnjak, S.Copar and I. Musevic, Nat. Commun. 8, 14594 (2017) (PosnjakNatComm2017.pdf)
(4) “Bipolar configuration with twisted loop defect in chiral nematic droplets under homeotropic surface anchoring”, M. N. Krakhalev et al., Sci. Rep. 7, 14582 (2017) (KrakhalevSciRep2017.pdf)

9. 液晶滴の温度差駆動回転および構造変化現象(B4)

液体溶媒中にコレステリック(Ch)液晶がつくる微小な球(Ch液晶滴)が分散した系を作製し、サンドイッチセルに封入する。ここで、セル基板に対して垂直な方向に温度勾配を印加すると、回転運動が誘起される。このとき、液体溶媒としてフッ素鎖系オリゴマーPF656を用いると、回転運動が安定化、高効率化することが報告された(1)。その後、上記の系においては温度勾配下で滴内部にマランゴニ対流が誘起されることが報告されており、回転現象は対流によって駆動されているというモデルが提案されている(24)。 ここで我々は、回転運動がマランゴニ対流の発生に起因するのであれば、溶媒を介さずに空気界面に直接晒されたCh液晶滴に対して温度勾配を印加しても、回転を誘起することは可能であろうと考えた。そこで、Ch液晶を用いて側面が空気に晒された円柱状の液晶滴を作製し温度勾配を印加したところ、実際に配向回転が誘起されることが判明した。このときの滴内部にはマランゴニ対流が発生していることが判明しており、対流が回転運動の起源となっていることが示唆されている。 一方、上記の2つの系のどちらにおいてマランゴニ対流が発生している際に、回転運動と並行して配向場が変形する、すなわち滴内部の構造が変化することがしばしば観測された。この構造変化も対流によって誘起されていることが強く示唆されているが、その機構に関しては、回転運動との関連性も含めてほぼ未解明の状態である。 本研究では、上記の回転、および構造変化現象を試料の条件を変化させつつより詳細に観察、解析し、これに加えて温度勾配印加時の流動場を測定する(48)。以上を通して、最終的には回転駆動、構造変化の機構を解明することを目的とする。

(1) “Topology-dependent self-structure mediation and efficient energy conversion in heat-flux-driven rotors of cholesteric droplets”, J. Yoshioka and F. Araoka, Nat. Commun. 9, 432 (2018) (YoshiokaNatComm2018.pdf)
(2) “Lehmann rotation of cholesteric droplets driven by Marangoni convection”, P. Oswald, J. Ignes-Mullol and A. Dequidt, Soft Matter 15, 2591 (2019) (OswaldSoftMatter2019.pdf)
(3) “Horizontal transportation of a Maltese cross pattern in nematic liquid crystalline droplets under a temperature gradient”, J. Yoshioka and K. Fukao, Phys. Rev. E 99, 022702 (2019) (YoshiokaPhysRevE2019.pdf)
(4) “Differential rotation in cholesteric pillars under a temperature gradient”, J. Yoshioka and F. Araoka, Sci. Rep. 10, 17226 (2020) (YoshiokaSciRep2020.pdf)
(5) “Direct Observation of Rigid-Body Rotation of Cholesteric Droplets Subjected to a Temperature Gradient” K. Nishiyama, S. Bono, Y. Maruyama and Y. Tabe, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 063601 (2019) (NishiyamaJPSJ2019.pdf)
(6) “Heat-Driven Rigid-Body Rotation of a Mixture of Cholesteric Liquid Crystal Droplets and Colloids” S. Bono, Y. Maruyama, K. Nishiyama and Y. Tabe, J. Phys. Chem. B 124, 6170 (2020) (BonoJPhysChemB2020.pdf)
(7) “Heat-flux-driven Rotation of Cholesteric Droplets Dispersed in Glycerol”, S. Takano, S. Bono and Y. Tabe, J. Phys. Soc. Jpn. 92, 024601 (2023) (BonoJPhysSocJpn2023.pdf)
(8) “Morphogenesis of a chiral liquid crystalline droplet with topological reconnection and Lehmann rotation” J. Yoshioka, Y. Ito and K. Fukao. Sci. Rep. 14, 7597 (2024) (YoshiokaSciRep2024.pdf)

10. 液体‐液晶共存状態における高分子の輸送現象(B4)

