立命館法学  一九九六年六号(二五〇号)一三八九頁(四九頁)




包括根保証の責任制限
−「意思の解釈」という判断基準について−


中井 美雄






一  は  じ  め  に

  根保証契約に基づいて保証人の負担すべき責任について、その範囲を限定することが裁判例においてもしばしばみられる。しかし、そこに用いられる責任限定法理はかなり多様であると言わざるを得ない。そのなかの一つに当事者の「(合理的)意思解釈によれば」という基準の示されることがある。根保証契約において保証限度額が定められなかったが、同時に設定された根抵当権設定契約において極度額が定められている場合、保証人の責任限度額はこの根抵当権の極度額との関係においてどのように捉えられるかという問題について、最近の最高裁判例にもこの法理を用いるものが現れている。保証限度額は根抵当権の極度額と同額になるのか否か、また保証責任の限度額と根抵当の極度額とは累積的な関係にたつのか、あるいは非累積的であるのかが問題となった事例であるが、ここにおいても、「合理的意思解釈によれば」という基準が用いられている。
  最高裁平成六年一二月六日判決(判時一五一九号七八頁)は、「本件保証契約は本件根抵当権設定契約と同時に締結されたものであり、右各契約はいずれも信用組合取引約定によりX(被上告人)がAに対して取得する債権の回収を確保するためのものであったところ、この事実と前記のような各契約の締結及び極度額設定の経緯を併せ考えれば、本件保証契約の文言上限度額が明示されなかったとしても、客観的には、その限度額は本件根抵当権設定契約の極度額である一二〇〇万円と同額であると解するのが合理的であり、かつ、本件保証契約は、保証人の一般財産をも引当てにして、物的担保及び人的保証の両者又はそのいずれかから一二〇〇万円の範囲内の債権の回収を確保する趣旨で締結されたものと解するのが合理的である」と判示した。すなわち、問題となった事例のもとでは、根保証人の責任限度額は同時に設定された根抵当権の極度額と同額であること、この両者は非累積的であると判断したものである。
  この判決の結論は妥当であると言わざるをえないであろうが、この判断をもたらす意思解釈の合理性はなにによって担保されているのであろうか。包括根保証とはなになのか、包括根保証の社会経済的有用性ないし必要性、根保証契約による債権回収に対する債権者の期待内容、わが国の保証制度の実態と保証人の責任制限の必要性など、検討すべき点が多いように思われる。
  先の最高裁平成六年判決の事実関係は以下のようなものである。根保証人Yは主債務者Aの元の妻であり、Aの経営するコンビニエンス・ストアで従業員として働いていたが、Aが従前からX信用組合との間で締結していた信用組合取引約定に基づき八〇〇万円の追加融資を受けるに際し、新たに保証人兼物上保証人になることを依頼されて、これに応じたものである。根抵当権設定契約において定められた極度額は一二〇〇万円である。このように極度額が設定された経緯は以下のようなものである。A・X間の信用組合取引約定による債務額が従前の債務八五〇万円と新たな貸金八〇〇万円との合計額一六五〇万円となるが、他方、AがXに預けていた定期預金が五〇〇万円あることを考慮して、一二〇〇万円の根抵当極度額を設定すれば十分であるという考慮の下に決められたものである。ただ、同時に締結された根保証契約書には限度額の記載欄自体がなかったものである。その後、Yの抵当不動産は競売され、二番抵当権者であったXも極度額である一二〇〇万円の弁済金の交付を受けたが、Xは更にYに対して残債務の存在を主張して根保証人としての責任の負担ー残債務の支払いを請求した事件である。一審はXの請求を棄却したが、原審は(1)本件保証契約は、XとAとの信用組合取引約定によりAが負担する現在及び将来の一切の債務をYが連帯保証する旨の条項を含むものであり、契約書上保証期間及び保証限度額の定めはない、(2)YとXとの間で本件保証契約が締結された際、Xの担当者はYに対し、この保証はAが新たにXから融資を受ける八〇〇万円の支払いのみを保証するものでなく、本件証書貸付金の残金八五〇万円のほか、Aが信用組合取引約定に基づいて将来Xに対して負担する債務を含めて連帯保証するものである旨を説明し、Yはこれを十分認識していた、(3)XとYとの間では、本件保証契約と同時に極度額を一二〇〇万円とする本件根抵当権設定契約が締結され、右極度額は、本件証書貸付金の残元金八五〇万円とXがAに新たに貸し付ける八〇〇万円の合計一六五〇万円から、AのXに対する合計五〇〇万円の定期預金債権を差し引いた額に見合うように定められたものであるが、この一事をもつて、本件保証契約における当事者の意思解釈として、右極度額と同額を保証限度額とする旨の定めがあったものと推認することはできず、Yに主債務の全額につき責任を負わせることが信義則に照らして不合理であるとも認められない、としてYに二七七万円余の支払いを命じた。これに対して、最高裁は、右に延べた理由により、原判決を破棄し、第一審判決に対する控訴を棄却したものである。

二  包括根保証人の責任制限法理


