レポート・論文の書き方



 広辞苑によれば、レポートとは「報告書。学術研究報告書」、論文とは「研究の業績や結果を書き記した文」とあります。レポートの場合は課題が外から与えられたものである場合が多く、論文の場合は自身の問題設定にもとづく研究成果である、などと言われることもありますが、区別は相対的でしかありません。いずれの場合も肝心なのは、明確な問題意識のもとで、きちんとした調査研究にもとづき、論理的に一貫した研究報告をまとめることです。

 以下では、レポート・論文(以下「論文」とします)の書き方について留意すべき事項をいくつか書いておきます。本や論文の表記の仕方など、形式上の問題にもふれます。形式より内容という考えもあり、私も基本的には賛成ですが、形式ができていない人は内容もダメというのが過去の経験則です。形式がきちんと守れていないのは、ズボンのチャックを開けたまま外をうろついているのと同じです。チェックの閉め方を早く覚えるようにして下さい。


 まず最初のチャックの閉め方として、
論文はすべて「である」調で書く、という約束を守るようにして下さい。「です・ます」調でいつまでも書いていたり、ひどい場合は「である」調と「です・ます」調を混在させて平気でいる人もいます(引用の場合はその限りではありません)。これを直すことが第一歩。その上で、以下の留意事項を読んで下さい。
<論文の構成>
 論文は大きく、序論+本論+結論という3つの部分から構成されます。論文の小見出しでいえば、序論は「はじめに」、結論は「おわりに」、本論は、章ないし節の内容を示した小見出しをつけることになります。
論文構成の例

17世紀の危機
――資本主義ならびに近代国家の成立をめぐる2つの論争――

                               2004年4月1日 山井敏章
はじめに


1. ユーラシアの危機――ヨーロッパの危機


2. 「危機」論争とブレナー論争


おわりに

*皆さんが提出する論文(レジュメ等も)の場合、氏名の前に提出年月日を書いておいて下さい。
また、私のゼミで提出する論文の場合、使用する活字を以下のように統一します。

「はじめに」で書くべきこと
「本論」の書き方

章・節数は控えめに
 「本論」は、研究成果の具体的内容を書くところです。初歩の学生によく見られる問題として、
<章・節の数が多すぎる>というのがあります。 
 1万字程度の論文であれば、
2〜3章が妥当でしょう。6章も7章もある論文では、各章の内容がたんに羅列的で(この点はこう、この点はこう、と無限に続いていく)、論理的な流れが見られないものがしばしばです。

ストーリーのある論文を書こう
 「論理的な流れ」については、たとえばマンガの「さざえさん」や「ドラえもん」を想起してみて下さい。作者が亡くなっていても、イソノ家の面々はそれぞれ個性が明確で、ある事件が起きると、それぞれがごく自然に事件に対応する形でストーリーができていきます(脚本を書いている人はそれでも四苦八苦でしょうが)。この「ストーリー」というのが論文の場合でも重要です。一つの章で書かれた内容が自然につぎの章につながっていく、あるいは、前の章の内容が、次の章で何を書かねばならないかを求めるようになる。これがすぐれた論文の一条件です。

論文は推理小説だ
 「前の章の内容が、次の章で何を書かねばならないかを求めるようになる」と書きましたが、推理小説のように論文を書いてみようと言い換えることができるかもしれません。それぞれの章の最後に(あるいは途中でもよい)解かれるべき問題が示され、次の章でその問題解決のとりくみがなされる。犯人を追う過程でつぎつぎと謎が現れ、その謎を解こうとする探偵の活躍の連続でストーリーができる、というのと似ています。この点は実は章と章との関係だけでなく、論文全体についても言えることです。「はじめに」で出された問題を実際に解いていくプロセスが「本論」で、犯人を明らかにす結論が「おわりに」に来る、というわけです。
「おわりに」で書くべきこと
「結論」を書く
すでに述べたとおり、「はじめに」で提示した問題に対する結論を示すのが「おわりに」の最も重要な役割です。結論を書く前に、本論の内容を簡潔にまとめておくと、結論の意味が分かりやすく、説得力が高まることにもなります。

「残された課題」
それ以外に、この論文では解決しきれなかった、あるいは扱えなかった「残された課題」を指摘する、なども「おわりに」で書くべきことです。論文での調査研究の結果、はじめは考えていなかった新しい問題が浮かんできて、それについてあらためて研究する必要が出てきた、というのがかっこいい。研究を通じて世界がふくらんでいく、というパターンです。


<注のつけかた>
 論文には注をつけるようにしてください。注の役割の第一は、自分の書いた文章の論拠所を明示することです。理科系であれば、実験にあたるのが注だと思って下さい。理科系の論文では、どのような環境(装置を含む)でどのような手続きを経てある結論に達したか、ということが書かれます。同じ環境(条件)・同じ手続きで実験をすれば、他の研究者でも同じ結論に達する、ということにならなければ、その結論が正しいとは言えなくなるわけです。
 社会科学の場合、通常実験は困難です。それに変わるものが注で、論文のある主張が正しいかどうか、注で示される
論拠(出所)をたどれば、別の人でも同じ結論が得られるというようにしておかなければならないのです。
たとえば
 「17世紀の中葉は、ヨーロッパにおける諸革命の時期であった。」(1)「17世紀の全般的危機」と題する1959年の論文をトレヴァ=ローパーはこう始めている。・・・・・・反乱の波はさらに――ホブズボームが言うように――東ヨーロッパ、そしてロシアにまで及んだ(2)