一般に溶液に温度勾配を与えると溶質分子に濃度勾配が生じる(Soret効果(13))。一方、液晶に不純物を分散させると、液晶内においてより秩序度の低い領域、あるいは欠陥領域に不純物が集積することが知られている(4-7)。では、温度勾配下の液晶において、不純物はどのように分布するだろうか。 我々は、蛍光高分子を分散させた液晶を用いて円柱状の滴を作製し、温度勾配を印加した際の滴内部における高分子の濃度分布を蛍光顕微鏡によって観察した。すると、液体と液晶が共存する温度領域において、高分子が滴の中央、あるいはリング状に集積する等の非自明な濃度分布を示すことが判明した。本研究では、この現象を偏光、蛍光および共焦点顕微鏡を用いて詳細に観察し、滴内部の配向場と高分子の濃度分布の関連性を明らかにする。これを通して、最終的には上記の特徴的な輸送現象の機構を解明することを目的とする。

(1) “Why molecules move along a temperature gradient”, S. Duhr and D. Braun, Proc. Natl. Acad. Sci. 103, 19678 (2006) (DuhrProcNatlAcadSci2006.pdf)
(2) “Light-Induced Local Heating for Thermophoretic Manipulation of DNA in Polymer Micro- and Nanochannels” L. H. Thamdrup, N. B. Larsen and A. Kristensen, Nano Lett. 10, 826 (2010) (ThamdrupNanoLett2010.pdf)
(3) “Soret effect in lyotropic liquid crystal in the isotropic phase revealed by time-resolved thermal lens” G. M. Oliveira, V. S. Zanuto, G. A. S. Flizikowski, N. M. Kimura, A. R. Sampaio, A. Novatski, M. L. Baesso, L. C. Malacarne, N. G. C. Astratha, J. Mol. Liq. 312, 113381 (2020) (OliveiraJMolLiq2020.pdf)
(4) “Polymer-stabilized liquid crystal blue phases” H. Kikuchi, M. Yokota, Y. Hisakado, H. Yamg and T. Kajiyama, Nat. Mater. 1, 64 (2002) (KikuchiNatMater2002.pdf)
(5) “Molecular manipulator driven by spatial variation” S. Samitsu, Y. Takanishi, J. Yamamoto, Nat. Mater. 9, 816 (2010) (SamitsuNatMater2010.pdf)
(6) “Transport of particles by a thermally induced gradient of the order parameter” M. karabot, . Lokar, and I. Muevi, Phys. Rev. E 87, 062501 (2013) (SkarabotPhysRevE2013.pdf)
(7) “Fluorescence microscopy reveals molecular localisation at line defects in nematic liquid crystals” T. Ohzono, K. Kato and J. Fukuda, Sci. Rep. 6, 36277 (2016) (OhzonoSciRep2016.pdf)


11. 直流電場印加によるコレステリック液晶滴の回転駆動(B4)

液体溶媒中にコレステリック(Ch)液晶がつくる微小な球(Ch液晶滴)が分散した系を作製し、サンドイッチセルに封入する。これに直流電場を印加すると回転運動が誘起される。この現象は1989年にMadhusudanaらによって発見されたが、その再現性は低く、また回転の駆動機構に関しても未だよく理解されていない(1,2)。 これまでの研究で、前述のPF656中に分散したCh液晶滴においても、直流電場を印加すると回転が生じることがある、ということが判明している。しかしながら、回転が生じる条件やその特性についてはよく調べられていない状態である。一方、近年我々は、直流電場下では液晶滴内部に対流が発生し、それによって配向場が変形する現象を発見した(3)。この対流と回転の駆動は関連していると期待されるが、これについても現在調査中である。本研究では、直流電場下のCh液晶滴における回転、および流動現象を観察、解析し、最終的にはその回転の駆動機構を解明することを目的とする。

(1) “An experimental investigation of electromechanical coupling in cholesteric liquid crystals”, N. V. Madhusudana and R. Pratibha, Liq. Cryst. 5, 1827 (1989) (MadhusudanaLiqCryst1989.pdf)
(2) “Mechanisms of Rotational Dynamics of Chiral Liquid Crystal Droplets in an Electric Field”, O. A. Skaldin, O. S. Tarasov, Y. I. Timirov, E. R. Basyrova, J. Exp. Theor. Phys. 126, 255 (2018) (SkaldinJExpTheorPhys2018.pdf)
(3) “Horizontal Transportation of a Maltese Cross Pattern in Nematic Liquid Crystalline Droplets under a Direct-Current Electric Field” J. Yoshioka and K. Fukao, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 094401 (2020) (YoshiokaJPSJ2020.pdf)

12. 交流電場印加によってコレステリック液晶滴に誘起される配向変形波(B4)

