全体のまとめー「権利」について考える
2001.09.11. 佐藤 敬二
はじめに
1.現在の「権利」
1.「権利」とは何か
イ)定義的説明:他のものに迷惑をかけても許されること
ロ)押さえるべき点:社会的なもの
2.現行の「権利」の歴史をジェンダーの視点から読み直す
イ)近世:「人権」の不存在
つまり、支配者は被支配者に迷惑をかけても許されるが、被支配者は支配者に迷
惑をかけることは許されない。したがって、「人」であるがゆえに等しく認め
られる「権利」は存在しなかった。
ロ)近代:「経済人」的人間像
近代社会成立期のスローガンが、「人権」の承認であった。しかし、この場合の
「人」とは、損得勘定も合理的に判断できる「経済人」が念頭におかれていた。
したがって、そのような者でないものたち、たとえば「無産階級」や「女性」
は「人」とは考えられない(たとえば、ルソーの考え方)。この考え方の一つ
の現れとして、普通選挙の否認。
ハ)現代:「社会的」人間像
現代社会の中で、「人権」の内容も変容する。まず、「無産階級」の者による組
合運動などによって彼らに権利が承認されることになるが、それにあたっては、
従来の「権利」観念自体を変更する必要があった。「社会権」。女性についても、
男性と等しく権利が承認されたが、この場合には、従来の「権利」観念の変更で
はなく、男性(資本家と無産者)に対して認められていた「権利」を適用し、そ
の上で不都合な部分を修正する形で対処された。
ニ)現在:ジェンダーの視点から、「権利」観念自体の見直しが必要
2.「性」、「家族」の項で講義されたこと
性 :買春、従軍慰安婦、DV
家族:離婚、夫婦別姓
3.「労働」講義の中で指摘した点
1.第1回
イ)平等論の問題性(1):能力主義
日本における採用慣行は能力主義ではなく、職業能力のない学生を採用する
「就職」ではなく「就社」
能力主義が採用の局面以外にも一般化される可能性
ロ)自由論の問題性:対等性の欠如
「家族」の項のような経済的・社会的な夫婦対等、は労使関係ではあり得ないし、
労働法は労使不平等であることを前提につくられている
ただし、可能な形態における自由確保は重要である
ハ)押えるべき点
1)女子学生の状況改善のための実質的な権利保障が必要
2)能力主義は、少なくとも現時点では疑問
3)不平等を前提とした諸施策が必要
4)使用者の自由を国家が侵害するのではない形での、合理的規制が求められる
5)学生の自由を向上させるための施策が求められる
2.第2回
イ)平等論の問題性(2):条件を向上させることにはつながらない
ロ)「経営権」は法的には承認されないし、人事査定は国際的には使用者の専権事項で
はない。労使で集団的に協議している
ハ)押えるべき点
1)能力を向上させることを認めるような対処策が必要
2)集団的な規範設定が必須
3)行政的関与の限界と、範囲
3.第3回
イ)現状をどう見るのか:「配転」の事例から考えてみると
1)「能力向上・昇進 vs. 生活上の不利益」という構造
2)生活上の不利益をカバーするために、妻が家庭で夫の生活を支えるという構造に
3)女性が家庭に入っているのは、この構造が主たる要因
4)同様の構造は、長時間労働についても言えるし、コース制についても言える
ロ)考える方向性についての諸見解
1)平等論・能力主義
2)条件改善論:現在の構造下で「生活上の不利益」を減少させる手段をつくるべき
3)昇進を望むという価値観から生活者としての価値観へ転換すべき
4.第4回
イ)有期契約締結自体への規制をするべきとの議論
ロ)同一(価値)労働同一賃金原則の規定
4.「権利」を考える
1.女性の就業状況:労働力率、賃金
2.「平等権」vs.「使用者の自由」
3.「発達権」について
イ)集団的規範設定
典型的には、労働協約
cf.同一労働同一賃金
ロ)自己決定権
cf.パート
1.個人の自主性の保障
2.自己決定できる前提整備:情報公開 cf.採用
3.決定できる能力の養成・能力開発
ハ)決定結果について生存権(ないし生活権)保障
ニ)能動的な救済手段:事後的・金銭的仲裁ではなく
典型的には、労使で設置した仲裁機関による救済
次善策として、行政救済
ホ)法的根拠:憲法上の社会権・幸福追及権
cf.ドイツは基本法1条に明文規定。
ドイツ労働裁判所はこの視点からの裁判例を積み重ねている
とりわけ就業請求権の領域において