立命館法学  一九九五年二号(二四〇号)




従業員持株制度の研究(一)
−ドイツとの比較による制度目的の再検討を中心として−

道野 真弘






目    次




は じ め に
 日本の従業員持株制度は、幾度かの流行を経て、現在、上場会社の九五%が採用しており、事実上飽和状態と言えるほど発展した。また、事実上の流行と歩調を合わせるように、学問上も多くの論文が発表されている。学問的考察が実際界の要請に応じて行われるということは、いうまでもなく必要なことであり、これまで実際界において様々な法律上経営学上の問題が生じ、それに対して学問上の解決策(1)が講じられてきた。
 では、なぜ、今、従業員持株制度を論じるのか、である。その答えは、第一に、従業員持株制度が実際上の経済の流れと歩みをともにしたものであり、営利を追求する会社において行われる制度である以上、常に検討の対象となり、営利目的に資するものでなければ(何らかの目的なり理由が他にない限り)消滅する運命にあるということである。従業員持株制度が戦後軌道に乗り始めた一九七〇年代においてすでに、従業員持株制度に関連する議論は「古くて新しい」議論であるといわれたが(2)、この言葉は、自己株式取得規制の緩和との関連等で再度従業員持株制度がクローズアップされている今この時期にも当てはまり、その「古くて新しい」議論に検討を加えなければならないと考える。
 第二に、第一の点と関連するが、以前から従業員持株制度は、個人投資家育成の観点から注目されており、とりわけ現在の証券取引をとりまく厳しい環境の中、従業員持株制度に対する新たな期待が高まっているように思える(3)。しかしながら、そのためにどのような方策を講じるのがよいのか、実務上も学問上も、ある種の膠着状態を起こしているように感じるのである。つけ加れば、従業員持株制度は現状のままでよいのか、または改善すべきなのか、その場合はどのような利点があるのか。これらを総合的に検討する必要があるのではないかと、実務上学問上双方において日本経済が行く末を案じ、方向を模索しているのと同様に、思い悩んでいるようにも感じられる(4)。
 そこで、私が本論文で考察しようとするものは、日本の従業員持株制度がこれまでの発展の中で担ってきた目的を、労働者保護、社会政策上のものにまで広げることによって従業員および会社にさらに魅力あるものにすることができるか、という点である。発展の速度が鈍っている従業員持株制度をさらに発展させるためには、緻密な理論に基づきつつも、ある意味でドラスティックな転換が必要であろうとの認識から、単に法律上の問題点にかかわる解決策だけでなく、もう一歩踏み込んだレベル(国の政策レベルから、経営学のレベルまで)をも含む議論を展開しようと思う。
 ところで、そのような議論を展開するに当たって、ドイツにおける従業員持株制度を参考にした。その理由を端的に言えば、会社の利益に資するものであるかという観点に配慮しつつも、労働者保護の視点からの考察が十分に論じられているということである。日本でも勤労者財産形成促進法立法に関連して同様の議論がなされたとはいえ、あまり大きく採り上げられたわけではない。また、ドイツにおいては共同決定制度が法制度として整備されていることとも関連して、単に労働者の財産形成といった点だけでなく会社の経営に参加もしくはそれに準じる形で関与させる、という点に重点があるのも、日本とは異なる特色である(5)。さらにいえば、従業員持株制度に限らず、他の会社形態においても利用できる従業員資本参加制度もかなり充実している。日本において論じられることの少ないこれらの視点から日本の従業員持株制度を考察することは、従業員持株制度がとりわけ従業員にとって魅力のあるものにしようとの動機に、大きく貢献するものと考える。
 ただドイツの制度を素材にするとはいえ、彼我の制度における相違も大きい。その相違は両国の経済体制および従業員持株制度(それを含む財産形成政策)の展開の相違と関連する。そこで、第一章でその点を検討することとした。すなわち、ドイツの制度から学び、適切によい点を摂取するために、ドイツの制度と日本の制度の異同を明確にしようと思う。比較の際には、それが大きく異なるもの同士の場合は比較考察の枠を多少経済状況や政治状況等、制度の基礎にあるものにまで広げる必要があるのであって、それを怠ると「横のものを縦にした」(6)だけであり、他国の法律上の議論とその批判をそのまま日本に当てはめて日本の法学批判に無断流用する非科学性(7)を非難されかねないからである。そのような考察をした後、第二章において、そこで明らかになった差異を考慮しつつ、法律上の問題に限らず、経営学上の問題をも含んだ諸々の問題点につき議論を展開することとする。

(1) とりわけ顕著に採り上げられた問題点としては、従業員に対する株式取得奨励金が株主平等原則に反しないか、また株主に対する利益供与禁止に反しないか、という点であり、また従業員に対して提供する自己株式の取得を認めることはできないか(すなわち自己株式取得制限を緩和することができないか)、という点である。さらにいうならば従業員持株会の性格であり、持株会規約の内容に関する問題点(株式譲渡制限や議決信託の問題等)であった。
(2) 河本一郎=木下公明=清水延晏=勅水河原正夫=御影真八=多田美邦・従業員持株制度のすべて(別冊商事法務研究一一号)(以下、河本他・従業員持株制度のすべて、と略称する)、一九七〇年、はしがき参照。
(3) 一九九四年度株主総会白書(商事法務一三七三号)五五頁によると、個人株主づくりの必要性を感じている会社は一一二八社(一八三二社中)であり、そのうち個人株主づくりの具体策を実施した二九〇社中二一社が「持株会の拡充強化」を挙げている。ちなみに一位は「単位引き下げ(くくり直しを含む)」三六社、二位が同数で「持株会の拡充強化」と「株式分割(無償交付)」、三位が「単位未満株買増制度」二〇社ということである。
(4) 牛丸與志夫教授は、今から八年前の一九八七(昭和六二)年に、「従業員持株制度の法律上の諸問題」商事法務一一〇二号二頁において、とりわけ上場会社における社内預金と並ぶ従業員持株制度の財産形成手段としての重要性の増大、近時の超低金利時代の到来による高金利の社内預金の維持の困難性、円高不況による不況業種の会社の業績の悪化等を挙げられた上で、「現行の従業員持株制度については、法律上の諸問題が数多く存在している。従業員持株制度を今後とも発展せしめるためには、まず、その法律上の問題点を洗い出し、かつそれに対する解決策を法律の解釈論および立法論において明らかにすることが急務である」と述べている。類似しない点(株価の上昇)も存するが、これはまさに現時点の状況と酷似している。
 さらに、「通説の形成がいまだ十分に行われておらず、法的安定性が確立されていない」と述べられる。そこで、本論文では、従業員持株制度の集大成である河本他・従業員持株制度のすべてや、牛丸教授の前掲論文に続く十数回の連載論文を主として土台としつつ、現代的意義を加味し、今一度考察してみたいと考えている。
(5) 日本についても、制度導入の目的として従業員の経営参加もしくは企業への関心を高める、ということが挙げられるが、それが主目的でないことは実態上明らかである。
(6) 北川善太郎・日本法学の歴史と理論、一九六八年、二頁では、「たとえば、すでに大正年間に、横のものを縦にする時代が過ぎ去ったことを末弘厳太郎は強調し、ドイツ法学の技術導入に躍起となっていた当時の法学界にショックを与えた」と述べられている。日本の現状を無視して外国の議論を導入することの愚かしさを憂えた記述であり、後に続くものとして切に心に留めておくべきであろうと痛感する。
(7) 北川・前掲書、五〜六頁参照。


第一章 日独の従業員持株制度の発展

 本章においては、日本とドイツの従業員持株制度がどのように発展してきたかを、両国における同制度の創設期にまでさかのぼって検討してみたい。そのことによって、両国における従業員持株制度の異同が明らかになるであろう。
第一節 ドイツ
 第一項 総 説
 ドイツで従業員持株制度は、原語では通常、従業員株式による従業員(資本)参加(Mitarbeiter(-Kapital)beteiligung durch Belegschaftsaktien)または単に従業員株式(Belegschaftsaktien(1))という語が用いられることが多い。このような用語の使用が、端的にドイツの従業員持株制度の性格およびその位置づけを物語っていると思われる。すなわち、ドイツにおいては、従業員持株制度は、株式としての性質を重視し(この点については第二章にて詳述)、また、従業員の、株式会社に限らず種々の形態の企業に対する参加制度の一類型であるからである。そして、この従業員持株制度を含む従業員参加制度は、一面で国の勤労者財産形成政策の一端を担っている。
 第二項 従業員持株制度の発展
 では、まず従業員持株制度が実際にどのように実施されてきたのか。クリストフ・ピーツに紹介してもらおう。
