<<1>>始めに
介護保険実施前まで、障害、高齢者福祉の根幹をなしてきたのは、老人福祉法(1963年施行)であるが、同制度の下では、在宅福祉として、ホームへルプサービス、デイサービス、ショートステイおよび日常生活用具の給付・貸与については「市町村は必要に応じた“措置“」としてきた。
“措置“とは、利用者希望の請求に基づいて、サービスを提供するのではなく、市町村が調査を行い、必要と認めて(行政処分として)サービスの提供を行うことである。つまり、実務上“申請”という形をとっていても、単なる“意思の確認”にすぎず、サービスは権利として認められていなかった。
・介護保険制度による変化
これまでの租税を財源として行政機関が利用者のニーズや所得・家庭調査等をふまえた行政処分(措置)として介護サービスを利用する方式を継承するのではなく、介護が必要となったときに行政機関に許可を求めることなく自ら必要とするときに必要とするサービスやそのサービスを提供してくれる事業者を選んで利用するという事業者と法的に対等な関係で利用者自身が介護サービスを利用する仕組みを作る必要がある。
@
少子高齢化において高齢化世代は制度からの受益とともに、高齢化世代自らも応分の費用負担を担うことにより「若い世代に支えられている存在」ではなく若い世代とともに「制度を支える側」に自らを位置付ける必要がある。
A
老人福祉制度は原則として市町村などの行政機関がサービスの提供主体となり、租税を財源とした措置制度により介護サービスを提供してきた。民間事業者にサービス実施の委託を行うこともできたが、事業の公益性などから委託先は基本的に社会福祉法人に限定されてきた。しかしそれは事業主体間の競争が起こりにくく、サービス内容が画一的でサービスの量的拡大が難しいという問題を抱えており、これらを解決するには民間事業者をはじめ多様な事業主体の参入により、介護サービス事業の活性化とサービスの質の向上を図る必要がある。
介護保険の問題点
以上のような理由により導入された介護保険だが現在、さまざまな問題を抱えている。家庭・施設内での放置、ヘルパーの能力・資格、介護支援専門員(ケアマネージャー)の在り方、コンピューターによる要介護認定、医療機関との関係等、さまざまなサービスの質の確保を含む、要介護者の権利擁護に関係する問題が噴出している。
問題例
・要介護認定
要介護者に一定のサービスを供給するさいにコンピューターなどを使って一定のマニュアル通りに仕事を進め、それによって要介護者の介護基準を機械的に決めてしまう。これでは、本当の意味で要介護者の望む介護は得られない。又介護認定審査会の人選や訪問調査員の調査能力の不備など多くの問題がある。
介護支援専門員
ケアマネージャーが所属する施設に対して利益誘導のために非効率なケアプランを作成しているケースがある。厚生労働省はケアマネージャーの営業活動を禁止したが罰則がないなど問題の解決には至っていない。
虐待
放置・身体拘束等の身体的なものから経済的なものまで多くのものがある。虐待を行うものは息子や娘、息子の妻や施設職員等の介護者がほとんどである。福祉施設や家庭内において行われるが訪問介護等で発見されてもケアマネージャー等が対処できていない。市町村等への報告義務もなく発見できても個人間の対処にとどまることが多く、主体となって調整する機関がないといえる。
介護保険制度のもとでは事業者と利用者の契約関係によってサービスが供給されるためそこで起こる上記のような問題の調整、解決を社会、市場のシステムによってできるようにしていくことは必要であるが、それは公的責任の後退を容認するものではない。それは介護において要介護者は肉体的、社会的な弱者である場合が多く介護者に対して要介護者が対等に対応できない場合が多いからである。故に利用者の権利擁護の実現には、問題を競争原理によって解決するのではなく、責任ある公的機関が利用者の苦情・相談を的確に処理していくことが必要になるのである。しかし現在の介護保険によって利用者と事業者の契約関係が主体となった事は介護における調整、苦情処理などの責任体制をあいまいにしてしまっている。措置時代では、問題の発見、調整、サービスの提供、解決に至るまでのすべてを自治体が責任をもって対処しなければならなかったが、公的措置ではなくなった今、国の管理責任は後退し責任自体が問われにくくなっているのである。介護保険制度の実施されている現在、問題の解決を市場に期待する一方でそれを監視する責任を行政は引き続き負うべきだと考える。
