立命館法学 一九九五年五・六号(二四三・二四四号)




計画許可を争う住民の原告適格をめぐる
イギリスの判例の動向



安  本  典  夫






一 は じ め に
 行政事件訴訟法九条の下で、どのような利益の侵害を受けた者に取消訴訟の提起を認めるかについては、法律上保護された利益説と法的保護に値する利益説との対立を軸に論じられてきた。法律上保護された利益説が、原告が侵害されたと主張する利益を当該処分の根拠法規が保護する趣旨をもっているかどうかで判断しようとするのに対して、法的保護に値する利益説は、無益な訴えを簡単にスクリーンし、裁判所や被告側の負担軽減に資するという原告適格の機能を重視して、一般市民とは区別されうる原告固有の利益で裁判で保護に値するものかどうかを直截的にみきわめ、訴訟追行の可否を決定しようとする(1)。
 後者の立場にたった判例もあるが、多くの判例は前者の立場にたっているといわれる。もっとも、この説にたったとしても、「当該処分の根拠法規」をどうとらえるかでかなり大きなちがいが出てくる(2)。学説においては、「法律上保護された利益説」の立場に立つ者も、原告適格を柔軟に考えるべきであるとすることについては、異論はほとんどないと思われる(3)。そして、最高裁判決にも、そのような流れはある程度読みとれるようにもなってきた(4)。
 しかし、それにもかかわらず、現実には硬直した考え方にたつ判決が少なくないことは、周知の通りである(5)。本来、最も柔軟に考えなければならないはずの都市計画領域で、おそらくは最も硬直的な判決が出されているといってよいのではないだろうか。そしてそれは、かなり日本特殊の状況といってもよいように思われる。
 本稿では、都市計画における開発許可を争う周辺住民の原告適格についてどのような展開が見られるか、イギリスの判例に即して検討を試みるものである。

二 計画許可を争う訴訟制度の概観
 (1) 計画許可を争う訴訟には、一九九〇年都市農村計画法(Town and Country Planning Act 1990)二八八条にもとづく訴えと、行政活動を争う一般的な訴訟形態である「司法審査の申請(application for judicial review)」(一九八一年最高裁判所法(Supreme Court Act 1981)三一条)およびそれにつづく移送命令(certiorari)などの伝統的救済手段がある。
 (2) 前者は、計画許可(planning permission)に関する審査請求(appeal)で大臣のなした裁決等を争う訴えを高等法院(High Court)に起こし、その取消しを求めるものである。
 ただ、ここで訴訟の対象が許可自体ではなく、それを争った審査請求の裁決であるということは、原告適格の面でも大きな制約をもたらす。なぜなら、審査請求を起こすことのできるのは、都市農村計画法上、許可の申請人だけとされている。当該土地の所有者や第三者は審査請求をすることができない(6)。第三者の訴訟提起は、したがって、地方計画行政体(local planning authrity)が許可申請に対して拒否処分をして、それをディベロパーが審査請求で争い、大臣が拒否を覆して開発を認めた場合にしか問題にならない。もっとも、イングランドで年間約四〇数万件の計画申請のうち、約三分の一を占める開発関係については、許可率は八五〜八六パーセント(7)というのであるから、周辺住民の方で問題を提起したいと考えるような開発については、かなりの確率でストップさせられるか、あるいは審査請求に至るともいえる。
 (3) 地方計画行政体のなした計画許可自体を第三者が争うのは、司法審査の申請にもとづく伝統的救済手段ということになる。
 伝統的な救済手段として、大権的救済手段である移送命令(certiorari)、職務執行命令(mandamus)、禁止命令(prohibition)、私法上の救済手段でもあるものが公法領域で救済のために使われてきたものとして、宣言的判決(declaration)、差止命令(injunction)がある。前三者は司法審査の申請を必ず経ることとし、宣言的判決、差止命令は司法審査の申請か、通常の民事訴訟のいずれかの形をとる。進め方としては、予め裁判所の許可(leave)を得て、司法審査の申請をし、裁判所は審理の上、上記の救済手段のいずれかを与える。第一段階の許可は一方当事者の申立のみにもとづいて裁判所が判断する(8)。その許可を得て次の審理に入った後、相手方当事者が原告の適格を争うことはありうる(9)。
 第三者が地方計画行政体の計画許可を争う場合、上記のように、都市農村計画法上の訴えを提起することはできず、この司法審査の申請によることとなる。わが国の取消訴訟に近いものは移送命令であるが、計画許可の付与を争う場合もこれが使われることが多い(10)。

三 都市農村計画法上の訴え
 (1) 都市農村計画法二八八条(1)項は、本条が適用される命令や大臣の行為によって「利益を害された(aggrieved)」人は、当該命令等が本法の権限内にないか、または穴ヨ連要件のいずれかが当該命令等に関して充たされなかったとして高等法院に出訴することができ、裁判所は、それらが本法の権限内にないか、または穴ヨ連要件のいずれかが充たされなかったため申請人の利益が実質的に害された(substantially prejudiced)と考えたならば、取り消すことができる旨規定した。このような規定は他の法律にも見られる。
 ここで、「利益を害された人」とはどういう意味か。これは各法律ごとに確定されるべきものであるが(11)、一般的には「法的損害(legal grievance)を受けた者、すなわち、違法に(wrongfully)彼から何物かを奪い又は彼に何物かを与えない又は違法に何物かについての彼の権原に影響するそういう不利な決定をなされた者」と解されてきた(12)。
