3−1 個別研修から相互研修に向かうFDプログラム(授業コンサルテーション)

授業コンサルテーションとは?

a.
 授業コンサルテーションの目的
 筆者が2005年度から2007年度まで在籍した徳島大学では、全学FD推進プログラムの一環として、2005年度より「授業コンサルテーション」を実施している。筆者は立ち上げから2007年度まで担当した。授業コンサルテーションでは、合宿形式で実施した「FD基礎プログラム」(6月に実施)の受講者、すなわち徳島大学で新しく授業を持つ教員を主な対象にした企画である(2009年度より新任教員に限らず受け付けるようになった)。授業コンサルテーションでは、個々の教員の実情に沿った具体的で日常的なFDをめざしている。
 授業研究会は、個々の課題に対して、参加者が相互に知恵を絞る形式で行われる。1名へのコンサルという形式であるが、実は、ここが大事なのであるが、大学全体における相互研修型FDに接続させるることをねらっている。
 参加者一人一人が十分「自分事」として参加し、またホンネが言えるように、あえて「動員」をかけるなどの大々的な宣伝はせず、対象となる教員の周辺講座のみに働きかけるので、少人数の研究会となっている。これらを通して、最終的には、大学全体が、教育のことを気軽に語ることのできる共同体としてまさしくdevelopmentすれば、と考えたのである。




b.
 授業コンサルテーションの流れ
 次のような流れで進めた。

FD基礎プログラム参加者の授業への参観・VTR撮影・学生アンケート
 
授業記録作成・学生アンケート整理
 
授業研究会(発表・VTR視聴・議論)
 
目的:授業の把握、授業の改善、参加者間での授業技術の共有化

 まず、センター教員とFDマネージャーが、各教員の授業を参観し、簡単なメモ(授業まとまり、時間経過、特筆するべき発言や出来事)をとりつつ、授業をVTRに収める。授業終了時には、学生へのアンケート(その日の授業で何を学んだかということと、授業に関する先生へのメッセージについて)を実施する。さらに時間があれば、教員に授業に関する簡単なインタビューをおこなう。
 その後、VTRをもとに、センター教員が詳細な授業記録を作成し、それと平行して授業の主要部分の映像を編集し、DVDを作成する。授業記録は、時系列に沿って授業の展開過程(まとまり、何が話されているか、学生との相互作用、板書など)がわかるように作成した。DVDは授業の展開が分かるように、各まとまりから数分間の映像を抽出し、合計で20分強になるようまとめた。さらに、授業より数週間後、授業記録やDVD、学生アンケート結果をもとにした「授業研究会」を開催する。そこでは、様々な部局からの参加者を交えて、授業改善の知恵を出し合ったり、また授業からいろいろなことを学び合うことをめざした。



c.
 授業研究会
 授業コンサルテーションのプロセスの中で、中核となるのは授業研究会である。授業研究会は以下のような手順で進めた。所要時間は全部で1時間20分ほどである。これも昨年度と同様の手順である。

簡単な説明(授業全体のねらい/この日のねらいなど:対象者の先生より5分)
 
授業DVD視聴
 
授業参観者報告・学生アンケートから読めること(大学開放実践センター教員より5〜10分)
  
授業者解説(当日の様子/授業でうまくいっている点・お困りの点など各論:対象者の教員より5〜10分)
 
自由討論(あるいは課題討論1015分)

 徳島大学に着任した新任教員のうち、授業をもたない教員などを除き、2005年度から2007年度まで、29名の教員に対して授業コンサルテーションをおこなった。なお、授業研究会は、大学開放実践センター会議室・授業研究インテリジェントラボあるいは蔵本キャンパスの会議室でおこなった。


*授業コンサルテーションの効果について(教育心理学会で発表したものを加筆)

目的

 学士課程における
FDFaculty Development)の義務化を前に、より効果的なFDプログラムの実施が求められる。個々の教員の教育力向上を考えるなら、日常的・個別的なFDプログラムが必要である。本研究では国立A大学でっている「授業コンサルテーション」の実際と効果について検討する。コンサルテーションの目的は@対象者による自己の授業の把握、A授業の改善、B授業研究会(後述)参加者間での授業技術の共有化である。

