旅行鞄をさげて


 1974年にハバロフスク経由でモスクワ、レニングラード、ワルシャワと旅行したのを始めに、その後何度か海外に出る機会があり、その都度、旅の印象を記録してきました。これは中山先生の教えによる習慣ですが、おかげで私自身にとり貴重な記録が残っています。
 最初の頃のものは手書きによるもので、その後にさまざまな形で公表した文章の基礎になっていますが、それ以外は段々と擦り切れつつあり、何とかしたいと思っています。91年の春から秋までのモスクワ暮らしの記録も、残念ながら、まだ手書きノートのままです。
 ここに書き込んだのは、ハードディスクの片隅に眠っているメモ類や日記、あるいはそれらをもとに書いた短い文章などです。どの文章も、それを書いた時の私自身の気持ちの動きが思い出されて、胸に迫ってきます。さまざまな感慨の中でいずれにも共通しているのは、異国の地で傍観者として街かどに立ち、しかし目の前の情景や人々のことばに揺り動かされ漂っているという感覚、捉えどころのない感傷のようなものです。
 それぞれの文章のあとに、必要な説明や公表した紙誌名などを短く書いておきます。


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