 一九六〇年の Buxton v. Minister of Housing and Local Government(13) 事件は、石灰岩の採掘を内容とする開発許可の拒否をめぐる事件である。大臣の請求認容裁決に対して隣地所有者が、石灰のほこりによる養豚と庭の景観の被害を主張して訴えを起こした。Salmon 判事は、「利益を害された人」とは法的な損害を被った人を意味するとしつつ、次のように展開した。法律にもとづいてその陳述を大臣によって考慮してもらう権利を与えられている人は、もしそれらの権利が侵害されたら、「利益を害された人」とされる。計画法制は公益のために開発を制限するものであって、公衆の個々人に対して新たな権利を与えるものではない、公衆の権利の管理人はここでは地方計画行政体である。本件の申請人は、審査請求における聴聞への参加が審査官(inspector)によって認められることはあるが、権利として法律上認められてはいないことを根拠に、その原告適格が否定されたのである。
 (2) ところで、審査請求における地方公開審問(public local inquiry)の手続は、フランクス委員会報告を受けた一九六二年都市農村計画(審問手続)規則(Town and Country Planning (Inquiries Procedure) Rules 1962)で大きく展開した。これによれば、許可申請をした審査請求人のみでなく、第三者も参加を認められる。一九四七年都市農村計画法自体も第三者参加を想定していたといえるが、それは、大臣が審査請求の裁決に際して考慮すべき「関連考慮事項(material considerations)」について、政府が知らず、しかも審査請求の当事者が十分に主張しようとしない各地の事項を知るための手段として考えられたのであり、第三者の権利とは必ずしも考えられていなかった。しかし、このように手続規則が整備され、大臣が公開審問を計画審査請求処理の通常の手続として用い、審査官が広く第三者参加を認めてくる中で、公開審問は、計画審査請求の裁決過程への第三者の参加を保障する手続と観念されるに至り、そのような考え方にたって法令の改正もなされてきた(14)。
 今日、審査請求人、地方公共団体の両当事者以外に、申請に係る土地の所有者・農地賃借人も反対尋問の権利など完全参加の権利をもつ。教区カウンシル(parish council)、コミュニティ・カウンシル(community council)等は、陳述をなす権利、陳述を正当に考慮してもらう権利等の参加の権利はもつが、審査官によって認められる範囲でのみ証拠提出、反対尋問ができる。一定の場合には、これらの者の反対尋問を拒否することが自然的正義の原則に反するとされることもある。それ以外の第三者たる住民は、審査官の裁量により参加でき、審査官が許可すれば反対尋問もできる。
 このような展開の中で、Turner v. S. O. S. E. 事件判決(15)は、審査官の裁量で公開審問への参加を認められた団体に原告適格を認めた。この事件は、住宅建設概要計画許可に関わる大臣の裁決を、景観を損なうとして地元アメニティ保護団体が争った事例である。この団体は、審査官の許可を得て地方公開審問に参加し陳述していた。Ackner 判事は、審査官の裁量で計画審問に参加する権利を与えるということは、その者は、大臣がこれらの陳述を考慮する際に法律上の権限内で行動し、法律の関連要件を遵守することを要求する権利を黙示的に有し、利益を害された人となるとし、制定法上の訴えの原告適格を認めた。
 審査官によって参加を認められた者も、審問に参加すれば、制定法上の訴えを起こすことができるという判例は、以後も見られた。たとえば、Bizony v. S. O. S. E.(16) では、城跡の所有者が二階建ての建物を建築するための開発の許可申請をしたところ、地方計画行政体に拒否されたため大臣に審査請求をし、書面審理による審問において隣接地所有者が反対意見を書面で提出した。大臣の認容裁決に対して隣接地所有者が起こした訴えで、Bridge 判事は、Turner 判決を引用しつつ、それを延長させれば原告適格は認められるべきである、とした(17)。このようにして、Turner 判決の法理は、上級裁判所が明示的に支持したわけではないが、確定したといえる(18)。
 もっとも、公開審問への参加によって訴えうる利益が発生するというこの考え方について、原告適格を審査官の裁量にこのように委ねてよいか、また、審問官への書面による審査請求の場合には、第三者の権利を規定するルールは規定上はないが、この場合原告適格はどうなるか、等の問題がある。一九八七年都市農村計画(審査請求)書面陳述手続規則(Town and Country Planning (Appeals) Written Representations Procedure Regulations 1987)によって、書面審理の場合の第三者の権利が規定された。
 しかし、この規定の施行される前の段階で、Wilson v. S. O. S. E. 事件判決(19)において、規定に依拠しないで判決が出され、手続規定から独立したこの問題についての法理が形成された。本件は、住宅開発の計画許可が、車のアクセスが危険であるという理由で拒否され、審査請求における裁決で請求認容された事例である。申請が出された時から反対請願を組織してきた地元住民のA(居住地は開発地から一マイルのところであった)はこの裁決の取り消しを求めて訴えを起こし、審査請求の通知を受けなかったため陳述の機会を奪われた、通知しなかったのは自然的正義ないしは公正性に反する、という主張をした。裁判所は、原告適格は必ずしも規則によって生ぜしめられるのではない、規定の外にあるが訴えを提起する資格ありと認めるのが適切な時がある、申請段階で地方計画行政体に意見書を提出した者は審査請求の通知を受けるべきであり、それがなされなかったのは公正性原則の違反があったことになり、そのため証拠を提出する機会を拒否された者は「利益を害された人」として大臣の決定を攻撃する権限を与えるに十分である、とした。
 このように、原告適格は、審査請求への参加を定めた手続規定にのみ根拠を求めるのではなく、独自の根拠をもっているという方向への展開が見られる(20)。
