2001年度 立命館大学経済・経営学部  「労働法」講義

第3回「雇用管理:採用」

2001.10.10. 佐藤

はじめに
 前回のまとめ:労務管理はどこまでジェンダー・フリーか→均等法以外の法
 前回の続き :均等法→現在の争点として「昇進」差別の救済

*本日の講義テーマ:「採用内定取消はしかたないのか」

1.具体的事例から:(「資料」参照)

2.雇用管理と法
 1.要員管理(「人的資源管理論」関係の文献を参照)
  1)過程
   1.採用計画   2.募集と選考
   3.初任配属   4.人事異動
   5.雇用調整   6.定年・解雇・退職
  2)雇用形態
   1.正社員(採用→人事異動→退職)、多様な雇用形態
    2.日経連の雇用政策
 2.法関係
  1)近代労使関係の基本=「労働契約に従って働く」
      1.「労働契約」とは何か
         1.民法上の雇用契約との相違
            (イ)解約の自由と解雇制限            (ロ)解約告知期間の長短
            (ハ)期間付与の是非               (ニ)特別の保護規定
         2.結論
           民法上の契約=「合意」
           労働契約    =単純な労使合意ではなく、生存権保障のための「保護」
      2.「従って働く」とは何か
         1.労働契約上の労働者の義務
           1)労働力提供義務:出社すること
            2)服従義務:命令された仕事をやること
              但し、富士重工事件 最三小判 昭52.12.13
            3)「職務専念義務」
         2.労働契約上の使用者の義務
           1)賃金支払義務
        2)安全配慮義務
          3)「労働受領義務」
      3.法的関係
     1.採用=労働契約の成立
          2.人事異動=労働契約の変更
          3.退職=労働契約の終了
   2)「使用者の採用の自由」は存するのか?
     1.思想信条を理由とした不採用の場合
     2.国籍を理由とした不採用の場合
     3.性別を理由とした不採用の場合

3.「内定」をめぐる法律問題
  1.法的性質
    1)各説
        A) 採用は4/1 であり、内定は採用予定候補者の通知
             →救済手段はない
        B) 採用は4/1 だが、内定は労働契約締結の予約契約
             →救済手段は、予約契約違反の損害賠償、労働者の地位は認められない
        C) 内定で労働契約の締結
             →救済手段として、労働契約違反の損害賠償、労働者としての地位確認
      2)最高裁判決
        大日本印刷事件 最二小判 昭54.7.20   (民間)
        東京都建設局事件 最一小判 昭57.5.27 (公務員)
  2. 内定の成立時期
     A) 会社の内定通知発送時(10/1)
     B) 内定通知に対して誓約書を提出した時点:従来の多数説
     C) 「内々定」
  3. 内定の契約内容
    1)契約上の権利義務
    2)効力の開始時期        A) 効力始期付  B) 就労始期付
    3)解約事由

