立命館法学  一九九六年六号(二五〇号)一四一〇頁(七〇頁)




銀行の説明義務


長尾治助






目    次




は  じ  め  に

  金融機関は、顧客との間に与信(貸付)、預金、為替などを目的とした契約を締結し、契約で定められた給付を行なう。従来、契約で定められた給付を行なうことが金融機関の債務でありそれで足りると理解されていた。しかし、今日ではそうではない。顧客に対してその契約に関 連する事項についての情報を提出しなければならないことも金融機関の債務に含まれることとなった。先に述べた給付を主たる義務とすれば、これは契約関係に付随する義務と位置づけられる。
  そのような義務は今までどうして認識されてこなかったのであろうか。
  (一)  第一は法的思考の狭隘さに原因がある。金銭をめぐる契約当事者の関係を考えてみると、貸付業務一つをとりだしただけでも、金融機関としては、相手方の信用度の確認と貸付妥当な額の判定や融資実行日の決定、担保の徴求と手続についての確認、それを的確に実施するなど、実に細目的な多数の事務を注意を尽して遂行しなければならない。これと同じ比重のある事務は相手側の上にも存在する。氷山に例えれば、これらはいわば水面下の巨大な氷の塊りである。ところが、法律関係として捉えられるのははじめに述べた現象であって、それはいわば、水面上に現われている部分にすぎない。法律が条文をもって示すきまりごとは、生活関係全部をとりあげることが不可能であるために、特に規律を必要とする事柄を対象としているにすぎない。この点をみすごし水面上のきまりに目を奪われ、そのため、貸付は約束の期間、金銭の利用を相手に許すことであり、その期日に返済しないとどうなるか、という法知識だけを学ぶことで銀行取引法の学習は足りると誤解する傾向があった。いいかえれば、その法律関係の下にひろがっている、人の財産にかかわる行為であるだけに、相手の十分な理解の下に業務をすすめていかなければならないという基盤部分についてまでは身につけないまま、貸付業務や法律実務が進められる傾向にあったことである。
  そのため、契約をしたのであるから、というだけの理由で、契約前における商品等について説明する必要性を認識することなく、金融取引から生ずる損失や不利益は、すべてを顧客の「自己責任」へ流し込むのが一般的傾向であり、司法判断もこのような法的思考を当然のこととしてきたということである。その前提として、相手方も自由な意思の主体者として、自らの注意力を駆使し諸資料を収集し、それを契約選択の判断材料に使うことができる地位にあるとの法認識がある。ところが、現実の相手方の立場はそうではない。相手方は金融機関の優越的地位による経済的支配の下で、情報を持たず、金融機関が定める規律に服せざるをえないのである。
  (二)  第二に、他方、金融機関、とくに銀行はその優越的地位が国家により承認され、擁護されたものとの誤った認識を持続してきたことである。政府の規制が失敗した今、金融機関は一個の社会形成のための単位として、金融サービス契約における、あるべき事業者行動を相手方との関係でもとらなければならない。そのためには、相手方に選択の自由を行使させるよう情報を提供しなければならない。このことが自らの義務であることを認識しなければならないことになる。
  要するに、自由な選択、判断を尊重する社会にあって、社会関係を形成しようと欲する者は、その関係事項につき真実を説明する立場にあることを、二一世紀に入ろうとする今、日本の金融機関はようやく自覚するようになったといえる。法律生活における個人主義は、経済先進国といわれる日本の金融取引の分野で、説明義務の問題に象徴されるように、これまでの法律関係の後進性をぬぐうかのごとく立ち上がりつつあるといえよう。
  では、これがどうして義務として認識されるようになったのか。主な原因と考えられる動きは次のものである。
  (一)  事業者間の競争が激化する中で、商品販売について新しい手法やセールストークが開発され、これが販促行動として実践されるようになった。その行動の中で事実に反する説明や重要事項の不開示が展開された結果、その表示を信頼して契約を締結した相手方の上に損害が生ずる事件が多発した。しかし、民法が定める意思表示規定ではこの種事案を妥当に処理することができないこともある。そこで、信義則に根拠を置く契約締結上の過失、契約準備段階における過失、約束的禁反言などの法理が裁判上用いられるようになる。判例のこの傾向は説明を含む勧誘段階にも事業者の上に真実開示義務を課すことの布石となったのである。
  (二)  それとは別に、最高裁判所は、契約に付随する安全配慮義務を、安全にかかわるサービスや危険性を含む商品の供給業者の上に課すことを承認するに至った(1)。このことはハイリスクが生ずる可能性があり、かつ、顧客が損失を負担するサービス商品取引については、顧客がこの危険を回避できるように、事業者において格段の注意を用い、あらかじめ危険を相手方に知らしめるなど適切な措置をこうずることにも推及されてよいことの論拠となる。証券取引法などにおける投資者保護法制の整備も、変動商品を対象とする取引関係に契約法上の説明義務論を深めさせる上で重要な意味をもつのである。
  以上のことを踏まえて、本稿では金融機関、とくに念頭に置かれるのは銀行であるが、その顧客に対する説明義務を考察する。金融機関による情報提供は市場の透明性確保の要請から、国際的にもその実施が期待されている事柄であるが(2)、ここでは、近年国内でひろく生じた銀行取引被害者の救済を重視して、説明義務法理を考えていくことにする(3)。考察に入る前に、ここにいう「説明」とは何かを明らかにしておこう。
  説明義務にいう「説明」とは、人の表示、表現活動のうち、事業者が顧客に対して行なう、((1))事実についての説明、((2))約束がここにいう説明の中核部分である。このほか、((3))商品の市場動向を示す過去の統計などによる実績の証明が加わることもある。((1))は商品、サービス(以下では商品等という)の種類、性質、機能、成分、あるいは、契約の仕組み、提供される労務からもたらされる便益、便益の範囲、発生することもある危険の種類、内容、その回避方法など商品に関連する事実的項目である(4)。((2))は事業者において定める商品等の販売条件である。
  不実表示法が対象としているのは本文で述べた((1))と((2))である。((3))は証言といわれ、勧誘上効果を挙げる上で利用されるのが一般であるが、((1))に含まれる品質、性能等の優良度を表わすため用いられる場合には、品質、性能等についての補強的事実としての意味をもつことがある。そこで、事業者による情報の提供を問題とするときは、これについての説明を含ませることが許されよう。
  このほか、((4))推奨、((5))意見の表明(所見、評価)、ときに((4))と((5))が合体した表示(例えば断定的判断の提供)、((6))その他の表示行為がある。((4))乃至((6))はここで扱う説明に属しない。