 このように拡げられても、手続規定違反の場合「利益が実質的に害された(substantially prejudiced)」と高等法院が考えた場合に取消される(二八八条(5)項)という取消事由の限定がある(21)。ここでは事実として利益を害されれば足りるが、しかし個人的な不利益を受けたということが要求されると一般的には考えられている。しかし、上記の Wilson 事件判決(22)では、通常は住民の一人に通知がなくてもそのような実質的な不利益を受けたとはいえないが、本件原告は、二つの請願のオルガナイザーで、開発反対派のリーダーとしてかなり重要な点を指摘できる立場にあった、そのようなものに参加の機会を与えないまました裁決は、取り消されなければならない、とされた。

四 伝統的救済手段
 (1) 上記の各々の伝統的救済手段は、それぞれの歴史をもって展開してきたが、原告適格の法理も、それぞれの救済手段ごとに形成されてきた。
 第三者が地方計画行政体の計画許可そのものを争う場合に主として使われる移送命令の原告適格については、「利益を害された人(person aggrieved)」は当然のこととして、それ以外の利害関係のない第三者(stranger)も裁判所の裁量により申請ができるとされる場合がある、という見解と、基準を緩やかに解しつつ、「利益を害された人」であることを要する、とする見解があったが、全然利害関係を有さないにもかかわらず原告適格を認めた例はほとんどないことから、一応後者の考え方がとられていると考えられる(23)。しかし、その内容は、もともと緩やかに考えられていたのみならず、一九六〇年代以降、裁判所によって拡大されてきた。
 開発許可関係では、一九三三年のR. v. Hendon Rural District Council, ex p. Chorley(24) では、住居地域での自動車修理工場、ガソリンスタンド、レストラン等の建設の許可(これにより、将来都市計画(town planning scheme)が決定されそれにより損失が生じると補償請求権が発生する)に対して、道路をへだてた向い側の土地の所有者Cは移送命令の申請をした。原告適格について、被告側は、Cは「利益を害された人」にあたらないと主張し、C側は、将来払うべき補償を負担する納税者としてのみでなく、開発によって影響を受ける隣地の所有者として利害関係を有する、と主張したが、三人の裁判官は原告適格を特に問題とすることなく、決定を取り消す移送命令を出した。
 R. v. She■eld City Council, ex p. Mans■eld(25) では、ジプシーのキャラバン用地の開発の計画許可を三〇〇ヤードほど離れた所に住む者が争った事件について、R. v. Bradford-on-Avon Urban District Council, ex p. Bulton(26) では、計画許可を与えられたところから一〇マイル離れて居住する者が、この許可によって公道が危険な状態になると主張してその取り消しを求めた事案について、いずれも原告適格の問題にあえて結論を出さないで、本案に理由がないとして申請を退けた。
 なお、他の大権命令(職務執行命令、禁止命令)に同じ基準が妥当するかについては見解は分かれるが、ほぼ同様と考えられよう(27)。
 差止命令、宣言的判決は訴訟手続改革前はかなり限定的に考えられてきていた(28)。たとえば、Gregory v. Camden London Borough Council(29) では、住居地域に居住するGが、Gの土地の背後での学校建設への計画許可の付与は権限踰越であるとして、宣言的判決を請求した。Gは、自分の土地のアメニティが影響を受けると主張したが、原告適格は否認された。Paull 判事によるその理由付けは、宣言的判決は特定個人の権利を宣言するものであり、命令第一五・規則第一六(Order 15, rule 16)(一九七八年以前の宣言的判決についての規定)の「宣言を得る権利(declaration of right)という文言から、訴えを起こすには、都市農村計画法が特定の人々に与えた利益か、あるいは他のコモンロー上の権利が侵害されたということを証明しなければならない、というものであった。もっとも、この判決については、当時から、私法への直接的アナロジーにもとづいていて、公的利益が問題となる事案での先例に一致しない、という批判が既にあった(30)。
 (2) 一九七七年の行政訴訟手続の改革により、これらの伝統的救済手段の入口は一本化された(31)。一九八一年最高裁判所法(Supreme Court Act 1981)三一条は、「裁判所は、申請人が申請の関係する事項について十分な利益(suf■cient interest)を有していると考えるのでなければ、許可を付与しないものとする」と規定した。したがって、原告適格は、「十分な利益」とは何かをめぐって論ぜられることとなる。
 ところで、改正手続の下で原告適格の法理を大きく展開したのは、都市計画に関する事例ではないが、Inland Revenue Commissioners v. National Federation of Self -Employed and Small Businesses Ltd(32).(以下、IRC判決という)である。これは、新聞街の臨時労働者の税を逃れる慣行を廃止するため、過去二年に限定して徴税する旨の内国歳入委員会と労働組合・使用者との協定に対して、自営業者・中小企業事業者の連合が訴訟を起こしたものである。女王座部裁判所は、第一段階の許可は与えたが、司法審査の申請の審理においては連合は「十分な利益」を有しないとし、控訴院は有するとした。貴族院は、まず、部裁判所が申請の許可を与えたことは正当とした。なぜならば、この段階では、一方当事者(申請人)からの申立にもとづいて、その時点で利用できる資料を迅速に調べ、次の段階に進むことの可否を決するのが制度の趣旨だからである。次の段階での審理において、連合が「十分な利益」をもっているかどうかは、本案と切り離して抽象的に判断すべき問題ではなく、申請に係る事項、それに関わり両当事者から提出される証拠によって明らかにされる諸要素との関わりで判断されるべきものである。したがって、この審理は、本案の審理と並行し、関連させて進められるが、最終的な構成では、論理上先行するものとして位置づけられることとなる(33)。
