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今月のことば

2017年10月 水木しげるの仕事場と「境港」

 米子にある鳥取大学の医学部で特別講義を頼まれたとき、その前日に境港にある「水木しげる記念館」を訪ねてみました。
 ゲゲゲの鬼太郎やおなじみの妖怪や不思議なキャラクターがたくさん出迎えてくれました。水木しげるの仕事場も再現されていました。ここのところ、あちこちの記念館に出向くたびに、その方々が、どのような場所で何を見ながら、どのようなものを身近において仕事をしていたのかに思いをはせています。そして、書斎のたたずまいを写真に撮ることが多くなりました。
 たぶん、その一番初めは、20年以上前にロンドンのフロイトの家に行ったとき、机や椅子や周囲にあったアフリカの置物などに魅了されたからでした。フロイトが座った重厚な椅子を見ているだけで、何か霊気のようなものが立ち昇ってくるように思えました。アンティークの机や椅子がとりわけ好きで、家にいくつも使わない木の椅子を置いて眺めていることとも関係しているのかもしれません。
 あいにくの激しい雨でゆっくり街を歩くことはできませんでしたが、水木しげるさんの生家の場所が興味深かったです。生家は、海から引かれた「水路」に面していて、彼はいつもその水路を眺めていたのでした。それは、荒々しい激しい波打つ日本海に直接面した断崖絶壁ではなく、穏やかな水路であり安心できる場所でした。それでありながら、遠くへ出かけて商いをする北前船が行き交い、すぐに海洋に出て大陸とも簡単に行き来できる場所でした。さまざまな「文化」が混交し重奏する文化の「境」、嵐のときには船が避難することもできる「港」、まさに「境港」で彼は育ったのでした。
 水木しげるさんが「のんのんばあ」と呼んでいたおばあさんに、昔話を聞き、寺で地獄絵などを見たことも、彼の子ども時代の体験として重要だったようです。「現実とイマジネーション」「この世とあの世」の境界に住みながら、妖怪たちと戯れ楽しく交わることができた、その心性は、まさに「境港」に育まれたのかもしれません。

(写真)水木しげるの仕事場



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