一  説明の基礎にある法理

  真実の開示
  説明の対象となる事項を相手方その他に知らせるにあたっては、真実を告げるべきである。なまの事実を基礎として社会関係は形成されるものであり、古来より「嘘をつくなかれ」は普遍的な行動原理として承認されてきていることからも、およそ人の表示、表現行動が真実を告げなければならないとの社会規範に枠づけられたものであることは自明な事柄である。
  真実を告げるべしとの規範は、既に述べた推奨、意見の表明、宣伝などについても求められるが、事実についての説明、約束、証言といった「説明」にも要求される基本的な原則である。このことを抜きにしては説明義務という観念もなりたたない。Truth in Advertisingというアメリカ法の用例はこのことを意味しているといえる。
  説明義務の概念
  (一)  説明義務とは、一定の状況の下において当事者が行なう事実についての説明、約束、証言を真実に即して開示しなければならないとの表示者に課される法的拘束をいうのである。説明行為の基礎には真実を告げなければならないとの原則があることは既に一言したとおりである。契約関係においてこの真実を告げなければならないことが基礎に置かれるのは、とりわけ、その違反行為が相手方の選択、判断を誤らせること、いいかえれば人の自己決定を侵害するからである。誤導された行為よりもたらされた結果について誤導された人に法的責任を負担させることは自己責任原理からみて背理だからである。したがって、説明義務がどのような場合に認められるかは一つの検討課題であるにせよ、それが認められた場合のうち、大半の事例で浮上してくる争点は、その説明が真実として許容できるものかどうかである。もっとも、説明義務に含まれる問題としては、((1))どのような場合に説明義務が生ずるのか、((2))どの項目につき(質の問題)、((3))どの範囲、程度で(量の問題)、((4))またどの方法で(形式の問題)行えば足りるのか、ということと、その説明は真実原則にてらして許されるものかどうかという基本問題があるわけであるが、この基本問題と右((1))から((4))の問題とを一応切り離して取り扱うことが説明義務を全体的に理解する上で便利である。説明義務の枠組みを明らかにすることが本稿の目的であるから、以下においては、((1))乃至((4))を中心に検討していく。
  (二)  それでは、相手方が事業者から説明を受けるのを必要とするのはどのような状況(5)においてであるのか。
  (1)  従来、考えられてきているのは、説明義務は一般的義務ではなく、説明の対象事項が契約にとって有する意義、契約関係にある当事者の属性、取引への当事者へのかかわり方、商品等の正確、契約関係が進行する中での当事者の行為態様などとの関連において相当であると判定されるとき義務の存在が認められた。そのような意味で説明義務は特別の義務と観念されているといえよう。
  (2)  しかし、はたしてそう考えてよいものであろうか。説明義務は個別具体的な状況の下で生ずる場合もあるが、一般的な義務として存在するといってよいのではあるまいか(6)
  例えば、事業者による顧客への提供対象が視認性がない−有体の商品と比較すれば容易にわかるように−サービス(便益)商品であって、商品の構成が言葉による「きまり」で表わされている場合には、事業者以外の者においてサービス商品を認識し特定するためには、その「きまり」=サービス商品の、仕組み、特徴、便益の内容などについて説明されることが不可欠である。
  このほかの契約の重要事項、例えば、((1))契約相手方が享受することになる便益について、その範囲が限定されているとき(保険商品での不填補条項による限定はその例)、((2))その便益の享受が一定の条件にかからしめられているとき、((3))当事者以外の者の行為により生じた損失を顧客に負担させることにしているとき、((4))サービス商品が市場動向に左右されることを内在的な性質としており、市況によっては顧客の上に損失がもたらされるものであるとき、などではこれについて説明を受けなければ、相手方としても的確に選択、判断をすることはできない。それ故、相手方に契約を締結するか否かを求める者は、相手方から表示を受ける前提としてこれら重要事項を説明しなければならない。これは正常な意思表示のプロセスを確保するための一般的な社会的要請である。
  (3)  説明義務はまた、勿論、一定の条件の下でのみ生ずることもある。これについては後で検討するところに譲ることにする。

二  説明義務の意義と根拠

  社会的意義
  既に述べたところから明らかなように、説明義務の第一の意義は、事業者により提供される商品等や契約条件などについて、ありのままの事実を明らかに示すところにある。それによって相手方の選択、判断が間違いなく行なわれるようにさせるということにある。それは、これまで、事業者が保有する情報などさえも相手方において調査し判断すべきであり、その入手、検討、調査ができなかったとしても、相手方において選択、決定の自由がある以上、その契約から生ずる不利益は相手方にあるとしていた法的処理を変えるものである。事業者にこの義務を負わせることで、相手方の選択、判断が正常に営むことを可能にさせ、その結果として、事業者の上に不利益負担も転換させることを可能にしたという既存の法状況を修正する意義である。意思表示を正常に営まさせるための環境を整備したといってよい。
  第二は、契約関係の相手方に対する関係だけではなく、市場における公正自由な競争に役立つという意義がある。商品等や契約条件を開示を通じて透明にすることは、市場に参入している業者間の競争を公明正大なものとすることになる。また、一般にも商品等や契約条件などについて比較を可能にさせ、相手方の選択、判断を容易にさせることとなる。
  右にみた二点はいづれも伝統的な契約の自由および市場原理を内実化したものにすぎない。それ以上の法的意義を認めるとするならば、違反者に対しては私法的制裁を加えるにとどまらず、公法上の制裁を加えることで、社会的、経済的弱者を強く法的にも保護していこうとする新らたな法の形成現象を挙げることができるかもしれない。
  なお、このように事業者の説明義務を強調することは、事業者をして、不開示、誤情報の提供により損害を相手方に与えないよう業務行動を自主的に改善させていくという経営上の意義もある。
  法的意義
  説明義務を認めることにはどのような意義があるのだろうか。それは、契約関係を事業者の販売促進行動、交渉、契約成立、履行責任の発生・消滅から成る動態プロセスと把握し、これを民法規定や法理の対象に据えて、紛争の妥当な解決をはかるということに要約できる。それは次のとおりである。
  (一)  事業者による説明がないか(不開示)または的確になされたのではないとき
  ((1))  これにより相手方の選択、判断を誤らせたとき相手方表意者により錯誤を理由として契約の無効化をはかろうとすること(7)
  ((2))  事業者が作成した相手方にとっての不利益条項について、説明が欠けたままで締結された便益提供契約では、不利益条項は相手方を拘束しない(相手方の選択、判断と免責条項の拘束力との識別効果)という法的処理をはかろうとすること(8)。ひいては、説明義務を尽していない者は、自己が作成した相手方にとって不利益な内容を定める条項を援用することは許されないと扱うためである。
  ((3))  商品等に内在する危険性について、説明が十分に行なわれないまま締結された便益提供契約の下で生じた危険につき事業者をして損害賠償責任を負担せしめること。
  ((4))  相手方との合意に基づいて事業者が行為するとき相手方の上に明らかに不利益が生ずることを知りながら、事業者がこのことを知らせることなく当該行為をしたとき、この不利益について事業者をして損害賠償責任を負担せしめること(9)
  ((5))  他の事業者と共同して一個の経済活動を展開する事業者が、契約相手方に対して、契約の仕組みや抗弁切断条項について説明をしないとき、事業者をして相手方の抗弁に服せしめること(10)
  ((6))  継続的な融資契約の期間途中で、事前に当該融資者が理由を説明することなく融資を打切るときは、相手方がこれにより被った損害を事業者をして賠償せしめること、などである。
  (二)  事業者により説明されたとおりの履行がないとき
  ((1))  金融事業者が融資予約をしたにもかかわらずその実行がないとき、事業者をして相手方がこれにより被った損害を賠償せしめること。
  ((2))  相手方は説明を受けた限度で履行すれば債務不履行とはならないと扱うことができること。
  (三)  事業者による説明が誤っていたとき
  その説明を信じ損害を被った相手方は事業者に対し損害賠償を請求することができること。また、契約を解除できること、である。
  根    拠
  説明義務の根拠として挙げられる考え方はいろいろである。
  (1)  商品等や契約条件などについて情報が契約関係の一方当事者(多くは事業者)に偏在したままであれば、相手方は的確な意思表示を行なうことができない。事業者によるこれらについての説明は相手方の意思表示にとり必要な前提である。したがって、相手方に意思表示(例えば商品購入の申込)を求めようとする当事者(多くは事業者)は相手方において選択、判断ができるようにその素材を提供しなければならない。これは情報が偏在する状況の下では、自由意思という主観的要素と外部から提供された情報の存在という客観的要素が意思の稼働の基礎であると観念し、これを前提にして意思の自由を尊重しなければならないと考えるものであり、主観を要素とする近代法の原理を修正しながらも、形式的にはそれを保持する形態をとる考え方といえよう。
  (2)  当事者は多くの人の中から当該相手方を選び接近したのであるから、特に信義に従い誠実にこの相手方に有害な結果をもたらさないよう行動すべきである。一定の場合に説明が法的義務とされるのも契約関係を律する信義誠実原則の要請である、との考え方である。
  (3)  右(2)を基本としてそのような関係に立つ当事者は相手方の自己によせる期待を裏切らないように行為することが信義則の要請するところであるから、相手方において説明が必要とされるとき、事業者はこの信頼にこたえ説明しなければならないことになる。また、誤った説明が行なわれ相手方がこれを真実と信頼したときは、この信頼は保護されなければならないことになる。
  (4)  事業者はその営む事業について契約関係に入った相手方に対し、専門家として善良な管理者としての注意を尽す義務を負うのであり、説明義務は具体的状況に応じたこの義務の発現態様である。
  (5)  事業者の業務によってはその事業者が公共性を帯有していることがある。その場合には相手方の事業者に寄せる信頼度も強まるのであり、事業者はこの信頼にこたえるに足りるだけの説明を行なわなければならないことになる。
  (6)  右(2)(3)(4)の場合において当事者関係が一段と密になったと認められるときその信頼度に応じて説明義務も内容、程度においてより注意深く行使されるべきである。
  (7)  人の生命、身体、財産を正当な理由なく害してならないことは法の基本原則であるから、危険乃至不利益をもたらす商品等の提供者は相手方についてその危険性、回避、防止の方法などをあらかじめ説明しなければならない義務がある。契約前の段階でも安全配慮義務は判例の認めるところであり、そのサービス契約関係における説明の局面における展開を考えることができる。この点は、金融商品でもとりわけ変動商品について強調されているところである。

