立命館法学 2000年3・4号上巻(271・272号) 522頁




消費者契約法の人的適用範囲について


谷本 圭子


 

は  じ  め  に

  先頃、二〇〇〇年四月二八日「消費者契約法」が成立し、二〇〇一年四月一日をもって施行される。同法は、誤認・困惑を取消原因とし、一定の契約条項を無効とする点で、その内容の重要性は言うまでもない。しかしまた他方では、わが国においてはじめて「消費者」及びその相手方である「事業者」を定義し、消費者と事業者との間で締結された「消費者契約」にのみ適用される点で特別な意味を持っていると言えよう。
  同法に規定される規律内容は、従前の法に比べて実質的に消費者にとって有利に、また、事業者にとって不利となるものであるが、換言すれば、これにより、消費者とされる者は有利に扱われ、消費者とされない者は有利には扱われないし、また、事業者とされると不利に扱われ、事業者とされないと不利には扱われないという結果が生じることになる。この点につき、従来は法的人格が平等であることが前提とされてきたが、現在はそれに対して反省が迫られている状況にあり、本法はその反省を受けて真正面から法的人格に差異を設け、区別している、と解釈する見解が有力である。この見解をどのように評価するかは重要な一つの問題である(1)。ただ、この問題を別にしても、法が人的適用範囲をどのように画定すべきかは、法がどのような規定内容をもつべきかと同様、非常に重要な問題であることは明らかである。
  そこで本稿においては、同法における人的適用範囲の限定がどのような内容なのか、従来の法状況から見てどのようなものとして位置づけられるのか、またその妥当性について検討する。これにより、「消費者保護」という言葉でもって生じる人的適用範囲限定が我が国においてどのような方向に向かうことになるかを概観し、さらにはどのような方向へ向かうべきかにつき若干の検討を試みたい。

T  従来の状況


  まず、従来の状況を確認する意味で、わが国の学説によれば「消費者」はどのような内容を包含するものとして捉えられてきたのかを見た後、わが国において消費者保護法といわれてきた法律において人的適用範囲はどのように規定されてきたのかを見ていく。また、次々と消費者保護指令を採択し続けており、加盟諸国内では指令の国内法化が進んでいるEUの消費者保護法において、人的適用範囲はどのように画定されているかを見ていきたい。
1  学    説
  @  概    説
  周知のように従来から学説により、消費者契約については特別の法的考慮を要することは異口同音に主張されてきた。ただ、想定される「消費者契約」あるいは「消費者」とはどのような内容なのかについては論者により若干の差異が見られる。そこで以下では、学説はどのような「消費者」概念を予定してきたのか見ていきたい。
  A  「消費者」概念
  竹内教授は、「他人の供給する物資・役務を消費生活のために購入・利用する者であり、供給者に対立する概念」として消費者を定義する。さらに、第一に、消費者としては「自然人」のみが含まれ、「団体」は自衛能力を有するため保護の対象から外される。第二に、「自分や家族、世帯等の消費のために供給を受ける場合」は消費者だが、「事業目的のために取引をする場合」は消費者ではないとする。第三に、「事業目的のために取引をする場合」といっても、「農業・漁業のような原始産業に従事している者」は、個人事業者といっても「商店主や工場主」に比して、概して取引の経済的・法律的仕組みについての知識に乏しいため、問題によっては消費者に含むべきことも立法政策的に考えられるとする。また、「個々の法律で誰を消費者として扱うかということになると、それぞれの法律で採り上げる問題に即して、立法政策的に『消費者』の範囲を定めてゆく必要があり、必ずしもすべての消費者保護立法において、『消費者』の概念が同じになるわけではない」とする(2)
  長尾教授も、「事業者の相手方であって、私的使用または消費、ないしは、職業、事業に供するものではない使用・消費における主体が消費者概念を構成するにあたり、核をなす要素」であるが、「一方において、こうした自然人の生活は経済、社会の変化に応じ、時に従来よりも量的に、あるいは質的に異なる需要のもとに展開する」、したがって、「この者による出損が従来の生存、日常生活の維持に向けられた財貨等の取得を目的としない場合でも、相手方との関係でアブノーマルな地位に貶される場合には、この場合におけるこの者の地位向上のため、こうした場合にも適合できるよう」「消費者の概念、ないしは、この概念を構成する上で必要な要素に幅を持たせることが顧慮されてよい」とする(3)
  他方、大村教授は、「技術的な消費者概念の定義を試みるとすると、それは「営業」との関連性を中核としたものとなろう」とする。ここで言われる「営業」とは、「反復継続して利益を得ることを意味」し、そこには「『専門性』と『営利性』が含まれている」ため、「『非専門性』と『非営利性』を消費者概念の構成要素とする」ことになるとする。ただ、「営業との関連性の強弱の線引き」が問題となり、「『営業として』行われる行為自体が除かれることには異論がないとして、『営業のために』行われる行為をすべて除外してよい」かは問題となるとする。そこから、「消費者とは、営業と直接には関連しない目的のために行為する者をいう」という定義をなす。さらに、「自然人」への限定については、必ずしも妥当とは思われないとする。また、「同一の者が同一の商品を購入したとしても、販売方法については消費者とは言えないが、契約条件については消費者といえるということもある」として消費者概念の相対性・可変性を言うが、「この点を強調すると、『消費者』という概念を介在させずに各行為に関するルールの要件を問題とすればよいということになりうる」ともする(4)

