立命館法学 2000年3・4号上巻(271・272号) 270頁




消費者信用取引における提携貸主の責任(鹿野)

− 英国消費者信用法をめぐる議論の展開 −


鹿野 菜穂子


 

一  は じ め に

二  英国消費者信用法(CCA)における提携貸主の責任
  1  提携貸主の責任に関する二つの規定
  2  CCA七五条の規定内容
  3  CCA七五条制定の根拠

三  提携貸主責任をめぐる議論の展開
  1  判例・学説の展開
  2  貸主責任の削減をめぐる近時の議論

四  む  す  び





一  は  じ  め  に


  消費者信用取引の件数は、この半世紀の間に著しく増加した。なかでも、消費者が、物品を購入し又はサービスの提供を受ける際に、その対価を、供給業者と一定の関係に立つ与信業者(提携貸主)に支払ってもらい、後に消費者が与信業者にその返済を行うという形態(第三者与信型)が多く利用されるようになり、さらにクレジットカードの普及は、その増加の動きに拍車をかけた。しかし、この第三者与信型の信用取引においては、二当事者間の信用販売などには見られなかった困難な問題が生ずることになった。その最大の問題は、販売契約ないしサービス供給契約に無効・取消原因が存することが判明した場合、あるいは、供給業者の給付した物品やサービスに瑕疵があり又は供給業者がおよそ物品やサービスの給付を行わない場合等において、消費者は、与信業者に対していかなる主張をなしうるのかという問題である。
  周知の通り、日本では、これは特に、消費者が販売契約におけるこのような事由を抗弁として与信業者に対する支払いを拒むことができるかを中心に、「抗弁権の接続」ないし「抗弁権の対抗」の問題として論じられてきた(1)。そして、立法の上では、昭和五九年の割賦販売法改正により、割賦購入斡旋契約について消費者の抗弁権を認める規定(割販三〇条の四)が新設されるに至り、さらに平成一一年の改正で(2)、抗弁接続が認められる取引の対象が拡大されたが(3)、同法は基本的に、政令で指定された商品・権利・役務のみを規律するという「指定制」を維持しており、その対象が限定的なので(4)、同法の適用対象外の取引に関する法的処理は、なお、一般法の解釈の問題として残されている(5)。しかも、同法の適用対象取引についても、消費者が、支払拒絶にとどまらず、さらに既払金の返還や供給者の不履行による損害の賠償まで債権者に請求しうるのかは明確ではなく、従来、むしろこれを否定するのがわが国の判例・学説の一般的傾向であった。しかし、この点については、立法論・解釈論の両面から、なお検討の余地があるように思われる。一般に、消費者による支払拒絶の抗弁に甘んじること以上の積極的責任を与信者に負わせることは、与信業者にとって過重な負担となり、健全な信用取引の発展を阻害するという危惧がその否定の基礎に存するようであるが、本当にそれが一方的に与信業にダメージを与えることになるのかについての検証は、必ずしもなされていないように思われるのである。
  本稿では、第三者与信型の消費者信用契約における提携貸主の責任を検討する際の一つの端緒として、英国の一九七四年消費者信用法(Consumer Credit Act 1974: 以下では、CCAとして引用する)七五条をめぐる議論を取り上げたい。周知の通り、CCAは、世界に先駆けて制定された包括的な消費者信用法の一つであり、制定当時はもとより今日のヨーロッパ諸国の法制度と比較しても、消費者保護に厚い規定を数多く含んでいる。そして、特に七五条は、消費者(=借主)に対する関係で提携貸主に供給者と同じ責任を課する規定である。もちろん、この重い責任を課することについては、制定当時から今日に至るまで、金融業界からの反対論も多く提起されたのであるが、そのたびに、この規定の立法理由の正当性が確認され、同法はその基本的な内容を変えることなく今日に至っているのである。この法律は、既に制定から四半世紀を経過しており、日本においてこの法律の内容全般を紹介する文献も少なからず存在するのであるが(6)、同法の七五条に焦点を当て、それが制定された根拠及び同条をめぐる最近の議論をあらためて見てみることは、わが国における抗弁接続の問題を検討するにおいてなお意義を有するであろう。

二  英国消費者信用法(CCA)における提携貸主の責任


1  提携貸主の責任に関する二つの規定
  CCAは、提携貸主の責任につき、重要な二つの規定を置いている。一つは、五六条であり、これによれば、二者間又は三者間の信用取引において、債務者と予備交渉にあたった者の表示その他の全ての折衝は、債権者の代理人の資格で行なったものとみなされ(同条二項)、その結果、債権者はそれらの表示その他の折衝に対する責任を負わされる。予備交渉における折衝についての責任であること、代理の擬制という構成を通して債権者に責任を負わせていることが特徴的である。もう一つは、七五条であり、これは、三者間の信用取引において、提携貸主は、供給者が不実表示または契約違反に基づいて債務者に対して負うのと同様の責任を、供給者と連帯して負わなければならない旨規定するものである。
  この二つの規定は、要件と効果における違いから、互いに補いあって貸主責任を強化しているのであるが(7)、本稿では特に、第三者与信型の信用取引において供給者の不履行等につき与信者に重い責任を負わせている七五条に焦点を当てて、以下の叙述を進めたい(8)

