立命館法学 2000年3・4号下巻(271・272号) 1115頁




公共調達に関する権利救済とその実効性

− ドイツ委託発注法改正法後の状況 −


米丸 恒治


 

一  は  じ  め  に

1  課題の設定
  本稿は、公共調達に関する法制度を検討する作業の一環として、ドイツにおいて委託発注法根拠改正法後(1)の現行法制度をめぐって議論されている問題点を取り上げながら、実効的な権利救済の在り方と、公共調達の法的行為形式および情報提供の手続との関係について紹介、検討しようとするものである。
  ドイツにおいては、すでに別稿で検討してきたように(2)、公共調達に関するEU指令の国内措置として、「財政法的解決策」と呼ばれる、公共調達に参加する事業者に対して「権利」を与えない対応をとってきた。それに対してEC委員会は、指令の国内措置として不完全であるとしてEC裁判所への提訴を行い、指令の完全な国内措置を求めてきた。こうしたEUレベルでの批判を受けて、ドイツでは再度、九八年に公共委託発注法制を競争制限禁止法の中に組み込む方式(「カルテル法モデル」)で改正し、EUの公共調達法制に適合させる法改正を行ったのであった。本稿では、この度重なる法改正後もなお展開を見せているドイツ委託発注法における実効的な権利保護へ向けた議論動向を検討することにしたい。この論点は、ドイツにとっては、EU指令違反と判断されるかどうかの決定的な問題であるが、それにとどまらず、わが国にとっても、公共調達に関する実効的な権利保護(およびそれを通じた公共調達の法的・裁判的統制)の在り方についての基本的な比較法的な示唆を与えるものでもあると考えられる。
  本稿で検討するように、このところドイツでは、かつて、これも訴訟的権利保護の対象となっていなかった資金助成行政(Subventionsverwaltung)の行為形式をめぐって戦わされた議論(3)の再来を思わせるような実務および学説上での議論が展開されてきている。EU指令の強い影響を受けたものではあるが、権利救済の実効性、委託発注手続と手続参加者への情報提供義務、行政の行為形式との関係が問題とされてきている。一方、EUレベルでも、EU指令による公共調達法制(一定額以上の発注に限定されている)の整合化の動きとして、従来からの国際的開放、競争導入、透明性確保と、それを事実上促進するものとしての参加者による争訟的統制の整備にとどまらず、さらに公共調達法制の統一化・簡素化、複雑な調達についての競争的対話方式の導入などに向けて、改正作業が進められてきている(4)。本稿は、いまなおドイツ内外で動きつつある公共調達法制の一断面を紹介することにより、公共調達に関する権利救済の実効性についての素材を提供しようとするものである。

2  現行委託発注法のしくみの概略

  (1)  ドイツにおける従来の公共調達に関する伝統的な法システムは、公共委託発注法(o¨ffentliches Vergaberecht)と称されてきた。それは特別の実定法からなるものではなく、財政法、会計法的な規制の対象分野とされてきた。そこでは、財政法上、各種の調達分野毎に定められた「請負規程(Verdingungsordnung)」によるべきことが求められ(5)、その中で発注手続や基準および契約内容などが定められてきた。この請負規程は、もともと民間と協働で定められたものであるが、行政法上は、行政部内の訓令(したがって行政規則)および契約の約款の性格しか持たないものであり、この請負規程にしたがって締結される公共調達契約は、純粋に私法上の契約であると解されてきた。また行政法の体系上も、公共調達活動は「国庫的な補助活動(fiskalische Hilfsta¨tigkeit)」とされ、それを統制するための特別の制度や手続がなかったために、契約の相手方として選定されなかった事業者、応募者が契約締結を争って出訴することはほとんど不可能とされていた。

  (2)  以上のような伝統的法システムをもつドイツは、EUの公共調達法改革の動きに対しては、特に救済制度の創設について、消極的な対応をとってきた。九三年に実施された「財政法的解決策(haushaltrechtliche Lo¨sung)」では、従来、公共委託発注規定の適用を受けていなかった(つまり請負規程に従う必要のなかった)事業者も含めて公共委託発注者の範囲を確定し(旧財政原則法五七a条一項)、従来からある請負規程にEU指令の実体的および手続的内容をとりこむこととして、それに法規(Rechtssatz)としての性格を付与することにより(同一項、二項およびそれらにもとづく法規命令たる「公共委託の委託発注規定に関する命令(委託発注命令 Vergabeverordnung)」による)、そこでの手続準則を法的に拘束的なものとした。そしてそれらを適用する公共委託発注手続に関する特別の争訟手続(財政原則法五七b条、五七c条およびそれらにもとづく「公共委託の事後審査手続に関する命令(委託発注審査命令 Vergabepru¨fungsverordnung)」)が設けられた。従来、裁判所による権利救済の対象とならなかった契約締結手続に対し新たな争訟手段として、第一段階の委託発注審査機関(Vergabepu¨fstelle)、第二段階の委託発注監視委員会(Vergabeu¨berwachungsausschuβ)による二段階的な救済制度を設けた。これらはいずれも行政内部の救済制度であった。
  しかし、こうした対応は、もともと手続への参加者に「権利」を付与しないことを基本としており(6)、また委託発注監視委員会も、その委員の中には、裁判官資格を有するものが含まれることとはされていたが、EC条約上の裁判所として認められるかについては、なお疑問が投げかけられてきた。EC委員会も、ドイツに対して、EC裁判所への条約違反手続をとってきた。

  (3)  こうした動きに対してとられたのが、競争制限禁止法に委託発注法を組み込み、従来の委託発注監視委員会にあたる委託発注部と上級通常裁判所への出訴を組み合わせた権利救済制度を保障する、九八年の委託発注法根拠改正法の「カルテル法モデル」である。そこでは、契約の相手方として選定されなかった手続参加者に対して、委託発注法令の遵守を求める権利(競争制限禁止法九七条七項)を付与し、明確に民事裁判所への出訴の資格をみとめるなどの改正が行われたが、従来からのドイツ法上の委託発注の実体的な基礎には変更は加えられていない。
  すなわち、現行法でも、公共委託発注手続およびその契約内容の細目は、請負規程において定められており、通説的には、委託発注は、この請負規程にしたがって、また請負規程の内容を取り込んで、締結される私法上の契約であるとされている。そして、委託発注手続上最も重要な決定として「委託先決定(Zuschlag)」がなされるが、ドイツ法上は、それと同時に契約が成立し、契約成立後は、一次的な救済としてその取消をもとめることはできないものとされている。つまり、委託先決定と契約締結は重なって同時に行われるものとされてきており、委託先決定がなされて契約が締結された以上、その契約自体も取り消すことはできないと考えられてきたのである。この点は、最近の委託発注法根拠改正法(競争制限禁止法一一四条二項一段)でも確認されているといってよい。以上の点では、ドイツ法上歴史的に認められてきた内容に現行法においても変更が加えられてはいない。
  ドイツ法上は、フランスなどと異なり、委託先決定と契約締結が一段階的に、ひとつの行為で行われる一元的な構成をとっており、この点は、後述のオーストリアなどでも同様である。これに対して、フランスなどのロマンス語系諸国の法制では、委託先決定とその後の契約締結とが、二段階的に二つの行為により行われ、手続参加者は、委託先決定を権威的決定として行政裁判により争うことができるとされてきた(フランスでは「分離し得る行為の理論」)。フランス型の二段階的な法的構成によれば、委託先決定は、公法上の法原則の規制を受ける行為として、行政裁判所の統制のもとにおかれてきたのである(7)
  なおドイツにおいても、委託発注の契約は、私法契約であるが、その締結に先立つ行政の決定を行政行為として、行政裁判により争わせようとする議論がなかったわけではないが(8)、一般の委託発注については、こうした二段階論の適用は、認められていない。後述のさまざまな議論は、私法契約のシステムを取り、委託先決定と同時に第三者がその効力を争うことのできない契約が成立するというしくみを前提として、民事裁判所への出訴を認めた現行ドイツ法制が、実効的な権利救済のしくみを用意したといえるのかどうか、いえるとするためにはどのような対応が必要か、をめぐる議論といってよいであろう。

