立命館法学 一九九六年四号(二四八号)




◇ 研究ノート ◇
フランスにおける生命倫理立法と憲法院
---一九九四年七月二七日憲法院判決を素材として---


フランス読書会  
中村義孝(編)







目    次




1 はじめに
 今世紀の科学技術の急速な発展は、とりわけ生命科学の分野において顕著である。DNAの構造解明にはじまり、バイオテクノロジーの領域でさまざまな応用がこころみられている。また、医療技術の進展もめざましく、臓器移植、人工生殖、遺伝
子操作などがおこなわれるようになった。しかしながら、科学技術の発展が重大な法的・倫理的問題を含むことから(1)、その統制のあり方が各国で議論されており、わが国においても、臓器移植と脳死の問題を中心に議論が展開されてきたことはあらためて指摘するまでもない。
 ところで、フランスでは、人工生殖などの生命倫理の問題にたいして法律による規制がこころみられ、立法化がなされた。すなわち、一九九四年に成立した、いわゆる「生命倫理法」がこれである(2)。この「生命倫理法」は、人体尊重法 (Loi relative au respect du corps humain)、人体の構成要素および産物の提供および利用、生殖にたいする医学的介助ならびに出生前診断に関する法律 (Loi relative au don et a` l'utilisation des e´le´ments et produits du corps humain, a` l'assistance me´dicale a` la procre´ation et au diagnostic pre´natal 以下「移植・生殖法」と略称する)、保健の分野における研究を目的とする記名情報の処理、ならびに情報処理、情報ファイルおよび自由に関する一九七八年一月六日法を改正する法律 (Loi relative au traitement de donne´es nominatives ayant pour ■n la recherche dans le domaine de la sante´ et modi■ant la loi no 78-17 du 6 janvier 1978 relative a` l'informatique, aux ■chiers et aux liberte´s 以下「記名データ法」と略称する)という三つの法律からなる。そして、このうち人体尊重法および移植・生殖法の二法律が、議会での最終的可決の後、国民議会議長および国民議会議員によって、その合憲性審査を求めて、憲法院 (Conseil constitutionnel)に提訴された(3)。これにたいして、一九九四年七月二七日、憲法院は、人格の優位性、生の始まりからの人間の尊重などの原理を表明し、「個人の自由」(liberte´ individuelle)に一定の制限を認めるこの法律が、人格の尊厳の保護という憲法的原理に適合するとして、合憲判決を下した(4)。本稿は、この憲法院判決を素材として、フランスにおける生命倫理立法を検討しながら、「合理的立法」の実現をめざした憲法院と政治部門との積極的な相互作用の一側面を明らかにすることによって、わが国における立法の合理化を促すものである。なお、本稿では、判決文については、Franc■ois Luchaire, Le Conseil constitutionnel et l'assistance me´dicale a` la procre´ation (Annexe), dans RDP, 1994, pp. 1659 et s. ; Lois Bioe´thiques, dans Journal International de Bioe´thique, 1994, pp. 155 et s. を参照した。

2 「生命倫理法」の立法過程
 フランスでは、一九七〇年代に人工授精が一般化し、一九八二年にはじめての「試験管ベビー」アマンディーヌ (仮名)が誕生するにいたった(5)。かくして、人工生殖にたいする社会の関心が高まり、活発な議論が展開されるにようになった。そして、議会においても、人工生殖に関する立法をこころみる議員法案が提出された(6)。
 このような動きにたいして、当初、政府は性急な立法を避け、慎重な態度をとっていた。政府は、一九八三年に「生命科学および健康に関する全国倫理諮問委員会」(Comite´ consultatif national d'e´thique pour les sciences de la vie et de la sante´ =CCNE)を設立し、専門家の意見を取りまとめる一方(7)、一九八五年一月には、『遺伝学・生殖・法』(Ge´ne´tique, procre´ation et droit)と題する政府主催の公開討論会を組織し、公論の展開を促したのである(8)。
 一九八六年になると、政府は、立法化を前提として、人体の部分の商業化、胚研究、人工生殖、出生前診断などの生命倫理に関する問題についてコンセイユ・デタ (Conseil d'E´tat)に諮問をおこない、コンセイユ・デタは、一九八八年に最初の報告書 (ブレバン報告書)を提出した(9)。そして、この報告書をうけて、政府は一九八九年に法律草案を作成したが、さらに、一九九〇年、政府はコンセイユ・デタにたいしてあらためて包括的な調査を命じ、コンセイユ・デタは、一九九一年に報告書 (ルノワール報告書)を出した(10)。これらをもとに、一九九二年三月、政府は「生命倫理法」三法案を議会に提出した。
 国民議会におけるこの法案の第一読会で、出生前診断と胚研究の規定が導入された後、一九九三年三月の国民議会選挙における社会党の敗北、そして政権交代を経て、元老院の第一読会で、生殖医療の規制がさらに強化された。次に、国民議会および元老院において二回目の審議がおこなわれた後、両院合同委員会による最終成案が作成され、再議決がなされた。なお、法案の採決については党議拘束がはずされ、各議員の良心にもとづいて採決がなされている(11)。