2  CCA七五条の規定内容
  まず最初に、CCA七五条の条文とその意義を確認しておこう(9)
七五条[供給者による違反についての債権者の責任]
  (1)  第一二条(b)号もしくは(c)号に該当する「債務者ー債権者ー供給者契約」の債務者が、その契約により融資される取引に関して、供給者に対して不実表示または契約違反に基づく請求権を有する場合には、その債務者は、債権者に対しても同様の請求権を有するものとし、その債権者は、その債務者に対し、供給者と連帯して責任を負うものとする。
  (2)  債権者と供給者との間に別段の合意がある場合を除き、債権者は、債務者が提起した訴訟において防御するために負担した合理的な費用を含め、第一項に基づく自己の責任を履行することによって被った損害につき、供給者に対し、求償権を有する。
  (3)  第一項は、次の請求権には適用されない。
    (a)  事業外の契約に基づく請求権、または、
    (b)  供給者が百ポンド以下または三万ポンドを超える現金価格をつけた商品に関する請求権。
  (4)  本条は、債務者が当該取引を行なうにあたり、信用限度を超過しまたはその他の契約条項に違反した場合でも適用される。
  (5)  第一項に基づいて債権者に対して提起される訴訟においては、債権者は、裁判所規則に従い、供給者をその訴訟の当事者とすることができる。
  本条は、物品やサービスの供給契約が、供給者と提携する第三者による与信と結合して行なわれた場合につき、与信者(提携貸主)は、供給者が不実表示または契約違反に基づいて債務者に対して負うのと同様の責任を、供給者と連帯して負うものとする規定である。本条が適用されるためには、まず、当該信用契約が、第三者与信型であって、しかも与信者と供給者との間の取決め(arrangement)に基づいて行なわれたことが必要である。CCA一二条は、信用の供与が物品やサービスの供給と結びついて行なわれる場合、すなわち、「債務者ー債権者ー供給者契約(debtor−creditor−supplier agreement: 以下、dーcーs契約という)」につき、次の三つの場合を、CCAの適用を受ける規制消費者信用契約(regulated consumer credit agreement)として規定する@与信者と供給者が同一人である場合(一二条(a)号)、A与信者と供給者は別人であるが、利用目的を限定した与信が、供給者と与信者との間の事前の取決めに基づきもしくは将来の取決めを予定して行なわれた場合(一二条(b)号)、B同じく与信者と供給者とが別人である場合において、利用目的を限定しない与信が、両者間の事前の取決めに基づいて行なわれ、与信者が、当該与信が当該債務者と供給者との間で利用されることを認識していた場合(一二条(c)号)。@は一般に「二者間dーcーs契約」と呼ばれ、AとBは「三者間dーcーs契約」と呼ばれているが、七五条の適用があるのは、AとBに限られているのである(七五条一項)。
  また、与信者が与信を業としており且つ当該与信がその事業の一環として(七五条三項(b)号)、個人に対して(八条二項)行なわれたこと、供給される「商品の現金価格」が百ポンドを超え且つ三万ポンド以下であること(七五条三項(b)号(10))、「信用供与額」が二万五千ポンドを超えないこと(八条二項(11))なども同条適用の要件とされている。
  さらに、一九八九年消費者信用(除外契約)規則(The Consumer credit (Exempt Agreements) Order 1989:SI 1989 No. 869)は、CCAのルールの適用が除外される契約について定めているところ、それによれば、確定額信用(fixed sum credit)で、債務者の支払が四回以下で且つ契約から一二ヶ月以内に行なわれるべき場合や、継続勘定信用(running account credit)において、定められた各期間の与信額が一回で返済されるべき場合は、この除外契約に該当するとされている(Order Art 3 (1) (a), (b))。したがって、クレジットカードで商品を購入する場合でも翌月一回決済とした場合や、アメリカンエクスプレスやダイナースクラブなどのいわゆるチャージカードで支払いをした場合には、与信者は本条の責任を負わない。
  なお、本条二項は、与信者の供給者に対する求償権を規定し、不実表示や契約違反による責任を最終的に負うのは供給者であることを明らかにしている。

3  CCA七五条制定の根拠(クロウザーレポート)
  CCAの内容は、クロウザー委員会の報告(通称クロウザーレポート)に基づく。すなわち、英国では、それまで、個別の立法によって消費者信用の問題に対処していたが、それは、信用形態によって保護ないし規制が異なるという不均衡を生じ、また、新たな中間的信用形態の出現に対して十分に対応できないという問題も生じていた。そこで、一九六八年、消費者信用についての広範な再検討を実施するために、クロウザー卿(Lord Crowther)を委員長とする委員会(通称クロウザー委員会)が通産大臣の任命により設置され、同委員会は、一九七一年に報告書を提出し、それに基づく法案が通産大臣を通して国会に提出された(12)。この報告書は、消費者保護の見地から、包括的消費者信用法の必要性を説くと共に、その新たな立法へ向けた具体的な枠組みを提示したのであって、この勧告を受けて一九七四年に制定されたのが、CCAなのである(13)。本稿で取り上げる七五条も、この報告書の勧告に基づいているのであるが、後に見るように(三2)、本条文に関する改正が問題とされるたびに参照されるのがこのクロウザーレポートであることから見ても、同レポートが今日でもこの問題にとって大きな意味を有することは明らかである。そこで、以下では、やや冗長なきらいはあるが、七五条を設ける必要性とその根拠についてのクロウザーレポートの叙述を紹介しよう。

  (1)  提携与信者の責任についての政策的基礎
  クロウザーレポートは、まず、CCA五六条との関係で、与信者が、ハイヤーパーチェス(買取選択権付賃貸借)契約において、商品の欠陥に対してのみならず販売店が行った表示に対しても責任を負わされるのは何故かという問題に触れ、「この場合の金融会社は、借主が自ら銀行に借金を申し込む場合における銀行のような純粋に独立の貸主の立場にあるのではなく」、むしろ、「あらゆる意味で、自らの事業の推進媒体としての販売店に依存しており」、金融会社と販売店は、相当程度において共同事業に携わってるといえることを強調する。これに続けて、レポートは、これと異なり「売買契約が販売店によって行われ、金融会社は単に消費貸借契約によって資金を融資するにすぎない場合には、もはや金融会社にこのような責任を負わせる根拠はないのか」という問いをあらためて立て、この場合にも与信者責任を認めるべきだという結論を、次のようにして導く(14)
  「私達はここでも、完全に独立した貸主と、売主との関係により提携貸主として扱われるところの貸主とを区別しなければならない(15)。……前者については、商品の欠陥に責任を負わせる根拠は認められないが、提携貸主の場合には、異なった考慮が妥当するのである。事業に対する貸主の圧力及び貸主の提供する経済的誘引が、売主が不実の表示によって販売量を増加させようとし、あるいは瑕疵ある物品を供給することの一因となっているにもかかわらず、貸主が全ての責任を拒否することができ、借主に対してローンの支払いを続けるよう請求できるとすることは、果して妥当であろうか。我々はそうは考えない。確かに、我々も、最終的な責任を負わなければならないのは、自ら不実表示を行い又は瑕疵ある物品を供給した売主であることは認める。しかしながら、我々は、売買が直接に販売店と顧客との間で行われる場合にも、その借主に、売主に対する法的権利を与えるだけで十分だとは考えないのである。」[6. 6. 24]
  「買主が売主に対して法的権利を持つだけでは実際に十分な保護にならないということについては、多くの理由が存する。評判のよい売主の場合には、通常、[顧客からの]正当な苦情に対処する用意があり、また、苦情の出される問題を改善していくであろう。しかし、買主が被害を受ける場合の大多数は、買主の間での評判が怪しく、売主は貸主から経済的支援を受けることによってはじめてその事業を継続しうるような場合である。瑕疵のある物品の供給を受けた買主は、そのような売主から賠償を得るためには自らが訴訟の費用と労力を負担しなければならず、そのイニシアティブをとる負担も買主に課されること、そして場合によっては、売主の経済状態が非常に悪く、たとえ自分が勝訴してもその判決で認められた救済を実際に得ることは疑わしいということを知るだろう。訴訟の経済的負担と闘っている間にもなお、買主がローン契約に基づいて貸主に支払いを続けなければならないとすれば、買主による売主に対する権利行使の困難はさらに増大する。この種の問題は、セントラルヒーティングの設置契約に関して特に多く見られた。すなわち、供給者が履行を全くしないか又は設置したヒーティングシステムが機能せず、しかも消費者が賠償を得る前にその供給者が破産状態に陥ったため、消費者は、第三者と締結したローン契約に対する責任だけ負わされたままになった、というケースが数多く存在したのである。また、当該物品によって収入が得られ、それによって買主がローン契約に基づく割賦債務の支払いを継続できるという説明を受けて、買主がその購入を決心した(例えば編物機械)ような場合には、特別の困難が生ずる。この場合において、その機械が動かないことが判明したときには、当該買主の資金計画の基礎が全く崩れてしまうのである。」[6. 6. 25]