[前回講義(10月3日)での主要な質問]
*注意(再録) 全体に対して回答するべき質問のみとりあげる。
       以前に話したことには回答しない(自分で前の講義を調べること)
☆ジェンダー論に関わって
・母性本能の話で、本能というものはなく後からつけられるものであるというものに、異論を唱える学者などはいないのか。もしあれば根本的に話が進まないような気がする。
・「男は仕事、女は家庭」という考え方が1960年代に始まったとおっしゃっていたが、そういう考え方が生まれたのはなぜか。また、なぜそういう考え方が全国的に広まったのにはわけがあるのか。戦前の家長制度と何か関係があるのか。
・「男が仕事で女が家庭」という考えがなぜなかなか改善されないのか。
・若い人々の男女差別の意識はどのように変化しているのか。
☆男女平等の現状に関わって
・なぜ日本は先進国の中で一番女性差別に対する取り組みが遅れているのか。
・国連から勧告があり、勧告は改善され始めているのに、日本は悪化しているのはなぜか。法や制度を管理している人に男性が多いからか。
・他の国の格差の現実としてはどのようなものがあるか。世界の他の国での男女の賃金格差はどれくらいなのですか?日本の現状は特別おかしいのですか?
・裁判で負けた企業がその後どう是正したのか知りたかった。また是正により男の給料はどうなったのか知りたいです。また、ジェンダー・フリーが徹底された会社はどんな会社になるのだろうという疑問が湧きました。例えば、能力主義のみの会社になるのかとか。
・雇用平等が成立した今でもこの問題が発生しているのはなぜでしょうか?やはり現状においても差別はきついのですか?
・ビデオの中で取り沙汰された企業が有名だったので、ほとんどの企業でも女子差別を行っているのだろうなと思った。
☆均等法以外の法に関わって
・国際法は国連が定めているということなのか。・憲法は公法であって、国民間には適用できないというのがよくわからない。・なぜ労基法3条では「性別」に言及していないのか。
・法律で決めなくても、男女同一賃金があたりまえなのになぜそれができないのか。
☆参考:偏見(自己点検用紙に記入された差別偏見の見解を例示しておきます)
・男女均等を主張するなら、働く時間なども一緒にすべきではないのか?
・私の父は住友金属に勤めており、女性の労働問題について聞いていた。男性社員の言い分は、男性並みの所得を与えるならば、女性に男性と同じ仕事量をこなしてもらいたいということであった。そのために総合職を設けてその年に5人採用したが一人も残らなかったという。本社のほうも女性総合職の使い方をよく知らないなど何か問題があるのだろう。
・実際会社側からすれば、産休などがあり、金銭的には女性を雇い、同じ賃金を払いつづけるのは辛い。実際に国が法人税から産休時の有給分を控除したりしていないのか。しているとしても他にもいろいろ解決策はあると思う。
 今でも日本は差別のある国として位置付けられている。女性に実力がなければ仕方ないし、昇進の確率が同じでなければならないというのもおかしいが、実力はしっかり評価されるべきだ。あからさまな差別のある会社は批判されるべきだ。
・能力主義の台頭により、男女格差は解消の方向に向かってはいるが、それにより、常に労働に対して全力に近い状態を強いられることとなる。肯定的な労働より、否定的な労働へのストレスが大きい。精神不安定や過労死問題が顕著になる。最近ではリストラや失業率が問題となっているが、非正規社員の給与や待遇を考えると将来に対する大きな不安定要因があり、購買力の低下も心配される。雇用体制の見直しが必要である。
・私は男女雇用機会均等法からみれば賃金・昇格において男女平等は必要であると思う。しかし雇用の場を男女が共にするのであれば、当然男性を優位にたたせるほうが適当であると思う。ただし明らかに女性が男性よりも能力的に優れているのであればそれを尊重すべきである。だが男女ともに能力が同等であれば肉体的能力という面でも男性を尊重するのが当然であると思う。これは女性に対して無理な労働をさせるべきではないという個人的観念に基づいている。女性は保護すべきである。これは複雑な問題である。(男性意見)

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)
 
 

