200291516日 合同ゼミ

 

支援費支給制度の実際

―問題山積み!もう施行?―

龍谷大学 社会学部 田中ゼミ

 

目次

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

 

 T 支援費支給制度の制度概要 (古島)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

 

 U 措置制度から支援費支給制度になり、どのように変わるか (瀬田)・・・・・・4

   (国・自治体の役割、サービスの供給体制)

 

 V 支援費支給制度全体に関わる問題点 (丸山)・・・・・・・・・・・・・・・・6

 

 W 利用者からみた支援費支給制度の問題点と課題

1.     判定 (田中)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

2.     契約 (木俵)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

3.     権利擁護・苦情解決 (鍋釜)・・・・・・・・・・・・・・・・・12

4.     サービス評価 (宮田)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

5.     費用負担(自己負担・扶養義務) (平野)・・・・・・・・・・・16

 

 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

 

 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

 

 

 

 

 

 

はじめに

 2003(平成15)年41日より、介護保険に続き、障害者福祉の分野でも措置制度から、大きく制度が転換されます。それが、支援費支給制度です。この制度が始まる前に、サービスを必要とする人たちにとって本当に良いのかどうか、自分たちなりに考えたいと思い、この合同ゼミを機会に詳しく調べてみることにしました。
 この報告会では、利用者に焦点をあて支援費支給制度の内容と問題点を検討します。また、最後に改善への課題も提起します。


T 支援費支給制度の概要

(序)

社会福祉基礎構造改革の一つとして、障害者福祉サービスについて、利用者の立場に立った制度を構築するため、これまでの行政がサービスの受け手を特定し、サービス内容を決定する「措置制度」から、新たな利用の仕組み「支援費支給制度」に2003 (平成15)年4月1日から移行することになった。

支援費支給制度は、障害者の自己決定を尊重し、利用者本位のサービスの提供を基本として、事業者等との対等な関係に基づき、障害者自らがサービスを選択し、契約によりサービスを利用する仕組みであり、事業者等は、行政からの受託者としてサービスを提供していたものから、サービス提供の主体として、利用者の選択に十分応えることができるようサービスの質の向上を図ることが求められるようになり、これにより、障害者の個人としての尊厳を重視した、福祉サービスの利用制度となる、と言われている。

 

()支援費は利用料負担への支援

支援費支給制度の下では、障害者本人が直接事業者と契約を結んで、福祉サービスの提供を受けることになる。「支援費」というのは、契約に基づき障害者が事業者に支払う利用料の一部分を補助するためのお金のことである。

 

()申請からサービス提供までの流れ

@ 障害者福祉サービスの利用について支援費の支給を希望する者は、必要に応じて適切なサービスの選択のための相談支援を市町村等から受け、市町村に対し支援費の支給申請を行う。

A 市町村は、支給を行うことが適切であると認めるときは、申請を行った者に対して支援費の支給決定を行い、支給決定通知書とともに、障害者本人に「受給者証」を渡すことになる。

B 支援費の支給決定を受けた者は都道府県知事の指定を受けた指定事業者又は施設に受給者証を提示して福祉サービスの利用の契約を結ぶ。

C 事業者は、障害者福祉サービスを提供する。

D 障害者福祉サービスを利用したときは、本人及び扶養義務者は、指定事業者又は施設に対し、障害者福祉サービスの利用に要する費用のうち本人及び扶養義務者の負担能力に応じて定められた利用者負担額を支払う。

E 事業者は、市町村に支援費支払(代理受領)の請求をする。

F 市町村は、障害者福祉サービスの利用に要する費用の全体額から利用者負担額を控除した額を支援費として支給する。   

 

()対象となる障害者福祉サービス

対象となる障害者福祉サービスは、「施設訓練等支援」と「居宅生活支援」に分かれる。

 ※この頁の上図全て厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/syakai/sienhi/020614/index.html)より引用

 

U 措置制度から支援費支給制度になってどのようにかわるのか

 