 可決された「生命倫理法」三法の内容は以下の通りである(12)。人体尊重法は、その第一編において、民法典に「人体の尊重」と題する章を新設することを定める。そこでは、「法律は、人の優越性を保障し、その尊厳にたいするあらゆる侵害を禁止し、人をその生の始まりから尊重することを保障する」(第二条)と規定され、人体の尊重にたいする権利、種としての人にたいする加害の禁止、人体やその生成物の商取引の禁止など (第三条)が定められている。また、第二編では、人の遺伝子の操作や遺伝子テストに関する規定 (第五条〜第八条)および刑法典に保健医療に関する罪を挿入する規定 (第九条)、第三編では、人工生殖により生じる親子関係の規定 (第一〇条)がおかれた。そして、移植・生殖法は、保健医療法典 (Code de la sante´ publique)に、臓器移植をはじめとする人体やその生成物を用いた医療に関する新たな規定、人工生殖に関する規定を組み入れるものである。ただし、移植・生殖法は、その第二一条において、「本法律は、議会科学技術政策評価局 (Of■ce parlementaire d'e´valuation des choix scienti■ques et technologiques)によるその適用の評価の後、その施行後五年以内に、議会において再検討の対象とされる」と規定している。また、記名データ法は、情報保護法 (Loi no 78-17 du 6 janvier 1978 relative a` l'informatique, aux ■chiers et aux liberte´s)に、保健の分野における研究を目的とする記名情報の機械処理に関する規定を組み入れるものである。
 「生命倫理法」三法のうち、人体尊重法および移植・生殖法の二法律が、憲法六一条二項にもとづき、国民議会議長、および、六八人の国民議会の与党議員により憲法院に提訴された。このうち国民議会議長は、これら二法律の規定が憲法的諸原理に適合するというお墨付きを憲法院から得ることで、論争の激しかった立法の決着を確実にするために提訴した、といわれる(13)。これにたいして、国民議会議員は、二法律の以下の条文(14)が、胚の間の平等原理、胚の生きる権利、家族の権利、健康への権利、生命にたいする権利などを侵害するとして、違憲の申立をおこなった(これが本判決のいう「第二の提訴」である)。
〈移植・生殖法〉
第八条
  保健医療法典第二部第一編第二章の後に、次の第二章の二を挿入する。
 第二章の二 生殖にたいする医学的介助
第L一五二条の一
  生殖にたいする医学的介助とは、体外受精、胚移植、および人工授精を可能にする臨床上および生物学上の行為、ならびに自然の過程以外での生殖を可能にする、これらと同等の効果を有するすべての技術をいう。
第L一五二条の二
  生殖にたいする医学的介助は、一組の男女の親になる要求に応えるためにおこなわれる。
  生殖にたいする医学的介助は、その医学上不妊症と診断された疾病の治療を目的とする。また、この医学的介助は、子どもをとくに重い疾病の伝染から免れさせる目的も有する。
  一組の男女は、生きていて、生殖年齢にあり、婚姻しているか、または少なくとも二年以上の共同生活をした証拠を提出することができなければならず、かつ、胚移植または人工授精について事前に承諾していなければならない。
第L一五二条の三
  胚は、前条で定める生殖にたいする医学的介助の目的の範囲内で、およびその目的にしたがう場合のみ、生体外でつくることができる。この胚は、一組の男女のうちの少なくともひとりに由来する配偶子により受精されたものでなければならない。
  医療技術の状態を考慮の上、一組の男女は、五年にわたり、親になる要求を実現するために、胚の保存を必要とする可能性のある多数の卵母細胞の受精をこころみることを書面により決定することができる。
  一組の男女は、五年の間、毎年、親になる要求を維持しているかどうかを確認するために意見を求められる。
  施設または研究所が、とくに活動を停止するときに、人体の構成要素および産物の贈与および利用、生殖への医学的介助ならびに出生前診断に関する一九九四年七月二九日法律第九四ー六五四号の施行期間中における、保存に関して負わなければならない義務は、コンセイユ・デタを経たデクレによって決定される。
第L一五二条の四
  一組の男女は、例外として、第L一五二条の五に定める要件にしたがい、保存されている胚を他の一組の男女が受け入れることに書面により同意することができる。
  一組の男女のうちの一方が死亡している場合には、他の一方は、第L一五二条の五に定める要件にしたがい、保存されている胚を他の一組の男女が受け入れることに同意するかどうかを確認するために書面により意見を求められる。
第L一五二条の五
  第L一五二条の二に定める要件に適合し、かつ、第三提供者 (tiers donneur)に頼らない生殖にたいする医学的介助が成功しない一組の男女は、例外として、胚を受け入れることができる。
  胚の受入は、司法機関の決定にしたがい、受精の開始に先立ち、該当の一組の男女の書面による承諾を得る。裁判官は、要求者である一組の男女が第L一五二条の二に定める要件を満たしていることを確認し、かつ、当該男女が家族、教育および心理学にかかわる計画にもとづき、生まれてくる予定の子どもに与えることのできる受入条件を評価することを可能にするあらゆる調査を実施させる。
  胚を取得した男女および胚を提供した男女は、それぞれの身元を知ることができない。
  前項の規定にかかわらず、治療上必要な場合には、医師は、胚を提供した男女に関する身元を特定することのできない医学情報を取得することができる。
  いかなる形態であれ、胚を提供した男女に報酬を支払ってはならない。
  胚の受入は、衛生安全規則にしたがう。この規則では、とくに伝染病検診の検査について定める。
  この条文の適用の方式はコンセイユ・デタを経たデクレで定める。
第L一五二条の六
  一組の男女間にたいする医学的に介助された生殖が成功しないときは、第三提供者の関与する生殖への医学的介助は、最終的な指図 (ultime indication)としてのみおこなうことができる。
第L一五二条の七
  商業または産業目的で、人の胚をつくり、または使用してはならない。
第L一五二条の八
  検査、研究、または実験を目的として人の胚を体外でつくることは、これを禁止する。
  人の胚にたいするあらゆる実験は、これを禁止する。
  例外として、一組の男女は、その胚の検査をおこなうことを受け入れることができる。
  前項の男女の決定は、書面で示す。
  第三項の検査は、医学目的でなければならず、かつ、胚を傷つけてはならない。
  第三項の検査は、コンセイユ・デタを経たデクレに定める要件にしたがって、第L一八四条の三に定める審議会が正式の意見を出した後でなければ着手してはならない。