  (2)  提携与信者責任のあり方
  クロウザーレポートは、このように、供給者の不履行等があった場合に与信者に責任を負わせることが法政策的に妥当であると述べた上で、より具体的に、いかなる形での責任を負わせるべきかにつき、さらに検討を加える(16)
  「提携貸主に対する法的主張を借主に認める際、その方法として三つの異なったものが存する。第一は、予備交渉において売主によってなされた不実表示、及び、物品の権原、目的適合性又は品質についての契約条項違反につき、貸主に賠償責任を負わせるというものである。これに代わる中間的方法は、貸主は積極的な損害賠償責任は負わないが、借主は、ローン契約に基づく貸主の弁済請求に対する防御として、自分がそのような不実表示や契約違反について有する権利でそれを相殺することができるとするものである。第三のアプローチは、借主に、まず売主に対する権利行使をさせ、貸主は、売主の支払い不能のために消費者[=借主]が売主から救済を得られない場合にのみ、消費者に対して責任を負うとするものである。この最後の解決法は、金融会社らによって主張されたものである。すなわち、金融会社側は、売主と提携した貸主は売主によって行われた不実表示や契約違反に対して自らある程度の責任を負わなければならないことは承認するとしても、この責任は、売主の支払能力を保証する二次的責任に限定されるべきだと主張したのである。」[6. 6. 26]
  「我々[クロウザー委員会]は、上の第一のアプローチを採用すべきであるという結論に達した。[第二の救済方法についてみると]、借主がローンの相当部分を支払ったときに初めて〔売主の不履行等に基づく〕借主の権利が発生し又は行使される場合には、単なる相殺権は、借主にとって適切な保護を与えないであろう。しかも、[第二の方法によれば、]自分の割賦債務を期日通りに支払ってきた借主は、支払いが滞りがちであったためクレームの性質及び範囲が明らかになった時点において相殺権行使の対象となる負債が相当額残る借主より、はるかに悪い状況に置かれることになる。第三の方法も、借主に適切な保護を与えないだろうと我々は考える。この方法は、単に訴訟で防御を行ない、相殺権の行使と共に反訴を起こすことではなく、自ら訴訟を提起するという、標準的な消費者にとって大きな負担となることを、借主に課することになるからである。さらに、この方法によれば、[借主は、]売主に対して権利行使をしている間にも、ローンの返済義務を負わされることによって、実質的に訴求能力が減じられることにもなる。」[6. 6. 27]
  「それゆえ、我々は、消費者売買契約に基づく代金の一部又は全部が提携貸主によって融資される場合には、その貸主が、予備交渉の過程で売主によって行われた当該物品に関する不実表示、及び、その物品の権原・目的適合性・品質の瑕疵に対して、責任を負うべきことを提案する。さらに、我々は、売買と貸付が別個の契約によって行なわれる場合であっても、借主は、自らがローン契約に基づいて負担する債務と、売主の売買契約違反に基づいて借主が貸主に対して有する賠償請求権とを、相殺する権利を有すべきものと考える。」[6. 6. 28]
  「この結論に達するにおいて、さらに次の要素も影響した。すなわち、不履行等をなした売主が、相手にしうるだけの資力を残している場合において、その売主に問題を処理するよう圧力をかけることは、借主より貸主にとっての方が容易であるに違いないという点である。すなわち、貸主は、費用上の理由から売主に対する訴求を抑制されることはそれ程ないであろうし、しかもほとんどの場合、貸主は、売主に対して、売主がその苦情に応対し且つその事業の運営に大きな注意を払わない限り将来の経済的便宜を中止する旨を売主に言うことのできる立場にあるから、訴訟提起に及ぶまでもないだろうからである。」[6. 6. 29]

三  提携貸主責任をめぐる議論の展開


1  判例・学説の展開
  CCA制定後、学説・判例の展開によって、七五条の要件・効果が明確化されてきたが、特に解釈上の議論があったのは、以下の点である。

  (1)  実質的な第三者与信型契約への適用可能性
  英国では、信用売買、条件付売買、ハイヤーパーチェス契約(買取選択権付賃貸借)などは、金融業者が、物品を販売店から購入した後にそれを債務者に売却又は賃貸するという形をとることが多いが、この場合、実質的な売主は販売店なのであって、金融業者は単なる物品購入のための信用供与者にすぎない。つまり、これは、その法形式は二当事者間のdーcーs契約であるにもかかわらず、実質的には、第三者与信型の信用取引なのである。そこで、このような取引形態にも七五条の適用が認められるのではないかが問題となる。
  これにつき、判例は、七五条が三者間のdーcーs契約であることを要件としていることを理由に、ハイヤーパーチェス契約等への同条の適用を否定しており(17)、学説も、おおむねこれを支持している。なぜなら、二当事者間のdーcーs契約の場合において、物品の引渡における不履行や物品の瑕疵などが存した場合には、消費者(=債務者)としては、金融業者に対して供給者としての責任を追及し得るのは当然であるし(法形式上の供給者は金融業者であるから)、しかも、CCA五六条によれば、販売店は、与信契約の予備交渉において販売店が行なった表示その他の全ての折衝を、与信者の代理人として行なったものとみなされるので、例えばハイヤーパーチェス契約や条件付売買などの場合でも、購入者(=債務者)は、交渉にあたった販売店等による表示その他の折衝に基づく請求権を、債権者に対して行使することができるからである(18)