1.措置から契約への移行

 2003(平成15)年より、利用者本位の制度という視点から、福祉サービスの利用形態が措置制度から支援費支給制度に変更される。そして知的障害者の福祉に関する事務は、身体障害者の場合と同様、市町村へ一元化されることになる。

 措置制度では、行政が法的責任のもとでサービス提供を行い、その際、行政処分によりサービスの受け手を特定しサービス内容を決定していた。この場合、行政には措置に対する実施義務、費用負担義務、最低基準の維持・改善義務などが課せられていた。

 それに対し支援費支給制度は、利用者が事業者との『対等な関係』にもとづきサービスを選択するのが特徴である。当事者間の契約が強調されるため、行政はサービス提供からは撤退し支援費の提供に主な役割をもつ。利用者には自己決定が認められることになるが、自己責任が求められる。

 

 

 

 

2.支援費支給制度における国、都道府県、市町村の役割

(1)国

   国は制度全体の枠組みを示し、制度が円滑に使えるように都道府県および市町村への支援を行う。(社会福祉法第6条、第75条第2項及び第78条第2項等)

 

(2)都道府県

   都道府県は、市町村において制度が制度を円滑に行えるよう必要な支援を行うとともに、事業者、施設の指定及び指導、監督を行う。(社会福祉法第6条及び第75条第2項等)そして、市町村の援護の実施に関して、市町村間の連絡調整、情報提供などの業務を行う。

   措置制度では、知的障害者更生施設等への入所、知的障害者短期入所、知的障害者地域生活援助事業等に関する事務を行っている。 

   

(3)市町村

   市町村は地域住民に身近な行政主体として、障害者に対する支援体制の整備に努めるとともに、利用者本位の決め細かな対応により支援費の支給決定を行う。

制度の根幹部分である支援費額の支給量・支給期間、利用者負担額等を決めることになっている。制度についての一般的な情報の提供を行い、地域の実情に応じた障害者の支援体制を整備する。また重度の障害者などが施設から忌避されることがないよう、サービスの利用について調整を行い、必要に応じて事業者、施設に対して利用要請を行う。

 

支援費の支給については、障害者からの要請に基づいて各支給決定を行い、提供されたサービスに対して支援費の支給を行う。利用者の施設、事業者の選択への支援をし、支給申請の受付、支給決定、受給者証の交付、移転時の取り扱いを行い決定してゆく。

措置制度において市町村は、措置権者としてサービスを提供する役割をもっている。

きわめて限定的であるが、支援費支給制度の利用が困難な者に対する措置制度は残される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


V 支援費支給制度全体に関わる問題点 
 2003(平成15)年4月から導入される支援費支給制度。施行を前にたくさんの不安がささやかれている。それらをあらゆる視点から挙げる。

.選択、利用契約に関すること

1)選択できるほどの施設が無い
 法定外の無認可作業所は毎年300ヵ所のペースで増えつづけていて、現在6000ヵ所にも及ぶ。これは、裏返すと、認可の成人期障害者施設の不備・不足をいっている。さらに、障害者施設の地域偏在も深刻である。認可の障害者施設が全くない市町村も少なくない。

2)安心できない応諾義務
 サービス提供を拒否できる正当な理由
   定員に空きがない
   利用希望者の居宅地が地域外
   入院治療が必要

3)競争原理でサービスの質が向上するのか
施設整備や職員配置基準、職員の労働条件等の改善がない限り、あり得ないはず。競争原理にさらされるのは、限られたサービスを利用する障害者本人・家族である。

4)知的障害者への契約支援策が不十分
 国の対処策として、成年後見制度や福祉サービス利用援助事業がある。しかし、現実には費用負担の問題が災いし、ほとんど活用されていない。

.支援費制度の仕組みに関すること

1)支援費支給の要否、内容を決定する市町村の体制は整備されるのか
2)障害の状態に見合った障害区分がされるのか
3)障害程度区分を判定する職員の専門性は期待できるのか
4)施設利用は期間限定か
5)居宅サービスの支給量はどうなるのか
6)利用者負担はどうなるのか
7)施設基準、職員配置基準はどうなるのか
8)支援費の市町村格差が広がるのではないか
9)福祉サービス提供が必要なのに支援費が受けられない

