1.全体会で使用したレジュメ
子どもの虐待 〜虐待防止と家族〜 金沢大学井上ゼミ
私たちは子どもの虐待を「虐待防止と家族」という論点から考えてみました。まず子どもの虐待の原因と現状を考え、それをふまえて虐待発生を予防するための策として経済的保障などの家族への育児保障をあげました。次に発生してしまったあとのケアとして現在の法的制度をみてその課題をあげ、最後に家族再統合にむけてと題した提言を示しました。
T 子どもの虐待の原因と現状 鈴木 森
1 時代背景に見る子どもの虐待とその原因
2 子どもの虐待の実態
U 家族への育児保障 荒川 山川 山下
1 経済的保障
2 育児期間の保障
3 子育て支援(金沢市母子保健事業による)
V 法的制度と現行制度の課題 飯田 盛永
1 虐待の発見
2 通告
3 虐待者からの法的分離手続き
4 現行制度の課題
W 提言〜家族再統合にむけて
はじめに
私たち金沢大学井上ゼミは、最近、社会問題として頻繁に取り上げられている子どもの虐待について取り上げます。新聞・ニュース等で連日報道されている子ども虐待ですが、私たちは、親が子どもを虐待してしまうという異常な事態の中、今家庭で何が起こっているのかに関心を持ちました。虐待が起きてしまう背景にはどんな理由があるのか、現行の制度はどうなっているのか、またそこに問題はないのか、そして虐待を未然に防ぎ、根本的に無くすためにはどのような解決策があるのか、という視点で、特に家族というものに注目しながらこの問題に取組みました。
T 子どもの虐待の原因と現状
担当:鈴木・森
1、時代背景に見る子どもの虐待とその原因
子供の虐待は、今に始まったことではない。最近は、マスメディア等が社会問題として取り上げるようになり、報告件数が増加してきた。昔の外国の例を見てみると、1874年にアメリカで起きたメアリー・エレン事件がある。これは、少女が継母から暴力を受け、餓死寸前になった事件である。特徴的なのは、当時のアメリカには子どもの保護機関がなく、動物愛護協会が、動物愛護の法律により事件に対応したということである。この事件が子供の虐待が社会的関心を集めるきっかけになったとも言われている。そして、1962年にはアメリカの小児科医ケンプが「バタード・チャイルド・シンドローム(殴打された子どもに見られる症候群)」を報告し、社会的に認識される重要な契機となった。
日本では、戦前にも児童虐待防止法はあったが、その目的は人身売買防止が目的であり、子どもの人権という視点はなく、虐待も「しつけ」や「教育」と考えられていた。また昔の子供の虐待の特徴は経済的理由によるものが多かったことである。いわゆる「間引き」型の、出生後24時間以内に殺してしまう嬰児殺(えいじさつ)が多かった。しかし、1970年代からは家庭内における不安・悩みによる心の病が原因と思われる子ども虐待(無規範型)が、家族の中でひっそりと行われるケースが多くなったと推測される。
その原因には、都市化や、核家族化、少子化、一人親家庭、望まれない出産、近隣からの孤立、経済的困難などが増加してきた社会的背景があると考えられる。子育て経験を持ち、適切なアドバイス等をしてもらえる人がすぐそばにいない事が、育児不安や育児疲れ、育児への嫌悪・拒否感情を招きやすい状況を作り出している。
2、子供の虐待の実態
(1) 種類
児童虐待の防止等に関する法律第2条によると、児童虐待とは、保護者(親権を行うもの、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するもの)がその監護する児童(18歳に満たないもの)に対して、以下のような行為をすることとされている。
・身体的虐待〜児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
・性的虐待〜児童にわいせつな行為をすること、又は児童をしてわいせつな行為をさせること
・ネグレクト(養育や保護義務の拒否・怠慢、棄児、置き去り、登校禁止)〜児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、又は長時間の放置、その他の保護者としての監護を著しく怠ること
・心理的虐待〜児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
(2) 統計
→資料 表1〜表6参照
U 家族への育児保障
担当:荒川・山川・山下
資料からわかるように虐待の発生原因として経済的困難、就労の不安定、育児疲れが大きい。そのため虐待の発生を予防するために経済的保障、育児機関の保障、子育て支援が不可欠である。
1、経済的保障
・児童手当(児童手当法)
一人目 5,000円
二人目 5,000円
三人目以降 10,000円
・児童扶養手当(児童扶養手当法)
一人目 42,370円
28,350円(所得による)
二人目 5,000円加算
三人目以降 一人につき3,000円加算
・特別児童扶養手当(特別児童扶養手当等の支給に関する法律)
障害等級 1級 51,550円
2級 34,330円
2、育児期間の保障
・産前産後休業(労働基準法第65条)
産前6週間・産後8週間
出産手当金(健康保険法第50条2項) 産休前の給与の最大6割
出産育児一時金(健康保険法第50条1項) 30万円
・育児休業(育児介護休業法<略>)
子が一歳になるまで可能
育児休業給付金 最大4割(雇用保険法)
・育児時間(労働基準法第67条)
1日2回 30分×2
3、子育て支援(金沢市母子保健事業による)
・妊婦教室、両親教室
妊婦教室、日曜子育て教室
・健康診査(母子保健法)
1歳6ヶ月児、3歳児 各市町村で行っているもの
・育児相談
保健センター、児童相談所、家庭児童相談室、子育て休日相談、電話相談
・育児教室
育児教室、遊びの教室、多胎児教室、未熟児教室、父と子のふれあい教室