 「過去百年間にわたり、従業員の企業に対する参加は知られている。古くは一八七〇年代にイギリスにおいていわゆる『労働株参加(Arbeitsaktienbeteiligung)』の記録がある。そのことが、タンネ製錬所株式会社(ハルツ) (Hu¨ttenwerk Tanne AG(Halz))の、その設立の際株式の大部分を製錬所の労働者に売却するということの誘因となった。
 第一次世界大戦後の一九二〇年代に、フリードリッヒ・クルップ株式会社(Friedrich Krupp AG)が従業員株式を提供したが、これはあくまでもインフレや経済危機、労働組合の強い抵抗、ナチスの統制管理の結果としての大規模な試みでしかなかった。
 従業員株式が大きな意義を有するようになったのは、第二次世界大戦後になってからである。初の従業員株式はジーメンス(Siemens-Unternehmen)が(中略)経営再建への貢献に対する特別配当として提供したものである。継続的な提供は一九五三年にバイエル株式会社(Bayer AG)が、一九五五年に BASF 株式会社(BASF AG)が行った。断続的にはデマーク株式会社(Demag AG)、マンネスマン株式会社(Mannesmann AG)、ヘキスト株式会社(Hoechst AG)が翌年より始めた。六〇年代の勤労者財産形成政策上の(vermo¨genspolitisch)議論の過程において、従業員株式に結びつけられた社会および会社政策上の(sozial- und gesellschaftspolitisch)要素が前面に出て、経営学上の考察は裏に隠れた(2)」。
 また、従業員株式は、国営企業の私有化の際に重要な役割を担った。「広く国民全体の財産形成の促進に関して、国家は、いわゆる『産業における連邦財産(industrielle Bundesvermo¨gen)』を私有化した。これらの措置---一九五九年にはプロイサク株式会社(PREUSSAG AG)によって、一九六一年にはフォルクスワーゲン株式会社 (Volkswagen AG)によって、一九六五年にはフェバ株式会社(VEBA AG)によってなされた---の過程で、従業員は低所得者とともに当該会社の大衆株(Volksaktie)を有利な価格で取得することができた(3)」。その後も、国営企業の株式放出の際に従業員に提供されるケースは多い。一九八五年頃にもフェバやプロイサクにおいて従業員への株式の提供が行われている(4)。
 ところで、ドイツは古くから勤労者の財産形成の促進に力を注いできた。社会政策として福祉の充実していたワイマール共和国時代以来のことという。「旧西ドイツの社会保障制度は、先進工業国の中で最も完備されており、かつ、その給付水準が高い。社会保険の長い伝統があることと、ワイマール共和国以来の社会国家理念が戦後の経済繁栄の中で定着したからである(5)」という。従業員持株制度も、その上に位置する従業員資本参加制度とともにこの勤労者財産形成政策の一環として議論の対象となっているわけである。そしてまた、そのような勤労者財産形成政策上の意味とともに、生産資本(Produkitvkapital)ないしは生産財(Produktivvermo¨gen)の一部階級への集中を是正する意味が、従業員持株制度(および従業員資本参加制度)に対して与えられている。とりわけ先に述べた国営企業の私有化においては、この意味合いが強く、従業員だけでなく、一般の低所得者層へも提供がなされた。
 第三項 従業員持株制度と従業員参加制度
 ドイツにおいては、会社形態として日本のように株式会社が圧倒的に多いという状況にはなく、むしろ一部の大会社に用いられるのみで、最も多い会社形態は有限会社である(6)。また日本では見られない会社形態もあって、ドイツにおける会社形態は多彩である(7)。このことが、従業員持株制度の上に位置づけられる従業員資本参加制度および最上位にある従業員参加制度を生ぜしめる。すなわち、勤労者財産形成政策といい、資本民主化といい、株式会社で働く労働者だけでなく、他形態の会社で働く者をも含めて検討するのでなければ、労働者間の平等を欠くものとなってしまう(8)。そこで株式会社でのみ利用可能な従業員持株制度だけでなく、広くどの形態の会社でも財産形成の手段として利用できるような制度が必要となる。それが、従業員参加制度である。以下、従業員参加制度につき概観する。
  第一款 概念および構成
 先ず、最上位に位置づけられる従業員参加(Mitarbeiter-Beteiligung)の概念につき定めておかなければならないであろう。
 その内容は共同決定法に象徴されるいわゆる経営参加とは違って、業績参加(Erfolgs-Beteiligung)と資本参加 (Kapital-Beteiligung)が主たる要素となる(9)。業績参加と資本参加はさらに細目に分類される。これについてはシュナイダーおよびツァンダーも、その著書の冒頭において、「従業員参加のモデルは様々な形態の構築が可能である。ドイツ連邦共和国における参加を見渡す際に特徴的なのは以下の主要素の分類である。すなわち、
 --- 業績参加(Erfolgs-Beteiligung)および
 --- 資本参加(Kapital-Beteiligung)
である(10)」と述べている。両者は、業績参加が資本参加という目的に対する手段となるというふうに、結び付けられている場合がかなり多い(11)。これは後に述べる従業員持株制度の際の従業員の資金調達の負担軽減として一つの重要な役割を担うべき点である。図1は(12)、このことを端的に表す図である。矢印は金銭の流れを示す。そして、会社に対する出資者、すなわち資本家の中に従業員 (Arbeitnehmer)も(社員(Gesellschafter)として)加わることになる。そこで、従業員参加制度の構成を簡単に述べれば以下のようになろう。すなわち、従業員参加制度は業績参加制度と資本参加制度が主要素となり、双方がそれぞれ労働者の財産形成促進に寄与するが、それとともに資本参加制度が(とりわけ生産資本を広く国民に分散するという意味で)中心となり、業績参加が労働者に対して資本参加をなさしめる金銭的援助をすることで、その側面支援をする、という構成である。
  第二款 運 営
 上に述べた概念および構成に基づき、そのような従業員参加形態はどのように運営されているかという点につきここで述べる。
 先に述べたようにドイツでは多様な会社形態があるが、それにともなって従業員参加制度にも理論上様々な形態がある。これは前述のとおり従業員参加制度が労働者の財産形成促進等の目的で生じ、あらゆる労働者に平等に利用できるように努力がなされた結果であることからも当然であろう。この多様性は、また社会の多様性にも対応しており、その多様な階層の利益を代表する各種団体が、自己の利益を守るべく行っている財産形成政策に対する主張の対立か
ら生じたものであるともいえる。
 ここで簡単に従業員参加制度とりわけ従業員資本参加制度の各形態につき整理してみることとする(13)。まず、直接参加(direkte Beteiligung)と間接参加(indirekte Beteiligung)に区別することができる(図2参照)。これらはともに事業体内での参加制度と言うことができようが、その名の通り、従業員が直接使用者企業に出資する(資本参加する)形態が直接参加、参加機構等を媒介にして間接的に企業に参加するのが間接参加である。
 また、上の区別が事業体内の参加制度におけるものであるのに対し、事業体外における制度もある(図3参照)。事業体外のものとは、企業とは別に参加基金(いわゆる「労働協約基金(Tariffonds)」)をつくり、企業はその基金に業績に関連する給付を行い、労働者は、その基金に参加してその基金から参加証券を得、分配を受けるということになる。すなわち、雇用されている企業と被用者たる労働者に直接の結びつきは生じない。
 また、従業員基金(Belegschaftsfonds)の形態における企業ごとの事業体を超えた解決策も現実に行われている(図4参照)。これは、匿名の、監視の困難な基金が中間に形成されるのではなく、投資証券の受給が事業体所属の者のみに可能な投資基金が形成されるという点で上記の形態とは異なる。この従業員基金は、資本投資会社に関する法律(das Gesetz u¨ber Kapitalanlagegesellschaften)のもとに置かれ、各有価証券投資基金(Wertpapier-Investmentfonds)と同様の業務をし、リスク分散原則(das Prinzip der Risikostreuung)を実現しなければならない。これ以外の意味では、事業体内の間接参加とほぼ同様のものと思われる。
