立命館大学 夏期集中講義 「ジェンダー論T(法女性学)」

労働1:採用差別

2001.09.08. 佐藤 敬二
 

はじめに
1.「法女性学」とは何か([資料]参照) 
  2.基礎的用語 1)「法」「法律」「法令」
         2)最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所
  3.「男女雇用機会均等法」についての幻想
     →法律・裁判例の現状を理解する。そこから、今後どうすべきかを考える
 *ビデオ『流れをつくる私たち 今、職場に平等を』(1997年)

1.現状
 *佐藤「重大な関心事”就職”」([資料]参照)

2.対処策と問題点
   1)国際条約:国連憲章・世界人権宣言・国際人権規約、女子(女性)差別撤廃条約
      イ)規定内容・趣旨
        ロ)適用が困難であるとの主張:国際法と国内法の適用関係
    2)憲法規定:14条「法の下の平等」、27条「勤労権」
      イ)規定内容・趣旨
      ロ)適用が困難との主張:憲法規定の適用関係  e.g.三菱樹脂事件最高裁判決
    3)労働基準法:3条「均等待遇」、4条「男女同一賃金」
      イ)規定内容・趣旨
      ロ)適用が困難であるとの主張:労働関係成立前への適用
   4)男女雇用機会均等法
        イ)立法に求められたこと
         1.判例による救済の積み重ねを明文規定にすること
            2.解釈による救済の困難な場合の救済
            3.実効的救済手段の創設
      ロ)規定内容
         1.→教育訓練・福利厚生・定年・退職・解雇:禁止規定
            2.→募集・採用・配置・昇進              :努力義務規定→禁止規定
            3.→苦情処理機関・女性少年室・機会均等調停委員会
   ハ)現実
ニ)1997年均等法改正
        1.禁止規定、調停委員会規定の改正
        2.セクハラ
            3.ポジティブ・アクション

3.今後、どうするべきなのか
   1)運動として
   2)法律問題として
      イ)集団的労働関係法→本講義では触れないが、こちらの問題の方がより本質的
       ロ)個別的労働関係法→以下
   3)主要な主張
       イ)主にフェミニストの側から
           1.禁止規定への法改定
           2.女子学生の意識改革の主張に対しては、
              差別を正当化する論理にはならない、男性との差異はない、むしろ男性の
              条件を改善するべきである
       ロ)主に使用者側から
           1.女子学生の意識改革が必要
           2.禁止規定への法改定は、使用者の採用の自由を侵害する
   4)若干の検討
      イ)の論拠は主として「平等論」。
           平等論の問題性(1):能力主義
         日本における採用慣行は能力主義ではなく職業能力のない学生を採用する
            「就職」ではなく「就社」
         能力主義が採用の局面以外にも一般化される可能性
     ロ)の論拠は主として「自由論」
           自由論の問題性:対等性の欠如
         「家族」の項のような経済的・社会的な夫婦対等、は労使関係ではあり得
                ないし、労働法は労使不平等であることを前提につくられている
        ただし、可能な形態における自由確保は重要である
  5)押えるべき点
     1.女子学生の状況改善のための実質的な権利保障が必要
       2.能力主義は、少なくとも現時点では疑問
       3.不平等を前提とした諸施策が必要
       4.使用者の自由を国家が侵害するのではない形での、合理的規制が求められる
       5.学生の自由を向上させるための施策が求められる
 

[講義受講の自己点検]
  1)趣旨:講義受講した自己点検   →項目1,2 → 成績評価に
      教員とのコミュニケーション→項目3,4
  2)方法:以下の項目について、各回講義の最後5分に、指定の用紙に記入し提出する
       *5分で記入できるためには、講義中に考えておかなければならない
  3)項目:1.講義を受講して理解の進んだ点
            2.講義を受講してわからなかった点
      3.質問
      4.自由記述
 
 
 
 

[資料]「法女性学」とは何か

1.「女性学」と「法女性学」
    イ)「女性学」の趣旨
      1)女性にかかわるさまざまな問題を羅列することが目的ではない。
      2)「女性」学の名称ではあるが、女性のみを対象とするのでもない。
     cf.男性学
      3)既存のシステムをジェンダーの視点から再構成することが目的。
          *女性「学」であって、女性「論」ではない。
    ロ)総論と各論
      1)豊富な各論の上にたった(あるいはそこから引き出された)総論でなければなら
          ないが、現状は、各論抜きの抽象論としてのジェンダー論から女性学が構成
          されてしまっている。また、各論は個別的状況の列挙・羅列に終わってる。
      2)上の状況の反映として、総論の講義も、文学や社会(観察)学といった社会の現
          実と直接格闘する学問分野ではない者によって行われることが多い。
      3)本来は、経済女性学・経営女性学・福祉女性学などが豊富に存在すべきだし、そ
          れなしに総論は語れないはず。しかし現状では、相対的に各論の充実してい
          るのは、「法女性学」だけ。
   参考文献:『21世紀のジェンダー論』(晃洋書房、1999年)
    ハ)「法女性学」の趣旨
      1)女性にかかわる法的諸問題を羅列することが目的ではない。しかし、「法女性
          学」と銘打たれている講義・書籍の多くは、単に諸問題を羅列するだけが現
          状。
      2)当然、女性のみを対象とすることはありえない。男性の問題でもある。たとえ
          ば、雇用平等の問題は男性の労働条件改善なくして実現はしない。
      3)「権利」をジェンダーの視点から再構成してみたい。

