2001年度 立命館大学 「労働保護法」講義     2001.09.25. 佐藤

第1回「ガイダンス:労働保護法の概要」

はじめに:本日の予定
 1.労働保護法とはどのようなものか
 2.講義受講上の注意事項
 

T.労働保護法の概要

1.具体例から(ビデオ「あっぱれな親不孝」(1997年、日本電波ニュース社))
 
2.日本労働法の基本枠組み
 1) 労働法の対応方法
   1.最低限の労働条件については、罰則付で強行的に法律で保障
   2.それ以上の条件については、労働組合による規制
 2) 日本労働法制
 ┌──────┬────────────┬────────┬────────┐
 │      │?労働団体法       │?労働保護法  │?雇用保障法  │
 ├──────┼────────────┼────────┼────────┤
 │(1) 民間   │ 労働組合法      │ 労働基準法  │ 雇用対策法  │
 │      │ (旧:1945.12.22   │ (1947.4.7) │ (1969.7.21 )│
 │      │  現:1949.6.1)   │ その他    │ 雇用保険法  │
 │      │ 労働関係調整法    │        │ (1975.4.1) │
 │      │ (1946.9.27 )    │        │ その他    │
 │      │ その他        │        │        │
 ├──────┼────────────┼────────┼────────┘
 │(2) 公的現業│            │        │
 │   国  │ 国営企業労働関係法  │ ○(全面適用)│
 │      │ (公労法:1948.12.20 │        │
 │      │  国労法:1986.12.4 )│        │
 │   地方 │ 地方公営企業労働関係法│ ○(全面適用)│
 │      │ (1952.7.31 )    │        │
 ├──────┼────────────┼────────┤
 │(3) 一般公務│            │        │
 │   国  │ 国家公務員法     │ X(適用なし)│
  │      │ (1947.10.21)    │        │
  │   地方 │ 地方公務員法     │ △(原則適用 │
  │      │ (1950.12.13)    │ 一部適用なし)│
  └──────┴────────────┴────────┘
 3)労働組合の実情と労働保護法への期待

3.労働保護法概観
 1) 労働条件設定手段
   1.「労働契約」:個人の主体性と労働者の二重の自由
   2.「労働協約」:労働者集団による統制、
           労働条件規整から労働過程・経営の統制への拡大
   3.「就業規則」:使用者による経営秩序維持、
           労働者保護の要請だが労働条件規制への拡大
   4.「法定基準」:最低基準の法による確保
 2) 相互関係
 ┌────────────┐(a) 労組法16条「規範的効力」
 │労働契約?(a)?労働協約   │(b) 労基法1条「最低基準」
 │ |  (f)    |   │(c) 労基法1条「最低基準」、労基法92条「法令に従う
 │ (d)       (b)   │(d) 労基法93条「就業規則が最低」
 │ |  (e)     |   │(e) 労基法92条「協約に従う」
 │就業規則?(c)?法定基準   │(f) 労基法1条「最低基準」、労基法13条
 └────────────┘
 3) 「最低基準」の現在の問題点
   1.協約で上積みができていない(つまり、「最高基準」となっている)
   2.法定基準が低い
   3.その法定基準すら守られていない