二  EC裁判所アルカテル判決


  九八年の委託発注法改正法によって国内措置を終え、EU指令違反の問題も解決したかのように見えたドイツにおいて、関係者に衝撃を与えたのが、オーストリアの連邦委託発注法(9)についてEC裁判所が下した、アルカテル事件(エコ・プンクト・システム事件)についての九九年一〇月二八日判決である(10)。このアルカテル判決は、オーストリアの法制についての判決であるが、そこで問題とされている法構造は、ドイツの現行法制にも同様にあてはまることから、ドイツの現行法制の問題点を論じる際に必ず言及される判決である。
  事案は、オーストリア連邦政府科学交通省の委託発注に関するものである。アウトバーンでの一定のデータを伝送するための電子情報処理組織の提供、設置および運転に関して実施された委託発注であり、九六年五月二三日に入札手続が行われた。同年九月五日に委託発注先の決定がなされ、その相手先と契約が結ばれた。手続は、公開手続による入札で、物品供給が目的とされて行われたものである。この入札においては、原告たる手続参加者は、新聞によって、別の競争参加者に委託先決定が与えられたことを知って、その後、連邦委託発注庁(Bundesvergabeamt(11))に対して、事後審査申請を行った(九月一〇日、二二日)。委託発注庁は、委託先決定通知(Zuschlag)の後は、もはや仮命令の権限はないとして、仮命令についての申請を却下した(九六年九月一八日の決定)。それに対し、原告が憲法裁判を提起した。連邦委託発注庁は、九七年四月四日の決定で、連邦委託発注法九一条三項により、さまざまな委託発注法違反を確認し、その手続を終了したが、憲法裁判所は、九六年九月一八日の連邦委託発注庁の決定を取り消した(12)
  憲法裁判所の判断に照らして、連邦委託発注庁は九七年四月四日に終了した手続を再開し、九七年八月一八日に、決定により、九六年九月五日に締結された契約の更なる実施を暫定的に禁止した。それに対し、オーストリア共和国から提起された異議申立てに基づき、憲法裁判所は、執行停止効果を認め、連邦委託発注庁の九七年八月一八日の仮命令は、暫定的に効力を取り消された。
  その後、連邦委託発注庁が、EC裁判所に条約違反事前審査手続(Vorabentscheidungeverfahren)を申請したものである。
  オーストリア委託発注法上は、契約相手の決定は、純粋に行政組織内部の決定として行われ、その相手として選択されなかった手続参加者は、他の参加者との契約締結があったことを知る段階で、はじめて自らが契約相手として選択されない(されなかった)ということを知ることになる。そこでは、たとえばフランスなどにおけるように、当該決定が行政行為(権威的決定)として外部に効力のある行為形式として行われるようには、法制度上予定されていなかった。この点は、前述のように、ドイツの委託発注手続上も、同様の法的な構成をもって行われるとされてきている。要するに、委託先決定と契約締結が事実上同時に行われる(13)といってよい構成である。オーストリア法上も、ドイツ法と同様に、一旦締結された委託先決定=契約を取り消し、その効力を停止させる手続または制度がないと考えられている。したがって、いったんなされた相手先決定=契約締結の後は、申請者の救済方法が損害賠償請求権の主張に事実上制限されてきたのである。
  条約違反事前審査手続の中で、オーストリア連邦委託発注庁が、EC裁判所に求めた判断は、次の点である。
  @  構成国は、損害賠償の可能性があるにもかかわらず、さらに契約締結後に契約を無効とするための手段を用意する義務があるのかどうか。
  A  そうだとすれば、関係者は、少なくとも仮命令の実施により、相当の手続の中でその義務を直接主張することができるのかどうか。
  B  国内の事後審査機関は、その手続を実施するために、EU指令に反する国内法の適用をしないことを義務づけられるのかどうか。
  これらの争点に対し、EC裁判所は、次のような判断を示している。

  @の論点について
  構成国は、救済手段指令(指令八九/六六五)の二条一項a号およびb号および六項(14)とにより、あらゆる事例において、手続参加者が、契約締結に先立つ委託先決定に対し、この決定の取消しを得ることができるような事後審査手続に接近できるようにする義務を負う。
  その理由付けの中では、構成国が、指令の一条一項(15)により、有効な権利保護を設ける義務を負うと述べ、その際、二条一項によれば第一に、仮命令の可能性、他方で、違法な決定の取消を定めるべきである、と判断している。指令の二条一項b号の文言からは、事後審査機関が、違法な決定を取り消すことのできるものでなければならない、とする。このことは、国内法上、委託発注者の最も重要な決定としての違法な委託先決定の取消しについても定めていなければならない、ということを意味する。そうしてはじめて、迅速かつ有効な権利保護が保障される、というのである。
  なお裁判所は、AおよびBの判決理由の中で、オーストリア法制では、公法上の行為(o¨ffentlich−rechtlicher Akt;acte´ de droit administratif, administrative law measure)を欠く(段落四八)、と述べているが、しかし公法上の行為として委託先決定を構成しなければならない義務があると明示的に述べているわけではない。
  EUの救済手段指令は、契約締結前後ではっきりと異なる委託発注手続の段階を区別していることから、委託先決定の取消可能性が引き出される。委託先決定は、委託発注手続の最も重要な決定として、事後審査機関による審査に服すものでなければならない。その委託先決定に、契約締結が続くのであり、契約締結前の段階と、それに続く段階に、手続上、委託発注手続が区別されている。裁判所は、その間に、どのくらいの時間的な間隔がなければならないかについては判断していないが、委託先決定が、システム的に、権限ある機関の事後審査から除外されてもよいと解釈してはならない、としている。
  損害賠償による権利保護については、入札者の請求権を損害賠償請求に制限する救済手段指令二条六項二段による構成国の権限は、委託先決定に続く契約締結後の段階ではじめて存在するのであり、契約締結前の段階では、かかる制限は許容されない、としている。委託先決定が、二条一項b号の適用範囲に属するからである。したがって、事後審査行政庁は、あらゆる事案において、この決定を取り消す権限を有していなければならない。

  AおよびBの論点について
  次に、AおよびBの論点については、まとめて次のように述べている。救済手段指令二条一項b号の直接適用に関しては、裁判所は、国内の事後審査機関が、その取消を申請することができる委託先決定がないにもかかわらず、事後審査手続を実施する権限を与えられてはいない、と判断する。このような確認によれば、委託先決定を入札者が知ることがなく、それゆえこの意味で、その取消対象が「ない」場合は、事後審査は事実上不可能である、ことを認識させる。この事例においては、事後審査手続の適切な手続対象がないのである。
  裁判所は、救済手段指令の直接適用可能性に明示的に踏み込んではいないが、直接適用は考えられないということを意味している。したがって現状では、あらゆる事例において、委託先決定を取消可能であるように取り扱うという事後審査手続の取り扱いについての、入札者の請求権も、事後審査機関の義務もない、というのである。
  同判決およびオーストリア法制の問題点については、ここではふれない(16)。アルカテル判決は、前述の論点@についての判断による限り、委託先決定自体の取り消しを求めることができる救済制度でない限り、EU指令が求める実効的な権利救済制度たり得ないということを判示したものである。