三  説明義務の準則

  およそ表示のあるところ、真実に合致する表示であることを基本とするが、この点を踏まえさらに事業者は何を、どのように説明しなければならないか。その準則は、一般的説明基準(以下では一般基準という)と個別的行動基準(以下では個別基準という)である。
  (一)  一般基準
  これは、相手から表示を求めようとする者は、重要事項について説明しなければならない、ということを内容とする。
  契約関係においては当事者の意思の自由が尊重されなければならないこと、提供された情報を検討し行なわれた選択、判断の結果には決定者が責任を負うという−現代社会における取引の特徴を反映させるように改修されてはいるが、一応−近代法の原理が貫徹されなければならない、という要諦に由来する。
  (1)  重要事項としては、商品に内在するリスクや相手方に不利益をもたらす約束(免責条項、保証における主債務者の債務額、履行状況なども含む)は不可欠であるし、金融、保険などのサービス商品は言葉によるきまりで造られることからいって、きまりによる商品のしくみも説明の重要事項となる。
  (2)  説明の形式は、原則として重要事項を記載した書面の交付と口頭説明をともに必要とする。
  (3)  説明の程度  その商品の取引にはじめて接する消費者が理解することのできる程度であることが、説明義務が認識されてきた経過からいっても必要である。
  (4)  説明の時期  契約関係の進行段階からみるとき、一般的基準は契約成立の前段階でなされなければ無意味となるに近い。商品や契約条件について理解することや、選択のための検討を目的の一つとしているからである。
  (二)  個別基準
  (1)  契約前にあらかじめ相手方に説明すべきは、右に述べた一般的基準に基づく事項、形式、程度であるが、これに限られないこともある。ときには、契約前に、個別基準に即して説明しなければならないことも生ずる。すなわち、((1))契約関係の進展状況により説明が求められるときと、((2))サービス商品の特性に著目して特に説明が求められるもの、および、((3))事業者の契約的地位の特殊性に基づいて説明することが必要とされる場合などがある。
  右各場合に共通するのは、((1))一般的基準の下での重要事項に含まれないが、相手方が尋ねた事項には的確に情報を提供しなければならないこと、((2))金融サービスを業とする者にあっては、他人から資金の運用、管理を委託された専門家としての注意を基準としてその注意を尽して進展状況を検討した場合に、相手方の上に不利な事態がもたらされるとき、その予測される事態と適切な回避の方策について説明、助言しなければならないことである。この他人財産管理者基準は、契約目的を財産管理に置く契約関係だけの基準ではなく、与信や為替取引をも含む金融サービスに関する契約関係での基準である。その根拠は次のところに見出される。銀行が金銭を貸付け、その債権管理を行なうのは、銀行自体のためばかりではない。多数の人の中から特にこの顧客との間で契約関係を持ったということから、両者の間に相手方に不利益を与えないように注意して行動するという信頼の関係が形成されるという生活事実をふまえ、法は信義則に基づいて行動すべきであるという規律を当事者の上に及ぼさせることとするのである。このことから銀行の債権管理にはこの限りで他人の財産管理としての意味が与えられることになる。
  もっとも、他人財産管理者基準といっても、相手方は一般基準に基づく説明をえていることと、取引を具体的に展開させることについて相手方の意思の自由が尊重されるべきことからいって、銀行取引の種類が金銭の寄託や委任関係を含まない場合の契約では、他人財産の管理者基準が機能するにしても、補助的な性格が濃いものとなる。つまり、他人財産管理者基準は、契約関係にかかわる一切の事情を総合して当該取引状況の下で、説明義務の存否、程度、妥当な説明方法は何かがきめられ、そこで確定された要件が事業者の行為によりみたされたかどうかで説明義務違反の有無を判定していくという判断操作の中に吸収されてしまうことがありうる。
  (2)  それでは次に個別基準について検討するが、説明義務が事業者の上に生ずるか否かの確定要素としては、それが契約関係上の問題であることからいって、当事者関連要素、商品関連要素、行為関連要素が基礎におかれ、ほかに取引の周辺事情を加えることが許されよう。これまでの研究によれば、とくにリスク商品を念頭において確定要素が摘出されている(11)
  当事者関連要素としては、自然人の場合の職業、年齢、経験、理解力など、事業体の場合の事業規模、経験、交渉者の地位、経営状態など。
  商品関連要素としては、商品等の性格(危険性)、対価の額など。
  行為関連要素としては、いづれの当事者にイニシァティブがあったか(取引経緯)、書面交付時期、交付書面の内容など。
  取引の周辺事情としては商品等の危険性についての周知度など。
  そうしてこれら各項目に事業者において払うべき注意の加重方向と相手方が事態を的確に処理できる可能性との関連で示すことのできる事業者の注意軽減方向を設定し、総合的に確定していくことになる。
  (三)  それでは次に説明がとくに強調されてよいことになる場合について検討する。
  (1)  契約関係の進展状況
  当事者間で展開される交渉、履行についての実態は多様かつ錯綜するが、一定程度の類型化は可能であり、それに応じた基準を示すことも不可能ではない。
  (ア)  一般基準に基づく説明事項の対象商品を他の商品に切りかえる場合、従来の交渉で当事者間に予定されていた商品と異なる種類、性格の商品提供をもちだすとき、とりわけ、事業者のイニシァティブにより、かつ、リスクを伴う性格の商品提供は加重要因となる(12)
  (イ)  計算や事務手続の処理が事業者の支配領域にあり通常、事業者の業務処理に依存している事柄について、相手方財産が負の方向を示す可能性があるとき、事業者はその状況を説明し、また、その結果を防止する方法につき助言しなければならない。個別の契約の場合でも継続的契約の場合でもそうである(13)
  (2)  サービス商品の特性に著目して特に説明が求められるもの
  ハイリスク・ハイリターン商品の取引においては、相手方の選択・判断がリスクを引受けることに向けられていることから、この種取引に入ったことは右の意思決定に基づくものとして、取引から不利益が生ずるとしてもそれは彼の責任と観念される。それだけに、事業者による説明義務の存否や程度をどう考えるかについては、安定商品を対象としたときに比して、先に述べた確定要素に当事者の具体的行為状況を綿密に照合する作業が要求されることになる。
  他面、そういった商品の特性からいって、契約成立前の段階で、事業者は商品の危険性を念入りに説明しなければならないことになる。当該商品が新種のサービス商品であって、危険性についての周知度が低いことは説明義務の加重要因となる。説明の上で注意すべきことは、過去の正確な客観的な実績を示す統計を参考上示すことが許されるとしても、将来の動向を予測させる言辞を用いることは許されず、それを参考として使用する場合には過去の実績が将来の結果につながるものでないことを伝え、商品の危険性について相手方の注意を喚気する必要がある。
  また、説明のしかたとして相手方が疑いを有する点、誤解している点を発見するよう注意し、正しい理解をえさせなければならない(14)
  (3)  最後に、事業者の契約的地位の特殊性に基づいて説明することが必要とされる場合について検討しよう。ここで扱う事業者は銀行であるが、顧客に商品等を供給する事業者(以下では販売業者と呼ぶ)と一定の関係に立つことがあり、その場合、銀行は顧客に説明義務を負うことになるのか、がここでの検討課題である。
  まず、こうした生活関係で考察の対象とされてよい事柄をとりだしてみよう。
