わが国における「外国人犯罪」の問題

                                  上田  

 

はじめに──問題の所在とその性格

犯罪統計

II その意味するもの

III 問題の深刻化──わが国の犯罪集団との結びつき

IV 犯罪現象のグローバリゼーション

今後の課題──むすびにかえて

 

 

はじめに──問題の所在とその性格

200511月に広島市で小学1年生の女児が学校からの帰宅途中に殺害され,段ボール箱に入れられて見つかった事件で、逮捕された犯人は現場近くに住むペルー国籍の男であった。その後,この男が本国において女児に対する性犯罪により服役した経歴があり,また別の女児に対する犯罪の容疑で警察に追われており,過去の犯罪歴を隠して不正に入手したパスポートとビザを用いてわが国に来航していたという事実が判明するに及んで,あらためて,わが国における外国人犯罪の問題への関心が高まった。

この事件にはいくつかの特徴的な要素が関係している。だが,ここで問題としたいのは,この事件がどのような意味で「外国人犯罪」なのかである。この事件よりほぼ1年前に奈良県で起きた女児殺害事件を挙げるまでもなく,同種の犯罪はわが国で日本人によって犯されることもあり,未成熟な少年・少女に対する倒錯的な性犯罪を繰り返す者にどう対応するかという問題は,洋の東西を問わず共通するものである。あるいは,閉鎖的な日本社会に溶け込めず孤立する外国人が,日本社会への適応障害の一つの表れとして犯した,これは,犯罪として典型的なのであろうか。犯人の男は妻子を本国に残して出稼ぎに来た日本で,失職し,一人で安アパートに住んでいた。たしかに経済的に困窮していたようではあるが,しかし,別段,財産犯罪を犯したわけではないし,周辺の住民とトラブルを起こしたわけでもない。であれば,この事件には,それが「外国人犯罪」である必然性が伴っていないのではなかろうか。むしろ問題は,犯罪報道に対して「また外国人か」と言い,逆に外国人一般を潜在的な犯罪者とみなしてしまうような,われわれに根深い先入観の方にあるのではないか。

しかしその他方で,わが国ではすでに,外国人によって構成された犯罪グループの活動が確認され,入国して短期の滞在中に連続して財産犯罪を繰り返し,警察の追及を後目に国外に逃亡するような犯罪の例も多く報告されている。「外国人犯罪」一般が存在しないわけではないのである。そして,この点においてさらに深刻なのは,この「外国人犯罪」がわが国の犯罪現象の重要な一部となり,また外国人犯罪集団とわが国の犯罪組織・暴力団との連携が進む兆しが見えることである。

問題を考える上での出発点は,実態をどう認識するかにある。

 

I 犯罪統計

 わが国における最近の問題状況をよく示すとともに,当局がそれをいかに深刻なものと捉えているかを物語るものは,20052月に警察庁が公表した「平成16年の組織犯罪の情勢」[1]である。この文書はわが国の「組織犯罪」問題の重点が,今や来日外国人犯罪との関係を抜きには論じえなくなったことを示した点において,重要な意味を持っている。

 同文書にそくして,いくつかの数字を確認しておく。

2004年の来日外国人犯罪は,検挙件数(47,124件,前年比+6,509件),人員(21,842人,前年比+1,835人)ともに過去最多を記録し,3年連続で過去最多を更新した。とくに,自動車盗の検挙件数(958件,前年比+357件)は5年前の4.4倍,10年前とでは14.7倍にも増加している。その犯罪については,組織化が一層進展しており,刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の比率(69.0%,前年比+7.3ポイント)が高くなっている。とりわけ強盗と窃盗については共犯事件の比率が高く,なかでも4人以上のグループによる犯行が多くなっている。

また,来日外国人犯罪は,全国に拡散する傾向にあり,来日外国人刑法犯の地域別検挙状況の増加率は,東京でほぼ横ばいなのに対し,他の地方では大きく増加している。

来日外国人の刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の比率は15.6%(8,892人中1,392人)であるが,凶悪犯(不法滞在者の比率38.0%),知能犯(同40.9%),侵入盗(同56.1%)については不法滞在者の比率がとくに高くなっているなど,国民に不安を与える重大な犯罪について,不法滞在者の占める割合が高くなっており,その対策は,治安上喫緊の課題となっている。不法滞在については,これを助長する各種の犯罪インフラとも言える存在があり,これに係る対策が極めて重要である。来日外国人犯罪の検挙状況を国籍・地域別にみると,中国(台湾,香港等を除く)が検挙件数(16,946件,来日外国人総検挙件数の36.0%),人員(9,257人,来日外国人総検挙人員の42.4%)ともに依然として高い比率を占めている,と警察庁は指摘している。

 そして,近年の特徴は,来日外国人犯罪組織の成立とその活動の活発化,それらと国際的な犯罪組織およびわが国の暴力団との連携の強化が見られることである。

同じく警察庁の報告では,わが国においては,中国人の強盗,窃盗,クレジットカード犯罪等グループ,コロンビア人窃盗グループ,イラン人薬物密売組織等の来日外国人犯罪組織が,不法就労助長事案,旅券,外国人登録証明書その他の各種証明書の偽造事案,偽装結婚事案,地下銀行,無資格医療行為(地下診療所)といった不法滞在助長のための様

々な犯罪インフラを悪用しつつ,定着化して様々な犯罪を敢行している。また,国際的な密航請負組織である「蛇頭」,海産物や盗難車の密輸等に係るロシア人犯罪組織,韓国人すりグループ,香港三合会,台湾人犯罪組織,マレーシア人カード偽造グループ等の海外に本拠を置く犯罪組織の国際的な犯罪活動も重大な問題となっている。そして,これら犯罪組織の間においては,暴力団と国際犯罪組織とが相互に役割分担をしつつ各種の犯罪を敢行する例,来日外国人犯罪組織の活動を容認する代わりに暴力団がみかじめ料等を徴収する例等,暴力団と国際犯罪組織とが連携しつつ共存していこうとする状況がみられるほか,相互に対立する状況もみられる,としている。