現在の介護保険制度には、行政による利用者の不服・苦情を処理する制度があるがこの制度が要介護者の権利擁護にとって十分機能しているのか疑問が残る。よって以下では日本の福祉・介護保険制度に関しての不服・苦情相談体制とオンブズマン的組織を解説し、海外の諸制度と比較しながらあるべき制度の姿を考えていく。
<<2>>日本の不服・苦情処理制度
<1>概説
処理の対象となる不服・苦情は、要介護認定に関すること、介護保険料の賦課徴収に関すること、介護サービス・ケアプランに関すること等である。
以下では社会福祉法、介護保険法に基づく行政内部の相談苦情の処理機関と各種の福祉オンブズマンを解説する。日本におけるオンブズマンは定義の混乱、多様な組織形態の存在の為、行政との位置関係には不明確な点が多く行政組織内にもオンブズマン機能を有するものがあるがオンブズマン制度が行政不服審査、直接請求、行政訴訟等の法的制度が解決できない範疇の事柄を解決する独自のものとして導入されてきたことを考えれば行政と分類して考えるのが妥当と考える。
<2>行政
(1)全体像
1)申立人
申立人は利用者本人、本人の同意を得た家族・介護支援専門員・民生委員・知人が範囲となっている。サービス事業者に対しては介護計画を作成した介護支援専門員を通してなされることが、厚生省において期待されている。(介護支援等の運営基準第26条第1項)
2)受理側
支援事業者、実際にサービスを行った事業者、実施主体である市区町村の窓口、都道府県の介護保険審査会・運営適正化委員会、国民健康保険団体連合会(以下、国保連)に対して訴える事ができる。原則は福祉サービスに関する苦情は、その提供者である事業者と利用者の間の話し合いで解決することとなっている。(社会福祉法第82条)
@ 市町村
住民に最も近い存在であり保険者でもある市町村が公的苦情処理の中心的受付窓口と考えられており苦情相談の第1次的機関とされている。各市町村が独自に苦情に対応する為の組織を有しており介護保険全般の苦情相談に対応している場合が多い。
A
国保連
介護保険法176条において都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)が関係業務に中立的、広域的に対応できるとしてサービス利用者の苦情申し立て、相談等を処理することとなっている。事業者指定の権限が都道府県にあることから国保連で扱われる苦情処理業務は施設やサービス業者に関わる指定基準の違反に至らない程度のものである。
B
都道府県(介護保険審査会・運営適正化委員会)
要介護認定等の判定に不服がある場合には、介護保険審査会がその不服に対応する。
また社会福祉法第83条に基づき運営適正化委員会を設置し、苦情の解決や助言を行うこととしている。(但しこの制度は社会福祉一般の施設やサービスに関するものであり、介護保険を専門とするわけではありません)
C
事業者
事業者に対しては苦情処理の窓口を置くことが定められている。(運営基準36条1項)
4)処理方法
苦情の具体的処理方法は介護保険法に明記されておらず各機関が指導・監督・助言等を行う。また、担当委員や判断基準もはっきりしておらず、各地方自治体はオンブズパーソンや第3者機関を設置するなどして対応しようとしている。
また、「苦情処理」結果に申立人が納得できない場合の救済措置は存在していない。
以下では個別の組織の解説に移る
(2)市町村
住民に最も身近な行政庁であり、介護保険事業の保険者である市町村は苦情処理の第一次的な窓口として、介護サービスに対する苦情に対応することが多くなると考えられ、サービス事業者、施設に対する利用者からの苦情に関して事業者、施設に対する調査、指導、助言を行える。
・介護保険制度の下での疑問や苦情はどうなるか
要介護認定に関する苦情 → ・市町村の介護保険担当窓口
保険給付に関する不服 ・県に設置される介護保険審査会へ審査請求
裁判所へ取消訴訟
サービスの内容に関する苦情 → ・ケアプランを作成したケアプランナー
市町村
相談を受けた機関はその内容に応じて、サービス事業者や施設へ連絡や要請を行い、
必要な場合は国民健康保険団体連合会(国保連)や県が事業者の指導、勧告、指定取消などにあたる。
問題点として、苦情といえば国保連のオンブズマン機能や都道府県に設置される介護保険審査会という法律上のシステムに委ねてしまう自治体が多いことがあげられる。そして、
そのルートに乗せるためにとりあえず、市町村の窓口でも市民からの不満や苦情を受け付
けるという表現ですましている。
そこで市町村は、具体的にどう対応するのかを明確にする必要があるのではないか。又
一次的な窓口としての説明責任など自治体の責任をも明確にする必要があるのではないか。