2  法規定
  @  概    説
  わが国においては従来から実質的に「消費者保護法」と言われる法律は若干存在していた。特に契約法分野で重要な役割を果たしてきたのは、「割賦販売法」及び「訪問販売法」である。これらの法律は、「消費者」と「事業者」を定義する規定をもたないが、実質的には人的適用範囲を「消費者」対「事業者」に限定する規定をもつ。そこで、従来、これらの法律において、人的適用範囲がどのような基準でもって画定されてきたかを見ていきたいと思う。
  A  割賦販売法
  同法においては、まず商品又は役務の提供者については、「割賦販売を業とする者」(三条)、「ローン提携販売を業とする者」(二九条の二)、「割賦購入あっせんを業とする者」(三〇条)として、人的適用範囲が一般的に画定されている。
  これに対して、商品又は役務の受領者については適用範囲は画定されていない。ただ、適用除外という形で、一方では1.「指定商品又はこれを部品若しくは付属品とする商品を販売することを業とする者に対して行う」当該指定商品の割賦販売につき同法の規定の適用が除外される。また他方では、2.指定権利を販売する契約又は指定役務を提供する契約であって「当該契約の申込みをした者、購入者又は役務の提供を受ける者のために商行為となる」割賦販売については同法の規定の適用が除外される(八条一号及び七号、二九条の四、三〇条の六)。また、これとよく似た内容をもつ3.「……指定商品を販売する契約であって当該契約の申込みをした者のために商行為となるもの」、「その購入が購入者のために商行為となる指定商品に係るもの」等(三〇条の四・四項二号、四条の二・二項、四条の三・八項、五条三項、二九条の四、三〇条の六)が、個別規定の適用除外として予定されている。
  これらのうち1については、流通段階における業者間の取引を除外する意味とされる(5)。また3については、消費者が訪問販売等に際して、軽率な契約締結の意思決定をするのを防止し、もって「一般消費者を保護」する(四条の二・二項、四条の三・八項(6))、「一般購入者を保護」する(五条三項(7))、商人間の取引については購入者保護の必要がない(8)と言われる。2については、平成一一年改正により新たに設けられた規定であり、商品販売以外の取引形態につき、受領者にとり商行為となるものを除外する趣旨である。つまり、商品販売については、個別規定の適用除外規定が既に存在していたが、法の適用対象が商品販売以外の取引形態にまで拡大されたため、それをもカバーする適用除外規定が必要となったためである。しかし、既に存在していた個別規定の適用除外は、まさに特定の規定の適用を除外するにすぎず、八条七号のように当該章の全規定には及ばない。その結果、商品販売については特定の規定しか適用除外されないのに、それ以外の取引形態については全規定が除外されることになるが、そのような区別の理由は存在しない。したがって、立法上の不備が現れているということになろう(9)
  また、適用除外という形では、商品又は役務の提供者ならびに受領者双方につき、詳細な限定が見られる。すなわち、1.提供者につき「国又は地方公共団体」の場合、2.提供者が「特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会」、「国家公務員法第一〇八条の二又は地方公務員法第五二条の団体」、「労働組合」であり、かつ、受領者が「その直接又は間接の構成員」である場合、3.提供者が「事業者」であり、かつ、受領者が「その従業者」である場合にも、同法の規定の適用は除外されるのである(八条三号ないし五号、二九条の四、三〇条の六)。まず1については、同法による規制が業者と一般消費者間の取引の公正化と一般消費者の保護とをはかることを目的とすることから、この場合には適用の必要性がないとされ、また、2及び3については、団体の内部自治を尊重する趣旨とされる(10)
  B  訪問販売法
  同法においても、商品又は役務の提供者については、「販売業者又は役務の提供の事業を営む者」(二条、一七条の二)として、人的適用範囲が一般的に画定されている。
  これに対して、ここでも、商品又は役務の受領者については適用範囲は画定されていない。ただ、適用除外という形で、「その申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結する」又は「購入者若しくは役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結するものに係る」販売又は役務の提供(一〇条一項一号、一七条の一一・一項一号)については、同法の規定の適用が除外される。
  つまり、同法は割賦販売法のように「……商品販売を業とする」や「商行為」でもってではなく、「営業のために若しくは営業として」という概念でもって画定基準とする。その趣旨は、同法が「一般消費者を保護」するための法律である点にあるとされる(11)。このような基準は昭和六三年の改正により採用され、それ以前は「商行為」が画定基準とされていた(12)
  また、適用除外という形では、商品又は役務の提供者並びに受領者双方につき、詳細な規定が見られ、その内容は前述の割賦販売法の規定と全く同じである(一〇条一項三号ないし五号、一七条の一一・一項三号ないし五号)。