 

 しかし,報告される以上のような事実,とりわけ統計的な数値を根拠としての「来日外国人犯罪の激増」論にはかなりの疑問がともなう。

 まず,ここでは検挙件数と検挙人員の二つの指標を使い,その増加を「来日外国人」犯罪の増加の証拠であるかに説明しているが,この二つの指標は警察活動の結果を表すものに過ぎず,実際の犯罪の増加を表すものではない。一般的にはより実態に近い数字として認知件数があるが,犯罪の認知段階ではそれが外国人によるものか否かは明らかでないため,検挙段階での数字を使わなくてはならないのであるが,しかし,そうであるかぎりは,実際に増えたのは犯罪なのか検挙なのかが常に疑問とされるべきである。

そして,2003年と比べての2004年の「来日外国人」の検挙件数・検挙人員の増加は,主として入管難民認定法違反などの特別法犯の増加によるものである。刑法犯での検挙人員は8,892人にとどまり,これは前年2003年の8,725人の1.9%増しに過ぎない。もちろん,後に見るように,個々の事例には懸念を誘う深刻なものも多く,とりわけわが国の組織的犯罪集団である暴力団との連携の進行をうかがわせるさまざまな指標には緊張せざるをえないのであるが,それでも,この数字から「来日外国人犯罪の激増」という結論を導くことは不可解といわねばならない。

 

 今日の外国人犯罪の一つの特徴はその凶悪化にあるといわれる。

 前提的に確認しておくと,全般的状況でにつき警察庁の報告するところでは,2004年中の来日外国人による犯罪(刑法犯および特別法犯)の検挙件数,検挙人員は47,128件(前年比6,513件(16.0%)増),21,842人(前年比 1,835人(9.2%)増)で,過去10年間で,総検挙件数,総検挙人員はそれぞれ1.9倍,1.8 倍,刑法犯検挙件数,検挙人員はそれぞれ1.9倍,1.4倍,特別法犯検挙件数,検挙人員はそれぞれ2.1倍,2.4倍に増加した[2]。そのとき,来日外国人による凶悪犯[3]の検挙件数,検挙人員は,345件(前年比9(0.0%)増),421人(前年比56人(0.1%)減)であり,過去10年間でそれぞれ2.0倍,2.1倍に増加した,とされている。
 罪種別にみると,強盗の検挙件数は,過去10年間で2.6倍に増加し,2004年中は凶悪犯総検挙数の大半(78.0%)を占めている。また,一つの特徴として,強盗検挙件数に占める侵入強盗の割合は被疑者が日本人の場合は38.4%であるのに対し,被疑者が来日外国人の場合は,全体の57.2%と高率である。

 

  来日外国人凶悪犯検挙状況の推移(19952004年)

           年次
区分

95

96

97

98

99

00

01

02

03

04

殺人検挙件数(件)

36

53

69

52

41

44

45

34

37

40

強盗検挙件数

104

84

87

130

195

164

219

247

255

269

放火検挙件数

21

7

14

3

12

6

10

7

13

10

強姦検挙件数

15

18

17

43

19

28

34

35

31

26

凶悪犯総検挙人員()

201

212

213

251

347

318

403

353

477

421

                                                  2005年版『警察白書』より)

 マスメディアによって伝えられる来日外国人の犯罪にはセンセーショナルな,きわめて凄惨な暴力をともなうもの,凶悪なものが少なくない[4]

 このような凶悪犯については,その犯人としては,来日外国人一般ではなく「不法滞在者」[5]が多いということにも留意する必要があろう。

 2004年中の来日外国人刑法犯の検挙人員は8,898人で,このうち不法滞在者は1,393人と全体の15.7%にとどまる。ところが,知能犯では41.0%564人中231人),凶悪犯では38.0% 421人中160人)が不法滞在者によるものである。さらに国民に不安感を与える身近な犯罪についてみると,侵入強盗は半数近くが,侵入窃盗は56%以上 が,侵入窃盗で住居を対象としたものは約60%が,不法滞在者によるものである。

 

来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の割合(2004年)

 

不法滞在者

正規滞在者

全刑法犯(8,898)

15.7%

84.3%

 

日本人を含む刑法犯全検挙人員(389,297)2.3

 

 

 

 

 

 

侵入強盗(201)

46.8%

53.2%

 

日本人を含む侵入強盗検挙人員に関するデータは参照できない

 

 

 

 

 

 

侵入窃盗犯(565)

56.1%

43.9%

 

日本人を含む侵入窃盗全検挙人員(13,548)4.2

 

 

 

 

 

 

 

 

うち住居対象侵入窃盗346)

 

59.5%

40.5%

 

 

 

日本人を含む住居対象侵入窃盗全検挙人員(5,209)6.6

 

 

 

 

 

 

 

 

II その意味するもの

 「外国人犯罪の増加」は,ある意味において当然の,わが国の社会の全般的な国際化の一面である。グローバリゼーションが意味するものが単に人々の国境を越えての移動の拡大ではなく,多国籍企業をはじめとする強力なアクターの経済活動とそれにともなう商品と資本,情報の激しい移動,そして結果としての富の集中の世界的規模での進行である以上,各レベルでの社会集団内にさまざまなフラストレーションがもたらされ,犯罪を含む社会問題が噴出することは必然である。世界的に見たときの,東西の冷戦構造の消滅後にあらわとなった「南」に対する「北」の収奪,富と職とを求めての南から北への人々の流入といった現象が,わが国の場合,東南アジアや中国からの人々の流れとなって表れているのである。そのとき,わが国の入国管理政策がきわめて厳格であり,基本的には労働目的での入国を認めていないため,「興行」,「就学」,「研修」などの名目で入国し,実際には「ホステス」,「飲食店でのアルバイト」,「3K職場での労働」などの職につき,短期間でできるかぎりの収入を得ようとする。それ自体が特別法(出入国管理法)違反であるが,不安定な立場で手っ取り早く現金収入を得ようとして,「売春」,「薬物」,「密輸」といった犯罪に,あるいは強窃盗行為等に踏み出す例が少なくない。

