立命館法学  一九九六年五号(二四九号)




根  保  証  再  論
特に根保証の被保証債務の範囲を中心として


荒川重勝






目    次




一  序

  根保証関係の合理的な規律、特に根保証人の保護に向けられた法的構成としては、判例上、当事者の「意思解釈」ないし「合理的意思解釈」、信義則ないし権利濫用法理の援用、さらには身元保証法の類推適用など、問題となる個々の論点に応じてさまざまな手法が用いられてきた。しかし、根抵当法の制定(昭和四六年制定、同四七年施行)後、「根担保」としての共通の性格に着目しつつ、同法の根保証への類推適用の可能性が次第に注目されるようになり(1)、根抵当法からの事実上の影響を読み取ることが可能な判決も散見されるようになっている。そこで、筆者は、この可能性を全体的に追求するため、継続的保証・信用保証・根保証等の概念に分析を加えながら、「根担保」として根抵当権と共通の法的構造をもつ「根保証」の概念を吟味する(2)とともに、根抵当権の「確定」に関する規定の根保証への類推適用の可能性について具体的な検討を試みた(3)
  本稿の目的は、右の作業に続くものとして、まず、判例における根保証関係の合理的な整序、特に根保証人保護の手法がどのようなものであるかを確認し(二)、その上で、根保証への根抵当法の類推適用の可能性に関する私見について補足し(三)、さらに、これまで検討してこなかった「根保証における被保証債務の範囲」について若干の検討を行おうとするものである(四・五)。

(1)  その先駆けは、石井真司氏の一連のすぐれた研究である。石井真司「根保証の法律構成の再検討」手形研究二八六・二八八・二九一・二九五・二九九・三〇二・三一三・三一五の各号(昭和五四−同五六年)。もっとも、このような問題意識の形成は、すでに我妻博士にみられる  我妻栄・新訂債権総論四六一頁以下。
(2)  拙稿「根担保論」星野英一編・民法講座別巻1一四三頁、特に一八一頁以下。
(3)  拙稿「根保証の『確定』」太田知行=荒川重勝編・民事法学の新展開(鈴木祿弥先生古希記念)一九七頁。


二  判例における根保証関係の合理的整序、特に根保証人保護の手法

  根保証関係の合理的な整序、特に根保証人保護に向けられた解釈論的手法(法的構成)のあり様については、すでに伊藤進教授の優れた研究がある(1)が、これとやや異なる筆者の観点から、根保証関係のいかなる問題領域においていかなる手法が採られているかについて概括的に整理し、確認をしておきたい。判例上の手法としては、当事者の「意思解釈」ないし「合理的意思解釈」、信義則・権利濫用法理などの一般条項の援用、さらには身元保証法の類推適用、その他がある。
1  当事者の「意思(契約)」解釈ないし「合理的意思(契約)」解釈
  まず、当事者の「意思(契約)」解釈ないし「合理的意思(契約)」解釈の手法を採るものとして次のようなものがある。大半が「被保証債務」の範囲、および、保証極度(限度)額の定めの有無とその意味の解釈にかかわるものであることが注目される。なお、ここでも「信義則」が援用される場合があるが、それは次の2の場合と異なり、「意思解釈」の一般原則として援用されているものと言えよう。
  (1)  「被保証債務」の範囲にかかわるもの−((1))商取引において現金取引を原則とし便宜的に掛売取引をするという約定の下に保証人となった者は、売掛金全額が掛売取引による場合は売掛金債務について保証責任を負わないのが当事者の意思であるとする大決昭和一三・三・九(判決全集五輯七号三頁)、((2))信用金庫取引約定書に記載された条項はいわゆる普通取引約款であり、当事者が右条項をいちいち具体的に認識しなくても、これをすべて承認したものと認められるとし、主債務者が住宅建築資金として借り入れるにあたり信用金庫約定書に連帯保証人として署名捺印した保証人は、主債務者が別途借り入れた債務についても保証債務を負うとする最判昭和六〇・七・一六(金融法務一〇三号四七頁)、((3))当座勘定取引契約の保証人は当座過振りによる債務について保証責任を負うかについて、これを否定する東京地判昭和三四・一一・六(下民集一〇巻一一号二三四三頁)、その控訴審判決=東京高判昭和四〇・四・七(金商判六一号一一頁)、上告審判決=最判昭和四二・六・六(金商判六一号一〇頁)、反対に、これを肯定する和歌山地判昭和五〇・一二・二六(判時八一〇号八八頁)(ただし、事案に関しては、過振りが権限のない者の不正な支払によるとして否定(2))、((4))当座勘定取引契約の保証人は手形貸付や手形割引についての保証責任を負わないとする東京地判昭和三四・三・二六(金融法務二〇五号七頁)、((5))X銀行甲支店と銀行取引のあるA会社が振出した約束手形をX銀行乙支店が割引によって取得した場合、甲支店・A間の銀行取引について包括根保証をしたYは銀行取引約定書第一条により保証責任を負うとする東京高判昭和六一・六・二六(金融法務一一四四号四〇頁)、((6))回り手形上の債務が被保証債務に含まれるかに関する大阪高判昭和三八・四・三〇(金融法務三四五号三〇頁)、京都地判昭和三八・九・一九(金融法務三五五号二八八頁)、最判昭和三九・七・九(金融法務三八六号一三頁)(いずれも肯定)、((7))極度(限度)根保証で、主債務者が第三者のために負担する保証債務をも保証する旨を約定した場合について、人的担保では主債務者と連帯保証人との間の人的関係が重要と考えられ、これを無視して実質上の主債務者の無制限な拡大を許すことは双方当事者の合理的な意思に即しないとする東京高判昭和五五・九・二九(金融法務九五〇号一五二頁)、保証契約締結に至る経過、取引通念および信義則等に照らすならば、主債務者は第三者のために負担する保証債務を含まない趣旨だとする長野地裁諏訪支判昭和五九・五・一七(判タ五三二号一九四頁)、G継続的取引の途中で保証人となった者の責任は保証契約締結前の既存債務に及ぶかについて、諸般の事情を考慮して契約の趣旨を合理的に解釈してこれを決定するほかないとし、結論的には否定する東京地判昭和三四・二・二〇(下民集一〇巻二号三五一頁)、特段の事情がない限り既存債務も含まれるとする福岡高判昭和三九・九・三(金融法務三八八号一五頁)、保証契約締結前の債務をも保証の範囲に含めるときは、保証契約締結の際、将来負担することあるべき額として予想したものをはるかに超え、保証人に過酷な負担を強いることとなり、また保証人としても前もって右事実を知っていたならば保証契約を締結しなかったであろうと認められる特別の事情のある場合を除き、原則として既存債務も含まれるとする東京高判昭和五一・二・一八(下民集二七巻一−四号七九頁、判時八一七号七四頁)、主債務者が追加融資を受ける際に連帯根保証人となったが、債権者が既存債務にに及ぶことを一切説明せず、追加融資も実際には行われなかった等の事情があるときは既存債務は含まれないとする東京地判平成四・七・二九(金融法務一三五三号三五頁)、など(3)
  (2)  根保証の「極度(限度)額」の有無とその意味に関するもの−((1))信用金庫取引約定書による保証責任の限度額は信用金庫取引の性質から考えて合理的意思解釈をし、相当の限界を定めるべきだとしつつ、債権者が根保証人から契約に先立って約束手形を徴していた場合につき、その額が根保証の限度額となるとする東京高判昭和六三・七・二九(金融法務一二二七号三七頁)、((2))カード利用の限度額の定めがあるクレジットカード使用による立替払債務の連帯保証人の保証の範囲は、右限度額を越えては生じないとする仙台簡判平成二・一一・一五(判時一三八九号一二六頁)、((3))当座貸越で極度超過分についても保証する旨の特約につき「当事者ノ意思ハ取引ノ通念ニ於テ相当ナリト認メ得ベキ範囲内ノ債務ニ限リ保証スルノ意思」だとする大判大正一五・一二・二(民集五巻七六九頁)、((4))定められた根保証の「限度額」の意味につき、「一般社会通念」から、特段の意思表示がない限り約定利息・遅延損害金をも含む「限度額」だとする福岡高判昭和二九・一〇・八(下民集五巻一〇号一六九三頁)、根抵当権と併用の根保証の限度額の意味につき、利息・損害金をも含む債権極度額だとする最判昭和六二・七・九(金融法務一一七一号三二頁)(原審=東京高判昭和六一・一二・二四金法一一六七号四四頁、第一審=東京地判昭和六一・七・二八金法一一六二号九〇頁)、特段の事情がない限り債権極度額だとする東京高判平成元・八・一〇(金融法務一二四五号二八頁)、((5))根抵当権と併用の根保証について非累積的なものとする和歌山地判昭和三七・二・二六(金融法務事情三一一号四頁)、その控訴審判決=大阪高判昭和三八・一一・一八(金融法務三六一号三頁)、根抵当権と併用の根保証の極度額を根抵当権の極度額と同額とし、かつ両者を非累積的なものとした最判平成六・一二・六(金融法務一四一四号二八頁)、など(4)
2  信義則・権利濫用禁止等の一般条項の援用
  次に、信義則・権利濫用禁止等の一般条項を援用する類型に属する判例には、根保証人の責任額の限定に関するもの(これが大半を占める)、事情変更に基づく根保証人の解約権の成否に関するもの、さらに、本来根保証人が解約できたにもかかわらず解約しなかった後に生じた債務につき根保証人の責任を限定または否定したもの、がある。なお、当事者が公序良俗違反(民法九〇条)を主張したケースでは、すべてその主張が排斥されている(最判昭和三三・六・一九民集一二巻一〇号一五六二頁、大阪高判昭和三八・四・三〇金融法務三四五号三〇頁など)。
  (1)  根保証人の責任額の限定ないし責任の否定に関するもの−保証契約締結に至った事情、債権者と主債務者との取引の態様、経過、債権者が取引に当たって債権確保のために用いた注意の程度(主債務者の資力、信用状態の把握等)、連帯保証人と主債務者との信頼関係の変化、主債務増加の原因、取引慣行、保証人が解約申し入れをなさなかった具体的事情とその点に関する過失の有無その他一切の事情を斟酌し、信義則に照らして合理的な範囲に制限すべしとする一連の判例(最判昭和四八・三・一金商判三五八号二頁、東京地判昭和四八・一一・二六判時七四四号六八頁、東京地判昭和四五・一二・八判時六二五号五六頁、東京地判昭和五三・二・一六判タ三六九号三四四頁、水戸地判昭和五一・一〇・二〇判時八五一号二二〇頁、大阪高判昭和五四・八・一〇判時九四六号五九頁、大阪高判昭和五六・二・一〇判タ四四六号一三六頁ほか多数)。
  (2)  根保証人の解約権の成否に関するもの−((1))「取引における当事者の意思解釈、信義の観念、民法五八九条の法意の類推」により、反対の事情が認められない限り保証人は相当の日時経過後は解約権を行使でき、また主債務者の財産状態に著しい欠陥が生じたときは保証人は直ちに解約権を行使できるとする大判大正一四・一〇・二八(民集四巻六五六頁)、主債務者の資産状態が著しく悪化した事案に関する大判昭和九・五・一五(法律新聞三七〇六号九頁)、同じく大阪地判昭和五九・一二・一四(金融法務一〇九九号四五頁)、((2))保証人の地位に重大な変更が生じた場合に関するものとして、産業組合の債務について根保証人になった組合理事が理事を辞任した場合に関する大判昭和一六・五・二三(民集二〇巻六三七頁)、会社の債務について根保証人となった取締役がその地位を辞任し、会社を退職した場合に関する名古屋地判昭和六〇・六・一四(判タ五六六号一八六頁)、金沢地小松支判昭和六〇・六・二八(判タ判タ五六六号一八六頁)、内縁の夫が代表者である会社の債務について保証人となった内縁の妻が、その後内縁関係を解消した場合に関する東京高判昭和六二・四・二八(金判七八三号三五頁)、((3))保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至った等保証人として解約申入れをするにつき相当の理由があるときは、解約により相手方が信義則上看過しえない損害をこうむるなどの特段の事情がある場合を除き、一方的に解約できるとする最判昭和三九・一二・一八(民集一八巻一〇号一七九頁)、など。
  (3)  解約権を行使しうる事情があったにもかかわらず行使しなかった場合の根保証人の責任ないし被保証債務の範囲の限定に関するもの−((1))契約締結から相当期間の経過後、主債務者の資産信用状態が相互の信頼信用を破る程度に極度に悪化し、危殆に瀕した場合に臨んで、保証人にさらに多額の負担を被らせる結果となるべき融資をなすにはあらかじめ保証人の意向を打診する一応の措置をとるべき信義則上の義務があり、これを怠り敢えて主債務者に対してした巨額の融資については、保証人の責任を追及できないとしつつ、債権者がかかる事情につき重過失であっても善意であったこと、保証人自身も解約告知権を行使しなかったことなどを理由に、結論的に責任縮減を認めなかった大阪高判昭和三八・九・五(下民集一四巻九号一七三八頁、判時三六一号四九頁)、根保証人が主債務の牛乳買掛金債務が激増していく事実を知っていたような場合には、保証人は自ら注意することにより必要な場合には解約権を行使することが可能であったから、債権者に信義則上の通知義務はないとして責任縮減を認めなかった最判昭和四六・七・一(金融法務六二二号二八頁)、((2))期間の定めはないが極度額の定めのある根保証契約の締結後三年余を経て、主債務者の経営状態が悪化し、担保物件も第三者に売却されて事業場から搬出されている事情の下で、債権者(信用金庫)がその事情を了知しうる状態にあったにもかかわらず、この点の注意を怠り、かつ根保証人の意向を打診することなく、漫然手形貸付をしたという事案につき、債権者の保証債務の履行請求を「信義則に反し権利の濫用であって許されない」という原審の判断を肯認した最判昭和四八・三・一(金融法務六七九号三五頁)、債権者が取引状況・未払額の増加等を保証人に連絡せず、保証人はこの間の事情を知らなかったとして、保証人の責任額を債務全額から二割を減額した大阪高判昭和五六・二・一〇(判タ四四六号一三六頁)、同様に、主債務者の資産状態の極度の悪化等の事情の変更があったにもかかわらず、債権者が新規融資に当たり予め保証人に通知するとともに保証継続の意思を確認せず、そのため事情変更を知らなかった保証人が知っておればなしえた解約権行使の機会を失わせた場合には、債権者は信義則上事情変更後の新規貸付について保証人の責任を追及できないとする大阪地判昭和五九・一二・二四(金融法務一ス九九号四五頁)、((3))限度額を定めて会社の経理担当従業員が根保証人となった事案で、その責任は退職後に生じた債務に及ばないとする大阪地判昭和四九・二・一(判時七四六号六八頁)、名目的な代表取締役であった保証人が退任後にその旨を連絡・警告し、債権者が地位の交代を知っていた場合には、その後に生じた債務につき保証債務の履行請求をするのは信義則に反するとする京都地判平成五・一〇・二五(金商判九四九号三〇頁)、同様の事案につき履行請求を「権利濫用」とした東京地判平成三・七・三一(金融法務一三一〇号二八頁)、信用金庫取引開始当時すでにその地位を辞任していた前代表理事Aが、他の理事から新代表理事選任の登記が遅れるとの見通しから、後日責任を解除する約束で連帯保証を依頼され、取引契約に代表理事として表示して根保証人となったが、その後保証責任を免れさせる措置がとられず、債権者(信用金庫)もAの地位の変動を知っていた場合に、責任解除の措置がとられていないことを奇貨として債務全額について保証責任を負わせようとするのは信義則の見地から相当でないとして、保証人の責任額を全債務の五割とした東京地判昭和六〇・一〇・三一(判時一二〇七号七二頁)、など。
3  身元保証法の類推適用
  この類型の判例は、ほとんど専ら根保証人の責任(額)の限定にかかわるものであり、また、事案の特徴としては、主債務者が比較的零細な(と思われる)小売商である継続的商品売買契約についての根保証であるものが目立つ。継続的動産(油圧機械)売買取引につき主債務者の親しい友人が保証人となった事案に関する福岡地判昭和四五・一一・二五(判時六三三号八八頁)(結論的には責任額縮減を否定)、期間も限度額も定めない信用金庫取引の保証につき、身元保証に準じて債権者の通知義務、保証人の解約権および裁判所の保証限度額認定権を認めるのが相当だとしつつ、債権者の請求する金額が根保証人の予想できない程の多額ではないとして結論的には責任縮減を否定する大阪地判昭和四九・一〇・一六(金商判四三一号一九頁)、継続的木材売買取引につき主債務者と「信用貸等の取引関係」にあった者が保証人となった事案に関する大阪地判昭和五〇・七・一五(下級民集二六巻五−八号六三二頁)(責任額を主債務の三分の一に縮減)、継続的なアルマイト加工等取引につき主債務会社の取引担当取締役が保証人となった事案に関する大阪地判昭和五七・六・三〇(判タ四七八号九三頁)(結論的には責任縮減を否定)、極度額の定めがあることを理由に身元保証法の類推適用を否定し、責任縮減を否定した東京高判平成元・九・一三(金融法務一二四八号三四頁)等があるほか、継続的な家庭電器器具類販売店契約につき主債務者(小売店経営)の姉と姉婿が連帯保証人となった事案に関する最判昭和五〇・一一・六(金商判四九二号七頁)の前訴判決(責任額を縮減)も参照。
4  その他−根保証債務の一身専属性
  根保証債務の相続性に関するものとして、((1))保証限度額および期間等について何の制限もない根保証は、特段の事情のない限り一身専属的義務であるとして相続性を否定した大判大正一四・五・三〇(新聞二四五九号四頁)、これを最高裁として確認して、責任の限度額も期間の定めもない連帯保証契約においては、その責任の及ぶ範囲が極めて広汎となり、一に契約締結の当事者の人的信用関係を基礎とするものであるから、かかる保証人たる地位は、特段の事由のない限り当事者その人と終始するものであって、その相続人において保証債務を承継負担するものではないとする最判昭和三七・一一・九(民集一六巻一一号二二七〇頁)、大阪高判昭和三七・七・三一(金融法務三一九号七頁)、((2))右の「特段の事情」の存在が認定された参考判例(身元保証に関する)として大判昭和一二・一二・二〇(民集一六巻二〇一九頁)、((3))期間の定めはないが責任の限度額の定めがある根保証について相続性を肯定する大判昭和一〇・三・二二(法学四巻一一号一〇一頁)、大判昭和七・六・一(新聞三四四七号八頁)がある(なお、保証人の存命中に発生した主債務についての保証債務は相続されるとする東京地判昭和五四・三・八金融法務九〇七号四一頁参照)。もっとも、非相続性の根拠を「当事者の意思」に求める大判昭和六・一〇・二一(法学一巻三号一二七頁)もある。