  販売業者関連項目としては、販売業者の事業実態(業態)、扱われる商品等は危険性が内在するか(投機的な商品、著しく変動する商品など)、その種の業者についての過去の紛争例や紛争が報道されたことがあるかないか、など。
  事業者間関連項目としては、販売業者と銀行との間に存在する契約の内容、契約がない場合における両業者への顧客へのかかわり方、そうしたかかわりについての過去の実績など。
  銀行・顧客間関連項目としては、商品購入資金の調達について、銀行の関与はどのようなものであったか、その資金借入れによって生ずる顧客の財産状況の変化など。
  実際上はこうした項目の下にとりだされる複数の具体的項目が交錯し説明義務の存否や、あると認められた場合における説明の程度が判定されることになる。次に事例を若干設定してみることにしよう。
  (ア)  保険会社が販売する変額保険の保険料を銀行が保険加入者に融資する場合、商品(変額保険)については、販売会社(保険会社)が、一般基準および個別基準(一)および(二)に基づく説明を行ない、銀行は金銭貸付について一般基準に基づく説明を行なうが、ときに個別基準(1)の説明を求められることがあろう。さらに、本設例の場合、右に掲記した関連項目に注意しなければならない。
    (a)  銀行は融資のもつ社会的重大性を認識し、販売業者関連項目につき顧客に対する関係で一般に調査・確認義務を負うと考えられてよく、融資の用途を変額保険の保証料に契約上あるいは事実上限定する場合にあっては、変額保険の危険性についても知っているものと考えられる。そこで、期間中の賦払返済義務は変動商品から生ずる果実が負の状況を示すときでも、顧客は履行しなければならないことを説明すべきである。そうして、変額保険の変動による価値と借入残高との計数把握は顧客が常時把握できない事柄であり、それはむしろ金融専門業者の業務領域事項であるから、期間中の義務として銀行は損失の生ずるおそれがあることを知ったときはその事実と損害回避策を助言し顧客の決定をまつべきである。
    (b)  なお、顧客との交渉段階で、保険会社の従業員と銀行の従業員が同席し、商品等について保険会社従業員が説明する項目のうち、保険料は融資可能額と関連する事項であるから、保険契約を解約したとき金銭借入契約はどうなるのかについても、顧客が納得するに足りる程度の説明を尽さなければならないことになる。銀行は、変動商品の対価を融資することからいって、当該貸付債権の担保目的はこの変動商品(その上の債権質)だけでは不十分であり、したがって、当該取引により顧客のもつ既存の財産状況に変更が生ずることがありうること、追担保の事態が生じることをも予見できるものと考えられる。
    (c)  また、銀行の関与についてみると、銀行は保険料支払のため金銭を借入れることが顧客にとって相続税対策として有効であると考え、銀行がその旨の意見表明ないし推奨をするとき、この点についての真実を告げなければならない固有の義務が生じてくる。
    (d)  具体的な交渉関係からはこれら以外の考慮すべき事実が生ずるであろうが、右に限定したことを踏まえ要約するならば、ゆるい程度の他人財産の管理者として銀行はどういう義務を負うのかとして捉えるとわかりやすい。販売業者関連項目の調査と確認義務や金銭借入れと相続税対策についての意見表明等についての真実義務のほか、金銭貸付とかかわってリスク発生の可能性と既存財産に不利益な影響が及ぶことのありうることについて説明義務があるといえることになる。
  (イ)  事業者の契約的地位の特殊性に著目するときは、先に挙げた事業者間関連項目として示されたうちのどのような関係が銀行と販売業者の間に存在するかが重大な関心事となる。顧客が購入した商品等の対価を銀行が顧客に融資することにより販売業者は販路を拡大することができる。販売業者によるこうした顧客との間の契約は銀行にとっても資金需要者を開拓する意味をもつ。各事業者の上にもたらされる共通のこのような利益確保をはかるため、両事業者は継続的な契約を結ぶことがある。あるいはこの共通の利益獲得に向けて事業を計画することがある。こうした両事業者の間に生ずる契約関係をときに提携関係と呼ぶことがある。
  割賦販売法二条二項、二九条の二等には、ローン提携販売が定められてあり、また同法二条三項、三〇条等には、割賦購入あっせんに関する規定が置かれているが、この形態も販売業者と与信業者との間に右に述べた提携関係がある場合として把握することができる。
  こうした両事業者の密接な関係は法的にどう評価されるのであろうか。評価如何によっては与信業者の説明義務論は相当変った内容になるものと思われる。
    (a)  第一にその法的評価については、両事業者の関係にあまり法的意義を認めない見解とこれに反して認める見解がある。
  法的意義を認めない見解とは、販売業者と顧客との商品等の供給契約と、与信業者と顧客間の与信契約とは別個の契約であるから、顧客は販売業者に主張できる事由を与信業者に対しては主張できないのを原則と考える。
  これに対して法的意義を認める学者は多数であるもののその理論構成は様々であるにしても(15)、顧客は販売業者に対して主張できる事由を与信業者との関係においても一般的に主張できると考えるのである。
  そこで、前説によれば販売業者の説明義務違反を理由に契約の不成立、解除が生じた場合でもそのことと関係なく、顧客は与信業者からの与信債権行使に服することとなる。後説では反対の取扱いとなる(16)
    (b)  第二に、それではこの関係の下で与信業者には与信契約に関し一般基準に基づく重要事項についての説明や個別基準(1)(2)として述べた説明以外に、とくに説明をしなければならないものであろうか。
  その例として次の場合を考えることができよう。
  顧客にとっては事業者が複数存在するとき、契約の仕組み自体を理解できないことがあるから、そのような場合にはこの点を説明するを要する。この説明を欠くとき、商品等供給契約と与信契約とが法形式的に別の契約であることを認めるとしても、顧客は販売業者に主張できる事由を与信業者に主張することが認められてよい。なぜなら、提携関係にある事業者甲と顧客との間の契約および事業者乙と顧客間の契約は、顧客からすれば一個の契約と受けとめられるからである。顧客の立場からだけではなく、その種契約関係を社会通念に従って把握する場合にも同じことになる。契約関係の外観は、与信は顧客が購入した商品の、あくまでもその対価支払資金としてうけるものであり、全体が単一のものとして顕われるからである。したがって、別契約論からいっても商品等供給契約と与信契約について説明を通じ両契約を顧客に識別させないならば、外観を基準に処理せざるをえないからである(17)。商品供給契約と与信契約との間に密接な法関係を認める立場からするならば、与信の用途は購入した特定商品の対価支払に限定されないとの説明を通じ両契約が切り離されたものであることを顧客に識別させないならば、外観を基準に処理せざるをえないからである。
    (c)  次にとりあげるのは、(ア)(c)として挙げた銀行による推奨、意見表明として述べた事案である。例えば変額保険が相続対策として有効であることを顧客に伝える場合がある。一般には推奨文句、意見表明と扱われる表示であっても、提携関係の下ではこれは説明すべき対象となる。変額保険は保険商品の一種であるにとどまらず、有効な相続対策商品として、両当事者が案出した商品の内容に組み入れられたものと理解できるからである。銀行はそこでこの商品性について真実を、相手が十分に理解することができるように説明しなければならないのである。もし、有利な相続税対策とはならない場合があることを説明せず専ら相続税対策としての有利性を説明したにとどまるとき、その説明は銀行において有利な相続税対策効果を保証したものと解釈されてよい。