 以上のように多様な形態が存在するが、ここで若干その理由を考察してみたい。従来とりわけ議論の対象となったものは、事業体内の従業員参加を奨励するか、事業体外の従業員参加を奨励するか、という点であった(14)。事業体外のものは、ドイツ労働組合連合が主張するものであるが、その根拠は事業体内の従業員参加制度の際に顕著となりうる労働者の資本家側への取り込みによって、労働組合が弱体化することへの対抗であり、また、労働者の財産が会社の命運と一層強固に結びつくことへの懸念である。ただこれは労働組合に強大な資金的権力を与えることになるし、また従業員参加の目的の一つである「生産財の幅広い市民層への所有の分散」という点からも問題があるということで批判が強い。
 これに対して事業体内における従業員参加が良いとする説が有力であるが、私も賛成する。日本でもそうであるように、従業員参加の目的の多くが「会社(使用者)対労働者」の関係に関するもの(従業員の会社への関心の向上、会社の業績向上への動機付け等)であり、そうであるのに、労働組合色の強い労働協約基金を作ることになると、逆に「資本対労働」という対立が明白になりかねないからである。
 中間的形態として従業員基金と呼ばれるものがあるが、これは、なぜ理論上形成されたのだろうか。これは、先に述べた労働組合の懸念への対応策として現われてきたものであると考えられる。従業員基金は投資会社法の規制下に置かれる。これは日本の従業員持株会と類似するがそれとは違い投資信託的業務を行うものであり、その内容を見るかぎり、日本においても投資信託法の規制を受けるべきものである(15)。
  第三款 業績参加
 業績参加(Erfolgsbeteiligung)とは、企業の収益等への従業員の参加制度全体を指し、細分化すると、経常収支参加(Leistungsbeteiligung)、収益参加(Ertragsbeteiligung)、利益参加(Gewinnbeteiligung)があり、それらをさらに細かく分類することができる(表一参照)。業績参加制度については従業員持株制度との関連でいえば従業員の従業員株式取得資金の調達の意味が重要である。
 実務上は次の二点が重要であると言われる。
「1・業績参加は、労働法の側面においてすべてのそのような手当が賃金税の控除および通常社会保険負担の控除を受ける、ということになる。
 2・業績参加は能力給ではない。業績持分は個々の従業員の業績に直接左右されない。むしろ従業員全体(またはある部課の従業員全体等)の業績持分に従い、ある一定の基準によって各従業員に分配される(16)。」
 この二点が(業績参加につき)重要である理由については深くは触れられていないが、推測するに、1の面は国の優遇措置の側面であり、財産形成に有利に活用することができ、また2の面では業績参加はあくまで参加する従業員全体が原則としてすべて有利となる(もちろん不利となることもあるが)ことによって会社の業績に対して一定の関心をもつようにすることが大きな目的であるからであろう。むろん、個々人の能力に応じた業績参加も考えうるが、それは従業員参加制度の領域からははずれる。
  第四款 資本参加
 一言に資本参加(Kapitalbeteiligung)といっても、一体どのようなものを指すのであろうか。シュナイダーおよびツァンダーは、「資本参加が常に会社法上の参加であると解釈されるような会社法および税法の分野における通常の専門的用語とは違って、我々は債権法上および会社法上の従業員と雇用企業との結びつきのすべての形態を資本参加として考える(18)」と述べている。すなわち、専門用語としては通常は会社法等における資本出資をさすが、一般には自己資本への参加(出資)のほか、債権法上の参加(他人資本としての参加、とも言える)(例えば従業員貸付 (Mitarbeiter-Darlehen)と呼ばれる、契約上の企業への従業員からの貸付)も含まれる。主に議論されるものは前者は株式、後者は上記の貸付である(表二参照)。
 第四項 財産形成政策と従業員持株制度
  第一款 総 説
 従業員持株制度は、先に述べたような政策的役割を担うべく、基本法としての資産参加法(Vermo¨gensbeteiligungsgesetz)、財産形成促進法(Vermo¨gensbildungsgesetz)、所得税法(Einkommensteuergesetz)一九a条に規定がある。財産形成促進法(19)については一九六一年に成立している。財産形成促進法の成立の背景にはドイツの「社会的市場経済(soziale Marktwirtschaft)」体制がある。財産形成促進法は、単に労働者の財産形成という目的を有する法律であることは当然のことであるが、この社会的市場経済体制のもと、資産保有の大きな不平等(資産の著しい偏り)に対する是正策を講じた結果でもある。ドイツは、一九五〇年代から財産形成促進法を制定して国家社会政策の重要な一分野として、社会問題の観点から労働者の財産形成問題を扱い、推進してきたが、それは以下の二つの必要性から導かれたのである。第一に財産分布の大きな偏りが生じていたことであり、第二に国内での資本金不足が顕著になったことであった。このため制度的な資本形成促進の必要性および財産分布平均下のため労働者の財産形成促進の必要性が生じたのである(20)。このことから、従業員持株制度を含む従業員参加制度と、国の財産形成政策との密接な関連が理解されよう。以下、国の政策上の進展および議論につき若干詳細に説明する(具体的な財産形成促進制度については、項を改めて述べる)。
  第二款 政策上の進展と生じた問題点
 ドイツはとりわけ社会政策(労働者保護政策、財産形成政策)については日本より充実している。そのような労働者保護、財産形成促進等に関する問題は、その国の国策が中心的役割を演じるのが通常であろうし、ドイツにおいてはそれが顕著であるので、この進展を見ておくことは議論の基盤を知るうえで重要である。そこで本項では、そのような社会政策にかかわる論争がどのように進展していったかにつき述べたい。
 さて、論争の進展において重要な第一点は、社会政策上の議論の中心には当初から業績参加よりも資本参加が置かれていたということである(21)。これは、財産形成政策と共に従業員参加制度の奨励目的とされた点の一つに、生産資本の広い層への分散ということがあった。つまり、従業員参加の目的は単に労働者の財産形成にとどまらず、社会政策上の目的も有する。業績参加だけでは生産資本からの剰余分の分配という意味合いしか持たず、そういった目的の達成に資するものではない。資本参加の方が、業績参加よりも強く、生産資本と従業員との結びつきが生じるので、その目的に資するからであると思われる。
 第二に、資本参加を促進するとして、事業体内での参加を促進するのか、事業体外における参加を促進するのか、といった議論が重要論点となった。議論の内容は後に述べるが、論争の実情としては以下のようなものである。すなわち、一九八四年資産参加法発効前には事業体外の制度を促進しようとする意向もなくはなかったようである(22)が、ドイツ社会民主党(Sozialdemokratische Partei Deutschlands(SPD)以下SPDと略称する)と自由民主党(Freie Demokratische Partei(F. D. P.)以下FDPと略称する)の連立政権は、事業体外の形態が技術的に困難なこともあって、事業体内の参加制度を促進する方向に固まったのである。
 第三に、第二の点とも関連するが、どのような資本参加を促進するか、具体的には従業員持株制度だけか、有限会社におけるものもか、さらに広げるのか、といった促進助成の範囲についてである。SPDは基本的には労働党的役割を有するものであり、事業体内の制度を激しく批判していたのに、上述のような方針を固めたので、事業体外の制度の促進を強く求める労働組合からは強く非難を浴びている(23)。その後財産形成促進法で促進される資本参加制度は徐々に拡大されていく。より多くの労働者が優遇されることを目指してのことである。そして、最終的には、事業体外の参加制度である労働協約基金(ただし規模としては縮小されている)も優遇されることとなった(24)。
 ところで、一九八四年資産参加法発効前には、一旦このような議論が財政上の問題もあって凍結された(25)。しかし、キリスト教民主同盟(Christlich-Demokratische Union(CDU)以下CDUと略称する)とFDPが連立して政権を担当することで政策上の転換が生じ、財産形成政策においても実際に以下のように転換が行われ(先に述べた凍結前の路線で進められ)、事業体内の制度奨励に傾いた。その内容は、一九八四年一月一日発効の資産参加法からみてとれる。これは今までの財産形成促進法と所得税法の改正が内容に含まれていた。国家の財政上の問題等も絡んで、以下のような結果となった。第一に、財産形成政策上、金銭財産形成(貯蓄や保険等)から、生産資本参加へと優遇対象の中心が変化した。第二に、労働者の財産形成につき、他の参加形態、すなわち事業体外の参加等ではなく明らかに労働者の雇用企業への参加を財産形成において維持しようとすることが政策上有意義であると考えられている。それが最も容易に社会的自由市場経済を顧慮するものである、と(26)。