三  ドイツ法による手続と法的構成


  前述のように、ドイツ法上は伝統的に、入札等の手続の結果行われる委託先決定がその契約相手に通知されることにより、契約が成立するという法的構成をとってきた。その点では、オーストリアの委託発注法と同様の法的構成をとっていることとなる。
  このことは、委託発注法改正法でも前提とされている。同法により改正された競争制限禁止法一一四条二項一段は、次のように定めて、従来のドイツ法の考え方を変えることなく基礎としている。

「〔委託発注審査部の裁決〕
第一一四条    
(2)  すでに行われた委託先決定(Zuschlag)は、取り消すことができない。事後審査手続が相手先決定の通知、委託発注手続の取消もしくは中止、またはその他の方法で終了したときは、委託発注審査部は、参加人の申請に基づき、法令違反があったかどうかの確認を行う。第一一三条第一項は、この場合には適用しない。」

  政府の立法理由も、この点は明確に述べている。すなわち、委託発注規定の遵守を求める権利は、委託先決定の通知および契約締結の後は、手続規定の遵守を求める権利の余地はないから、委託発注手続の終了までしかそれを主張することはできない。ドイツ法によれば、委託先決定により契約が成立し、それは原則としてもはや取り消すことはできないのである(17)
  この点については、異論はみられない。したがって、手続の結果、委託先決定が行われると同時に契約が成立するために、これまでは、手続参加者が委託先決定を知った段階では、委託発注審査部への異議申立ておよび上級通常裁判所への即時抗告で委託先決定自体を争うことは、まずできないという実務上の問題点があったのである。
  このように、アルカテル判決のいう委託発注手続上「最も重要な」決定である委託先決定が行われると同時に契約が成立し、もはやその取消しを求めることができなければ、ドイツ法上は、この点ではなおもEU指令に違反しているとの判断を免れないことになる。つまり委託発注法改正法により争訟制度はもうけられたものの、それはEU指令が求める実効的な救済制度たり得ないと判断される可能性が極めて高いのである。こうして、ドイツ法上もその問題点をさらに検討し、場合によっては更に法改正する必要性も出てくることとなったのである。

四  従来の考え方を前提とした論点


  次に、現行ドイツ法の解釈を前提として、関連する争訟手続上の論点についての議論をみておこう。委託先決定により契約が成立し、その後は委託先決定の取消しを求めることができないとされることから出てくる論点として、@委託先決定後の争訟手続利用の可能性があるか、A委託発注手続の中で、手続参加者から法令違反を指摘されて入札手続自体を取り消すことにより、争訟手続は利用できなくなるのか、の論点がある。

  @  委託先決定後の争訟手続利用の可能性
  裁判所の判決および委託発注審査部の裁決の中には、委託発注先決定がなされ契約が成立した後は、異議申立ての権限も認められないとするものも出てきている。デュッセルドルフ上級通常裁判所九九年四月一三日決定(18)がその例である。この解釈はもともと、委託発注法根拠改正法の政府提案理由の中で述べられていた考え方でもある(19)。デュッセルドルフ上級裁判所は、傍論の中で、この見解を展開し、議論を呼ぶこととなった。
  これに対して、文献の中では、この見解を支持するものはほとんどみられない(20)。例外的な場合にのみ、委託発注先決定の後に、違法性確認のために事後審査手続を許容すべきであるとする折衷的な見解(21)も、なお実務の中では、現状では、受け入れられていないようである。
  この論点は、異議申立てを失敗させるためまたはそれによる手続の遅延を避けるために、緊急に委託先決定を行い契約締結に持ち込むことによる実務上の争訟回避策にどのように歯止めをかけ、権利救済を保障するかという点でも議論されているといってよい。契約が締結されれば、それ自体が争訟手続の対象とされることから免れることについては、多くの論者が指摘するように、権利救済制度として問題があるのである。

  A  入札手続の取消後の争訟手続利用の可能性
  さらにこの関連では、委託発注手続の中で、法令違反を指摘する警告が手続参加者から発せられたら(22)、入札手続を取り消して、手続を終了させるという実務(「手続取消への逃避」)も行われているようであり、そのことに対する対応として、「手続取消しの取消し」を求める事後審査が認められるのかという論点でも議論が展開している。
  この点については、法改正直後の連邦委託発注部の裁決の中には、手続取消後の事後審査も認める見解を示すものもあったが(23)、デュッセルドルフ上級通常裁判所の二〇〇〇年三月一五日決定(24)が、それを原則として否定して以来、連邦委託発注部もその解釈を変更するに至っている(25)。デュッセルドルフ上級通常裁判所決定では、手続取消が権限濫用されたと見られる例外的な場合にのみ、手続取消後の事後審査を認めている。
  同決定は、委託発注先決定の通知により、またはその他の方法により委託発注手続が終了する前に、委託発注部に委託発注事後審査申請がなされているときにのみ、事後審査手続は許容されるという見解をとっている。そこでは、委託発注手続の違法性の確認の事後審査申請は、委託発注先決定通知の前にのみ許容されるとされている。その根拠付けに、競争制限禁止法一一四条二項一段、と政府の見解、同法一〇七条二項を援用している(26)。一〇七条二項は、利益を有する者に限定していると解釈するのである。
  このような制限的な解釈に対して、文献の中では、連邦委託発注命令の中で、手続取消の事前手続を定めるべきとする見解が出されているほか、裁判所および委託発注審査部の中で現状のような見解が取られる限り、違法な入札手続の取り消しに対しては、民事裁判で給付訴訟または確認訴訟の方法をとるべきであるとする見解が見られるに至っている(27)
  デュッセルドルフ上級通常裁判所の見解は、救済手段指令が、その一条三項(28)で、利益を有する者または有した者に救済を認めている見解と相容れない解釈である。しかし多くの委託発注部の裁決が、デュッセルドルフ上級裁判所決定にしたがった見解を述べているようである(29)
  さて以上のように、いずれにせよ、委託発注先が決定・通知され契約が成立したとされれば、現状の争訟法上の取り扱いでは、事後審査手続が実質的に失敗に終わり、機能しないことは確かである。また同様に、実務上、入札手続が取り消されれば、委託発注先決定に至る手続自体が結果的に終結するので、争訟手続で争う対象がなくなるという取り扱いも有力である。したがってこうした場合における実効的な権利救済のありかたが、問題となるのである。

五  委託発注の行為形式と法的統制の実効性


  EC裁判所アルカテル判決は、委託先決定と契約締結が明確に分離されており、最も重要な委託先決定についての争訟提起の可能性を保障しなければならないことを構成国に求めるものである。そこで次にこの判決との関連で、行政の委託発注に際しての行為形式についての議論をみておこう。ここでは、委託発注について明確に二段階論を主張する見解と公法契約による委託発注の問題を取り上げる。