(1)  伊藤進「保証人の保護」鈴木禄弥=竹内昭夫編・金融取引法大系二六六頁。
(2)  なお、現在では、銀行取引約定書一条の「その他一切の取引」には「当座過振り」も含まれると解され(新版注釈民法(17)二九五頁(中馬義直))、また、当座勘定規定一一条から、過振りによる債務も被保証債務に含まれるとするのが通説である。
(3)  その他、荷為替取引において船荷証券が偽造のものであった場合に、保証人は船荷証券が担保となっていることに着眼して保証したものとする大判昭和一五・六・二八民集一九巻一〇八七頁がある。なお、被保証債務の範囲にかかわって、根保証人につき破産宣告・免責許可決定があった後に生じた主債務者の債務に対する保証責任を否定した名古屋地判昭和五九・一・二〇金商六九四号二七頁がある。
(4)  その他、根保証人不知の間に貸付限度額が変更されても、根保証人は元の極度額の範囲で引き続き保証責任を負うのであり、それだけで解約権を行使できないとする高松高判昭和三八・八・二一下民集一三巻八号一七一一頁。


三  各手法に対する一般的な評価

1  身元保証法類推適用論について
  右にも一言したように、根抵当法が存在する今日では、その規律を可能なかぎりで根保証に推し及ぼして両者に共通の枠組みを形成し、「根担保」として統一的に把握していくことが、根保証関係全体の合理的な整序、なかんずく根保証をめぐる法利害関係者間の利害調整のためにも適切であると筆者は考えてきている。
  しかし、いうまでもなく根抵当権と根保証とでは、前者は物権法上の制度であるが、後者は債権法上の制度であり、したがって、前者は物権法定主義に服するが、後者は契約自由の原則に服し、また、前者は物に対する優先弁済権能(設定者の物的有限責任)を根幹とする対世的権利であるが、後者は保証人の一般財産に対する909e取力(保証人の人的無限責任)を根幹とする対人的権利である、という違いがある。そのため、根抵当法と根保証法は、部分的に相互影響がみられ、また最近この相互影響が一層強まりつつあるかにみえるものの(1)、両者は基本的に原理と構造を異にする異別の制度として捉えられ、類推適用による具体的な利益考量に対する配慮も加わって、今日なお根保証への根抵当法類推適用論に警戒的ないし否定的な見解が少なくないというのが現状である(2)
  ところで、このような両者の法体系上の相違等を強く意識するならば、「保証」につき同じく債権法の領域で発展し、実定法として実現された身元保証法(昭和八年制定)の類推適用論(3)のほうが根抵当法類推適用論よりも説得的であると言えるかもしれない。事実、身元保証に関する判例が根保証に影響を与えたと考えてよいものも存する。例えば根保証人の解約権に関する大判大正一四・一〇・二八(前記二2(2)((1)))は、身元保証人の解約権に関する大(刑)判大正四・一〇・二八(刑録二一輯一六六七頁)の影響といってよいであろう。また、社会的実態において「根保証」と「身元保証」とが必ずしも明確に分別されない事態も少なからず存在するとすれば、この考え方の説得性はより増すということもできよう(4)。さらに、もし根保証人の責任制限を「信義則違反、権利濫用禁止」法理によって処理した場合には、責任を全面的に肯定するか否定するかの all or nothing の処理になるが、身元保証法五条の類推適用によれば弾力性のある妥当な結論が得られると解されるならば、この点でも身元保証法類推適用論の優越性を指摘できるかもしれない(5)
  さて、この考え方に従って身元保証法を根保証に類推適用するときは、同法に対して次のような読み替えがなされることになろう。((1))根保証に保証期間の定めがなければ三年(一条)、期間の定めがあるときでも最長五年(二条)が、保証期間の終了(具体的には、普通解除権の成立)の一応の基準となり、((2))被用者の業務上不適任または不誠実である事跡等が認められる場合の使用者の通知義務(三条)は、主債務者の資力・信用や営業状態、取引形態、融資額の変動等に関する債権者の通知義務として読み替えられ、((3))右通知があった場合の身元保証人の契約解除権(四条)は根保証人の(事情変更による)契約解除権として捉えられる。また、((4))身元保証人の責任制限に関する五条については、((イ))「被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無」は、主債務者の信用状態の把握、債権管理・担保管理等に関する債権者の過失の有無に、((ロ))「身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由」は、主債務者と保証人の関係、保証するに至った動機と経過、保証することによって保証人が得る利益の有無等に、((ハ))保証を「為スニ当リ用イタル注意ノ程度」は、自己の責任に対する保証人の認識度、保証債務の未必性と軽率性の程度に、((ニ))「被用者ノ任務又ハ身上ノ変化」は、主債務が発生する取引の種類、形態(担保・保証・期間等)、取引額の変化、債務者の営業状態・信用状態の変化に、((ホ))「其の他一切ノ事情」は、銀行が取引上知り得た主債務者の秘密等に、それぞれ読み替えられることになろう(6)
  このような身元保証法の読み替えが可能であるとするならば、根保証において問題となる二、三の重要論点についてはこの手法によっても対処可能だということができよう。
  しかしながら、なお次のような理由からこの手法に与することはできない。
  (1)  まず、身元保証法が雇用関係にある被用者の「身元保証」を対象とするものであるだけに、その「類推適用」とはいえ、右のような読み替えにはかなり無理があるとの印象を否定できない。ここでは、実際には「不特定の債務を合理的な計算なしに無限に保証した者の責任は、一切の事情の斟酌の下に限定されるべきである」といった命題を指示する限りで意味があるにすぎないといっても過言ではない(7)。また、仮にこの点をさておくとしても、この手法は、ほとんど専ら根保証人の解約権および責任の限定という局面で機能できるが、根保証の法的構造全体の整序にまでには至らないことを指摘できる。先にみたように(二3参照)、身元保証法の類推適用を問題とした判例も、ほとんど専ら根保証人の責任(額)の限定にかかわるものであった。
  (2)  次に、最も問題とすべきは、「根保証」の捉え方にかかわることであるが、もしこれを根抵当権と共通の法的構造をもつ「根担保」の一類型として捉えるならば、根保証と身元保証は法的構造においてかなりの差異があるのではないか、ということである。すでに旧稿(8)において一定の分析を試みたように、根保証を根抵当権と共通の法的構造をもつものとして捉えるならば、それは「継続的関係から生ずべき不特定の債権を、将来の一定の時期(清算ないし『確定』期)において担保する保証、つまり、被保証債務の『確定』前においては、保証債務は主債務の発生・消滅に付従せず、主債務の入れ替わり可能性が認められ、したがって、いわゆる具体的・支分的保証債務は問題とならない保証」であり、しかもその「主債務の入れ替わり」は一回限りの「全部確定」によって停止するものとして捉えることができる。これに対して、普通一般の身元保証については、被用者が解雇されたり、保証人がいわゆる解約権を行使しない間は、被用者の行為によって使用者に具体的損害が発生するごとに個別・具体的な保証債務(いわゆる支分的保証債務)が発生し、使用者はそのつど保証人に対して保証債務の履行請求ができると解するのが一般的な理解であろうと思われる(9)。したがって、ここでは右に定義された意味での根保証におけるような「被保証債務の入れ替わり」といったことは生ぜず、したがってまた、根抵当権におけるのと同様の意味での「確定」の観念を導入する余地もないのである。もっとも、身元保証でも、被用者がその行為によって使用者に具体的な損害を被らせた場合、そのことが同時に解雇原因となり、被保証債務の発生が止まる−つまり、いわば一回限りの「全部確定」となる−ことが多いと思われるが、かかる事態は法的構造の把握にとってはリレヴァントなものではないと言うべきである。
  このような両者の法的構造上の差異に着目するならば、「根保証」の法的構造全体の合理的整序のためには、身元保証法よりも根抵当法を類推していくことが−前記のような法体系上の位置や法的効力上の差異等があるにしても−より適合的ではないかと考えられるのである。
  (3)  なお、信義則や権利濫用法理に依拠するときは、根保証人の責任を全部肯定するか否定するかの硬直した結論しか出しえないが、身元保証法五条等の類推適用によれば柔軟な結論を出しうるといった見解は適切ではないと思われる。確かに、債権者の根保証人に対する履行請求を「信義則に反し権利濫用」だとして全面否定した判例はある(10)。しかし、この判例は、信用金庫取引について元本極度額を定めたが、期間を定めないで連帯保証がなされた事案で、保証契約の締結後三年余を経て、債務者の経営状態が悪化し、担保物件も第三者に売却されたのちに、債権者(信用金庫)が、その事情を了知しうる状態にあったにもかかわらず、金融機関としてなすべきこの点の注意を怠り、かつ保証人の意向を打診することなく、漫然債務者に新たな手形貸付をしたなどの事情の下では、債権者が保証人に対して右貸付について保証債務の履行を求めるのは「信義則に反し権利の濫用であって許されない」としたものである。したがって、この事案の内容からみれば、保証人の責任額をゼロと判断すれば足りたのであり、保証人に対する履行請求自体を「信義則に反し権利濫用」として全面否定する構成を採らなくても同じ結論となりえたものであった。というより、「信義則に反し権利濫用」の構成を採ったから根保証人の責任が全否定されたのではなく、根保証人の責任をゼロとする表現として「信義則に反し権利濫用」としたと理解すべきである。前記二2に示したとおり、「信義則」はすでに根保証人の責任の部分的・量的限定のために広範に機能しているし、「権利濫用」法理も、ある権利の行使の全面的な否定のみを結果するのでなく、その「権利濫用」となる限度での部分的な否定を導くためにも用いられうると言わなければならない(11)。したがって、右の点は身元保証法類推適用論の十分な根拠とはなりえないと思われる。
  (4)  ちなみに、身元保証法類推適用説に対する批判として次のように説くものがある。「身元保証・身元引受のいずれにしても、その本来の機能は、雇傭に際して、使用者は被用者の能力・性格・健康等を知悉していないから、被用者の能力・性格・健康等を保証するに過ぎないのであって、雇傭後日時が経過して使用者が被用者を知悉するようになれば、この契約はその本来の機能を果たしたことになり、爾後の危険は、使用者においてこれを負担すべきものとするのが合理的であ」るからであるのに対して、「一般取引の継続的保証は、債権者が主たる債務者の能力・性格・健康・資産・信用状態を知らないから保証人においてこれを保証するというものではなく、また、保証後相当の日時を経過した後は、債権者において主たる債務者の能力・性格・健康・資産・信用を知悉し得るような関係には必ずしもないし、仮に右の点を知悉したとしても、当初の保証の機能を果たし、爾後の危険は、債権者が負担すべきものとする合理性もない(12)」。しかし、この批判は当たらないというべきである。つとに西村博士が強調されていたように、前代の「人請責任」と異なって今日の身元保証においては、「使用者が身元保証に期待するところは、主として、身元本人によって−とくにその不正背任の行為によって−被るかも知れない損害の賠償を受けること(13)」、すなわちまさに債務の保証にあるのであり、その意味では、またその限りで、身元保証と根保証との間には何の相違もないというべきだからである。
2  当事者の「意思」解釈ないし「合理的意思」解釈について