.サービスの利用援助に関すること
1)サービス利用を援助する仕組みはあるのか
2)地域から孤立している障害者本人・家族への援助はあるのか

.グループホームに関すること 
1)重度障害者は利用できないのか
知的障害者グループホームの対象
   日常生活上の援助を受けないで生活することが可能でないかまたは適当でないこと
   数人で共同の生活を送ることに支障がない程度に身辺自立が出来ていること
   日常生活を維持するに足りる収入があること
対象者を非常に狭く設定している。

.その他
1)施設訓練等支援費と居宅生活支援費の併用は可能なのか
2)支援費の申請をしていない段階で緊急にサービスを利用しなければならなくなった場合はどうなるのか
3)ショートステイでの支給量自己管理では、緊急時利用を想定して利用抑制がすすむのでないか
4)支援費の支給が翌々月になる問題で、遅くとも翌月には支給すべきではないのか

5)支援費支給事務の委託先で、委託する場合の基準、委託先はどうなるのか。また、障害程度区分の判定も将来的には委託されることになるのか

6)強度行動障害等への適用が予定されている重度加算の内容はどうなるのか

7)居宅サービスでは障害程度区分による区別が必要ないのか

8)精神障害者社会復帰施設と小規模通所授産施設の将来的な扱いはどうなるのか

9)障害者ケアマネジメントの位置づけとして、手法を活用するのみで資格の確立は必要ないのか

10)市町村レベルでの単独加算の動向で、利用者個人に支給される支援費と、現在施設に支給されている重度加算等の市町村単独加算の関係はどうなるのか

11)公的責任が後退する

12)事業者・施設は支援費決定に意見が言えない

 

 


W 利用者から見た支援費支給制度の問題点と課題

1.判定 

(1)支援費の判定方法

居宅生活支援費は『支給量』が定められる。支給量は、1ヶ月当りの時間数で定められる。また、施設訓練等支援費は『障害程度区分』が定められる。2〜3ランクの障害程度区分が定められる事になっていて、重度と判定されると支援費が加算される。

これらの支援費の判定材料として、障害の種類・程度、心身の状況、介護を行う者の状況、支援費の受給状況、支援サービスの利用状況、利用意向の具体的内容、障害者の置かれている環境、当該指定施設支援の提供体制の整備状況・・・などのような項目が勘案される。また、施設の種別ごとの*「チェック項目表」も判定材料のひとつになる。

                                                       (2)支援費決定の有効期間

 支援費の支給期間は、国の定めた範囲内で市町村が独自に設定することになっている。

期間を設ける理由として、支援費決定を行った際の勘案事項が変化することがある。

適切な障害程度区分・支給量について見直しが必要である、というこの2点があげられる。

 障害の状態の変化に応じて的確な支給が行えるように、頻繁に判定する。支給の間期は

施設訓練等支援費は最長3年、居宅生活支援費はグループホームで3年、それ以外のサービスは1年である。支給期間が終了しても引きサービスの提供を希望する障害者は、申請の手続きを自分で行わなくてはならない。

 

(3)判定における問題点

 障害程度区分を行う際にチェック項目と共に、市町村職員が聞き取り調査を行って決定することになっているが、その職員が正確に相手の状態を判断できる知識を持っているのか? 支給期間を定めることで、行き場所もないままの状態でサービスが受けられなくなってしまう場合も考えられる。その時の受け皿はどうするのか?