2.「法女性学」講義全体の構成
イ)構成:「1.性  (担当:吉田容子)」
         「2.家族(担当:杉本孝子)」
「3.労働(担当:佐藤敬二)」
  ロ)趣旨
   1)女性にかかわって問題となる全領域につき網羅的に講義するつもりはない。
   2)目的:これらのテーマを「素材として」学生に考えてもらいたい。
    ハ)教科書:日本弁護士連合会編『問われる女性の人権』(こうち書房)
      参考文献:池内靖子他編『21世紀のジェンダー論』(晃洋書房)
  ニ)試験方法
      1)出題形式:講義の三領域から一問づつ出題し、三問中から二問を選んで解答。
      2)解答方法:最低限の法律知識を前提とすることが必要であって、単なる随筆では
            解答にはならない。法的状況を押えた上で、自らの見解を提示する
                   ことが必要。  
   3)採点方法:講師の三人が分担して採点する。採点基準は講師間で統一している。

3.「労働」の項の構成
  イ)構成:「1.採用」、「2.昇進」、「3.生活」、「4.パート」
   1)「1」「2」が主として労働現場における問題
        「3」「4」が家庭生活の問題もあわせて考えていくべき課題
   2)「1」では関連法律の説明を行う。その限界についての理解をすることが目的
    「2」では裁判による救済の説明を行う。その現状を理解することが目的
    「3」では、男性も含めた全体についての法理を説明する。
           使用者に「家庭生活擁護義務」を課す可能性を考えてみることが目的
        「4」では、「1」「2」「3」が正社員を念頭に置いているのに対して、非正
          社員の問題を扱う。
  ロ)趣旨
   1)問題となっていることについてのテーマを選択した。
      2)最終的には、解決するためにはどうあるべきかを、上の四テーマを検討する中で
     考えていきたいと思っている。逆にいえば、解決策を考えるに際して検討す
       べきテーマについて講義テーマとして選択したとも言えるであろう。
   
4.各回の講義の構成
イ)構成:「1.現状」、「2.対処策」、「3.今後、どうするべきか」
 「受講生の自己点検」
  ロ)趣旨:講義の主眼は当然「3」にある。
   1)「現状」について
    法律は高度に抽象的議論ですが、すべて具体的で人間的な背景を有している。そ
          の現状を見ずして法律論は語れない。
    ただし、現状を述べるだけでは法女性「学」ではない。
    また、現状を「提示」するだけでは、それは「現状暴露の講演会」であって大学
     教育としての「講義」ではない。
    2)「対処策」について
    講演会でなく講義とするためには、まず、現状を切り開いて行く道筋(「義」)
     を話さなければ(「講」)ならない。
    また、それが「法」女性学であるためには「法的視点」から話すことになる。
    ただし、この段階では、まだマニュアル・レベルないしハウ・ツーのレベルで
      あって、教育としての講義ではない、法女性「学」でもない。
    3)「今後どうするべきなのか」について
    大学教育とは、現状を切り開いて行くために、「自ら」「考え」「社会的合理性
     をもって」「判断する」訓練をすることであるから、「学」とは自らこの 課
          題に格闘することである。
    教員は学生に対して講義・小集団にそれぞれ相応しい形でその手助けをするが、
     「学」については自らが格闘しなければならない。講義としては、学生は訓練
           の成果を試験の場で提示してもらうことになるし、「学」としては、我々は
           論文として見解を世に問うことになる。
    したがって、私の今回の試験問題は、各回の講義の「3」の部分がそのまま該当
     することになる。
   4)学生はその時間に考えたことについて、自己点検するとともに、不明な点は私に
         質問する。なお、言うまでなく、ここで自らが考えたことが「学んだこと」で
         あり、それが成績評価となる。

*補足:大学の講義について

*なお、講義レジュメは以下のところに置いておく。講義に出席しないと力はつかない が、
やむを得ず欠席した場合とか、レジュメを紛失した場合等には、以下を参照して勉強しても
らいたい。
   http://www.ritsumei.ac.jp/~satokei/