  審議会は、毎年、この検査をおこなう施設およびその目的の一覧表を公表する。
第L一五二条の九
  コンセイユ・デタを経たデクレによって定める、生殖にたいする医学的介助にかかわる臨床的または生物学的行為は、この目的のためにとくに承認された医師の責任のもとに、これを実施することを許可されたそれぞれの施設または研究所でおこなわれる。
第L一五二条の一〇
 (省略)
第九条
  この法律の審署日に存在し、かつ、もはや親になる要求の対象になっておらず、第三者である一組の男女による受入に異議がなく、およびその移植の日に効力を有する衛生安全規則に適合していることが確認された胚は、第L一五二条の五に定める要件を満たす一組の男女に提供されることができる。
  胚の受入が不可能であるとき、およびその保存期間が少なくとも五年にあたるときは、その保存を終了する。
第一二条
  保健医療法典第二編第一章第四節の冒頭に、次の第L一六二条の一六を挿入する。
第L一六二条の一六
  出生前診断とは、子宮内の胚または胎児のとくに重大な疾患を発見することを目的とする医療行為をいう。出生前診断の前に遺伝カウンセリングをおこなわなければならない。
 (第二項以下省略)
第一四条
  保健医療法典第L一六二条の一六の後に、次の第L一六二条の一七を挿入する。
第L一六二条の一七
  体外の胚から採取された細胞にたいしておこなわれる生物学的診断は、以下の条件により例外的にのみおこなうことができる。
  第L一六二条の一六で定める学際的出生前診断施設で自己の活動をおこなう医師は、一組の男女が、その家族の状況から診断時に不治と認められるとくに重大な遺伝性の疾病にかかっている子どもを産む可能性が高いことを証明しなければならない。
  出生前診断は、前項にいう疾病の原因となるひとつまたは複数の異常が両親のいずれかにあることが、事前にかつ正確に特定されたときのみにおこなうことができる。
  一組の男女は、出生前診断の実施にたいし、書面により承諾の意思を表明しなければならない。
  出生前診断は、疾患の検査、ならびにそれを予防および治療する手段以外の目的でおこなってはならない。
  出生前診断は、生殖および出生前診断に関する医学生物学全国審議会 (Commission nationale de me´decine et de biologie de la reproduction et du diagnostic pre´natal)の意見にしたがい、ならびにコンセイユ・デタを経たデクレに定める要件にしたがって、このための許可を受けた特別の施設のみでおこなうことができる。
〈人体尊重法〉
第一〇条
  民法典第一部第七編第一章に、次の第四節を挿入する。
 第四節 医学的に介助された生殖について
第三一一条の一九
  第三提供者の関与する医学的に介助された生殖の場合、その提供者とその生殖により生まれた子どもとの間にはいかなる親子関係も形成されえない。
  提供者にたいしては、責任に関するいかなる訴えも提起することができない。
第三一一条の二〇
  生殖のために第三提供者の関与を必要とする医学的介助を求める夫婦または内縁の夫婦は、秘密が守られることを条件として、当該夫婦の親子関係に関する行為の結果を当該夫婦に告知する裁判官または公証人に、事前に承諾を与えなければならない。
  医学的に介助された生殖について与えられた承諾がある場合には、子どもが医学的に介助された生殖によって生まれたのではないこと、または、承諾が効力を失ったことを主張する場合を除き、親子関係不存在確認の訴え、あるいは地位確認の訴えは、すべて禁止される。
 (第三項以下省略)

3 一九九四年七月二七日判決の内容
 提訴を受けた憲法院は、一九九四年七月二七日、提訴された法律を合憲とする判決を下した。以下は、判決の理由および主文である。
【判決理由】
 第一に国民議会議長が、第二に六八名の国民議会議員が、同じ二つの法律を憲法院に提訴した。それを裁定するにあたっては、単一の判決でその二つの提訴を結合してしかるべきである。
《提訴された法律の審査に適用されうる憲法規範について》
 一九四六年憲法前文は、権利、自由、ならびに憲法的原理を一括して、それらを再確認し、宣言した。すなわち、「フランス人民は、人類を隷従させ堕落させることを企図した体制にたいして自由な人民が勝ち得た勝利の直後に、あらためて、すべての人間は、人種、宗教、信条による差別なく、譲り渡すことのできない神聖な権利をもつことを宣言する」。このことから、あらゆる形態の隷従や堕落からの人格の尊厳の保護は、憲法的価値を有する原理である。
 個人の自由は、人および市民の権利宣言第一条、第二条、および第四条により宣言されている。しかしながら、個人の自由は、その他の憲法的価値を有する原理と調和させられなければならない。
 一九四六年憲法前文第一〇項の表現にしたがえば、「国は、個人および家族にたいして、それらの発展に必要な条件を確保する」のであり、同前文第一一項の表現にしたがえば、「国は、すべての人にたいして、とりわけ子ども、母親・・・にたいして、健康の保護を保障する」。

《第二の提訴をおこなった国民議会議員によって申し立てられた条項について》
〈人体の構成要素および産物の提供および利用、生殖にたいする医学的介助ならびに出生前診断に関する法律の第八条および第九条について〉
 第八条は、保健医療法典第二部第一編第二章の後に、「生殖にたいする医学的介助」と題し、第L一五二条の一から第L一五二条の一〇までの一〇条文を含む新しい第二章の二を挿入している。