 

(4)改善のための課題

 聞き取り調査を行う職員が、さまざまな現れ方をする障害(自閉症・重度重複障害・医療的介護の必要な障害)に対応できる専門的な知識を身につける必要がある。

 また、2〜3ランクという少ない区分で、多様な障害に対して的確な対応は困難である。もっと区分を厳密にし、本当にサービスを受けたい人が、受け皿のないまま追い出される事がいようにしていく必要がある。支援費の判定材料として、チェック項目以外にも、利用者の実際の生活状況を見て検討することも、加えると良いのではないか。

 

 

 

 

 

2.契約

 

(1)契約全般

@契約には必ず受給者証が必要

A契約に当たっては重要事項の書面の交付が事業者の義務

B契約は原則成年なら本人、未成年なら親権者である親、親がいない場合は未成年後見人の同意がいる。

C契約期間が施設サービス3年、グループホーム3年でそれ以外の居宅サービス1年を超えて契約してはならない。  

 

(2)判断能力が不十分な者に対する契約

   制度の活用

@     成年後見制度

家庭裁判所の審判によって後見(事理を弁識する能力を欠く者)補佐(著しく不十分な者)補助(不十分な者)の選任を受けた人が判断能力の不十分な成年者を支援する制度

   ★問題点・・・利用する際、鑑定料、高い後見人への報酬など

   

A福祉サービス利用援助事業

    社会福祉協議会が在宅の判断能力の不十分な人と福祉サービス利用援助契約結し、利用者と福祉サービス事業者との契約締結を援助する制度

   ★問題点・・・本人契約が前提なので重度障害者は判断できない、グループホーム

や入所施設利用者が対象外

   ※問題点が多くあまり制度が普及しないための厚生労働省の考え

   家族や本人が信頼する者が本人に代わって契約を認める方向である。

   ★問題点・・・契約関係の軽視、又民間任せであり、混乱を起こす恐れ

 

(3)サービスの種類ごとの契約

   @ヘルパー派遣、ディサービスの利用

    どの事業者からどのようなサービスを受けるか障害者本人が市町村と相談し事業者を決める。

    ホームヘルパー派遣はサービスの区分(介護の区分)ごとに契約する事業者決める。

問題点・・・障害者本人が支援費の範囲内で事業者と契約した月あたりのサービス量を把握して支給量を管理するため、支給内容がメニュー化され現場に即した柔軟な対応ができない心配がある事。

 

 

 

Aグループホームの利用 

 どの事業者からどのようなサービスを受けるか障害者本人が市町村と相談し事業

者決める。

 グループホームの利用については利用できる障害者については厚生労働省の条件があり、支給決定が決まった知的障害者であり、次の3つを満たしていること

 ・日常生活上の援助を受けないで生活することが可能でないか適当でない。

・数人で共同生活を送ることに支障がない程度に身辺自立ができている。

・日常生活を維持するのに足りる収入がある。

問題点・・・この上の規定により、実際現状でも重度の知的障害者の多くがグループホームを利用している中で重度障害者が排除される心配がある。厚生労働省は重度も認めていく方向は示すが実際は市町村の判断に委ねられる。

 

Bショートステイの利用

 利用の度に受給者証を示して事業者と契約

★問題点・・・月額支給決定量がありそれを超えてサービスを受けることができないため利用者の残り時間のしっかりとした管理が求められるが残量は管理しにくくいざ必要な時に残時間がゼロという事態

解決策・・・処理機関がかかる問題はあるが支給量の変更手続きをする。

        各市町村の自主的判断になるが例外的事例に対する措置制度利用

 

C施設訓練等支援費(施設福祉サービス)

多くの場合、市町村のあっせんや調整、要請などがあり、支援費支給が決定された段階で契約する施設がきまっている場合がほとんどとなる。又施設支援の種類が指定されるため指定された施設の種類の中から選択する。

問題点・・・小規模通所授産施設や無認可共同作業所は支援費制度の対象外となっている中で認可施設が少ないのに選択できるのかということ。

 

(契約についての課題)

1つは契約に関する判断能力が不十分な知的障害者を契約制度の対象にする事には問題があり、とりわけ重度の知的障害者にとってはその問題点が大きい。また契約制度の対象とするのであれば契約当事者として安易に家族や本人の信頼する者を代わりに認める方向ではなく成年後見制度の利用を普及させることが大切である。そのためには成年後見制度を利用すれば支援費が支給されるようになるべきである。