 東京,大阪といった大都市の一定地域に,不安定な居住形態と職種を特徴とする外国人が多く所在し,ときに犯罪に関連して彼らの存在が問題とされる,といった現象はかなり以前からあったことである。近年の特徴は,そのような現象が大都市の周辺部へ,地方都市へと溢れ出しつつあることである。

今日の「外国人犯罪の問題」の背後にあるのはまさにこのことである。先に見たとおり,統計上,刑法犯での外国人の検挙人員は増加しているが,それ以上に,多くの市民にとって身近な場所で,それらの犯罪を見たりかかわりあったりする機会が増えたことが重要な意味を持っている。

 警察庁の報告にしたがって,1995年以降10年間の来日外国人による刑法犯検挙件数の増加率を発生地域別にみると,全国平均の増加率が186.4%である中で,東京都(警視庁管内)の増加率は ほぼ横ばい(98.7%),東北・近畿・四国・九州といった地方の増加率は平均値以下であるのに対し,北海道,東京以外の関東地方,中部地方,中国地方の増加率はいずれも平均値を上回っており,来日外国人による犯罪の発生が,首都圏での集中発生に始まって全国に拡散を続けていることがうかがわれる(下表)。

 来日外国人刑法犯の発生地域別検挙件数の推移(19952004)

   年次  
地域

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

10年間の
増減率()

 

北海道

69

74

82

102

209

145

213

166

195

163

236.2

 

東北

464

598

428

624

778

430

587

517

710

666

143.5

 

東京都

4,997

4,626

6,269

4,624

4,407

4,656

3,932

4,025

5,030

4,930

98.7

 

関東

5,915

7,094

9,869

10,020

9,501

7,050

5,928

5,793

7,456

14,317

242.0

 

中部

2,644

2,286

2,147

3,473

5,853

3,908

3,540

10,265

9,682

7,194

272.1

 

近畿

1,911

3,897

1,802

1,661

2,510

2,659

2,119

2,377

2,304

2,869

150.1

 

中国

301

510

365

312

640

1,472

435

461

648

863

286.7

 

四国

299

86

113

249

633

996

478

151

542

408

136.5

 

九州

613

342

595

624

604

1,631

967

503

691

677

110.4

全 国 

17,213

19,513

21,670

21,689

25,135

22,947

18,199

24,258

27,258

32,087

186.4

注1:増減率は、2004年の検挙件数を1995年の検挙件数で除したもの

 2:関東に東京都は含まない

 

 

 

 

 

 東京や大阪といった巨大都市だけでなく,地方都市にも外国人犯罪があふれ出したことに加えて,その犯罪の種類も,かつてのような密輸,薬物,売春といった,いわゆる「盛り場」での犯罪から,強盗・窃盗を中心とする「一般市民に対する犯罪」へと変化してきたことが重要である。しかも,強盗・窃盗とも,犯人が日本人の場合には少ない住居侵入型の犯罪が多いことを特徴としている(既述)。結果として,外国人犯罪は多くの市民にとって身近な問題となったのである。

 

だが,ここにはそれ以上の問題が含まれている。つまり,犯罪・犯罪者一般ではなく,外国人犯罪・外国人犯罪者の増加を際立たせ,深刻な問題として捉え,伝え,論議することの背後には,わが国に居る外国人を潜在的な犯罪者と見る,非合理な偏見が潜んでいるのではないかということである。一部のテレビ番組,週刊誌などマスメディアの対応にその表れを見ることができるが,とくに目立つのはインターネット上の掲示板などに匿名で記載される情報・意見である。

 もちろん,ここに表出している露骨な差別感情と不健康な排外主義的気分は一部の市民のそれであり,決してわが国の一般的な世論ではない。おそらくは,長期にわたる日本経済の低迷の一方での中国経済の発展,製造拠点の海外移転と失職,働き口の不足と雇用不安,それらに加えて,解決のめどの見えない「日本人拉致問題」,わが国の首相や閣僚等の「靖国参拝」問題とそれに対する中国・韓国などの抗議,竹島および尖閣諸島といった領土問題など,さまざまな要素がここには関係しているのであろう。

 

わが国における外国人犯罪の問題は,歴史的には在日朝鮮人の犯罪という問題であった。そしてここでは,戦前までの,問題の差別的取り扱いとは打って変わっての,戦後長い間にわたっての,腫れ物に触るかのような対応,つまりは正面からの研究の回避という現象が続いてきたのである。

 しかし,たとえば河合幹雄は最近,わが国における「安全神話の崩壊」とのかかわりで,犯罪現象の具体的な把握のためには在日朝鮮人や被差別部落出身者の犯罪についても正確に認識すべきであると指摘している。彼はさらに,その基礎となる統計データは存在しないが,いくつかの資料を基礎に,犯罪者(および潜在的犯罪者集団としての暴力団の構成員)の中には多数の在日朝鮮人や被差別部落出身者が居ることが推定される,とも書いている[6]。(この後者の点については,ここで併せて扱うには大きすぎる問題であるので,とりあえずは在日朝鮮人の犯罪に限って,以下では論じる。)      

