2001年度 立命館大学経済・経営学部  「労働法」講義

第6回「就業条件管理:労働時間」

2001.10.31. 佐藤

はじめに

*本日の講義テーマ:労働者は残業を拒否することはできないのだろうか?

1.具体的実例から:日立製作所武蔵工場事件(資料参照/ビデオ)

2.日本の労働時間  Quiz.日本の労働時間はどの程度でしょう
 1.各国の労働時間と日本の長時間労働
 2.法的視点からみた長時間労働の原因
     1)法定労働時間(変形制を含め)が長い
     2)週休二日制が定着していない
     3)法定年次有給休暇が少なく取得率も低い
     4)時間外労働に歯止めがない  
     5)中小企業

3.労働時間法制
 1.原則:法定労働時間(32条)
     1)法規定
     2)「みなし労働時間制」 1.事業場外労働の場合 2.裁量労働の場合
  2.弾力化:変形労働時間制
     1)概要
     2)導入理由と現状
 3.延長:時間外労働(残業)
     1)概要
        1.労使協定があれば残業させてもよい制度
        2.労使協定(36協定)
        3.割増賃金の支払い
        4.法定労働時間を越える、変形労働時間の上限を越える場合にもあてはまる。
        5.法内超勤の場合
     2)制限
        1.労使協定(36条)、割増賃金(37条)
        2.上限:1)妊婦の場合、2)年少者の場合、3)坑内夫の場合
          以外の労働者(規定なし、基準:週15時間・月45時間・年間360時間)
     3)問題点と今後の方向性
        1.現状:サービス残業(残業の3人に1人)、ふろしき残業、ボランティア残業
        2.労働者の拒否   参考:アフターファイブの会
        3.労働組合による規制
        4.労使協定を締結しない、上限を設定する、残業する場合を明定する 等
        5.法規定:残業は例外規定、上限規定/法改正

4.残業義務の発生根拠
 1.労使協定には免責的効力のみ
 2.残業義務の発生根拠
      A)個別同意、      B)労働協約、      C)就業規則
    日立製作所武蔵工場事件 最判 平3.11.28 民集45-8-1270
     「就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に
     定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているとき
     は、当該就業規則の規定に内容が合理的なものである限り、それが具体的労働
     契約の内容をなすから、…義務を負う」

[参考文献]
 野田進・和田肇『休み方の知恵』(1991年、有斐閣)
 西谷敏『ゆとり社会の条件』(1992年、労働旬報社)
 鹿嶋敬『男の座標軸』(1993年、岩波書店)
 *日立製作所武蔵工場事件に関して
   宮原寿男『「世界の日立」に挑む』(1998年、学習の友社)
   ホーム・ページ  http://www.iijnet.or.jp/c-pro/hitachi/

[自己点検項目]
 1)講義を受講して、理解が進んだ点
  2)講義でわかりにくかった点
  3)講義に関する質問
 4)その他(自由記述)

[出席者]
   10/3   10   17   24   31  11/7 14   21   28  12/5 12   19  1/9
経済    61  54  53
経営   102  102   94
合計   163  156  147

[前回講義(10月24日)での主な質問]

☆東亜ペイント事件にかかわって
・もし、労働組合の問題が関係していなかったら、この主張は認められなかったのか。
・仮に本人にしかできない仕事であった場合、この命令に従わなければならないのか。

☆配転にかかわって
・就職する時にどの企業も勤務地の希望を聞いたりしないのか。
・労働契約を行う場合、契約書にサインすると思うのだが、その中に勤務地に関する事項は書かれていないのか。
・採用をされる側は採用時に勤務地などを明確に契約するなど実質不可能だが、それなのに会社の一方的な理由で配転が行われるというのは、被雇用者の権利を侵害するものだ。
・合意について明示的ではない場合でも、各地に支店のある会社ならば、その支店への配転を合意したことになるのかどうか?
・法的思考の3、合意の範囲外の新合意とあるが、労働者は断ることができるのか。雇用管理者は新契約を断る労働者に対して解雇をすることができるのか。合意外のことで拒否した場合に昇進に影響が出たり、不当解雇されたりはしないのでしょうか?

☆諸説にかかわって
・包括的処分権説について、最近では全国型とエリア型採用を区分しているので、権利濫用なんて全国型採用という大義名分でかき消されてしまうのではないか。
・配転で合意不明確の場合、包括的処分権説を採用すると、具体的にどういう場合に権利濫用にあたるかが一般の人にはわかりにくく、救済にあまり役に立たないのではないか。
・使用者による包括的処分権の権利濫用について、判断1?3があって、「1.業務上の必要性が存しない」という判断は使用者と労働者の見方が違う以上、判断されにくいのではないでしょうか?もし判断されるとすれば誰の判断が重視されるのか?