 このように、議論(議論の主体については次項で述べる)の上では事業体内の参加か事業体外の参加か、もしくは従業員株式の優遇を促進するのか、他の参加制度をも促進するのか、といった点を議論しながら、現時点では事業体内の資本参加への奨励が主要な部分となったわけである。
 これらの政策については、当然不十分であるとの批判もあるが、おおむね評価されているようである。その理由は、財政的に無理をせず(27)、優遇助成する必要もない銀行貯蓄(よくいわれるように、堅実な国民性から、リスクの大きい投資よりも銀行貯蓄を選ぶとされ(28)、それゆえ優遇する必要はないといえよう)への奨励が縮小されたこと、その反面優遇される投資の対象を徐々に広げていったことが挙げられよう(29)。また、事業体内の参加制度を優遇したことは、企業にとっても様々な面で有利となろう。「企業にとってはこれまでの財産形成政策における銀行制度の通常の循環を断ち、従業員から直接企業へ金銭を得るいい機会を得たことになる(30)」との見解があるが、その理由については定かではないが、従業員(労働者)等が銀行に貯蓄した金銭を企業が銀行から融資を受けるという間接的なものでなく、従業員から直接資金調達ができることになるということであろう、と私は考えている。そしてそれは、銀行の支配力が強いドイツにあっては、多少なりともその支配力から免れることができるという点で有利となるのである。
  第三款 各政党、労働組合、使用者団体の間における財産形成政策上の論争
 財産形成政策の一環として、従業員参加制度を奨励することに関しては各団体とも賛同している。しかしながら、その形態をどのようにするかについては各団体でかなりの隔たりがある。そして前項で述べたような議論が生じたのである。この議論の主体である各団体の見解をここで簡単に紹介する(31)(前款と本款との関係は密接であるが、便宜上分けて説明する)。ただしこれらは、現在施行されている第五次財産形成促進法の直前における見解であることを、先にお断りしておきたい。
 一 ドイツ使用者団体連邦連合会(Bundesvereinigung der Deutschen Arbeitgeberverba¨nde)
 ドイツ使用者団体連邦連合会(以下BDAと略称する)は、旧西ドイツの使用者団体を全国レベルで統括した最上部団体であり、日本でいう日本経営者団体連盟(日経連)に近いものである(32)。当然のことながら、会社側の利益を擁護する論調となろう。財産形成政策に関しても同様であって、基本的には以下の点を主張している。
 ((1)) 財産形成政策は労働者個人の財産形成の促進を目指すべきものであって、労働組合やSPDの主張するような労働協約基金は、個々の労働者ではなく、労働組合にその処分権および集団的権利行使を認めるものであって、私的所有に基づく経済秩序とは矛盾する。
 ((2)) 財産形成関連給付の実施にあたっては労働協約がふさわしい手段である。労働協約によるときのみ、財産形成政策と賃金政策の関連が存続し、目に見える形となるからである。また労働協約は様々な所得政策、労働政策の実状の考察に必要な柔軟性を保証する。
 ((3)) 財産形成関連給付の利用にあたって、優遇されるべき投資形態の選択には労働者に広範囲に自由が保証されるべきである。一定の投資形態に対する促進策は、国家の強制ではなく、奨励策の強化によってもたらされるべきである。
 ((4)) 使用者は、貸付(Darlehen)ないしは参加を、どのような条件で認めるかの決定に際しては十分に自由でなければならない。つまり、付随的に規定される投資向け労働協約(investive Tarifvertra¨ge)は、使用者に強制力を有するので除外される。
 これらの点をふまえて、一九八四年発効の新資産参加法およびその後の改善の方針に原則として賛成した。それは、この法律が政府の強制ではなく、あくまで労働者個人の、投資形態選択の幅を広げ、様々な奨励策を講じることで参加制度を拡充しようとしたことに、秩序政策として評価できる、という点を強調している。前述のごとく労働者の生産資本への参加の方法が拡大されたこと、および労働協約基金の設立の要求が認められなかったことに対しても、個人としての労働者のための財産形成政策であるという国の姿勢が明らかになったとして評価した。ただし、若干の欠陥として、資産参加法案に対する過度の期待および効果の誇張と、度重なる改正(それによって実務が改正に追いつかない)ことを指摘している。
 二 ドイツ労働組合連合(Deutscher Gewerkschaftsbund(DGB))
 ドイツ労働組合連合(以下DGBと略称する)は、いうまでもなく旧西ドイツ最大の労働組合である。当然のことながら労働者全体の利益のために行動する。基本的には以下の点を主張する。
 ((1)) 財産形成政策は、労働者の公平な生産財への参加と、生産財の集中による経済権力をコントロールするということに資するものでなければならない。事業体内における参加システムはこれを阻害するものであり、事業体外の制度(労働協約基金)が必要である。
 ((2)) 労働者の資産参加は労働協約当事者が労働協約によって形成するものであり、そこでは特定の資産参加形態を優遇しないこと、労働協約に特段の規定のないかぎり労働者の選択の自由が保証されること、労働者の資本の構造および利用への最大限の影響力を保証すること、が含まれる。
 ((3)) 労働組合としては、完全雇用に関する措置に優先順位を置く。雇用を確実にする財政政策が必要となるが、それを(追加的な財産形成政策上の助成金という出費をすることで)減じるようなことをする必要はない。
 ((4)) 貯蓄奨励プログラムは、労働者の貯蓄能力の改善に適切に構築されなければならない。このためには貯蓄奨励および財産形成に対する税制上の優遇措置の緩和が必要となる。
 ((5)) 投資形態がさらに複雑化したことで、専門家にしか理解できないようになってしまうし、またそれとの関連で労働者はどの形態が適切であるのか判断できず結局選択の自由が制限される。
 これらをふまえて、資産参加法案に反対した。そしてDGBとして次のような提案をしている。
 ((1)) 労働協約当事者が設定する労働者の生産財への参加の目的をもって形成される特別財産は、事業体の参加モデルと同様に、優遇されるものとされなければならない。
 ((2)) すべての投資形態につき優遇枠を最高で九三六マルクに統一すべきである。
 ((3)) 持分権の優先価格での取得に対する税制上の奨励は拡充する必要はなく、むしろ撤廃すべきである。
 ((4)) 事業体の参加システムのいわゆる「二重のリスク」の十分な軽減に関連して、現行財産形成促進法ですでに保証されている使用者に対する貸付権(Darlehensforderung)(破産保険(Insolvenzsicherung))の創設または獲得に関する要件を、すべての事業体の労働者資産参加形態に拡張しなければならない。
 三 キリスト教民主同盟(Christlich-Demokratische Union(CDU))/キリスト教社会同盟(Christlich-Soziale Union (CSU))
 キリスト教民主同盟(CDU)の政策目標の中には、民主主義の堅持、被用者の共同決定の導入と拡大や社会保障の徹底化などが含まれる。キリスト教社会同盟(以下CSUと略称する)もCDUと同根の団体であり両者は議会において常に統一会派を組んでおり、政策目標は同様である。この統一会派は一九八二年以降政権を担当しており、当然財産形成政策に関しても中心的役割を演じるのであり、以下に掲げるように述べて一連の政策を評価している。
 ((1)) 生産資本を労働者が所有することは、労働組合の懸念するような労働者間の連帯の否定となるものではなく、イデオロギー的で混乱を招く(労使間に顕著な)階級闘争に対するフィルターの役割をするものである。参加する従業員にすれば、自己の有する資本に対する利益配当が大きなものとなるためには、法を遵守し自己の作業に取り組む他の従業員を社内に入れないように門の前に立つことはしないであろう。使用者にしても、多くの従業員が共同事業者である場合にはロックアウトに慎重になるであろう。
 ((2)) 生産資本の所有者の数が増えれば増えるほど、我々の経済秩序、社会秩序とそれに規律される主体たる我々との同一性は大きくなる。
 さらに一九八三年法施行以来資本への投資が上昇しているという統計を示して同法を評価している。
 その一方で、今後は財産形成法による奨励のほか、税法上の優遇を与えることが現実的であろうとの考えを示す。これによって以下の利点が生じるとも述べる。
 --- 我々の強調してきた生産資本への投資の促進を特に可能とすることになろう。
 --- 所得税法一九a条には所得税の制限がないので、生産資本への投資に興味を持っている大多数の労働者に訴えかけることができる。
 --- 税制上の優遇によって企業に対しても参加促進に関する明快で容易に理解可能なコンセプトを提供することになろう。
 四 自由民主党(Freie Demokratische Partei(F.D.P.))
