2.全学FDセンターの在り方



2−1 全学FDセンターがおこなうべき2つの支援
 先に、@実際直面する問題に沿ったFDが可能であり、また、AFDコミュニティ間の学び合いが可能であり、B組織へのFD義務化に対応できる型であると位置づけた、「相互研修コーディネート型FDの構造」について詳しく検討してみよう。
 相互研修コーディネート型FDでは、全学のFDセンターやFD委員会は、各部局やFDコミュニティの「自主性」を重視しつつ「組織作り」をする、という一見矛盾したミッションを遂行しなければならない。
全学のFD委員会やFDセンターによる支援は、これらの2つのミッションに対応して、2種類がある。ひとつ目は@場作り支援、いまひとつはA組織作り支援である(下図参照)。

2−2 場作り支援
 @場作り支援は、相互研修の場をつくる支援である。徳島大学全学FDの例で言うと、教育カンファレンスがあげられる。
 筆者らが徳島大学で実施してきた、授業コンサルテーション・授業研究会等やFD基礎プログラムも、授業技術の習得を目指すだけではなく、最終的には相互研修の基礎(仲間作り)をめざしているので、場作り支援のひとつであるとも考えられる。

2−3 組織作り支援
 他方、A組織作り支援には2つの支援がある。ひとつ目は各部局のFDリーダーがFDプログラムを作成することへの支援(FD実施支援)、いまひとつは、各部局のFDリーダーが一般教員のニーズを把握するさいの支援(ニーズ把握支援)である。
次に、FD実施支援について述べる。各部局は、自生型FDを多発的に行わねばならない。それらを学部単位で組織化してゆくのが各部局のFD担当者である。各部局のFD担当者は、自らの部局のFDニーズを把握し、全学的なFDセンターやFD委員会の助けを得つつ、部局に特化したFDプログラムを作成することになる。具体的には、徳島大学の「FDリーダーワークショップ」や愛媛大学の「ファカルティディベロッパー養成講座」がそれにあたる。
 相互研修コーディネート型FDにおけるFDセンターや全学FD委員会の仕事は、自生型FDを行っているコミュニティ同士が連結しあったり、相互に学び合いをする場を提供することである。重要なのは、これらの相互作用を通じて、全学的な<教育コミュニティ>をつくりあげてゆくことである。
次に、ニーズ把握支援について述べる。相互研修コーディネート型FDであったとしても、一般教員は、受動的に参加している限りでは、「トップダウン感」がある。FDセンターは「執行部の手先」と思われることもしばしばである。FDは“Faculty Development”であり、自大学・学部のことをよく知る一般教員たちでファカルティを発展させることである。一般教員も(こそ)、FD活動に参画し、望ましいFD活動を要求してゆく義務と権利がある。したがって、各部局のFDリーダーは、自らの部局のFDニーズを把握しなければならない。
 以上のように、相互研修コーディネート型FDを展開する際には、全学FDセンターの役割が非常に重要なものとなる。



2−4 組織作り支援における組織の「発達段階」
 組織作りの支援を行う場合、当然対象となる組織の状態を知らなければならない。例えばある学部のFDを支援する場合、以下のようなことを知っておかなければならない。
1.その学部にFD委員会(あるいはそれに代わるもの)は存在しているか。
2.FD委員会が存在しているとしたら、どれだけ機能しているか。具体的には、権限はどれだけあるか、実績はどれだけあるか、委員はどれだけ責任感をもっているか。
3.その学部の「FDコミュニティ」としての現状はどのようなものか。
4.その学部で自主的なFDをおこなっている集団や教育改善のキーパーソンはいるか。
5.その学部の教育上の課題は何か。
 上にあげた5.を、FD委員会やそれに準じたその学部の人たちに自らの手で解決してもらうよう支援することが、組織作り支援のFDの本質である。
そのために、どこを突破口とするか、あるいはどこから始めるかを見定めるため、全学FDセンターや委員会は1.から4.について検討しなければならない。1.2.4.についてはある程度のFD担当者や学部長などへのインタビューで明らかになってくる。3.については、彼らへのインタビュー等を総合した総合的な「雰囲気」から得ることができる。3.はFD実施の基礎となるので、以下に少し詳しく述べたい。
 ある学部なり大学が、「FDコミュニティ」としてどのような段階にあるかを考えることは重要である。例えば、「相互に話し合う」という習慣がほとんどない学部のFD委員に、急に「授業参観を実施しましょう」と提案してもとまどうであろうし、実際に授業参観の企画を行っても、人が集まらないであろう。まずはFD以前の「相互に話し合う」習慣をつくらねばなるまい。
 「FDコミュニティ」としてどのような段階があるかを精密に考えると、コミュニティを構成する様々な要素を考慮しなくてはなるまい。その中で一番重要なものは、成員間で教育に関するコミュニケーションがどれだけとれているかであろう。これを考慮すると、さしあたって大まかには以下のように、発達段階別に次のように3つの型とそれにあったFDプログラムが考えられる。

レベル1:教育に関して、フランクにホンネを話せる状態ではなかったり、議論の場がないコミュニティ。この場合、とにかく「場」をつくるところからはじめるFDプログラムが必要である。
レベル2:レベル1は乗り越えており、議論の場はあるが、問題が分からない、あるいは共有されていないコミュニティ。この場合、問題を発見し、共有するところからはじめるFDプログラムが必要である。
レベル3:レベル2は乗り越えており、問題は共有されているが、それを解決するすべを見つけようとしているコミュニティ。この場合は、問題を解決するためのFDプログラムが必要である。
 全学FDセンターは、各学部のFD委員と対話しながら、上のようなコミュニティの段階のうちどのようなレベルにあるのかを把握し、FD実施支援と、ニーズ把握支援を実施する必要があろう。