  (1)  すでに見たように(二1参照)、当事者の「意思」解釈ないしは「合理的意思」の解釈という手法を採用する型の判例の大半は、被保証債務の範囲に関する約定の解釈、および、「極度(限度)額」の有無とその意味(元本極度か債権極度か)の解釈にかかわるものである。ところで、この手法に関して、すでに筆者は一般的に次のように指摘したことがある。「意思(契約)解釈の手法は、具体的なケースや問題の局面によっては一定の有効性をもつものの、そこのいわゆる『意思』が文字どおり『(両)契約当事者の現実の意思』を意味する限り、この手法の射程距離は必ずしも広いものではない。保証における問題の局面の多くは、当事者の『現実の意思』を越えて、これにいかなる制御を加えることが適切妥当かが問われざるを得ない性格をもつからである。そのため、この手法は、『合理的意思解釈』の手法に直ちに移行し、その中に包摂されざるをえない性格をもつ」、と(14)。右の被保証債務の範囲や「極度額」の意味等の問題領域は、まさにこの手法が一定の有効性をもつ領域だと言ってよい。
  しかし、一般に「当事者の意思の合理的解釈」という場合、そこには次の二つの場合があるように思われる。第一に、当事者の意思を推認させる複数の事実を「経験則」に照らして矛盾なく−その意味で「合理的に」−捉えることによって「事実的意思」(と仮に呼ぶ)を確定する、という場合である。第二に、複数の事実を一つまたは複数の規範的な評価基準の篩にかけ、その間に軽重の差をつけあるいは一部の事実を切り捨てることによって、その規範的評価基準に照らして「合理的な意思」(仮に「規範的意思」という)を確定する、という場合である。もとより、およそ法解釈学における「事実」の確定は、ある規範(法)的命題を念頭におき、規範(法)的命題の適用可能性を検証するために、またその限りにおいてなされるのが基本であるから、その意味では全ての「当事者の意思」の探究は「規範的意思」の探究に他ならないとも言える。しかし、私的自治・契約自由が強調されるべき問題領域ないし紛争にかかわる「当事者の意思」の確定においては、ほかならぬ当該当事者が現実に意欲した事柄そのものが「規範」とされることから、かかる領域ないし紛争においては、そのような意味での「事実的意思」の確定が中心となる。これに対して、私的自治ないし契約自由に対する何らかの規範的コントロールが加えられるべきものとされる問題領域ないし紛争においては、当事者の「事実的意思」が当該規範的コントロールの観点からみて適合的であるときは別として、そうでなければ、諸事実を一つまたは複数の規範的な評価基準の篩にかけ、その間に軽重の差をつけあるいは一部の事実を切り捨てることによって、その規範的評価基準に照らして「合理的な意思」すなわち「規範的意思」を確定するという色彩を強く帯びることになる。ここでは、「当事者の意思」とはいうものの、その実体を直視するならば、解釈者が当事者に押しつけた「意思」に他ならず、その意味で「擬制(フィクション)」に等しい。ところで、根保証関係は、一応「契約自由」に委ねられるべき法関係とされながらも、伝統的な保証(いわゆる「機関保証」を除く)にみられる利他性・情義性・無償性等に加えて永続性・広汎性といった特徴を帯びることから、保証人の責任を「合理的な範囲」に制限すべきものとされる問題領域である。このような場合には、一応当事者の「事実的意思」が拘束的なものとされながらも、その「意思」の確定のプロセスまたは確定の後において一定の規範的評価が加えられることによって、「規範的意思」の確定との分別がしばしば曖昧になる。そして、「事実的意思」と「規範的意思」との間に著しい縣隔が生じ、もはや「当事者の意思」を根拠とすることができないと考えられる事態においては、「当事者の意思」の解釈のレベルから離脱し、何か別の法的構成、なかんずく信義則・権利濫用・公序良俗等の一般条項の援用による「当事者の意思」の部分的ないし全面的な修正・否定がなされることになる。ここでは、「規範的=合理的意思」解釈の手法と信義則等の援用手法との差はほとんど紙一重であり、相互に流動的なものとなる。
  (2)  以上のような観点から、根保証において当事者の「意思」解釈ないし「合理的意思」解釈の手法を採った前記の判例(二1参照)をみると、そこには、一応当事者の「事実的意思」が拘束的なものとされながらも、その「意思」の確定のプロセスまたは確定の後において一定の規範的評価が加えられることによって、「規範的意思」の確定との分別がしばしば曖昧になるといった事態を看取できるケースがみられる。例えば、最判平成六・一二・六(判時一五一九号七八頁)である。詳細は別稿(15)に譲るが、この判決は、信用組合取引約定から生ずる同一の債務の担保のため同一人が根抵当権を設定しかつ同時に限度額を定めずに根保証人となった事案について、「〔同一債務について同一人が同時に根保証契約と根抵当権設定契約を締結した〕事実と・・・各契約の締結及び極度額設定の経緯を併せ考えれば」、根保証の極度額を併用根抵当権の極度額と同額とし、かつ両者を非累積的なものと解するのが「合理的」であるとしたものである。しかし、この判決の「意思」解釈は、一見「事実的意思」の確定という装いを持つが、「明らかでなければ、根保証人に有利に」という規範的評価、あるいは、根保証人が主債務者の元妻で現在は単なる従業員にすぎないという事実を踏まえた「根保証人の責任を限定すべし」といった規範的評価を基礎に据えながら、その観点から諸事実の軽重を評価し、あるいはその一部をネグリジブルなものとして「規範的意思」を確定したという性格を内含させるものであった。しかも、さらに付加するならば、この規範的評価の妥当性を基礎づけるものとして、根抵当法において「設定ト同時ニ同一ノ債権ノ担保トシテ数個ノ不動産ノ上ニ根抵当権ガ設定セラレタル旨ヲ登記シタル場合」に非累積的な共同根抵当とする民法三九八条ノ一六が想起されていたと推測することも可能であった。また、根保証の「限度額」を元本極度額としてでなく債権極度額として解釈する一連の判例(二1(2)((4))参照)においても、その規範的評価の妥当性を基礎づけるものとして、根抵当権の極度額が債権極度額として固定されたこと(民法三九八条ノ三第一項)が想起されていたと推測してまず間違いがないと言えよう。
  (3)  さらに、この型に属する判例のうち被保証債務の範囲の判断にかかわる判例(二1(1)所掲)で問題となった論点に関する限りは、ほとんどすべて根抵当権においても問題となりうることであり、根保証特有の問題ではないということができ、また、両者において共通の判断基準を設定することも不可能ではないように思われる。根抵当権においても、例えば当座勘定取引におけるいわゆる過振りによる債権(当座勘定規定一一条参照)、債務者が第三者のために負担する保証債務、根抵当権設定前の既存債務などは被担保債権の範囲に含まれるかが問われているのである(16)。もっとも、根保証に特有に問題となりうることとしては、根抵当権において債権者・債務者間の「直接取引」に基づかない債権(特に譲受債権)に被担保債権資格が認められていないこととの対比で、債権者・主債務者間の「直接取引」によらない譲受債権等をも被保証債務の範囲に含める約定の効力をどのように考えるかが問われる。
3  信義則等の一般条項の援用
  前記のように(二2参照)、信義則等の一般条項を援用する型の判例には、((1))根保証人の責任額の限定ないし責任の否定に関するもの、((2))根保証人の解約権に関するもの、および、((3))本来根保証人が解約権を行使できたにもかかわらずこれを行使しなかった後に生じた債務に対する根保証人の責任(関連して債権者の通知義務等)に関するもの、がある。一般に、信義則等の一般条項を援用する手法には、個々のケースの個性とそこにおける法利害関係者の具体的な利害を総合的に考量し、それに即して−all or nothing でない−具体的に妥当な結果を導出できるメリットがあるから、右のような紛争ないし問題領域に適合的かつほとんど唯一の手法であると言うことができよう。しかし、このメリットが同時に法的判断における予測可能性を失わせるデメリットともなることも一般的に指摘されうることである。事実、右の((1))((3))の判例をみると、根保証人の責任を全面的に否定したものと逆に全面的に肯定したものを両極として、その間に根保証人の責任額を量的に限定する多様な判例が存在している。その結果、具体的な事案において根保証人の責任額をいくらにするかはほとんど裁判官の「胸先三寸」に委ねられており、客観的に予め予測することがほとんど不可能といってよい様相を呈している。ここでは、事柄の性質上、根抵当法の類推適用も問題となりえない。むしろ、これらの根保証判例が根抵当関係にどの程度援用可能かが問題とされてよいであろう。なお、((2))の根保証人の解約権および根保証債務の相続性(前記二4)に関しては、筆者は根抵当法の「確定」に関する諸規定の類推適用の可能性を検討した(17)
4  根抵当法の類推適用のあり方
  さて、根抵当法類推適用論は、もとより根抵当法をまるごと根保証に類推適用すべきだと主張するものでは決してない。まず、事柄の性質上、根抵当法の類推適用を語りえない問題領域があることは右に述べた。
  次に、類推適用に当っては、根抵当法の拠って立つポリシーに対する考慮が必要である。ここで詳しく分析する余裕はないが、根抵当法は、大づかみに言って次の三つの要請(ポリシー)の一つまたは複数の協働によって造型されたといえる。
  第一に、ある継続的関係から継続的・反復的に発生・消滅する債権を担保するものとして適合的な法的構造をもつ物的担保制度(抵当権)を確立するという信用取引上の要請、である。特定債権を担保する普通抵当権による場合には、債権が反復的に発生・消滅する毎に抵当権の設定・抹消をしなければならないという繁雑さや登録税負担の問題を生じさせることから、これを解消できる物的担保制度の形成が信用取引上の要請として求められていたのである。設定の段階における債権に対する付従性および確定前における個々の特定債権に対する付従性を否定された根抵当権の形成は、まさにこの要請に応えようとするものである(18)
  第二に、第一の要請を満たす根抵当権の形成を前提とした上で、法利害関係者間の利害を合理的に調整すること(当事者の意思の推定を含む)の必要性、である。根抵当法が、被担保債権資格を原則として債務者との直接取引に基づく債権に限定し、極度額を必定のものとし、確定期日に一定のコントロールを加え、確定事由を法定し、確定請求権、確定後の極度額減額請求権・根抵当権消滅請求権の制度を新設したことなどは、根抵当権設定者(特に物上保証人)を保護するとともに、少なくとも結果的には余剰価値に対する後順位者・目的物の第三取得者等の期待(計算可能性)を法的に保護するものとなっている(19)
  第三に、右の二つの要請を基本的に満たすことを前提とした上で、根抵当関係の技術的な合理化(法関係の単純化・簡明化)を図るという要請、である。もとよりかかる要請はあらゆる立法において留意されるべきことであるが、特殊に根抵当権に関して生じてくる問題もある。例えば、確定前の根抵当権の随伴性が否定されたことは、付従性否定(根抵当権の特質、機能)からの論理的な結果であるということもできようが、それと共に随伴性の承認による法律関係の複雑化を回避することも大きな理由になっているといえる。また、根抵当法が、確定前における転抵当以外の処分を禁止し、その代替的な手段として根抵当権の譲渡・分割譲渡・一部譲渡等の制度を新設し、さらには、共同根抵当について、担保すべき債権の範囲、債務者および極度額が同一で、かつ設定と同時に登記された場合にのみ非累積的なものとして、それ以外は全て累積的なものとしたことも、複雑な法律関係の招来を回避するというポリシーに基づくものといえる(20)
  したがって、根抵当法の根保証への類推適用を考えるに際しては、問題となる個々の論点に応じて、根抵当法の各制度(規定)ごとに、その趣旨に照らしながら具体的に吟味する必要があると言うべきである(21)
  なお、例えば根保証人保護の必要性といっても、問題となる局面や保護の必要度は、保証の具体的な類型(タイプ)、すなわち、いわゆる信用保証であるかその他の根保証であるか、根保証人が一般市民であるか銀行や信用保証協会などの金融機関であるかなどに応じてかならずしも同じではない。したがって、根抵当法の根保証への類推適用を考えるに際しては、それらの保証の具体的な類型に即して検討する必要があることはいうまでもない。旧稿に引き続き、本稿でも、さしあたりいわゆる「信用保証」としての根保証、しかもいわゆる「機関保証」でない根保証に限定して検討することとする。