 自由民主党(FDP)は、その生い立ちが、左派リベラル政党であるワイマール共和国時代のドイツ民主党と、おなじくナショナルリベラル政党のドイツ国民党の二党の流れを汲み、それゆえに一時は党内抗争の激しい時期もあったが、CDU/CSUやSPDを第一党とする政権に参加する過程で、党内右派の脱党、移籍を見て党内抗争が落着したという経緯を有する。そして、非社会主義党であり、非宗教的政党である(33)。この政党は一九六九年以降のSPDを第一党とする政権にも、一九八二年以降のCDUを第一党とする政権にも参加しており、時に右に寄りがちなCDUの歯止めとなり、また左に寄る可能性を秘めたSPDの歯止めとなったという事実があり、現実路線を取ったことは評価される面でもある(34)。
 事実、財産形成政策においても、SPDが労働組合の主張する事業体外の参加制度を推進しようとしたのに対して真っ向反対し、そのような方針が凍結されたのである。
 FDPの財産形成政策に関する見解はこの態度に集約できるが、その反対の理由を含め、見解を要約すれば以下のようになる。
 ((1)) 労働組合の主張する事業体外の参加制度には反対である。労働協約基金は確実に有力な資本集積地として展開していき、権力の集中に基づき競争排除および市場の独占の危険をもたらしかねないし、その他の点でも、労働組合は固有の財産の管理に不可欠な専門知識と必要な責任感を有していない。この状況のもとでは労働者の貯蓄資本を彼らに委ねることに責任はもてない。
 ((2)) 財産形成政策の、秩序政策上の意義を特に問題としている。労働者の資本参加の可能性を作り出す財産形成政策は、社会的市場経済秩序の保持および継続的発展につき重要な貢献をなす。それは資産の集中の阻止のための道具として、「資本」と「労働」の社会的合意(対立の緩和、解消)および企業への従業員の経営参加に資するものである。増加した生産資本貯蓄は同時に経営体の改善された自己資本整備および長期的な雇用と成長の確保に役立つ。
 五 ドイツ社会民主党(Sozialdemokratische Partei Deutschlands (SPD))
 ドイツ社会民主党(SPD(35))の前進は、ドイツ労働者協会と社会民主労働者党が合同したドイツ社会主義労働者党であり、それが改名して成立した。その過程から想像できるとおり、SPDは基本的には社会主義的な要素が強いが、一九五九年にゴーデスベルク綱領によって社会民主主義に立脚する国民政党に転換するに至った(36)。財産形成政策に対する態度は一九八六年一月二九日の生産財への従業員の参加に関する提案によって明らかとなった。
 それによれば、基本的に従業員参加会社(Arbeitnehmerbeteiligungsgesellschaft)(労働協約基金)に関する法律の制定を求めている。そして、従業員参加会社は株式会社形態で営まれる企業であり、その定款所定の目的は専らリスク拡散の原則による国内企業の持分および匿名参加持分の取得、管理および処分であり、またその持分は総じてまたは主として労働協約法第四条第二項の意味での共同の調整に関する方法での労働協約に基づいて提供され、譲渡されなければならないものとしている。さらに、設立は州最上級当局の許可を必要とするものとし、法律の内容については従業員の利益となるように、株式法を超えた保護を基本的内容とするものとしている。加えて、二、三の従業員参加会社に対する優遇措置を要求している。この提案の基礎には、第一に、資産参加法によって促進されない事業体外の参加形態をこの「従業員参加会社法」によって優遇することで従業員の生産財への広い参加が可能となること、第二に、事業体レベルでの参加形態は従業員にリスクを二重に課すことになること、第三に、(各企業の)共同設立による従業員参加会社は、あらゆる種類の参加持分の取得および適切なリスクの分散、利子の見通しというものが可能となり、また株式法の保護下におかれるという点で(事業体内での参加形態よりも)確実性を有すること、がある。
 六 ま と め
 このように政党や労働組合等の団体が前款で述べたような議論を展開したが、若干補足しつつ、これらの見解を検討する。基本的にはすでに述べたように、事業体内レベルでの参加形態が望ましく、事業体を超えたレベルでの参加形態は奨励すべきではないのではないかと考えられている一方で、事業体内の参加形態の欠点も見えてくる。従業員(労働者)の資本家側への取り込みの問題はさておき、資本への参加という本来的にはかなり冒険的で危険を伴う投資形態を労働者に勧めることが果たしてよいのか、ということである。そこで、一つの可能性として認めることはでき、また中小企業の資金調達および危険の担保の面から、立法上この若干規模を縮小した形態(参加特別資産(Beteiligungs-Sondervermo¨gen))を奨励の対象とした(後述(次項)参照)。日本においては、従業員持株制度は現在のところ上場会社において発展がめざましいのみであるが、それは業績につき安定していることからの帰結である。中小企業(閉鎖会社)においてはむろんその他の解決すべき問題もあるが、会社の財政基盤が不安定なことが、従業員持株制度を労働者の財産形成に用いるのを困難にしていると私は考えている。そこで、この参加特別資産形態は、複数の中小企業の共済で行うものであり、何らかの示唆を与えてくれる可能性がある。そこで、今後この参加特別資産がどのように利用されるかは定かではないが、動向に注意すべきであろう。また、株式会社形態に対する期待をSPDは抱いているが、この言からすれば、事業体内の形態と事業体外の形態との中間的な従業員参加基金や場合によっては各事業体内の間接参加の形態を株式会社化することも考えられるのである。
 第五項 財産形成促進制度について(37)
  第一款 総 説
 前述のような従業員参加制度の進展の中、財産形成促進制度は実際にどのような形式で行われているのであろうか。この財産形成促進制度ないしは政策は、これまでの叙述の中で明らかなとおり従業員持株制度との関連が大きいので、ここで説明しておきたい。
 従業員が自社の株式を所有することは財産形成の意味をも有する。そして財産形成として国が助成している。その基本法が第二次改正資産参加法であるが、第五次改正財産形成促進法と所得税法第一九a条をその構成要素とする。立法者によれば以下のような目的を有する(38)。すなわち、第二次改正資産参加法は、労働協約当事者に対して財産形成関連給付を今まで以上に生産資本への参加に支出することの提案である。すべての労働者に同様の機会を与えるため、新法においては間接的な事業体の外部への参加の方法(事業体外の参加形態)が組み入れられた。それによって参加特別資産(Beteiligungs-Sondervermo¨gen)として中小企業の匿名組合員参加が可能となる。同じく立法担当者によればこの第二次改正資産参加法によってとりわけ以下の改善が伴うという。
 --- 所得税法第一九a条による資産参加(資産持分の取得)の税制上の奨励は拡充され、その実施が実務の要請に応じて容易になった。
 --- 資本投資会社に関する法律(Gesetz u¨ber Kapitalanlagegesellschaften)において、その有価証券以外の特別資産で、証券取引所に上場していない企業の匿名持分を取得し、その出資証券によってそのような企業への間接参加が可能となる資本投資会社が認められた。
 --- 税制上および第四次改正財産形成促進法によって奨励された資産持分の対象はさらに拡充され、特に一定の参加特別資産に対する出資証券が加えられた。
 --- 資本参加によるまたはその他の形態での財産形成の奨励に関する規定はとりわけ明快かつ実際的なものになったが、これまで第四次改正財産形成促進法の適用の際に付随的に考慮されていた貯蓄奨励金法およびその実施命令の膨大かつ難解な規定は予定されている第五次改正財産形成促進法において引き継がれ、同時に引き締められ簡素化された。
