5−2 FDにおける臨床とは何か     FDする人とは?


1.はじめに
 FDする人(特に全学FDプログラムを担当する側の人をこう呼ぶことにする)は一般教員にどのように接するべきなのか、あるいは、FDセンターは他部局にどのようにふるまうべきなのか。FDする人はFD講座で「啓蒙」的になってしまうことに苦しみ、かといって「相互研修」が始まるのを待ち続けることも苦しい。
 ここでは、FD担当者が感じる、「啓蒙」 か「相互研修」かにまつわる苦しみを中心として、FD担当者の仕事にかんして考えてみたい。

2.全学FDセンターメンバーの仕事で必要な能力
 全学FDのデザインのために
  ニーズ把握、企画力、自大学に関する知識、パワーポリティックス認知、学外のFD実施者との連携・ネットワーク、学生参加FDの場合学生指導力
 集団研修の実施にために
  ファシリテーターとしての能力、(ある程度の)授業力、授業やカリキュラムに関する知識
 個別コンサルテーションの実施のために
  コンサルタント的能力、カウンセラー的能力、学内人脈
 FD研究のために
  高等教育関連知識(学問的バックグラウンド)、調査手法、自大学FDの位置づけ

3.専門性の要請
FDする人には、「教授学的知識・技能」の専門性の要請がある
・近年のFDの進化
  対象者の多様化:初任者向け、シニア向け、FDリーダー向け
  業務の内容の多様化:授業づくり、シラバスづくり、教材づくり、FD共同体づくり、FDリーダー養成
  業務の手法の多様化:個別コンサルテーション、合宿研修、講演、執筆
・任務の責任性の増大
  FD義務化への適切な対応
  認証評価への適切な対応

だが、「教授学的知識・技能」の専門性を強調しすぎると、
・現場との意識的乖離。FDは他人任せ。
・トップダウン色強くなる。
・専門家に過度の期待。「授業うまい人」「魔法の術をもっている人」。そして失望(再生会議からの教育学者排除と同じ)。
・現在のところ、資金的にも人的にも全学をきめ細かく相手できない。
・堅苦しい。楽しくフランクにFDをやりたいのに。

4.「脱専門性」の要請
しかし、FDする人には、「脱専門性」の要請もある
・FDの義務化で、すべての大学、全ての教員がFDを意識する必要。FDセンターだけではやってられない。そもそもすべての大学教員は「研究」と「教育」のプロ。
・各学部の相互研修を同僚として盛り上げる役。
・「授業のプロ・モデル」を示されても一般教員には別世界のこと。
・いろいろな専門分野の教育(文学、教育学、理学、医学、工学・・・)に対応できるFD専門家はいるか。
・教育学の「テクノロジー欠如」(教育は工学的に制御できない)。

だが、同僚性を強調しすぎると、
・授業技術を学びたいという欲求を軽視。
・結局は、一部のスーパー教員、スーパー職員のみがFDにかかわる。
・そもそも相互研修をやる風土にない部局はどうするか。

5.では、FDする人、FDセンターとは?
一概に規定できない。対象となる組織のニーズに規定される。

・「授業技術を教えてくれ」という組織:啓蒙する役
・「うちの学部でFDプログラムを実施するので助けをお願いする」という組織:ファシリテーター色が強くなる
・「他学部との学び合いをしたい」という組織:ファシリテーター役
・「うちの学部の自主的なFDを促してほしい」という組織:相互研修の中に入る役(同僚性)

というわけで、
・組織の状態を見て、「啓蒙する」と「ファシリテーターをする」と「相互研修の中に入る」の間で動くことこそが、とりあえずのFD専門家としてのあり方、と思う。
・「 啓蒙」ができない場合は、啓蒙できる人を外部から呼んでくればよい(できるにこしたことはないが)。しかし、ファシリテーターや相互研修をおこなうスキルは必要。

そして、
・最終的には「相互研修する組織」を目指すべきである。
・FDは、FD開始期においては、あるいは新任教員に対しては啓蒙で始まっても、持続するエンジンは相互研修。
・医学部なら医学部固有の問題に敏感になって学び合う組織(学部)であり続けるのも相互研修があるからこそ。

6.徳島大学で実施したFD
合宿研修型
・FD基礎プログラム(初任教員・合宿)
・FDリーダーワークショップ(FDリーダー層教員・合宿)
個別型
・授業コンサルテーション・授業研究会(初任教員に個別)
集団型
・FDラウンドテーブル(日常化に向けて)
・センター特別研究会
成果発表共有型
・FDカンファレンス(成果をまとめ発信・共有)
・「大学教育研究ジャーナル」発行(成果をまとめ発信・共有)
その他
・FDハンドブック等のeコンテンツ化
・授業研究インテリジェントラボの運営
・教育の質を向上させるための学生ワーキンググループ(目安箱等)
・FD推進ハンドブック作成ワークショップ(多様な教員コラボ)

・・・というように、啓蒙的なものもあるし、同僚性を重視するものもあるが、最後は相互研修につなげるようにしている。
 今後、全学FDは、リーダーワークショップに力を入れて、組織(FDコミュニティ)づくりを重視する方向にシフトしていく。

7.FDする人、FDセンターのありかた
 「FDする人」は「一般教員」からいろいろな注文を聞く。例えば、徳島大学でFDプログラム(淡路島における研修)を実施して感想を聞くと、「もっと系統的に授業に関する専門的知識を得たかった」という人と「教えられるという雰囲気がなくてよかった」という人に2分される。いわば、前者は啓蒙的なFDを、後者は相互研修型のFDを望んでいるのである 。
しかしながら、啓蒙か相互研修かは程度の問題であり、形式的には「啓蒙」的になされるプログラムでも、やり方によって相互研修型になるし、参加者個々人が批判力を持って臨み対話を行えば自然に相互研修型に変化する。

 あるいは、形式的には相互研修的になされるFDにおいても、「権威」がある人が話せば啓蒙になることもある。したがって内実を精査せずに一概にあるプログラムを啓蒙的だと決めるのはよくない。また、「何かを伝えること」自体を啓蒙型として排することもできない。

 しかし、FDコミュニティを育てるには、成員の要望に基づいて啓蒙的色彩が強いプログラムを行ったとしても、最終的には相互研修にもってゆくこと、相互研修を促すことが望ましい。

 自生型FDを多発的におこないつつ、それらを組織化して、全体に知らしめてゆく。
自発的FDを行っている者同士が連結しあったり、相互に学び合いをする。いわば「ローカルな相互研修」同士の相互作用をねらう。
 ある学部から「啓蒙してくれ」といわれたら啓蒙もする。
 これらを通じて最終的には相互研修ができる<FD共同体><教育共同体>をつくりあげてゆく。