Ch液晶に対して交流電場を印加すると、欠陥構造の形成、指紋状組織の成長、分散させたマイクロ粒子の輸送等、複雑なダイナミクスが発生することがしばしば報告されている(13)。これらの現象は非線形、非平衡の物理学の応用例として解析されるべきであるが、複雑さゆえにその機構に関してはほとんど理解されていない状態である。 前述のPF656-Ch液晶滴分散系において交流電場を印加すると、配向場に周期的な波動が発生し、滴内部を伝播していくことが観察された。近年我々は、この波動生成の機構は、電場印加によって発生する電気対流によって説明可能であることを見出した(4)。一方、波動は直線状、および放射状に伝播する2つの場合があることが分かっている。後者の場合、同時に渦巻き状の構造が形成され、これの回転を伴いつつ波動が伝播していくことが観察されているが、その際に3回回転対称の構造が優先的に安定化されることが判明した。本研究では、波動の伝播形態、およびそれに付随する散逸構造を観察、解析し、これらの安定化機構を解明することを目的とする。

(1) “Topology-commanded optical properties of bistable electricfield- induced torons in cholesteric bubble domains”, A. Varanytsia et al., Sci. Rep. 7, 16149 (2017) (VaranytsiaSciRep2017.pdf)
(2) “Travelling fingers in two-frequency cholesteric liquid crystals: fragments, loops and spirals”, S. Pirkl and P. Oswald, Liq. Cryst. 28, 299 (2001) (PirklLiqCryst2001.pdf)
(3) “Electric-field-induced transport of microspheres in the isotropic and chiral nematic phase of liquid crystals”, J. Oh, H. F. Gleeson and I. Dierking, Phys. Rev. E 95, 022703 (2017) (OhPhysRevE2017.pdf)
(4) “Propagation of periodic director and flow patterns in a cholesteric liquid crystal under electroconvection”, J. Yoshioka, H. Nobori, K. Fukao and F. Araoka, Sci. Rep. 14, 23201 (2024) (YoshiokaSciRep2024b.pdf)


13. 溶解過程の液晶滴における非平衡ダイナミクス(B4)

液滴が液体溶媒に溶解する際、液滴の表面張力に不均一性が生じ、マランゴニ対流が誘起されることがある。この対流を動力として、球状の液滴が溶液内を自走する現象が数多く報告されている。その際、液滴の代わりに液晶滴を用いれば、液晶の内部配向、滴サイズ等の条件を変化させることで、自走のパターンがランダム、並進、らせん運動と多様に分岐する(17)。これらの運動に追随して液晶滴内部の配向場は大きく変形していることが観察されているが、それと自走パターンの分岐の関連性についてはよく理解されていない。 本研究では、液体溶媒としてフッ素鎖系オリゴマーPF656を用いる。液晶はこれに溶解し、PF656に液晶滴を分散させれば滴内部にマランゴニ対流が発生する。一方、液晶はPF656よりも比重が小さいため、液晶滴をPF656の上に安定に浮かせた状態を実現できる。この状態で、液晶滴が溶解する際のダイナミクスを観察、解析する。上記の先行研究のように溶液中を3次元的に自走する液晶滴を対象とするのではなく、溶液表面を2次元的に運動する液晶滴を解析する。これによって、溶解過程の液晶滴のダイナミクスに関して新規な知見を得ることを目的とする。

(1) “Interfacial mechanisms in active emulsions”, S. Herminghaus et al., Soft Matter 10, 7008 (2014) (HerminghausSoftMatter2014.pdf)
(2) “Curling Liquid Crystal Microswimmers: A Cascade of Spontaneous Symmetry Breaking”, C. Krueger, G. Kloes, C. Bahr, and C. C. Maass, Phys. Rev. Lett. 117, 048003 (2016) (KruegerPhysRevLett2016.pdf)
(3) “Chirality-induced helical self-propulsion of cholesteric liquid crystal droplets”, T. Yamamoto and M. Sano, Soft Matter 13, 3328 (2017) (YamamotoSoftMatter2017.pdf)
(4) “Self-propelled motion switching in nematic liquid crystal droplets in aqueous surfactant solutions” M. Suga, S. Suda, M. Ichikawa, and Y. Kimura, Phys. Rev. E 97, 062703 (2018) (SugaPhysRevE2018.pdf)
(5) “Hydrodynamic rotlet dipole driven by spinning chiral liquid crystal droplets” T. Yamamoto and M. Sano, Phys. Rev. E 99, 022704 (2019) (YamamotoPhysRevE2019.pdf)
(6) “Topological Stabilization and Dynamics of Self-Propelling Nematic Shells” B. V. Hokmabad, K. A. Baldwin, C. Krueger, C. Bahr and C. C. Maass, Phys. Rev. Lett. 123, 178003 (2019) (HokmabadPRL2019.pdf)
(7) “Active motion of multiphase oil droplets: emergent dynamics of squirmers with evolving internal structure”, X. Wang, R. Zhang, A. Mozaffari, J. J. de Pablo and N. L. Abbott, Soft Matter 17, 2985 (2021) (WangSoftMatter2021.pdf)