 この問題に関するわが国の研究は,事実上,戦前期の状況を対象としたものしか存在しない。たとえば,新井育三や三木今二はその研究報告[7]において,日本国内に在住する朝鮮人の犯罪被疑者率および受刑者率が一般日本人のそれの5.6倍および13倍などといったデータを挙げ,当時日本に移住してきた朝鮮人の多くが南朝鮮の下層無教育の農民であったことなどを指摘して,この高い犯罪性を説明していた。これに対しては橋正巳が戦後,その論文において,上記のような犯罪統計に内地在住の朝鮮人の男女比,年齢構成,職業別人口構成による補正を加えた結果,「朝鮮人の内地移民が始った大正初年から,今次の戦争直前の昭和15年にいたるまでの約30年間を通じて,その間の1年をとってみても朝鮮人の犯罪は,これと同年齢・同体性・同職業・同一境遇にある日本人と比較して,いささかも高率ではなく」,「朝鮮人を特に犯罪的な民族であると見ることは誤りである」と結論付けた[8]ことで,この問題には決着がつけられていると考えるべきであろう。宮内裕は1956年の教科書で,これを「朝鮮人の犯罪性に対して正しい説明を示している」と評価した[9][10]

 しかし,この「(在日)朝鮮人の犯罪」も徐々にではあるがその重要性を失い,歴史上のエピソードへと確実に変わりつつある[11]。一方では在日朝鮮人にかかわるさまざまな条件の変動によって,そして他方では,今日のわが国における圧倒的な中国の存在感──政治,経済,そして犯罪の領域での──によって。

 

 先述のとおり,わが国には「外国人犯罪」の水準を計るための公的な統計資料が存在しない。単純な事実としての外国人検挙人員の増加や刑事施設に収容されている外国人の増加を示す資料はあるが,その他方においてわが国における全般的な犯罪増加を示す資料も存在する。では,たとえば,「外国人」の犯罪率を計るための分母は一体何なのであろうか。そもそも,わが国に「外国人が増えた」ということは,どのような数字によって裏付けられるであろうか。

 わが国に滞在する外国人は原則として入国後90日以内に「外国人登録」を行うことを義務付けられているが,法務省の報告する2004年末現在の外国人登録者数は1973,747人にのぼる。この10年間で45%の増加で,もちろん過去最高であるが,この数字はわが国の総人口の1.55%にあたる。しかし,この中には,

<1> 固有の歴史的理由その他によってわが国に定住している外国人(「特別永住者」や永住者およびその家族788,000人)や,

<2> 日本人の配偶者(257,292人)が含まれていることに留意されるべきである。

他方,「外国人登録」をした者だけが外国人ではなく,それ以外に,

<3> 観光客や商用での来日者で短期間の滞在しかしない者(新規入国者5508,926(2004)のうち外国人登録を行わなかった者,入国目的別分類「短期滞在」にあたる者とすれば約514万人),

<4> 日本に寄港した外国船舶の乗員・乗客などを中心とする「特例上陸者」(2004年の場合208万人),そして

<5> 不法滞在者(わが国における滞在資格が失効後も残留している者約21万人(20051月現在)および密入国者(実態は不明)がいる。

このような状況を前提に考えてみると,検挙人員中の外国人区分としてとくに重視されている「来日外国人」に対応する母数としては,さしあたり,「外国人登録」者数を出発点に,それから上の<1> および<2> を差し引き,<3> <4> <5> を加えたものを想定することが正しいように思われる。しかし,それらのうち<3> <4> はいずれもきわめて短期間しかわが国に滞在しなかった者であり,それをそのまま「日本社会に外国人が増えた」ということの基礎とはできないであろうし,また,「密入国者」にいたっては,その数も存在の実態も不明のままである。

 さらに,来日外国人の犯罪を考える際には,上記のどのカテゴリーに属するものであれ,その年齢構成において,明らかに,青壮年を中心とした活動的な年齢層の比重が高いものと想定されること,短期滞在者の一定数が違法な低賃金労働やホステス等,不安定な職種に従事していることなども考慮しなくてはならないであろう。

 

 結局,具体的な範囲,その数量,また質をもって「来日外国人」の総体を捉えることは,きわめて困難といわざるをえない。まして,それを何らかの意味ある母数として外国人犯罪の「率」の高さを論じることなど,およそ無意味である。警察庁が作成した2004年までの10年間の「外国人入国者数及び来日外国人検挙状況の推移」を示す図表[参照]は,したがって,実質的には何も物語ってはいない。

 

[参考] 外国人入国者数及び来日外国人検挙状況の推移(19952004年:警察庁)

 

 

III 問題の深刻化──わが国の犯罪集団との結びつき

 しかし,だからといってわが国における今日の外国人犯罪が仮象問題に過ぎないと主張するものではない。そこには明らかに危険な要素が含まれ,急速に拡大していると考えられる。来日外国人犯罪の組織化,それとわが国の犯罪組織との連携の進行──これこそが深刻な問題としてわれわれに突きつけられているのである。

 まず,来日外国人犯罪組織等の動向について,2004年版・2005年版の『警察白書』は,近年,外国に本拠を置く国際犯罪組織がわが国に進出したり,国内に居住する不法滞在者等が犯罪組織を形成したりする事例がみられることに注意を喚起している。

具体的に,刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合をみると,2004年の場合,日本人では19.0%であるのに対し,来日外国人では69.0%,しかも刑法犯の共犯事件の検挙件数を共犯者数別にみたときには,日本人では2人組が65.8%を占めるのに対し,来日外国人では2人組は29.0%に過ぎず, 3人組が31.9%4人組以上が39.1%となっていた。このように,来日外国人は日本人に比べ多人数で犯罪を行う傾向が強く,ここからも組織化の進展がうかがわれる,と『警察白書』は指摘している。そして,具体的な事例[12]をあげて,日本国内の不法滞在者等が,より効率的な利益の獲得等を目的として,国籍や出身地等の別によりグループ化し,悪質かつ組織的な犯罪を引き起こすことが目立つとも報告している。

