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今月のことば

2019年2月 95歳のお誕生日

 ひとり暮らしをしていた義母がベッドから落ちて倒れているのを発見して、緊急入院してから、2年がすぎました。病院を退院してからは、有料老人ホームへ、そして現在は特別養護老人ホームに入所しています。
 さいわい、これという病気はなく、痛いところもないようですが、最近は足腰や身体の衰えに加えて、認知症もひどくなってきました。入所した当初は要介護3でしたが、現在は要介護5になり、ちょっとした移動も自分では難しくなり、何をするにも人の世話が必要になりました。このごろは昼間でも、食事中でも、うつらうつらと車椅子にのったまま眠っていることが多くなりました。
 特養の介護士さんたちから、義母が95歳になるのを記念して、何かイベントをしたらどうかという提案がありました。そこで義母に希望を聞いたところ、「いちど家に帰りたい」ということだったので、実現する準備をしました。
 当日はあいにくの雨でしたが、ホームで介護用の車を用意いただき、2人の介護士さんに援助していただき、夫と私と5人で2年ぶりに一時帰宅しました。段差がある玄関を車椅子ごと運ぶのは大変で、介護士さんがお姫様抱っこをしてくださいましたが、おばあちゃんはうれしそうでした。
 「家に帰ってもわかるかしら?」と周囲のものが心配していたのがうそのようで、長年暮らした家に入ると、ふだん見たことがないような笑顔になり、はしゃいで大きな声を出して、足をばたばた動かしました。長年隣に住んでおられる92歳の知人の方もかけつけてくださって、お互いに手をとりあって再会をよろこんでいました。
 庭に咲いていた梅やつばきを採って、ホームに持ち帰りました。おばあちゃんは、いつも庭の花を丹精こめて育て、玄関や座敷に飾っていましたが、今では関心がなくなってしまいました。しかし、ホームのお年寄りの方が「きれいだね」と言ってよろこんでくださいました。
 翌日は、施設の職員の方々が手作りケーキをつくってくださり、入所者のみなさんが集まって95歳の誕生日パーティをしました。みんなで大きな声で拍手をしながら、誕生日の歌を何回もうたいました。けれど、おばあちゃんは前日に家へ帰った疲れが出たのか、車椅子に乗ったまま、ぐっすり眠ってしまって、どんなに話かけても起きませんでした。おばあちゃんは夢の中でしたが、とてもアット・ホームなこころあたたまる時間でした。
 「入所したころは、いろいろお話もでき、私たちのことも気づかってくださったので、人気がありますよ」と介護士さんがおっしゃってくださいました。
 ひとり暮らしが長く、気丈に人の助けを拒んでいた義母が、今ではおおぜいの人たちに囲まれて、たくさんの支援を受けて、なごやかに晩年の時間を過ごせていること、ほんとうに有り難いことだと感謝の気持ちでいっぱいになりました。



写真上 2年ぶりに家に帰って隣人と再会をよろこぶおばあちゃん 写真下 95歳の誕生日パーティ。おばあちゃんは夢の中



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