(1)  根抵当法の根保証法への影響を看取できるものとしては、根抵当権と併用され、その極度額と同額を限度額とする根保証の限度額について、特約がない限り、元本のほかこれに付随して発生する利息・損害金等を含めた限度額(すなわち、債権極度額)とした最判昭和六二・七・九金融法務一一七一号三二頁、最近では、根抵当権と併用された根保証の極度額を根抵当権のそれと同じものとした最判平成六・一二・六判時一五一九号七八頁(拙稿・私法判例リマークス一九九六年(上)四三頁参照)が注目に値する。一方、根保証判例の根抵当権への影響を看取できるものとしては、「根抵当権設定当時に比し著しい事情の変更があった等正当の事由があるときは、当該根抵当権者において、右根抵当権設定契約を将来に向かって廃棄し、爾後は現在の被担保債権のみを担保する通常の抵当権とする意味における解約告知をすることができる」とする最判昭和四二・一・三一民集二一巻一号四三頁がある。これは、根保証における「特別解約権」に関する一連の判例(大判昭和七・一二・一七民集一一巻二三三四頁ほか)の影響といってよいであろう。
(2)  中井美雄教授も、近著(中井美雄・債権総論講義二四二頁)において、次のように指摘しておられる。「・・・身元保証法にいう保証人の責任
制限法理にその拠り所を求める見解もありえたと思われる。根抵当法が整備されるのは昭和四六年である。担保制度としては、両者は共通のものであるが、一方は、担保物権として民法上規定され、他方は、保証契約として登場してくるものを共通の担保制度として、共通の法理でもって括れるかは、検討を要するように思われる。根保証には、保証期間の定めがないもの、極度額の定めのないものもありうるかと思われるが、根保証制度のあり方にもかかわってくるように思われる。」
(3)  西村信雄・注釈民法(17)一六三頁、石田喜久夫「銀行取引と保証契約」銀行取引法講座(下)四九〇頁など。
(4)  本文二3所掲の判例に見られるように、主債務者が零細な小売店等である継続的商品売買契約等につき、特に限度額の定めも保証期間の定めもない保証がなされた場合には、当事者の意識においても根保証は身元保証の色彩を強く帯び、両者が分別しがたいものとなるであろうことは容易に推測でき、それだけに身元保証法の類推適用が主張される傾向をもつことも理解できよう。
(5)  西村信雄・注釈民法(11)六三頁。
(6)  大西武士・銀行取引法ノート三九三−四頁参照。
(7)  拙稿・前掲一注(2)二〇二頁。
(8)  拙稿・前掲一注(2)一八九頁以下。
(9)  西村博士は、「継続的保証」について、「保証人は、保証契約は存続する間その全期間を通じて継続的に抽象的な基本的保証責任を負担し、契約所定の事由の発生する毎に、右の基本的保証責任から湧出する具体的個別的保証債務を負担する」ものとして捉え、身元保証をこの「継続的保証の代表的・典型的なもの」として捉えておられる(西村信雄・継続的保証の研究八一頁、同はしがき二頁)。
(10)  最判昭和四八・三・一金商判三五八号二頁(前掲二2(1))。
(11)  信義則(民法一条二項)と権利濫用法理(同条三項)の適用領域をどのように捉えるかについては、周知のように見解の対立がある(学説・判例の状況については菅野耕毅「権利濫用論」星野英一編・民法講座1八〇頁以下参照)。
(12)  後藤勇「継続的保証における保証責任の限度−最近の裁判例を中心として−」判タ四四五号一六−一七頁。
(13)  西村信雄・身元保証ニ関スル法律一五頁以下。
(14)  拙稿・私法判例リマークス一九九六年(上)四三頁。
(15)  拙稿・前掲注(14)。
(16)  中馬義直「根抵当権の設定と被担保債権」加藤一郎=林良平監修・担保法大系第二巻二一頁、一一頁以下参照。なお、後述する。
(17)  拙稿・前掲一注(3)。
(18)  貞家克己=清水湛・新根抵当法一七頁以下。
(19)  貞家=清水・前掲・注(18)同所。
(20)  鈴木禄弥・新版根抵当法概説四七六頁以下。
(21)  例えば、根抵当権と併用して包括根保証が設定された場合の根保証の極度額を併用根抵当権の極度額と同額とし、かつ両者を非累積的なものとした最判平成六・一二・六判時一五一九号七八頁(判タ八七二号一七四頁、金判九六四号一四頁、金法一四一四号二八頁)について、根保証に根抵当法の考え方(民法三九八ノ一六、同三九八条ノ一八)を採り入れて、明示の特約がない限り累積式になるとする見解(石井真司・判タ八八四号五一頁)があるが、私見は反対である。拙稿・前掲注(14)四四頁。


四  根保証における被保証債務の範囲−若干の前提問題

1  根担保における「債務」と「責任」
  (1)  周知のように、根抵当法は、民法三九八条ノ二で根抵当権の被担保債権となりうる資格(被担保債権資格)を原則として債務者との特定の継続的取引契約ないし債務者との一定の種類の取引によって生ずる債権に限って認め、それ以外の債権については例外的に特定の原因に基づいて継続的に生ずる債権と手形・小切手上の請求権にだけ認めることとし、しかも被担保債権の具体的な範囲を決定する基準(いわゆる被担保債権決定基準)を根抵当権設定の際に「定める」べきこととしている。と同時に、根抵当法は、このような被担保債権自体に対する厳格なコントロールに加えて「確定」の制度を導入し、確定前に発生する個々の債権に対する根抵当権の付従性・随伴性を否定し、確定した被担保債権に対する根抵当権の「責任」の範囲、つまり極度額の定めを必須の約定・登記事項とした。その結果、根抵当権においては「債務」と「責任」が終始明確に分別されて現れる構造となっている。
  一方、根保証においては、従来そもそも根保証によって担保されうる主債務の適格性(かりに「被保証債務資格」とよぶ)といった問題はほとんど問われることがなく、また、根抵当の場合と異なって「担保価値の合理的な利用を図るという金融政策上の要請が存在しない」から被保証債務の範囲を確定する基準は根抵当権の場合よりも「緩やか(1)」でよく、限度(極度)額を定めない根保証も許されるとされてきた(もっとも、その「緩やか」さの許容限度については、具体的な説示はほとんどなされていない)。そして、その上で、根保証人の「責任」が不当に過重となる弊害を除去するため、各場合に即して合理的な制限を加える必要があると解されてきている。そこでは、「確定」の観念も明確な位置づけを与えられておらず、根保証も保証の一種であるから主債務に対する付従性・随伴性をもち、具体的な被保証債務の範囲がすなわち根保証人の「責任」の範囲でもあるとする観念が強く支配してきたと言ってよい。その結果、「債務」(被保証債務)の範囲の限定の問題と「責任」の限定の問題とは明確に分別されず、両者がいわば「込み」で扱われることも少なくなかったように思われる。
  しかし、その中にあって、被保証債務の範囲・限定の問題と「責任」の範囲・限定とを明確に分別して捉える判例も存する。継続的商取引に基づく売買代金債務を連帯保証したXA両名に対して、身元保証法五条の規定を類推適用して、主債務者の負担する四二〇万円余の代金債務のうち、それぞれ五〇万円の限度において責任を負わせるのが相当であると判示した判決(前訴判決という)がなされ、これに基づいてAが五〇万円を弁済したところ、Xが、連帯保証人は互いに分別の利益を有しないこと、一方の債務の消滅は他方の債務の消滅をきたすことなどを理由に、債務不存在確認を求めたため、右の前訴判決の意味が問題となった事案で、最高裁の一判決は、「前訴判決は、XAの連帯保証人としての責任を緩和し、金額的な有限責任を定める趣旨において、右両名の責任の額をそれぞれ金五〇万円の限度に制限したものであって、保証債務自体の額を縮減したものではないと解するのが相当であるから、Aが前訴判決所定の責任額につき債務の弁済を完了したとしても、主債務がなお残存しているかぎり、Aの弁済によってXの責任額につき保証債務消滅の効力を生ずるものではない」と判示した(2)。ここでは、前訴判決の主文の意味の解釈が問題となっており、また、被保証債務の「確定」後の「債務」と「責任」に関するものであるので、直ちにこれを一般化できるかの疑問もないわけではないが、いずれにせよ、根保証における「債務」と「責任」(金額的な有限責任)の分別が明確にされていると言える。
  (2)  ところで、一般に「債権」概念の確定にとっての「債務」と「責任」の関連や両概念を区別する法解釈学上の効用などについては、学説上必ずしも一致していないことは周知のとおりである(3)が、その中で、つとに於保教授は、両概念を分別する立場から、「担保の共通的法律構成をするためには、債務と責任との観念を分けておく必要がある」と指摘され、「根担保の問題」の参照を指示されている(4)。もっとも、教授はこの点を具体的に展開されていないが、根抵当権における「極度額」が被担保債権に対する設定者の「責任」限度を示すのと同様の意味において、根保証における「極度(限度)額)」は被保証債務に対する根保証人の「責任」限度を意味するものとして明確に捉え、被保証債務の範囲の問題と「保証極度(限度)額)」の問題とを明確に分別して捉えておくことが、根保証と根抵当権とを「根担保」として統一的に把握する上で肝要であろうと思われる。しかし、この点を一層明確にさせるためには、改めて根保証の法的構造を再確認しておく必要がある。もしこれを、「保証人は、保証契約が存続する間その全期間を通じて継続的に抽象的な基本的保証責任を負担し、契約所定の事由の発生する毎に、右の基本的保証責任から湧出する具体的個別的保証債務を負担する」ものとして捉えるときは、「具体的個別的保証債務」の限定は同時に根保証人の「責任」の限定であり、逆に、根保証人の「責任」の限定は同時に「具体的個別的保証債務」の限定となると捉えられ、「債務」と「責任」とは明確に分離した形では現れてこないことになろう。しかし、根保証の法的構造を「継続的関係から生ずべき不特定の債権を、将来の一定の時期(清算ないし『確定』期)において担保する保証、つまり、被保証債務の『確定』前においては保証債務は主債務の発生・消滅に付従せず、主債務の入れ替わり可能性が認められ、したがっていわゆる具体的・支分的保証債務は問題とならない保証」として捉えるときは、個々の被保証債務の発生と「確定」によって具体化する根保証人の「責任」とが明確に分離された形で現れることになる。つまり、根保証に関する後者のような把握の下においてはじめて、根保証と根抵当権は、「債務」と「責任」の関連構造においてもその共通性が指摘されうることになるのである。
  もっとも、保証人は債務とともに責任を負い、物上保証人たる根抵当権設定者は「債務なき責任」のみを負うという基本的な理解に立つならば(5)、この違いは、具体的には「確定」段階における説明の違いとして一応現れる。すなわち、根保証が確定したときは、根保証人はその確定した保証債務とともにそれに対する無限責任ないし有限責任(なかんずく金額的有限責任)を負うと捉えられるが、根抵当権においては、設定者は、確定した被担保債権について「債務なき責任(物的有限責任)」を負うにすぎないと説明されることになる。