 訴訟手続の改革と、その後のこれら判例の展開により、原告適格を拡大する方向、および諸救済間の原告適格のちがいがうすれる方向へ、法理は一段と進展した(34)。
 (3) 計画許可に関する判例では、司法審査の申請の許可(第一段階)と、司法審査の申請(第二段階)の各々で、原告適格、すなわち「十分な利益」の要件はどう扱われているか。
 第一段階での「十分な利益」の要件について判示したのは R. v. Hammersmith and Fulham Borough Council, ex parte People Before Pro■t Ltd.(35) である。地下鉄の駅とその周辺の地域の開発の許可申請に対して、People Before Pro■t という法人格のない団体が公開審問に参加した。審査官の反対の勧告にもかかわらず、バラ・カウンシルの計画政策委員会は計画許可の付与を決議した。審問後上記団体は法人化され、それが委員会の決議取り消しの訴えの許可申請をした。第一段階の申請を許可するかどうかの判定について、Comyn 判事は、レイト納税者、住民である必要もない、おせっかい好きな傍観者等を排除するために、正当で善意の理由(legitimate bona ■de reason)を有するという要件を充たせばよい、とした(技術的意味での原告適格(tchnical locus standi))。同時に、申請人が問題の事項について、本案を遂行するべき何かをもっていることは要求される、すなわち、聴聞に値する言い分をもつことは必要であるとし、本件については、後者の要件を欠くとして、司法審査の申請について許可を出さなかった。
 司法審査の申請をするに許可を得なければならないとする目的は、その段階で裁判所が問題に深く入り込んでしまえば失われる。そこでは、一方当事者のみの申立にもとづいて、その時点で手に入る資料をすばやく調べて、さらに考察する必要があると裁判所が考えれば、司法裁量を行使して救済を申請する許可を与える、というIRC判決の論理がそこに見られる(36)。
 第二段階で、相手方当事者が原告適格を問題にすることは当然ありうる。しかし、その段階で検討する原告適格は、決定の性質や行政機関の義務の性質、その他様々な要素をあわせて考慮されうるものであり、本案と並行して審理されるようなものである。ただ、結論においては、原告適格の問題は論理上先にくることとなる。遺跡保存の登録をしないという大臣の決定を保存団体が争った R. v. S. O. S. E., ex p. Rose Theatre Trust Co.(37) における Schiemann 判事は、第二段階で問題とされる原告適格に関連して、決定の性質、大臣の裁量についての検討を行い、遺跡に国民的重要性があるかどうかの判断にきわめて広い裁量があることはもちろんのこと、国民的重要性があるとしても、保存指定をするかしないかについてはなお様々な要素を考慮する必要があり、そのような性格の決定を司法審査で争うだけの利益を市民は通常はもっていない、とした。
 (4) 司法審査の審理の段階における原告適格の認定について、行政機関が決定にあたりある者の陳述を考慮に入れる義務がある場合にその義務に従わなかった時、それらの者は十分な利益があるとされることがある。
 たとえば、Covent Garden Community Association Ltd. v. Greater London Council(38) は、大ロンドン都カウンシル(GLC)のコベントガーデン委員会が、公開審問を経て、ある通りの建物の二階以上は住居用に配分すべしとする事業地域計画(action area plan)の決定をした。GLCは並行して、住宅用として建物の買収を進めた。ところが、その後、計画策定チームは、委員会に諮らず、審問にも出さないまま、全部事務所にする案の検討を進め、GLC「計画およびコミュニケーション政策委員会」が建物の上層階をも事務所に利用変更するみなし許可の決定をした。地元住民の利益を代表し、その保護を目的とする会社(メンバーの七五〜八〇パーセントは地元住民)は、手続が公正・自然的正義に反するとして、その決定を取り消す移送命令を求めて訴えを起こした。司法審査の申請の許可を受けた後、Woolf 判事は、彼らが公開審問に参加して聴聞を受けることを許されたということ、および彼らの陳述が計画許可を与えるべきかを検討するに際して考慮に入れられたという事実は、計画事項のそのような決定は住民に重要な影響を与えうる、ということを是認したものとして、原告適格を認めた。
 Main v. Swansea City Council and Others(39) においては、住宅開発の概要計画許可がなされ、後になって残された事項についての承認等もなされたところ、その取消を求めて司法審査の申請がなされた。主張された取消事由は、((1))開発許可申請者は区域内土地について権原をもっているすべての人に必要な通知をする、((2))公道の中心線から六七メートル以内の土地が含まれている場合には大臣に通知をして指示を受ける、などの法律上の手続的義務の違反であった。第一段階の許可はなされた。しかし、司法審査の申請自体は拒否されたため、控訴がなされた。控訴院判決は、((1))に関わり、区域内土地所有者、地元住民団体、((2))に関わり、大臣と「十分な利益を有する者」(これには公道利用者が含まれる)は訴えを起こすことができるが、地元住民団体、公道利用者は迅速に訴えを起こさない限り認められない、とした。なお((1))、((2))いずれも、それにもとづいて取消すかどうかについては裁判所の裁量の余地があるが、本件ではあまりに遅すぎるためそれも認められない、として控訴を棄却した。
 (5) また、一般的な環境上の利益も十分な利益と評価されて、保全団体等が原告適格を認められる例もいくつか見られる。上記の R. v. Hammersmith & Fullham BC, ex p. People Before Pro■t Ltd.(40) 、Covent Garden Community Asociaton Ltd. v. G. L. C.(41) などもその例といえる(42)。その問題に密接・持続的な関心をもっている、十分な近接性のある関係にたっているということが、その根拠といえようか(43)。