 参加特別資産につき若干補足して述べると、財産形成政策に伴う従業員資本参加制度においては原則的には事業体内の参加制度が奨励されるが、それに加えて、政党等の議論をふまえて、強力に生産資本への参加を推し進めようとする立法者の配慮によって、この事業体外の基金の設置も奨励されることになった。労働組合が余りにも強力に事業体内の制度に反対するので、その対応策として講じられた。参加特別資産はとりわけ中小企業の資本の準備の改善を目標としており、中小企業等もその匿名持分を引き受け、出資者に出資証券を発行する。財産形成関連給付による参加特別資産への出資は、参加資本の少なくとも七〇%が株式または匿名持分により構成される場合は奨励される(39)。
 なお、以下に挙げる二つの法律以外に、以前は資本増加税法(Gesetz u¨ber steuerrechtliche Ma■nahmen bei Erho¨hung des Nennkapitals aus Gesellschaftsmitteln und bei U¨berlassung von eigenen Aktien an Arbeitnehmer in der Fassung)、貯蓄プレミアム法(Gesetz u¨ber die Gewa¨hrung von Pra¨mien fu¨r Sparleistungen)があったが(40)、前者を継承する法律が所得税法一九a条であり、後者は第五次財産形成促進法における国の貯蓄奨励の調整の枠内に取り込まれた(41)。
  第二款 第五次財産形成促進法(42)
 第五次財産形成促進法は奨励を受けることのできる参加形態、貯蓄手当および国の奨励許可に関連する諸条件を規定している。事業体内の従業員参加に関して重要な点は以下のように要約することができる。
 奨励を受けることのできる投資の対象は徐々に拡大されているが、以下のようなものが含まれる。すなわち、従業員貸付(Mitarbeiter-Darlehen)/債権証券(Schuldverschreibung)、享益証券(Genu■scheine)/享益権 (Genu■rechte)、匿名持分(stille Beteiligung)、協同組合(Genossenschaft)、有限会社持分、株式である。
 また、これらの投資形態のうち、従業員貸付、享益証券/享益権、匿名持分については、雇用企業のものについてのみ認められる。その他の、株式等は雇用企業以外に対する出資であってもよい。
 これらに対する財産形成関連給付(奨励金)の最高額は年間九三六マルクである。また財産形成関連貯蓄は国によって貯蓄手当が助成される。貯蓄手当は、財産形成関連給付が資本参加の形態で支出された場合にその二〇%の額となる。これらがまず第一に上に挙げた参加形態であるが、以前には例えば口座貯蓄(Kontensparen)や保険貯蓄 (Versicherungssparen)も助成されたが、一九九〇年一月一日以降は助成されない。さらに、財産形成関連給付は所得税制限の枠内であるかぎりで支給される。未婚労働者は二七〇〇〇マルク(税込みで三五〇〇〇マルク)、既婚労働者は五四〇〇〇マルク(同七〇〇〇〇マルク)である。
 貯蓄手当については、直接使用者によって計算され、支払われるのではない。使用者はこの目的のため所得税書類の裏面にどの程度財産形成関連給付が生じ、選択した投資形態が一〇%の貯蓄手当に該当するか二〇%のものに該当するかを記載することになる。
 資本参加は、その都度六年間の譲渡禁止期間の規制下に置かれる場合のみ助成される。その譲渡禁止期間中は返還、譲渡、抵当貸しその他の方法によって処分することができない。
 第二次資産参加法は様々な参加契約の形態を様々に区別している。従業員資本参加に関して四つの契約形態に区別されている。すなわち、有価証券または他の資産持分に関する貯蓄契約(Sparvertrag u¨ber Wertpapiere oder andere Vermo¨gensbeteiligung)、有価証券購入契約(Der Wertpapier-Kaufvertrag)、参加持分契約(Der Beteiligungs-Vertrag)、参加持分購入契約(Der Beteiligungs-Kaufvertrag)である(43)。
 これらの参加契約につき簡単に説明すると、第一のものは金融機関における契約であり、労働者が有価証券または他の権利を取得するに際して、一回または六年間にわたる期間財産形成関連給付を支払いまたは他に指定された額を支払う義務を負う。第二のものは、従業員と使用者の間での有価証券取得に関する契約である。第三のものは従業員と使用者との間の、使用者企業に対する権利の創設に関する契約であり、債務額と財産形成関連給付を差引勘定しまたは他に指定された額を支払う合意をなす。そして最後の形態は従業員と使用者(または第三者)との間の権利の取得に関する購入契約であり、購入額と財産形成関連給付を差引勘定しまたは他に指定された額を支払うことができる。これは第三の形態とは違って、すでに存在する権利(参加持分権)のみに限られる契約である(44)。
 なお、ドイツでも勤労者の住宅購入や金銭貯蓄に対する助成の制度が勤労者財産形成促進法上存する。しかしながら本論文の主題からは外れるので省略する。
  第三款 所得税法一九a条
 所得税法一九a条は、資本参加制度に基づく支出に関する税制上の優遇措置を規定する。それを用いることによって従業員の財産形成につき最も大きな効果を得ることができるといえよう。この規定によれば、従業員に対して優先価格でまたは無料で資本参加持分を提供した企業は、年間従業員一人あたり最高五〇〇マルクまで、免税および社会保険の免除を受けることができる。これには以下の点に注意しなければならない。
「--- 参加持分の提供であって、金銭給付ではいけない。出資持分と金銭給付の選択権がある場合は、所得税法一九a条の方法は完全には享受できない。
 ---- 免税措置に関しては資本参加持分の取得の際に生じる「金銭的利益」すなわち実際の価格と優先価格との差額の半分までで、かつ五〇〇マルクを越えない範囲とされる。この規定は実際の適用の際には見落とすことができない。というのは、そうでないと所得税法一九a条による利益を完全には享受できないおそれがあるからである。
 五〇〇マルクという額は貯蓄手当とは違っていかなる所得額による制限もない。それ以外は第五次改正財産形成促進法に根拠を有する条件と同様の条件が所得税法一九a条についても適用がある。とりわけ参加形態の選択と一定の参加条件(例えば譲渡禁止期間)について適用がある。
 なお、第二次改正資産参加法は、第五次改正財産形成促進法と所得税法一九a条に根拠のある優遇措置を双方とも享受できるようにしている(45)」。
 これらは日本には見られない制度である。日本でもドイツの法律に倣った勤労者財産形成促進法があるが、その中にはこのような資本参加、利益参加の奨励は見られない。ドイツにおいて、このような優遇措置があるからといって国が労働者保護、労働者財産形成政策に基づき従業員持株制度を会社に強制して行わせているわけではない。会社は後に述べる経営上の目的のほか、税制上の優遇があるがゆえに従業員持株制度を実施しているのであり、強制はされない。それは日本において勤労者財産形成政策による促進制度があるからといって、財産形成促進制度の導入を会社に強制しているのではないことと同様である。
 第六項 現状---事業体内の従業員参加の状況---
 現在の従業員参加制度が実際にどの程度普及し、またどのような形態で行われているか、という点は、制度が社会に与える影響を考えるのに重要であろう。そこで、本項では実際にケルンのドイツ経済インスティテュート (Institut der deutschen Wirtschaft(IW))(ドイツの五大経済研究所(46)の一つのドイツ経済研究所とは別の団体であるが、優れた業績を有する)とフォルシュハイムの企業内の共働に関する団体(die Gesellschaft fu¨r innerbetriebliche Zusammenarbeit(GIZ)以下GIZとする(47))が中心となって行った従業員参加制度の実態調査につき述べることとする。それによると、旧西ドイツ地域において従業員参加制度を実施している企業の数は一九七六年当時には七七〇であったものが、一九八七年には一三六四に、さらに一九九三年には二〇〇〇社に増加すると推測されている(左表三〜九参照)(GIZ調べ)。この調査は、とりわけ事業体内で行われている制度を中心にしている。