(3)国保連
国保連で受理する苦情
国保連で受理する苦情の流れ
(1) 苦情等の受付
・苦情等申立人から直接又は間接(市町村経由)に申し立てられた介護サービスに関する苦情を受け付ける。(苦情等の申し立ては原則として「苦情申立書」により行う)
・受け付けた苦情等が、基準該当事業者や市町村特別給付に関するものなど、区市町村等で処理するのが適当と思われる時は、たらい回しにならないよう留意して、区市町村等へ振り分けます。
* 介護保険制度では、介護保健サービスは原則として現物給付で行われ、介護保険事業者はその費用の請求を、市町村から委託された国保連に対して行う仕組みになっています。 そのため介護保険に対する苦情・相談も委託され、国保連の業務となっています。 しかし、介護保険の最終責任者はもちろん保険者である市町村であり、国保連には介護サービス事業者へのサービス改善指導の権限しかありません。 よって苦情を市町村では処理するのが困難といって、国保連にまかせてしまうのは責任回避ではないかという疑問が残ります。
(2) 調査の実施
・ 苦情対象事業者に対する調査の必要性の有無や方法について、苦情処理委員会の意見を聞いた上で、必要な時は調査を実施する。
(3) 介護サービス改善のための指導・助言
・ 苦情対象事業者のサービスに改善の余地があると思われる時は、苦情処理委員会の意見を聞いた上で指導及び助言を行う。
・ 指導及び助言を行った事業者に対しては、改善に要する期間を経て後改善状況の報告を求める。
(4) 申立人への苦情処理結果の通知
苦情申立人や区市町村等関係者に対し苦情処理の結果を報告する。
国保連の全国苦情相談件数
平成12年度は累計相談件数2883件、13年度は3224件である。地域別に見ると平成13年度では東京では951件、兵庫では450件にのぼるが沖縄県21件、山梨・青森県の1件など地域格差は激しく各自治体の苦情処理制度の構築にかなりの差があるといえる。
(4)介護保険審査会
1.介護保険審査会とは
要介護認定等の判定に利用者の不服がある場合には、その不服の審査判定に対応するために、介護保険法では専門の第三者機関である介護保険審査会が、都道府県に設置されている。利用者の請求に応じて審査する。
2.介護保険審査会の審理体制
介護保険審査会では、審査請求された案件により審理、採決を行う合議体が異なります。審査請求の対象となる処分のうち、「要介護認定以外の処分」については、被保険者代表3名、市町村代表3名、公益代表委員3名の9名つまり各分野3人ずつ計9人の委員で構成される合議体で審査します。これに対し、「要介護認定処分」については公益代表委員3人で合議体を作って審理します。これは全国共通です。しかし、公益代表の数は、各都道府県によってその総数は異なります。例えば、徳島県だと全部で24名、奈良県だと15名などです。「要介護認定処分」は公益代表3名です。このように多くの合議体を作る理由としては、要介護認定に対する審査請求の件数が多くなっても審査に支障をきたさないように対応するためです。
3.審査請求(利用者)ができる処分
要介護認定又は要支援認定、被保険者証の交付請求、介護サービス費の支給、給付の制限、保険料に関する事項、不正利得についての審査などであるが、介護保険審査会での審査は要介護認定の審査が中心である。
4.要介護認定の審査請求について
審査請求の根拠として、審査請求制度があります。その制度とは、介護保険法で審査請求ができると定められています。審査請求は、行政不服審査法に定める行政処分に対する不服申立制度の一環として位置づけられており、介護保険法における審査請求制度は介護保険制度の適正な運営を図り、被保険者の権利を保障する重要な制度となっています。
(4)運営適正化委員会
1、業 務
福祉サービス利用援助事業が適正に運営されるよう事業全般の監視を行い、必要に応じ実施主体に対し助言や勧告を、福祉サービスに関する苦情解決に向けての相談、助言、調査、あっせん(第85条2運営適正化委員会は、前項の申出人及び当該申出人に対し福祉サービスを提供した者の同意を得て、苦情の解決のあっせんを行うことができる)を行う。
虐待や法令違反などの重大な不当行為に関する内容の苦情を受けた場合は、都道府県知事に対し通知を行う。
2、委員選任手続
運営適正化委員会の委員を社会福祉協議会より選任するため、まず、選考委員会を設置する。
選考委員会の委員は、それぞれ同数の利用者、事業者及び公益代表で構成する。
「選考委員会」の同意を得て「運営適正化委員会」の委員を選任。