 これに対して,外国に本拠を置く国際犯罪組織について『警察白書』は,中国での密航の勧誘,引率,搬送,船舶や偽造旅券の調達,日本での密航者の受け入れ,隠匿を行うなど,国境を越えて暗躍している国際的な密航請負組織である「蛇頭」[13],盗難車の密輸出事件やロシア人女性の売春事件の実質的な組織者であるロシア人犯罪組織,集団すり事件で摘発例のある韓国人グループなど,近年は外国に本拠を置く国際犯罪組織がわが国で活動する例も多くみられる,としている。

 この点に関しては,20052月に警察庁組織犯罪対策部が発表した『平成16年の組織犯罪の情勢』[14]がより詳しく,具体的に述べている。

 先にも触れたとおり,同報告の基本的な認識は,「我が国においては,中国人の強盗,窃盗,クレジットカード犯罪等グループ,コロンビア人窃盗グループ,イラン人薬物密売組織等の来日外国人犯罪組織が,不法就労助長事案,旅券,外国人登録証明書その他の各種証明書の偽造事案,偽装結婚事案,地下銀行,無資格医療行為(地下診療所)といった不法滞在助長のための様々な犯罪インフラを悪用しつつ,定着化して様々な犯罪を敢行している。また,国際的な密航請負組織である「蛇頭」,海産物や盗難車の密輸等に係るロシア人犯罪組織,韓国人すりグループ,香港三合会,台湾人犯罪組織,マレーシア人カード偽造グループ等の海外に本拠を置く犯罪組織の国際的な犯罪活動も重大な問題となっている。しかも,これら犯罪組織の間においては,暴力団と国際犯罪組織とが相互に役割分担をしつつ各種の犯罪を敢行する例,来日外国人犯罪組織の活動を容認する代わりに暴力団がみかじめ料等を徴収する例等,暴力団と国際犯罪組織とが連携しつつ共存していこうとする状況がみられるほか,相互に対立する状況もみられるところである。」というものである。

 そして,暴力団構成員等と来日外国人犯罪者等との連携等の実態については,個人のレベルのものもあるが,暴力団と来日外国人犯罪組織のそれぞれの内部でも役割分担が行われて,組織と組織が連携しているといえる態様のものもある,と指摘している。暴力団の資金獲得活動の多様化・不透明化の動向,来日外国人犯罪組織のわが国における様々な活動の進展の動向等を背景に,暴力団と来日外国人犯罪組織とが,今後,組織と組織としての連携をより一層深めていくおそれもある,というのである。

 たとえば,強・窃盗を敢行するにあたって,暴力団構成員等は,広範な情報網と人的ネットワークを有しており,土地鑑もあることから,狙いやすい資産家についての情報を収集したり,犯行に必要な拠点,道具,車両(運転手)等を手配する役割を担い,他方,来日外国人犯罪者は,危険な犯行を厭わず実行行為を行い,また自動車盗の場合のように海外に販路を確保して海外に盗品を流す役割を担うなど,暴力団構成員等と来日外国人犯罪者とは,お互いの犯罪遂行上の利点を活かしあい,弱点を補完しあって連携している関係にある。その具体例としては,20027月から,17県において26件(被害総額約62,000万円)発生した資産家を対象とした緊縛強盗事件に,山口組傘下組織の構成員と中国人グループが結託して犯行に及んでいたことが判明し,20042月までに山口組傘下組織構成員および中国人ら24人が検挙されたものがある。この事例では,日本側メンバーが各地の暴力団関係者から会社経営者等の資産家に関する情報を入手した上,その情報に基づき,犯行対象となる者の行動を確認するなど下見を実施し,さらに,日本人運転手の手配,金庫開錠用具の準備等を行い,中国人被疑者は強盗の実行行為のみを行っていた。ここに典型的に見られるように,わが国での生活基盤のない来日外国人は,地理不案内の上,自分で犯行拠点を確保できず,犯行対象に関する情報もないことから,犯行にあたっては必然的に暴力団関係者等日本人の協力者を捜すこととなり,他方,わが国の暴力団等の犯罪組織からすれば,手荒な犯行をためらわずに実行し,犯行後は速やかに国外への逃走が可能な来日外国人グループは,きわめて好都合な提携相手である。

また自動車盗事案にみられた暴力団構成員等と来日外国人との連携実態を示す事例としては,20044月,小樽港に停泊中の貨物船船倉から盗難車13両を発見,当該貨物船の船主である貿易会社社長のロシア人のほか,ロシア人船長等を関税法違反で検挙するとともに,当該盗難車を窃取し港まで運搬した山口組傘下組織構成員らを検挙した事例がある。この貿易会社社長のロシア人はロシア・マフィアとのつながりがあるとみられ,また,本事例では,ロシア人が山口組傘下組織構成員に盗難車両の入手を依頼していたほか,別の船舶にはロシア・マフィア関係者である盗難車両の買い付け役が乗組員として乗り組んでおり,この買い付け役が個別に暴力団関係者とみられる者と交渉していた実態も確認されるなど,盗難車の調達には複数のルートがあるとみられている。

より深刻なのは, 薬物の密輸・密売事件における国外の犯罪組織,来日外国人犯罪グループとわが国の暴力団との連携の進展である。

国内で乱用されている薬物のほとんど全ては海外から密輸されているものであるが,薬物をわが国に送り出すのは台湾,香港等に拠点を置く海外の密輸組織であり,暴力団はそれを輸入してから末端の乱用者に渡るまでの流通過程を担っており,両者の結託によってはじめて薬物犯罪が成立する。当然,薬物の密輸にあたっては,海外の密輸組織と暴力団とは,それぞれ組織的に役割分担を定め,取引する薬物の品質,取引価格,取引日時,代金支払方法等について交渉をしているものと見られている。そのような国外の犯罪組織との連携関係に加えて,近年では,国内にすでに形成されているイラン人薬物密売組織が,暴力団から薬物を仕入れたり,暴力団に場所代を支払ったりなどして乱用者への犯罪を行うといった連携・共存の形態もあらわれている。