3  EU法
  @  概    説
  外国法においては、既にいわゆる「消費者対事業者」に適用範囲を限定する法律が成立し続けている。特に、ヨーロッパ諸国においては、EU指令に後押しされて、これを国内法化した消費者保護立法が続々と実現されており、その結果、EU指令に沿った形での「消費者対事業者」に適用範囲を限定する法律が成立し続けている。
  消費者保護に関連するEU指令としては、いわゆる「訪問販売指令(13)」、「消費者信用指令(14)」、「濫用条項指令(15)」、「通信販売指令(16)」、さらには「消費者販売指令(17)」等を挙げることができるが、これらの指令においては若干の差異はあるとはいえほぼ同一の人的適用範囲が予定されている。すなわち、「消費者」とは、「取引に際して、自己の営業活動又は職業活動には帰せられない目的で行為する自然人」として、「事業者」とは、「取引に際して、自己の営業活動又は職業活動の範囲内で行為する自然人もしくは法人」として定義されるのである。
  そこで以下では、EU指令においては、どのような規定目的が予定されているのか、さらに、「消費者」及び「事業者」としてどのような者が予定されているのかを明らかにしていきたい。その際には、EU指令を国内法化した消費者保護法を既に有しているドイツの議論をも参考にしたいと思う。
  A  規定目的
  EU指令における考慮理由からは、その規定目的としていくつかの点を見て取ることができよう。
  例えば、消費者信用指令においては、「消費者の保護及び情報提供のための政策に関するヨーロッパ経済共同体の計画は、とりわけ、消費者が濫用的な信用条件から保護されるべきこと、及び、優位して消費者信用のための普通約款の調整が実行されるべきことを予定している(考慮理由6)」ことを、濫用条項指令においては、「消費者の保護及び情報提供のための政策に関する共同体の二つの計画は、濫用的契約条項の領域における消費者保護の意義を強調している(考慮理由8)」ことを述べる。つまり、ここでは消費者政策に関する計画(18)が直接の根拠とされている。また他方では、EU加盟諸国間での法規定の統一による共同市場の建設が、第一の目的として挙げられてもいる(消費者信用指令・考慮理由1ないし5)(濫用条項指令・考慮理由1ないし3及び5ないし7)。
  また、もちろんマーストリヒト条約においても消費者保護がEUの目的として規定されている(三条S、一〇〇条a三項、一二九条a一項)。
  ただ、消費者保護を要する具体的な理由となると、EU指令・前記計画・条約のいずれにも示されていない。このため、EUにおける消費者保護立法は、あくまで消費者向けの統一市場を形成することに主眼を置いており、消費者保護については根本的な考慮をなしていない、ということが言えるかもしれない(19)
  しかし、他方においては、消費者保護について、すなわち、消費者対事業者間の契約を問題とする理由についてではなく、当該契約類型あるいは当該契約の特徴を問題とする理由については示されている。例えば、消費者信用指令においては、近年消費者が利用しやすい新たな信用形態が展開されていること、契約条件が消費者の不利になりかねないこと(考慮理由7及び9)が、濫用条項指令においては、売主またはサービス提供者の力の濫用、特に売主により一方的に定められた標準約款契約・契約における諸権利の濫用的排除が存在していること(考慮理由9)が挙げられている。
  B  消費者
  「消費者」につきその内容を検討していくと、まず、「営業活動」又は「職業活動」という概念については、決定的なのは、活動が私的領域の範囲ではなされていないことといわれる(20)。その限りでは、職人、営農家、医者、弁護士、税理士のような自由業者も「消費者」とはならない場合が生ずる。これらの者も職務経験によって契約締結の結果を見積もることができるため、特別な保護を要しないとの理由からである(21)。また、ここにおいては取引における「目的」が問題とされるため、結局、「私的目的で行為する」ことが要求されることになろう。その場合、私的目的には消費目的だけではなく、私的な投資目的も含まれることになろう(22)
  次に、「自然人」でなければならない。その理由として、法人はその設立者(社員)に対して法的に独立した存在であることが挙げられる(23)
  C  事業者
  他方、「事業者」についても、消費者におけると同様、「自己の」「営業活動」又は「職業活動」という概念が画定基準となっている。このため消費者とはならない者が事業者となりそうであるが、ここで問題となるのは「活動の範囲」であることから若干のずれが生じうる。ただ、この点については、EU法において消費者は物・サービスの受領者であるのに対して事業者は常に供給者であることに基づく表現の違いにすぎない。
  次に、消費者におけるとは異なり、「自然人」も「法人」も事業者となりうる。

4  小    括
  従来の状況からは、「消費者」概念を規定するにあたって検討を要するいくつかの課題が浮上してくる。
  まず第一に、適用除外としてではなく、消費者概念を定義することにより積極的に適用範囲を限定すべきかどうかである。わが国の法律においては従来、主として適用除外という方法により人的適用範囲が限定されてきた(24)。これに対して、EU法においては、消費者及び事業者を定義することにより、積極的に適用範囲が限定されている。
  また第二に、消費者概念は、可変的な概念として法律毎に確定すれば足りるのかどうかである。これはわが国における有力学説が主張する所であるし、実際、わが国においては人的適用範囲限定の基準が法律毎に微妙に異なっており(「業として」、「商行為」、または「営業のために若しくは営業として」)、さらに同法律内でも異なった基準が採られている。しかも、そのような人的適用範囲限定の理由としては概して、「一般消費者を保護」する点に見出されている。しかし他方、EUにおいては、いわゆる消費者保護法につき人的適用範囲を統一する方向にあることは明らかである(25)
  第三に、消費者は「自然人」に限定されるべきかどうかである。わが国の学説においてはこの点につき見解が分かれているが、法規定においては従来、自然人に限定されてこなかった。これに対して、EU法においては自然人に限定されている。
  第四に、実質的に、農業・漁業従事者や個人商店主等は消費者ではないとして保護の対象から外されるべきかどうかである。

U  消費者契約法の成立


  消費者契約法が成立をみるまでには、国生審消費者政策部会で法制定に向けた検討が行われ、いくつかの報告書が出されている。そこで、以下では、これらの報告書において、人的適用範囲をいかなる理由からどのような基準でもって画定すべきとされているのかを見た後、消費者契約法がどのような基準でもって人的適用範囲を画定しているかを、規定文言を明らかにしつつ見ていきたい(26)