四  説明義務違反の私法的効果

  それではここで説明義務違反があるとき私法上どのような効果が生ずるかについて、若干言及する。
  事業者の販売促進に関する端初的行動は、事実に反する陳述や、メリットのみを強調するセールストーク、あるいは、押しつけ的な言動をも含めて観念されるのが一般である。そうして、これらの諸行動を一括し不当、不正な勧誘行為として把握し、意思表示の無効(18)、取消原因、あるいは、公序良俗則違反行為、不法行為にあたると評価し民法の関係法上を適用した法的処理を考えるのが一般である。
  ところで、説明義務違反は勧誘段階でも生ずることから、不当、不正な勧誘行為として、右に述べたような法的処理の対象ともなる。だが、勧誘段階において真実を告げるべきこと、顧客の選択、判断上不可欠な事項を告げるべきことが付随義務として観念されるようになると、付随義務違反を債務不履行の枠内で処理するという考え方に基づいて、損害賠償や契約解除の法効果を説明義務違反に付与することが認められてよいことになる。そのため、不当、不正な勧誘行為と説明義務とを一応切り離し、説明義務違反だけを別個に取り上げ問題視することが行なわれる。しかし、説明義務に狭隘化して法的処理を行なわないように注意しなければならない。説明義務違反をもってしては不法行為と目することができない場合でも、交渉関係における勧誘行為全体をみると、不法行為と評価することができる場合があるからである。次にこの点を若干検討しよう。
  (ア)  説明義務の違反それ自体が公序良俗に反し契約を無効ならしめることは一般的ではない。勧誘が執拗になされたこと、冷静に判断する機会を与えないようにして意思表示するよう迫ること、相手方の無知、無経験に乗じ締約を迫ること、適合性の原則に違反しその種契約を行なうに足りる資格のない者を相手方とすることなど、といった状況の中で、虚偽の事実を告げ、あるいは、重要な事実を告げないという説明義務に違反すること、これによって相手方の持つ生活に必要な財産を商品等の購入のため出捐させたことなど、勧誘行為全体を対象にして強度な社会的非相当性が認識できる故に、公序良俗違反に基づく無効評価を行なうのが裁判事例としても普通なのではないかと思われる。
  (イ)  次に説明義務は他人の財産管理において要求される善良なる管理者の注意義務の具体的発現と捉えてよい場合がある。このことは銀行と顧客との間に結ばれた契約には明示的に含まれていなくても、その契約に付随する法関係として認識することができる。実際上、銀行がそう行動する場合も少なくない。したがって、善管注意義務として理解すれば足りるところを、説明義務という表現を用いて法的処理を導こうとすることもある。
  それでは説明義務違反の効果を契約の成否との関連で整理してみよう。
  (ア)  契約が成立したときにおける事業者の行為態様は説明事項の内容によって異なる。
  ((1))  説明すべき重要事項を説明しないまま、事業者は契約全体が成立したものとの前提に立って事業者が給付を行なった結果、相手方の上に損害が生じたとき、事業者は説明義務違反による損害賠償責任を負う。
  ((2))  事業者の免責事由を事業者が説明しなかったとき、免責事由は契約の内容とはならない。したがって事業者は免責事由が生じたことを理由として給付を行なわないとき、債務不履行に陥ることとなる。
  ((3))  事業者において説明したが真実に反していたとき、例えば変額保険の保証料を支払うため金銭を借入れることが相続税の対策上有利であるとして顧客を勧誘したが、相続税への対策とはならなかった場合、説明に基づく商品等の経済的価値と事業者の説明を信頼して締結した契約の結果相手方の上にもたらされた経済的価格との差額が損害である。真実でないことの説明は事業者に過失があったことを推定せしめる。同時に、説明が虚偽であることは当該行為に違法性を与えることとなるとともに、顧客を誤導し損害を与えることとの間に因果関係を認めることができる。他方、虚偽の説明に疑問を抱かず契約したことにつき相手方は自己の判断を過信していたと評価されることがあり、その場合、過失相殺による損害賠償額の調整が生ずる。
  ((4))  銀行が融資の用途を限定している販売業者の商品を推奨したり好意的な意見を表明したりしたが、契約成立後の事実がそれと異なるとき、不正な勧誘行為の一環として不法行為をしてこれを律することが可能である。危険性を内包する商品等であることを調査せず、その種の商品等につき知識、経験のない人に対してなされた右の行為があるとき、大阪地判昭和六二年三月三〇日判タ六三八号八五頁、判時一二四〇号三五頁(19)のように不法行為に対するほう助として処理することがありうる(20)
  ((5))  販売業者と提携関係にある銀行が((4))において述べた行為を行なうとき、それは商品等自体の事実についての説明として性格づけられることから、事実に反する結果が生じたとき、銀行も販売業者が顧客に対して負う損害賠償責任と同じ責任を負うことになる。
  また、銀行による貸付金返還請求に対しては、販売業者に対し主張できる事由を銀行にも主張できるほか、銀行に対して有する右の損害賠償債権をもって借入債務と相殺することができる。
  ((6))  銀行が顧客に対して他業者の販売する商品等を購入するよう勧誘しその契約を成立させ、購入費用を銀行が貸付けたところ、勧誘による誤導の結果、両契約が要素の錯誤を理由に無効とされたとき、その後の法律関係について、先に掲記した千葉銀変額保険料貸付事件(注(7)参照、東京地判平成八年七月三〇日平成五年二四六一一号)は次のように扱っていることが注目される。
  右二個の契約が変額保険契約と金銭消費貸借契約の事例であるが、与信契約と保険契約とが別個の契約で、それ故に相互に関連しないと捉えれば、契約無効に伴う利得の返還関係も別個に処理されなければならない筈である。しかし、本判決は、借入金が保険料の支払を目的としたものであることを重視し、「本件各契約が無効であることによる払込保険料に関する関係者間の利得及び損失の調整は、被告銀行(Y1)と被告各保険会社(Y2)との間において払込保険料相当額の金員の清算が行なわれることによってはじめて完結するのであって、原告(X)のY2に対する不当利得返還請求は、Y1から不当利得返還請求を受けた場合に備えるためのものであり、右の最終的な清算に至るための過程ないし手段として位置づけることができる」との見解を提示した。XのY2に対する不当利得返還請求は、Y1に対し負う借入金相当額の不当利得返還請求の限度で認められることになる。この考え方は、供給商品の対価関係と与信関係の双務契約性を承認していこうとする考え方(21)にも通ずるものがある。もっとも、商品供給業者が既に倒産しているような場合においては、右判決の解決方法をとりえないと考えられる。
  (イ)  契約が締結されるに至らなかったとき
  契約関係が一定程度進展し、相手方としても準備行為をしたところが、後になって相手方において説明したところと異なる事態が生じたため、締約する機会を失ったという場合がある。これは一般に契約締結上の過失として扱われる事例の拡張例と考え、その法理にしたがって処理すればよいものと考える。