1  委託発注における二段階論
  ここでいう二段階論(Zwei−Stufen−Theorie)は、かつて資金助成行政において、H・P・イプセンにより主張され、判例上も定着をみた理論の意味での二段階論の主張である。この理論によれば、委託先決定自体は、行政行為として行政裁判所の義務づけ訴訟等の対象となり、その後に締結される建設委託契約、物品調達契約等は、民事法上の契約として、通常裁判所の管轄に服するものとする。委託発注法根拠改正法直前の主張であるが、二段階論を主張する者として、ヘルメスの見解をみておこう。
  ヘルメスは、九七年の論文で(30)、委託発注を行う国家も、基本法三条の平等原則に拘束されるとし、その憲法上の原則を保障するための委託発注手続および権利保護手続について論じている。彼による議論は、次のように整理することができる。
  @  委託発注手続は、本質性理論の考え方を適用して、議会の制定する法律により規律されなければならない。この点では、請負規程および委託発注命令により規律している現行法は、基本法上問題がある。
  A  また憲法上の理由から、裁判所への出訴が認められなければならない。基本法一九条四項の出訴の途の保障規定から、「財政法上の解決策」の段階の委託発注監視委員会の審査手続は、この意味での出訴の途を保障したものとはいえないと評価している。委員会が、制度的な独立性を有しておらず、事実調査権も有せず、仮の権利保護の権限も有しないことから、このような判断をしている。
  B  第三に、実効的な権利保護が保障されるための、委託発注手続について論じ、契約が締結されて取り消され得なくなる前に、基本権を侵害する国家の決定が独立に権利救済の対象となる必要があるとする。「基本権を侵害し得る国家の決定とその執行は、原則としてひとつの行為でなされてはならない。換言すれば、実効的な権利保護の原則は、手続的な段階付け、つまりその決定の発給ないしは通知とその執行との区別を求めている。……(中略)……二段階論は、この文脈において新たな装いをまとうことになる。」
  彼によれば、この点は「法治国家的な最小限の要請」である。二段階論は、統一的な事実を人工的に分解するのではなくて、実務において事実上、契約の締結に先立つものを法教義学的に叙述するものである、とする。
  C  裁判管轄については、次のように論じる。国家の委託を求める多数の参加者の中からの選択を統制するための規範は、公法である。その遵守は、したがって、行政裁判所法四〇条一項により、行政裁判所により統制されるべきである。もちろん通説とは異なるし、法律による他の管轄を指定することもありうることを留保している。
  ヘルメスの見解は、以上のとおりである。アルカテル判決が、委託先決定に対して実効的な権利保護を求めるものである以上、契約締結前の段階で、争訟手続が利用可能でなければならず、その意味で、契約締結後の争訟と、それに先立つ委託先決定に対する争訟とに区分して、手続上は、二段階論的構成が主張される余地が出てきたといえる。文献の中で、二段階論の必要性について言及する者が多いのは、その意味では理由がある。また、委託発注に対する法治国家的統制の意図も、評価し得るものではある。しかし立法論としてはともかく、現行法を前提とする限りは、伝統的な意味での二段階論の適用の余地はない。伝統的な意味の二段階論は、公法上の行為たる行政行為と私法上の行為たる契約締結から行政の行為形式を構成するものであった。そこでは、争訟の管轄が行政裁判所と民事裁判所の管轄に二分されることになる。しかし、現行ドイツ法は、裁判所の管轄を民事裁判所に一元的に指定することとした(競争制限禁止法一一六条三項)。
  結局のところ実務および多くの文献の中では、現行法を前提として、実効的な救済を保障するための議論が行われればよいのであって、そのためには、必ずしも二段階的な構成は必要ないと考えられているようである(31)。立法論的にはともかく、現状では、ヘルメスの見解への支持はみられないようである。

2  公法契約による委託発注
  次に、公法契約による委託発注の問題を取り上げておこう。前述のように、ドイツでは、委託発注は私法契約により行われるとされてきたし、それを前提として、委託発注法改正法までの立法は行われてきたといってよい。しかし最近において、行政の高権的な事務を民間に委託する際に、公法契約により業務を委託する例についての議論が出てきている。具体的な例としては、(民間の病人搬送などの業務でない)行政の救急業務を民間に委託して行わせる例などについて議論がある(32)
  問題は、公法契約により行政の高権的な業務を委託する場合に、委託発注法の規定が適用されるかどうか、である。もともと、委託発注法根拠改正法の立法理由では、法律による役務実施組織の指定および公法契約によるそれは、委託発注法の適用除外にあたるとする見解が主張されていた(33)。それを前提としてそれに従う文献(34)、裁判例(35)もないわけではない。
  これに対して、委託発注法の適用は、私法契約か公法契約かの区別を前提としないという見解が文献の中では支配的である(36)。EU指令は、こうした委託発注の形式的な法形式の違いを前提としてはないし、また委託発注者が公法契約を使うことにより委託発注法の統制を逃れることに対する対策としてもこのような見解が主張されている。EU指令とそれを前提とした競争制限禁止法の規定を前提とする限り、公法契約による業務の委託も、公共委託発注の定義を満たすものである限りは、委託発注法規定の統制を受けるといってよいであろう。文献の中では、公法契約による委託の場合に、特許モデルと請負モデルの二類型があるとして、後者は、委託発注者と企業との対価関係がある役務提供契約であるので、委託発注法が適用されるとする見解もある(37)。いずれにせよ、委託発注法が、私法契約と公法契約とを区別して、前者のみに適用を限定しているとの解釈は、EU指令には適合していないとされている。

六  情報提供義務と法的統制の実効性


  二で述べたように、EC裁判所アルカテル判決によれば、委託先決定に対して実効的な権利保護を保障することがEU指令に適合する条件であるとされた。ドイツにおける議論は、アルカテル判決で示された条件に対して、ヘルメスのように二段階論で対応するのでなく、現状を前提としながら、実効的な権利保護を保障する方策を追求しつつある。つまり、委託先決定を行政行為と構成して対応するのでなく、後述のように委託先決定に対する情報を事前に与えることにより、実効的な権利保護を確保しようとする傾向が強くなっているといえよう(38)