・育児グループ作り、子育てサークルの普及
補助金の給付やホームページ(金沢市エンゼルネット)での紹介
・保育所等による保育
通常保育、一時保育、休日保育、ショートステイ、トワイライトステイ(夜間預かり)、ベビーシッター、育児サポーター、臨時保育室、放課後児童クラブ
V 法的制度と家族再統合にむけて
担当:盛永・飯田
1、虐待の発見
虐待されている子供や、虐待してしまう家族に対するケアを行うには、まず虐待を発見することが大切である。虐待の経路を見てみると、家族(21%)、近隣・知人(14%)、福祉事務所(13%)、学校など(13%)からの相談が多い。ちなみに、児童本人からの相談はわずか2%である。(平成12年度資料)
2、通告
・虐待を受けている児童を発見した者は速やかに通告しなければならない(児童虐待防止法第6条)
・必要がある時は警察官の援助を求めることができる(第10条)
・虐待を行った保護者は児童福祉司などの指導を受けなければならない(第11条)
・通告の際には、刑法上守秘義務を負う者(弁護士や医者)の守秘義務は解除される(第6条2項)
3、虐待者からの法的分離手続き
・児童相談所所長による一時保護(児童福祉法33条)
・家庭裁判所の承認による施設入所、里親委託(児童福祉法28条)
・親権喪失宣告(民法834条、児童福祉法33条の6)
・親権者変更・親権者指定(民法819条の1,2,4,6)
・刑事告訴(刑事訴訟法230条、232条)
・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の措置入院(同法29条)
4、現行制度の課題
・ネットワークの拡大(福祉・医療・教育機関の相互連携)
・法整備(親権、発見通告、立ち入り調査等の法規定の整備)
・施設の増設(特に児童相談所の増設)
・人員の増員(児童福祉司・相談員・心理判定員・医師などの大幅な増員)
・病院の対応の改善
・経済保障の充実
・育児休業の社会的認知
・社会資源の充実
W 提言〜家族再統合にむけて〜
子供の心理的・身体的な外傷のケアを行う施設として、医療機関・児童養護施設・乳児院・民間団体などがあげられる。対する、親などの加害者への援助は、精神病院・カウンセリング機関・児童相談所・保育所などで行われる。その基本は、生活援助を土台に、子育て方法の改善を指導することであり、親自身のストレスを受け止め、軽減していくことが必要となる。虐待する親も社会的に孤立しており、社会病理的な問題が背景にある。家族再統合を実現するためには、法的制度により親と子を切り離しただけでは何の解決にもならない。解決させなければならないのは、虐待がなされている根本的背景である。もし、それが改善されることなく再統合が行われたなら、再び虐待が発生してしまうことは目に見えている。その根本的背景を改善していくためには、ソーシャルワーク的介入がどうしても必要となってくる。ソーシャルワークを行うためには、その専門知識を持った人員及びそれを行うための施設の充足、関係機関の
スムーズな連携が必要不可欠である。しかし、現行ではソーシャルワークを行うための施設及び人員が大幅に不足している。よって早急に施設の増設、専門家の養成がなされるとともに、よりスムーズに関係機関の連携がなされるような仕組みにしなければならない。
何が虐待を引き起こしているのか、その根本的背景を解決することで、初めて虐待は断たれるのではないだろうか。
また、子供を持つ親に対する日本の支援策は、他の国と比較して不十分なところが多い。子供を育てる上での家族機能を維持するための施策であるという点では、これらの取り組みが子供の虐待の防止にもつながると考えられる。そのため、児童手当の充実とともに、平成12年に策定された、新エンゼルプランにある施策や目標の達成のための取り組みを早急に行うことが、国や地方自治体に求められる。
参考文献
「子ども虐待」 高橋重弘 有斐閣 2001年
「子供の虐待防止最前線」 信田さよ子 大月書店 2001年
「子育て便利帳」(財)いしかわ子育て支援財団 2001年
「金沢子育てお役立ちBOOK」 金沢市 2002年
「子どもの虐待防止・法的実務マニュアル[改訂版]」 日本弁護士連合会子どもの権利委員会 明石書店 2001年
「子ども虐待の福祉学 子どもの権利擁護のためのネットワーク」 浅井春夫 小学館 2002年
「ストップ・ザ・児童虐待 発見後の援助」 安部計彦 ぎょうせい 2001年
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/s0614-3g.html 2002年9月12日
2.分科会でなされた議論の内容
まず経済的困難を議題として児童手当の額や所得制限などについて話し合おうとしたところ、子どもの虐待においての家族再統合を考えるときにはお金などの経済的問題よりもソーシャルワーク的な介入のほうが重要なのでは、という発言が出ました。その後ソーシャルワーク的介入を重視すべきという立場の人と経済問題を重視すべきという立場の人それぞれからの発言があり、議論がなされました。それぞれの意見としては、お金が全てではなく貧しくても幸せに生活している人もたくさんいるし、経済問題よりもほかのことに取り組むほうが重要ではないかという意見や、生活の基盤はやはりお金であるし、経済的余裕ができれば子育てなど多くのことにも余裕が生まれるという意見がありました。
そして経済的・ソーシャルワーク的双方を含め虐待自体をなくすにはどうしたらよいかが議論されました。そこではソーシャルワーク的な介入を行う施設は、それぞれの地域の人口などにあった施設を建てるため住民の意見を重視していくべきだという発言や施設の絶対数が足りない現状では国が中心となり指針を立てどんどん立てていくべきだという発言が出ました。