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今月のことば

2018年6月 ものがたり心理学研究所の発足

 ものがたり(ナラティヴ)心理学研究所を発足させました。今までより自由な立場になって、ものがたり心理学の研究をさらに発展させていきたいと思っています。また、講演や研修の依頼など、いろいろな問いあわせも多いので、多様なニーズに応えていけたらと思っています。
 この春に2度目の定年を迎えました。それとともに、残された人生をどのように生きるか考えました。そして、わずかでも自分に力があるならば、それをできるだけ社会貢献のために使いたいと考えるようになりました。以前よりも、人びとから求められることがあるならば、できるだけ応えていきたいと思います。そのために、新しく工夫して、あれこれ研修やワークショップの方法を考えるのは、楽しみでもあります。
 もちろん、著作集の完成など、やり残した仕事がまだたくさんあります。ライフワークをしっかり完遂させていかねばなりません。
 でも、ふしぎなことに、明らかに老いのさなかにいるのに、人生半ばのころよりも、終末が迫っているという切迫感がありません。40代のころは、「人生のしめきり」を予感して、「まだまだ、これもあれもやらねばならないのに、時間がない」とあせっていました。しかし、70歳になった今のほうが、「人生いつまでもつづく、急いでもしかたがない」という感じで、毎日のんびりと生きています。「泰然自若」の心境になったといえば、聞こえは良いのですが、たぶん、研ぎ澄まされて震えていた若いときよりも、感度がにぶってきたのでしょう。高齢のドライバーが、「自分はいつまでも大丈夫」と、根拠のない自信をもっているのと同じでしょう。
 人間は、ほんとうに良くできていますね。「歳をとること」「衰えること」は、若いときほど怖くて、自分がそのさなかになったら、たいしたこととは感じないほど、感受性もにぶくなっていくのです。きっと「死」も同じでしょう。本当に「死」の際になったら、意識もうすれて眠るようにぼんやりしていくのではないでしょうか。
 歳をとってより楽しめるようになったこともあります。梅雨など、若いときはうっとうしいだけでした。でも今では、天からふるそそぐ雨が田んぼを潤し、野菜をはぐくみ、生きものにいのちの水を与えてくれるのだと実感できます。
 天と地は、雨でむすばれているのです。春に赤い芽をだしたもみじも、梅雨のころには、すっかり緑濃くなって、細い枝もおもたくなります。青もみじの枝に雨が静かに降りそそぐと、繁った青葉が露で濡れ、枝先がたわみます。したたり落ちていく水滴のあとを追っていくと、水たまりになり、小さな流れができていきます。天から地へとうつろっていく雨のしずくの行方を眺めていると、こころも潤ってきます。今日一日終わってみると、雨のしずくを眺めていた「ひととき」がいちばん良い時間だったと思える日もあります。
 それにしても、「つゆ」、梅雨、露、なんて、すてきな語感の響きでしょうか。いったい、いつ、誰が、名づけたのでしょうか。

  ものがたり心理学研究所

(写真) 雨のキャンプもそれなりに楽しい思い出になるかも・・・。



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