(1) トレヴァ=ローパー他『17世紀危機論争』(今井宏編訳)創文社、1975年、p. 72.
(2) 同上、pp. 9-10.
*注は、論文の「おわりに」のあとにすべての注を並べて表記する場合と、各ページの下の部分(フッター)に脚注として表記する場合があります。どちらでもかまいません。Wordなどワープロソフトには、注を付けるための特別の機能があり、たとえば後から注を加えた場合、それに応じて他の注番号が変えられるようになっています。活用して下さい(Wordの場合、「挿入」→「脚注」で、文末脚注かページごとの脚注か、注番号の形式をどうするか、などの指定ができる)。

 それぞれ、何を論拠にこの文章が書かれているか、注の形で示されています。本のタイトルからページ数まで(この書き方については次の項目で説明します)。これがないと、ここに書かれたことをトレヴァ=ローパーが本当に言っているかどうか、読者に確認のしようがなくなってしまいます。とくに「17世紀の中葉は・・・・・・」というように引用の形をとった場合、注による出所の明示は無条件に必要です。
 論文を書くうえで参考にした文献や資料が少ないと、同じ本ばかり出所として並ぶことにもなりかねません。それはそれで仕方ない、のではなく、そうならないようにたくさん資料や本を用いることが必要です。そうでないと、ある本の丸写しと変わらなくなり、それでは自分の論文どころか単なる
剽窃(泥棒!)でしかなくなりますから。

 なお、上の(2)で「同上となっているのは、すぐ前の注で指示しているのと同じ文献を使用している場合です。すぐ前でなく、より以前の注であげている文献の場合、本なら、「山井、前掲書、p. 50.」、論文なら「山井、前掲論文、p. 50.」などというように書きます。同一著者の本ないし論文を複数使っている場合は、著者名のあとに書名ないし論文を簡略化したものをあげておくようにします。たとえば、「トレヴァ=ローパー『危機論争』、p. 72.」というように。他にもいろいろ表記の仕方がありますが、細かくなりすぎるのでやめておきます。各自、本や論文を読む際に、気をつけて見ておいて下さい。
 注の書き方について、もう少し技術的なことを書いておきます。
<本と論文の表記の仕方>
 本と論文では、表記に仕方が異なります。分野により人によって若干違いがありますが、以下のような書き方を覚えて下さい。

<本の場合>
著者名『 書名 』出版社、発行年、ページ数。

e.g. 山井敏章『ドイツ初期労働者運動史研究』未来社、1993年、p. 100.
*よくある誤り
  • 著者名のあとに「著」をつけている。
  • 書名を「 」で囲んでいる(正解は『 』)。
  • 著者名等それぞれの項目のあとを1字分空けている。
  • 出版社のあとの「読点」(あるいはコンマでもよい)が抜けている。
  • ページ数の表記は、「p. 100」というように、小文字のpにピリオドをうち、半角あけて半角アラビア数字でページ数を書く。「100ページ」と書いてもよい。複数頁の場合は、「pp. 100-102」というように書く(p が2つ重なる)。
翻訳の場合は、たとえば次のように書きます。
E. ル=ロワ=ラデュリ『気候の歴史』(稲垣文雄訳)藤原書店、2000年。
上にあげたトレヴァ=ローパーの編著の表記も参考にして下さい。
<論文の場合>
1.本に収録された論文の場合
筆者名「論文名」本の編者名『 書名 』出版社、発行年、ページ数。
e.g. 山井敏章「革命史研究の現在」的場昭弘・高草木光一編『1848年革命の射程』御茶の水書房、1998年、300ページ。
*よくある誤り:
  • 論文は「 」、本は『 』という区別ができていない。
  • 編者の「編」が抜けている(「編著」と記載されている場合はそれに従う)。
  • 論文名、書名等、各項目のあいだに1字分スペースを空けている。
2.雑誌に収録された論文の場合
筆者名「論文名」『雑誌名』巻号数、発行年、ページ数。
e.g. 山井敏章
「17世紀の危機――資本主義ならびに近代国家の成立をめぐる2つの論争――」『立命館大学人文科学研究所紀要』No. 79、2002年, 22-23ページ。



<文献リスト>

 本文全体(注を含む)のあとに、論文で使用した資料・文献の一覧を付しておくことがあります。私のゼミの論文では、必ず文献リストをあげておくようにして下さい。

 たとえば次のようにします

資料・文献一覧

<資料>
Statistisches Bundesamt, Statistisches Jahrbuch fur die Bundesrepublik
  Deutschland, Jgg. 1976-2003.

『環境要覧2002/2003』(財)地球・人間環境フォーラム、2002年。

<邦語文献>
縣公一郎「ドイツ市町村の自治権」『改革者』48512号、2000
稲垣謙三「ドイツ環境問題への取り組み進む」『ジェトロセンサー』第45
534号、1995年。
今泉みね子『ドイツを変えた10人の環境パイオニア』白水社、1997年。
卯月盛夫「ドイツの都市計画に果たす市民団体の役割に関する考察」『日本建築学 会計画系論文集』520号、1999年。

<欧文文献>
Archibugi, F./Nijkamp, P.(ed.), Economy and ecology: towards
 sustainable development, Dordrecht/Boston, 1989.
Paenson, I., Environment in key words: a multilingual handbook of the
 environment: English, Frensh, German, Russian, Oxford/Tokyo, 1990.
Stadtwerke Karlsruhe, Umweltklarung 2001-2002, 2001-2002.
Umwelt Bundesamt, Umweltdaten Deutschland 2002, 2002.
Umweltzentrum Tubingen, 10 Jahre UWZ, 1996
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