「運営適正化委員会」の委員は、「社会福祉に関し、学識経験を有する者」、「法律に関し学識経験を有する者」及び「医療に関し学識経験を有する者」で構成される。中立性、独立性を強く発揮することが目指されている。
3、その他
通知サービスの提供者は、運営適正化委員会の連絡先を、わかるように周知しなければならないとされている。
日本のオンブズマンは国の法律によって確立されているものではなく自治体の条例、市民活動によるもの、事業者のモラル等によって位置付けられるものである。そのため多くの場合、拘束力をもたずその活動も政策の検討等ではなく、福祉オンブズマンとして個別の苦情処理等に対応するのみである。
過去、福祉オンブズマンは、唯一の利用者主体のサービス監視制度との認識で普及し運営されてきた。そのため当時利用者に近い立場としてのサービスチェック業務が拡大した。現在のオンブズマンが苦情処理機関としてあるのはその業務に専念してきた結果であろう。
<<3>>海外の苦情処理制度
スウェーデンのオンブズマン制度
国会オンブズマン
1809年に制定された民主憲法でオンブズマン制度が始まる。
国会の行政に対する監督機関の一環で、文官・武官の執行を監視指導する。
国会により4人指名され、任期は4年間である。
オンブズマンの事務局は完全に独立しており、国会の指示は受けない。
政府指名のオンブズマン
特別の領域に関して政府によって指名されたオンブズマンで、国会オンブズマンの監視指導下にある。
消費者オンブズマン、平等機会オンブズマン、人種差別禁止オンブズマン、性的志向による差別禁止オンブズマン、児童オンブズマン、障害者オンブズマンの6種類がある。
障害者オンブズマンとは…
1994年の障害者オンブズマン法に基づいて、障害のある人の権利や利益を擁護する機関として設置された。
政府から任命される役職であるが、政府からの独立性が保障されている。
(主な仕事内容)
・不服や苦情申し立てへの対処
・法的なアドバイス
・調査とレミス回答
・情報提供
患者オンブズマンとは…
・患者オンブズマンは病院の職員であるが、医師や看護婦はオンブズマンに訴えられることを恐れているため、患者にとって十分な効果を持つ。
オンブズマンが病院側に立つ心配はない。
・オンブズマンとは別に各県に1つ、病院とは独立して患者委員会がある。
やっていることはオンブズマンとほぼ同じである。
イギリスにおける対人社会サービスの不服申し立て手続き
イギリスの社会サービスの不服申し立て手続きシステムは国が地方に設置を義務づけています。しかし、この国では地方分権が定着しているので、具体的な取り組みについては地方自治体の主導で行われ、地域格差が多きなっています。
【法的義務付け】
1970年地方自治体社会サービス法
・・・・地方自治体内に社会サービス部の設置を義務付け対人社会サービスの拠点に
1989年児童法と1990年国民保健サービスおよびコミュニティケア法
・・・・地方自治体(SSD)に不服申し立ての手続きの導入を義務づける
【対応機関】
○地方自治体社会サービス局(SSD)⇒地方レベル
対人サービスに関する不服や苦情は国レベルの機関である保健省が最終的責任を負うが初期の地方レベルの申し立て機関として設置。3段階の苦情審査段階で対処される。
○社会サービス監査部(SSI:1991年設置)
保健省の指導の下設置された監査部でSSDやほかの関連機関が行う不服申し立て手続きの監視、調査、訓練、情報の管理と提供を専門的に行う責任がある。
○地方オンブズマン(地方コミッショナー)⇒国レベル
申し立てられた不服や苦情のうちSSD(3段階ステージ)で解決されなかった複雑な問題を扱う。地方自治体内での段階を経たあとの問題を扱うのでサービス利用者から直接苦情を受けることはない。地方オンブズマンは英国議会の管轄になり、対人社会サービスの苦情の最終審査段階であるので行政について十分な経験をつんだ人、弁護士、医者、科学者、保健分野の専門から6名程度で構成される。
・
【地方自治体社会サービス局の仕組み(例:ブリストル市)】
○苦情とは:「サービス利用者、介護者またはそれにかかわりを持つ人が不服や苦情とみなすもの、ただしそれは自治体の公権力および、その責任の下で提供されるサービスにかかわるものでなければならない」
○利用資格:「地方自治体の責任と公権力および、その下でサービスの提供が保証されるすべての成人と子供を対象とし、実際にそのサービスが利用されたかどうかは問わない」
○システム:地方自治体がかかわるすべてのサービス提供に関する不服や苦情は市協議会に一括して寄せられ、その中の対人社会サービスに関するものがSSDに渡される。