 この調査結果から導かれるものは、以下のような点であるという(48)。
「--- 一九八七年から一九九三年への従業員参加制度実施企業の増加には、次のような誘因があったと思われる。第一に、立法者による奨励措置が企業および従業員の参加活動に魅力を与えたこと、第二に、ドイツ再統一が、新しい州(旧東ドイツの州)において従業員資本参加に対する強力な動機をもたらしたということ、である(表三)。
--- 一九八七年のデータから一九九三年には制度参加従業員が一五〇万人に、すなわち四〇万人の増加が推測されるが、このうち新しい州で一〇万人の増加が見込まれている(表四)。
 --- 参加従業員の有する資本額は一九九三年には一五〇億マルクになると推測される(表五)。もっとも、一九八七年当時にすでに著しい増加を見ている(一九八三年の五五億マルクから一九八七年には一四三億マルクとなっている)。一九八七年から一九九三年にかけてあまり増加が見込まれていないのは、新しい州においては経済状況等不安定材料が多く、増加をほとんど見込んでいないからである。」
 さらに、実施されている従業員参加の形態の割合につき、最近は、他人資本への参加が減少し、自己資本への参加が増える傾向にある(表六参照)。
 なお、企業の規模から見た従業員参加企業の割合は、一億マルク以下の企業が五三・五%、従業員一〇〇〇人以下の企業が六〇・九%を占めている(表七、八、九参照)。
 第七項 制度実施の目的と効果
  ((1)) 目 的
 制度を実施するにはそれなりの目的があることは当然のことである。
 まず、先にも述べたGIZの調査した各企業の制度実施目的の表を示しておく。
 この表の大体の特徴は、とりわけ大企業と中小企業との制度目的の設定が極端に違う、ということである。大企業で、社会政策、財産形成という一位、二位を占める目的が、中小企業では六、七位である。一体これはなぜであろうか。
 端的に理解することのできるのは、大企業においては労働組合と企業家との対立が中小企業よりも大きく、また、一つの社会としての役割を有する。それゆえ労使の対立緩和や企業の一員たる従業員の財産形成に関わる目的設定が生じるのであり、反対に中小企業では企業としての活動を活発にするために、構成員各自の労働能率は大きな役割を占める。したがって、そういった動機づけが重要な目的となるのではなかろうか。
  ((1)) 効 果
 「上記の目的(表十に挙げられた目的)は業績参加よりは資本参加の方がより容易に達成することができるし、業績参加は資本参加と組み合わせたときに最も簡単にそれらの目的を達成することができる(49)」との指摘がある。
 さて、設定された目的が実際に効果をあげているか否かは、グスキおよびシュナイダーの調査が最初である(50)。それは調査時点ですでに七年以上にわたり制度を実施している二〇〇の企業に対して調査したものであり、以下のような結果がでている。

 この調査から理解できることとしては、先ずマイナスの評価はない、ということである。また、若干業務執行機関の方がプラスの評価が高いが、業務執行機関と経営協議会のもつ印象はほぼ同じであるといえる。また、物質的な状況の改善と、情報請求の権利の強化はかなり評価が高く、結果の低減と改善のさらなる提案はごく低い値となっている。これら目的と効果については第二章第二節第二項でも触れる。


(1) Arbeitnehmeraktien という語も時折見かける。
(2) Christoph Peez, Die Problematik der Mitarbeiterbeteiligung durch Belegschaftsaktien (1983), S. 18-19. なお、河本他・従業員持株制度のすべて、一三〜一四頁参照。
(3) Peez, a. a. O., S. 7.
(4) Vgl. Gu¨nter Sassmannshausen, Erfahrungen mit und Perspektiven von Belegschaftsaktien(Mitarbeiteraktien), in : Zweihundert Jahre Geld und Brief, S. 205〜217 ; 戸原四郎=加藤榮一編・現代のドイツ経済、一九九二年、二一二頁参照。 なお、一九九三年三月現在従業員持株制度を実施している会社としては、ara・BASF・Bayer・Bayerische Hypotheken- und Wechsel-Bank・Commerzbank・Daimler Benz・Deutsche Bank・Dresdner Bank・GEHE・Gildmeister AG・HETTLAGE・Hoechst・Mannesmann・Nixdorf・Oldenburgische Landesbank・Philips・Procter & Gamble・Rheinmetall・Rosenthal・Siemens・VEBA・VAW の二二社(一二五社中)が挙げられている統計がある(Vgl. Guski/Schneider, Beteiligungs-Modelle, in : Mitarbeiter-Beteiligung (MAB) (Hrsg. Hans-Gu¨nter Guski/Hans J. Schneider), K. 5000)。この統計によれば、Bayer は Zertifikate des Bayer-Mitarbeiter-Fonds と、Daimler Benz・Gildemeister AG・VEW は Mitarbeiter-Darlehen とともに用いられているという。
(5) 大西健夫編・ドイツの経済、一九九二年、一六七〜一六八頁。
(6) Go¨tz Hueck, Gesellschaftsrecht, 19. Auflage, 1991, S. 26-27 によれば、一九八六年の税務統計からの引用として個人企業が一四五万一五三九社(七五・二一%)、合名会社が一五万二七三八社(七・九一%)、合資会社が八万七四八八社(四・五三%)、株式会社(含株式合資会社、鉱業会社)一五二四社(〇・〇九%)、有限会社二〇万三五六四社(一〇・五五%)、その他三万三〇〇七社(一・七一%)となっている。また、同文献によると、株式会社、有限会社は年々増加しており、一九八九年末では株式会社が二五〇八社、有限会社が四〇万一六八七社であるという。
(7) 日本では廃止された株式合資会社や、日本の会社法制度では見られない有限合資会社等、人的会社と物的会社の仲間的な会社形態がいくつ
版面あわせか見られる。様々な資本集積手段を用意することで、個人の様々な要請に応えようとの努力がなされていたようである(マークスルッター=木内宜彦編著・日独会社法の展開、一九八八年、七〜一〇頁参照)。また、Hueck, a. a. O., S. 13-15 参照。
(8) 事実、従業員持株制度のみを優遇しようとした政策を採るや否や、労働者からの批判にあっている。そこで従業員持株制度も全労働者(すべての会社形態に従事する全従業員)に対する財形政策としての従業員参加の一形態にすぎないという構成になっている。これはドイツにおいて当然のこととして受けとめられている。
 このことが国の奨励を受けているドイツの制度の特殊性であり、従業員持株制度を単に会社法上の制度と考えるなら、考慮する必要はない視点であろう。
(9) さらに言うならば、従業員参加は、共同決定に象徴される経営への従業員の参加を一辺とし、資本参加および業績参加を他の二辺として一つの三角形を形成する(Vgl. Hans-Joachim Juntermanns, Laxikon Darstellung wichtiger Begriffe einschlie■lich Beispielen und U¨bersichten, in : MAB, K. 2000, S. 7 (Abbildung))。
(10) Hans J. Schneider/Ernst Zander, Erfolgs- und Kapitalbeteiligung der Mitarbeiter in Klein- und Mittelbetrieben, 4. Auflage, 1993, S. 15.