む    す    び

  説明義務に関する準則と金融取引慣行
  これまで述べてきた準則は裁判上の判断基準としての意味をもつほか、当事者とくに金融業者にとっての行動基準でもある。
  従来、金融業者は契約目的とされた給付が当該契約関係における債務のすべてであると理解してきており、それ以外の事情によりとくに相手方の上に生ずる不利益は相手方の行為に基づく責任問題と扱ってきた。ところが、付随義務論の発展は説明義務を金融業者の上に認めようとする方向にある。これは従来、観念してきた金融業者の取引法務に転換を迫るものである。この生成してきた説明義務の法理に金融実務を対処させるため、説明業務の基準を模索することとなる(22)。その場合、多数顧客との取引を予定して、画一的な基準の設定を望むこととなるが、上に示した一般基準はその要請にこたえるものである。しかし、契約関係には個別的な諸要請があるから、そのすべてを画一的に取扱うだけでは十分とはいえない。一般基準に加え、契約関係に応じ個別基準に基づく説明を行なわなければならないのである。
  金融業者の行為はそのすべてが自らのため、あるいは金融業者内部の問題であり、相手方に対する義務として行なうのではない、という金融実務上の感覚はここに改めなければならないことになる。
  銀行の説明義務に関する論議は、他業者との提携関係が問題となる変額保険加入事例に典型的な形態を見出すことができるから、おわりにあたり、これに対する法的処理を形式的に整理してみよう。
  (ア)  変額保険を勧誘できるのは資格をもつ保険募集人である(保険業法二七五条)。富山地判平成八年六月一九日(平成六年二一〇号)は、銀行員が変額保険につき専ら説明を行ない、有資格の保険募集人が単に契約のしおりなどを顧客に渡したにすぎない事案で、このような募集・勧誘はいずれも不法行為を構成する違法なものと評価している。そうして、この判決は、「銀行には、変額保険についての説明資格は与えられておらず、かえって、説明を行なうことを禁止されている。したがって、銀行には、本件保険契約についての説明義務は生じない」と判示している。
  (イ)  次に一定の場合に銀行の消極的な説明義務を認める判決があり、これを支持する学説もみられる。保険募集人に勧誘された顧客が、((1))商品内容を誤解しているときこの誤解をとくための説明や、((2))保険募集人に再度説明を促すように求める義務を認めることができる(23)
  (ウ)  右以外においても、銀行は融資についての固有の説明義務として変額保険について説明することがありえてよい。この部分は変額保険の募集・勧誘を目的とするものではないから保険業法による規制には抵触しない。例えば、((1))貸付金は変額保険を途中解約し返戻金が貸付金額に達しないことがあっても不足分は返済しなければならないこと、((2))変額保険の元本割れが生じたときでも同じように貸付金の返済義務は残ることなどである。このようなことを説明することにより、顧客としては自ら変額保険の危険性について保険募集人に質問するきっかけを得ることができる。
  (エ)  顧客において借受金債務を負担することが相続税対策となることから、融資金をもって支払う商品を銀行が顧客に紹介したり推奨する場合がある。この行為は当該商品の購入を募集・勧誘することにはあたらないものの、どのような意味をもった行為とみてよいものであろうか。この場合、顧客の現有財産の価値を維持した上で、ということを前提として変額保険契約を結び保険料につき融資債務を負担すればそれは相続税対策として顧客に有利に機能する、という意味であろうから、単に、相続税対策として効果的と述べることは、変額保険の変動的性格からいって事実に反する言動ということになる。こうした推奨文言に誤導され変額保険契約と保険料支払のため融資契約とを締結した顧客は、借入債務を負担したことが右に述べた意味での相続税対策とはならなかったとき、被った損害の賠償を銀行に請求できてよいと考える。
  (オ)  銀行と商品供給業者との間に提携関係があるか、商品購入と融資とがセットになっているとき、銀行による相続税対策として効果的という表示行為は、推奨以上の意味をもつ。銀行の融資という商品に相続税対策性が組み込まれていると考えることができるからである。変額保険の場合であれば既に述べたとおり、現有財産の価値を維持することが危うくなることがあるから、相続税対策として効果的とはいえない現象もおこりうる。それ故、銀行としては、本来、この点についても顧客に説明しなければならない。単に相続税対策として効果的と延べ相手を信頼させ契約するときは、銀行と顧客間には「効果的な相続税対策としての金融」を内容とする契約が成立する。したがって(エ)で述べたと同様、効果的な相続税対策とならない事実が生じたとき、これにより顧客の上に生じた損害を銀行は賠償することになる。
  説明と確認書の徴求
  最後に説明義務との関係で、応々事業者が顧客から徴求する確認書について言及しておこう。東京地判平成四年六月二六日金法一三三三号四三頁、東京高判平成四年一二月二一日金法一三六二号三九頁は、インパクトローンとドル先物売り予約の組合せ金融商品の紹介にあたって顧客に対する銀行の説明が不十分であったとは認められないとされた事例である。本件で銀行は顧客不動産会社から、「パッケージローンタイムリー導入に関する念書」を徴求している。本件で銀行は顧客に紹介した金融商品を説明する中でリスクを被ることがあることと、その回避方法についても説明した上、顧客会社の会計士にも説明用のファックスを送信している。説明を受けた顧客において右商品の内容を理解したと述べていること、銀行が取引意思を確認するにあたり、為替差損が発生する危険性のあることを再度説明していることから、銀行の説明義務違反はないと認められる事案で、念書の有無にかかわらずこの結論には変りないと解される。
  本事件で明らかにされた貸付時に顧客が銀行の求めにより作成し差し入れた念書とは次の記載のある書面である。「私はパッケージローンタイムリーの仕組み及び現局面での具体的リスクの度合いを十分理解しており、パッケージローンタイムリーの導入に伴って発生する為替差損のリスクは一切私の責任に帰属するものです」との記載である(24)
  右の念書(確認書)には消極的、積極的二様の意義がある。消極的意義としては、銀行としてもどこ迄説明すればよいかわからないから(25)、説明義務違反を問われたときに、その主張を否定する証拠として役立てるということである。積極的意義としては、相手方が十分理解した上で選択、判断したので、差損を負担することは自己責任からいって当然である、として相手の請求を否定するための証拠として役立てることである。
  念書の徴求について危惧されるのは、不当な交渉状態の下で顧客が念書を徴求されることがおこるのではないか、ということである。証券の投資勧誘における公正慣習規則では、確認書の徴求を定めているが、その趣旨は、顧客の投資が顧客の考える投資目的に合致するもので、かつ、リスクの範囲についても理解した上、証券を購入することを契約時において顧客自ら確認させるところにある。したがって、証券会社による説明がなされていることが前提となっている。ところが、現場の営業員においてこの点を十分認識しているのかどうか危ぶまれるとの指摘もある(26)
  そこで、この点の危険を払しょくするためには念書のとり方についても自己責任原則を保障するものとして何らかの制約を課すことが考えられてよい。銀行作成の文切り型の印刷形式によるのではなく、むしろ顧客から自発的に提出させるのが自己責任原則には沿う。
  なお、先に消極的意義として挙げたところであるが、銀行がどこ迄説明してよいかわからないから念書をとるというのでは、責任逃れの方策ということになり、右に指摘した危惧どおり、十分な説明がなされない状態を解消することにつながらない。この点の銀行の不安は、説明義務の一般基準、個別基準を銀行が採用することで解消できる筈である。