2  根保証人の「責任」限定の仕方
  (1)  根保証人が負うべき「責任」を特定・限定する主要なファクターとしては、((1))被保証債務の種類(その発生原因、主債務者の範囲を含む)、((2))保証極度(限度)額、((3))保証期間(被保証債務が発生する期間基準)がある。このうち、銀行取引実務は、((1))について特定の種類の継続的取引(手形割引・支払承諾・当座貸越など)の定めがあるものを取引別根保証、((2))について一定の保証極度(限度)額の定めがあるものを限度根保証(または極度額根保証)、((3))について保証期間の定めがあるものを期限付根保証と呼び、これらを総称して限定根保証と呼んでいる。これらの限定ファクターの組み合わせ方によって種々の形態の限定根保証が設定されうる。これに対して、「包括根保証」は、((1))について、例えば銀行取引約定書の保証条項のように、主債務者が所定の取引によって債権者に対し負担する「いっさいの債務」を保証するものとする根保証を指す場合と、(((1))に加えて)((2))の保証極度額および((3))の保証期間の定めがないものを指す場合とがあるようであり(6)、被担保債権の範囲を特定していない場合にのみ用いられる「包括根抵当」とでは「包括」の意味が異なっている。なお、右の銀行取引約定書第一条に定める取引による「いっさいの債務」には、「手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾、外国為替その他いっさいの取引」(第一項)による債務と、「〔主債務者が〕振出、裏書、引受、参加引受または保証した手形を〔債権者たる銀行が〕第三者との取引によって取得したとき」のその債務(第二項)が含まれている。
  (2)  ところで、右の事態を根抵当権の場合と対比してみると次のようになる。
  まず、極度(限度)額の定めは、根抵当法では必須のものである(民法三九八条ノ二)のに対して、根保証では任意的なもの(契約自由)とされており、決定的な相違となっている。もっとも、銀行取引の実際においては、右の保証条項は「(主債務者である)会社の代表取締役、経理担当取締役等、被保証債務の増減変動について常に熟知しうる者の保証について利用すべきである。右の者以外の保証については、できれば別札の保証書に保証期間および保証限度額を定めて保証させるか、個別の取引ごとまたは貸付ごとに個々に保証させるべきである」とされ(7)、また、実務では「漸次、従来の根保証といえば包括根保証という態度を改め、近時はむしろ限定根保証が原則、例外的に包括根保証とする道を選択してきた」という指摘(8)があり、実務が全体としてこのように推移してきているとすれば、右の差異は実際には縮小してきていると言えるかもしれない。しかし、最近の調査をみると、事態は必ずしもそのようには推移してきていないようである(9)。したがって、この点では、実際上も根抵当権と根保証との間に大きな相違が存することになる。ちなみに、この根保証人の「責任」限定をめぐる判例法理を根抵当法においてどのように受け止めうるかも今後問われてよいのではないかと思われる。
  次に、保証期間の定めについては、根抵当でも「確定期日」の定めは任意のこととされており(三九八条ノ六第一項)、その限りでは両者に決定的な相違はないといえる。もっとも、保証期間(確定期日)の定めがないときは、根保証では普通解約権・特別解約権の問題とされるのに対して、根抵当では「確定請求権」(三九八条ノ一九など)および「確定事由」が法定されていること(三九八条ノ二〇など)、また、根保証の保証期間には法律上の制約がなく、契約自由に委ねられているのに対して、根抵当権の確定期日については最長期間が法定されていること(三九八条ノ六第三項)などの違いはある。しかし、筆者は後者の前者への類推適用の可能性−根保証における「確定」、確定請求権、確定事由等−についてすでに検討した(10)。もしこの試みが是認されるならば、右の相違もかなり解消されることになる。
  問題は、被保証債務の種類(発生原因等)の定め方である。項を改めて検討する。
3  「包括根保証」について
  (1)  まず、前記のように、根抵当権の被担保債権資格が原則として「直接取引」から生ずる債権に限定されたことについては、根抵当権は、本来、取引から生ずる債権を担保するための制度であり、旧法下のいわゆる包括根抵当も、当事者の意思を合理的に解釈すれば、けっして文言通りの純粋包括根抵当ではなく、せいぜい、いっさいの取引債権を担保する取引包括根抵当であるにすぎなかったという事情も、その背景になっていたとされるが、根保証においても、すでに指摘されているとおり、実際上は被保証債務の範囲は何らかの「取引」に基づく債務に限定されているのが通例であり、この点に関する限り根抵当権の場合とあまり差異がないことが指摘されなければならない。根保証では、一般論として例えば「債権者Xと主たる債務者Aとの間のいっさいの債務について保証する」といった定め方(純粋包括根保証)も認められるとされてはいる(11)。しかし、根保証に関する過去の裁判例をみるかぎり、このような定め方をしているケースは、「包括根保証」の効力が正面から問われた裁判例においても皆無である。例えば「包括根保証」の効力を認めた判例としてしばしば引用される大判大正一四・一〇・二八(民集四巻六五六頁)は、被保証債務の種類は「主債務者A株式会社が振出し、X銀行が割り引いた為替手形もしくは約束手形に基づいてA会社がX銀行に対して負担する債務」に限定され、ただその成立時期と限度額が定められていなかったケースに関するものである。また、最判昭和三三・六・一九(民集一二巻一〇号一五六二頁)も、手形取引約定書に基づく現在および将来の継続的な取引の根保証に関するものであり、これをさらに保証した者が、主債務に発生時期および限度額の定めがないから無効だと主張したものである。その他、根保証に関する判例のケースはすべて、被保証債務の範囲が、特定商品の継続的売買取引(12)、継続的運送契約(13)、手形取引・当座貸越契約(14)などの具体的な信用取引契約のほか、銀行取引(15)、相互銀行取引(16)、信用組合取引(17)、信用金庫取引(18)、その他(19)によって特定されているケースである。要するに、実際に使われているほとんどの根保証は、その被保証債務が根抵当権の場合と同様「取引債務」に限られている根保証である。
  (2)  しかし、根保証における右のような定めが、債権者と主債務者との「直接取引」によって生ずる債務だけでなく、債権者が第三者との取引を通じて取得した債権(譲受債権)等をも一般的に包含すると解されるときは、根抵当権の被担保債権の範囲と明らかに異なってくる。例えば銀行取引約定書の保証条項における被保証債務の定めは、前記のように「第一条に規定する取引によって負担するいっさいの債務」とされ、第一条では「手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾、外国為替その他いっさいの取引」(第一項)による債務と、取引先(=主債務者)が「振出、裏書、引受、参加引受または保証した手形」を銀行が「第三者との取引によって取得したとき」のその債務(第二項)とが定められており、しかもこの後者にはいわゆる回り手形以外の第三者から取得した債務(転得した指名債権など)は含まれないと解されている(20)から、結局、根抵当権の被担保債権資格が認められる債権の範囲とほぼ重なり合う。しかし、一般に、当該約定に基づく被保証債務の範囲が主債務者との直接取引によらない債権をも含む趣旨である場合には、根抵当法において被担保債権資格が否定されている債権をも保証するものとなり、その効力が問題となりうるわけである。
  (3)  このようにみてくると、「包括根保証」の効力として問題とすべきは、実際上は、次の二点となろう。((1))保証極度(限度)額の定めのない根保証の効力の問題、((2))被保証債務の範囲に主債務者との「直接取引」によらない債務をも含む根保証の効力の問題、である。なお、期間の定めのない根保証については、前記のとおり、従来「解約権」の問題として扱われてきている問題を、基本的にむしろ「確定」の問題として捉えなおし、根抵当権の「確定」に関する規定の類推を通じて整序していくことが適切であると思われる。
  いずれにしても、被保証債務を「取引債務」に限定しない「純粋包括根保証」−例えば「X銀行に対して主債務者Aが負担するいっさいの債務」の保証−を丸ごと有効だとする必要はなく、かかる根保証はただ「取引包括根保証」の限度で有効となりうるだけであると解しても、実際の根保証取引にマイナスの影響を与えることはまずないと思われる。そもそも、根保証であれ根抵当権であれ、およそ「根担保」が実際に形成され機能する現実的な基礎は、当該の社会関係から継続的・反復的に債権債務が発生・消滅する可能性をもつ「継続的(取引)関係」の存在またはかかる「継続的関係」を設定しようとする社会関係の存在、にあり、かかる継続的関係から継起的に発生・消滅を繰り返す債権を担保する形態として成立する(21)ものであるから、かかる「継続的(取引)関係」を何ら前提・特定せずに、例えば「AがYに対して負担する一切の債務を保証する」などと漫然と合意することは通常ありえないし、仮にかかる合意がなされたとしても、これを法的に有意味なものとして評価すべき必要はないというべきであろう。

(1)  我妻栄・新訂債権総論四七〇頁。
(2)  最判昭和六〇・一一・六(金融法務七七七号二七頁)。
(3)  さしあたり、中井美雄・債権総論講義一八頁以下参照。
(4)  於保不二雄・債権総論〔新版〕七九頁注(九)。
(5)  この点については鈴木禄弥教授が近年「物上債務」論を提唱されている(鈴木禄弥「物上債務論」法学四七巻三号)ところであるが、その評価については山野目章夫「物上債務論覚書(上・中・下)」亜細亜法学二三巻一−二号、同二四巻二号参照。
(6)  例えば堀内仁=石井真司=岡崎次郎監修・保証取引の実務四〇頁以下。
(7)  全銀協法規小委員会編・新銀行取引約定書ひな型の解説二〇八頁。
(8)  石井真司「根保証の法律構成の再検討(その一)」手形研究二八六号五頁。
(9)  金融機関シンポジウム大会「金融法務部会」が都市銀行および地方銀行等の全行、信託銀行七行、信用金庫一〇〇庫を対象に行ったアンケート調査(回答数一五八、回収率六三・二%)によれば、期間も限度額も定めない「包括根保証」を利用することは「ない」とするのは三〇・六%であり、「稀にある」が二四・八%、「しばしばある」が四二・七%となっている。しかも、「包括根保証」が利用される事例について「原則として、すべての保証」が五・七%、「貸出先の基本取引約定書(たとえば、銀行取引約定書)上の保証」が四八・一%となっている(金融法務一四二三号二二頁)。なお、上野隆司=石井真司=秦光昭=菅原胞治「『担保・保証』『管理・回収』をめぐる実務慣行と問題点」金融法務一四二三号一〇頁以下参照。
(10)  拙稿・前掲一注(3)。
(11)  我妻・前掲注(1)四七〇頁、前田達明・口述債権総論三五一頁以下。
(12)  最判昭和三七・一一・九民集一六巻一一号二二七〇頁(肥料販売)、最判昭和三九・一二・一八民集一八巻一〇号二一七九頁、最判昭和四六・七・一金融商事判例二八一号七頁(牛乳販売)、最判昭和五〇・一一・六金融商事判例四九二号七頁等。
(13)  大判大正一四・五・三〇法律新聞二四五九号四頁。
(14)  大判大正一四・一〇・二八民集四巻六五六頁、大判大正一五・一二・二民集五巻七六九頁など。
(15)  最判昭和四三・六・二一金融商事判例一一六号二頁、最判昭和五九・一一・一六金法一〇八八号八〇頁など。
(16)  最判昭和三九・四・一七判時三七六号二五頁など。
(17)  最判昭和四一・六・一六金融商事判例一八号四頁など。
(18)  最判昭和四八・三・一金融商事判例三五八号二頁、最判昭和六〇・七・一六金法一一〇三号四七頁、最判昭和六二・七・九金法一一七一号三二頁など。
(19)  労働協約に基づいて生ずる債務の保証に関する東京地判昭和五三・二・一六判タ三六九号三四四頁、一〇万円を限度とする将来の借入債務および相互銀行との無尽契約によって負担することのあるべき損害賠償その他の債務の保証に関する福岡高判昭和二九・一〇・八下民集五巻一〇号九三頁。
(20)  全銀協法規小委員会編・前掲注(7)五三頁、新版注釈民法(17)二九七頁(中馬義直執筆)。
(21)  拙稿・一注(2)一四七頁以下。