 密入国および人身売買にかかわっての,暴力団と国外の犯罪組織との連携も広く進められている。警察庁による先の報告によれば,わが国の暴力団が一定額の報酬を与えて夫役の男性を仕立て上げて外国人女性と結婚したかに装い,その女性がわが国の在留資格を得て合法・非合法の営業活動を行ったり,外国の犯罪組織のための手引きをつとめるなどの事例がある。人身取引についても,わが国における売春や性的サービスに従事させる目的で,女性をだましたり脅したりして集め,送り出す外国の犯罪組織と,これを受け入れ,全国の売春組織や風俗営業店などに送り届け,その稼動を管理する役割の暴力団との連携はきわめて密接である。暴力団構成員等は,売春や性風俗店を直営し,あるいはこれら営業を営む者からみかじめ料,用心棒料等として収益を得るなどして,これらの営業と接点を持つ場合が多いことはよく知られているが,彼らにとって外国人女性を手配する海外の犯罪組織と緊密な関係を築くことは,大きな収益を得るための,確実なアプローチなのである[15]

 以上のとおり,わが国の犯罪組織である暴力団にとって海外の犯罪組織との連携は,その犯罪的収益を確保する上で重要な要素であり,その拡大への志向は必然的なものであるといえよう。犯罪組織の国際化がそのように進行することによって,また,警察機構を中心とするそれとの闘争は困難を来たすこととなる──外国の警察機構との情報交換と捜査協力は言語の問題と煩雑な事務手続きに阻害され,犯罪の全体像を把握できず,犯罪者の身柄の確保と証拠の収集にも手間取ることが予想されるのである。

 

IV 犯罪現象のグローバリゼーション

わが国における外国人犯罪の問題は,わが国の暴力団等の犯罪組織の外国の犯罪組織との連携の強化と,その国際的なレベルでの活動の拡大だけに,収斂するものではない。むしろ,犯罪現象の全体が今や個々の国家の枠に収まりきらない性格の問題へと広がりつつあるのではないか,ということを示唆する点においてこそ重要なのである。

今日のグローバル化した世界では,「人,金,物,そして情報」の激しい移動とともに,犯罪現象もまた容易に国境を越えている。ここでは,犯罪者や犯罪資金ないし薬物・盗品等の国際移動あるいは密輸といった古典的な問題から,重点は明らかに国際的規模を持った組織犯罪へと移りつつある。その意味では,本稿に見たような,わが国における来日外国人犯罪の増加(検挙件数・人員の増加)は単なる表層に過ぎず,問題の本質はわが国の犯罪組織と国外のそれとの連携に,さらには,犯罪組織の「多国籍企業化」の兆しにこそあると言わねばならないであろう。

国際組織犯罪は,市民社会の安全,法の支配,市場経済を破壊するものであり,国際社会が一致して対処すべき問題であり,それに有効に対処するためには,各国の刑事司法,法執行制度を強化すると共に,国際的な司法・法執行機関の協力の促進によって法の抜け穴をなくし,またしばしば司法・法執行制度の弱体な国が国際的な犯罪組織の拠点として利用されるところから,途上国の弱体な刑事司法制度を強化するための支援が必要である,として1990年代半ば以降,西側先進諸国はこの面での共同態勢を発展させてきた。95年のハリファックス・サミットにおいて設けられた国際組織犯罪対策上級専門家グループ(「リヨン・グループ」)は毎年のサミットにおいて先進諸国首脳に対し国際組織犯罪に関する報告を行っており,98年のバーミンガム・サミットでは国際組織犯罪が首脳会合の主要議題の一つとなった。事態が一挙に緊迫するに至ったのは,アメリカにおけるイスラム原理主義者のテロ活動の拡大が注目され始めてからである。その詳細にここでは触れるゆとりがないが,932月の爆破テロを辛うじてしのいだ世界貿易センター・ビルが2001911日,ハイジャックされた2機の旅客機の突入により破壊され,炎の中に崩落した事件がもたらした衝撃ははかりしれない。世界経済の中心と目されていたニューヨークでのテロ攻撃の詳細が圧倒的なテレビ映像を伴って世界的に伝えられ,それに引き続いたアフガニスタンへのアメリカの「報復」攻撃は当然視され,それに対する批判の動きは微々たるものとなった。その後も世界中でテロ事件の連鎖は絶えず,それに対抗してのアメリカを中心とする武力による鎮圧行動もまた続いている[16]

このような経過を見るとき,「国際組織犯罪」の概念は際限もなく膨張させられ,そしてその分だけ実体の無いものになってしまったのではないかという思いを,誰しも抱くであろう。薬物や武器の密輸出入ならびに人身売買といった古典的な国際組織犯罪と,宗教的民族的背景を持った原理主義者のテロ行為とはその性格の基本において異なり,それらを意識的に混同することこそが欧米の一部指導部による謀略なのだ,との批判には相当の説得力がある。しかし,ときに原理主義集団は資金源として薬物取引を組織し,また民族的,政治的その他の背景を持ったテロ集団が,一応は民主的原則に従って成立した政府の要人や警察官,一般市民に対する個人的な殺傷行為を企てることによって,これら両者の境界が曖昧なものとなっていることもまた事実である。ごく当たり前の市民の,生命と健康,安全,財産といったものが,侵害の対象となっている。したがって,この後者の諸犯罪──犯罪組織による薬物・武器の密輸出入,人身売買,マネー・ロンダリング,そして特定の個人や団体を狙っての放火・爆破や殺人等の解明とそれへの有効な対応手段の開発自体は,わが国の犯罪対策においても重要な課題となりうるであろう。