1  成立まで
  @  平成一〇年一月文書
  平成一〇年一月に出された第一六次国生審消費者政策部会中間報告である「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」(以下では第一文書とする)においては、法の目的として、「情報・知識・交渉力における格差」のため、「真に対等な関係下」での「消費者の自由な意思形成がなされない」ままに契約締結するため、トラブルが多発していること、このようなトラブルを防止する必要があることがあげられる。
  そのような目的を基礎として、人的適用範囲が構想される。すなわち、事業者の「事業に関連する目的での反復継続性」の結果、「専門性」が導かれ、そこから「情報力・交渉力」が培われることを根拠として、「消費者」とは、「消費生活において」「事業(「営業」及び「専門的職業」の概念を含む)に関連しない目的で」行為する「自然人(27)」として、「事業者」とは、「事業に関連する目的で」行為する「自然人又は法人その他の団体」として定義されるのである。
  個別事例として、個人商店主などは、知識は希薄かもしれないが、取引社会に算入し、事業に関連する目的で行為しているため、交渉力を備えることは期待されており、消費者と同様に扱うわけにはいかないとの考えもあるとしながら、「事業に関連する目的で」行う行為であっても、行為者の専門性とも事業の目的とも関連が希薄であるような行為、例えば個人商店主が「コンピュータを設置する行為」は消費者の行為として対象としてもよいとの考えもあるとする(28)
  A  平成一一年一月文書
  平成一一年一月に出された消費者政策部会最終報告である「消費者契約法(仮称)の制定に向けて」(以下では第二文書とする)においては、消費者及び事業者についての定義はなされていない。ただ、事業者の特性として、「同種の取引を反復継続」して行い、「取引経験が蓄積」されることにより、契約についての「情報・交渉力」などが増していくこと、他方、消費者の特性として、取引を反復継続して行わないため、取引経験は蓄積されず、情報・交渉力は事業者に比べて劣ることを根拠として、両者が古典的市民法原理が想定するような「対等な関係ではない」ことを導く。そこから、「事業性」を両者の差異の基準として、消費者契約につき特別の定めをおく根拠としている。ここでいう「事業」には、「営利・非営利、公益・非公益を問わず反復継続して行われる同種の行為」、また「専門的職業」の概念も含まれる。さらに、行政主体も事業性が当然に排除されるものではないとする(29)
  B  平成一一年一一月文書
  平成一一年一一月に出された第一七次国生審消費者政策部会・消費者契約法検討委員会による「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」(以下では第三文書とする)においては、消費者と事業者につき個別に定義されることはなく、消費者契約につき、当事者の一方(=事業者)のみが「業としてまたは業のために」締結する契約として定義されることとなった。ただ、説明の中で、事業者の相手方たる個人(自然人)を「消費者」として法人を含まないとする。また、「業」とは、営利を目的とした事業に限らず、「自己の危険と計算によって、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に行うもの」を広く対象とし、「社会通念に照らし客観的に事業の遂行」と見ることができる程度のものをいうと説明される。
  個別事例として、労働者が労務に服するために必要な財・役務等を購入する契約は「業のために」締結する契約とは見なされないため、消費者契約となる可能性があるとする。

2  消費者契約法の規定
  @  概    説
  同法はその一条において目的につき規定するが、そこでは「消費者と事業者との間の情報の質及び量ならびに交渉力の格差にかんがみ」ることが明示されている。
  同法における人的適用範囲については二条が規定する(30)。まず、同条一項において「消費者」とは、個人であるが、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除くとされる。また、二項において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうとされる。このように、消費者と事業者につき定義した上で、三項において「消費者契約」とは消費者と事業者との間で締結される契約をいうとされるのである。以下、規定内容を明らかにしていきたい。
  A  消費者
  (1)  消費者であるためには、まず、「個人」である必要がある。この「個人」とは従来の民法が知らなかった概念である。二項の規定からすれば、法人その他の団体でない人という意味と捉えることができる。とすれば、「自然人」と同視しうるかが問題となる。第三文書によれば「個人(自然人)」との記述があり自然人と同視しうるかのようであるが、ではなぜ第一文書におけるように「自然人」という概念を用いなかったのか疑問が生じよう。
  従来「自然人」に対応する概念は「法人」であったが、同法においては、「法人その他の団体」を問題とするため、それに対応する概念として「自然人」では不十分となる。つまり、「団体ではない自然人」という意味で「個人」という文言を用いるにいたったと考えられる。このように解すると、消費者の範囲は「自然人」よりも狭いものとなってしまう。
  これに対して、同法が「自然人」とせずに「個人」という文言を用いるのは、個人と同視できる小会社などの場合には同法の類推適用の余地を残す趣旨と解する見解がある(31)。このように解すると、消費者概念で問題となる「個人」概念と事業者概念で問題となる「個人」概念とは、その実質的内容が異なるということになろう。この点につき、「消費者であることを否定する要件としては狭く、事業者であることを肯定する要件としては広く解釈することも許される」とする見解があるがこのように解する理由は不明である(32)。ただ、人的適用範囲限定の趣旨を消費者と事業者とで同じに考えるべきかという問題はあろう(33)
  結局、消費者概念につき団体ではない「個人」に限定する理由が問題となる。適用範囲限定の趣旨は、「同種の取引を反復継続して行うこと」により「取引経験が蓄積」され、事業者と消費者間の「情報・交渉力」に格差が生じる点に見出されてきたのは既に述べたとおりである。このように解するのであれば、自然人であっても団体であれば、「同種の取引を反復継続して行う」ことが予定されているため、「個人」への限定も一応は理由があるということになろう(ただし、実質的な妥当性については後述V3参照)。
  (2)  次に、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」でないことが必要である。
  まず、「事業」という概念であるが、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」として、第二文書におけると同様、営利の要素は必要でなく、公益・非公益を問わず、「自由職業(専門的職業)」の概念も含まれると説明される(34)
  また、事業「として」又は事業「のために(35)」契約の当事者となるという文言であるが、第一文書においては事業「に関連する目的で」行為することが問題とされていたが、訪問販売法の適用除外規定に合わせて(前述・2B参照)このような文言が採用されたと推測される。事業「として」とは、契約締結自体が事業の遂行と見られる場合であり(36)、事業「のために」とは、事業の用に供するために行うものである(37)
  このような規定の理由については、同法の規定目的に遡る必要がある。つまり、同法の成立過程において常に意識されていたように、「反復継続性」から「専門性」「取引経験」が獲得され、その結果、「情報力・交渉力」を獲得する点が問題となる。とすれば、「反復継続していない」場合には、保護の対象となる余地がある(38)
  したがって、まず第一に、当該契約締結の目的が、事業を開始するためのものであった場合には、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」でないとする可能性もあろう(39)。また第二に、第一文書であげられていた事例、すなわち、個人商店主が「コンピュータを設置する行為」は、事業「のために」契約の当事者となる場合であるが、この場合を適用対象から除外すべきかは非常に疑わしい(40)。つまり、事業「のために」行うもの、つまり事業の用に供するために行うものであっても、「反復継続性」を導きだし得ない場合がある。したがって、実質的に「反復継続」していない場合には事業「のために」行うものとは認めないと解する余地もあろう(41)
  B  事業者
  (1)  同法によれば「法人その他の団体」であれば、それだけで事業者とされる。これらの者に加えて「事業として又は事業のために契約の当事者となる個人」も事業者とされるため、事業性を問題とすることなく「事業者」として認められるという結果となっている。このような規定は、同法成立までの三つの文書いずれもが示していなかったものである。
  このような規定がおかれた理由を、事業性が問題とされる趣旨からくみ取ることができよう。すなわち、「反復継続性」から「専門性」「取引経験」が獲得されることに着目する結果、「法人」や「団体」であれば、同種の行為を「反復継続」して行っていることが予定されているためと考えることができる。しかし、「反復継続性」がそれほど簡単に認められるかにつき疑問ある点に関しては、消費者につき述べた通りである。
  (2)  また、「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」も事業者とされる。ここで要件となってくる「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合」、及び「個人」の意味については、消費者につき述べた通りである。