 R. v. Shef■eld City Council, ex p. Power(44) では、「確立された利用証明(established use certi■cate)」(既存不適格証明のようなもの)の付与決定を攻撃する目的で法人格なき団体を構成した地元住民は「十分な利益」をもっているとされ、原告適格を認められた。そこでは、証明の申請の判定をする際の地方計画行政体の機能の性格、および司法審査の申請の方法による以外に住民がそのような決定を攻撃することのできる方法はないことなどが考慮された。
 自然研究組織の原告適格についても、同様のアプローチが見られる。R. v. Poole Borough Council, ex p. Beebee and others(45) において、被告カウンシルは、自らの住宅開発のために計画許可を出した。イギリス爬虫類学協会(British Herpetoligical Society : BHS)および他の団体を代表して、申請人達は司法審査の申請をした。主張した違法事由は、((1))当該場所が「特別の科学的に重要な箇所(site of special scienti■c interest : SSSI)」であることを考慮していなかった、((2))環境影響評価の必要性の有無を検討しなかった、((3))許可を与える予見をもっていた、というものである。Shiemann 判事は、BHSは、当該箇所に長く関わり、資金も投入してきており、計画許可の条件中に開始時に通知すべき対象と位置づけられているなどにもとづいて、原告適格を有するとした。しかし、本案では棄却した。
 そのほか、原子力物質法(Radioactive Substances Act 1960)にもとづく原子力発電所の認可変更決定を攻撃するグリーンピースの原告適格について、多くの地元からのメンバーがいること、原告適格が否定されるとそれらの市民はこの問題を裁判所に持ち出す実効性ある方法を持ち得ないことになること、またグリーンピースなら専門家による焦点の定まった適切で十分な主張をできるなど、「うるさいおせっかい屋」ではなく、責任ある組織であるとして、十分な利益をもっているとした判例もある(46)。
 もっとも、メンバー個々人が利害関係の存在を主張しえない場合には、それをメンバーとする団体も十分な利益をもつとはされないとされた例(上記 Rose Theatre 事件(47))もある。

 (6) そのほか、R. v. Canterbury City Council, ex p. Springimage Ltd.(48) では、裁判所は、開発のために当該地域に土地を取得したが、小売店舗開発の当該許可にもとづく開発によって自己が計画許可を得る見込みに不利な影響を受けた者は、市民一般以上の十分な利益をもっているとされた。
 また、特に原告適格に触れずに判決をしたものもある。認容判決をしたものとして、R. v. North Hertfordshire District Council, ex p. Sullivan(49) では、古い農家(特別の価値のある建築として登録されている)への増築のための開発許可・登録建築物(変更)同意が与えられたところ、隣に居住する者が、プライバシーおよび建築上・都市計画上の価値の侵害、および解体として扱うべきものをそうしなかったということを根拠に取消を求める司法審査の申請をした。Comyn 判事は、その主張を認めて、両決定を取り消した。
 逆に、原告適格についてはふれず、他の根拠で棄却したものも、Allen v. City of London Corporation(50)、Davies v. London Borough of Hammersmith and Fulham(51) などいくつかある。
 (7) 宣言的判決はどうか。Steeples v. Derbyshire C. C.(52) は、古い炭坑地域のある土地を、カウンティ・カウンシルとA社が協定にもとづいて共同委員会を構成し、その下にリクリエーション・レジャー開発をしようとした事例である。カウンシルはそのための概要計画許可を得たが、これに対して、地元の団体が、秘密主義や法律上の手続が適正に履まれていないなどの反対意見を出した。その後、カウンシルははじめの申請を破棄して、カウンシルが付随工事、A社がレジャーセンター事業を行うという別々の申請をすることとし、カウンシルの委員会はその許可を決定をした。地元団体のメンバーであり、同時に付随工事の区域内に土地を所有していた原告は、許可を与える決議は無効、共同委員会は適正に構成されていないという宣言的判決の申請をした。付随的開発については、原告は土地の一部がかかっているため、原告適格について争いはない。他の開発について原告は、R. v. Hendon R. D. C., ex p. Chorley を引用しつつ、開発に隣接して私権をもっているならば十分であると主張したが、被告カウンシルは、上記判例は大権令状についてであって、宣言的判決が求められている本件には妥当しない、と主張した(53)。Webster 判事は、両救済間にちがいはないとした上で(54)、もともと両開発は一体であって、それを分けることによって本来あるはずの原告適格を奪うことは許されない、とした。また、原告は、視界を妨げられ、騒音、ゴミ、バンダリズムと不法侵入による特別の損害を主張したが、同判事は、特別の損害を被ることを示せば、法によって認められたものの侵害を受けたことになるとした(55)。
 本判決は、司法審査申請が可能な時は、それを経ない差止命令・宣言的判決によることはできないとした O'Reilly v. Mackman 貴族院判決(56)以前のものであり、このような訴えが現在も認められるかは疑問であるが(57)、しかし、ここでの原告適格が司法審査申請のルートをたどることによって狭くなることはありえない。

五 お わ り に