  (2)  CCA七五条に基づく信用契約解除の可否
  供給者の不履行により、債務者が供給契約を解除する権利を取得した場合に、債務者は、七五条に基づいて、信用契約を解除することもできるのであろうか。
  学説の多くは、これを否定する解釈をとってきた。その根拠としては、@「請求権(claim)」という文言は、金銭的な請求権のみを示唆すること、A「同様の請求」は、「融資される取引に関して」認められるものと定められているので、同条に基づく債権者に対する請求権は、信用契約ではなく、供給契約に関するものでなければならないこと、B解除を認めた場合における連帯責任の内容が不明確であること、C七五条の制定を導いたクロウザー委員会の勧告では、債務者が債権者に対する金銭的請求権を取得することだけしか述べられていないこと等が挙げられている(19)
  もっとも、否定説は、それによって債務者の法的地位が不利になることを考えているわけではない。すなわち、この説は、まず、多くの場合には債務者は五六条に基づいて信用契約を解除することができるであろうとする。また、この説によっても、債務者が七五条一項に基づき債権者に対して金銭的請求権を行使しうることは当然認められるのであるから、それによって解決が可能だとするのである(20)
  一方、「同様の請求権」の広い解釈によれば、債権者自身の行為に解除原因が存しない場合であっても、債務者は供給契約の不履行等に基づいて当然に信用契約の解除を行ないうるとされる。そしてこの広い解釈は、一九八〇年にあるスコットランドの判決(21)によって採用された。すなわち、この判決は、@供給契約は信用契約と連結していること(一九条一項b号)、ACCAの他の諸規定(例えば五七条一項、六九条一項一号及び九六条一項)は、提携取引と信用契約はその運命を共にする旨規定していること等の理由を挙げて、購入者(=債務者)が、供給者の債務不履行を理由に供給契約を解除しうる場合には、同人はその供給契約の支払いのために締結された信用契約も、CCA七五条に基づいて解除することができるとしたのである。

  (3)  旅行仲介業と債権者の責任
  債務者が、旅行代理店を通して手配される交通、宿泊又はその他のサービスにつき、旅行代理店への支払いのためにクレジットカードを用いた場合において、サービスの提供者(航空会社、ホテル、ツアーオペレーターなど)が破産状態に陥ったためにサービスが受けられなくなったり、あるいは提供されたサービスが不満足なものであったときに、債権者は七五条一項に基づく責任を負うのかが問題となる。
  この問題の取り扱いは、債務者と旅行代理店とサービス提供者の間の契約関係によって異なってくる。まず、消費者が、直接に航空会社、ホテル又はツアーオペレーターと契約し、クレジットカードをそのサービスの支払のために用いる場合がある(第一類型)。この場合には、旅行その他のサービスの提供者自身が七五条における「供給者」に該当するので、債権者は、CCA七五条により、サービス提供者によるすべての不実表示又は契約違反に対して責任を負うこととなる。
  しかし、多くの場合、信用契約によって融資されるのは、サービス提供のための契約ではなく、債務者と旅行代理店との間の仲介契約であり、しかも、代金の支払い先である旅行代理店が、ツアーオペレーターの代理人として行動しているのでもない場合もある(第二類型)。ところで、七五条一項の「供給者」は、必ずしも一般的な意味における供給者である必要はない。一一条一項b号及び一八九条一項に定められた定義によれば、CCAにおける「供給者」とは、「信用契約によって融資される取引における債務者以外の者」とされているので、この類型の契約の場合、七五条一項における「供給者」は、旅行代理店ということになる。ところが、そうすると、債務者は、サービス提供者による不実表示又は契約違反に関して旅行代理店に対する請求権を持たないであろうから、七五条に基づく債権者に対する請求権も取得しないことになりそうである(22)
  このような問題状況の中、一九九二年に、パッケージ旅行等に関する規則(the Package Travel, Package Holidays and Package Tours Regulations 1992, S.I. 1992 No. 3288)が制定された。これは、旅行代理店が当事者となって消費者に旅行パッケージを売却し又は売却の申込をする場合にまで債権者の責任を拡張するという形で、第二の類型に関する問題に立法的解決をもたらすと共に、第一の類型についても、旅行に関するサービスの供給契約につき、黙示条項を定めることによって、七五条に基づく債権者の責任が、供給者の黙示条項違反にまで及ぶこととした(規則六条、九−一五条(23))。

2  貸主責任の削減をめぐる近時の議論
  貸主責任の削減に関する議論は、金融業界から様々な形で出されてきたが、特に最近の議論は、OFT(公正取引庁Office of Fair Traiding)の二つの報告書とそれに対するDTI(通商産業省Department of Trade and Industry)の対応に集約されている。それ故、ここでは、この報告書を中心に、責任削減論に対する英国政府の対応について見てみたい。

  (1)  OFT報告書の経緯と概要
  OFTは、一九九四年と一九九五年の二度にわたり、「提携貸主の責任(Connected Lender Liability)」という表題で、CCA七五条に関する報告書を公表した。これは、クレジットカード発行業界から同条に関するいくつかの疑義が出されたことに鑑みて、消費者問題及び中小企業担当大臣(Minister for Consumer Affairs and Small Firms)がOFTにその検討を依頼したことに応えたものである。
  一九九四年三月に出された第一回の報告書(24)では、CCA七五条をめぐる現在の法状況が確認されるともに、論点についての分析が行われたが、最終的な回答は、同報告書に対する意見を待ってから出されるものとされた。こうして、同年秋に行われた公聴会における議論及び各界から提出された意見や情報を踏まえて出されたのが、一九九五年五月の第二回報告書であり(25)、そこには、三つの点について、七五条の改正意見が盛り込まれた。すなわち、@クレジットカード発行会者の責任を、購入代金全額についてではなく、クレジットカードで払った金額に限定すること、Aそれに伴って、信用供与額の上限(当時の八条二項の限定によれば、上限は一万五千ポンドとされていた)を二万五千ポンドに引き上げること、Bカード会社が七五条の責任を履行した場合に、債務者(カード保有者)が供給者の不履行に基づいて取得した保険会社に対する請求権にカード会社が代位することを認めること、がそれである。
  これらの報告書に対し、DTIは、一九九五年一二月に「英国消費者信用法における提携貸主の責任」という文書を公表した(26)。しかし、そこには、OFTの提言にもかかわらず、現時点においては法改正の必要は認められず、したがって改正法案は提出しないという立場が明らかにされている(但し、その後Aについては、@及びBの問題とは切り離して、二万五千ポンドに引き上げられた)。
  以下では、論点ごとに分けて、さらにこの間の議論を見てみよう。