  (1)  包括根保証という概念の内容如何、またこのような概念を認めるべきか否かについて議論がないわけではない。石田喜久夫教授は、「包括根保証といういささか不分明な言葉は使用されるべきではなく、期間の定めのない、限度額の定めのない、という限定を付して、それぞれにつき根保証の効力を考えるべきではないかと思う」と述べている(1)。ただ、いずれにしても、法的には「包括」根保証契約の有効性は認められているといわざるを得ないであろう。
  (2)  包括根保証の場合の保証人の責任制限に関する判例法理のなかで「意思の合理的解釈」を論拠としている判例を概観すると−
  ((1))大判大正一五年一二月二日(民集五巻七六九頁)  訴外AとX銀行(原告・被控訴人・被上告人)との間で、二千円を極度とする当座貸越契約が締結された際、Y1・Y2がAの債務につき連帯保証人となった。原審は、Y1らは極度までの金額だけではなく、X銀行が極度を超過してAに貸与した金額についても保証したものとして、Aに対する貸越額六万二千六百円余のうち、Aが弁済した金額を控除した五万八千四百円余につき、Y1らに支払いを命じた。大審院はこれに対し、「第三者が一定の極度を定めたる信用契約の一種に属する当座貸越契約に基く債務を保証したるときは其の極度を超過したる部分の債務に付ては責任なきは言を俟たざる所にして偶其の契約に於て與信用者が極度を超過して受信用者に信用を與ふることある旨を約し第三者が此の部分に付ても保証を為したりとするも特に其の超過せる部分が如何に多大の金額に達するも尚且之を保証する旨の意思表示なき以上は当事者の意思は取引の通念に於て相当なりと認め得べき範囲内の債務に限り保証するの趣旨に過ぎざるものと為すを以て相当なりとす」と判示した。一定の極度を定めた当座貸越契約において、時に、与信用者である銀行が極度以上の信用を受信用者に与えることある旨を約するのは、受信用者が取引停止もしくは解除の処分を受け再び立つことができないような境遇に陥ることを免れしめる、すなわち受信用者を特に保護するため止むを得ない場合か、あるいは銀行がその超過貸出部分を速やかに回収しうる見込みの確実な時にするものであって、畢竟例外的な行為なのであるから、与信用者たる銀行が極度を超過して信用を与える限度は自ずから制限せられ、その範囲は取引の通念に照らして相当と認められる部分に止まるものである。もし、これに反して与信用者において極度を超過して信用を与えることに関し特に制限がないことを理由に放漫なる貸出をなし、その金額が如何に多くとも保証人は尚且つ責任を負うとするならば、むしろ当初より一定の極度を定めないで貸越契約をすべきであり、一定の極度を定めた以上は、当事者の意思は前述のとおりであることは実験則に照らしても疑いのないところであるという。本件では、原審は極度を超過すること約三十倍にも達する多大の貸出金について、保証人の責任を肯定しているが、よしんば保証人が銀行が貸越限度額以上に貸越をしている事を知っていたとしても、この一事を以て、契約当時本件の如き多大の貸越金についても特に保証人として、弁済の責任を負担する意思を表示したとは到底認めることはできないとしたものである。保証人の一人はX銀行の行員であり、銀行が極度を超えて貸出をしていたことを知っていたようであるが、X銀行とAとの当座貸越契約において二千円という極度を決めていたこと、貸越超過額が三十倍にも及んでいることを考慮して、保証人の責任負担の意思のないことを認定したものである。
  ((2))大判大正一三年一二月二八日(判決全集六輯四号三三頁)  本件の事実関係は以下の通りである。被上告人Xは日用品雑貨類の販売を業とする商人であり、訴外Aらに対し米・醤油・日用品を掛け売りで販売してきたが、これら売掛代金の支払いが未済のまま相当多額に及んだので、その支払いを厳重に督促し今後Aらに対する日用品の供給を差し止めるという意向を表明した。当時Aらは、上告人Yに雇われて大理石の採掘に従事していたが、Xの意向を受けてAらはYに依頼し、X・Y・Aら三者協議の上、YはAらに支払うべき賃金をもってXに支払うべきAらの日用品の買受代金の支払いに振当て、直接Xに支払うことにした。その際、YはXのAらに対する日用品の売渡代金の弁済確保の趣旨をもって保証契約を締結したものであるとし、その範囲が問題となった。原審は、この保証の内容について、Aらの従前の買受代金の延滞分は勿論、爾後Xより供給を受ける日用品の売掛代金についてもYは全部保証の責任を負担する趣旨の契約が成立したと認定した。
  このように保証責任の範囲が問題となつたが、大審院は以下のように判示した。「保証契約締結せられ其保証の範囲又は限度に付争の存するときは宜敷く保証人が保証を為すに至りたる原因は勿論契約後に於ける一切の取引関係の事情を審査し其真実発見の一資料と為すへきものなるや多言を要せざる所なり。而して原審確定の如き保証原因の下にありてはYの訴外Aら人夫に支払ふへき採掘賃料の限度に於て其保証を為すを以て通常とする所なり。他人の債務特に将来の取引より生ずる債務にして其の数額の予定することを得ざるものに付無限に之か保証の責任を負担するには主たる債務者との特別なる人的関係の存するありて其の然るか又は他に特別なる事情の存在せざるべからず。本件に付て之を言へばYが無限に保証責任を負担せざるに於ては引て人夫使用に支障を来し自己の経営する大理石の採掘事業の不能となるか又は甚しる(ママ)艱難に陥るかの特別事情の存したるものならば原審の認定したるが如き保証も亦首肯するに難からざるべし。然るに原審は何等首肯するに足るべき特別事情の認定を為さず前記認定の保証原因の下に漫然本件保証の責任範囲を確定したるは理由不備の不法に座するものと言はざるを得ず」。