方法

1.対象者 国立
A大学で授業を初めて担当する教員16名(文系理系とも。講師・助教授。年齢は3040代)。0506年度に実施。

2.手続き
@授業コンサルテーションの流れ:
 各教員の授業への参観・
VTR撮影・学生へのアンケート(その日の授業で何を学んだかということと、改善すべき点など授業に関する先生へのメッセージについて)→授業記録作成・学生アンケート整理・VTRをまとめDVD化→他教員も交えた授業研究会(詳細は以下)。

A授業研究会の流れ:
 簡単な説明(授業全体のねらい/この日のねらい等:対象者の教員より
5分)→授業DVD視聴→授業参観者報告・学生アンケートから読めること(筆者より10分)→授業者解説(当日の様子/授業でうまくいっている点・お困りの点など各論:対象者の教員より510分)→自由討論(あるいは課題討論。20分)。1名につき1回、計16回実施。

B研究の手続き
・授業研究会の実際(議論内容・問題解決例)を検討するため、授業研究会における発言についてテープ起こしを行った。

授業コンサルテーションの効果について検討するため、授業研究会後に年度内に授業がなかった1名を除き、対象者15名にアンケート(下表参照)を実施した(授業研究会終了後10ヶ月後に送付)。

結果と考察

@授業研究会での議論内容例:
・数学に興味を持たせる話の効果、板書のスピードと板書後の待機の時間、学生を指名したさいに答えらない場合への対処とそうならないための方法、授業進行中に授業計画の急な変更を余儀なくされた場合の対処等

・穴埋め式スライドの効果、学生の出席確認、薬学部における4年制課程と6年制課程並立の問題について等

・導入時の「トピックス」の効果、小テストをどう位置づけどうおこなうか、学生の集中を持続させる方法について等

・野外実習をどう組み入れるか、学生の集中を持続させる方法について等

・ポイントをどのように学生に伝えるか、小テストをどのようにうかについて等

A問題解決例
・コンピュータの入門授業を担当している工学部教員。多様な学科・高専の学生が参加する授業であり、学生の保持する知識や技術のばらつきが大きい。一斉に授業がしづらく、いかに効果的な教育をうかについて悩んでいる。→熟達学生とそうでない学生をグループにして教え合う形式を提案。

・微生物学の授業を担当している工学部教員。授業のテンションについてこない学生をどう授業に参加させるか→課題を出し、学生を3〜4名のグループにして発表させる。

B事後アンケートについて:
 15名中11名より返信。下表のように、各項目とも「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」への評定のみで、「どちらかといえばあてはまらない」「あてはまらない」への回答はみられなかったことから、概ね効果があると認知されたといえる。

表 事後アンケート結果(数字は人数)

A

B

授業研究会により、自分の授業について気づきがあった

11

授業研究会での議論が役に立った

授業記録(授業研究会で配布されたもの)が役に立った

授業研究会の後、授業を改善した

学生アンケートが役に立った

A: あてはまる、B:どちらかといえばあてはまる


 また、「本活動の良かったところは?」に関する自由記述例は以下のようであった。
・具体的なアドバイスをいただけるところ。
・経験豊かな先生方からのご意見を伺えた。
・授業をビデオなどを通じて客観的にみることができた。
・授業方法について、第三者から意見をいただけた。
・自分の話し方やスライドのポインターでの指示のしかたのくせがよくわかった。

 さらに、「本活動によって、ご自身の授業で気づかれたことや改善されたことは?」に関する自由記述例は以下のようであった。
・学生の方を向いている時間が思った以上に少なかった。
・やはり16回首尾一貫したシナリオが重要だと実感しました。平成18年度前期に新規講義を2科目担当しますが、反映させるつもりでおります。
・言動のクセに気づき、改善するよう努力しています。
・演習時、授業についていけない学生を前の方に集め、集中的に指導する。
・講義の前に試験問題を作る。ゆっくりわかりやすく話す。