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今月のことば

2018年11月 場所の力-沖縄の学会

 沖縄の名桜大学で日本質的心理学会第15回大会が開催されました。京都を出たときは、気温が10度で震えていたのに、空路で沖縄へ着いたときは25度、薄着になった肌に夏のような太陽が照りつけて、海が青く輝いていました。
 大会には、大学全体で取り組んでいただき、学生さんたちもにこにこ親切で、あたたかいおもてなしの気が満ちていました。私も、九州大学の南博文さんと共に、大会主催シンポジウム「場所の力-沖縄で語ろう」を企画しました。また、「視覚イメージで語る-ビジュアル・ナラティヴ」と題した講演をしました。懇親会ではみんなが一体になって踊っておおいに盛り上がりました。
 沖縄を訪れる人は増えており、空港も大混雑でした。けれど、那覇やリゾートに出かける人は多くても、辺野古にも近い名護市まで出かけて、沖縄の多様な地域に密着した暮らしを知ろうとする人は少数派です。それで第15回大会という記念すべき大会が、沖縄、それも名護市で開催されたことはとても大きな意味があるでしょう。
 現地にいかなくても美しい写真や情報はネットで手に入りますが、その土地に行き、そこの風景につつまれ、そこの空気や匂いをかぎ、そこの人々とふれあって、はじめて身にしみるようにわかってくるものがあるからです。
 今回が第15回大会だったので、私が大会長をした京都大学の第1回大会を振り返って語ってくださった方々も多くいました。京都もまた「場所の力」が深くわき出してくるところで、第1回大会は多くの方々の熱気の渦につつまれた伝説の学会になりました。また、北海学園大学で開催された第6回大会のときの「アイヌの方々との対談」を思い出して語ってくださった方もいました。質的心理学会は、主催校の特色や個性が色濃く反映したユニークなものとなり、毎回感動させられます。
 11月、北海道では雪が降っているのに、沖縄では夏の太陽が輝いている、風土も気候も違っている長い日本列島です。多様な「場所の力」が交差しながら、今ここでふつふつとわいてきて、生きた力になっていくことを実感しました。


 沖縄は多くの美しい南の島々からなり、海洋文化が重奏する場所であり、民衆の共同体が息づく場所であり、ふしぎな「気(スピリット)」がただよう場所である。それは、内の者にとってはもちろん、外からやって来る者にとっても、こころ魅かれ、こころ満たされ、こころ開かれる特別な力を持つところである。
 場所がもつ力は、ゲニウス・ロキと呼ばれる。沖縄という土地(loci)に宿る、たましい、精霊、原初的なもの(Genius)の声に耳を澄ましてみよう。「心」が、個人の単位に孤立して考えられがちなのに対して、ガイスト(Geist)は、第一義的には、共同的な働きである。たましいは、故郷を持ち、そこに帰って行くという観念が、宗教と呼ばれる以前に人々が抱いた共同体意識の原型のひとつであっただろう。
 人のこころは、もともと共同体の中に生まれ、育くまれ、いくつもの世代を超えて引きつがれてきた大きな次元の「こころ」の働きに属すものであった。そして、それは場所に根ざしたもの、ローカルなものである。そして、ローカルなものこそ、多様な声を発する源になる。
 沖縄という場所に宿るスピリットとは、何だろうか。それは人々が生きる息づかいであり、人と人が行き交う市場にただよう気配であり、人々の骨格をつくっている精神であり、この世とあの世をむすぶたましいの動きであり、新鮮な新しい空気を吸い込んでいのちをつないでいく営みである。

(日本質的心理学会第15回大会 大会主催シンポジウム企画趣旨より)
(写真) 沖縄、名護の海



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