  本件では、YがAらに支払うべき採掘賃料の限度での保証という趣旨を重視し、また、Yの発行した伝票による取引が日用品取引に際して用いられたか否かの確定を怠っていることを指摘している。
  ((3))大判昭和一三年三月九日(判決全集五輯七号三頁)  本件では、訴外Aと被上告人X酒類醸造会社との酒類特約販売契約に基づきAが現金取引上Xに対して負担する債務に付き上告人Yが連帯保証をした場合のYの保証責任の範囲が問題となった。本件の特約販売契約書には「本契約ノ規程ニ拘ラス甲(被上告会社)ニ於テ乙ノ便宜ヲ計ルコトモ本契約ノ効力ヲ妨ケス」という条項があり、このことの意味が問題となった。原審は、この規定によって、X会社がAに対し代金支払の猶予を為すことは毫も妨げないことを定めたものであるとして、Aと代金支払遅滞のまま取引を継続しても現金取引であることには変わりはないとしてかかる取引から生ずる代金債務についても保証責任があると判示した。これに対して大審院は原判決を破棄し、控訴院に差戻した。その理由は「取引上将来生ずべき他人の債務に付保証を為す者は其の責任の過大なるを欲せざるや其常とする所にして責任限度を一定の額に限り又は取引に一定の制限を付するも其の責任を限定する趣旨に外ならず。現金取引により生ずる債務の保証よりは延取引又は掛売取引より生ずる債務の保証は其実際に於て責任に重大なる結果を来すことある可きは多言を要せざる所なるが故に保証の目的たる取引が現金取引と限定せられある場合に於ても本契約の規定に拘らず売主が買主の便宜を計ることあるも本契約の効力を妨げずとの付帯の定めは特別なる事情の認むべきものなき限り現金取引の性質を失わざる範囲内に於ける便宜の取計いより生ずる結果に付てのみ保証人は其責に任ず可き趣旨なりと解せざる可からず」というにある。Xが、Aの送金遅滞を予知し、これを黙認して更に取引を為し、このような状態の取引が継続された場合には、実質上延取引又は掛売取引に外ならないのであるから、このような取引上の債務については保証人は責任を負わないとしたものである。契約の内容を限定的に解釈し、保証人の責任を限定している。
  ((4))東京高判昭和六三年七月二九日(金融法務一二二七号三七頁)  X信用金庫は、昭和五六年五月一二日頃、Aに対し一千万円を貸し付け、その際、Yは連帯保証人兼担保提供者として、金銭消費貸借契約書、信用金庫取引約定書、根抵当権設定契約書(極度額一千万円)に署名・捺印した。さらに、Aの依頼で、Yは自分が代表取締役となっているB会社名義の約束手形をAに貸与し、Aは当該手形をXに裏書譲渡して手形割引を受けていたが、Aは昭和五七年七月頃不渡手形を出した。当時、XはAに対し一億五千万円の手形貸付をしていたので、その回収のためAに対し貸金を昭和五七年七月から同六五年一一月までの間に分割弁済することを約束させるとともに、YがB会社名義で振出し現にXが割引等によって所持している金額合計四六四五万円余の約束手形を書き換えるようAに要求した。そこでAはYに対し手形の書換えを依頼し、X・Y・Aは話し合った結果、YはAを介してB会社名義の約束手形一〇二通合計四六四五万円余とYの印鑑証明書をXに交付した。AはXに対し一億五千万円を分割弁済することを約し、昭和五七年九月三〇日頃、Xとの間で信用金庫取引契約を締結し、Yは同日頃Cと共に契約書の連帯保証人欄に署名・捺印した。Xは同日頃Cを連帯保証人としてAとの間で右一億五千万円の債権を目的として準消費貸借契約を締結したが、Yには前記書換手形の手形金額の限度で連帯保証人の義務を履行してもらおうと考えていたので、右の準消費貸借契約書の連帯保証人欄にはYの署名・捺印を求めなかった。その後、Aは昭和五八年一月八日頃二回目の不渡手形を出し銀行取引停止処分を受け、翌二月頃行方をくらませてしまった。YらはXの請求により昭和五六年五月一二日の貸付金元利金を弁済し、Y所有の建物及びYの母所有の土地に対する根抵当権設定登記の抹消がなされた。AがXとの間で昭和五七年九月三〇日に締結した準消費貸借契約に基づき負担する債務一億五千万円の残額一億三百六万円余の債務につきXはYに対し、B会社振出名義の約束手形金額四六四五千万円余の範囲内である四六一五万円余の支払いを求めた。この事件では、Yが昭和五七年九月三〇日作成の信用金庫取引契約書の連帯保証人欄に自署・捺印していることを認め、根保証契約の有効なことを認定した上で、その責任の範囲を書換手形の金額の限度で認めている。「YはAとX間の手形は手形割引、証書貸付、当座貸越、債務保証その他いっさいの取引に関して生じた債務についていわゆる根保証をしたこと、右根保証の保証額の限度につき保証文言上何等の制限も付されていないことが認められるが、そのような場合でも信用金庫取引契約の性質より考えて保証額の限度につき合理的意思解釈をし相当の限界を定めるのが相当である」としつつ、「認定事実によれば、Xは本件信用金庫取引契約締結に先立ってYの保証分としてYからB会社振出名義の約束手形一〇二通、金額合計四六四五万四五四五円を徴していることが認められるので、該契約に基づく根保証の限度額は四六四五万四五四五円とするのが相当であるとした。