もう1つは、契約制度には多くのサービス供給があってはじめて対等な契約ができるのであって、現在不足しているサービス供給の是正に早急に国、地方自治体は対策を考えるべきである。

 

 

 

 

3.権利擁護・苦情解決について

 

(1)権利擁護について

@「権利擁護」制度が設けられた背景

措置制度から利用契約制度への転換を図る中で重度の知的障害者など契約能力を持たない人のために設けられた。

 

A権利擁護のための制度

a.新しい成年後見制度

・法定後見制度(民法:平成12年4月施行)

家庭裁判所の審判によって成年後見人、保佐人、補助人をつけ、本人の後見を行う制度。

 

・任意後見人制度(平成12年4月施行)

本人の判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見人との間で任意後見契約を締結し、自ら後見の内容を決めることの出来る新しい制度。

 

b.福祉サービス利用援助事業

  在宅の判断不十分な(法定後見制度の補助程度)痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者を対象に地域の社会福祉協議会が、在宅で生活する判断能力の不十分なサービス利用希望者と福祉サービス利用援助契約を締結した上で、利用者と福祉サービス事業者との間の契約締結手続きを援助する制度。

 

B制度の問題点

・法定後見制度は申立にかかる鑑定費用や、弁護士を後見人にした場合の後見人報酬が高額なこと。

・任意後見人制度や福祉サービス利用援助事業では判断能力が十分にないと任意後見契約を登記できないこと。

 

C制度の課題

・成年後見制度の報酬等への助成の拡大

・福祉サービス利用援助事業の利用料の無料化ないし引き下げ

・福祉サービス利用援助事業の対象者を身体障害者や施設利用者に拡大すること

 

(2)苦情解決制度

 苦情への適切な対応により、福祉サービスに対する利用者の満足感を高めることや早急な虐待防止対策が講じられ、利用者個人の権利を擁護すると共に、利用者が福祉サービスを適切に利用できることができるよう支援する制度。

 事業者は施設長、理事などを苦情解決者とし、利用者が苦情を申し出やすいようにするため、職員のなかから苦情受付担当者を任命し、また、苦情解決に客観性をもたせるために第三者委員を設置し、利用者苦情を制度的に解決することとなっている。また直接申し出にくい苦情や、第三者委員では解決できない苦情は、都道府県社会福祉協議会に設置された運営適正化委員会や都道府県に申し出ることができる。

 

苦情解決制度の問題点

  苦情の解決は基本的に利用者と事業者との話し合いに委ねるべきだと考えられているため、なかなか解決できず、うやむやに終わることがある。

  第三者委員の選任は事業者自ら行うこととされており、利用者の意向が反映されることはなく、中立性、公共性が確保されるかという疑問がある。

  苦情を申し出ることが困難な状態にある人はどうするのか。

  利用者が事業者から福祉サービス契約を拒否されたことに対する苦情は、苦情解決制度では解決できない。(事業者にも契約しない自由が一定の条件下で認められている)

 

(3)苦情解決制度の課題

  問題をスムーズに解決するための対応策

  中立性、公共性の確保

  誰もが苦情を申し出やすくすること

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.サービス評価

 

(1)なぜサービス評価が必要なのか

  2003(平成15)年4月より、障害者(児)福祉サービスの利用の仕組みが行政による「措置」から、利用者と事業者が対等な立場で「契約」を取り交わし、利用者自らが福祉サービスを選択し利用する支援費支給制度へと大きく転換する。

このような制度変更の下で利用者が、事業者の提供するサービスの中から、自分のニーズに最も適した事業者やサービスを選択するためには、それらを簡単に比較できる情報が必要である。そのための仕組みが、専門的な知識を持つ中立的な第三者が客観的にサービスを評価し、評価結果を利用者や事業者に広く情報提供するための第三者評価である。この第三者評価は現行では支援費支給制度の中に位置づけられていないが、この制度の本来的主旨からすると第三者評価は必要なはずである。

