5−1 FDにおける臨床とは何か 授業コンサルテーションを事例として


徳島大学では、授業コンサルテーションは以下のようにして実施されてきた。

FD基礎プログラム参加者の授業への参観・VTR撮影・学生アンケート
 ↓
授業記録作成・学生アンケート整理
 ↓
授業研究会(発表・VTR視聴・議論)
 ↓
目的:授業の把握、授業の改善、参加者間での授業技術の共有化、相互研修風土作り

(詳細は本サイト内の授業コンサルテーションのページをごらんください)


以下では、「FDにおける臨床」ということを、授業コンサルテーション活動の実際とからめて考えてみたい。

1.授業者以外で授業研究会に来る人
・センター教員:授業研究会にはこれまで最低3名は参加。
・FDマネージャー:技術補佐員。DVD作成(どの場面を使うかは神藤が決定)、アンケート打ち込み、授業撮影、チラシ作成・発送等。
・学務係の支援。
・授業研究会へのセンター外からの参加者:授業者と同じ講座の人にお知らせ→1〜2名参加。
 「動員」はなし→あくまで自主的な参加。少人数でも、毎回初めての参加者(授業者も含め)が来ることによって、「じわじわ」とFDの共同体としての大学に。

2.コンサルテーションのツール
・参観者による授業記録:負担は大きいが、授業の構造が分かるし、他分野専攻の参加者はDVDだけでは把握しづらい面もあるので。(DVDを見るだけではわかりにくい)授業者の工夫・配慮を必ず記載する。
・学生アンケート:匿名で学生に記入させる。あった方がよい。あまりにも不真面目なコメントはカット?
 内容は「今日の授業で、学んだあるいは身に付いたと思うことをお書きください。」「この授業(第1回目から今日まで)に関して先生へのメッセージ(学ぶ上でありがたかった点、改善してほしい点、先生にお願いしたい点、質問など)をお書きください。」
・授業DVD:20分強のものを作成。
どの場面を使うか→授業記録作成によって明らかになった授業分節ごとに構成。特徴的な行動、学生の様子が入るようにする。
・シラバス、当日の授業計画:授業者に用意してもらう。

3.何をコンサルテーションするか
・授業技術(教材提示、学生理解度把握、話し方、はやさ、学生の動機づけ、学生とのコミュニケーション、重要点の強調、テスト、遅刻防止)
・授業内容(展開・難しさなど)
・困っているところ(わかりやすさと量のバランス、パワーポイント使用時間の長さ、カンニング防止、時間が余ったとき・足らないときの対処など)
・メディアなどハード面

4.コンサルテーション対象者に何が起こるか
・自分の授業をDVDで見ること→声の大きさ・速さなど気づき。 「早口だ」など。
・授業記録・授業報告→授業構成(偏り、展開など)への気づき。 「『ここは重要です』という発言が多すぎるな」など。
・学生へのアンケート→学生の理解度、学生からの授業評価を確認。
・自由討論→見落としていたこと、いろいろな視点の気づき。

5.コンサルテーションによる授業改善とは直接関係がないがより重要かもしれない「副産物」
・実践を語ること→自分の授業の「承認」、エンパワーメント。
・同講座だが異研究室の人との対話・理解。「うちの分野はまだFortranが必要」など。
・(自他の)授業を語ることがタブーでなくなる、気楽に話すように。

6.気を付けていること
・授業者の負担にならないようにする(研究に意気込んでる新任教員)。
・癒し、ケアリング、承認としての授業研究会。「自分の授業を他者が語る」ことの意味を考える。
・トップダウン感をなくす(話し方、来ていただいた授業者へのもてなし、かける言葉)。
・参観者は「いい面」を中心に語る。
・授業の面白さ・奥深さなどを共有。
・こっちの意気込み、「あなたの授業を知りたい」という気持ちを自然な形で見せる。
・FDする側が「こわい人でないこと」を示す(事前に「FD基礎プログラム」で全学FDセンタースタッフの顔を知ってもらう)。
・あえて臨床心理学で考えると、基本的にはロジャーズの来談者中心療法的な雰囲気を意識する。すなわち、無条件の肯定的関心、共感的理解といったことである。

7.最終的なおとしどころ:相互研修へ
授業研究会は、個々の課題に対して、参加者が相互に知恵を絞る形式で行われる。1名へのコンサルという形式であるが、相互研修をねらっている。
参加者一人一人が十分「自分事」として参加し、またホンネが言えるように、あえて「動員」をかけるなどの大々的な宣伝はせず、対象となる教員の周辺講座のみに働きかけるので、少人数の研究会となっている。これらを通して、最終的には、大学全体が、教育のことを気軽に語ることのできる共同体としてまさしくdevelopmentすれば、と考えている。

8.FD臨床とは
以上のように、授業コンサルテーションをおこなう中で、さまざまな「臨床的」課題と配慮の必要性が明らかになってきた。
「FD」が一般教員にとってややもすると「うっとうしいもの」になっている現状を受け止め、FD臨床研究の必要がある。