  ((5))仙台簡判平成二年一一月一五日(判時一三八九号一二六頁)  原告X信販会社は、Aとの間でクレジット・カード利用契約を締結するとともに、被告Yとの間でXが立替払をしたAの債務につきYが連帯保証をする契約を締結した。XがYに対し、連帯保証契約に基づきAのカード利用代金及び手数料の支払いを求めた事件である。本件では、カードの利用限度額が三〇万円と定められていた。判決は以下のように言う。「およそ債務の保証責任の及ぶ範囲は当該保証の趣旨により定まるものであることは勿論であり、本件の如き継続的契約関係において将来生ずべき債務についての包括的保証の趣旨は、特別の意思表示のないかぎり、基本である契約の趣旨に則るものと解するのが相当である」とし、本来、本件会員契約の内容によると、「Aのカード利用限度額は、代金残高が三〇万円に達するまでとし、その合計が三〇万円を超える場合には、その超える金額については現金で支払いをなすものであることを本則とし、Xは利用限度額を超えて立替支払いをなすべき契約上の義務がなく、またXが特別に認めた場合は、Xの指定する支払方法によることを取引の常態としているものであって、Y保証に係る立替金債務についても、会員規約第一項四号の『連帯保証人は・・・会員規約を承認の上、会員のカード利用により生ずる一切の債務について連帯して責任を負うものとします』との定めにより例外的に利用限度額を超えてカード利用ができるものと予定されてはいるが、この場合においても速やかに限度額を超える金額を請求し、前記の常態を維持することを予定しているのが、本件契約における客観的に明示された合意の趣旨とするところと認めるべきである。
  したがって、別途に立替払契約が結ばれていないのにXがAに対し利用限度額を超える金額の入金を直ちに受けることの処理をしないであえて貸越常態の継続を認めて立替払いをし、また速やかな利用限度額を超える金額の入金を見込んで立替払をした場合でも、利用限度額を超える金額の入金がなされていないにもかかわらず、更にその後のカード利用についても立替払いの方法により支払いを継続して、あたかも立替払契約が結ばれているのと同様に、利用限度額の定めがない恒常的な貸越状態を生ずるというような異常な事態は本件契約の本来予定しないところというべきである」として、Yの連帯保証責任を認めなかった。
  ((6))東京地判平成四年七月二九日(金法一三五三号三五頁)  A会社は、事業経営のために原告X金融会社から融資を受けていた。借受総額は一億二五〇万円であったが、A会社の代表者B及びその母Cは、借受けの都度Xに対し、A会社の債務をそれぞれ連帯保証しCは、Xのため、その所有不動産に極度額一億二千万円の根抵当権を設定していた。Bはその後、Xに対し、A会社に追加融資をするよう求めたところ、Xは、追加貸付の条件として資力ある保証人を追加するよう求めた。そこでY女に連帯保証人になることを依頼し、Y女は「連帯保証人は、主債務者が貴社との手形・小切手貸付、手形・小切手割引、証書貸付、債務保証、その他一切の取引によって現在及び将来負担する債務のうち右記根保証の範囲欄記載の債務(五千万円)を限度として、各条項を承認のうえ主債務者と連帯して債務履行の責を負います」という不動文字で印刷された書面に署名捺印をした。
  Y女は以前C所有の貸家に入居していたのでCと面識があるという程度の関係であり、X・A間の金融取引については何の知識も有していなかった。また、Y女は大正八年生まれであり、身体の不自由な弟と二人で暮らしており、長らく公務員として区役所に勤務し、退職後は無職で、資産といえるものは自己の居住している土地建物のみであった。Y女は、平成三年一月一一日にCおよびX会社の従業員Dの訪問を受けた。その際、Cは、Bが代表者をしているA会社が絨毯を輸入する仕事を計画しているとして、持参したカタログを示して輸入予定の絨毯の説明をし、場所を借りるための保証人ではなく、輸入資金借入のための保証人になって欲しいと申し入れた。Yは、話が違うと思ったが、他に保証会社が第一順位の保証人になる旨の説明を受けたことから、その場で右借入のための保証人となることを承諾したものである。Dは、自分がX会社の従業員であること、XがA会社に既に一億円以上の貸付をしていること、Yの根保証は既存の債務に及ぶといったことの説明は一切しなかった。また、Dは、根保証約定書の第三条を読み上げたり、同条の趣旨を説明したりすることをせず、Yが契約書を検討するための時間的余裕を与えることもせず、右書面の写しをYにその場で交付することもしなかった。さらに、Yが本件根保証約定書に署名押印をした当時、それらの書面の主債務者欄にはA会社の署名押印はなく、Xは、その後もA会社に対し、各書面に署名押印するよう求めたことはなかった。A会社は、折からの湾岸戦争の勃発により、予定していたペルシャ絨毯の輸入を断念したため、Xに対し追加融資を申し込むことをしなかったし、そのことの故に、B、C、YいずれもYの保証債務は発生しないと考えていた。このような諸事情を認定し、判決は、本件根保証は、A会社の将来の債務を担保する趣旨で締結されたものであり、既存債務を含むと認めることはできないとした。追加貸付のための連帯保証人の徴集であることが認められたものである。