 第L一五二条の一は、体外受精、胚移植、および人工授精を可能にする臨床上および生物学上の行為、ならびに自然の過程以外での生殖を可能にするこれらと同等の効果を有するすべての技術をあげて、生殖にたいする医学的介助を定義している。第L一五二条の二は、一組の男女の親になる要求に応えるための生殖にたいする医学的介助が、医学上不妊症と診断された疾病の治療を目的とし、また、子どもをとくに重い疾病の伝染から免れさせることを目的とする、ということを規定している。この条文は、一組の男女が、生きていて、生殖年齢にあり、婚姻しているか、あるいは少なくとも二年以上の共同生活をした証拠を提出することができなければならず、かつ、胚移植または人工授精について事前に承諾していなければならない、ということを定めている。第L一五二条の三は、医療技術を考慮の上、一組の男女が、五年の期間内に親になる要求を実現するために、胚の保存を必要とする可能性のある多数の卵母細胞の受精をこころみることを書面により決定することができることを規定し、また、その男女が、五年にわたり、毎年、親になる要求を維持しているかどうかを確認するために意見を求められることを規定している。この条文は、胚が一組の男女のうちの少なくともひとりに由来する配偶子により受精されたものでなければならない、ということを一般規定に定めている。しかしながら、第L一五二条の四は、例外として、一組の男女が、保存されている胚を別の一組の男女が受け入れることに書面により同意することができる、ということを規定している。第L一五二条の五は、要求者である一組の男女が、第L一五二条の二に定められた要件を満たしていることを確認し、その一組の男女が、「第三提供者」に頼ることなしには生殖にたいする医学的介助の恩恵を受けることができないことを確認する、という条件を定めている。この条文は、胚の受入は司法機関の決定にしたがう、という手続を定めている。また、この条文は、胚を取得した一組の男女および胚を提供した一組の男女が、それぞれの身元を知ることができない、という原則を定めている。第L一五二条の六は、一組の男女間にたいする医学的に介助された生殖が成功しないときは、「第三提供者」の関与する生殖にたいする医学的介助は、最終的な指図としてのみおこなうことができる、ということを強調している。第L一五二条の七の表現にしたがえば、「商業または産業目的で、人の胚をつくり、または使用してはならない」。第L一五二条の八は、検査、研究、または実験を目的として人の胚を体外でつくることが禁じられ、同様に、胚にたいするあらゆる実験が禁止されることを規定している。しかしながら、この条文は、例外として、一組の男女が、その胚の検査をおこなうことを書面により受け入れることができる、ということを規定している。この検査は、医学目的でなければならず、かつ、胚を傷つけてはならない。また、この検査は、新しい第L一八四条の三を保健医療法典に挿入する本法律一一条により創設された、生殖および出生前診断に関する医学生物学国家審議会が意見を出した後でなければ着手することができない。第L一五二条の九は、この生物学的および臨床的行為をおこなう資格を与えられた医師の承認にかかわる。そして、第L一五二条の一〇は、要求者に事前に課される手続を定めている。
 本法律第九条は、本法律の審署日に存在し、かつ、もはや親になる要求の対象になっておらず、第三者である一組の男女による受入にたいする異議の対象にもなっておらず、ならびに、その移植の日に効力を有する衛生安全規則に適合していることが確認された胚は、第L一五二条の五に定められた要件を満たす一組の男女に提供されることができることを定めている。そして、この条文は、「胚の受入が不可能であるとき、およびその保存期間が少なくとも五年にあたるときは、その保存を終了する」ことを付け加えている。
 第二の提訴をおこなった国民議会議員は、次のように主張している。かれらによれば、本法律第九条は、受精から人格のすべての特性を有する胚の生きる権利を侵害する。この規定は、胚が本法律の審署日以前に受精されたか、あるいは審署日以後に受精されたかによって、胚の間の平等原理を侵害する差別をもたらす。同様に、本法律は、一組の男女の胚の間の平等原理を無視することなく、親および医師団が「再移植されない胚から再移植される胚を選別する」こと、および、「第三者の男女に与えられない胚から第三者の男女に与えられる胚を選別する」ことを正当化できない。本法律に定められた胚の検査の可能性は、人格および人体の完全性を侵害する。胚の選別は、人間の遺伝形質保護の憲法的原理を無視する。本来の親が「第三提供者」である子どもをもつことが可能となれば、一九四六年憲法前文に由来し、保障された家族の権利が問題となる。「第三提供者」の関与する体外受精によって誕生した子どもにたいして、その遺伝的な身元 (identite´ ge´ne´tique)および本来の親 (parents naturels)を知ることを禁止するのは、子どもの健康への権利およびその人格の自由な成熟を侵害する。立法者が生殖および出生前診断に関する医学生物学全国審議会の構成の決定を命令制定権に委ねている以上、同審議会に同意権を認めることは、権力分立の憲法的原理を侵害することになる。
 立法者は、体外で受精された胚の受胎、着床および保存に多くの保護を加えている。しかしながら、立法者は、あらゆる状況において、かつ、不確定の期間にわたって、すでに形成されたすべての胚の保存を確保すべきとは考えなかった。立法者は、生の始まりからのすべての人間の尊重という原理が、すべての胚には適用されるわけではないと考えた。立法者は、それゆえ、当然に、平等原理がもはやこれらの胚に適用されえないと考えた。
 知識および技術の状態に照らして、立法者によりこのように定められた条項を再検討することは、議会と同じ評価・決定権を有しない憲法院の役割ではない。
 胚の選別にかかわって、提訴者が主張することとは反対に、人間の遺伝形質保護を確立する憲法的価値を有するいかなる条項も原理も存在しない。本法律により定められた条件における配偶子または胚の提供によって家族の発展の条件が確保されることにたいして、一九四六年憲法前文のいかなる条項も妨げとなるものではない。このように受胎した子どもに提供者の身元を知る手段を与えることを禁じるのは、一九四六年憲法前文により保障された健康の保護を侵害するものとはみなすことができない。最後に、医療目的を有する検査に関する個人の決定にかかわって、その構成の一般的規定が保健医療法典の新たな第L一八四条の三により定められ、かつ、それが胚を侵害しないことをとりわけ確認すべき行政審議会に同意を求めることは、立法者によって規定されることができる。ただし、立法者は、それによって自らの固有の権限を無視してはならない。
〈同法律第一二条および第一四条について〉
 本法律第一二条は、保健医療法典第二部第一編第四章の冒頭に、第L一六二条の一六を挿入する。この条文は、子宮内の胚または胎児のとくに重大な疾患を発見する目的を有する出生前診断を定める。本法律第一四条は、体外の胚から採取された細胞にもとづいて生物学的診断がおこなわれうる条件を定める第L一六二条の一七を挿入する。
 第二の提訴をおこなった国民議会議員は、人工妊娠中絶に頼ることを容易にするこれらの条項が生命にたいする権利を侵害すると主張している。