 しばしば、原告適格をめぐる判例の動向が、その背後にある訴訟の目的観のちがいとの関連で論ぜられる。司法審査の原理が私権・私的利益の保護か、参加原理か、という対比がそれである(58)。特に、計画は公益のための私的財産権の規制の過程であり、そこでは地方/中央政府が公益を代表しているのであるが、近年、それらの機関は公益の独占を失ってきて、公衆の参加、地域の居住者の言い分や利益を担う利益団体が多く生じてきて、公益の形成としての代表民主主義が一部とって代わられた(59)と考えるとき、これは一つの底流を説明しているともいえる。
 しかし、同時に、原告適格の機能をどう考えるか、それをどう理論構成するかにも、問題は大きく関わっていることが、これまでの判例の検討からはうかがえる。
 原告適格は、訴訟要件の一つとして、意味のない訴訟提起を排除するというスクリーン機能をもっていることは、繰り返すまでもない。ところで、判例に見られたように、利益がどのように制約、逆にいえば保障されているか、その利益がどこまで侵害されたか、それをどう法的に評価するかは、まさに本案審理と絡めて考慮されるべきものがあることも否定できない。これとスクリーン機能を、どう整理するか。
 イギリスの原告適格の制度は、制度上二つの段階で構成されている。司法審査の申請の許可(第一段階)での「十分な利益」の要件は、おせっかい好きを排除する目的で、その時点で手に入る資料をすばやく調べて判断される。第二段階で原告適格を検討する場合には、行政機関が負っている義務や決定および違反の性質、原告の地位、原告の受けた不利益の質、程度等様々な要素があわせて考慮され、本案審理と並行して審理される。ただ、結論においては、原告適格の問題が論理上先行することとなる。実体(merits)と原告適格の問題は、私法ではある意味では区別して考えられなかったのに対し、公法では全く別の問題として組みたてられてきていた。これが、IRC判決(60)で根本的に転換し(61)、計画法領域でもそのような考え方が多く見られるようになったことは、既に述べた。
 同時に、原告の主張する利益侵害において、どのような利益が侵害されたのか、それは法的にはどう評価されるのかの検討も必要となる。そこでは、都市計画の考え方如何も関わってくる。都市という、生活・社会活動が高密度に行われるところでは、ある空間の利用が必然的に他の空間に影響を及ぼすため、予め空間利用のルールを定めて調整する必要がある。この空間利用の調整を担うのが、計画における土地利用規制である。この時、諸々の利益を全体の立場から再構成して(公益に止揚して)、個々の土地利用を制約することになる。これを"ある特定の土地の利用規制と公益"の関係としてのみ構成するか、それとも公益の背後の諸々の土地利用を視野に入れ、それらの相互間の利用ルールとして、もっといえば社会的な空間の利用ルールとしての都市計画という本質をも見ながら構成するか。わが国の判例が、開発許可を争う取消訴訟において、都市計画法は公益を目的とすると安易に述べて原告適格を否定するのと、イギリスで、原告適格が判例の苦闘の中で少なくともわが国と比べると広く認められるに至っていることの背後には、この点での違いがあるとも考えられる。
 したがって、次の課題は、訴訟制度とそこでの原告適格の基本的論理の再構成と、都市計画法原理の検討をふまえた、開発許可を争う原告適格の論理の構築となる。

(1)  原田尚彦「行政事件訴訟における訴えの利益」公法研究三七号九〇頁以下など参照。
(2) 山村恒年「『法律上の利益』と要件法規」民商法雑誌八三巻五号七五三頁以下参照。
(3) 田中二郎『司法権の限界』(弘文堂、一九七六)三七頁、雄川一郎「訴えの利益と民衆訴訟の問題」(『田中二郎先生古稀記念・公法の理論[中]』有斐閣、一九七六、所収)一三四六・一三四七頁、橋本公亘「行政訴訟の原告適格」(同右所収)一一四三頁など。雄川は、少なくとも当面は、一般論としては法的保護利益論の枠組みを維持し、事実上の利益的な利益を法解釈の操作によって法的保護利益と構成するに止まるのが、なお適当であるとする。また、泉徳次「取消訴訟の原告適格・訴えの利益」(『新実務民訴講座・行政訴訟法I』日本評論社、一九八三、所収)五九頁も、法律上の争訟に該当しながら適切な司法救済を得られないという結果を招いてはならず、取消訴訟の提起を否定する場合には、他に適切な救済方法が存するかの検討を怠ってはならないとする。
(4) 最判昭和五七・九・九民集三六巻九号一六七九頁、最判昭和六〇・一二・一七判例時報一一七九号五六頁、最判平成元・二・一七民集四三巻二号五六頁、最判平成四・九・二二民集四六巻六号五七一頁、最判平成六・九・二七判時一五一八号一〇頁など。特に最後の判決における園部逸夫判事の補足意見(可部恒雄判事も同調)は、今日、授益的行為を争う第三者の訴訟提起の実情に応じた処理は国民の裁判を受ける権利の保障のためにも必要であること、第三者であっても、法の定める制限地域内にある場合には、一般的公益の中に吸収解消されない個々人の個別的利益を法律上保護された利益とすることができ、しかもその有無が訴え提起時には明確でない場合でも、実体審理に基づく本案の判断を求める手続上の利益が認められるべき場合があると述べた。
(5) 最高裁調査官の岩渕正紀は、最高裁判例における「法律上保護された利益説」は、もともとかなり柔軟性をもったものであり、当該処分の根拠規定のみによって判断するという「硬直」したものではなかったにもかかわらず、最近の一部の下級審判決は、当該処分の根拠条文のみを検討の対象とする傾向が見られると批判する。同「定期航空運送事業免許の取消訴訟と飛行場周辺住民の原告適格」最高裁判所判例解説・民事編平成元年三二・三三頁。
(6) Grant は、第三者が審査請求を起こすことができないというのは、立法の重大な穴であると批判する。M. Grant, Urban Planning Law, Sweet & Maxwell, 1982, p. 565. このことは種々の委員会等でも問題視されてきた。それにもかかわらず政府が立法に踏み切らないのは、それ
がさらに遅延をもたらす、という懸念にもとづく。
(7) See eg. Planning Application Statistics, [1995] J. P. L. pp. 985, 986.