4.80年代後半以降の改編動向
 1) わが国における労働法の展開
    1.戦前    :「日本的労使関係」
    2.戦後    :労働法体制の成立
    3.占領政策の転換
    4.高度経済成長:「雇用保障法」
    5.不況    :「小さな政府」、技術革新
    6.好景気   :戦後労働法体制の転換
    7.不況
 2) 戦後50年と労働法改訂
  ?労働立法
    労働組合法(1945年,1949年)、労働基準法(1947年)
 ?各種労働力の戦力化:労働法改訂前期
  1.各種立法
    1)男女雇用機会均等法(1985成立、1986.4.1施行)
    2)労働者派遣法   (1985成立、1986.7.1施行)
    3)労働時間法の改定 (1987成立、1988.4.1施行)
   4)労災補償の改定  (1990提案 結局、主要部分は法改正案に盛り込まれず)
      5)育児休業法    (1992施行)
    6)時短促進法    (1992成立)
      7)労基法改訂       (1993成立):変形労働時間、 みなし労働時間、40時間制
    8)パートタイム労働法(1993成立)
      9)介護休業法    (1995成立)
     10)雇用機会均等法改定(1997成立):女子保護規定の廃止、各種保護規定の創設
   11)労働基準法改定  (1998成立):裁量労働制の拡大、等
   12)労働者派遣法改訂  (1999成立)
   13)労働基準法の改定 (予定)
     イ)労働契約関係  :a)労働期間、b)賠償予定の禁止、c)配転・出向応諾義務
      ロ)就業規則法関連:a)届出制の廃止、b)作成等の単位
  2.改編の特徴
     1)現実追随主義
      2)労使自治論、行政指導型・規制の放棄、時短促進における弾力化論
  ?各種労働力の組織化:労働法改訂の現局面
    1.「規制緩和」
     1)規制緩和推進計画  (1995)
     2)労働者派遣法の改訂(1996)→(1999)
      適用対象業種拡大、育児休業・介護休業取得者の代替
    3)裁量みなし制の対象業務拡大
    4)女子保護規定の撤廃・緩和
      時間外労働・深夜労働緩和(1994)、女性のみ募集(1995)
          母性保護以外の女子保護規定撤廃(1997)
  2.日経連の政策
   1)長期蓄積能力活用型(正社員)、高度専門能力活用型(契約社員)、
    雇用柔軟型(パート)
    2)柔軟な雇用形態
  3.特徴    1)一層の弾力化    2)個別管理   3)規制緩和
  ?労使関係のシステム化:今後の改訂動向
   1.市場原理の強化、労働者と使用者との個人交渉、労働法がそれをサポート
 3) それへの評価と今後の方向性
  ?総論:「使用者の現実」主義から、「生活の現実」主義へ
    1.「労働慣行の実情」の意味:「使用者の現実」
  2.「経済的展開」の意味:本当に展開の側面と意識的に作られた側面
  ?各論
   1.労使自治の実質化
    2.最低限の厳格な保障
    3.弾力化拡充への反対
    A)使われていないのには理由がある。
        B)弾力化導入のための前提の欠如
        C)労働者の生活サイクル破壊
  ?見ておくべきこと
    1.社会的圧力の反映の側面(他の法改定も含め)
    時短・過労死・外国人労働者
    「労働慣行の実情」論と(多くの問題を持つものの)規制との矛盾
  2.使用者の思惑
 

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)

[教科書]
 西谷敏・萬井隆令編『労働法2 個別的労働関係法[第3版]』(1999年、法律文化社)
[参考書]
 菅野和夫『労働法 第五版』(1999年、弘文堂)
 片岡 『労働法2[第四版]』(1998年、有斐閣)
 『労働判例百選(第六版)』別冊ジュリスト(1994年、有斐閣)
 

U.講義受講上の注意

1.大学の講義とは
 1)教養講演会ではない
   ・知識を得ることが目的ではなく、自らの考える力を得ることが目的
 2)受講態度
   ・受け身でボーと私の話しを聞いていても何の意味もない
   ・考えながら聞かなければならない
     考えること:何がわかったか、何がわからなかったか、質すべき疑問は何か
           論点について自分はどう考えるか
    →ノートをとることは単なる事務作業であって学問とは無関係
 3)講義出席が必須
   ・講義に出ず、教科書・参考書で勉強して力がつくことは絶対にありえない
   ・形式的にも、「大学設置基準」により講義に出席していない学生に単位を認定す
     ることはできない。

2.講義の進め方の具体的注意
 1)講義の進め方
   1.休講はないし、逆に補講もない。
   2.講義はレジュメに基づいて進める。
   3.一回の講義で一話完結させる方式で話す。
  2)レジュメとは何か
   1.レジュメとは、講義を実際に聞く際に、話の全体像と、その中に置ける現在話して
    いる事項の位置を理解するためのもの。講義を聞かずして、レジュメを読むだけ
    で内容を理解することは絶対に不可能。また、レジュメとは資料ではないので、
    講義の欠席者用にレジュメを保存・配布することなどありえない。
    2.あくまで講義が主で、レジュメは従の存在。たとえば、レジュメを見て、私が話し
    を飛ばした、と言う学生がいるが、これは本末転倒した発想である。
    3.レジュメは、講義の最初に配布する。遅れた者は、教壇まで取りに来ること。
  3)ノ?トのとり方
   1.大判のノートを使い、レジュメに書き込んではいけまない。
    2.論点と筋を中心に、私の述べる全てを記述する構えで臨んでほしい。
  4)自己点検について
    1.講義への能動的出席を援助するための措置
   2.点検項目1)、2)により成績評価。一発逆転試験も実施するが逆転答案はまずない
   3.質問・意見表明は、e-mailも活用してもらいたい。 satokei@law.ritsumei.ac.jp

3.講義計画
   9/25 ガイダンス  労働保護法の概要
  10/02 1.総論   A・市民的権利
    /09                B・男女雇用平等
   /16        C・ハラスメント
    /23 2.労働契約 A・労働契約の締結
    /30         B・労働契約の変更
  11/06               C・労働契約の終了  *小テスト
    /13  3.労働条件 A・労働時間
    /20         B・休息
    /27         C・賃金/福利厚生
  12/04  4.職場環境 A・就業規則と懲戒
    /11              B・労働災害と過労死
     /18  5.多様な就業形態
    1/08  6.権利救済機構          *全体のまとめ