  ((7))以上の諸事例はその事実関係や契約時の諸事情を考慮すると、契約内容を判例のいうように理解することの可能な事例が総てであるといえる。ただ、先に挙げた最高裁判決平成六年判決のような事例、すなわち根保証契約と根抵当権設定契約とが同時になされ、根抵当権にはその極度額が決められているが、同時に締結された根保証契約には限度額の定めがない場合に関して、根保証人の責任限度額は根抵当権の極度額と同じであり、また、両者は非累積的であるという判断をした事例はこれまでにはなく、興味をひくものである。しかも根保証人が契約を締結するに至った経緯を詳細に検討して、「意思の合理的解釈」を根拠に契約の内容を判断した事例として興味深いものがある。こうした事例の場合、一般的にいえば、当事者の意思内容は異なる評価も可能であるからである。従って、最高裁平成六年判決の評価についても種々のものがみられるのは事実である。

三  最高裁平成六年判決の意義と評価


  (1)  まず、実務家の見解をみると、例えば、石井眞司氏は、本判決がその客観的な結論を導き出した根拠を当事者の合理的な意思解釈に求めている点を取り上げて、その前提となる事実関係が問題となろうとする。すなわち、根保証契約と根抵当権設定契約とが同時に締結されていること、両契約の被担保債権の範囲がいずれも信用組合取引約定によるもので同一であること、当事者(債権者・債務者・保証人=設定者)が同一であることを当然の前提とした上で、根抵当極度額を一二〇〇万円と定めるに至った事情として、X信用組合が具体的に想定される融資額一七〇〇万円から主債務者の定期預金五百万円を差し引いた額の範囲内で保証人Y所有不動産の担保価値を把握すれば足りると考えていたとの事実を認定して意思解釈をしている点に注目している。この結論はやむを得ないところであると考えられるとしつつも、累積か非累積かという問題については、根抵当権の極度額について特約をしても無効であることは勿論であるが、根保証に関する特約は原則として自由であるから、根保証約定書のなかで根抵当権と累積関係に立つこと、根抵当極度額を超える融資についても根保証をすることを明確に特約しておくことによって累積の効果を確保できるとの見解を主張している。根保証が根抵当極度額とは別の限度額を定めた限定根保証であれば、さらに確実な効果を期待することができると主張している。ただ、注意すべきは、特約だけ明文化しても融資の実体を伴わない場合には、合理的な意思解釈によって保証人の責任範囲は縮減されるおそれがあることを指摘し、そのような事態を避けるためには、根抵当と根保証の極(限)度額が累積でなければならないだけの具体的な融資額が想定されていて両契約が締結された事実関係を後日説明できるようにしておくことが肝要であると述べている(2)
  また吉田光碩氏は、累積か非累積かという点を特に取り上げて、最高裁平成六年判決が「保証人保護の観点から累積主義を採用しなかったのは、やむを得ない結論といえよう」としつつも、「累積」特約の可能性については、「根抵当と根保証の同時設定の場合は、両者は互いに非累積的になること、および極度額ないし限度額についても債権極度額であることを前提に根保証契約をするべきだと考える。そしてそのうえで、根抵当の極度については、根抵当物件の客観的な評価に見合った極度とすると同時に、根保証の限度額については、根保証人の信用力を加味して、金額的には根抵当極度額より少し大きいめの額にしておくのがよいのではないかと考える」と述べている(3)
  平成六年判決は、根抵当と根保証の併用ケースにおいて、契約締結の経緯を詳細に検討して、その具体的事実関係の下で根保証の限度額は根抵当の極度額と同額であること、この両者は非累積的であると解することの合理性を認めている。しかし、一般論として言えば、根保証と根抵当との併用ケースにおいて、前者の限度額と後者の極度額とは常に同じであると判断しなければならないものでもないし、また、累積であるか非累積であるかについても論議の存することは明らかである。
  大西武士氏は、平成六年判決の特徴的な事実として、((1))保証人は主債務者が経営するコンビニエンス・ストアの単なる従業員にすぎない、((2))保証人は右ストアに出資しているわけではなく、その他保証料等の反対給付もなく、保証によって何らメリットを受けていない、((3))保証人が当初から個別保証を希望していることをX組合は了知していた、((4))一個の貸出において包括根保証と同時に根抵当権を設定した、((5))根抵当権の極度額を決定するにあたって、将来の想定貸出金残高合計額から預金額を控除して決定したという諸事実を挙げ、このような事実に依拠した当事者の合理的意思解釈論を展開して本判決の結論を導いていると評価し、判決の結論の妥当性は認めざるを得ないとしつつ、六年判決の射程距離を論じている。