第1回「ガイダンス:労働保護法の概要」
はじめに:本日の予定
1.労働保護法とはどのようなものか
2.講義受講上の注意事項
T.労働保護法の概要
1.具体例から(ビデオ「あっぱれな親不孝」(1997年、日本電波ニュース社))
2.日本労働法の基本枠組み
1) 労働法の対応方法
1.最低限の労働条件については、罰則付で強行的に法律で保障
2.それ以上の条件については、労働組合による規制
2) 日本労働法制
┌──────┬────────────┬────────┬────────┐
│ │?労働団体法 │?労働保護法 │?雇用保障法 │
├──────┼────────────┼────────┼────────┤
│(1) 民間 │ 労働組合法 │ 労働基準法 │ 雇用対策法 │
│ │ (旧:1945.12.22 │ (1947.4.7) │ (1969.7.21
)│
│ │ 現:1949.6.1) │ その他 │ 雇用保険法 │
│ │ 労働関係調整法 │ │ (1975.4.1) │
│ │ (1946.9.27 ) │ │ その他 │
│ │ その他 │ │ │
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│(2) 公的現業│ │ │
│ 国 │ 国営企業労働関係法 │ ○(全面適用)│
│ │ (公労法:1948.12.20 │ │
│ │ 国労法:1986.12.4 )│ │
│ 地方 │ 地方公営企業労働関係法│ ○(全面適用)│
│ │ (1952.7.31 ) │ │
├──────┼────────────┼────────┤
│(3) 一般公務│ │ │
│ 国 │ 国家公務員法 │ X(適用なし)│
│ │ (1947.10.21) │ │
│ 地方 │ 地方公務員法 │ △(原則適用 │
│ │ (1950.12.13) │ 一部適用なし)│
└──────┴────────────┴────────┘
3)労働組合の実情と労働保護法への期待
3.労働保護法概観
1) 労働条件設定手段
1.「労働契約」:個人の主体性と労働者の二重の自由
2.「労働協約」:労働者集団による統制、
労働条件規整から労働過程・経営の統制への拡大
3.「就業規則」:使用者による経営秩序維持、
労働者保護の要請だが労働条件規制への拡大
4.「法定基準」:最低基準の法による確保
2) 相互関係
┌────────────┐(a) 労組法16条「規範的効力」
│労働契約?(a)?労働協約 │(b) 労基法1条「最低基準」
│ | (f) | │(c) 労基法1条「最低基準」、労基法92条「法令に従う
│ (d) (b) │(d) 労基法93条「就業規則が最低」
│ | (e) | │(e) 労基法92条「協約に従う」
│就業規則?(c)?法定基準 │(f) 労基法1条「最低基準」、労基法13条
└────────────┘
3) 「最低基準」の現在の問題点
1.協約で上積みができていない(つまり、「最高基準」となっている)
2.法定基準が低い
3.その法定基準すら守られていない
4.80年代後半以降の改編動向
1) わが国における労働法の展開
1.戦前 :「日本的労使関係」
2.戦後 :労働法体制の成立
3.占領政策の転換
4.高度経済成長:「雇用保障法」
5.不況 :「小さな政府」、技術革新
6.好景気 :戦後労働法体制の転換
7.不況
2) 戦後50年と労働法改訂
?労働立法
労働組合法(1945年,1949年)、労働基準法(1947年)
?各種労働力の戦力化:労働法改訂前期
1.各種立法
1)男女雇用機会均等法(1985成立、1986.4.1施行)
2)労働者派遣法 (1985成立、1986.7.1施行)
3)労働時間法の改定 (1987成立、1988.4.1施行)
4)労災補償の改定 (1990提案 結局、主要部分は法改正案に盛り込まれず)
5)育児休業法 (1992施行)
6)時短促進法 (1992成立)
7)労基法改訂
(1993成立):変形労働時間、 みなし労働時間、40時間制
8)パートタイム労働法(1993成立)
9)介護休業法 (1995成立)
10)雇用機会均等法改定(1997成立):女子保護規定の廃止、各種保護規定の創設
11)労働基準法改定 (1998成立):裁量労働制の拡大、等
12)労働者派遣法改訂 (1999成立)
13)労働基準法の改定 (予定)
イ)労働契約関係 :a)労働期間、b)賠償予定の禁止、c)配転・出向応諾義務
ロ)就業規則法関連:a)届出制の廃止、b)作成等の単位