3  小    括
  結局、成立した法律においては以下のような特徴が見られる。第一に、「消費者と事業者との間の情報・交渉力の格差」が問題視されているという点である。第二に、法律上はじめて「消費者」と「事業者」の概念が定義された点である。第三に、消費者及び事業者共に「事業性」を中核概念とする点である。また第四に、従来の民法が知らなかった「個人」や法人その他の「団体」という概念をはじめて、しかも、成立過程では問題とされていなかったにもかかわらず導入した点である。

V  検      討


  以上、人的適用範囲をめぐる従来の状況と消費者契約法の内容とを見てきた。以下では、我が国従来の消費者保護法及びEU法における人的適用範囲と比較して、消費者契約法の規定内容はどのような特徴を有するか、また、その規定内容の妥当性につき、検討していく。その際には、・4でまとめた従来の議論との関わりでの課題をも視野に入れていきたい。

1  法の目的
  本法においては「情報・交渉力の格差」が問題とされ、その結果「消費者と事業者」に適用範囲が限定されている。これに対して、割賦販売法や訪問販売法は、消費者保護を目的とするとはいえ、物的適用範囲を割賦販売や訪問販売等に限定するため、それら取引の特質(不意打ち性、信用的要素)を主として問題としている。また、EU法も消費者保護を目的とするとはいえ、物的適用範囲を限定する結果、契約の特質(訪問販売、信用契約、不当条項、通信販売等)に着目している。つまり、単に「消費者と事業者」間で締結されたという事実だけでは、特別な規定をおくことはなかったのである。そこで、本法におけるように、「消費者と事業者」間で締結されたという事実だけでもって、規定の根拠となるかは疑問となってこよう。さらに翻っては、当該規定内容の適用範囲を「消費者と事業者」に限定すべきかも疑問となってくる。ただ、法の目的、さらに適用範囲限定の正当性については、具体的な規定内容との相関関係においてはじめて評価が可能となる。これについては後述する(6参照)。

2  「消費者」と「事業者」概念を定義
  消費者契約法においては、従来の法と異なり、「消費者」と「事業者」の概念が規律対象として定義され、それでもって法の人的適用範囲とされた点は、一つの注目すべき特徴である。このような規定の仕方は、EU法に代表される世界的な傾向と見ることができよう。
  はじめから規律対象という形で人的適用範囲を限定する規定方式と、適用除外という規定方式とでは、結論的には差異はないかもしれない。しかし、実質的な意味においては大きな差異が存在すると思われる。規律対象は具体的な規律内容の根拠としての機能を果たしうるが、適用除外の機能は別の点にあると見ることができよう。
  つまり、規律対象が具体的規律の根拠として機能するときには、規律対象は一定の価値が危機的状況にある「可能性が高い」ことを示す事実にすぎないため、「可能性が高い」ことを否定する事実として適用除外が機能するのである。具体的に見れば、割賦販売法や訪問販売法においては、まずその規律対象として「割賦販売」や「訪問販売」などが予定されており、その限りで規律対象が限定されている。これは、割賦販売や訪問販売などの場合には商品・サービスの受領者は当該取引により生ずる結果を熟慮することができなかったり、認識することができない「可能性が高い」ため、書面交付を相手方に義務づけたり、撤回権を認容したりするなどの特別な私法的効果が予定されていると見ることができるが、他方で、適用除外例として規定されている場合(購入者等にとり取引が「商行為」となる場合等)には、そのような可能性は否定されるため、法の適用がないという結論が導かれるのである(42)
  これに対して、消費者契約法におけるように、規律対象を「消費者と事業者」間での契約とする場合には、「消費者と事業者」間での契約が、一定の価値が危機的状況にある「可能性が高い」ことを示す事実だということになる。

3  「事業として又は事業のために」を基準に
  従来の法律においては、商品等の受領者側を限定する基準として、「業として」、「商行為として」、あるいは「営業のために若しくは営業として」という概念が用いられてきたが、消費者契約法においては、これらの概念は採用されることなく、新たに「事業として又は事業のために」という概念が採られることとなった。これらの概念の間には実質的にどのような差異が存在するのか。まず第一に、割賦販売法において採られている「業として」という概念は、転売目的での取引を除外する趣旨であり、限定された範囲での取引を除外するにすぎない。第二に、「商行為として」という概念は、商法上の特別な意味をもつ概念であり、既に述べたように「営業のために若しくは営業として」という概念とも一線を画する。第三に、他の二つの概念に比べて実質的な中身を問題とする「営業のために若しくは営業として」という概念は、それ自体、「事業として又は事業のために」という概念と最も近い。ただ、「事業」概念には「営利性」を含まないという決定的な違いが存在する。
  では、「営利性」を排除することにどのような意味があるのだろうか。先に挙げた第一文書及び第二文書においては「反復継続性」が問題であるとの認識から「営利性」は問題とされるべきでないことが既に言われていた。又、EU法においても必ずしも「営利性」が問題とされるわけではない。しかし、EU法において「営業」概念はたしかに一つの限定基準として機能しているし、また、前述のように我が国の有力学説は「営業」概念でもって消費者概念の中核を「非専門性」と「非営利性」にあると構成する。その際、消費者の特性である情報・交渉力の格差は「非専門性」に由来し、精神的・肉体的危弱性は「非営利性」と密接に関連するとする(43)。以上に鑑みれば、営利性を一概に排除することに対しては躊躇を感じざるを得ない。
  仮に「営利性」を問題とする必要はないとしても、「反復継続性」のみでもって、限定基準とすることは妥当なのであろうか。この点、EU法は「営業」と並び「職業」という概念を採用することにより、「営利性」「反復継続性」のみでなく第三の要素を採り入れているように思われる。すなわち、「反復継続」するだけでは獲得できない「専門性」の問題である。「専門性」とは漫然と反復継続するだけでは獲得できない。「職業」として反復継続することによりはじめて獲得されるものではなかろうか(44)
  さらに、そもそも「反復継続性」を問題とするのであれば、事業「のために」という基準でもって人的適用範囲を限定することにも疑問が生じるし(前述U2A)、したがって、農業・漁業従事者や個人商店主等が、パソコンを購入したり金銭の借入れをなす場合に「消費者」ではないとして一律に保護の対象から外されるべきかは疑問である(45)