 子宮内の出生前診断に関する第L一六二条の一六は、妊娠中絶のいかなる新しい理由も認めない。第L一六二条の一七は、体外の胚から採取された細胞にもとづいておこなわれる診断だけに関係する。それゆえ、援用された申立には根拠がない。
〈人体尊重法第一〇条について〉
 本法律第一〇条は、民法典第一部第七編第一章に、第三一一条の一九および第三一一条の二〇の新しい二条文を含む「医学的に介助された生殖について」と題する第四節を挿入している。第三一一条の一九は、「第三提供者」の関与する医学的に介助された生殖の場合には、配偶子提供者とその生殖によって生じた子どもとの間にはいかなる親子関係も形成されず、責任に関するいかなる訴えも提供者にたいして提起することができない、ということを規定している。第三一一条の二〇は、要求者である夫婦および内縁の夫婦が、裁判官または公証人に事前にその承諾を与えなければならず、裁判官または公証人が親子関係に関してなされた約束を告知する、という条件を定めている。
 提訴をおこなった国民議会議員は、民法典一三八二条に定められた個人責任の原理に照らして、誕生した子どもにたいする配偶子提供者の匿名を問題にしている。提訴をおこなった国民議会議員は、さらに、子どもが一定の条件において婚外の父親を探すことを子どもに認める一九一二年一一月一六日法の諸条項から生じる共和国の諸法律により承認された基本的原理の存在を強調している。
 本法律の諸条項は、生殖にたいする医学的介助の場合、父親の帰属条件を規制することを目的にするものではなく、そのような結果をもたらすものでもなかった。憲法的価値を有するいかなる条項も原理も、生殖から生じた子どもと提供者の親子関係の形成について、また、提供者にたいする責任に関する訴えの提起について、立法者により定められた禁止を妨げない。それゆえ、提訴者の申立は退けられる。
《憲法院の審査に付された二法律の条項全体について》
 当該法律は、人格の優位性、生の始まりからの人間の尊重、人体の不可侵性、完全性、ならびにその遺伝形質の世襲性 (caracte`re patrimonial)の不在(15)、そして、種としての人の完全性のなかに存在する諸原理の全体を述べている。このように明言された諸原理は、人格の尊厳の保護という憲法的原理の尊重を確保することをめざす。
 両法律の条項全体は、その射程を見誤ることなく、それらを調和させ、適用されうる憲法的価値を有する諸規範を具体化している。
 以上にかんがみて、次のように判決する。
【判決主文】
 第一条 人体尊重法、および、人体の構成要素および産物の提供および利用、生殖にたいする医学的介助ならびに出生前診断に関する法律は、憲法に適合すると宣言される。
 第二条 本判決は、フランス共和国官報に公示される。
 本判決は、憲法院によって、一九九四年七月二六日および二七日の合議において決定された。

4 判決の検討
 憲法院は、合憲性審査の際に、準拠規範として、一七八九年宣言、「共和国の諸法律により承認された基本的諸原理」、一九四六年憲法前文に列挙された「われわれの時代にとくに必要な政治的・経済的・社会的諸権利」、憲法的価値を有する原理などからなる、いわゆる「憲法ブロック」(bloc de constitutionnalite´)を援用している(16)。本判決は、判決文の冒頭で本件に適用されうる憲法規範を列挙しているが、ここでは、新たに「あらゆる形態の隷従や堕落からの人格の尊厳の保護」が、憲法的価値を有する原理である、とされた。そして、この憲法的原理は、「フランス人民は、人類を隷従させ堕落させることを企図した体制にたいして自由な人民が勝ち得た勝利の直後に、あらためて、すべての人間は、人種、宗教、信条による差別なく、譲り渡すことのできない神聖な権利をもつことを宣言する」という一九四六年憲法前文からみちびかれている。
 また、本判決は、一七八九年宣言一条、二条、および四条により宣言された「個人の自由」をも参照している。しかしながら、「個人の自由は、その他の憲法的価値を有する原理と調和させられなければならない」とされ、結果として、憲法院は、人工生殖の法的規制を承認し、アメリカ的な「自己決定権」主導を否定したのである(17)。
 しかし、「胚は人である」として、胚の完全な保護を求める保守派の国民議会議員の訴えにたいしても、憲法院はこれを退けている。すなわち、本判決は、知識および技術の状態に照らして立法者により定められた条項を再検討することは、議会と同じ評価・決定権を有しない憲法院の役割ではないとして、妊娠中絶法を合憲とした一九七五年一月一五日判決(18)と同様、生の始まりを限定せず、胚が人であるかどうかを明確にすることを避けたのである。
 フランスの生命倫理立法は、以上のような憲法院の合憲判決の後、最終的に審署されたが、その規定の内容をめぐって、なお議論の余地が存在する。しかし、本稿では、憲法的価値に照らして立法の合理化をどのように実現していくか(19)、という問題関心にもとづいて、フランスの生命倫理立法にみられた、政治部門による積極的な立法の合理化を分析することにしたい。
 フランスでは、大革命期以降、「立法中心主義」または「法律中心主義」(le´gicentrisme)の伝統のもとで、政治部門における「法律による人権保障」が支配的に展開されていたが(20)、一九七一年七月一六日判決にはじまる憲法院の活性化によって、裁判における「法律にたいする人権保障」が次第に定着するにいたった(21)。しかしながら、憲法院自身も述べるように、憲法院が政治部門と同じ評価・決定権を有しない領域 (立法裁量)が存在することは、否定できない。また、ドミニク・ルソー (Dominique Rousseau)が指摘するように、たしかに、憲法院の判決が公権力およびすべての行政・司法機関を拘束するという憲法六二条二項の規定によれば、憲法院は、まったく自由に解釈をおこなうことができるように思われる。しかし、実際には、憲法院は、判決の影響を受ける競合する諸アクターの解釈を統合し、考慮しなければならない。そして、その判決が国会議員、法学教授、関係団体(たとえば、新聞組合、弁護士組合、労働組合、農業組合など)、あるいは世論の反応を評価するジャーナリストなどに承認されなければ、憲法院の正当性は疑われる、とされる(22)。したがって、憲法院が、自らの射程を超えて、違憲判決を下すとすれば、憲法院は「裁判官統治」のレッテルをはられることになりかねない。憲法院は、あらゆる場合に立法の合理性について自らの判断を下すことができるわけではなく、その意味において、「法律にたいする人権保障」には限界があるといえる。