《3段階の苦情審査段階》
すべての苦情はまずステージ1に申し立てられ、そこで出された結論に申立て人が満足する場合はそこで終了。満足しない場合はステージ2、同様にステージ3に再度申し立てる。ステージ3でも苦情が解決されないときは、国レベルの地方オンブズマンに申し立てる。それぞれのステージでは調査・回答期間が決められている。
「第1ステージ」・・・非公式・アクセスのしやすさ重視
「第2ステージ」・・・公式・客観性重視
「第3ステージ」・・・再審査会・専門性重視
【イギリスの不服申し立て制度の特徴】
・イギリスは地方分権がかなり定着しているため自治体主導で具体的な取り組みがされている。よって、地域格差が多き傾向がある。
・自治体サービスの不服や苦情に対して一貫して責任をとる姿勢が保っている。
・苦情の発生原因をつきとめ再発予防に役立てる。
・SSDで不服申し立て手続きに3段階ステージを設けている。
【イギリスの不服申し立て制度の課題】
・他の組織との連携と運営や研修などの資金の調達。
・職員の研修・・・職員が仕事に必要な知識・技術をみにつける。
・不服申し立て制度の周知度を上げる。・・・広報活動。
<<4>>まとめ
現在日本の介護保険に対する苦情処理制度は介護保険法と社会福祉法に基づき、市町村、都道府県機関等によっての重層的に構築されておりそれを福祉オンブズマンが補完している体制である。
多様な関係機関がサービス内容を監視しその制度がフル稼働すれば出される苦情については充実した対応が期待されるが、多様であるがゆえにその制度は複雑であり、同時に利用者に対しての責任をあいまいなものにしている。その複雑さが、国の公的責任を実質的に後退させているのである。各処理機関が明確な処理対象の基準を持っておらずその審査内容も非公開が多いため苦情のたらいまわしを容認しており、現状では対処の遅れや不透明な解決があっても責任の不明確な体制であり行政責任を問いにくいのである。このような状態は利用者に対して明らかに不都合であり人権の見地からも迅速な対応を求められる介護の問題に対してあまりに不誠実だと考える。又、不服、苦情処理が根本的な問題を直接解決できない政策的な欠陥についてのケースを考えるうえでも行政責任の明確化は重要である。行政に問題が発生していることを認めさせ政策への社会的圧力が働きやすいようにする為にも、行政の介護問題への関係と責任を明確にしていく制度が必要であると考える。
以上から要介護者の権利が制度の内外から充分に担保されるためにイギリスにおける苦情処理制度のように処理段階を明確にして、一貫した処理についての責任体制を法的に整備することを提案する。
わが国のオンブズマン制度は制度根拠の法律が存在せず、その活動に必要な権限も付与されず、また統括し発展させ、独立性を担保していくための体制も整備されなかった。そのため多くの形態のオンブズマンが生産されたが行政の補完的役割に甘んじ、制度のサービスの範囲内で利用者にさまざまな援助を行うにその機能は限られてきた。
介護保険制度化では行政が苦情処理制度を構築しているが、その制度を利用者の権利擁護の視点に立って見直す必要がある。介護保険制度では要介護認定を操作することによって、サービス利用者数やサービス提供機関の調整を行うことができる。そのような行政の行動を監視し抑制する機能が求められるのがオンブズマンであると考える。
オンブズマン制度を実効性のあるものにしていくために、行政からの独立性を保証するためオンブズマン制度を法的に整備し権限を付与していくことが必要である。そして、行政の処理制度に継続的に権限をもって関わっていくことで利用者の権利擁護に役立っていくはずである。
制度の要点
行政機関
責任体制の明確化
組織の段階化
介護に関する調整を法的に義務づける
一貫した処理制度
審理の情報公開
処理委員会の人選の民主化
オンブズマン
法的保護
対処の為の処分権限を与える
処理委員会を監視する権限をあたえる
政策団体としての性格の強化(行政責任の明確化とのリンク)
全国的な政策評価団体として整備する
《参考文献》
「福祉オンブズマン 新しい時代の権利擁護」 2000 福祉オンブズマン研究会
「介護サービスの質の向上・苦情解決等に関する国際比較研究」 平成12年
学校法人 日本社会事業大学
「ケアを監視する 英国レポート」
2000 矢部久美子
「福祉政策」 2002 三ッ木任一・佐藤久夫・大曽根寛
放送大学教育振興会
「要介護高齢者の不服申立て等オンブズマン関連システムに関する検査研究報告所」
平成10年3月 学校法人日本社会事業大学