(1)  この点に関する要約については、さしあたって、乾昭三=長尾治助編  新民法講義1契約法(有斐閣一九八八年)二〇六頁以下参照。
(2)  OECD Consumer Information about Financial Services (1992).
(3)  説明義務論のアプローチ
  それでは、説明義務を解明する手法にはどのようなものがあるか、整理しておくことにしよう。
(a)  契約交渉、発展段階からのアプローチ  このアプローチでは事業者の様々な販売促進行動(誇大宣伝、押しつけ的行為、利益供与の言辞、断定的判断、推奨など)も、行なわれた説明と関連させ視野にとりくまれることになる。あるいは、問題の説明行為の十分性や不当性を解明するためには、交渉の全体的状況のなかに当該説明行為を位置づけ評価することが必要な場合もある。ここでの説明義務は「契約成立前の付随義務の一種」と解される(松本恒雄「金融商品の開発と銀行の説明義務」手形研究四四三号九頁)。
(b)  契約意思(選択・判断)確保アプローチ  あとで述べる説明義務の根拠(ア)として挙げた考え方に基づくもので、相手方に不利な事項につき説明がなされなかった部分については合意を認めることはできず、もしも、契約に拘束されるのであれば、この相手方は意思決定の機会を奪われたことを理由に損害賠償請求が認められてよい、と考えようとする(意思決定の機会が奪われたことを強調するのは、小粥太郎「説明義務違反による不法行為と民法理論(下)」ジュリ一〇八八号九四頁)。逆に、説明部分が書面の記載や契約成立後事業者において一方的に変更したところよりも相手方に有利であり、相手方が契約しているときは、その説明に事業者も拘束されるとの帰結を導きだす考え方である。
(c)  責任の法的構成と関連させたアプローチ  ((1))先に挙げた(a)契約交渉発展段階アプローチで説明義務を付随義務と性格づけるとき、その違反を債務不履行法の枠内で処理することが考えられてくる。また、((2))説明が行政法規に違反するときなどでは、その行為を不法行為として把握しやすいこともあって、不法行為の枠内で処理することが考えられてくる(松本前掲七頁)。もし、説明義務違反による自己決定権に対する侵害の側面を強調するときは、説明やその他の勧誘行為を含めて、不法行為法での展開を志向することになるであろう(小粥前掲九三頁、錦織成史「取引的不法行為における自己決定権侵害」ジュリ一〇八六号九〇頁参照)。さらに、((3))事業者による表示の不適切自体に着目して不実表示法という法領域を観念し、説明義務違反をその領域で扱おうとする考え方もありうる(長尾治助  広告表示の法的トラブル(日経広告研究所一九九一年)九八頁)。
(d)  証券取引における投資者保護規制の拡大アプローチ  銀行取引、保険取引でハイリターン、ハイリスク商品を対象とする場合、証券取引の性格との類似性から、この取引に証券取引法の規定を類推し、規制とその限界を明らかにして、相手方の自己責任とも併行して責任を配分しようとする考え方である。これと同じように、銀行による変額保険の販売に保険業法を類推適用しようと示唆する見解もある(森田章「変額保険の勧誘と銀行の民事責任」金法一四五一号二〇頁)。
  事業形態からのアプローチ  契約関係が二当事者間のときと、事業者側に複数の事業者が関与しいわゆる提携、あっせん、あるいは複合的システムが存在するとき、これらの事業者はどのような場合に、どの事項を、どれだけ説明すべきか問題とされてよい(村本武志「変額保険における銀行の責任ー融資者責任と説明義」長尾治助編  レンダー・ライアビリティ(悠々社一九九六年)一七九頁)。
  右の各説明は他の見解を排斥するものではなく、相互乗入れなり、他説をもって自説を補強する説得的活用の対象となる。
(4)  これらはさらに、比較評価項目や安全確認項目などといった特質に応じた項目に分類することができる(長尾治助  消費者私法の原理(有斐閣一九九二年)一九三頁参照)。
(5)  事業者による説明を法的義務として観念するためには、まず、事業者と相手方との関係において相手方が事業者から説明を受けることを必要とする状況が存在するという前提を認識しなければならない。その状況の在り方によって説明義務もいろいろな名称で呼ばれることになる。((1))一般的説明義務、((2))誤解解消義務(大阪地堺支判平成七年九月八日判時一五五九号六三頁((3))事件、金商九七八号三五頁、坂東俊矢「日本のレンダー・ライアビリティ関連判例一覧」長尾編  レンダー・ライアビリティ(悠々社一九九六年)四三八頁)あるいは再度の説明を勧誘者に促す義務(同上大阪地堺支判、松本恒雄「変額保険の勧誘と説明義務」金法一四〇七号二五頁二段)、((3))助言義務などである。ときには、説明義務の語を用いながら実は事業者の調査、確認ともいうべき義務を意味していることもある。右の((1))乃至((3))の説明を必要とする状況は、事業者と相手方との間で展開される、契約前、契約時、契約期間中と契約後の各段階における両者間の社会関係如何により発生することになる。
(6)  長尾治助「損害保険サービス法の再整備」立命館法学二五六号四六一頁(1)以下および四七二頁以下参照。インフォームド・コンセントの側面からの説明として、松本恒雄監修・銀行研修社編  銀行取引と説明義務(銀行研修社一九九六年)一六頁以下(大浜執筆)、椎名麻紗枝「銀行取引とインフォームドコンセント」長尾編  前掲書一五〇頁以下参照。
(7)  変額保険の事例では錯誤無効が認められやすい(東京地判平成八年七月三〇日(平成五年(ワ)六一一号、本件を千葉銀変額保険料貸付事件と呼ぶことにする)、横浜地判平成八年九月四日(同日付新聞各紙に掲載参照、本件を横浜銀・生保提携変額保険事件と呼ぶことにする)。千葉銀変額保険料貸付事件は次の事案である。
  融資先の開拓を志向するY1銀行の支店長Aが、不動産を有し相続税について心配していた高齢の農業専従者Xに、相続税対策のためと称して、生命保険会社が販売する変額保険の加入を、自らX方に出向き積極的に勧誘し、生保会社と契約させるとともに加入に要する保険料約六億円を貸付けた事案である。((1))Aが変額保険のリスクにはふれず、運用益は九%で保証されているに等しく相続が発生したとき死亡保険金で相続税とY1からの借入金を返済できるなどと述べ、相続税対策としての有利性のみを強調し、また、((2))Aから連絡をうけたY2生保会社の従業員Bも変額保険につきXに正しい説明を行なわなかったという経緯がある。((3))Xが高齢で保険に加入できないことが説得の途中で判明するや、A、Bは、直接、確実な効果のある相続税対策とはならないのに、Xの子Cらを変額保険被保険者とする契約を結ばせた。((4))XはAを信頼し、従前のAの説明から自己が死亡のとき死亡保険金が支払われるわけではないが、解約返戻金が支払われ、銀行からの借入元利金の返済に何ら問題はないものと理解した。((5))そうしてXは保険料にあてる与信債権の担保として、Xの不動産に抵当権を設定したが、((6))その一年後、変額保険の運用の結果、一億円の損出が発生したものである。