五  根保証における被保証債務の範囲−具体的な検討

1  範囲確定のための三つの準則
  根抵当法は、根抵当権の被担保債権資格を原則として根抵当権者と債務者との直接取引によって生じたものに限定するとともに、例外として「特定ノ原因ニ基キ債務者トノ間ニ継続シテ生ズル債権」および「手形上若クハ小切手上ノ請求権」についても被担保債権資格を認める。そこで、根保証の被保証債務の範囲についてもこれと同様に捉えられるかが問題となるが、この根抵当法の規律を根保証に類推適用しても「格別問題は生じないであろう」とする見解(1)やそれが「合理的である」とする見解(2)がすでに存在している。筆者も基本的にはこの方向が追求されるべきであると考える。ただ、根抵当の規定をそのまま根保証に(類推)適用するだけではやや問題があるように思われる。
  (1)  まず、根抵当法が被担保債権資格を右のように限定した理由について確認しておくと、「いたずらに広い範囲の債権を担保する根抵当権を認めると、根抵当権者の地位は強大になりすぎ、抵当不動産所有者や後順位権利者が圧迫されるおそれがある」という一般的理由とともに、これに加えて、根抵当権は、本来、取引から生ずる債権を担保するための制度であり、旧法下のいわゆる包括根抵当も、当事者の意思を合理的に解釈すれば、けっして文言通りの純粋包括根抵当ではなく、せいぜい、いっさいの取引債権を担保する取引包括根抵当であるにすぎなかったという事情も、その背景になっていたとされる(3)。もっとも、根抵当権設定者や後順位担保権者等との利益調整(根抵当権の圧迫からの保護)は、極度額の設定による「担保枠」の確定と公示によってなされるのが原則であるから、右のようなコントロールは、根抵当権の付従性の緩和に伴い、被担保債権たる資格を根抵当権設定者と根抵当権者間で予測できる債権に限り、偶然的なもので当事者間で予測もつかない債権にはこの資格を認めない−債権とその担保という論理的な結合関係を確保する−趣旨のものであるとする見解もある(4)。「取引上何のためにその根抵当権を使うのかという当事者の意図するところはあらかじめ存在していたはずであるから、それ以上偶発的なものまで負担させる必要はないのではないかという考え方による」という説明も、これと同様であろう(5)。しかし、当事者の予測や意図を越えて発生する債権を被担保債権から排除するという趣旨が右の根抵当法の規律の基礎にあることは明らかであるが、このことだけから直ちにその種の債権の被担保債権資格を一般的に剥奪する法的処理を根拠づけることは困難ではないかと思われる。やはり、根抵当権に付従性がなく、「不特定の債権」を担保するものとして設定者を圧迫する可能性をもつことを考慮し、この圧迫から設定者を保護することや第三者にとっての明確性を確保する(登記実務の混乱の回避を含む)という政策的配慮を抜きにしては十分な説明はできないと思われる。いずれにしても、右のような被担保債権に対する二重のコントロールが、根抵当権設定者や後順位担保権者等の保護ないし計算可能性の強化に寄与する結果となっていることは否定できないであろう。
  (2)  さて、このように、根抵当法の被担保債権に関する規律は、根抵当権の付従性の緩和に伴い、被担保債権たる資格を有する債権を根抵当当事者の予測・意図の及ぶ範囲に限り、偶然的なもので当事者間で予測もつかない債権にはこの資格を認めないという考え方を基礎とするものであるが、この点に関するかぎりは根保証の被保証債務の範囲に関しても同様に考えるべきであろう。すでに被保証債務の範囲をめぐる意思(契約)解釈に関しても、「保証人が覚悟していたか、覚悟するのが相当であり、債権者も期待するのが相当である範囲に限定される」といった基準が主張されているところである(6)。したがって、偶発的に発生するかもしれない「非取引債務」をも一般的に被保証債務の範囲に含める保証契約は、その限度で無効と解すべきである。もっとも、根抵当法は被担保債権資格を強行法的に限定するという形で当事者の「予測・意図」を客観化し、固定化している。これは、当事者の予測・意図の「推定」といったレベルを越えて、根抵当権の過当な圧迫からの設定者の保護と第三者の計算可能性の保護という強い政策的な配慮に基づくものと考えるべきであることは既述のとおりである。これに対して、根保証は基本的に契約自由の原則に従うものであるから、偶発的な「非取引債権」について一般的に被保証債務資格を奪うことは行き過ぎではないかとの疑問もありえよう。しかし、すでに見たように、実際に用いられている根保証は「取引債務」に関するものであり、偶発的な「非取引債務」の被保証債務資格を一般的に否定しても影響はないであろう。のみならず、偶発的な「非取引債務」でも何でも「一切の債務」を担保するといった約定は、もし債権者と保証人が実質的に対等な当事者であるならば合意されないはずのものであり、かかる約定がなされるのは、通常、当事者間の実質的な不対等性を背景として、債権者側としては、およそ主債務者に対して取得することのあるべき「一切の債権」について担保があるほうが安心であるといった漠然とした理由から、また、保証人側としてはこれを承諾しない限り取引に応じてくれないからやむを得ず承諾するといった事情によるものといって間違いなく、かかる合意を形式的な「契約自由」の名においてそのまま正当化することは許されないというべきである。さらに、根保証制度を社会的に容認されうる適性な担保制度として維持しようとする見地からすれば、かかる合意を容認することは、いわば根保証制度の「自殺行為」といってもよいであろう。
  (3)  次に、根抵当法は、根抵当権の被担保債権資格を原則として「直接取引債権」に限定するとともに、手形・小切手上の債権等に被担保債権資格を認めること(民法三九八条ノ二第三項)によってこれを「実質的には骨抜き」にしていること(7)を、根保証の側でどのように受け止めるべきか、である。既述のように、この根抵当法の趣旨は、被担保債権資格を「直接取引債権」に限定することによって、第三者の債務者に対する債権を根抵当権者が大量に譲り受けることによって設定者の予期・予測しない債権を大量に根抵当権によって担保させるという事態の発生を強行法的に排除することを基本としつつも、「根抵当権者が手形や小切手を取得する直接の相手方である第三者は、債務者の下請業者であるとか重要な取引先であるとかいうように、債務者との間に密接な経済的な関係があるのが通常であり、このような第三者が債務者から取得した手形等を、根抵当権者が割引等によって取得し、その手形上の債権を根抵当権の被担保債権とすることは、債務者および当該第三者の利益に合致する」−その限りで実質的な合理性が存在する−という考慮から、直接取引によらない回り手形・小切手上の債権にも、民法三九八条ノ三第二項を導入することを条件として被担保債権資格を付与したものである。
  ところで、これらの趣旨を根保証においてみると、次のように言うことができよう。
  まず、被保証債務に「直接取引」によらない債務をも含めることが可能だとすると、やはり第三者の主債務者に対する債権を債権者が譲受等によって取得し、根保証人の予期・予測できない債務についてまで保証責任を追及するという事態が生じうることは明らかである。しかも、このことは、根保証においては極度額を定めないことも許されるため、極度額の定めを必須のものとする根抵当権の場合以上に根保証人を圧迫する事態を生むであろう。極論するならば、主債務者の取引活動の中で生じた全ての債務がまわり回って当該根保証の被保証債務となり、あたかも根保証人が主債務者の取引活動全体について保証したかのような結果さえ生じうるのである。したがって、根抵当法のあり方を正当なものとして是認するならば、根保証においても少なくともこれと同様の−否、それ以上に厳しい−取り扱いがなされてしかるべきであろう。もっとも、契約自由の原則に服する根保証では、根保証人が直接取引外の債務をも保証する旨を同意するならばかまわないではないかとの反論もありえよう。しかし、このような形式的な議論をするならば、根抵当権の場合には極度額による責任の限定があり、設定者も後順位権者等の第三者も極度額までの負担を覚悟すれば済むのであるから、根保証の場合以上にこれが許されてよいということにもなろう。議論は全く逆転してしまうのである。
  とはいえ、契約自由の原則の上に立つことを基本とする根保証において、「直接取引」によらない債務の被保証債務資格を一般的に否定できるかという疑問も否定しがたいところである。また、回り手形等の債権に被担保債権資格が承認された右のような理由も否定しがたいところであり、「直接取引」によらない債務から一般的・画一的に被保証債務資格を奪うことは妥当でないということもできる。
  (3)  このような考慮から、根抵当権における被担保債権に関する規律を踏まえながら、根保証の被保証債務の範囲(の解釈)については次の三つの準則に即して処理することが適切かつ妥当ではないかと考える。
  第一準則−いかなる意味でも「取引による債務」と言いえない債務については、被保証債務資格がないものとすべきである(かかる債務をも被保証債務に含める合意は、その限りで無効)。
  第二準則−「取引債務」ではあるが、債権者・主債務者間の「直接取引」に基づかない債務を被保証債務に含ませる当事者の合意は、これを合理的なものとする特段の事情がある場合に限り効力が認められるとすべきである。そして、その「特段の事情」があると言いうるためには、例えば根保証人が主債務者(会社)の取締役であるなど、主債務者が手形振出等によって負担する債務を確知できる立場にあり、被保証債務の範囲について予期・予測できる事情があるなど、債権者が当該債権を取得した経過、債権者・主債務者およびこれと取引した第三者並びに根保証人の関係等からみて、当該債務が被保証債務の範囲に含まれうることを根保証人が予期・予測しえた事情があることが必要であると考えたい。
  第三準則−債権者・主債務者間の「直接取引」に基づく債務は、当事者の合意に基づいて被保証債務の範囲に含めることができる。この点について解釈上疑義が生じた場合には、「意思(契約)」解釈ないし「約款」解釈の問題となる。もっとも、被保証債務の範囲を定める約定(「銀行取引による債務」といった)の解釈が根抵当権の場合と全く同様でよいかについては問題がある。
  以下、これらの準則について、より具体的に検討しよう。
2  被保証債務資格を有しない債務(第一準則)
  (1)  まず、例えばたまたま主債務者が自動車を債権者の建物に衝突させて損害を与えた場合など、偶発的な不法行為によって生じた損害賠償債務は被保証債務資格を有しないと解してよい(8)。もっとも、取引(契約)から将来発生する債務に加えて既発生の不法行為による損害賠償債務をも被保証債務の範囲に加える場合、当該損害賠償債務につき当事者で準消費貸借契約ないし更改がなされているのが通例であるから、その場合には当該損害賠償債務は「取引上の債務」と言ってよい。
  (2)  当該取引(契約)の債務不履行による損害賠償義務・契約解除による原状回復義務については、普通保証においても問題となるところである(9)が、「当該取引(契約)から通常生ずべき債務」として、取引上の債務に含めてよいであろう。
  (3)  これに対して、契約の無効・取消による主債務者の不当利得返還義務は、いわゆる「給付利得返還義務」であるから疑問もあろうが、そもそも主債務が成立しない場合であるから、債務不履行による損害賠償義務・契約解除による原状回復義務とは異なり、被保証債務資格を有しないと解しておきたい(10)
  (4)  債権者の偶発的な事務管理によって主債務者に生じた債務、例えば債権者がたまたま主債務者の家屋を事務管理として修繕したことによる費用償還請求権なども、「取引上の債務」ということができないから被保証債務資格は認められないと解すべきであろう。なお、当座勘定取引契約上の債務を保証した場合、銀行が任意に行った当座過振りによる債務が被保証債務に含まれるかについて、過振りの支払は事務管理であるから銀行取引約定書一条の「取引によって生じた債務」といえないとする見解もあるが、過振りの支払は当座勘定取引という取引関係の存在を基礎として一時的・変則的に行われる貸付形態であり、手形決裁資金を貸し付けて当座勘定に入金して支払資金とするかわりに、一時的な立替えを行うものであるから、それによる返済債務は他の貸出方法による債務と同様に扱ってよいと考えられる(11)。また、根抵当権の被担保債権資格を認められている「特定ノ原因ニ基キ債務者トノ間ニ継続シテ生ズル債権」(民法三九八ノ二第三項)については、これに被保証債務資格を認めることにどれほどの意義があり、また実際に機能しうるかはともあれ、被保証債務資格が認められてよいと思われる。
3  取引債務ではあるが、直接取引によるものでない債務(第二準則)
  (1)  まず、回り手形・小切手上の債務については、特約がない限り被保証債務の範囲に含まれないと解する見解があり(12)、現行銀行取引約定書一条二項、同保証条項のように、回り手形上の債務をも保証する旨の条項が根保証契約に入っていれば、当然被保証債務に入ると解するのが通説であろう(13)。しかし、特約がありさえすればつねに被保証債務に含まれると解してよいかも問われるべきでないかと思われる。
  前記のように、回り手形・小切手上の債権に根抵当権の被担保債権資格を与えることについては立法過程でかなりの論争があり、その結果、これを肯定した(民法三九八条ノ二第三項)上で民法三九八条ノ三第二項を設けた経過がある。そして、同項の趣旨は、「単に後順位の抵当権者その他一般債権者の予測しない手形債権が根抵当権によって担保されることを排除するというばかりでなく、根抵当権設定者あるいは債務者の予測しない手形債権が大量に根抵当権によって担保されることを排除する」ことにあり(14)、信義則ないし権利濫用法理の一具体化にほかならないと言ってよいであろう(なお、同項に該当する債権は、被担保債権資格を与えられないと解するのが通説である)。したがって、少なくとも同項の趣旨は根保証にも及ぼされてよいであろう(15)
  問題は、これらの「駆け込み」的なものでなければ、回り手形・小切手上の債務を常に被保証債務に含めてよいか、である。これを無制約に認めるならば、根抵当立法当時すでに問題とされたのと同様の事態、すなわち、債権者が他から手形・小切手をかき集めてきて根保証人に保証責任を追求するといった事態の発生を−部分的には民法三九八条ノ三第二項によってチェックされるとはいえ−阻止しえないこととなる。例えば、債権者Aと根保証債務者Bとの間の保証条項で、「主債務者Cが振出、裏書、引受、参加引受または保証した手形を、Aが第三者との取引によって取得されたときも、その債務の履行について保証する」旨を定めておきさえすれば、例えばCが無担保無保証で第三者に手形を振出し、第三者もそのことを十分了承しながら手形を受け取った場合でも、その第三者がAに持ち込めば、保証のある手形としての扱いになるという事態(16)も認めざるをえないことになろう。そもそも、回り手形・小切手上の債権に根抵当権の被担保債権資格が付与された理由は、前記のように、「根抵当権者が手形や小切手を取得する直接の相手方である第三者は、債務者の下請業者であるとか重要な取引先であるとかいうように、債務者との間に密接な経済的な関係があるのが通常であり、このような第三者が債務者から取得した手形等を根抵当権者が割引等によって取得し、その手形上の債権を根抵当権の被担保債権とすることは、債務者および当該第三者の利益に合致する」という考慮にあったことが想起されてよいのではあるまいか。回り手形等上の債権に対する被担保債権資格の付与は、このことが常に合理性をもつからではなく、根抵当権者が手形等を取得した第三者と債務者との関係等いかんによって、当該手形等上の債権を被担保債権とすることが「債務者および当該第三者の利益に合致する」場合があるからに他ならないのである。したがって、回り手形等上の債務を被保証債務の範囲に含める条項をもつ根保証についても、前記のような「特段の事情」の有無が問われるべきであって、特約があるからと言って、回り手形等上の債権をすべて保証債権に漫然と含めるべきではないと思われる。