1  連邦委託発注部ユーロ硬貨板裁決
  委託発注先決定と契約の成立の一体性をとっているドイツ法の原則を前提としながら、EU指令および基本法に適合的な解釈を展開し、議論を呼んでいるのが、連邦委託発注部の九九年四月二九日ユーロ硬貨板裁決(39)である。事案は、ユーロ硬貨を新しく鋳造するための硬貨板の調達に関して行われた物品調達に関するものであり、委託者が裁決を争わなかったので、裁決自体は、確定している。物品調達に関する委託発注であるので、物品調達請負規程(VOL/A)の適用される手続であった。
  物品調達請負規程A部の二七a条は、申請に基づき、申請後一五日以内に、当該参加者の申込が考慮されなかった理由、落札した参加者の名称を通知するものとしている。本件裁決で注目されるのは、この規定を基本法(憲法)適合的に解釈することにより、委託先決定がなされる事前に手続参加者への情報通知をなすべき義務を構成することにより、実効的な権利保護を確保しようとしたことにある。
  裁決は、委託者が、申請を行った委託発注手続の参加者に対して、委託先決定の少なくとも一〇日前までに、どの申込者が委託先相手として考慮されているのか、およびどの理由で当該申請者の申込を拒否するのかについて、通知する義務があると判断した。事前にかつ申請がなくとも、情報を提供する義務があると解釈したのである。
  また、委託者がその通知義務を適時に履行しなかったときは、申請者は、その権利を侵害されたのであり、競争制限禁止法により与えられた権利に対応して権利主張ができる、とも判断した。
  裁決理由によれば、この解釈が、次のように根拠付けられる。
  競争制限法九七条七項は、委託発注規定の遵守を求める請求権を与えている。事後審査手続により保障される第一次的権利保護は、委託発注先決定通知の後に申込者がその事実を知っていたのでは、保障されない。そうした状況は、基本法一九条四項の実効的な権利保護の保障と相容れない。この基本法の規定は、国家の国庫的な補助活動にも適用される。国庫的な補助的活動も、公権力の行使とみなされるからである。
  裁決は、このように述べた上で、官吏法上の競争者訴訟(Konkurrentenklage)についての連邦憲法裁判所の判決(40)の論理を適用し、さらに基本法二〇条三項の法治国家原理を補助的に援用して、委託発注法上の情報提供義務について根拠付けている。
  情報提供義務の実体法上の根拠は、VOL/Aの二七a条の憲法適合的な解釈であるとする。この規定は、もともと委託先決定通知の後の、委託発注者の情報通知義務を定めていると解釈されてきた。しかし、競争制限禁止法九七条七項との関係で憲法適合的には、相当の教示は、委託先決定通知の前になされなければならず、しかも、委託発注手続が通常行われる時間的な切迫性を考慮すれば、委託発注先通知の少なくとも一〇日前に通知しなければならない、とするのである。

2  裁決をめぐる議論
  この裁決をめぐっては、それが実効的な権利保護を解釈により保障しようとするものであるところから、注目を集めるとともに、さまざまな批判もまた提起されている。多くの論者は、裁決が目指した実効的な権利保護の確保の努力は評価しつつも、解釈論的に無理があるとの批判を加え、法改正による対応を求めているものと整理することができる。  解釈論的な批判は、概略次のとおりである。
  @  決定は、実体的な権利がないところで、実体的な権利の実効的な権利救済についての憲法規定を援用しており、論理が逆である。競争制限法九七条七項の規定は、手続的な権利を保障するものである。官吏法についての基本法三三条二項の規定と比較されるような権利規定はなく、実体的な権利を保障していない。
  A  基本法一九条四項の規定は、「公権力の行使(o¨ffentliche Gewalt)」についての規定である。国家の委託発注手続は、この実効的権利保障規定ではカバーされない。カバーされるかどうかについて争われているし、さらには、民間事業者たる特別部門の委託発注者には適用されないのである。
  B  VOL/A二七a条は、九三年七月一四日の物品調達調整指令の七条一項の規定とほぼ文言上は一致している。この規定は、もともと事後的な通知の規定であるが、連邦委託発注部は、これから事前の通知義務を導き出し得るとして無理な解釈を展開している。同規定に定められている情報通知義務は、事前の通知義務とは別物 aliud である。
  Bー2  請負規程は、法規範ではなく、約款または行政規則の性質しか持たない。裁決は、法規範の解釈のための方法を、約款の性質しか持たず、法規範ではない規定に適用している。憲法適合的、指令適合的な解釈の余地はない。
  結局、裁決のように、現行の請負規程からの解釈により、事前の通知義務を導き出すのには無理があり、法改正の必要があるとする論者が多くみられる(41)。しかし、裁決のような解釈が無理であるとすれば、アルカテル判決が投げかけた指令違反の指摘は、回避できないことにもなる(42)
  なお、以上の批判のうち、実効的な権利保護の規定が、国庫的補助活動とされてきた委託発注にも適用されるかについては、議論が二分されているといってよく、上記の批判がまったく受け入れられているわけではない。学説の中では、調達活動を行う行政主体も公権力の行使を行うものと見なされ、一九条四項の保障のもとにおかれているとするもの(43)と、国庫的な補助活動を除外するもの(44)とに分かれている。なお、後者の見解も、公共事務遂行のために私法形式を用いるいわゆる行政私法上の活動には、同項の適用を認めており、その境界が問題となろう。また、一九条四項の適用を認めるとしても、それは、国、地方団体などの伝統的な委託発注者には適用できるとしても、特別部門の委託発注者には適用されないという問題点もある(45)。いずれにせよ、現状では、まったく見解が二分されている状況である。
  なお、委託発注活動も基本法一九条四項の保障を受ける活動であるとする解釈が取られれば、EU指令による現在の公共調達に対する権利救済制度の対象とならない発注限度額以下の委託発注活動については、憲法違反の疑いがあるとする論者も出てきている(46)
  以上のような実効的な権利保護の保障から、さまざまな解釈を導き出そうとする努力は、文書化義務や、文書閲覧請求権などのように、実定法上の規定が必ずしも十分でないとされる問題点についても展開され、裁判例の中にもこうした解釈を積極的に展開するものもみられる(47)

3  連邦政府の対応−連邦委託発注命令改正案
  最後に、これまでみてきたようなEC裁判所判決、連邦委託発注部裁決などをめぐる議論を受けて、連邦政府も情報提供義務を法令の中に定めて、EU指令への適合性を確保しようとしている。現在(二〇〇〇年一一月)、連邦政府は、委託発注命令の改正案を閣議決定し、連邦参議院に送付している。その一三条では、次のように委託発注者に、委託先決定前一四日までに情報通知すべき義務を定めている(48)

「〔情報義務〕
  第一三条  委託発注者は、契約相手として考慮されることとならない申込者(Bieter)に、申込を承諾することとなる申込者の名称およびその申込を考慮しない予定であることの理由を情報として通知する。委託発注者は、その情報を遅くとも契約締結前一四日前までに与える。契約は、この期間経過前には、または情報が与えられてかつこの期間が経過したのでなければ、これを締結してはならない。それにも関わらず締結された契約は無効である。」

  連邦政府は、提案理由の中で、こうした情報通知義務を命令の中で定めることで、従前のように委託先決定と契約締結が同時に行われ、なおかつ契約締結後は、それを取り消すことができないような法的しくみは維持したままで、実効的な権利保権の確保と、EC裁判所のアルカテル判決で述べられた要請とを満たすことになるとしている。この規定に反して、契約が締結された場合は、民法典一三四条の意味での法律上の禁止に反しているということになり、契約は無効となる。このようにして、契約からはずされた参加者に実効的な権利保護を保障しようとしている。
  このようにして従来の諸改正(委託発注法根拠改正法までの諸改正)で事実上保障されることのなかった実効的な権利保護が保障されるとすれば、EU法上求められる救済手段指令の国内措置は、さしあたり指令の要求事項を満たしていると判断されることになろう(49)

