2024.05.01 NEWS

光強度が大きいほど着色効率が増大するフォトクロミック分子の開発 -光反応の高空間分解能化・高コントラスト化にも繋がる成果-

 立命館大学生命科学部の小林洋一教授、永井邑樹助教、同大学大学院生命科学研究科博士前期課程(研究当時)の河合彦希さんらの研究チームは、青山学院大学理工学部の阿部二朗教授と共同で、市販の試薬から簡便に合成できるローダミンスピロラクタム※1誘導体において、光強度が大きいほど着色効率が増大するフォトクロミック反応※2が生じることを発見しました。本研究成果は、2024年4月10日19時(日本時間)にドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 簡便に合成可能なローダミンスピロラクタム誘導体を用いて、照射光強度が高いほど着色効率が増大するフォトクロミック反応を開発
  • 光増感剤※3の添加によって、応答波長を青色光から赤色光まで拡張可能
  • フォトリソグラフィーをはじめとした光関連技術の高空間分解能化に加え、低エネルギーの光を有効利用できる光機能材料の開発に寄与することが期待

研究成果の概要

 光強度が大きいほど反応効率が増大する非線形フォトクロミック反応※4は極めて高い空間分解能の光反応を可能にすることから、フォトリソグラフィーや光ディスク、3Dプリンティングをはじめとした光関連技術の高精度化、高密度化のために重要視されています。しかしながら、既存の非線形フォトクロミック反応を示す分子は複雑な構造や合成手順を有するものがほとんどであり、広い応用展開上の大きな制約となっていました。本研究では、市販の試薬からわずか2ステップで合成できるローダミンスピロラクタム誘導体において、三重項-三重項消滅※5に基づく非線形フォトクロミック反応を見出しました。また光増感剤を添加することにより、その光応答性を青色光から赤色光にまで拡張することにも成功しました。本研究で得られた知見は、光反応や分子の光操作の高空間分解能化や高コントラスト化に基づく次世代光技術の開発に加え、低エネルギー光の有効利用やその生体応用にも寄与することが期待されます。
図1.本研究の概念図
図 1.本研究の概念図

研究の背景

 光照射によって分子の色や構造を可逆的に変化させるフォトクロミック反応は、材料物性や機能の光制御を目的として極めて広範な分野において活用されています。とりわけ、照射光強度が大きいほど反応効率が増大する非線形フォトクロミック反応は、高空間分解能かつ高コントラストの光反応を可能にするため、ホログラフィーや超解像顕微鏡、光遺伝学などに応用されてきました。しかし非線形フォトクロミック反応を実現するにはフェムト秒パルスレーザー(ピーク出力:~GW cm-2)のような極めて強い光、あるいは複雑な分子設計や合成手順が必要であり、広範な応用展開を阻んでいました。

研究の内容

 本研究では、フォトクロミック化合物として知られるローダミンスピロラクタムにペリレンを導入し(Rh-Pe,図2(a))、そのフォトクロミック特性を調査しました。この結果、Rh-Peは市販の試薬からわずか2ステップで簡便に合成できるのにも関わらず、励起光強度が大きいほど着色効率が増大する非線形フォトクロミック反応が見出されました。例えば、紫外LED(0.4 W cm−2)を20秒照射してもほとんど光着色はみられない一方、より強度の低いナノ秒(ns)パルスレーザー(平均強度0.3 W cm-2)ではたった10秒間の照射だけで顕著な光着色が観測されます(図2(b))。この挙動は、パルスレーザーでは瞬間的な光強度が大きいために、より効率よくフォトクロミック反応が進行するために生じます。

図2 図2.(a) Rh-Peの分子構造とフォトクロミック反応; (b) 紫外LED および紫外ナノ秒(ns)レーザー照射によるRh-Pe溶液の外観変化

 またこの非線形フォトクロミック反応には、励起三重項の生成と三重項-三重項消滅が関与していることが明らかにしました(図3)。この機構を踏まえて光増感剤を使用したところ、通常紫外または青色光にしか反応しないRh-Peのフォトクロミック反応を、赤色光によっても引き起こすことに成功しました。

図3 図3.Rh-Peの非線形フォトクロミック反応の機構の概略

社会的な意義

 簡便に合成できる分子において非線形フォトクロミック反応を実現した本研究は、非線形光反応の広い応用展開に向けて重要な知見をもたらすものです。例えば、フォトリソグラフィーや光ディスク、3Dプリンティングなどにおいて、光の回折限界を超えた高空間分解能の実現に繋がることが期待されます(図4)。また本研究では、低エネルギーかつ生体適合性の高い赤色光を用いたフォトクロミック反応にも成功しており、太陽光を有効利用する技術や、生体応用を志向した光応答性材料の開発にも貢献すると考えられます。

図4 図4.非線形性に基づく光応答の高空間分解能化

論文情報

  • 論文名: Nonlinear Photochromic Reaction Based on Sensitizer-Free Triplet-Triplet Annihilation in a Perylene-Substituted Rhodamine Spirolactam
  • 著者:河合彦希1、永井邑樹1、辻 栞奈1、岡安祥徳1、阿部二朗2、小林洋一1
  • 所属:1立命館大学生命科学部、2青山学院大学理工学部
  • 発表雑誌: Angewandte Chemie International Edition
  • 掲載日: 2024年4月10日(水) 19:00(日本時間)
  • DOI:10.1002/anie.202404140
  • 掲載URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202404140

用語説明

ローダミンスピロラクタム*1
学術研究や産業において広く用いられるローダミン色素をアミン類と反応させることによって簡便に合成できる化合物。光や酸、金属イオンなどに応答して可逆的に分子構造が変化することが知られている。
フォトクロミック反応*2
光によって材料の色が可逆的に変化する反応。有機化合物のフォトクロミック反応においては、分子構造の変化を伴うことが多い。
光増感剤*3
光を吸収してそのエネルギーをほかの分子に渡す役割を果たす物質。
非線形フォトクロミック反応*4
光強度が大きいほど反応効率が増大するフォトクロミック反応。通常のフォトクロミック反応の着色量は光強度と線形関係(比例関係)にあるが、非線形フォトクロミック反応では着色量が非線形的に変化する(例えば光強度の2乗に比例)。
三重項-三重項消滅*5
三重項励起状態(電子的に高エネルギーな状態である励起状態の1種)にある2つの分子が衝突し、片方の分子のエネルギーがもう一つの分子へと受け渡される現象。

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