4  「個人」概念の採用
  商品等の受領者側につき、既に見たようにEU法は「自然人」に適用対象を限定している。これに対して、わが国においては従来、人の性質に着目した限定はなされてこなかったにもかかわらず、消費者契約法においては、従来の民法が知らなかった「個人」という概念でもって限定がなされることとなった。
  この「個人」という不明確な概念については、既に述べたように同法において文言上は「団体ではない自然人」の意味と解せざるを得ない(前述U2A)。しかし、人的適用範囲の限定基準につき考慮すべきなのは「反復継続性」のみではないとすれば、「個人」に限定する理由も妥当ではないということになろう(前述3参照)。

5  「法人その他の団体」概念の採用
  当該行為の性質につき考慮することなく、消費者の相手方である事業者性を認める点については、従来の法もEU法も採っていなかった方向である。これについては、規定目的との関連で、単に「反復継続性」のみでは説明不可能であることは既に述べてきた通りであるし、その画一的な規定故に、このことは一層妥当することになる。別途、団体と個人とを区別して取扱う理由を示す必要があろう(46)
  また、消費者契約法においては、従来の法のように、「国又は地方公共団体」を除外したり、内部自治を尊重するとして「特別の団体とその構成員間での契約」を除外していない点は、評価することができよう。

6  規定内容との関連
  人的適用範囲限定の妥当性を検討するに際して最も重要なのは、具体的な規定内容との相関性である(47)。そこで、本法における規定内容を見れば、一方では「事業者による誤認・困惑行為」すなわち事業者の不当な「行為」を問題とし、他方では、「不当な内容の契約条項」を問題とするにすぎない。これをEU法と比較すれば、数々のEU指令は事業者の不当な「行為」を問題とする規定を予定していない。だからこそ、人的適用範囲を限定し、かつ、物的適用範囲をも限定することにより、物・サービスの受領者が(消費者であるため、信用契約等のため)契約内容を認識・熟慮していない「可能性が高い」ことを問題とすると言えよう。さらに、ドイツ法も同様に事業者の不当な「行為」を問題としていないし、かつ、「不当な内容の契約条項」につき個別に不当性を評価する規定(約款規制法9条)に関しては、正当にも人的適用範囲も限定していないのである(48)
  つまり、本法におけるように事業者の不当な「行為」を問題とする規定、及び、「不当な内容の契約条項」について特に個別の不当性を問題とする規定については、「消費者対事業者」に人的適用範囲を限定すべきではなかろう(49)。それ以外の人的範囲についても、それらの規定内容は適用されるべきなのではなかろうか。

7  法律間での基準不統一
  同じく消費者保護法と呼ばれているにもかかわらず、割賦販売法及び訪問販売法と消費者契約法との間では、人的適用範囲(保護されるべき消費者)に差異が生じている。このような状況は是認しうるものなのであろうか。統一の道を辿っているEU法とは反対の方向を行くものである。しかし、EU法には統一市場の形成という特殊な目的が存在するため、同じには考えられない。また、我が国の有力学説によれば「消費者」概念は可変的なものとされてきた。ただ、なぜ可変的なのか。思うに、人的適用範囲については、具体的な規定内容との関連でその画定基準が決定されるべき性質のものであって、具体的な規定内容から独立して規定されるべきものではない。そのため、規定内容の違いに応じて人的適用範囲に差異が生じるのは必然であるが、その際には、規定内容と人的適用範囲との相関性を明らかにすることが必要不可欠となってこよう。

お  わ  り  に


  今回の消費者契約法制定が今後の消費者法制の方向に多くの影響を与えることは疑うべくもない。だからこそ、どのような人的範囲で法の適用をなすべきかという問題は、それが「消費者(保護)」法の本質に関わる問題であるだけに十分な検討を要するであろう。その際には他の消費者保護法との比較が必要となり、その結果として相互の見直しや改正が必要となってくるかもしれない。さらには、新たな消費者保護法(消費者信用法など)制定への足がかりとなることもあろう。重要なのは、「なぜそのように人的適用範囲を限定するのか?」という視点である。それは従来の民法との規定内容上の差異をふまえた上で、規定内容と人的適用範囲限定との相関性を解明することである。それが結局は、法の「正当性」の検証につながり、「正当な」法を導くことになろう。本稿では若干の考察を試みたが、今後より多くの議論が待ち望まれるところである。