  (2)  四者以上の当事者が関わる場合
  カード発行会社側の主な主張は、今日のクレジットカード取引の多くは、消費者信用法が制定された当時とは異なり、四当事者(消費者、カード発行会社、金融機関、販売店)が関わるものであって、特に海外カード取引の場合には、カード発行会社と販売店との関係は希薄であるから、責任が削減されるべきだというものであった。そして、一部のクレジットカード発行会社は、既にこのような主張を、七五条に基づく責任を否定又は限定するために訴訟外で用いてきたとされる(27)
  これに対して、OFTは、およそ七五条は、CCAの規制対象契約であり且つ与信者と供給者との間の既存の取決め(arrangement)に基づき又は将来の取決めを予定して行われる全ての提携与信に適用されるのであり(「取決め」の意味は「契約」より広い)、したがって、現行法上、四当事者取引も七五条の適用を受けることは明らかであるとし、さらに、かかる提携関係が存する限り、法改正によって四者間取引をここから除外する必要もないとする(28)。そして、DTIも、このOFTの分析及び見解に賛成している(29)

  (3)  海外取引
  右で指摘したように、カード発行会社側からの異論は、特に海外取引にあった。すなわち、四当事者の取決めに基づく海外カード取引が行われる場合、カード発行者自身がこのシステムに加盟する販売店の健全性をチェックすることは困難(供給者とカード発行会社との関係はより希薄)であり、したがって、このような取引を七五条の適用範囲から除外すべきだとするである(30)
  しかし、従来の通説は、海外でのカード取引においても、国内での取引と同様一二条b号・c号の「取決め」の存在が認められることを理由に、七五条の適用を肯定してきたのであり(31)、OFTも、この通説の見解を支持して、七五条の要件上問題はないとする。さらに、OFTは、カードが世界的に利用できることによってクレジットカード会社と産業界が利益を得ていることを指摘し、実質的な衡量からも責任を負わせることが妥当であることを強調する(32)。そして、DTIも、このOFTの挙げる理由は正当だとし、さらに、供給者の不履行等による損害の回復措置をより容易に講じうるのはクレジットカード会社であることも、重要な視点として指摘して、海外取引における七五条の適用を肯定する。

  (4)  連帯責任か二次的責任か
  CCA七五条では、債権者は、供給者の不実表示又は契約違反に関して供給者と「連帯責任」を負うものとされている。ところが、一九八六年に出されたEC消費者信用指令(33)の一一条は、債権者の「二次的」責任を、つまり、消費者は、供給者に責任を追及したが満足を受けられなかった場合にはじめて債権者に請求しうることを規定するに留まる(34)。そこで、英国の規制緩和特別委員会は、指令の規定(及びそれに基づく各国法)と歩調を合わせるために、七五条の「連帯」責任を「二次的」責任に置き換えるべきだと主張した(35)
  OFTは、この問題についてもこの報告書の中で触れ、次の理由から、二次的責任への変更に反対する。すなわち、もし七五条を二次的責任に変更すれば、消費者が債権者の責任を追及するためには供給者に対する責任追及が完全になされたことを立証しなければならないことになろうが、それは費用と時間の負担を消費者に強いることになり望ましくない。一方、ほとんどの消費者は、現行法においてもまず最初に供給者の責任を追及しており、債権者に対する主張の九五%は、供給者が倒産して支払い不可能な場合に生じているのであるから、もし二次的責任にしたとしても、債権者にとってのメリットはそれ程大きくはない、とされるのである(36)。DTIも、OFTの考えに賛成し、実際、七五条の規定が消費者保護に厚いということによって、英国の信用産業が他国の競争相手より不利な立場に置かれその成長が阻害されているという事実はないので、現行のままで問題はないとしている(37)

  (5)  債権者の責任は信用額に限定されるべきか
  七五条は、貸主の責任を信用額の限度に限定していない。つまり、供給者との取引の消費税込みの代金額が同条三項所定の金額内(百ポンド以上三万ポンド以下)であり、信用額が規制信用契約の制限内(八条二万五千ポンド以下)である限り、供給者の不実表示又は契約違反に基づく全ての損害につき、消費者は債権者に対して請求権を行使しうるのである。そこで、カード発行者側は、これでは責任額は自分たちが関与し又は利益を得ている範囲を反映しないので不公正であるし、さらに、これによって自分たちは不合理且つ予見できない結果損害の請求にさらされることになると批判する。
  OFTは、この主張を正当と認め、報告書において、クレジットカード発行会社の責任をカードで支払われた額に限定すべきだと主張した(38)。しかし、DTIは、OFTのこの意見には賛成できないとする。すなわち、DTIによれば、七五条に基づく請求が信用額を上回ることになるのは、第一に、債務者が一部を現金で残りを信用で支払ったときにおいて、債権者がこの現金支払い部分についても責任を負わされる場合と、第二に、派生的損害(consequential loss)に対して責任を負う場合である。このうち、派生的損害についてみると、これを債務者が請求しうるのは、あくまでも購入と当該派生的損害との間に予見可能な密接な関係が存在することが立証された場合だけであり、クレジットカード会社に生ずるコストは実際にはそれ程大きくはないと考えられる。そもそも、CCA制定時に債権者の責任が与信額ではなく代金額に関して設定された理由は、消費者が完全な回復を得られることを確実にすべきであり、与信者と供給者の双方を相手にしなければならないことによって消費者が請求を断念させられることがあってはならないと考えられたことにある。責任の範囲からクレジットカード会社に生ずる不利益は、彼らの総取引額に比して小さい。仮にクレジットカード会社についてのみ責任を限定するとすれば、それは与信者間の競争において好ましからぬ歪みを生むことになろう。そして何より、責任限度の変更は、消費者保護の重大な縮減をもたらしかねない、とするのである(39)