 このように第三者評価が定着していない現在、さきに導入された介護保険では利用者側から事業者を積極的に評価し、またランク付けしようとする動きも一部地方自治体からは出てきている。

 

(2)サービス評価の種類

@利用者評価

・大阪府堺市の介護保険での例

 さきに導入された介護保険では、大阪府堺市の高齢者でつくる「大阪高齢者福祉協同組合」が、介護保険のサービスを提供する事業者や施設の評価、格付けに乗り出した。学生ボランティアに加え、街を知り尽くした組合員らが事業者周辺やサービス利用者を「聞き込み」に回って実態を調べ上げ、独自の視点でランク付けをする。全国でもめずらしい高齢者の自衛の試みである。

  

 『……調査は昨年10月末から11月末まで行い、結果を事業者に伝えて、問題点について改善の意向を確認する。その上で、医師や大学教授らで構成する「格付け委員会」に諮り、「AAA」(最高)から「C」(不適格)まで5段階にランク付け。結果は組合員に公開する。格付け委員長でもある大阪高齢者福祉協同組合専務理事の吉谷治貞氏(75)は「利用者が望んでいるのは単なるサービスの評価ではなく、はっきりとしたランク付け。そうしないと、高齢者が自分で自分の身を守ることは難しい」と話している。』

(読売新聞 '0110/22号より引用)

 

この記事は支援費支給制度にも当てはまることであろう。利用者が知りたいのはサービス評価だけではなく具体的な事業者のランク付けにあるはずだ。

 

A事業者評価

 サービス評価には、事業者自らがサ−ビスの改善点を点検する「自己評価」があるが、事業者による主体的な評価のみでは、事業者間の比較の困難さやサ−ビス改善に向けた取組の格差などが予想される。

 

B第三者評価

 評価機関は、利用者の声を基に、多様な手法や項目でサービスの評価を行う。その際、利用者がサービスを相互比較できるような共通の評価項目が必要なので、それを設定し評価を行うことが重要である。また、その評価結果が評価機関によってばらつかないように、共通の判断基準を設けることも必要である。

次にサービス評価は、柔軟でニーズに即した評価が行えるよう、利用者や事業者ニーズの変化に応じてなされなければならない。また、評価機関についても行政が直接評価するのではなく、NPO、民間調査会社など多様な主体の参入が望ましい。

こうして利用者は、その評価結果を情報として入手し、比較検討した上で、福祉サービスを選択する。しかし、これまで主に行政による「措置」によってサービス提供が行われていた福祉サービスの分野においては、サービス評価を受けることや活用することが浸透していないのが実情なので、利用者の意識改革も必要だと考えられる。

 

(3)問題点と課題

 利用者は自分の生活のしかたを決めるにあたって、その意思を最大限に尊重される権利を持っている。サービスの選択にあたっては事前に十分な説明を受け、自らの意思で決定することが当然であるし、自己決定を内容あるものにするため、できるだけ多様な選択肢が用意されていることが必要である。その手助けとなるのがサービス評価であり、これを評価する手段は数多いが、この評価に値するよう努力している施設は数少ない。(介護保険での特養の場合など)

サービス評価を形骸化させないためにも事業者側はもっと利用者に選ばれるための努力をしなければならないだろう。また、それが「措置」から「契約」へと制度を大きく転換した理由のはずであるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.費用負担について

 

 現行の措置制度では、措置費は行政から直接事業者に支給され、措置権者が利用料を扶養義務者などから徴収している。2003(平成15)年4月より制度が変わり、支援費支給制度のもとでサービスが提供されたときは、本人または扶養能力に応じた利用者負担額を直接事業者に支払う方式となる。事業者は、利用者負担金と支援費を受け取ることで事業運営の費用にあてる。

 

(1)措置制度下における費用徴収方法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)支援費支給制度における利用者負担

 負担額の基準についてはまだ明らかにされていないが、厚生労働大臣が定めた基準を上回らない範囲内で利用者本人または扶養義務者の負担能力に応じて市町村がその基準を定めることとしている。具体的には、現行の費用徴収基準を軸に、

