2001年度 立命館大学 「労働保護法」講義

第5回「2.労働契約 A.労働契約締結」

2001.10.23.  佐藤

はじめに
 先週のまとめ *特に全体に回答するべき質問はなかった
 今週から:「2.労働契約」
  採用→配転・出向→退職・解雇
  *上の表現の主語は「使用者」。使用者は自由に行なえる、という誤解
  *労使対等が大原則→労働契約で規制
  採用:労働契約の成立、配転・出向:労働契約の変更、退職・解雇:労働契約の終了
  *教科書の第5章を参照すること(私の執筆部分)

*本日の講義テーマ:採用内定の取消しは救済されないのだろうか?

1.具体例から(資料参照)

2.採用内定をめぐる法律関係
 1.近代労使関係の基本=「労働契約に従って働く」
      1)「労働契約」とは何か
        1.民法上の雇用契約との相違
            1)請負契約(民法 632条~642条)、委任契約(民法 643条~656条)
             2)雇用契約(民法 623条? 631条)との相違
                (イ)解約の自由と解雇制限
                (ロ)解約告知期間の長短
                (ハ)期間付与の是非
                (ニ)特別の保護規定
             3)区別の基準:労働の従属性
        2.結論
           民法上の契約=「合意」
           労働契約    =単純な労使合意ではなく、生存権保障のための「保護」
      2)「従って働く」とは何か
        1.労働契約上の労働者の義務
           1)労働力提供義務:出社すること
            2)服従義務:やれといわれた仕事をやること
              但し、富士重工事件 最三小判 昭52.12.13
            3)「職務専念義務」
              大成観光(ホテルオークラ)事件 最三小判 昭57.4.13
                 オリエンタルモーター事件 最二小判 平3.2.22(否定)
        2.労働契約上の使用者の義務
           1)賃金支払義務
           2)安全配慮義務
           3)「労働受領義務」

 2.「使用者の採用の自由」は存するのか?
     1)思想信条を理由とした不採用の場合
        A) 肯定説  vs. B) 否定説
         三菱樹脂事件 最大判 昭48.12.12
         1.憲法14条
         2.試用→契約成立→解雇には正当事由が必要
     2)国籍を理由とした不採用の場合
        日立製作所事件 横浜地判 昭49.6.19
     3)性別を理由とした不採用の場合
       最高裁判決の理由付けだと、それだけでは救済されない
       しかし、雇用機会均等法の効果

3.「内定」をめぐる法律問題
  1.法的性質
    1)各説
        A) 採用は4/1 であり、内定は採用予定候補者の通知
             →救済手段はない
        B) 採用は4/1 だが、内定は労働契約締結の予約契約
             →救済手段は、予約契約違反の損害賠償、労働者の地位は認められない
        C) 内定で労働契約の締結
             →救済手段として、労働契約違反の損害賠償、労働者としての地位確認
      2)最高裁判決
        大日本印刷事件 最二小判 昭54.7.20   (民間)
        東京都建設局事件 最一小判 昭57.5.27 (公務員)
  2. 内定の成立時期
     A) 会社の内定通知発送時(10/1)
     B) 内定通知に対して誓約書を提出した時点:従来の多数説
     C) 「内々定」
  3. 内定の契約内容
    1)契約上の権利義務
    2)効力の開始時期
        A) 効力始期付  B) 就労始期付
        電電公社近畿電通局事件 最二小判 昭55.5.30
    3)解約事由
 

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)
 

[資料]
◆採用内定取り消し大学が怒った                     93.02.27  毎日新聞
 今春就職する大学生への採用内定取り消しが相次ぐ中で、大学と企業間の対立が強まり始めた。国立大学協会(国大協)など大学団体が全国の実態調査に乗り出す一方、関西の大学の担当者で作る関西学生就職指導研究会が二十六日、内定取り消し企業名を公表する強硬手段に出た。関東の同様組織も防衛手段を検討している。三月一日には取り消しが問題になって初めて産学の関係者が顔を合わせての就職協定協議会特別委員会(事務局日経連・文部省)が開かれるが、不況下での新たな就職協定づくりが大きな課題となりそうだ。
 この日、今年度の就職内定取り消し状況を発表した関西学生就職指導研究会(会長、尾野正義・奈良大就職部長)が、研究会加盟の四年制大学四十二私立大を対象に行った調査では、五十五社から二十八校の八十一人が取り消されていた。このうち昨年十月以降に通知するなどした十四企業を公表対象とした。企業はコンピューター関連の情報処理会社が最も多く、住宅、不動産がこれに次いでいた。内定取り消しになった学生の九割は他の企業などへの就職が決まったが、残りは公務員を目指すなど就職のために留年、浪人をするという。研究会では今後、五十五社の求人は受け付けないことにした。尾野会長は「大学生の就職は神聖なもので、大学、企業、学生の信頼関係を保つためにも、内定取り消しは倫理に反する」と話している。
 首都圏の私立八十三大学の就職担当者で作る大学職業指導研究会(会長、馬場宏・早大就職部長)でも内定取り消し状況を調査中。これまでに回答を寄せた約五十大学のうち約三十大学から「内定を取り消された学生がいる」との報告があった。同研究会は三月中に、内定取り消しを行った企業名を一覧表にして各大学の就職担当者に渡し、来年度の就職ガイダンスなど学生の就職指導に活用してもらう方針。だが企業名の公表について「研究会として制裁的な公表は行わない。今後二度とこうしたことが起こらないように、という前向きな姿勢で対応したい」(馬場会長)としている。
 ◇おわび料10万円支払った企業も
 内定取り消しの理由は「諸般の事情」とする企業も。一方、都内のコンピューターソフト会社のように、大学の就職担当者に「経営が悪化し、入社してもらっても仕事がない」と説明、学生一人当たり十万円の“おわび料”を申し出て支払ったケースもあった。

◆採用内定取り消し266人に                 95.02.09  朝日新聞朝刊
 兵庫県や大阪府の企業が採用内定取り消しを計画している学生数が八日現在で、二百六十六人にのぼっていることが、労働省の調べでわかった。内訳は、大学生が三十七人、短大十七人、専修学校三十八人、高校百七十四人となっている。