  (6)  代    位
  九五年の報告書において、OFTは、さらに、債権者の代位に関する規定を導入すべきだと主張した。すなわち、ある種の業界、とりわけ旅行業界では、仮に旅行会社が倒産した場合であっても消費者がその会社に支払っていた金額の払戻を受けうるように、独自の保険ないし保証の制度を設けているのであるが、消費者がこの保険会社等に請求するのではなくCCA七五条に基づいて債権者に請求を行い、債権者がその支払を行った場合には、債権者が消費者の保険会社等に対する権利に代位することを認めるべきだという主張をカード会社側が行ない、OFTはこれを正当と判断したのである(40)
  しかし、これについてもDTIは、旅行会社側からの反論、すなわち、代位を承認することは、旅行業界にのみ特別な負担を課することになり、また、これにより与信者による供給者の信用チェックがおろそかにされ、消費者保護の縮減につながるという主張も考慮して、法改正には慎重な態度を見せている(41)
  (7)  二次会員(家族会員)
  周知の通り、ほとんどのカード発行会社は、家族会員等の二次会員によるカードの保有・使用を認めている。そこで、このような二次会員がカードを利用して商品・サービスを購入したが供給者に不履行があったという場合、七五条の適用はどうなるかが問題となる。OFTの把握する情報によれば、従来、裁判外の任意の話し合いにおいては、二次会員による取引につきカード発行会社が七五条の責任を負担するケースもあったが、逆に、訴訟において、しばしばカード発行会社が、二次会員は債務者ではないという理由に基づいて七五条責任を否定する主張を行い、事実審裁判所の中にはこの主張を認めたものもあるとされている。
  OFTは、この場合、二次会員は一次会員の代理人として行為しているとものと解し、一般の代理理論により、一次会員が、二次会員の行った購入に関して七五条に基づく請求を行いうるとする(42)。この構成によると、二次会員による取引の場合にも債権者は七五条責任を負うのであるが、二次会員自身はCCA七五条における「債務者」に当たらないから、二次会員による請求は認められず、あくまでも債務者である一次会員が、債権者に対して七五条に基づく請求をなしうることになるのである。

四  む    す    び


  以上で、提携貸主責任について定めた英国消費者信用法七五条につき、その内容、立法理由及びその後の議論を概観してきた。論点は多岐にわたるが、その中でも特に次の点があらためて注目されるべきであろう。すなわち、まず、英国では、貸主の責任を考えるにおいて、与信が貸主と供給業者との提携に基づいて行なわれる場合(提携貸主)とそうでない場合とが明確に区別され、提携貸主は、供給業者といわば共同事業を営んでいると捉えられている点である。もちろん、七五条制定の大きな根拠としては、消費者の置かれている過酷な状態とそれに対する保護の必要性、とりわけ、訴訟提起が消費者にとって大きな負担になり、消費者の救済の道を阻んできたこと、たとえ消費者が勝訴したとしても、しばしば供給者の経済状態が悪いため実際には救済を得られないこと等があった。しかし、その一方で、提携貸主に責任を負わせる積極的な根拠として、販売店を通して事業を拡大し利益を得ているのはまさに提携貸主なのであるから、その取引に基づいて生ずる不利益は、消費者に転嫁すべきではなく、利益を得ている貸主が負担すべきだという「報償責任」的な考え方が存在しているのである。この考え方は、その後の議論においても明確に見られるのであり、例えば、海外におけるクレジットカードの使用に対してクレジットカード発行会社が七五条の責任を負わなければならない実質的根拠としても、カードの世界的利用によって利益を得ているのはクレジットカード会社と産業界であるということが挙げられているのである。四当事者間取引の場合やクレジットカードを二次会員が使用した場合に七五条責任を肯定することの基礎にも、この基本的考え方が存在するといえよう。
  さらに、重要なのは、貸主責任の具体的内容である。CCA七五条一項は、提携貸主が、供給者と同様の責任を供給者と連帯して負うものとしており、この規定は、@貸主の請求に対する防御的な抗弁ではなく、より積極的な賠償請求まで含んでいる点、Aその責任の範囲が、信用額に限定されず、派生的損害にも及ぶ点、B二次的・補充的責任として位置付けられるのではなく、供給者との連帯責任とされている点において、強力である。先に見たように、クロウザー委員会は、貸主責任として考えられる三つの形態について比較検討し、その結果、三つのうち最も強力であるところの現行七五条の責任形態を採用することを提案したのであって、その中で既に、なぜ単なる防御的権利ではなく積極的な賠償責任を負わせるのか(@)、なぜ二次的責任ではなく連帯責任とするのか(B)も説明されている(二3(2)参照)。そこでの大きな視点は、一方で、どの形態を採れば消費者(=借主)に適切な保護を与えることができるか、もう一方で、いずれの当事者がより容易にリスクを回避し又はより容易に事後的な処理を図ることができるか、という点であった。そして、特にBについては、後に、EC指令との関係で再びこれが論じられたのであるが、そこでも、一方で、二次的責任にすれば、消費者は最初に供給者に対して完全な責任追及をしたことを立証しない限り与信業者に対する主張をなしえないことになり、それは消費者の利益の大きな減殺につながること、他方で、「連帯責任」を課していることによって与信者ひいては信用業界の成長発展が阻害されているという事実は認められないことなどにより、この規定の正当性が確認されているのである。Aは、与信業者側、とりわけカード発行者側から厳しい批判が加えられた点であるが、OFT及びDTIは、「与信者と供給者の双方を相手にしなければならないことによって消費者が請求を断念させられることがあってはならない」というCCA制定時の基本的立場と、実際に派生的損害についての責任が認められるのはごく限られた場合のみであり、派生的損害に対する負担は与信業者の取引総額に照らせばわずかなものにしかならないことを理由に、与信業者側の主張を斥けているのである。
  もちろん、CCA七五条にも問題が全くない訳ではない。先に見たように、信用契約の解除をめぐっては、なお解釈上の議論が存在しているし、五六条と七五条の両方を視野に入れて、解除の場合における清算関係につきより緻密な検討が必要だという指摘も見られる。また、旅行代理店との契約をめぐるトラブルを見ると、この問題自体については旅行に関する新たな規則の制定によって一応の解決が見られたものの、他の業種に関して同様の問題が浮上する危険は残っているのであり、したがって、与信者責任の規定の上で、同種の取引形態を広くカバーする一般的な解決を図ることが検討されてよいように思われる。さらに、ここで詳しく触れることはできなかったが、先に述べたように、CCAにおいても、一括払いのカード取引や、一二ヶ月以内・四回以下の回数で返済されるべき確定額信用契約は、その規制対象から除外されているのであり、このような適用除外の妥当性についてもさらに検討の余地がありえよう。しかし、それにもかかわらず、CCA七五条における提携貸主責任の政策的基礎に関する考え方及び貸主責任の具体的内容・形態をめぐる議論には、参考に値する点が多いように思われるのである。
  本来、ここで概観した英国の法状況と日本の立法・判例・学説の状況とを比較し、さらに、それを取り巻く両国の歴史的・社会的・経済的背景の違いをも踏まえながら、日本における消費者信用法制のあり方につき具体的な検討を加えるべきところであるが、既にここで与えられた紙幅は尽きた。本稿は、英国の状況の概観にとどめ、それを踏まえた解釈論上・立法論上の検討は、今後の課題としてあらためて別稿で論ずることとしたい。