大西論文は、本判決の妥当範囲に入るものとして、根抵当権設定契約証書に根抵当権設定者兼連帯保証人として署名した場合、同一貸出に際して同時に根抵当権設定契約と包括根保証契約を別冊で締結し、特別の意思表示のない場合を挙げ、その範囲に入らない場合として、同一貸出に際して同時に根抵当権設定契約と包括根保証を別冊で締結し、かつ、特別の意思表示(限定根保証とならないこと、累積式になること)があった場合でその特別の意思表示に合理性のある場合や、別冊保証約定書を徴集する場合に、「保証人が債務者と貴行との取引についてほかに保証をしている場合には、その保証はこの保証によって変更されないものとし、また、ほかに限度額の定めのある保証をしている場合には、その保証限度額にこの保証の額を加えるものとします」という特約をし、その特約に合理性のある場合を挙げている。こうした特約の合理性の判断にあたっては、主債務者と保証人の関係(主債務者が会社で保証人がその代表者である場合とか、主債務者と保証人が共同事業経営者である場合等)、特約の意図するところ(貸出額より担保物の価格が少なく、保証をもってカバーせざるをえない場合等)、保証人の受ける利益(保証料を受け取っている場合とか、相互保証をしている場合等)といった諸事情を綜合勘案すべきであろう、としている(4)
  金融機関が、物上保証人に連帯保証人を兼ねさせる意図は、物的な担保についての付随的なものとして保証をランクしているのではなく、積極的な意義を求めているのではないか、すなわち、多様な債権回収手段を確保する、担保として提供された物件を毀損させないようにする、執行妨害を根抵当権設定者にさせないなどのさまざまな意図があるが、それらを視野に入れないで、保証の補完的作用にのみ着目して「当事者の意思解釈」であるとするのは納得しがたいという批判もある(5)。「当事者の意思」を問題とする場合、このように債権者の意思をも問題にすべきであるという見解は一般論としては容認すべき側面を有することも否定できない。実務関係の見解は、その多くが、平成六年最高裁判決の結論の妥当性は認めつつも、この判決の見解の射程距離は根抵当と根保証の併用ケースすべてに及ぶと考えていないといえよう。
  (2)  「一般に『当事者の意思の合理的解釈』という場合、当事者の意思を推認させる複数の事実を『経験則』に照らして矛盾なく−その意味で『合理的に』−捉えることによって『事実的意思』(と仮に呼ぶ)を確定することと、複数の事実を一つまたは複数の規範的な評価基準の篩にかけ、その間に軽重の差をつけあるいは一部の事実を切り捨てることによって、その評価基準に照らして『合理的な意思』(仮に『規範的意思』という)を確定することとを一応区別することができる」とする見解がある(6)。この点は確かにそのようにいえるであろうが、わけても根保証人の責任範囲の画定にあたっては、後者の判断が重要であるといわなければならないであろう。西村信雄教授は、その著「継続的保証の研究」において、わが国における保証契約の特徴、すなわち利他性・情義性・無償性・永続性・広汎性をあげて、保証人の責任を「信義則に照らして合理的な範囲に制限すべきこと」を主張された。この保証人の責任の「信義則に基づく合理的制限」は、一つの評価的規範といわざるをえないであろう。むろん、保証契約の有効性そのものを「要素の錯誤」法理を用いて否定する例もみられる。例えば、京都地判平成五年一〇月二五日(金融・商事判例九四九号三〇頁)は、保証が五〇万円の債務についての単純な連帯保証か、五百万円を限度とする根連帯保証であるかは、法律行為の内容、性質に関する重要な部分であり、この点に錯誤のある根連帯保証契約は無効であるとして、保証人の責任を認めなかった事例がある。根保証人の保証責任の範囲に関する「意思の解釈」論は、保証契約の有効性を前提としつつ、保証債務の範囲を合理的な範囲に限定するための法理である。根抵当が併用されている場合、根保証人の責任限度額を根抵当の極度額と同額とすることが、根保証人の責任限度額を画する合理的基準とみうるかどうかの問題である。ここにおいては、根抵当と根保証、それぞれの制度目的あるいは金融取引上の機能の検討がなされなければならないであろう。
  (3)  継続的取引の代金債務について、限度額および期間を定めずに連帯保証をした者の責任については、当該保証のなされた事情、保証される取引の事情、当該取引の業界における一般的な慣行、債権者と主たる債務者との取引の具体的態様・経過、債権者が取引にあたって債権確保のために用いた注意の程度(主たる債務者の資力、信用状態の把握等)等一切の事情を斟酌し、信義則に照らして合理的な範囲に保証人の責任を限定すべきであるという見解が多い。特に、継続的保証における保証人の責任に関しては、わが国における保証制度の実態からみて、それを制限的に解することが一つのポリシィーにもなっているといって過言ではない。わが国の保証が、無償性・情義性・未必性(責任範囲の広汎性)等の性質を帯びることを挙げて、保証人の責任制限を主張する見解が有力である。責任限度額や責任を負う期間について特に限定のないいわゆる包括的な継続的保証の場合は、そのポリシィーが表面化することが多いといわざるを得ない。