七  お  わ  り  に


  本稿執筆段階では、ドイツ法における公共調達の行為形式等についての議論が決着しているわけではなく、手続の改正も最終的に成されているわけではない。しかし、いずれにせよ早晩、EU法の基本原則に沿った実効的な権利救済のシステムが確立されて行く方向へ進んでいくものと思われる。
  これまで述べてきたように、ドイツの委託発注法制についての議論は、裁判所への制度的な出訴が認められるだけでは、委託発注についての実効的な権利保護制度としては認められないということを再認識させる。もちろん、本稿で検討したドイツの法制度および議論が、EUにおいても、模範的なものとして評価されるわけでは決してなく、むしろEUの構成国の中で、遅れた対応を見せていたドイツが、ドイツですらこうした対応を見せたというところが、評価されるべきものと考えられる。ドイツと考え方を共通にするところの多いわが国の制度および理論に対する反省を迫るものであるという観点から、である。
  わが国の公共契約の方式およびそれについての権利救済制度の機能不全については、すでに別稿で指摘してきたが(50)、本稿で紹介したアルカテル事件やその後のドイツ連邦政府の対応をみても、やはりわが国の権利救済制度の問題点を強く認識せざるを得ない。すでに別稿で指摘したような、わが国のWTO政府調達協定に基づく救済制度についても、こうした観点から再検討なされなければならないであろうし、また同制度の対象とならない公共調達についても、実効的な権利保護の確保と、それを通じた公共調達行政の適正化が進められなければならないといえよう。
  ドイツ法上、公法学的にも私法学的にも、また実務上も、公共調達法、委託発注法の分野は現在最も社会的な関心の高い分野のひとつであり、またさまざまな判決等が出されつつある分野のひとつである。たとえば、社会的に関心を呼んだベルリン・ブランデンブルク国際空港事件についてのブランデンブルグ上級裁判所決定は、委託発注者の活動を、基本法一九条四項で保障された実効的な権利保護の適用対象となる「公権力」にあたるとして、行政私法の分野に属させつつ、委託発注者と受託者たる企業のそれぞれの役職員をかねることを制限することを内容とする判決を示した。そこでは、基本法上の平等原則、恣意的行動の禁止の原則のみならず、行政手続法二〇条が適用されるとする注目すべき判決(51)を出している。この判決を受けて、連邦政府の委託発注命令案では、その一六条に、関与してはならない者として排除される担当者についての規定をおいている。このように、裁判例、裁決例の展開を受けて、関連法令も変わってきているが、全体として、公共調達活動の適正な執行を確保し、権利保護を保障する方向で動いていることは間違いない。
  今後とも、法改正、裁判例の動きから目が離せない状況にある。

