2001年度 立命館大学 「労働保護法」講義

第11回「4.職場環境 A・就業規則と懲戒」

2001.12.04.  佐藤

はじめに

*本日の講義テーマ: 使用者が決めたことには必ず従わなければならないのだろうか?

1.具体的事例から(資料参照:オークマ事件)

2.就業規則をめぐる基礎知識
 1.就業規則(資料参照)
  2.就業規則の目的:秩序維持と労働条件規制
    1)秩序維持と労働条件規制との対抗関係
    2)使用者の秩序維持権限への規制(就業規則の在り方)
     1.英国・ドイツ・日本
     2.日本の就業規則の現状に対する法的規制手段
        1)現在の規制手段:作成義務、記載事項、意見聴取義務、届出義務 等
        2)不十分点   :作成義務のない事業場等、手続等、共同決定
 3.就業規則論のアウトライン
  1)狭義の秩序維持規定にとどまらず、労働条件規定も含み、事実上、就業規則にした
    がって企業が運営されている
  2)そのため就業規則に対して一方で、労働者保護の視点からの規制が必要とされ、他
    方で、その結果として労働者保護の意義をも持つものとなっている
  3)しかし、不十分であり、かつ、労働者の関与・チェックが事実上はない。
  4)そこで、そのようなものである就業規則の効力(労働者に対する拘束力)が問題と
    なってくる。しかし、現在では、根拠をどこに求めるのかについては争いがある
    ものの、結果としてはその拘束力を基本的には承認している
  5)ただし、就業規則は上のようなものであるから無制限に拘束力を認めていいのか、
    の問題がでてくる。ここにおいて、拘束力の限界性を強調する学説と、事実上は
    無制限に拘束力を承認する最高裁判決とが対立している
 4.法規定
  1)内容(89条)
    1.必要記載事項(義務的必要記載事項、相対的必要記載事項)
    2.任意記載事項
   2)作成手続(90条)→違反への罰則
    1.作成義務(89条)
    2.意見聴取義務(90条)    cf.過半数代表と共同決定
    3.届出義務(89条、90条)
    4.周知義務( 106条)
   3)効力(92条、93条)
    1.法令・労働協約が優先(92条)
    2.労働契約に対する強行的直律的効力
 
3.就業規則の不利益変更
  1.問題状況
 2.諸見解
  1)学説  (A)説:法規説
       (B)説:契約説
   ・労働者保護の趣旨によって就業規則を解さなければならないとする点では共通
  2)最高裁判所
   1)秋北バス事件    最大判  昭43.12.25
   2)御国ハイヤー事件  最二小判 昭58. 7.15
   3)タケダシステム事件 最二小判 昭58.11.25
   4)大曲市農協事件   最三小判 昭63. 2.16

4.懲戒
 1.懲戒とは何か
   1)事由:立命館大学就業規則   61条
    2)種別:                     60条
  2.懲戒が何故できるのか
   1)問題点
     イ)労働者と使用者は対等平等な契約当事者である。
          何故、一方が他方に対して秩序罰を科すことができるのか。
      ロ)非行を原因として(非行に対する刑事罰とは別に)何故に懲戒処分ができるのか
    2)考え方
      ロ)企業秩序維持の必要性
    「非行→秩序が乱れる→懲戒」なのであって、非行の故に懲戒ではない
      イ)根拠としては
      A)固有権説:所有権を根拠
        B)就業規則を根拠とする
          B)-1 契約説          B)-2 法規説
        C)否定説→契約罰で処理せよ
        D)最高裁:企業秩序違反を根拠
  3.懲戒方法
  1)比例原則
  2)平等取扱原則
    3)適正手続

[参考文献]
 本多淳亮『労働契約・就業規則論』(1981年、一粒社)

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)

[出席者]
     10/02  09   16   23   30  11/06  13   20   27  12/04  11   18   1/08
法          13   14    9   12  9  10   11  10    8
法以外      11   14   11   10   13     9   12    9    9
合計    24   28   20   22   22    19   23   19   17