(11) このことを示す用語的事象として、ドイツ語で資金調達(Mittelaufbringung) という場合、それは業績参加を通じて保証され、資金運用(Mittelverwendung) という場合は、資本参加をさす場合がある(Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 15)。
(12) Schneider/Zander, a. a. O., S. 16 (Abb. 1).
(13) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 15-19.
(14) Vgl. Peez, a. a. O., S. 1.
(15) 日本の従業員持株会が同様の問題を生じたことは周知の通りである(本章第二節第一項参照)。むろん本文にいうところのドイツの従業員基金は日本の従業員持株会とは若干異なっている。諸外国の制度全般について述べられたことではあるが、「一種の機関投資家として位置づける方が実情にあっているというべきかもしれない」との指摘もある(河本他・従業員持株制度のすべて、七頁)。
(16) Schneider/Zander, a. a. O., S. 20.
(17) Vgl. Juntermanns, a. a. O., S. 12.
(18) Schneider/Zander, a. a. O., S. 21.
(19) 正確には「勤労者の財産形成の促進に関する法律」(das Gesetz zur Fo¨rderung der Vermo¨gensbildung der Arbeitnehmer) と訳されるが、本論文では財産形成促進法と略す。
(20) 財団法人労働問題リサーチセンター/社団法人財形福祉協会(以下労働問題リサーチセンター他、と略する)・欧米財形制度の最新動向、一九九二年、一三頁参照。
 なお、これに伴い財産形成促進法が公布されたのは一九六一年であるが、それ以前に一九五二年に住宅建設割増金法、一九五九年に貯蓄割増金法などが公布されており、戦後の財産形成政策の積極的な動きはこれらに始まる。
(21) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 29.
(22) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 29.
(23) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 30.
(24) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 30-31.
(25) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 31.
(26) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 29-32.
(27) Vgl. Hans-Gu¨nter Guski, Quo vadis Vermo¨genspolitik ?, in : MAB, K. 1500, Rz. 26.
(28) 山本征二・ドイツの金融・経済市場、一九九一年、九七頁二・一一によると、個人金融資産に占める株式および債券の割合は一九八九年で二二・三%となっており、増加傾向にあることが認められるが、やはり預金や保険(両者で四五・八%)が個人の資産形成としては主である。
(29) シュナイダーおよびツァンダーによると、「一九八四年一月一日の新資産参加法の発効後は、立法者は何もしないではいられなかった。初年度の経験を活かしてさらに進展させた規定を作成した。それが一九八七年一月一日に発効した第二次改正資産参加法であり、新たに投資形態を拡大したので事業体外部への投資が容易となりまたとりわけ行政法上の規定の簡素化により財産形成促進法および所得税法一九条aの規定の運用が改善された。最も新しい条項の追加は一九九〇年一月一日のことであるが、これは最初の資産参加法の発効と同様に財産形成政策上の進展における功績として評価されている。一九九〇年一月一日以降、例えば割増金貯蓄や生命保険に支出される財産形成関連給付はもはや国からの奨励はされていない。とりわけ資本参加の形態が奨励されている」という(Schneider/Zander, a. a. O., S. 32)。
(30) Schneider/Zander, a. a. O., S. 32-33.
(31) Vgl. Hangs-Gu¨nter Guski/Hans J. Schneider, Politische Stellungnahmen, in : MAB, K. 1100 ; Peez, a. a. O., S. 109-128.
(32) 田沢五郎・ドイツ政治経済法制辞典、一九九二年(第四版)、六六頁参照。
版面あわせ(33) 田沢・前掲書、一二三〜一二四頁参照。
(34) 大西健夫編・ドイツの政治、一九九二年、六〇〜六一頁参照。
(35) 旧東ドイツにも全く同名の政党があるが、ここで示す政党の性格は旧西ドイツにおけるものである。
(36) 田沢・前掲書、二九〇頁参照。
(37) 当然のことながら、前述の財産形成政策上の進展と密接に関係して、財産形成促進法および資産参加法は改正を重ねている。また、これらの法律とは別に様々な法律が施行されてきた。現在発効している第五次改正財産形成促進法および第二次改正資産参加法は、それらの法律を吸収したり、廃止したりしながら、財産形成制度全体を整備する方向で誕生したものである。この改正の動向は、日本の財産形成促進法のそれと似ている。それは日本がドイツの法律を基にしたという理由だけではなく、財産形成制度が、非常に幅広い労働者という階級に対して与えられる恩恵であることから、全体を満足させる制度にするには因難が伴うこと、労働者の置かれる立場は変動の激しい経済状況に左右されること、国の財政にも左右されること、等が理由として挙げられる。
(38) Schneider/Zander, a. a. O., S. 33-34.
(39) Vgl. Junteramnns, a. a. O., S. 6.
(40) 河本他・従業員持株制度のすべて、一六頁参照。また一九八三年出版のピーツ前掲書でもこれらの法律が散見される。
(41) Vgl. Gustav Klo¨tzl, Anwendung des § 19a EStG in der praxis, in : MAB, K. 3300, s. 3, 6. und Juntermanns, a. a. O., S. 30-31.
(42) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 34-38.
(43) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 36-37.
(44) Vgl. Schneider/Zander, a. a. O., S. 38-40.
(45) Schneider/Zander, a. a. O., S. 40-41.
(46) 五大経済研究所とは、ドイツ経済研究所、Ifo経済研究所、キール大学世界経済研究所、HWWA世界経済研究所、ライン・ヴェストファーレン経済研究所、であり、政府の経済運営に大きな影響力をもっている。
(47) GIZ有限会社は、経済における労働者の経営参加の促進に関する共同作業体(AGP)の中から一九六九年に、企業に対して従業員参加の導入の際に助言をして支援するという目的をもって創設されたものである。
(48) Schneider/Zander, a. a. O., S. 25-26.
(49) Schneider/Zander, a. a. O., S. 48.
(50) Vgl. Guski/Schneider, Betriebliche Vermo¨gensbeteiligung in der Bundesrepublik Deutschland. Teil II : Ergebnisse, Erfahrungen und Auswirkungen in der Praxis(1983), S. 44.
(51) 周知のことであるが、表中の「支払能力(Liquidita¨t)」と「資本基盤(Kapitalbasis)」は明確に違うものである。すなわち、「Liquidita¨t」は「財産が容易に換価できることおよび支払能力があること」(後藤紀一=マティアス・フォト(Mathias Voth)・ドイツ金融法辞典)または、「ある資産が資本損失なしに即時に貨幣に転換されうる可能性」(田沢・前掲書)と訳されており、これが「Kapitalbasis」と重なる部分はあっても、概念として違うものであることは明白であろう。