  この点で、根抵当法制定前の判例ではあるが、乙会社の代表取締役A・取締役Bが乙会社の「振出・引受・裏書・保証した手形で甲銀行が現在並びに将来取得されたものに対して連帯(根)保証する」旨を定めた手形取引約定書の効力が問題となったケースで、右約定は「原審の確定した事実関係の下においては、右連帯保証契約が公序良俗に反しないとした原審の判断は正当である」とした最高裁判決(17)は注目されてよいように思われる。この判決に対するあるコメントによれば、この「原審の確定した事実関係」とは、「A・Bは乙会社の取締役であって乙会社署名手形の金高はよくわかっている地位にあるし、取締役の地位を退いて会計経理の状況がわからなくなったときなど特別の事情がある場合は、事情変更の原則に従い保証契約を解除しうることもありうるという原審判決の説示しているところを引用する趣旨」であるとされている(18)。この理解が正しいとするならば、この事案では、主債務者と保証人が会社とその役員(取締役)の関係にあり、主債務者が振出・引受・裏書・保証した手形に関して負担する債務を常時確知できる(ないしはコントロールできる)立場にあるという事情−もし乙会社がA・Bらの同族会社であり、乙会社の債務が実質上A・Bの債務に等しいといった事情があればその事情も−が、この判決の結論を妥当なものにしているのであり、このケースは右の意味で「特段の事情」が認められたケースとみることができるように思われる(19)
  (2)  債権者の主債務者に対する譲受債権については、根抵当権の被担保債権資格を否定されていることからも、回り手形・小切手上の債権の場合以上に、右に述べたことが妥当しよう。譲受債権は特約がない限り被保証債権とならないと解すべきであるが、かかる特約がある場合であっても、これを合理的とする特段の事情の有無が問われるべきであり、これが否定されるときは、被保証債務の範囲から除外する処理が妥当であろう。民法三九八条ノ三第二項も類推適用されるべきである。
  (3)  主債務者Aが第三者Bのために負担する保証債務をも保証する旨の根保証契約を締結した場合、その被保証債務の範囲に、Bがさらに別の第三者Cのために負担する保証債務も含まれるか。
  この点は、根抵当においても激しく論議されてきたところであるが、周知のように、最近、最高裁(20)は、XとY信用金庫との間で、AとY金庫との間の「信用金庫取引により生じた債務」についてAと連帯して保証する旨の連帯根保証契約が締結され、かつ、XとY金庫との間で、その被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」とするX所有不動産に対する根抵当権設定契約が締結された場合、この根抵当権の被担保債権に、Aを主債務者とするY金庫のXに対する保証債権も含まれるかが問題となった事案について、これを肯定した。その理由としてこの判決は、「信用金庫取引とは、一般に、法定された信用金庫の業務に関する取引を意味するもので、根抵当権設定契約において合意された『信用金庫取引』の意味をこれと異なる趣旨に解すべき理由はなく、信用金庫と根抵当債務者との間の取引により生じた債権は、当該取引が信用金庫の業務に関連してされたものと認められる限り、すべて当該根抵当権によって担保されるというべきところ、信用金庫が債権者として根抵当債務者と保証契約を締結することは、信用金庫法五三条三項に規定する『当該業務に付随する・・・その他の業務』に当たるものと解され、他に、信用金庫の保証債務を根抵当権の被担保債権から除外しなければならない格別の理由も認められないからである」と判示した。この判決は、直接には「信用金庫取引」と定めた被担保債権範囲決定基準の解釈を問題としたものであり、これを信用金庫法で「法定された信用金庫の業務に関する取引」とした点については種々の疑問が提出されている(21)が、それとともに、この判決の射程の問題として、例えば事案を変えて、Y金庫のAに対する債権を担保するため物上保証人Xが根抵当権を設定し、その被担保債権の範囲に、Aが第三者BのY金庫に対して負担すべき全ての債務を包括根保証したことによる保証債務を含めたり、このAの包括根保証の被保証債務に、主債務者Bがさらに第三者CのY金庫に対する借入債務について保証した場合の保証債務を含めた場合など、二重、三重の保証・被保証の関係がある場合にまで問題を肯定する趣旨かは疑問とされる(22)。もしこれらの場合にも右判決の見解が及ぶとすれば、Xは、自分と直接関係のないいわば赤の他人の債務をも自己の設定した根抵当権で担保されることになり、Xの根抵当権の被担保債権の人的範囲が無限大に拡大し、Xの負担は耐えがたいものとなりうるからである。
  ところで、このような問題は、すでに根保証においても問題とされていた。すなわち、Xが債権者Yと極度額の定めのある連帯根保証契約を締結し、主債務者AがYに対して負担する貸金債務だけでなく、Aが第三者Bのために負担する保証債務についても連帯保証する旨を約した場合、Bがさらに第三者Cの根保証人として負担した保証債務もXの根保証の被保証債務に含まれるかが争われた事案で、「人的担保にあっては、主債務者と連帯根保証人との間の人的関係が重要であると考えられ、これを無視して実質上の主債務者の無制限な拡大を許すことは、双方当事者の合理的な意思に即しない」としつつ、AがBのために負担する保証債務が被保証債務に含まれることは「契約上明白である」が、BがCのために負担する保証債務は「明示の合意が認められない関係上」被保証債務の範囲に含まれないとした下級審判決(23)がある。結論的には正当というベきである(24)が、「明示の合意」さえあればBがCのために負担する保証債務も含まれるとしてよいかは疑問である。これを認めると、「かような契約を順次重ねることにより連帯保証人の実質上の主債務者は連鎖的に無限に拡大する可能性を含むことに論理上ならざるを得ない」という右判決も認める懸念は解消されないからである。右の場合、BがCのために負担する保証債務はもはやAとYとの直接取引に基づくものではないから、仮に「明示の合意」がある場合でも、かかる合意に至った諸事情に照らして合理的であると認められる特段の事情がないかぎり、Xが負うべき被保証債務に含まれないと解すべきである(25)。そして、その特段の事情としては、例えばA会社の債務についての根保証人XがA会社の代表取締役などであってA会社の取引を実質的に管理ないし確知でき、しかもA・B・C間に経済的に密接な関係があるなどによって、根保証人がその被保証債務の範囲を予測・予期できる立場にあるといった事情があることが要求されると言うべきであろうと思われる。
4  債権者・主債務者間の直接取引による債務(第三準則)
  この種の債務は、根抵当法において被担保債権資格が認められる中核的なものであり、これを被保証債務の範囲に含めること自体には何らの問題もない。問題は、((1))被保証債務の範囲の定め方について、根抵当権の被担保債権の定め方(被担保債権範囲決定基準)として登記実務上認められていない、例えば「商社取引」・「リース取引」といった定め方の許否、((2))被保証債務の範囲に関する特定の約定(約款)の解釈のあり方、である。前記二1(1)所掲の判例は後者の点をめぐって争われたものにほかならない。
  (1)  まず、((1))については、根抵当権の場合、被担保債権範囲の定めは、それが根抵当権設定登記に登記されることによって、第三者に被担保債権の範囲を公示することに主眼があるため、理論上も登記実務上もいかなる定めが求められるかが論議されるのに対して、根保証の場合は、ほとんど専ら根保証人が負うべき保証債務の範囲の確定のために機能するものであるから、通常の「意思(契約)」解釈によって確定可能なものであれば、何らの制約もなく、「商社取引」・「リース取引」といった定め方も許されると解するのが通説であると言ってよく、またこう解さざるをえないであろう。もっとも、例えば根保証人の預金に対する差押に対し銀行が保証債権との相殺をもって対抗した場合など、「根保証といえども第三者との利害衝突の場面がまったくないわけではな」いから、「根保証においても根抵当権におけると同様に、(被)保証債務の範囲を妥当な範囲内に定める必要がある」とする見解もある(26)が、この見解も右のような定めを直ちに無効とする趣旨ではないと思われる。ただし、右のような定めが、主債務者との「直接取引」によらない債務をも含む趣旨である場合には、前記3(第二準則)による合理的な解釈が求められるというべきである。
  (2)  次に、((2))については、根保証契約における「意思(契約)」解釈ないし「約款」解釈のあり方が問われる。しかし、本稿では、この点について詳細に論ずることはできない。ここでは、次の二点についてのみ触れておきたい(なお、前記三2も参照)。
  第一に、根保証契約の解釈にも「約款」解釈に関する最近の論議(27)がもっと反映されてしかるべきではないかと考える。例えば、前記二1(1)((2))に挙げた最判昭和六〇・七・一六は、信用取引約定書に記載された条項はいわゆる普通取引約款であり、当事者が右条項をいちいち具体的に認識しなくても、これをすべて承認したものと認められるとするが、例えばドイツの普通約款規制法(AGB-Gesetz)の諸原則のわが国への導入の可能性などが根保証契約に即して具体的に検討されるべきであろう。今後の検討課題としておく。
  第二に、例えば被保証債務(被担保債権)の範囲を「信用金庫取引による債権」と定められている場合、根保証と根抵当権とでその解釈のあり方に違いがあるか、である。右の3(3)所掲の根抵当権に関する最判平成五・一・一九は、根抵当権設定契約で被担保債権の範囲を「信用金庫取引」と定めている場合の解釈のあり方として、「民法三九八条ノ二第二項所定の『一定ノ種類ノ取引』は、被担保債権の具体的範囲を画すべき基準として第三者に対する関係においても明確であることを要するから、根抵当権設定契約において具体的に特定された『取引』の範囲が、当事者の自由に定め得る個別の契約の適用範囲によって左右されるべきいわれはない」とし、「信用金庫取引」は「一般に、〔信用金庫法で〕法定された信用金庫の業務に関する取引を意味する」とした。この判決の説示には、債権法レベルの問題であれば第三者に影響することはないから、取引約定書の解釈も当事者間の予期・予測あるいは商慣習などに基づいてなされてよいが、根抵当権という物権法レベルでは第三者に影響するから、第三者に対する関係においても明確であることを要し、したがって、その解釈にあたっては、当事者の意思、特約、予見ないし予測、その他諸事情などの主観的事情を考慮すべきでない、という趣旨が含意されているといえる。これに対して、学説では、この趣旨を肯定しながらも、根抵当法における解釈としては「信用金庫取引」は信用金庫法の規定する信用金庫の業務よりは広く、「信用金庫がその取引先と通常するものである、と社会一般に考えられているような取引を指す」とし、あるいは「社会通念によって取引と認められているかどうか・・・当該取引にかかわる商慣習や取引約定書の客観的解釈」によって定まるとする見解が強い(28)。しかし、前記のように、根保証においても、例えば根保証人の預金に対する差押に対し銀行が保証債権との相殺をもって対抗した場合など、根保証といえども第三者との利害衝突の場面がまったくないわけではないとする指摘もあり、「社会通念」がその判断基準となるならば、根保証の場合と根抵当の場合とで右のように解釈を画然と区別できるかはなお検討を要する問題であると思われる。引き続きの課題としておく。
5  解約権不行使の場合における根保証人の責任ないし被保証債務の範囲の限定
  (1)  本来ならば根保証人が通常解約権ないし普通解約権を行使しえたにもかかわらずこれを行使しなかった場合に、信義則・権利濫用等の一般条項の援用によって根保証人の責任ないし被保証債務の範囲を限定した一連の判例があることは、前記二2(3)に示したとおりである。ここでは、ともかく根保証人が解約権を行使していないことから、発生している債務全部が被保証債務となることを一応前提とした上で、根保証人の責任は解約権行使事由の発生(事情変更)後に成立した債務に及ばないとし、あるいは全体としての責任額を縮減している。その際、重要な判断要素となっているものを分類し整理すると、次のようになろう。
  ((1))  事情変更が根保証人に生じた場合(地位の変動など)−これに対する債権者の認識ないし認識可能性の有無、債権者が認識していた場合の保証意思確認の有無、根保証人が解約権を行使しなかった事情。
  ((2))  事情変更が主債務者に生じた場合(資産状態の著しい悪化など)−これに対する債権者および根保証人の認識ないし認識可能性の有無、債権者が認識していた場合の根保証人に対する通知の有無、根保証人が認識していた場合の解約権を行使しなかった事情。
  ((3))  事情変更が債権者・主債務者間で生じた場合(取引額の急激な増加その他取引状態の変動など)−これに対する根保証人の認識ないし認識可能性、根保証人が認識していた場合の解約権を行使しなかった事情。
  ((4))  事情変更が主債務者・根保証人間で生じた場合(両者間の信頼関係の破壊など)−根保証人が解約権を行使しなかった事情、債権者の認識ないし認識可能性、債権者が認識していた場合の保証意思確認の有無、責任の縮減が債権者に及ぼす影響の度合い。
  ((5))  全体を通じて、事情変更の程度。「マ」
  これらの要素に対する判例の判断と結論はおおむね妥当というべきであるが、事情変更があったにもかかわらず根保証人の責任を縮減しなかった判例(二2(3)((1))所掲)については疑問がある。大阪高判昭和三八・九・五は、主債務者に事情変更(資産状態の極度の悪化)があった場合について、なお保証人に多額の負担を被らせる結果となるべき融資をなすにはあらかじめ保証人の意向を打診する一応の措置をとるべき信義則上の義務があるとしながら、債権者が主債務者の事情について重過失があったとはいえ善意であること、保証人も解約権を行使しなかったことを理由に責任の縮減を認めなかった。また、最判昭和四六・七・一は、債権者・主債務者間で発生した事情変更(商取引上の買掛金債務の激増)を根保証人が知っており、保証人は自ら注意して必要な場合には解約権を行使することも可能であったから、債権者に信義則上の通知義務はないなどとして責任の縮減を認めなかった原判決を維持した。しかし、債権者が自己の債権管理(取引相手方の資産信用状態の把握)の不十分さを棚に上げて、特に事情変更の発生に債権者自身もかかわっている場合に、保証人の解約権不行使を強調して全責任を根保証人に帰すことは不当であろう(「通知義務」の成否はともかくとして)。本来、根保証人の解約権は根保証人保護のために認められるのであるから、その不行使が保証意思を明確に示すものと考えられる特段の事情がないかぎり、責任縮減にとってのマイナス要因として強調することは妥当でなく、むしろ事情変更における債権者の通知(義務)と保証意思確認(義務)の履践の有無が強調されるべきであると思われる(29)
  (2)  ところで、根保証に「確定」の観念を導入し、根保証人の解約権を根保証人の「確定請求権」として再構成しようとする見解からすれば、右の類型は、根保証人が確定請求権を行使しえたにもかかわらず、これを行使しなかった場合の責任の限定ないし被保証債務の範囲の限定の類型として再把握される。しかし、その意味は、極度(限度)額の定めのある極度根保証の場合とそうでない場合とで若干異なるように思われる。すなわち、前者の場合には、極度(額)が根保証人の「責任」の範囲を示すものとなるから、右の諸判例は、基本的に被保証債務の信義則による金額的限定ないし極度額自体の信義則による縮減を意味することになる。これに対して、極度(限度)額の定めのない根保証においては、被保証債務とともに責任の(金額的)限定を意味することになる。これらの法理が、極度額の定めを必須のもとする根抵当権の場合にも妥当しうるかは興味ある今後の検討課題であるように思われる。
6  被保証債務の範囲の変更
  被保証債務の範囲の削除的または追加的変更並びに主債務者の変更が、債権者・根保証人間の合意のみによって自由になしうることは、根抵当権に関する民法三九八条ノ四の類推適用をまつまでもなく当然であろう。