(8) 岡村周一「イギリスにおける司法審査申請の排他性---『公法』と『私法』の一側面」法学論叢一一八巻一号二頁以下、岡本博志『イギリス行政訴訟制度の研究』(九州大学出版会、一九九二)二一頁以下参照。
(9) Covent Garden Community Asociaton Ltd. v. G. L. C. [1981] J. P. L. 183, at p. 184.
(10) 許可の付与を争うのに移送命令が使われうることについて、R. v. Hillington Borough Council, ex p. Royco Homes [1974] Q. B. 720.
(11) 法律によっては、異なる規定をおいているものもある。たとえばロンドン建築法(London Building Act 1930)は、高度一〇〇フィートを超える高層建築物の建築についてはロンドン・カウンティ・カウンシルの同意が必要としつつ(五一条)、そこから一〇〇ヤード以内の土地・建物の所有者・賃借人で利益を害された者は同意に対して不服を申し立て、また同意の拒否について申請人が申し立てた不服の審理に参加できる旨規定している(同法五二条)。この下で、アメニティの損害を受けた者も利益を害される人に含まれるとした判決として、Maurice v. London County Council [1964] 2 Q. B. 362 がある。
(12) James L. J. in ex p. Sidebotham (1880) 14 Ch. D. 458. 岡村周一「イギリス行政訴訟法における原告適格の法理」法学論叢一〇三巻六号二〇・二一頁。
(13) [1961] 1 Q. B. 278. ただし、同判決は、移送命令であれば原告適格が認められることもありうることを示唆している。
(14) E. B. Haran, The Planning Appeals System and Public Inquiries, J. P. L. Occasional Papers No. 14, “Keeping pace with change," pp. 76, 77, Grant, supra note(6), pp. 553, 565, A. E. Telling, Planning Law and Procedure (8th ed.) p. 308. 榊原秀訓「サッチャー政権における計画上訴改革」名古屋経済大学法学部開設記念論集五八一頁以下、五九四、五九五頁、大田直史「イギリスにおける計画上訴に関する公審問の手続法理」法学論叢一二三巻五号八八、一〇三頁、一二五巻一号九五頁。
(15) (1973) 28 P. & C. R. 123. 本判決について、H. M. Purdue and J. E. Trice, Further Light on Judicial De■nition of “Aggieved Persons" in Planning Law, [1974] J. P. L. 20, 太田・注(14)法叢一二五巻一号九〇頁。これは、一九六九年都市農村(審問手続)規則七条二項の審査官の「裁量により、その他いずれの者も審問に出席できる」という規定の下で判断された。岡村・注(12)法叢一〇三巻六号二四頁参照。
(16) [1976] J. P. L. 306. なお同判決のコメント参照。
(17) そのほか、 Hildenborough Village Preservation Association v. S. O. S. E. and Hall Aggregates (South East) Limited [1978] J. P. L. 708 でも、
公開審問で反対意見を述べた地元の環境保全団体の提起した訴えにおいて、原告適格にふれることなく本案判決が出された。また、Hollis v. S. O. S. E. [1983] J. P. L. 164 では、住宅開発のための計画許可を地元計画行政体が拒否したところ、大臣への審査請求がなされ、大臣が認容した。これに対して、付近に住んでいる住民が高等法院に訴えを提起した、というものである。原告適格を否定する主張は特になされず、Glidewell 判事も原告適格を認める旨の判示をした上で、本案について判決を下した。
(18) Save Britain's Heritage v. S. O. S. E. [1991] 2 All E. R. 10 は、ロンドンの保全区域内で八つの登録建築物と多数の未登録建築物のある土地の所有者が、それらの建物を解体して単一の建物を建てることを企画し、計画許可、登録建築物の解体、保全区域内建築物の解体についての同意の申請をした。地方計画行政体はこれを拒否し、大臣への審査請求、大臣の認容裁決へと至った。これには、様々な保全団体が反対したが、それらの団体の一つ、Save Britain's Heritage(建築史上の遺産の保全を主要目的とする団体)は、公開審問に参加し、さらに大臣裁決を争って法律上の訴えを起こし、そこで、大臣の裁決は決定理由を付けるよう定めた手続規定に違反すると主張した。貴族院判決は、原告適格についてはふれないまま、本案判決に入り、所有者側の主張を認めた。
(19) [1988] J. P. L. p. 540.
(20) B. Hough, Standing in Planning Permission Appeals, [1992] J. P. L. p. 323. なお、法律上の訴えの原告適格を拡大する傾向は、都市農村計画法以外の領域でも見られる。Arsenal Football Club Ltd v. Ende [1979] A. C. 1 では、貴族院は、同じバラまたは同じ取扱の地域に住んでいる納税者は、他人のあまりに低い課税評価を攻撃する資格があるがあるとした。同判決については、岡村周一「イギリス行政法における原告適格に関する最近の動向について」法論一〇六巻六号二八・二九頁参照。
(21) ただ、裁判所は権限踰越の広い解釈をとり、substantial prejudice 要件の必要な場合を減らしている。今や、権限内の手続的瑕疵を除いて、ほとんどすべての瑕疵は管轄的なものとされうる。
(22) 注(19)。
(23) 岡村・注(12)法叢一〇一巻三号七九頁以下参照。
(24) [1933] 2 K. B. 696. 本件における主要な論点は、決定が移送命令の対象たる司法的行為といえるか、という点であった。なお、取消事由は、許可を与えたカウンシルの議決に、当該開発地に利害関係を有する議員が加わっていた、というものである。
(25) [1979] 37 P. & C. R. 1.