 

(1)  昭和五〇年代当時の判例については、石川正美「割賦購入あっせん等に関する裁判例の検討(1)−(7))」NBL二九〇号、二九一号、二九四号、二九六号、二九七号、三〇〇号、三〇一号(一九八三−一九八四年)参照。当時の学説についても多くの文献があるが、さしあたり植木哲『消費者信用法の研究』一六一頁以下(日本評論社・一九八七年)参照。
(2)  「訪問販売法等に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」(平成一一年法律第三四号。一一年四月二三日公布、同年一〇月二二日施行)。
(3)  平成一一年改正法が、抗弁接続に関して加えた変更は、@従来の割賦販売法では「指定商品」制が採用されていたのであるが、今回の改正で、「指定権利」と「指定役務」が規制対象に加えられ(割販法二条四項)、したがって抗弁権の接続も、それら権利の販売又は役務の提供にかかる信用取引について認められるようになったこと(同法三〇条の四)、A販売業者への金銭の交付が販売業者以外の者を通じて行われた場合が同法の規定対象として明記され(二条三項二号)、これにより、販売業者と金融業者との間に特定の関係があって、代金が金融業者から購入者に一度振り込まれた後に購入者によって販売業者に交付される信用取引形態(いわゆる特定関係型)の場合にも抗弁接続が認められることが確認されたこと(三〇条の四第一項)、Bローン提携販売についても、抗弁権の接続の規定が追加されたこと(二九条の四第二項)である。同改正法の詳細については、正木寛也「訪問販売等に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律」自由と正義五〇巻一〇月号一三四頁(一九九九年)、『特集  わが国の消費者信用法制の課題と展望−改正割賦販売法を中心に』クレジット研究二三号(二〇〇〇年)所収の各論文参照。
(4)  特に、現時点で政令指定された役務は、従来問題の多かった四つ(エステティックサロン、外国語会話教室、学習塾、家庭教師派遣業)にとどまっている。
(5)  五九年改正以来、割賦販売法三〇条の四が創設規定か確認規定かをめぐり議論されてきた。最高裁第三小法廷(最判平成二・二・二〇判時一三五四号七六頁、判タ七三一号九一頁、金法一二六三号二七頁、金判八四九号三頁)は、同条を創設的規定だとし、したがって改正法施行前の取引については、購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないとしたが、学説にはなおこれを批判するものが多い。
(6)  英国一九七四年消費者信用法を紹介する文献としては、長尾治助『英国消費者私法の研究』(成文堂・一九七四年)、加藤良三『イギリス消費者信用取引法』(千倉書房・一九七八年)、竹内昭夫「イギリスの消費者信用法」同著『消費者信用法の研究』八七頁以下所収(初出・月刊クレジット二七〇号。一九七九年)、金子武嗣・坂東俊矢「欧州の消費者信用法制の研究3・4−イギリス(1)・(2)」NBL三二二号三八頁以下、三二八号四〇頁以下(一九八五年)、長尾治助「諸外国の消費者信用法(2)−イギリス」加藤一郎・竹内昭夫編『消費者法講座5』三〇七頁、三一九頁以下(日本評論社一九八五年)などがある。
(7)  五六条と七五条の適用は、多くの場合に競合するのであるが、@七五条では信用販売がなされる目的物の単価につき上限と下限が設定されているのに対し、五六条にはそのような制限はない点、A七五条は三者間のdーcーs契約にのみ適用されるのに対し五六条は三者間のみならず二者間のdーcーs契約にも適用される点、B七五条は、供給者が「不実表示又は契約違反」に対して負うのと同じ責任とされているのに対し、五六条では、「予備交渉において」行なわれた一切の表示及び折衝に対する責任とされている点などの違いが存する。
(8)  五六条の責任については、前掲注(6)文献のほか、坂東俊矢「消費者信用契約における共同責任は、どのように考えるべきか」椿寿夫編『講座・現代契約と現代債権の展望  第六巻』三七頁以下(日本評論社・一九九一年)参照。
(9)  CCAの邦訳としては、竹内昭夫=田島裕「英国消費者信用法(訳)」月刊クレジット二七〇号−二八三号(一九七九−一九八〇年)がある。
(10)  商品の価額による規制対象枠は、制定当初は、三〇ポンドを超え一万ポンド以下のものとされていたが、その後、物価の変動等に応じて引き上げられた。
(11)  この上限も、制定当初は五千ポンドとされていたが、その後引き上げられ、現在では二万五千ポンドとされている。
(12)  Consumer Credit Report of the Committee, Chairman Lord Crowther, March 1971, Vol. 1 and Vol. 2(以下、Crowther Report として引用する). 委員会の構成及び報告書をめぐる簡単な経緯については、Crowther Report, Vol. 1, iii-iv;R.M. Goode, Hire−Purchase Law and Practice, supplement to second edition, London Butterworths 1975, A1-A8. 当時の消費者信用をめぐる法的・経済的・社会的状況については、Crowther Report, Vol 1, p31-153 参照。
(13)  クロウザーレポートでは、Consumer Sales and Loan Act 及び Lending and Security Act が提案され、それを統合する形でCCAが制定された。この二つの立法提案の内容については、長尾治助『英国消費者私法の研究』一八二頁以下(成文堂・一九七四年)、加藤良三「英国における消費者信用法典制定の動向とわが国現行法制上の二・三の問題についての考察」南山大学アカデミア経済・経営学編三六号(通巻八九号)一二〇ー一二三頁(一九七二年)参照。
(14)  Crowther Report(注12), Vol. 1, p281-p283:paras 6. 6. 24-6. 6. 31. 後掲(註18)の「なお」以下も参照。
(15)  この両者の区別の必要性については、さらに、Crowther Report, Vol. 1, p242-243:paras 6. 2. 22-6. 2. 25 参照。
(16)  ibid. p282:paras 6. 6. 26-6. 6. 29.
(17)  Renton v. Hendersons Garage (Nairn) Ltd and United Dominion Trust Ltd [1984] C.C.L.R. 2. この判決によって、Porter v. General Guarantee Cpn [1992] R.T.R. 384 が否定されたことになる。