  判決は、Xが銀行から借入れて保険料を支払い、Cらを被保険者とする変額保険契約を締結しても、その運用益と解約返戻金で借入元利金の返済ができると信じて契約することの動機は、A、Bに表示されていることを理由に、変額保険加入契約および抵当権設定契約が要素の錯誤によるものとして無効とした。なお本件ではXに重過失は存しない。
(8)  長尾前掲「損害保険サービス法の再整備」四六七頁。
(9)  後出注(9)の事案参照。
(10)  釧路簡判平成四年一月二三日NBL四九四号四八頁、長尾治助  判例クレジット法(法律文化社一九九五年)〔一六〇〕五八頁。
(11)  福島良治「デリバティブ取引の説明義務(下)」金融法務事情一四四五号三五頁〔表3〕は、取引経緯、取引目的、取引金額、顧客の属性(投資経験・理解力・判断力)、商品の属性を挙げ、これら項目の内容が変ることにより、説明義務に軽重が生ずることを示そうとしている。また、今西康人「金融商品の紹介と銀行の説明義務」私法判例リマークス一九九四〈下〉第九号三七頁は、ハイリスク・ハイリターンを伴う金融商品を対象とする事業者による取引を念頭において、裁判例を参考として九項目を摘出していて参考になる。
(12)  大阪地判昭和六二年一月二九日判時一二三八号一〇五頁の事例(長尾治助編  レンダー・ライアビリティ(悠々社一九九六頁一六四頁)。
(13)  東京地判平成四年一一月四日金法一三五八号六〇頁の事案は、普通預金、当座預金から銀行員の依頼に応じてなされた定期預金への振替え、設定にあたり普通預金、当座預金の残高がマイナスになり逆ザヤが発生しその分顧客に損害が生じたものである。そこで、銀行員によるオーバーローン不開示の勧誘の一事例と扱ってもよさそうに思える。しかし、そのような手法を用いれば銀行はオーバーローンを限りなく拡大させることが可能となる。この場合、経済的損失は利息の差として表われるが、重要なことは、顧客を債権者(預金者)から債務者へと変えるということであり、経済的損失の賠償だけでは償えない損害が生じているとみるべきではあるまいか。説明義務を尽していないということは顧客を欺いている場合もあるということであり、不法行為法的処理になじむ場合がありうる。
(14)  先物予約を併用しないインパクト・ローンは債権債務が外貨建であるところから、為替相場の変動のリスクを顧客が直接的に負担することになる。加えて、金利についても変動方式がとられることがあり、その場合には金利負担の予測さえもつきにくいことがあり、専門的、技術的要素にとみ、危険性をはらむ融資方法とされている(前出大阪地判昭和六二年一月二九日)。そこで、銀行としては、あらかじめこの金融商品の仕組み、市場金利、相場性と危険性および顧客がリスクを回避するための対処策として先物予約を併用する方法を説明事項にとりあげなければならない。
  次にどのように、また、どの程度するかは、当事者関連要素である顧客の外国為替に関する知識、経験が低ければ説明度は大となる。行為関連要素として、この商品の使用を銀行が提案したのであれば説明度は大となる。元来が国内取引のための融資でインパクト・ローンを利用する必然性がないとき、強いてこれを利用させるにはそれなりの合理的理由を挙げなければならない。そうでなければ銀行と顧客間の間には不当威圧に相当する状況があったことを推定させる。
  また、顧客が事業者であっても無知識、無経験であるとき、説明に長時間をさいてよく決して即答を求めてはならない。かつ、顧客からこの種取引に入る意思の有無を知らされるまで、熟慮するに必要な期間をおくなど慎重に行動するを要する。
  判決事案を比較検討するものとして、潮見佳男「最近の裁判例に見る金融機関の説明・情報提供責任」金法一四〇七号一〇、一一頁。
(15)  新版註釈民法(14)債権(5)(有斐閣一九九三年)一二七頁ー一三一頁(長尾執筆)に概説されているところ、および、長尾編  レンダー・ライアビリティ一二二頁を参照されたい。
(16)  松本監修前掲書一六六頁(永田執筆)。
(17)  これを外観行為帰責の原則という(長尾前掲  広告表示の法的トラブル一五五頁、大阪高判平成六年九月三〇日判時一五一六号八七頁参照)。説明義務に関する大阪地判平成七年一〇月一七日(未公表、村本前掲一九三頁)の判示からもこの原則に共通する考え方を読みとることができる。なお、前出注(10)の判決参照。
(18)  前出注(17)掲記の判決参照。
(19)  原野商法タレント広告事件である。本件については、長尾  広告と法(日本評論社一九八八年)二三六頁を参照されたい。
(20)  長尾編  アドバタイジング・ロー(商事法務研究会一九九〇年)一四八頁の指摘も参照されたい。
(21)  長尾編  レンダー・ライアビリティ一三五頁以下、一四三頁など参照。
(22)  客観的基準の必要性が金融実務の立場からも要請されている(座談会「金融取引における説明義務とは何か」金法一四〇七号五八頁(堀発言))。
(23)  大阪地裁堺支部判平成七年九月八日金法一四三二号三五頁、((2))につき松本恒雄「変額保険の勧誘と説明義務」金法一四〇七号二五頁など。
(24)  金法一三三三号四七頁一段。
(25)  注(22)座談会五七頁(峯崎発言)。
(26)  松原正至「投資勧誘における自己責任原則・適合性原則・説明義務ーワラント訴訟を契機として」島大法学三八巻四号六〇頁。
〔付記〕  本稿は一九九六年七月六日に開催されたシンポジウム「銀行の説明義務」において行なった講演に注等を加えたものである。脱稿後にも以下のように多々研究が発表されている。石川正美「裁判例にみる変額保険の勧誘と銀行の関与ー横浜地判平八・九・四を契機としてー(1)(2)(3)」NBL六〇二号四七頁、六〇三号五〇頁、金融法務事情一四六五号所収の特集・「検証  変額保険訴訟」の各論稿と判決速報。
  なお、本稿で言及した判決はその後次の法律雑誌に掲載されている。
  富山地判平成八年六月一九日金法一四六五号一一〇頁、判時一五七六号六一頁、八七頁以下((3))事件
  東京地判平成八年七月三〇日金法一四六五号九〇頁、判時一五七六号六一頁、一〇三頁((5))事件
  横浜地判平成八年九月四日金法一四六五号五六頁