2001年度 立命館大学 「労働法保護法」講義

第3回「1.総論 B.男女雇用平等」

2001.10.09.  佐藤 
 

はじめに
  1.前回のまとめ:「お礼奉公」を例として強制労働の禁止について
      「人格権」について補足
       前回講義について特に全体に回答するべき質問はなかった
     ただし、社会実態を反映させた法解釈について
 2.本日の予定 :総論、労働法的な思考へ

*本日の講義テーマ:女性の昇進差別は法により是正できるだろうか?

1.事例から([資料1]:芝信用金庫事件判決)
 →現在の焦点/過去の到達点を理解することが前提となる

2.雇用における男女格差の現状([資料2])

3.男女雇用平等をめぐる法状況([資料3]←「平等論」への疑問)
 1.雇用機会均等法成立前の状況
    1)国際条約:国連憲章・世界人権宣言・国際人権規約、女子(女性)差別撤廃条約
         1.規定内容・趣旨
          2.適用が困難であるとの主張:国際法と国内法の適用関係
      2)憲法規定:14条「法の下の平等」、27条「勤労権」
        1.規定内容・趣旨
         2.適用が困難との主張:憲法規定の適用関係  e.g.三菱樹脂事件最高裁判決
      3)労働基準法:3条「均等待遇」、4条「男女同一賃金」
        1.規定内容・趣旨
         2.適用が困難であるとの主張:労働関係成立前への適用

  2.判決による救済
      1)個別局面毎の困難性
          a.採用→労働関係成立前の関係への労働法規適用問題
          b.人事→使用者の人事権・査定問題
          c.賃金→「同一賃金」の前提である「同一労働」問題
          d.解雇→保護規定の欠如
     d)結婚退職制・女子若年定年制
       住友セメント事件 東京地判  昭41.12.20(結婚退職制は無効)
       名古屋放送事件  名古屋高判 昭49. 9.30(女子30歳定年制は無効)
       伊豆シャボテン公園事件 最三小判 昭50.8.29 (10歳の定年年令差は無効)
       日産自動車事件  最三小判  昭56. 3.24(5歳差も無効)
       放射線研究所事件 最一小判  平 2. 5.29(段階的格差是正も違法)
        *判決により救済できた理由
       イ)裁判による解雇救済法理の形成
          ロ)解雇無効と判示することで救済できる
     c)賃金差別
       秋田相互銀行事件 秋田地判  昭50. 4.10(男女別建賃金違法で差額請求可)
       岩手銀行事件   盛岡地判  昭60. 3.28(女子労働者にも家族・世帯手当)
       但し、日産自動車事件 東京地判 平 1.1.26 (収入の多いものを世帯主は可)
        *判決により救済できる範囲
       イ)単に差別賃金が無効と判示するだけでは救済できない
          ロ)男性と同じに扱えと言える場合には、救済できる
     b)昇格差別
       鈴鹿市役所事件  津地判   昭55. 2.21(昇格差別に対し損害賠償)
                名古屋高判 昭58. 4.28(昇給昇格は任命権者の権限)
       日本鉄鋼連盟事件 東京地判  昭61.12. 4(男女コース制による格差は可)
       社会保険診療報酬支払基金事件 東京地判 平2.7.7.
       (昇格させることは認めないが、昇格差別を不法行為として損害賠償)
        *判決により救済できる範囲
       イ)査定問題が入るため、単純に男性と同じに扱えとは言いづらい
            人事権の問題があるため、女性を昇格させよと命じた判決はない
          ロ)違法がはなはだしい場合には、債務不履行責任ないし不法行為責任を認める。
      a)採用差別
          三菱樹脂事件      最大判      昭48.12.12 (採用差別に労働法規は不適用)

  3.男女雇用機会均等法の成立(1985年)
    1)立法に求められたこと
        1.判例による救済の積み重ねを明文規定にすること
          2.解釈による救済の困難な場合の救済
          3.実効的救済手段の創設
    2)規定内容
       1.→教育訓練・福利厚生・定年・退職・解雇:禁止規定
          2.→募集・採用・配置・昇進              :努力義務規定
          3.→苦情処理機関・婦人少年室・機会均等調停委員会
      3)労働省・婦人少年室
        1.指導・要請
          2.この意味
            1.行政的にも放置できない問題
        「お上」には従う日本企業の特質を背景に、現実には是正されることが多い
            2.規制する法的権限はない。指導することしかできない。
      4)成立後の現実
        1.法規定上の問題
          イ)禁止規定と努力義務規定の差異
          ロ)罰則規定
        2.救済機関→全く機能せず
     3.コース制雇用管理の定着
        4.現状([資料2]参照)
    5)男女雇用機会均等法以後の判決
      日ソ図書事件   東京地判  平 4. 8.27(同一労働同一賃金)
      芝信用金庫事件  東京地判  平 8.11.27(損害賠償、地位確認)

  4.男女雇用機会均等法の改正(1997年)
   1)改正内容
     1.禁止規定、調停委員会規定の改正
          2.セクハラ
          3.ポジティブ・アクション
   2)労働基準法改訂
      3)改正されなかったこと
     1.罰則規定  *企業名公表
     2.間接差別

4.昇進差別が是正できるのか
 1.論点使用者の査定行為が介在、裁判でそれを強制できるか
  2.諸見解
   1.昇進・昇格を命ずることを否定<上記・鈴鹿、日本鉄鋼連盟判決>
     理由:使用者の専権、労基法4条は賃金のみ
   2.否定だが、不法行為に基づく損害賠償は可能<社会保険診療報酬基金判決>
     理由:差別は公序に反し、不法行為の要件を充たす
     3.否定だが、例外的に昇格を命じることは可能
     理由:慣行が成立<芝信用金庫判決>
        労働契約・就業規則・労働協約などに明確な規定が必要<菅野>
   4.昇進を命じることも可能<深谷>
     理由:昇進が人格的利益
 3.「コース制」の下での昇進差別を是正できるか
 

[参考文献]
 国際女性の地位協会編集『女子差別撤廃条約注解』(1992年、尚学社)
 坂本福子『新版 解説・雇用機会均等法』(1999年、学習の友社)
 大脇雅子・中野麻美・林陽子『働く女の裁判』(1996年、学陽書房)
 宮地光子『平等への女たちの挑戦』(1996年、明石書店)
 池内靖子・武田春子・二宮周平・姫岡とし子編『21世紀のジェンダー論』
  (1999年、晃洋書房)

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)