(1)  九八年の委託発注法根拠改正法については、拙稿「ドイツ公共調達法と司法審査保障」立命二六一号二二頁以下(一九九九年)、同改正法の条文は、拙訳「公共委託発注のための法根拠改正法」立命二六二号二八七頁以下(一九九九年)参照。
(2)  ドイツ公共調達法のこれまでの展開のうち、財政法的解決策については、拙稿「政府契約締結の争訟的統制」鹿法三一巻一号一頁以下(一九九五年)、同「EU公共調達法の展開とドイツ法の『欠陥』」行財政二八号二九頁以下(一九九六年)、同「政府契約法改正の動き」同三四号四一頁以下(一九九七年)参照。なお、以下で論じる内容を含めてその全体的な状況は、すでに同「ドイツ競争制限禁止法と公共調達ー第六次改正による委託発注法の組込みとその後の状況ー」公正取引五九六号二〇〇〇年六月号四六頁以下において述べている。改正法についてのコメンタールも各種刊行されている。F. Niebuhr/H.-P. Kulartz/A. Kus/N. Portz, Kommentar zum Vergaberecht, 2000;Arnold Boesen, Vergaberecht, 2000;H. Ingenstau/H. Korbion, VOB Zusatzband Vergaberechtsa¨nderungsgesetz, 1999 など参照。
(3)  第二次世界大戦後、資金助成行政をめぐって展開された議論、特に二段階論については、さしあたり、拙稿「資金助成行政の行為形式論(一、二、三・完)ー西ドイツ行政法学および裁判例の理論とその問題点」名法一〇六号三七三頁、一〇八号二四九頁、一一一号五一一頁(一九八五、一九八六年)参照。
(4)  Vorschlag fu¨r eine Richtlinie des Europa¨ischen Parlaments und des Rates u¨ber die Koordinierung der Verfahren zur Vergabe o¨ffentlicher Lieferauftra¨ge, Dienstleistungsauftra¨ge und Bauauftrag¨e, KOM (2000) 275 endgu¨ltig;Vorschlag fu¨r eine Richtlinie des Europa¨ischen Parlaments und des Rates zur Koordinierung der Auftragsvergabe durch Auftraggeber im Bereich der Wasser−, Energie− und Verkehrsversorgung, KOM (2000) 276 endgu¨ltig.
(5)  連邦財政法五五条二項に基づく連邦財政法暫定行政規則による。拙稿・前掲鹿法注(29)参照。
(6)  拙稿・前掲鹿法三章一節参照。
(7)  フランスの公共調達法制については、拙稿・前掲鹿法注(5)注記の文献参照。フランス法とドイツ法の比較研究を行う文献として、Thomas Ax, Rechtsschutz bei der Vergabe o¨ffentlicher Auftrag¨e in Deutschland und Frankreich−eine rechtsvergleichende Untersuchung, 1996 参照。フランスにおける公共調達の司法的救済については、S. 190ff., 447ff. 参照。なお、イギリス法制については、Heiko Ho¨fler, Haftung und Kontrolle des o¨ffentlichen Auftraggebens im englischen Recht, 1997 参照。
(8)  拙稿・前掲注(2)鹿法注(19)から(22)、拙稿・前掲注(3)(1)三八五頁、四二〇頁参照。
(9)  Bundesvergabegesetz 1997, BGBl. I Nr. 56/1997 zuletzt gea¨ndert durch BGBl. I Nr. 80/1999.
(10)  EuGH, Urt. v. 28. 10. 1999−Rs. C 81/98−(Alcatel Austria AG u.a., Siemens AG O¨streich, SAG-Schrack Anlagentechnik AG gegen Bundesministerium fu¨r Wissenschaft und Verkehr), ZVgR 2000, S. 9ff.;NZBau 2000, S. 33ff.;DB 2000, S. 419ff.;NJW 2000, S. 569ff.
(11)  連邦委託発注法九九条以下に基づいて設置される行政部内の救済機関であり、同法により与えられた権限については、初審かつ終審として審判を行うとされている(同法九九条二項)。
(12)  VfGH v. 26. 6. 1997, O¨ZW 1998, S. 41 (mit Anm. v. Gutknecht);wbl 1997, S. 444 (mit Anm. v. Grussmann).
(13)  Boesen, a. a. O. (N. 2), Aktuelle Erga¨nzung B.I. は、「事実上、ひとつの行為」で行われると表現している。
(14)  指令(八九/六六五)の二条一項a号およびb号および六項は次のような条文である。
      「第二条  構成国は、第一条に定める審査手続に関して取られるべき措置が、次の各号に定める権限についての規定を有するよう確保するものとする。
      (a)  主張される法令違反を除去しまたは関係利益のさらなる侵害を防止するために、仮命令の方法で可及的に迅速に暫定的な措置をとることができる権限。そこには、公共契約の付与または契約機関によりなされるあらゆる決定の実施の手続の停止もしくは停止を確保するための措置が含まれる。
      (b)  違法になされた決定の取消しまたは取消しの確保の権限。応札の要請書および契約文書もしくは契約付与手続に関するその他の文書の中での差別的な技術的、経済的または財政的な仕様の除去を含む。
      (c)  法令違反によって損害を被った者に対する損害賠償の承認の権限。」
      「第二条  (6)  委託先決定に続けて締結される契約に対する、第一項にいう権限の行使の効果は、国内法により定めるものとする。さらに決定が損害を与える前に取り消されなければならない場合を除き、構成国は、委託先決定に続く契約締結の後には、審査手続の権限を有する機関の権限を、違反により損害を被る者に対する損害賠償の方法に限定するものとすることを定めることができる。」
(15)  「第一条  構成国は、指令 71/305/EEC および 77/62/EEC の適用範囲内の契約締結手続に関して、契約機関によって行われる決定が効果的にかつ特に可及的速やかに本指令の後の条項、特に二条七項において定める条件に適合的に、かかる決定が公共調達の分野の共同体法またはその法を実施する国内法に違反しているという理由で、審査されことができることを確保するために必要な措置をとるものとする。」
(16)  なお、アルカテル事件の決定についてのオーストリアでの論評として、Johannes Schramm, Urt. Anm. ZVgR 2000, S. 13ff.
(17)  BT-Drucks. 13/9340, S. 19;BR-Drucks. 646/97, S. 30.
(18)  OLG Du¨sseldorf, Beschl. v. 13. 4. 1999, WuW 1999, S. 813ff.;NZBau 2000, S. 45ff.
(19)  BT-Drucks. 13/9340, S. 17, 19, 50.
(20)  Bechtold, GWB, 2. Aufl. 1999, § 103 Rdn. 3;Hans−Peter Kulartz, Nachpru¨fungsverfahren nach neuen Vergaberecht, BauR 1999, S. 724ff.;Heiko Ho¨fler, Die Novelle erobert die Praxis − Erste Entscheidungen zum neuen Vergaberecht, NJW 2000, S. 120f., 121;Thomas Ax, Rechtsschutz bei Vergabekammer auch nach Zuschlag?, ZVgR 2000, S. 155f.
(21)  Timm R. Meyer, Vergaberechtsschutz nach Erteilung des Zuschlags, WuW 1999, S. 567ff. マイヤーは、違法性確認を認めるために確認の利益が存在する三つの場合に限定して認めている。第一に、委託発注書類の営業秘密を利用することなしには損害賠償訴訟の勝訴の見込みがないとき、第二に、具体的かつ個別的な繰返しの危険があるとき、第三に、申請者の非難直後に権限濫用的に委託先決定がなされたとき、である。
(22)  委託発注の手続の中で知り得た法令違反については、早期に指摘しておかないと争訟手続の申請ができないという効果が生じる(競争制限禁止法一〇七条三項二段)。
(23)  BVergK, Beschl. v. 17. 11. 1999, VK 1-17/99, Fischer/Noch, EzEG-VergabeR, (6)
17;BVergK, Beschl. v. 26. 1. 2000, VK1-31/99.
(24)  OLG Du¨sseldorf, Beschl. v. 15. 3. 2000, Verg 4/00, WuW 2000, S. 821;NZBau 2000, S. 53;ZVgR 1999, S. 70.
(25)  BVergK, Beschl. v. 17. 4. 2000, VK 1-5/00.
(26)  「〔委託発注審査部の裁決〕第一一四条  (2)すでに行われた委託先決定(Zuschlag)は、取り消すことができない。」「〔開始、申請〕第一〇七条  (2)委託に利害関係を有しかつ委託発注規定の不遵守により第九七条第七項によるその権利の侵害を主張するあらゆる企業が、申請権能を有する。それに際し、その主張する委託発注規定違反により企業に損害が生じたかまたは生じる虞があることを、説明しなければならない。」
(27)  Jan Byok, Rechtsschutz gegen die Aufhebung einer Ausschreibung, WuW 2000, S. 718ff., 721ff.;Thomas Ax, Rechtsschutz nach Aufhebung der Ausschreibung−Aufhebung der Aufhebung der Ausschreibung bei Vergabekammer?−Schadensersatz?, ZVgR 2000, S. 153ff. は、BVergK, Beschl. v. 26. 1. 2000, VK1-31/99 の見解を肯定的に紹介している。
(28)  「(3)  構成国は、構成国が設定する詳細な規則のもとで、少なくとも特定の公共物品供給または公共工事契約を得ようとする利益を有するかまたは有した何人にも、そして主張する法令違反によって損害を被ったかまたは被るおそれのある審査手続が利用可能であることを確保するものとする。特に、構成国は、審査を求める者が、事前に契約機関に対して、法令違反と審査を請求する意図を伝えなければならないということを要求することができる。」
(29)  Andre´s Martin−Ehlers, Die Unterscheidung zwischen Zuschlag und Vertragsshluss im europa¨ischen Vergaberecht, EuZW 2000, S. 101ff., 102, Anm. 22.
(30)  Georg Hermes, Gleichheit durch Verfahren bei der staatlichen Auftragsvergabe, JZ 1997, S. 909ff.
(31)  たとえば、Ingo Brinker, Vorabinformation der Bieter u¨ber den Zuschlag oder Zwei−Stufen−Theorie im Vergaberecht?, NZBau 2000, S. 174ff., 178;Olaf Reidt, Das Verha¨ltnis von Zuschlag und Auftrag im Vergaberecht − Gemeinschafts− oder verfassungsrechtlich bedenklich?, BauR 2000, S. 22ff., 23.なお、Ingolf Pernice/Stefan Kadelbach, Verfahren und Sanktionen im Wirtschaftsverwaltungsrecht, DVBl. 1996, S. 1100ff., 1106 は、二段階論が考えられるのではないか、としている。