[資料:オークマ事件、全て朝日新聞の記事より]

◆オークマ、定年を56歳に引き下げ 希望退職確保へ一時的措置          94.01.11
 業績悪化のため三百八十人の希望退職者を募集している工作機械大手のオークマ(本社・愛知県大口町、前田豊社長)は、退職者を目標通り確保するため、現在六十歳の定年を一時的に五十六歳に下げることで労働組合と合意し、十日、就業規則の変更届を江南労働基準監督署に提出、受理された。同社は「経営再建が軌道に乗れば、速やかに六十歳定年に戻す」としているが、年金支給年齢の引き上げが検討されるなかで、高齢者の雇用確保が大きな課題になっているだけに、波紋を広げそうだ。
 同社は昨年末までに管理職百二十人の希望退職を実施したが、工作機械の需要の落ち込みが続いているため、新たに一般社員を対象とした希望退職を決め、二月十五日を期限に募っている。また今回の定年引き下げに合わせて、五十四、五十五歳の従業員にも原則として希望退職に応じるよう求めている。定年引き下げの対象者は約百五十人、五十四、五歳の対象者は五十人で、残る約百八十人を五十四歳未満の従業員から募ることになる。
 同社の大隈労組(藤井啓介委員長)は「組合として希望退職にどう対応するかを話し合ったが、年齢という一定の基準を入れた方が、応じる方に不公平感が残らないという結論になった。再就職先の確保と、早期の六十歳定年への回復を強く求める」と話している。
 オークマの定年引き下げについて労働省は「高齢者の雇用の安定と六十歳定年の定着に、社会全体で努力していこうという時に、残念なことだ」(労働省高齢者雇用対策課)としている。また、江南労働基準監督署の岩田忠勝署長は就業規則変更の受理に当たって、六十歳定年にできるだけ早く戻すよう要望した。

◆「定年を元に戻すよう」労働省が要請 オークマから事情聴く           94.01.19
 労働省は十九日午前、定年を六十歳から五十六歳に引き下げることを決めた工作機械大手、オークマ(本社・愛知県大口町、前田豊社長)の清水明専務らを同省に呼び、これまでの経過や背景の事情などについて聴いた。清水専務は「経営状況が極めて厳しく、やむを得ずにとった措置」と説明した。これに対し、労働省はできるだけ早く定年を元に戻すことと、退職者の再就職の確保に努力してほしい、と要請した。

◆労働省の介入を永野・日経連会長が批判 オークマ定年引き下げ          94.01.27
 日経連の永野健会長は二十六日、東京のホテルで講演した際、愛知県の工作機械大手のオークマが定年年齢を五十六歳に引き下げた問題について「会社が不況でつぶれないように対策をしているのに、労働省が経営幹部を呼んで六十歳に戻すように指導をしたそうだ。これは行政の行き過ぎではないか」と述べ、労働省の対応を過剰介入だとして批判した。

◆定年引き下げの責任取り、オークマの前田社長が辞任 柏常務が昇格       94.02.18
 人員削減を進めるため定年を引き下げた工作機械大手オークマは十八日の定例取締役会で、前田豊社長の辞任と後任に柏淳郎常務を昇格させる人事を決めた。また社長とともに代表権を持つ清水明専務、鈴木太郎専務も辞任した。前田社長の辞任は経営悪化と定年引き下げの責任を取ったもの。定年引き下げの対象者を含めて五百六十人の社員が十五日に退職したことから辞任を決めた。オークマは、景気後退による受注減で九四年三月期では二期連続の赤字決算になる見通し。人員削減による経営再建を理由に三百八十人の希望退職者を募集、その人数を確保するため定年を六十歳から五十六歳に引き下げた。高年齢者を狙い撃ちにした形の強引な人員整理に社内外から批判が出ていた。