2.改編の特徴
1)現実追随主義
2)労使自治論、行政指導型・規制の放棄、時短促進における弾力化論
?各種労働力の組織化:労働法改訂の現局面
1.「規制緩和」
1)規制緩和推進計画 (1995)
2)労働者派遣法の改訂(1996)→(1999)
適用対象業種拡大、育児休業・介護休業取得者の代替
3)裁量みなし制の対象業務拡大
4)女子保護規定の撤廃・緩和
時間外労働・深夜労働緩和(1994)、女性のみ募集(1995)
母性保護以外の女子保護規定撤廃(1997)
2.日経連の政策
1)長期蓄積能力活用型(正社員)、高度専門能力活用型(契約社員)、
雇用柔軟型(パート)
2)柔軟な雇用形態
3.特徴 1)一層の弾力化 2)個別管理 3)規制緩和
?労使関係のシステム化:今後の改訂動向
1.市場原理の強化、労働者と使用者との個人交渉、労働法がそれをサポート
3) それへの評価と今後の方向性
?総論:「使用者の現実」主義から、「生活の現実」主義へ
1.「労働慣行の実情」の意味:「使用者の現実」
2.「経済的展開」の意味:本当に展開の側面と意識的に作られた側面
?各論
1.労使自治の実質化
2.最低限の厳格な保障
3.弾力化拡充への反対
A)使われていないのには理由がある。
B)弾力化導入のための前提の欠如
C)労働者の生活サイクル破壊
?見ておくべきこと
1.社会的圧力の反映の側面(他の法改定も含め)
時短・過労死・外国人労働者
「労働慣行の実情」論と(多くの問題を持つものの)規制との矛盾
2.使用者の思惑
[自己点検項目]
1)講義を受講して、理解が進んだ点
2)講義でわかりにくかった点
3)講義に関する質問
4)その他(自由記述)
[教科書]
西谷敏・萬井隆令編『労働法2 個別的労働関係法[第3版]』(1999年、法律文化社)
[参考書]
菅野和夫『労働法 第五版』(1999年、弘文堂)
片岡 『労働法2[第四版]』(1998年、有斐閣)
『労働判例百選(第六版)』別冊ジュリスト(1994年、有斐閣)
U.講義受講上の注意
1.大学の講義とは
1)教養講演会ではない
・知識を得ることが目的ではなく、自らの考える力を得ることが目的
2)受講態度
・受け身でボーと私の話しを聞いていても何の意味もない
・考えながら聞かなければならない
考えること:何がわかったか、何がわからなかったか、質すべき疑問は何か
論点について自分はどう考えるか
→ノートをとることは単なる事務作業であって学問とは無関係
3)講義出席が必須
・講義に出ず、教科書・参考書で勉強して力がつくことは絶対にありえない
・形式的にも、「大学設置基準」により講義に出席していない学生に単位を認定す
ることはできない。
2.講義の進め方の具体的注意
1)講義の進め方
1.休講はないし、逆に補講もない。
2.講義はレジュメに基づいて進める。
3.一回の講義で一話完結させる方式で話す。
2)レジュメとは何か
1.レジュメとは、講義を実際に聞く際に、話の全体像と、その中に置ける現在話して
いる事項の位置を理解するためのもの。講義を聞かずして、レジュメを読むだけ
で内容を理解することは絶対に不可能。また、レジュメとは資料ではないので、
講義の欠席者用にレジュメを保存・配布することなどありえない。
2.あくまで講義が主で、レジュメは従の存在。たとえば、レジュメを見て、私が話し
を飛ばした、と言う学生がいるが、これは本末転倒した発想である。
3.レジュメは、講義の最初に配布する。遅れた者は、教壇まで取りに来ること。
3)ノ?トのとり方
1.大判のノートを使い、レジュメに書き込んではいけまない。
2.論点と筋を中心に、私の述べる全てを記述する構えで臨んでほしい。
4)自己点検について
1.講義への能動的出席を援助するための措置
2.点検項目1)、2)により成績評価。一発逆転試験も実施するが逆転答案はまずない
3.質問・意見表明は、e-mailも活用してもらいたい。 satokei@law.ritsumei.ac.jp
3.講義計画
9/25 ガイダンス 労働保護法の概要
10/02 1.総論 A・市民的権利
/09
B・男女雇用平等
/16 C・ハラスメント
/23 2.労働契約 A・労働契約の締結
/30 B・労働契約の変更
11/06
C・労働契約の終了 *小テスト
/13 3.労働条件 A・労働時間
/20 B・休息
/27 C・賃金/福利厚生
12/04 4.職場環境 A・就業規則と懲戒
/11
B・労働災害と過労死
/18 5.多様な就業形態
1/08 6.権利救済機構 *全体のまとめ