その際に重要なことは,国際組織犯罪もテロ犯罪も特殊扱いをせず,一般刑法犯と同じ基準に従って対処するということである。すなわち,市民と社会に具体的な被害もしくはその危険をもたらす行為だけが問題なのであり,責任ある者に対しては刑事法の基本原則に従い裁判による処罰が差し向けられる,ということである。逆に言えば,そのような,通常の犯罪と同様に対処できるものだけが国際組織「犯罪」とされるべきなのである。

 

今後の課題──むすびにかえて

 外国人犯罪は本当に増加しているのか。そのような問いかけ自体,今日の日本では奇異の眼差しをもって迎えられるであろうが,本稿においても見たとおり,そのことを客観的な事実として示す資料も,評価するための指標も,実際には存在しない。「凶悪犯」に分類される4犯罪中で顕著に増加しているのは強盗罪だけであるが,この間,日本人の強盗も増えているのである(1995年から2004年までの10年間に検挙件数で約1.9倍,検挙人員で約2倍)。これに加えて,来日外国人の強盗事件の場合の共犯率の高さ,1人当たり件数の多さ(丁寧な取調べの反映である)などを考慮すると,外国人による凶悪犯罪の激増という評価には疑問を覚えざるをえない。それは,過大評価ないし誇張なのではないか。

 注目されなくてはならないのは,したがって,そのような,いわば量の問題ではなく,外国人犯罪の質の変化にこそである。つまり,個々の外国人犯罪・犯罪者ではなく,その組織化に,外国人犯罪組織とわが国の犯罪組織=暴力団,外国の犯罪組織,この3者の連携の発展の兆しにこそ真の危機の萌芽が存在するのである。この結びつきの全容は,しかし,未だ明らかになっていない。薬物・拳銃の密輸入,人身売買的な外国人女性の受け入れなど,それらは単純な取引で完結するわけではなく,安定した調達のためにも,国内での供給先の開拓のためにも,継続的で複雑な取り組みが必要とされる事業である。そのことは,「興行」名目で入国させた女性の国内での就業先の開発,就業=搾取条件の設定と確保等を取り仕切る組織の維持,入管および警察当局,各段階での業界組織との調整の必要性,などなどを想定するだけでも明らかである。さらに,当然ではあるが,それに対応する外国の犯罪組織の活動実態という問題もある。それらの解明は今後の課題である。

 国際化・グローバル化の好まざる同伴者である外国人犯罪に対して,では,どのような対応策がありうるであろうか。

 

 この問題を考える上での一つの要点はわが国の暴力団への対応である。来日外国人の刑法犯の多くが,そのいずれかの段階で暴力団と関わりあっている。わが国への違法な入国の援助──密入国,パスポートやビザの偽造,違法就労──,そして薬物や銃器の密売,人身売買といった犯罪への暴力団の関与は明らかであり,それは外国人犯罪の不可欠の要素となっている。金になることなら何にでも手を出すという「暴力団の総合商社化」が指摘されて久しいが,事実,賭博,ノミ行為,麻薬・覚醒剤等の販売,手配師,興行,用心棒(みかじめ料),金融,債権取り立て,交通事故の示談交渉,借地・借家人の追い出し,総会屋,管理売春,ポルノ類の販売,そして最近では各種公的給付制度の悪用や「振り込め詐欺」などに至るまで,きわめて多様な人間の射幸心や利益追求欲,性的興味につけこんでの非合法的な営業活動が暴力団によって行なわれている。それらは暴力団に,警察庁の見積もりでは1兆円に達するであろうとされる収益をもたらしている。そして,外国人犯罪とのかかわりも,そこに暴力団にとって利益となるものがあるからに他ならない。したがって,暴力団に対する厳しい規制は外国人犯罪への対策となり,逆に外国人犯罪に関連する利益を奪うことによって暴力団対策ともなるはずである。

しかし,それはやはり根本的な解決方法とはなりえないであろう。より一般的には,どのような「外国人犯罪」についての対応にも限界がある,というのは,それが「犯罪」対策というあまりにも広範な問題の一部であるというにとどまらず,また一般的な「外国人」問題の一環だからである。前者の論点は措くとしても,後者への解決自体,複雑な多くの政策的な課題への対応抜きには展望することができない。たとえば,明確な基準にもとづく外国人労働力の受け入れと組み合わされた出入国者管理・外国人登録の徹底,在留外国人の社会保険制度の整備といった諸制度の確立,警察機構を含め行政・サービス組織従事者の多様な民族構成の実現など── つまりはわが国の「国際化」のあり方にかかっているのである。それをどのように選択・決断し,将来を展望するか。「外国人犯罪」の問いかけるものは大きい。



[1] 平成16年の組織犯罪の情勢警察庁組織犯罪対策部企画分析課(20052月)

[2] 上記の警察庁による「平成16年の組織犯罪の情勢」報告の段階では,2004年の数値は「速報値」であったため,その後の2005年版警察白書とは僅かながら違いがある。以下の記述は後者に基づいている。

[3] 警察庁の分類では,「凶悪犯」とは殺人,強姦,強盗および放火の4種類の犯罪をさす。

[4] とくに凶悪化が目立ち始めたのは2003年からである。この年には,1月に横須賀市の住宅において,夫婦に暴行を加え,男性を死亡させるなどし,現金56,000円および貴金属等約141万円相当を強取したとして,中国人の男2人を強盗致死罪等で逮捕した事件,そして6月,福岡市内での一家4人に対する殺人・死体遺棄事件が起きている。後者では,中国公安当局との連携により,041月,中国人の男1人を強盗殺人・死体遺棄等で逮捕し,犯行後に帰国していた共犯の中国人の男2人は,中国において逮捕され,死刑および無期懲役の判決を受けた。それ以降,今日まで,外国人グループによる住居侵入強盗や殺人といった凶悪犯罪に関する報道にはこと欠かない