(18)  Howells & Weatherill, Consumer Protection Law, 1995, p268;Miller, Harvey and Parry, Consumer and Trading Law, 1998, p302. なお、五六条における代理のみなし規定の前身は、既に一九六五年ハイヤーパーチェス法(Hire−Purchase Act 1965)の一六条に存在していたのであり、クロウザーレポートにおいても、代理のみなし規定の説明は、ハイヤーパーチェス契約を念頭に置いて行なわれている。Crowther Report(注12), Vol. 1, p281-283:paras 6. 6. 20-6. 6. 22.
(19)  Davidson (1980) 96 L.Q.R. 343;Lowe (1981) 97 L.Q.R. 532;Goode, Consumer Credit Law (London Butterworth 1989) p490;Dobson [1981] J.B.L. 179;Howells & Weatherill, Consumer Protection Law, 1995, p268;Encyclopedia of Consumer Credit Law (Sweet & Maxwell) 2074/4 (May 1999);Guest & Lomnicka, An Introduction to the Law of Credit and Security, 1978, p208 note 28.
(20)  将来の支払いについては、債務者が七五条に基づいて取得する債権を自働債権として相殺することによって、消滅させることができるし、既払い分についても、債務者は、供給契約を解除すれば、不当利得の返還請求を債権者に対しても請求しうるし、さらに供給者の負う損害賠償責任につき債権者が連帯責任を負うとすることによって回復可能だと考えるのである。クロウザーレポートでも、借主による相殺権を予定していた(前掲二3(2)[6. 6. 28]参照)。
(21)  United Dominions Trust v. Taylor, 1980 SLT 28. もっとも、否定説によれば、この事案では、債務者は五六条に基づいて完全な抗弁をたてることができ、七五条一項に依拠する必要は存在しなかったとされる。
(22)  OFTの九四年報告書(注24)では、第二類型の場合にも、ツアーオペレーターを「供給者」と解することができるという見解が表明されている。Encyclopedia of Consumer Credit Law (Sweet & Maxwell) 2074/3 (May 1999).
(23)  特に、同規則一五条では、消費者の契約相手方は、たとえ自らが当該契約に基づくサービス等の履行を行なうべき立場にない場合であっても、適正な履行につき責任を負うべき旨が規定されている。
(24)  Connected Lender Liability, a review by the Director General of Fair Trading on section 75 of the Consumer Credit Act 1974, OFT March 1994. 以下、OFT九四年報告書として引用する。
(25)  Connected Lender Liability, a second report by the Director General of Fair Trading on section 75 of the Consumer Credit Act 1974, OFT May 1995. 以下、OFT九五年報告書として引用する。
(26)  Connected Lender Liability in the United Kingdom, DTI, December 1995:DTI Press Notice P/96/803. 以下、DTI文書として引用する。なお、職務権限として、OFTは、その所轄する問題につき分析を行い、それに基づいて法改正等へ向けた提言を行うことはできるが、具体的に法案を作成するのはDTIの仕事とされている。
(27)  OFT九四年報告書(前掲注24)三頁参照。
(28)  OFT九四年報告書(前掲注24)五頁、二五頁。
(29)  DTI文書(前掲注26)七頁。
(30)  OFT九四年報告書(前掲注24)二六頁。
(31)  Goode, Consumer Credit Law (Butterworths 1989), p 494;Guest & Lloyd, Encyclopedia of Consumer Credit Law, para 2-076;Lowe & Woodroffe, Consumer Law and Practice, 1999, p373.
(32)  OFT九四年報告書(前掲注24)二七ー二八頁。
(33)  Council Directive 87/102/EEC of 22 December 1986for the approximation of the laws, regulations and administrative provisions of the Member States concerning consumer credit.
(34)  同指令の一一条二項は、(a)号−(e)号の全ての条件が充たされる場合には、消費者に、与信者に対して請求する権利が与えられなければならないとし、その(e)号において、「消費者が供給者に対して請求を行なったが、自己の権利の満足を得ることができなかった」ことが定められている。もっとも、指令はあくまでも消費者保護の最低基準を定めているのであるから、(e)号の条件を課すことなく消費者に与信者に対する請求を認めたとしても、指令に反することにはならない。
(35)  一九七九年に出された消費者信用指令案をめぐる英国の対応については、坂東俊矢「欧州の消費者信用法制の研究『一九七九年EC消費者信用指令案と英国の反応』」高知短期大学社会科学論集五三号一七三頁以下参照。
(36)  OFT九五年報告書(前掲注25)四ー五頁。
(37)  DTI文書(前掲注26)一三頁。
(38)  OFT九五年報告書(前掲注24)五ー六頁。
(39)  DTI文書(前掲注26)一四ー一七頁。なお、この報告書の後、DTIはさらに各界の事情につき情報を収集して再検討することとされていたが、その後も、見解の変更はみられない。
(40)  OFT九五年報告書(前掲注25)八頁。
(41)  DTI文書(前掲注26)一九頁。なお、二〇〇〇年六月一五日におけるDTI担当者への聞き取り調査においては、「代位」については特に反対している訳ではないということであったが、少なくとも現在のところ、法改正はなされていない。
(42)  OFT九四年報告書(前掲注26)三〇ー三一頁。