(1)  この問題については別稿で検討したことがある。谷本圭子「民法上の『人』と『消費者』」『民法学の課題と展望(石田喜久夫先生古稀記念)』(二〇〇〇年・成文堂)所収七三頁以下参照。
(2)  竹内昭夫「消費者保護」竹内他『現代法学全集五二ー現代の経済構造と法』(一九七五年・筑摩書房)所収一四頁以下。
(3)  長尾治助「法上の消費者概念」立命館法学二〇一・二〇二号(一九九八年)三〇八頁。
(4)  大村敦志『消費者法』(一九九八年・有斐閣)二三頁以下。
(5)  打田俊一=稲村良平『割賦販売法』(一九七四年・第一法規)一二七頁。
(6)  打田=稲村・前掲書(注5)八〇頁(これに該当するのは商法五〇一条ないし五〇三条に該当するものとされ、例えば、タクシー業者が営業用の自動車を月賦で購入しようとする場合や、株式会社などが商品を月賦で購入しようとする場合が該当するとされる)。
(7)  打田=稲村・前掲書(注5)一〇〇頁(商人との取引ならびに営利目的での商品取得行為については保護の対象外とした趣旨であり、例えば、転売を目的とする商品の取得行為(商法五〇一条一項)や営業的商行為(商法五〇二条)となる商人の商品取得、取得者が会社である場合が該当するとされる。他方、例えば、料理屋が営業用ではなく、家族に使用させるため扇風機やテレビを買うときは、この者がこれを立証する必要があるとされる)。
(8)  最高裁事務総局編『信販関係事件に関する執務資料(その二)』(一九八五年・法曹会)七八頁以下(これに該当するのは商法五〇一条ないし五〇三条に該当するものとされる)。
(9)  同様の指摘は、五条、六条、及び三〇条の三に関してであるが、梶村太一=深澤利一=石田賢一編『割賦販売法』(二〇〇〇年・青林書院)[千葉恵美子執筆部分]八四頁以下にも見られる。
(10)  打田=稲村・前掲書(注5)一二八頁。
(11)  通産省産業政策局消費経済課編『平成九年版・訪問販売等に関する法律の解説』(一九九七年・通商産業調査会出版部)二〇九頁。
(12)  その改正趣旨として、以前の「適用除外規定では、当時の消費者トラブルに見られるような利益を得る目的をもって金地金等を購入するものを巡るものについては、購入者が一般消費者であっても購入の際に資産形成的(投機)意思があれば形式的に商行為(商法第五〇一条第一号)に該当し、本法が適用されないこととなるため」であるとされる(通産省産業政策局消費経済課編・前掲書(注11)二〇九頁参照)。
(13)  Richtlinie des Rates vom 20. 12. 1985 betreffend den Verbraucherschutz im Falle auβerhalb von Gescha¨ftsra¨umen geschloβenen Vertra¨gen (87/102/EWG), ABL. Nr. L372/31 vom 31. 12. 1985.
(14)  Richtlinie des Rates vom 22. 12. 1986 zur Angleichung der Rechts− und Verwaltungsvorschriften der Mitgliedstaaten u¨ber den Verbraucherkredit (87/102/EWG), ABl. Nr. L42/48 vom 12. 2. 1987;Richtlinie des Rates vom 22. 2. 1990 zur A¨nderung der Richtlinie 87/102/EWG zur Angleichung der Rechts− und Verbraucherkredit (90/88/EWG), ABl. Nr. L61/14 vom 10. 3. 1990.
(15)  Richtlinie des Rates vom 5. 4. 1993 u¨ber miβbra¨uchliche Klauseln in Verbrauchervertra¨gen (93/13/EWG), ABl. Nr. L95/29 vom 21. 4. 1993.
(16)  Richtlinie des Europa¨ischen Parlamentes und des Rates vom 20. 5. 1997 u¨ber den Verbraucherschutz bei Vertragsabschluβen im Fernabsatz (97/7/EG), ABl. Nr. L144/19 vom 4. 6. 1997.
(17)  Richtlinie des Europa¨ischen Parlamentes und des Rates vom 25. 5. 1999 zu bestimmten Aspekten des Verbrauchsgu¨terkaufs und der Garantien fu¨r Verbrauchsgu¨ter (99/44/EG), ABl. Nr. L171/12 vom 7. 7. 1999.
(18)  Vgl. Die Verbraucherschutzprogramme von 1975, ABl. EG 1957, Nr. C92, S. 1 und 1981, ABl. EG 1981, Nr. C133, S. 1;Die Entschlieβung des Rates vom 23. 6. 1986 betreffend die kunftige Ausrichtung der Politik der Gemeinschaft zum Schutz und zur Forderung der Interessen der Verbraucher, ABl. EG 1986, Nr. C167, S. 1ff.
(19)  これにつき、K. Tonner, Die Rolle des Verbraucherrechts bei der Entwicklung eines europa¨ischen Zivilrechts, JZ 1996, S. 533, 537 und 540 も、T. Bourgoignie, Ele´ments d u´ne the´orie de la consommation (1988) の言葉を引用して、「消費者保護は統一市場に向けた『副次的効果(by−product)』にすぎない」という。
(20)  P. Ulmer, Mu¨nchener Kommentar zum BGB, Bd. 3, 3. Aufl. (1995), § 1 VerbrKrG Rdnr. 21.
(21)  BT−Drucks. 11/5462, S. 17.
(22)  P. Ulmer, a. a. O., Rdnr. 23.
(23)  P. Ulmer, a. a. O., Rdnr. 19.