 しかし、このような限界をもちつつ下される憲法院の合憲判決の結果に政治部門は安住してしまうのではなく、憲法院の射程を超えたところでも、憲法的価値を具体化すべきであって、積極的な立法の合理化への努力を要請されている。そして、実際に、政治部門は、憲法院がおこなう「法律にたいする人権保障」の限界を認識しつつ、憲法院が評価・決定をなしえない領域において、憲法的価値に照らして、立法の合理化をこころみている。その結果、いわば「法律による人権保障」の「新たな展開」がみられるようになったのである(23)。
 「生命倫理法」の場合、このような政治部門の「合理的立法」への積極的な取り組みは、とりわけ顕著であった。すでに述べたように、政府は、生命倫理というきわめてデリケートな問題を扱うにあたって、一方では、専門家からなる委員会の設置をこころみ、いわば「半=規範」的な性格をもつ「意見」(avis)を積極的に提出させ、他方では、自ら公開討論会を開催し、公論の展開を促した(24)。そして、政府は、規範の定立にあたっては、コンセイユ・デタに二度にわたって諮問をおこない、報告書を提出させている(25)。
 また、議会による積極的な取り組みとして、「議会科学技術政策評価局」(Of■ce parlementaire d'e´valuation des choix scienti■ques et technologiques =OPECST)の設置があげられる(26)。これは、高度な科学技術の発展にたいして、議会が独自の情報収集および分析をおこない、立法に反映させるために設けられたものであるが、「生命倫理法」の審議に際して、膨大な報告書を提出している(27)。この「議会科学技術政策評価局」の活動は、合理的な政策立案のために総合的・長期的な視点で調査・検討をおこなおうとするものであり、議会における「合理的立法」への努力を示すものであるといえよう。
 以上のように、フランスでは、政治部門における「法律による人権保障」という伝統的な定式にしたがって、人工生殖をはじめとする生命倫理の問題にたいして法律によって規制をおこなうという、きわめてフランス的な方策がとられた。ところで、■勝島次郎氏は、このようなフランスの対応をアメリカの対応と対置させ、前者を〈Public Policy Model〉とよび、後者を〈Private Policy Model〉とよんでいる。すなわち、アメリカでは、法律による規制はおこなわれず、医療や研究の専門職集団がガイドラインをつくるのが一般的であって、問題が生じた場合には、当事者が裁判に訴え、判例の蓄積によって一般に通じるルールがつくられる、とされる(28)。したがって、「裁判による法創造」がおこなわれるアメリカでは、司法によって人権保障が実現される。これにたいして、フランスでは、憲法院と政治部門の相互作用によって、新しい段階の「法律による人権保障」が展開されているのである。
 しかしながら、■勝島氏は、わが国では、フランス的な 〈Public Policy Model〉も、アメリカ的な〈Private Policy Model〉も機能する基盤がない、という(29)。すなわち、わが国では、アメリカのような裁判への信頼と司法主導主義の法規範構造が存在しないことから、判例の蓄積による社会的ルールの形成は期待できず、また、学会の統制がおよばないため、専門職集団によるガイドラインが機能する余地もない。そして、フランスのように政治部門が法制化する政策の形成に割くべき努力を払う体制がわが国にはみられず、合理的な政策立案の基礎となる知識・情報集約の体制の整備が大きく立ち遅れている、とされる。
 ところで、わが国では、生命倫理の問題として、人工生殖よりも脳死や臓器移植が問題となる。したがって、政治部門は、まず脳死・臓器移植の問題について、何らかの対応を求められている。これにたいして、政府は、一九九〇年に「臨時脳死および臓器移植調査会」(脳死臨調)を設置して、社会的合意の形成をめざし、一九九二年一月に最終答申が出されるにいたった(30)。そして、この答申を受けて議員立法が一九九四年四月に提出されたのであるが、実質的な審議は、ほとんどなさていない。一九九六年六月に提出された修正案も衆議院の解散によって廃案となり、政治部門には立法化への積極的な姿勢が欠けているように思われる。そして、社会的関心がそれほど高くない人工生殖の問題についていえば、一九八二年八月に出された日本産科婦人科学会のガイドラインが存在するものの、立法化の動きはほとんどみられない(31)。また、■勝島氏が指摘するように、わが国では、フランスのように、独立した機関における報告書の積み重ねによって合理的な政策の絞り込みが進められることはなく、ただ学識経験者からなる審議会のみに依存しているように思われる。したがって、わが国では、いくら時間をかけても、政治部門によって「合理的立法」が制定されるかどうかは疑わしいといわなければならない。
 このように、わが国の政治部門は、生命倫理の問題をとってみても、「合理的立法」への積極的な取り組みを欠いている。戦後日本の憲法学は、裁判における「法律にたいする人権保障」をめざして憲法訴訟論に議論を集中させてきたが、現代立憲政治においては、これだけでは決して十分ではない。むしろ、わが国の立法の現状を考えれば、憲法学は、政治部門における「法律による人権保障」にも関心を払うべきであって、さらに、憲法的価値が具体化されるべく、政治部門にたいして積極的に「合理的立法」への努力をはたらきかけなければならない。したがって、フランスの生命倫理立法にみられるような「法律による人権保障」の「新たな展開」に注目することはおそらく有益であるにちがいない。この点につき、詳論は今後の課題である。

(1) 科学技術の発展の法的問題を指摘するものとして、戸波江二「科学技術規制の憲法問題」『ジュリスト』一〇二二号、同「学問・科学技術と憲法」樋口陽一編『講座憲法学』第四巻、日本評論社 (一九九四年)、保木本一郎『遺伝子操作と法』日本評論社 (一九九四年)、加藤一郎・高久史麿編『遺伝子をめぐる諸問題』日本評論社 (一九九六年)など多数。