(32)  Martin Schulte, Ausnahmen vom neuen Vergaberecht durch o¨ffentlich−rechtliche Vertra¨ge?, NZBau 2000, S. 272ff.
(33)  Amt. Begr. zu § 99 GWB (§ 108 RegE), BT-Drucks. 13/9340, S. 12, 15.
(34)  Meinrad Dreher, Der Anwendungsbereich des Kartellvergaberechts, DB 1998, S. 2579ff., 2587;Schwarz, in:Bechtold, GWB, 2. Aufl. 1999, § 99 Rdnr. 1.
(35)  OLG Celle, Beschl. v. 24. 11. 1999, 13 Verg 7/99, Fischer/Noch, EzEG-VergabeR, (8) 2. 9. 4.
(36)  Jan Byok, Das neue Vergaberecht, NJW 1998, S. 2774ff., 2777;Jost Pietzcker, Der perso¨nliche und sachliche Anwendungsbereich des neuen Vergaberechts, ZVgR 1999, S. 24ff., 32;Eschenbruch, in:Niebuhr/Kulartz/Kus/Portz, a. a. O., § 99 GWB Rdn. 22;Hans−Peter Kulartz/Frank Niebuhr, Sachlicher Anwendungsbeeich und wesentliche Grundsa¨tze des materiellen GWB−Vergaberechts, NZBau 2000, S. 6ff., 7f.;Boesen, a. a. O. (N. 2), § 99 Rdnr. 23-31;Thomas Stickler, in:Olaf Reidt/Thomas Sticker/Heike Glahs, Vergaberecht−Kommentar, 2000, Vorb. z. §§ 97-101, Rdn. 7;Stefan Althaus, O¨ffentlich−rechtliche Vertra¨ge als o¨ffentliche Auftra¨ge gem. § 99 GWB, NZBau 2000, S. 277ff.;Stefan Ulrich Pieper, Keine Flucht ins o¨ffentlichen Recht−Die Vergabe o¨ffentlicher Auftra¨ge durch o¨ffentlichen Vertrag−, DVBl. 2000, S. 160ff.
(37)  Schulte, a. a. O. (N. 32), S. 275ff.
(38)  なお、アルカテル決定を受けたオーストリアでも、たとえば、Schramm, a. a. O. (N. 16), S. 16 は、連邦委託発注法が保障した事後審査手続の実効性の確保のために、委託先決定の義務的な通知(委託先の名称、その決定の重要な理由を含む)をすべての申込者 Bieter に対して、委託先決定の二週間前までに行うべきではないか、としている。現行のオーストリア連邦委託発注法の規定(五八条三項、五二条二項、五七条(これは、ドイツのVOL/A、VOL/Bと同旨の規定であり、文書での申請があってから一五日以内に通知することを義務づけている。))からは、この通知義務は導き出せないことは認めている。
(39)  Beschluss v. 29. 4. 1999, VK 1-7/99, BB 1999, S. 1076ff.;WRP 2000, S. 106ff.
(40)  BVerfG, Beschl. v. 19. 9. 1989, NJW 1990, S. 501.
(41)  Joachim Gro¨ning, Das deutsche Vergaberecht nach dem Urteil des EuGH vom 28. Oktober 1999−Alcatel Austria AG u. a., WRP 2000, S. 49ff.;Brinker, a. a. O. (N. 31), S. 177;Ulrich Rust, Vergaberechtlicher Prima¨rrechtsschutz gegen die Zuschlagsentscheidung, NZBau 2000, S. 66ff., 67;Jens−Hinrich Binder, Effektiver Rechtsschutz und neues Vergaberecht−U¨berlegungen zur Verfassungsma¨βigkeit der Differenzierung nach Schwellenwerten in §§ 97ff. GWB, ZZP 2000, S. 195ff. などがこうした指摘をしている。一方、たとえば、Boesen, a. a. O. (N. 2), § 97 Rdn. 27 は、連邦委託発注部の裁決を受けて、物品調達請負規程の規定からではなく、競争制限禁止法九七条一項および七項の規定から情報通知義務を導き出そうとする解釈を展開している。
(42)  Martin−Ehlers, a. a. O. (N. 29) は、この裁決に触れながらも、EU法違反の状態は認めており、さらには、それを理由とする国に対する損害賠償についても認める見解を述べている。
(43)  たとえば、Helmuth Schulze−Fielitz, in:H. Dreier (Hrsg.), Grundgesetz−Kommentar, Bd. 1 1996, Art. 19 IV Rdn. 37ff.;Hans D. Jarass, in:Hans D. Jarass/Bodo Pieroth, Grundgesetz fu¨r die Bundesrepublik Deutschland, Kommentar, 4. Aufl. 1997, Art. 19. GG Rdn. 24, Art. 1. Rdn. 18f.
(44)  伝統的な通説的な見解である。たとえば、Scmidt−Aβmann, in:Theodor Maunz u. a., Grundgesetz−Kommentar, Bd. 2 St. 10. 1999, Art. 19 IV Rdn. 65;Rudolf Wassermann, in:Axel Azzola u.a., Kommentar zum Grundgesetz fu¨r die Bundesrepublik Deutschland, Bd. 1, 2. Aufl. 1989, Art. 19 Abs. 4 Rdn. 40ff.;Hartmut Kru¨ger, in:Michael Sachs (Hrsg.), Grundgesetz, 1996, Art. 19 IV Rdn. 120.
(45)  こうした指摘として、Brinker, Urt. Anm., JZ 2000, S. 462ff., 463 など参照。
(46)  Binder, a. a. O. (N. 41), S. 212ff.
(47)  たとえば、Birgit Spieβhofer/Matthias Lang, Der neue Anspruch auf Information im Vergaberecht, ZIP 2000, S. 446ff. は、基本法およびEU法に適合的に競争制限禁止法九七条一項および七項を解釈することによって、透明な手続で委託発注を行うことを求める権利(しかも訴求可能な権利として)が基礎付けられるとして、そこから、情報提供義務とその範囲についての解釈を展開している。もっとも最終的には、委託発注命令の中で、より十分な期間の確保の下で確定した内容の情報提供義務をさだめることが可能であるし、そうでなければならないとしている(現在の委託発注命令案の規定は、まだ不十分であるとの評価である)。文書化義務(Dokumentationspflicht)については、OLG Brandenburg, Beschl. v. 3. 8. 1999, BB 1999, S. 1940ff., 1945;NZBau 2000, S. 39ff.、文書閲覧請求権については、OLG Jena, Beschl. v. 26. 10. 1999, BauR 2000, S. 95 参照。
(48)  もともとの命令案では、通知から契約までの期間は七日間とされていたが、それに対する批判から一四日に延長されている。七日案に対する批判として、Meinrad Dreher, Der Entwurf einer Vergabeverordnung, NZBau 2000, S. 178f., 179. 名宛人が、その通知の内容を検討し、場合によっては法的な見解を求めた上で、さらに委託発注審査機関にたいして手続の異議を申立ててから、委託発注部の事後審査が申請できる。申請書が、委託発注部に送達されてはじめてGWB一一五条一項の委託発注先決定の禁止効果が発生することから七日の期間を短すぎるとしている。Alexander Kus, Auswirkungen der EuGH−Entscheidung 、lcatel Austria AG auf das deutsche Vergaberecht, NJW 2000, S. 544ff., 547 は、連邦委託発注部裁決の一〇日間も短すぎるとしている。命令案は、BR-Drucks. 455/00, v. 2. 8. 2000 参照。
  また、通知を受け取った者が、委託発注者の持つ文書の閲覧請求権についても保障されるべきであるが、規定されていない点に対する批判として、Dreher, a. a. O., S. 179 参照。なお、ドレアーは、案一三条が、情報が与えられなかった場合の、法律上の委託発注先決定禁止を定めたことは、正しいとしながら、規定上明示的には述べられていないが、申込者に対して与えられた情報が不足している場合もそうでなければならないとしている。
  こうした批判を受けて、現在の連邦政府案の一四日の期間が定められたものと推察される。
(49)  Brinker, a. a. O. (N. 31), S. 178 は、そういう主旨である。Rust, a. a. O. (N. 41), S. 67 も同様である。
(50)  拙稿・前掲注(1)はじめに、二参照。
(51)  OLG Brandenburg, Beschl. v. 3. 8. 1999, NZBau 2000, S. 39ff.;BB 1999, S. 1940ff., 1945.
  〔補注〕  本稿脱稿後、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(二〇〇〇年一一月二七日公布、法律第一二七号)が制定された。本法は、「公共工事の入札及び契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置及び施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ることを目的」(第一条)としている。そして適正化の基本的な考え方として、入札・契約過程およびその内容の透明性確保、入札・契約にかかる競争の促進、不正行為の排除、契約の適正な施行の確保の四原則を掲げ(第三条)、それを実現するために、情報の公表、不正行為に対する措置等について定めるものである。
  別稿および本稿でこれまで述べてきたことを前提とすれば、本法でもなお、行政の判断過程の法的統制手段として、裁判所等の第三者機関によるコントロールを保障し、位置付けるという観点が不十分であるという課題が残されている。司法制度改革が議論されている今こそ、この点も含めての、総合的な公共調達法制の再検討が必要であろう(現状では、そもそも争訟制度が利用されず、されにくい、という点の検討も含めて)。
  六-3で述べたドイツの委託発注命令案は、その後、連邦参議院で若干の修正提案を受け、それに基づき、二〇〇〇年一二月一三日に最終的に決定された。本文でふれた一三条の情報通知は「文書で」行うこと、と文言が追加されている。