(24)  これは、EU法の影響を受ける前のドイツ法においても妥当することである(谷本圭子「契約法における『消費者保護』の意義(三)」立命館法学二六七号(二〇〇〇年)五三頁以下参照)。
(25)  また、最近のドイツでは、民法典の改正により消費者及び事業者の概念がはじめて民法典の中で定義される(一三条及び一四条)に至っており(Gesetz u¨ber Fernabsatzvertra¨ge und anderer Fragen des Verbraucherrechts sowie zur Umstellung von Vorschriften anf Euro, vom 29.6.2000 (BGBl. I S. 897), Artikel. 2)、かつ、連邦司法省による「債務法現代化法」草案によれば消費者信用法や訪問取引撤回法などの消費者保護法を民法典の中に統合することが提案されており(BMJ, Diskussionsentwurf eines Schuldrechtsmodernisierungsgesetzes, vom 4.8.2000)、統一化の方向へ突き進んでいるということができよう。
(26)  同法の成立へ向けた議論の中で人的適用範囲につき特に詳細かつ示唆に富む提案をなすものとして、沖野眞巳「消費者契約法(仮称)の一検討(1)(2)」NBL六五二号一九頁以下、六五三号一五頁以下(一九九八年)がある。
(27)  第一文書六頁においては、「知識や交渉力の強弱」を問題とすると、自然人でなくとも弱者は存在し、自然人であっても強者も存在するため、消費者を自然人に限定することについては疑問が生じ、このような限定はEU指令を見ても必然的なものではないとしながらも、法の適用範囲の明確化のため立法技術的には、「自然人」という最小限の規定を設け、そこから先の保護は別途考えることが望ましいとする。
(28)  第一文書四−六頁
(29)  第二文書二六頁。
(30)  また、一二条は「労働契約」を適用除外として規定する。
(31)  斉藤雅弘「消費者契約法の適用範囲」法学セミナー五四九号(二〇〇〇年)一八頁。
(32)  沖野・前掲論文(2)(注26)一九頁、斉藤・前掲論文(注31)一六頁以下。
(33)  消費者契約法の立法趣旨は「情報・交渉力の格差」を問うため同じに考えることになろうが、私見によれば問題なのは消費者側の能力であり、事業者として人的適用範囲を限定する理由は別に示す必要があろう(谷本・前掲論文(注1)八四頁、及び(注24)五二頁以下のドイツ消費者保護法に関する検討を参照)。
(34)  経済企画庁『消費者契約法の解説』(二〇〇〇年)三頁。
(35)  これにつき経済企画庁・前掲書(注34)三頁によれば、「契約の当事者となる主体『自らの』事業として、又は『自らの』事業のために」という意味と説明される。
(36)  斉藤・前掲論文(注31)一七頁参照。経済企画庁・前掲書(注34)三頁以下は、「社会通念上それが事業の遂行とみられる程度の社会的地位を形成するかどうかによって決定するほかない」とする。
(37)  経済企画庁・前掲書(注34)三頁以下及び斉藤・前掲論文(注31)一七頁参照。
(38)  法技術的に類推適用によるべきことをいう学校として、沖野・前掲論文(2)(注26)一九頁参照。
(39)  斉藤・前掲論文(注31)一頁同旨。他方、「事業者」を認定するにあたっては、既に事業を遂行していることは必ずしも必要ではないとして、「消費者」と「事業者」において問題とされる事業性の判定につき、異なった基準をあてはめる。
(40)  この問題意識は、前述(T1A)の大村教授の問題意識に共通するものである。
(41)  本文の事例につき第一文書によれば、「事業に関連する目的で行為する場合にあたる」ことを認めつつ、実質的に対象外とすべきとしていた。このことがまさに事の本質を既に示していたと言えよう。
  他方、経済企画庁・前掲書(注34)四頁は、「個人事業者が当該事業のためにパソコンを購入したが、同時に個人の趣味として同パソコンを使用する場合」、すなわち、目的の中に事業以外のものも含まれる場合をあげ、個々の具体的契約に即して「事業のために」契約の当事者となるかの判断をしようとしている。その判断をするための考え方として、「@契約締結の段階で、該当項目が目的を達し、A@のみで判断することにつき現実的に困難がある場合は、物理的、実質的(例時間等)基準に従い、該当事項が主として(例上記のパソコン購入の例の場合、使用時間のうち、その二分の一以上を事業のために使用しているか等)目的を達成するためになされたものであるかどうかで判断する」ことを挙げる。
  また、河上正二「総論」『別冊NBL五四号・消費者契約法ー立法への課題ー』(商事法務研究会・一九九九年)二〇頁以下も、第一文書で「消費生活において」「事業に関連しない目的で行為する」ことを消費者の要件としていた点につき疑問を提示され、「事業目的以外で行為する」ことで要件としては十分とすることにより、商品知識等の点では一般消費者と変わりがない「個人商店である八百屋の主人が、営業と趣味をかねてパソコンを購入する」契約等を適用対象に含めるべきことを主張されている。「商品知識」等を問題とされる点で筆者と同じ問題意識に立っておられると思われるが、ただ、本文で述べたように、そもそも事業「目的」を常に問題とすべきかも疑わしいのではなかろうか。
(42)  谷本・前掲論文(注24)五三頁以下、特に八三頁及び九八頁参照。
(43)  大村・前掲書(注4)二三頁。
(44)  斉藤・前掲論文(注31)一六頁が、痴呆状態の親族の介護に専念している場合には、形式的には「事業性」は認められるが、社会通念上事業と判断されることはないとされる点は、この「職業」概念により説明することができよう。
(45)  類推適用により保護の対象に含めるべきとする見解として、沖野・前掲論文(2)(注26)一七頁及び二〇頁参照。また、落合誠一=鎌田薫=松本恒雄=木村敦志「座談会・消費者契約適正化のための検討課題(1)」NBL六二一号(一九九七年)一四頁以下も参照。
(46)  消費者は生身の人間であるため、法人としての企業に対して弱い存在となる点を指摘するものとして特に、星野英一「私法における人間」『民法論集第六巻』(一九八六年・有斐閣)所収四〇頁、木村・前掲書(注4)一九頁以下参照。
(47)  ドイツの消費者保護法につき、人的適用範囲と具体的な規定内容との相関関係につき若干の検討を試みたものとして、谷本・前掲論文(注24)三八頁以下参照。
(48)  谷本・前掲論文(注24)九〇頁参照。
(49)  「消費者」性にすべての問題解決を委ねるのではなく、問題状況を原因ごとに整理することにより、消費者への適用範囲限定を不要とする場合もあることにつき、谷本・前掲論文(注1)八五頁以下参照。