(1)  石井真司「根担保と根抵当権」米倉明等編・金融担保法講座II八二頁。
(2)  槙悌次「根保証」遠藤浩=林良平=水本浩監修・現代契約法大系八〇頁。
(3)  鈴木禄弥・〔新版〕根抵当法概説二九−三〇頁、貞家克己=清水●・新根抵当法三三頁、三七頁。
(4)  中川善之助編・民法I(別冊法学セミナー)三九二頁〔清水誠〕、貞家克己=清水誠=清水●=岩城謙二・新根抵当法の解説九五頁〔清水誠発言〕)
(5)  鈴木正和・新根抵当法入門二〇頁。
(6)  星野英一・民法概論III(債権総論)一九五頁。
(7)  鈴木教授は、被担保債権の範囲の限定は、「理論的には純粋包括根抵当権を有効とすることも可能なことを前提として、どの程度まで、いかなる形で被担保債権の範囲を限定するか、という政策的問題である」ことを確認しつつ、根抵当権の被担保債権の範囲を限定すべきものとする民法三九八条ノ二第二項について、((1))譲受債権のうちもっとも重要である回り手形について被担保債権資格が認められたことによって、直接の「取引ニ因リテ生ズル」という限定は、「事実上、骨抜きにされている」、((2))いかなる形で取引の種類を限定すれば、所定の要件にかなうかは、必ずしも明瞭でなく、実質的審査権限をもたない登記官がこの点をよく判定しうるかは疑問である、((3))「もう考えられるあらゆる種類の取引を当事者があらかじめ列挙して、それらから生ずるすべての債務を担保するための根抵当権を設定すれば、事実上、すべての取引から生ずる一切の債務を担保する根抵当権とほぼ同じ効力をもつものを有効に成立せしめうる」、と指摘されている(鈴木禄弥・根抵当法の問題点九頁以下)。
(8)  鈴木禄弥=竹内昭夫編・金融取引法大系五巻四二〇頁(鈴木禄弥発言)など。
(9)  普通保証の場合につき最大判昭和四〇・六・三〇民集一九巻四号一一四三頁、請負契約合意解除後に請負人が注文主に対して負担する前払金返還債務に関する最判昭和四七・三・二三民集二六巻二号二七四頁参照。もっとも、特約でこれらの債務を被保証債務の範囲から排除することはもとより可能である。
(10)  根抵当権の場合につき、「給付不当利得返還請求権」は「一種の取引債権と解されるべき余地が十分にある」とする指摘がある(鈴木禄弥・前掲注(三)三一頁)。
(11)  現在の当座勘定規定ひな型一一条には過振金債務支払に関する規定があり、今日では「当座勘定取引から生じる債務」と解するのが通説である。なお、判例として前記二1(1)((3))所掲のものがある。
(12)  松本恒雄「根保証の内容と効力」加藤一郎=林良平・担保法大系第五巻二五ス頁。
(13)  鈴木禄弥=竹内昭夫編・金融担保法大系第五巻四二三頁以下の各発言など。
(14)  貞家=清水・前掲二注(18)七一頁。
(15)  石井真司・手形研究二八六号八頁、松本・前掲注(12)二五ス頁。
(16)  坂井芳雄・金融法務三八六号一七頁、我妻栄ほか「銀行取引セミナー・貸付第一一回」ジュリスト二五二号七四頁以下の竹内昭夫教授の発言。
(17)  最判昭和三九・七・九金融法務三八六号一三頁。
(18)  坂井芳雄・前掲注(16)一七頁。なお、この判決の原審は、注(19)の大阪高判昭和三八・四・三〇。
(19)  回り手形債務も被保証債務に含まれるとした二1(1)((6))所掲の判例はいずれも、主債務者が会社でその代表取締役ないし取締役が連帯保証人となったケースに関するものである。そして、同所所掲の大阪高判昭和三八・四・三〇も、根保証人Yらは主債務A会社の代表取締役と取締役であるから、「Y等はA会社が、引受、振出、裏書、保証した手形に関し〔債権者X〕に対し負担する債務額は、常時これを確知しているべき立場にあり、会社役員以外の第三者の保証の場合の如く予想もしない過重な責任を負う事態が発生することは通常あり得ない。若し会社役員の更迭等何等か特別事情の事情が発生する危険が生じたときは、事情変更の原則に従い保証契約を解除しまたは一定の範囲に限定することを得る」として、回り手形債務も被保証債務に含まれるとしている。しかし、これに対しては、「根抵当権に比し附従性がそれほど強く要求されない根保証債権については、・・・当事者の意思さえ明らかであれば、回り手形債権もその被保証債務とすることは別に問題はない」とし、「このことは主債務者である会社の役員(代表取締役・取締役)が連帯保証人であったことによりとくに左右されるものとは思われない」とする見解もある(鈴木正和「根保証における保証債務の範囲の確認」手形研究三三四号一三二頁)。
(20)  最判平成五・一・一九民集四七巻一号四一頁。
(21)  鈴木禄弥「根抵当権の被担保債権としての保証債権」金融法務一三四七号一〇頁、伊藤進・判例評論四一八号二一頁(判時一四七〇号一八三頁)、並木茂・金融法務一三五六号二五頁など。
(22)  鈴木・前掲注(21)一三頁。
(23)  東京高判昭和五五・九・二九金融法務九五ス号五二頁(判タ四二九号一一二頁)。
(24)  反対、鈴木正和「根保証における保証債務の範囲の確認」手形研究三三四号一三二頁、その他、鈴木禄弥=竹内昭夫編・前掲注(13)四二四頁以下参照。
(25)  長野地諏訪支判昭和五九・五・一七判タ五三二号一九四頁は、保証するに至った事情、主債務者と保証人との関係、債権者(街の金融業者らしい)も知っていた保証人の経済力などを考慮しながら、「取引通念及び債権関係を支配する信義則等に照らせば」、主債務者が第三者のために負った保証債務は被保証債務に属しない、とする。
(26)  石井真司・手形研究二八六号七頁。
(27)  河上正二・約款規制の法理、谷川久「約款論」新版注釈民法(17)二六三頁ほか。
(28)  注(21)所掲の鈴木一五頁、伊藤一八六頁。
(29)  なお、身元保証法五条の場合につき、西村博士は、身元保証人が身元本人の監督義務を負う場合を除き、身元保証人の解約権不行使は同法五条の「其ノ他一切ノ事情」の斟酌において不利益な取り扱いを与えられるべきではないとされる(西村信雄・身元保証ニ関する法律二一七頁以下)。