(2) 「生命倫理法」の立法過程およびその内容につき、Dominique Thouvenin, De l'e´thique biome´dicale aux lois 《bioe´thiques》, dans RTDC, 1994, pp. 717 et s., Catherine Chabert-Peltat et Alain Bensoussan (dir.), Les biotechnologies, l'e´thique biome´dicale et le droit, Editions Herme`s, 1995, pp. 21 et s. などを参照。また、邦語文献として、以下のものが存在する。大村敦志「フランスにおける人工生殖論議」『法学協会雑誌』一〇九巻四号、松川正毅「フランスに於ける人工生殖と法 (一・二)」『民商法雑誌』一〇五巻二・三号、高橋朋子「フランスにおける医学的に援助された生殖をめぐる動向」『東海法学』七号、同「フランスにおける人工生殖をめぐる法的状況」唄孝一・石川稔編『家族と医療』弘文堂 (一九九五年)、●島次郎「フランス『生命倫理法』の全体像」『外国の立法』三三巻二号、同「フランスにおける生命倫理の法制化」三菱化学生命科学研究所『Studies 生命・人間・社会』一号 (一九九三年)、同「フランスの生殖技術規制政策」三菱化学生命科学研究所『Studies 生命・人間・社会』二号 (一九九四年)、同「先端医療政策論」『病と医療の社会学』岩波講座現代社会学第一四巻(一九九六年)、同「フランスの先端医療規制の構造」『法律時報』六八巻一〇号、岡村美保子「生命倫理と法」『ジュリスト』一〇五八号、ミシェル・ゴベール「生命倫理とフランスの新立法」(滝沢聿代訳)『成城法学』四七号、北村一郎「フランスにおける生命倫理立法の概要」『ジュリスト』一〇九〇号、ノエル・ルノワール「フランス生命倫理立法の背景」『ジュリスト』一〇九二号など。
(3) 憲法院の活動につき、蛯原健介「フランスにおける『法治国家』論と憲法院」『立命館法学』二四六号を参照。
(4) C. C. 94-343-344 D. C. du 27 juillet 1994. なお、本判決の解説として、Franc■ois Luchaire, Le Conseil constitutionnel et l'assistance me´dicale a` la procre´ation, dans RDP, 1994, pp. 1647 et s., Bertrand Mathieu, Bioe´thique : un juge constitutionnel re´serve´
face aux de´■s de la science, dans RFDA, 1994, pp. 1019 et s., Louis Favoreu, Jurisprudence du Conseil constitutionnel, dans RFDC, 1994, pp. 799 et s., Dominique Rousseau, Chronique de jurisprudence constitutionnelle 1993-1994, dans RDP, 1995, pp. 51 et s. などが存在する。また、岡村美保子、前掲論文が本判決を簡潔に紹介している。
(5) 大村敦志、前掲論文、一四七頁以下を参照。人工授精は、一九七三年よりパリ大学の二カ所の病院において組織的におこなわれるようになり、以後、精子保存をおこなう機関が全国に広がった。
(6) 一九八一年に元老院第一読会においてカイヤヴェ議員の提案が可決されたほか、一九八四年にもフォルニ議員およびラバゼー議員による提案が出されている。なお、高橋朋子「フランスにおける医学的に援助された生殖をめぐる動向」一八七頁を参照。
(7) CCNEの活動および構成につき、Christian Byk et Ge´rard Me´me´teau, Le droit des comite´s d'e´thique, ESKA, 1996. また、前掲 Les biotechnologies, l'e´thique biome´dicale et le droit, pp. 33 et s. を参照。
 一九八三年二月二三日のデクレによれば、CCNEは、二つの任務を負う。第一に、CCNEは、生物学、医学、健康の領域における研究によって生じる倫理的問題にたいしてその意見を与える任務を負う。そして、第二に、CCNEは、生命科学および健康の領域における倫理的問題について、毎年、公開討論会を開くことを義務づけられている。なお、この討論会は、毎年一二月にソルボンヌで開催されている。
  CCNEを構成するのは、委員長のほか、大統領によって指名される五名の思想家、各機関によって指名される一九名の関連専門家 (議員、裁判官、法律学者、医学関係者など)、および一五名の研究委員 (医師)であり、任期は二年である。
(8) この公開討論会の内容につき、大村敦志、前掲論文、一六四頁以下。
(9) Conseil d'E´tat, Section du rapport et des e´tudes (Pre´sident : Guy Braibant), Science de la vie : de l'e´thique au droit, Documentation franc■aise, 1988. 大村敦志、前掲論文、一八五頁以下、●島次郎「フランスにおける生命倫理の法制化」一六頁以下。
(10) Noe¨lle Lenoir et al., Aux frontie`res de la vie : une e´thique biome´dicale a` la franc■aise, 2 Tomes, Documentation franc■aise, 1991. ●島次郎、前掲論文、二〇頁以下。
(11) 「生命倫理法」の議会審議過程につき、●島次郎「フランスの生殖技術規制政策」一三五頁以下。
(12) 「生命倫理法」三法の解説および翻訳として、『外国の立法』三三巻二号に掲載された、●島次郎氏の解説 (前掲、「フランス『生命倫理法』の全体像」)ならびに大村美由紀氏の翻訳を主に参照した。
(13) ●島次郎「フランスの生殖技術規制政策」一三八頁、ノエル・ルノワール、前掲論文、七六頁。
(14) 提訴された法律の条文は、前掲 Les biotechnologies, l'e´thique biome´dicale et le droit, Annexes 2 et 3. および Lois Bioe´thques, dans Journal International de Bioe´thique, 1994, pp. 139 et s. にもとづいている。また、翻訳に際して、大村美由紀氏の前掲訳文を参照した。ただし、訳文は必ずしも同一ではない。