[資料]
◆採用内定取り消し大学が怒った                     93.02.27  毎日新聞
 今春就職する大学生への採用内定取り消しが相次ぐ中で、大学と企業間の対立が強まり始めた。国立大学協会(国大協)など大学団体が全国の実態調査に乗り出す一方、関西の大学の担当者で作る関西学生就職指導研究会が二十六日、内定取り消し企業名を公表する強硬手段に出た。関東の同様組織も防衛手段を検討している。三月一日には取り消しが問題になって初めて産学の関係者が顔を合わせての就職協定協議会特別委員会(事務局日経連・文部省)が開かれるが、不況下での新たな就職協定づくりが大きな課題となりそうだ。
 この日、今年度の就職内定取り消し状況を発表した関西学生就職指導研究会(会長、尾野正義・奈良大就職部長)が、研究会加盟の四年制大学四十二私立大を対象に行った調査では、五十五社から二十八校の八十一人が取り消されていた。このうち昨年十月以降に通知するなどした十四企業を公表対象とした。企業はコンピューター関連の情報処理会社が最も多く、住宅、不動産がこれに次いでいた。内定取り消しになった学生の九割は他の企業などへの就職が決まったが、残りは公務員を目指すなど就職のために留年、浪人をするという。研究会では今後、五十五社の求人は受け付けないことにした。尾野会長は「大学生の就職は神聖なもので、大学、企業、学生の信頼関係を保つためにも、内定取り消しは倫理に反する」と話している。
 首都圏の私立八十三大学の就職担当者で作る大学職業指導研究会(会長、馬場宏・早大就職部長)でも内定取り消し状況を調査中。これまでに回答を寄せた約五十大学のうち約三十大学から「内定を取り消された学生がいる」との報告があった。同研究会は三月中に、内定取り消しを行った企業名を一覧表にして各大学の就職担当者に渡し、来年度の就職ガイダンスなど学生の就職指導に活用してもらう方針。だが企業名の公表について「研究会として制裁的な公表は行わない。今後二度とこうしたことが起こらないように、という前向きな姿勢で対応したい」(馬場会長)としている。

◆労働省が内定取り消し100社を公表 大半が中小・零細      93.04.16  朝日新聞
 今春の卒業者に対する企業の採用内定取り消しが三月末現在で百十四社、五百九十三人にのぼることが労働省の調査で明らかになり、同省はこのうち、倒産などで事業の継続が難しく来春も採用見込みがない企業を除く百社の社名を、十五日公表した。石油危機や円高不況期など、過去にも採用内定の取り消しが社会問題化したことはあるが、労働省が取り消し企業名を公表したのは今回が初めて。公表の理由について、同省は「企業への制裁ではなく、学生への情報提供が目的」と説明、今後の取り消しを防ぐ抑止効果を期待している。しかし、大半が中小・零細企業であるうえ、公表リスト以外にも取り消しを認めている企業があることなどから、公平性や公表による企業へのダメージを心配する声もある。
 労働省が確認した内定取り消し企業百十四社のうち、従業員三百人以上の大企業は七社にとどまり、百人未満の企業が七十九社と、約七割を占めた。業種別では、不況の影響が大きかったといわれる情報サービス業が四十九社と目立ち、製造業は三十四社、卸・小売業は十二社。歯科医院や整形外科医院もあった。社名を公表されたうち上場企業は一社だけで、内定者を自宅待機としたり、試験合格者の採用時期を遅らせたりしている企業や自治体は含まれていない。一方、取り消された内定者は男女がほぼ半々。学歴別では、大学や短大、専門学校などの卒業者が三百七十人と六割以上に達し、高校卒業者は二百十六人、中学卒業者は七人だった。

◆採用内定取り消し266人に                 95.02.09  朝日新聞朝刊
 兵庫県や大阪府の企業が採用内定取り消しを計画している学生数が八日現在で、二百六十六人にのぼっていることが、労働省の調べでわかった。内訳は、大学生が三十七人、短大十七人、専修学校三十八人、高校百七十四人となっている。
 
 

勉強会のお知らせ

先週、相談した勉強会の内容は以下の通りです。
 基本的には、最初に「日本的労使関係」を勉強し、後は労働保護法の主要論点について教科書を読んでいく形で勉強する、という方針で行う。それ以外に、講義の質問は随時。
 具体的には、1回目:「日本的労使関係」、2回目:第3章「均等待遇」、3回目:第5章「採用内定」、4回目:同「配置転換」、5回目:同「解雇」、6回目:第7章「残業」、7回目:同「長期休暇」、8回目:第10章「過労死」、9回目:第12章「パート」
 必ずしも、一日で一テーマとなるとは限らない。議論状況次第。