@所得に関わらず、必要なときに必要なサービスを利用できるようにすること。

A全体として、これまでの公費負担水準を維持することに留意しつつ、新しい利用制度への円滑な移行、障害をもつ人の所得の状況などを勘案し、現行の負担能力に応じた利用者負担、という考え方に沿って簡素で合理的なものとなるように検討していく、

としている。

厚生労働省は2002(平成14)年7月31日の社会保障審議会身体障害・知的障害分科会で、支援費制度について、利用者の所得に応じて、在宅サービスに自己負担の月額上限を設けることを明らかにした。具体的な金額は9月12日に公表されている。

 

 

(3)問題点

@制度変更により生じる問題点

 利用者は直接事業主に利用者負担額を払わなくてはならない。払うことができない場合はサービス停止さえありえる。

 厚生労働省は「正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないこととする規定(応諾義務)を置く」としているが、「サービスの提供を拒否できる正当な理由」の中には、「悪質な利用料滞納者の場合」という記述がある。悪質でなければサービスを拒めないとしても、その判定はサービス提供者に任される。

 

A扶養義務における問題点

 利用料の負担においては従来の考え方と同様に、まず本人からの負担額支払いに重点をおき、その補完的な位置づけとして扶養義務者からの負担額支払いを求めることとなっている。また、扶養義務者の範囲については、民法上規定される全ての扶養義務者を対象とするのではなく、措置制度で行われている費用徴収制度での取り扱いを超えない範囲で検討されることとなっている。

 厚生労働省は扶養義務者にも負担を求める理由としては、国民一般の親族扶養との均等化を考えると公平性に問題があり、適当ではないためとしている。ここで問題といえるのは、障害をもつ人ともたない人の日常生活を同視して扶養義務をあてはめている点にある。

 障害をもち日常生活にも支援を必要とする人々が、地域で暮らし社会参加をしていくための条件が、わが国では未整備である。そのために親や家族は多くの介護を支えざるをえない状況下にある。そのうえさらに扶養義務を強制することは介護などをする親族に大きな影響をもたらす。費用徴収の負担が親族に及べばその負担ができないか困難なものは、親族が介護をせざるをえない。それは親族の問題であるだけではなく、障害をもつ人の自立をはばむという問題にもつながるのではないだろうか。

 

(4)改善点

@ 利用者負担はa.費用負担は、親・兄弟姉妹に求めない、b.利用者本人の負担額の算定は所得税の対象から除外されている障害基礎年金は除外されるべきだと考える。

A 親族による介護を義務とするのではなく、ガイドヘルプサービスやレスパイトサービス等の福祉サービスが普及されること、扶養義務は最小限度の費用負担とされること、成年後見制度や福祉サービス利用援助事業にもっと焦点があてられること等が求められるのではないかと考える。

 

 

 


おわりに

  

 支援費支給制度が施行目前の中、数多くの問題が残されています。また制度自体の内容も、まだ不明な点が残っています。新しい制度が実施されるのですから、利用者にとってより良いものにならなくてはなりません。このまま制度内容が曖昧な状態でスタートさせるべきではありません。少なくとも、施行を延期すべきではないでしょうか。

 これまでに私たちがあげてきた問題と課題については、皆さんにも注目して頂きたいと考えます。そして本当に良い制度になるように、国や地方自治体は、制度を見直すべきだと考えます。また、サービスを提供する側が、利用する側が、そして私たち一人一人が強い関心を持ち、考えていくべきだと考えます。

 

 

 

 

 

  

 

○ 参考文献

NPO法人 大阪障害者センター編『よくわかる支援費制度』

                    かもがわ出版 2002年

・障害者生活支援システム研究会『障害者福祉改革への提言』

                    かもがわ出版 2002年

・福祉士養成講座編集委員会『障害者福祉論』

                    中央出版 2001年

・支援費支給制度における市町村の役割

            http://www/nifty.ne.jp/forum/fskyw/wel/1221/04.htm

・読売新聞 2001年10月22日号