(15) ここにいう世襲性とは、子どもが親の肉体的性質を受け継ぐことを意味するものである。
(16) 「憲法ブロック」の構成要素につき、Dominique Rousseau, Droit du contentieux constitutionnel, 3e e´dition, Montchrestien, 1993, pp. 93 et s. を参照。ここで、ルソーは、「憲法ブロック」に含まれるものとして、狭義の憲法、一七八九年宣言、「共和国の諸法律により承認された基本的諸原理」、一九四六年憲法前文に列挙された「われわれの時代にとくに必要な諸原理」、ならびに、憲法的価値を有する原理をあげている。これにたいして、組織法律と両院規則は、「憲法ブロック」に含まれない、とされる。また、条約および国際協定も、今のところ「憲法ブロック」には含まれていないが、将来、含まれる可能性がある、という。
(17) 本判決につき、憲法院が、国家による「人格の尊厳の保護」を「個人の自由」の上位においた、と解する見解もみられる。たとえば、岡村美保子、前掲論文。
(18) C. C. 74-54 D. C. du 15 janvier 1975. なお、この判決を検討するものとして、野村敬造「フランス憲法評議院と妊娠中絶法」『金沢法学』一九巻一・二号、建石真公子「フランスにおける人工妊娠中絶の憲法学的一考察」『東京都立大学法学会雑誌』三二巻一号など。
(19) 立法の合理化の必要性を論じるものとして、小林直樹『立法学研究』三省堂 (一九八四年)、山下健次「現代日本の立法府」『公法研究』四七号などがある。また、蛯原健介、前掲論文、一五二頁以下。
(20) フランスにおける「立法中心主義」の伝統につき、蛯原健介、前掲論文、一三八頁以下を参照。また、フランスにおける「法律による人権保障」および「法律にたいする人権保障」を検討するものとして、田村理「『フランス憲法史における人権保障』研究序説」『一橋論叢』一〇八巻一号、浦田一郎「議会による立憲主義の展開」『一橋論叢』一一〇巻一号、同「議会による立憲主義の確立」杉原泰雄教授退官記念論文集『主権と自由の現代的課題』勁草書房 (一九九四年)、同「政治による立憲主義」『法律時報』六八巻一号など。
(21) 憲法院がおこなう「法律にたいする人権保障」をめぐる議論につき、蛯原健介、前掲論文を参照。
(22) Dominique Rousseau, op. cit., pp. 407 et s. また、蛯原健介、前掲論文、一五〇頁を参照。
(23) 政治部門による立法の合理化への積極的な取り組みとして、政府による法案のコントロール強化、一括投票 (vote bloque´)の減少、与党議員自身による修正案の提出などが指摘される。Voir Dominique Rousseau, op. cit., Guillaume Drago, L'exe´cution des de´cisions du Conseil constitutionnel, Economica, 1991, pp. 200 et s., Louis Favoreu, La politique saisie par le droit, Economica, 1988, pp. 66 et s. また、政治部門が、憲法院の判決にもとづいて、さまざまな法律を修正することによって、公法および私法の「憲法化」(constitutionnalisation)が進展している。Voir Dominique Rouss-
eau, op. cit., pp. 356 et s.
(24) 大村敦志、前掲論文、二〇〇頁を参照。なお、CCNEは、一九八四年三月以来一九九四年三月までに、四〇件以上の「意見」を出している。そして、その内容は、人体実験、人工生殖、出生前診断、エイズ検診、ヒトゲノムの非商業化、遺伝子治療などの問題にわたっている。Voir Les biotechnologies, l'e´thique biome´dicale et le droit, pp. 39 et s.
(25) コンセイユ・デタは、行政裁判所として活動するだけでなく、諮問機関として立法・行政活動にも参加する。なお、コンセイユ・デタの立法・行政活動につき、Jean-Paul Costa, Le Conseil d'Etat dans la socie´te´ contemporaine, Economica, 1993., Yves Robineau et Didier Truchet, Le Conseil d'Etat, PUF, 1994. さらに、山下健次「コンセイユ・デターーその立法・行政活動」『立命館法学』三四号、山口俊夫『概説フランス法 (上)』東京大学出版会 (一九七八年)二五四頁以下、ジャン・リヴェロ『フランス行政法』(兼子仁・磯部力・小早川光郎編訳)東京大学出版会 (一九八二年)二〇六頁以下などを参照。また、コンセイユ・デタの立法活動と憲法院のコントロールとの関係につき、Yves Gaudemet, Le Conseil constitutionnel et le Conseil d'E´tat dans le processus le´gislatif, dans Conseil constitutionnel et Conseil d'E´tat, Colloque des 21 et 22 Janvier 1988 au Se´nat, Montchrestien, 1988. を参照。
(26) フランスの議会科学技術政策評価局につき、Pierre Avril et Jean Gicquel, Droit parlementaire, 2e e´dition, Montchrestien, 1996, pp. 247 et s. また、●島次郎「欧米の科学技術評価機関」『外国の
立法』三四巻三・四号を参照。
(27) ●島次郎「フランスにおける生命倫理の法制化」二三・二四頁。
(28) ●島次郎、前掲論文、三五頁。
(29) ●島次郎、前掲論文、三三頁以下。
(30) 脳死臨調答申につき、葛生栄二郎・河見誠『いのちの法と倫理』法律文化社 (一九九六年)二一二頁以下。
(31) わが国では、人工生殖に関して、日本産科婦人科学会のガイドラインが存在するが、これを無視して、非配偶者間の体外受精がおこなわれるなど、その実際的な効力が疑われており、立法化の必要性が論じられている。なお、この問題につき、葛生栄二郎・河見誠、前掲書、四七頁以下を参照。
(立命館大学大学院法学研究科 蛯原健介)