  (4)  今一つ、包括根保証人の責任制限を考える上で検討を要する問題は、人的担保としての根保証と物的担保である根抵当との関連・異同ということであろう。確かに、銀行取引等において根保証制度の利用されることが多いにもかかわらず、根保証そのものに関する法律上の規定はない。一時(一回)的であり、債権額の確定した債務に関する保証については民法上に規定が置かれているが、根保証に関する規定はない。根保証に関する法的紛争の解決基準は専ら判例や学説の展開に委ねられていることも事実である。今日、銀行の継続的与信取引においては、限定根保証が原則的になりつつあり、包括根保証判例が法として機能する実際上の領域は狭まりつつあるという評価もある(7)。今日の金融実務において、継続的保証を徴する場合は、限度保証を利用するのが通常であり、包括根保証を利用するのは、その内容の過酷さからして、企業のオーナー的地位にあるような主債務者と実質的に同視できる者に対してのみ限定的に利用されるのが実情であるとするならば、最高裁平成六年判決のような事例の場合には、形式的には包括根保証人になっていたとしても、その責任の範囲を限定的に解することに合理性があることは否定できない。
  根抵当の極度額はいうまでもなく、根抵当権の枠として、優先弁済権の最高限度額と順位を示すだけではなく、根抵当制度における根幹的な概念としての役割を果たすものであり、排他的支配権たる担保物権の公示という本質的な要請があり、しかも今日では債権極度額を定めるものとしてその性格は明確にされている。他方、根保証の場合は、契約自由の原則が支配する債権の分野での当事者の合意の一内容を示すものであることは否定できない。従って、根抵当権が併用設定されている場合であっても、根保証の責任限度額を別個に定めることはそのこと自体自由であるともいえる。根抵当の極度額を一千万円としつつ、根保証の限度額を千二百万円と設定することもあながち有効性をもたないとは言えないであろう。しかし、根保証が包括的であり、それが根抵当と併用された場合、前者の限度額と後者の極度額とが同一であると言いうる根拠はどのようなものであろうか。融資に際し、根抵当権設定契約証書に根抵当権設定者兼連帯保証人として署名する場合、あるいは同一貸出に際して同時に根抵当権設定契約と包括根保証契約を別冊で締結する場合、また別冊で締結しつつ、根保証が限定根保証とならないことや、累積式になることを特約する場合など、種々の形態があるようであるが、前二者の場合には、平成六年判決の見解が妥当すると考えられるであろう。しかし、これらを「意思解釈」論によって認めるためにはやはり「当事者の意思の確定」という作業が「解釈」の名においてなされなければならないであろう。要するに、包括根保証の限度額が根抵当の極度額と同一であると言いうるためには、契約の内容を解釈することによって当事者の意思がそうであるということを言わざるを得ないであろう。それは、具体的には、当事者の意思を、契約書の文言や文脈の中において、また更には契約書の作成された諸々の事情の中において確定することになるであろう。包括根保証と根抵当とが併用される場合は基本的には包括根保証の責任限度額は根抵当の極度額によって限定されるということの論拠は端的に言えば、包括根保証における保証人の責任は制限せらるべきであるというポリシィーに基づくといわざるをえない。むろん、既に指摘されているように、根抵当権の設定と根保証の設定とを別冊で行い、よしんば根保証については包括的である、両者は累積式であるといった特約を締結したとしても、やはりその合意の合理性が改めて問われることになるであろうことは否定できない。どの程度の融資がなされ、どの範囲での担保が期待されているかが明確に示されなければならないであろう。根保証一本で担保がなされる場合は、従来の根保証人の責任制限に関する判例法理が働くことはいうまでもない。平成六年の判決にしても、その具体的な事実関係の解明の中で、当事者の意図が解明され、それについての訴訟上の有力な証拠が示されたと見ざるを得ないであろう。「意思解釈の合理性」という基準は、裁判官の裁量の領域にあるだけに、それを担保するに足る事実の解明がより重要となるであろう。そうでなければ、契約書における文言の示す意味に拘束されざるを得ないからである。その意味では平成六年判決の事案解明は包括根保証人の責任制限の根拠の解明の方法として重要な意義を有するように思われる。

四  お  わ  り  に



  法律行為の解釈が法律行為規範によって当事者の私法関係を規律する上において重要であることはいうまでもない。法律行為の解釈とは、当事者が表示行為に付与した共通の意味を確定し、それが明確でない場合には、表示行為によって相手方や社会一般が当然に理解するであろう客観的意味を確定することである。しかし、それに加えて、当事者は個々の問題について精密な取決めをしない場合が多いので、裁判官は、当事者の表示によってだけでは明らかにされない部分について、法律行為の内容を補充しなければならないし、当事者の表示のままに法的効果を認めると条理に反すると判断される場合には、裁判官は、法律行為の内容を修正しなければならないであろう。この補充ないし修正も法律行為の解釈という名の下になされる。法律行為の解釈には法律行為の内容の補充ないし修正の原理が入り込んできて、狭義の法律行為の解釈と法律行為の内容の補充的解釈ないし修正的解釈とが実際上は密接に絡みあっている。