[5] 入管法第3条違反の不法入国者,入国審査官から上陸の許可を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留しているなどの不法残留者をいう,とされる。

[6] 河合幹雄『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店2004年)129-130頁。

[7] 『司法研究』510号(1927),172号(1932)。

[8] 『刑法雑誌』12号(1950年)。ただし,その際にも,昭和21-231946-48)年の犯罪統計に表れた朝鮮人の犯罪の激増については,合理的な説明は困難であり,ただ「一時的逆上」あるいは「超過相殺(Über-Kompensation)」に他ならぬとして,「逆上は早晩覚める筈である。戦後に於ける朝鮮人の犯罪的高潮も遠からず落潮せねばならぬ。」と述べるにとどめている。(144頁)

[9] 宮内裕『刑事学』(法律文化社1956年)55頁以下。

[10] このこととのかかわりで見落とすことができないのは,藤本哲也のこの問題に関連した不可解な対応である。藤本は在日朝鮮人の犯罪について,これを「社会的周縁性と犯罪」の問題として捉え,わが国における社会的差別および差別意識の存在と関連させて論じている。そしてその際,上に引用した橋正巳の研究を「画期的な研究」としつつ,「しかし,こうした主張は,必ずしも学者間の共通意識ではないようである」として,大恊m=香川達夫に続けて宮内裕の名前をとくに挙げ,宮内が在日朝鮮人の高い犯罪率を前提にそれを「各国民がそれぞれの犯罪的容貌をもつとする立場」から「在日朝鮮人のもつ文化と日本の文化との文化葛藤の結果として」説明しようとしているかに非難しているのである(宮沢浩一・藤本哲也編『新講 犯罪学』(青林書院新社1978年)304頁。同じ記述が藤本哲也『犯罪学入門』(立花書房1980年)234頁にも繰り返されている。)。藤本が同所で援用する諸研究を20年以上前に紹介し,在日朝鮮人に対する差別と偏見が犯罪学的に誤った結論を導くことに警戒を説いた宮内に対する,これは不可解な言いがかりではないであろうか。引用されている宮内の言葉の前後にある,「同一法域内における諸民族は,資本主義国家にあってはほとんど同一平面に並列することは許されず,そのそれぞれが,政治的・社会的・経済的・文化的契機によって,しかも歴史的に制約された深い伝統をもって,深い凹凸をもってきざみこまれた存在である」との認識,また「比較されあるいは対象とされる諸民族の,その法域における位置において,これらの諸契機のそれぞれの比重が異なってくるし,おのづからその体系もことなってくる。それはその民族などに対する深い洞察を前提とせねばならぬ。このような配慮は,いかに注意しても注意しきれるものでないほど重要であろう」(宮内裕『刑事学』57)との指摘は,そのまま藤本に対する反批判となっているかのようである。

[11] 偶然に参照しえた『外務省調査月報』(第1巻第9 196012月)の記事(森田芳夫「数字からみた在日朝鮮人」)では,朝鮮籍韓国籍の外国人犯罪者,特に在日朝鮮人の犯罪率は,戦後,日本人と比較して5倍にのぼるとし,当時の在日朝鮮人の失業 の高さとの関連が指摘されている。しかし,どのような調査によったかなどの詳細は明らかでない。

[12] 近年の事例として,活動拠点を関東,九州,関西へと移動させながら民家等に侵入し,家人を粘着テープ等で緊縛した上,金品を強取する強盗事件を繰り返していた中国人16人からなる犯罪グループの例,クレジットカード偽造工場を作り,カードの偽造,偽造クレジットカードを用いての商品詐欺などを行っていた中国人3人(男2人,女1人)と日本人の男1人のグループの例,などがあげられている。

[13] 『警察白書』があげている例は,0310月,八戸港に入港した中国船籍貨物船機関室内から覚せい剤約2キログラムが発見されたことを端緒として,警察・海上保安部・税関の合同での船内検索の結果,船員居室の天井裏に潜んでいた中国人密航者7人を発見し,入管法違反(不法入国)で逮捕するとともに,密航者を輸送した中国人船員20人,日本での出迎え役の中国人3人を同法違反(輸送等)で,船員1人を覚せい剤取締法違反で逮捕したというものである。

[14] http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/bunseki5/h16sosikihanzai.pdf

 

[15] 最近では毎年約13万人の「興行」ビザによる入国者があるが(2004年は134,879人),その大半はフィリピン人女性であり,明らかに飲食店や風俗店でのホステスとして働くことを予定しての入国であり,明確に法違反の行為である。にもかかわらずこの異常な状態が続いている背後には,「興行」を組織して彼女らを受け入れ,日本全国に派遣している組織があり,そのかなりは暴力団と関係があると想定される。のみならず,このような状態を是正しようと入国管理の厳正化を図った入管局長に脅迫まがいの圧力をかける政治家が現れたりするという状況がある(朝日新聞2005228日夕刊)。決して,「『人身売買とは関係なく、国に残した一族を背負って一生懸命稼いでいるホステスも多い』(在比経験のある官僚)」(毎日新聞200536日夕刊)というような問題ではないのである。

[16] 「大量破壊兵器」の備蓄を理由として20033月に始まったアメリカのイラク侵攻は,すでに10万人のイラク人を殺したと言われながら,なお事態の平穏化に成功していない。2004年夏のロシア南部のベスランでの小学校占拠事件の凄惨な結末は記憶に新しい。