(26) [1964] 1 W. L. R. 1136. しかし、Widgery J. は、原告適格について疑念を表明した。
(27) P. P. Craig, Administrative Law, 3rd ed. Sweet & Maxwell, 1994, pp. 490-491, 岡村・注(12)法叢一〇一巻三号七一頁以下、五号六五頁以下参照。
(28) なお、法務総裁(Attorney General)は、公共信託、公的ニューサンス等一定の事項については、公的権利・利益をまもるために、公衆を代表して差止命令、宣言的判決を求める訴えを起こすことができる。利害関係を有しない私人も法務総裁の同意を得てその名において訴訟を起こすことができる(リレイター訴訟)。その場合の法務総裁の同意の拒否は裁判所の審査を受けることはない。きわめて限定された場合には、最後の手段として同意なしに宣言的判決が付与されることもないではない。岡村・注(12)法叢一〇三巻二号四四頁以下、同・注(20)法叢一〇六巻六号八頁以下参照。
(29) [1966] 1 W. L. R. 899. 原告が権限踰越とする理由は、都市農村計画法上、開発計画に合致しない開発の許可申請については地方計画行政体はその申請の写しを大臣に送付しなければならないにもかかわらず、それがなされなかった、ということであった。
(30) 岡村・注(12)法叢一〇三巻六号六頁以下参照。
(31) この改革については、岡村・注(8)法叢一一八巻一号一頁以下、岡本・注(8)二一頁以下など参照。
(32) [1982] A. C. 617 (H. L.).
(33) この判決の分析は、岡村・注(8)法叢一一八巻二号(一九八五)一頁以下、岡本・注(8)七一頁以下でなされている。
(34) Grant, supra note (6), p. 626, 岡村・注(8)法叢一一八巻二号一三頁以下参照。
(35) [1981] J. P. L. 869.
(36) 本判決についての note 参照。[1981] J. P. L. pp. 873, 874.
(37) [1990] 1 All E. R. 754. 本件事案は次のようなものである。ディベロパーが事務所ビル建設の計画許可を得たところ、その事前調査で、シェークスピアの劇の初演がなされたなどエリザベース時代の重要な劇場の遺跡が埋蔵されていることが明らかとなり、建築家その他によって保存運動を進めるために設立された会社が、大臣に保存すべき遺跡の表に記載するよう要請した。ところが、大臣が、国民的な重要性を認めながらも登録しないという決定をしたため、その決定を取り消す移送命令を求めて司法審査の申請をした。司法審査の申請の第一段階の許可(leave)は得られ、審理に入ったが、大臣が原告適格を争わなかったにもかかわらず、ディベロパー及び土地所有者側代理人がそれを争った。本件で原告適格が否定されたのは、決定の性質のほか、史跡指定を求める市民の利益が訴訟上重く評価されない、という面もあるようにも思われる。もっとも、指定しないという決定を争うということは「指定をせよ」と裁判で求めることであり、現在のわが国ではおよそ考えられない
訴訟であることも確かである。
(38) [1981] J. P. L. 183.
(39) (1984) 49 P. & C. R. 26.
(40) 注(35)。ただし、別の事由により、これは第一段階で許可を拒否された。
(41) 注(38)。
(42) 他の分野でも、たとえば、事実審理にあたった裁判官の氏名等身元を安全のため公開しないという裁判所の決定について、宣言的判決を求めて司法審査の申請をするプレスの原告適格が認められたケースがある。R. v. Felixstowe Justices, ex p. Leigh (1987) Q. B. 582 参照。裁判の公開性の維持のためのプレスの役割が認識されたものである。
(43) Grant, supra note (2), p. 626, A. Williams, Locus Standi : A Changing Judicial Climate ? [1982] J. P. L. 359.
(44) The Times, July 7 1994. 参照できなかったため、Encyclopedia of Town and Country Planning Law and Practice, p. 2-3888 より引用。
(45) [1991] 2 P. L. R. 27. 他の団体は、許可の付与に関して陳述もしておらず、また第一段階の許可における当事者ではなかったとして、原告適格を否定された。
(46) R. v. Her Majesty's Inspectorate of Pollution and Ministry of Agriculture, Fisheries and Food, ex p. Greenpeace Ltd., September 29 1993, unreported. See Encyclopedia of Town and Country Planning Law and Practice, pp. 2-3887.
(47) 注(37)参照。
(48) [1993] 3 P. L. R. 58.
(49) [1981] J. P. L. 752.
(50) [1981] J. P. L. 685.
(51) [1981] J. P. L. 682.
(52) [1981] J. P. L. 581
(53) この主張からすると、大権令状を求める訴えについては、原告適格は広く認められることが定着していることは、被告も認めているようである。
(54) 救済方法間の違いが現れるとすれば、救済を与えるかどうかの裁量の点であるとした。[1981] J. P. L. 581 at p. 589.
(55) なお、本判決では、レイト納税者としての原告適格を否定した被告カウンシルの主張を Webster 判事が否定したため、それも許可を争う原告適格の根拠となりうるとした判例としても引用される。
(56) [1983] 2 A. C. 237.
(57) 岡村・注(8)法叢一一八巻二号一九頁。
(58) Hough, supra note (33), p. 328. なお、原田尚彦「訴えの利益」(行政法講座第六巻)参照。安念潤司「取消訴訟における原告適格の構造」国家学会雑誌九七巻一一・一二号七一一頁以下は、基本的には主観説にたちながらも、そこから結論が直結した形で出てくるものではないとする。
(59) これら計画をめぐる諸イデオロギーについては、P. McAuslan, The Ideologies of Planning Law, Pergamon, 1980 参照。
(60) 注(32)。
(61) Craig は、これを融合(fusion)の問題として検討する。Craig, supra note (27), p. 493 et seq . .

<付記> 本研究は、平成七年度文部省科学研究費補助金(課題番号 07620019)の交付を受けて行った研究成果の一部である。