法律行為の解釈を意思の探究のみに限定することきできない。法律行為の内容の補充的解釈ないし修正的解釈は帰するところ裁判官の価値判断−裁量に依拠せざるを得ない。無論、どのような方向での補充ないし修正であるかは評価の対象となろう。平成六年判決の解釈も、今日における人的担保・物的担保制度の取引上の実態分析の上に立った修正的ないし補充的解釈の具体例の一つといわざるを得ないであろう。明文上は包括根保証であることが看取しうるが、それに従って法的効果を認めることが、具体的な当事者間の取引関係に照らして見た時、合理的でない結果をもたらすと判断される典型的な事例ともいえる。「包括」根保証、少なくとも責任限度額を定めない根保証の場合の保証人の責任に関して平成六年判決のような事例が積み重なってゆけば、包括根保証の機能する領域は、その制度が存在しうるとしても、かなり限定されたものとなることは疑いがないであろう。あるいは、実務上はこの制度の利用に関して消極的な状況を生み出すことにもなるであろう。いずれにしても実務において、トロール的な役割を期待して包括根保証制度を利用することは許されなくなるであろう。契約の合理性確保の点からみてもそのことが望ましいことは言うまでもない。

(1)  石田喜久夫「包括根保証の効力と限界」(判例先例金融取引法〔新訂版〕二一〇頁)。
(2)  石井真司「包括根保証と同時設定の根抵当極度額が右根保証の限度額となるとされた事例」(判タ八七八号一一頁)。石井氏は、本判決を以て注目すべき最高裁の初判断と評価している。但し、公式判例集には登載されていない。根保証人の責任制限法理として、「合理的な意思解釈」によるとした従来の判例の流れに乗る一つの判例という評価であろうか。秦教授も、本判決は、あくまでも事例判決であるがとされつつも根抵当権と根保証が併用された場合の当事者の意思解釈に関する一般的な考え方を示すものとして、今後の実務に及ぼす影響は大きいとする(「根保証の限度額が根抵当権の極度額と同一かつ非累積的であるとされた事例」金法一四二一号九八頁)。
(3)  吉田光碩「根抵当権の設定と同時になされた包括根保証契約の保証人の責任」(判タ八七九号七一頁)。吉田氏は、平成六年判決の評価に際して、金融機関の「説明義務」を特に取り上げており、本件における金融機関の対応に危惧を示されている。
(4)  大西武士「根保証の限度額が同時に設定された根抵当権の極度額と同額とされた事例」(NBL五七七号五九頁)。大西教授は、保証人の責任制限を問題とした裁判例を「被保証債務の種類を基準として保証責任を問題とした判例」、「取引期間を基準として保証責任を問題とした判例」、「前記以外の事由で保証責任を問題とした判例」に分類し、最後の類型について、「信義則を問題とした判例」、「当事者の意思解釈を問題とした判例」、「身元保証法を類推適用した判例」、「主債務者と保証人との人的関係を基準として保証責任を問題とした判例」に整理されている。この点に関しては、拙著「債権総論講義」二四八頁参照。
(5)  「鼎談  金融法務を語る−第四二回」(「銀行法務21」五〇七号における上野発言三七頁参照。
(6)  荒川重勝「限度額の定めのない併用根保証に対する根抵当極度額の影響」(私法判例リマークス一二号四一頁)。荒川教授は、根抵当権と根保証を「根担保」として統一的に把握しようとする試みに対しては以下のように述べている。「そもそも根抵当法は、((1))継続的・反復的に発生・消滅する債権の担保として適合的な担保制度への社会的要請、((2))根抵当権設定当事者・後順位担保権者その他の法利害関係者間の利害調整、((3))根抵当関係の技術的合理化(法関係の単純化・簡明化)、の三つの要請(ポリシー)の協働によって造型されている。したがって、根抵当法の根保証への類推適用を考える際には、各規定の趣旨を個別に吟味する必要がある。民法三九八条ノ一六が右の((3))の要請に基づくものであることは吉田評釈のとおりであり、これを直ちに根保証に類推適用することには問題があると言うべきである」。
(7)  石井真司「根保証の法律構成の再検討(その一−その八)」(手形研究二八六号、二八八号、二九一号、二九五号、二九九号、三〇二号、三一三号、三一五号)。石井氏は、根担保法理形成の必要性を説かれる(「根抵当・根保証法から根担保法へ」金法一〇八八号四頁)。氏の指摘によれば、銀行の継続的与信取引は、昭和三七年全銀協銀行取引約定書ひな型実施以降、漸次、従来の、根保証といえば包括根保証という態度を改め、近時はむしろ限定根保証が原則、例外的に包括根保証とする道を選択してきた。包括根保証判例が”法”として機能する実際上の領域はようやく狭まる一方、ケース毎には明確だとしてもマクロ的見地から曖昧さの目立つ限定根保証判例は、今日、銀行実務的見地からは”法”として機能しているとはいい難い状況にたち至っているわけであるとして、限定根保証−ひいては包括根保証についてもーの法律構成の再検討を主張されてきた。ただ、根抵当は民法典において成文化されたのに対し、根保証の場合が必ずしもそのようにならないことについては十分留意する必要があろう。


    *本研究に関しては、一九九六年度科学研究費補助金(基盤研究C)の交付を受けた。