立命館法学  一九九八年四号(二六〇号)




◇資  料◇
韓国司法制度概要と最近の立法動向(二)

金   洪  奎






目    次

第一編  韓国司法制度の概要

  第一章  韓国における近代的司法制度の成立

  第二章  憲法裁判所制度

  第三章  韓国の現行裁判制度(以下二五九号)

  第四章  弁護士制度

    第一節  弁護士制度の意義

    第二節  弁護士人口

    第三節  弁護士強制主義

    第四節  弁護士の報酬と訴訟費用

  第五章  公証制度

    第一節  公証人制度の意義

    第二節  公証人の職務

    第三節  公証人の任命及び所属

    第四節  簡易手続による民事紛争事件処理特別法による公証

    第五節  監督及び懲戒

第六節  公証人人員及び公証事務処理件数の推移

  第六章  法務士制度

    第一節  法務士制度の意義

    第二節  法務士の業務

    第三節  法務士の地位

    第四節  懲  戒

    第五節  法務士団体

第二編  韓国民事訴訟法改正案の概要

  第一章  民事訴訟法改正の背景

    第一節  一九九〇年の民訴法全面的改正の背景と内容

    第二節  一九九四年の司法制度全般にわたる改正と上告審手続に関する特例法の制定

    第三節  今回(一九九八年度)の民事訴訟法改正案の成立

  第二章  一九九八年度改正案の内容

    第一節  新訴訟手続

    第二節  控訴審の審理(以下本号)


第四章  弁護士制度


      第一節  弁護士制度の意義

  訴訟行為は、民事訴訟法上の訴訟能力を持っている場合であっても、実際上訴訟の追行は一般人においては誰でもできることではなく、専門的知識と経験を必要とする。また訴訟制度が技術化し、訴訟事件が増加すると円滑な審理、訴訟処理の効率を期する上からも、素人である本人よりも法律家として十分な能力と見識の持ち主がこれを業として訴訟手続に関与することが望ましい。当事者においても訴訟に関する専門知識と経験のある弁護士を代理人として法廷に出席させ、権利を主張し、その法律上の地位を弁護することを業とする制度が必要とされる。
  しかし、法律家として十分な能力、見識のない者が弁護を業としたのでは濫訴の弊害を生じさせることは疑問の余地がない。そこで国家としても弁護士の資格を法の定める一定の要件を満たす者のみに限定し、それ以外の者が他人の法律事件に関与することを禁止することが必要となる。ここに国家が弁護士制度を法律で規定する理由がある。
  弁護士が果たす法制度の役割は、訴訟当事者の代理人または刑事被告人の弁護人として当事者・被告の権利・利益を擁護し、合わせて裁判の適正・公正を確保することにある。なお最近では大企業の法律顧問として重要な経営上の意思決定に関与して経済中枢に一定の影響を与えると共に、法廷活動を通じて行政官僚に対する強力な政策批判を展開することによって政策形成過程にも影響を与えているということは注目に値する。

  第二節  弁護士人口

  国民が弁護士を容易に利用しうるためには適正数の弁護士が存在しなければならない。法官・検事・弁護士の数についてこれを増加させる必要があることでは意見が一致する。それは経済の発展と社会の進化に伴って訴訟事件はいよいよ複雑となり、かつ大量に発生するに至り司法の運営と国民の法的生活の中で弁護士が果たす役割が飛躍的に増大することは必至であるからである。政府はこれに備えるため判事・検事・弁護士の資格を与える司法試験の選抜予定人員を漸次増加させていくことを決めている。その内容は次の通りである。現行三〇〇名水準の司法試験による法曹人(判事・検事・弁護士)選抜人員を原則として

一九九六年  五〇〇名
一九九七年  六〇〇名
一九九八年  七〇〇名
一九九九年  八〇〇名

に増員し、二〇〇〇年とそれ以後は一、〇〇〇ー二、〇〇〇名以内で増加することにすると、一九九五年四月二五日に大法院で法律サービス及び法学教育の方向に対する方針を発表している。一九九五年以降一九九八年度までは、上記の大法院で発表した方針が実現されている状態である。具体的には司法試験令第三条に「選抜人員は毎試験施行に際して総務長官、法務長官及び法院行政処長の意見を聞いて、その数を決めることができる」と規定している。(表16)

(表16 ) 第三節  弁護士強制主義

  訴訟追行には法律に関する専門的知識や経験が必要なため、本人の訴訟行為を禁じ弁護士による代理を強制する立法主義と、本人による訴訟追行を許容する立法主義がある。前者の立法主義を弁護士強制主義という。現在、ドイツでは地方法院以上にこの弁護士強制主義を採用している。
  弁護士強制主義は、一方で法律についての専門知識や経験のない者の利益保護を確実に行い、他方では弁護士による整理された弁論により訴訟追行の円滑化と司法運営の公正を維持するのに寄与している。それだけでなく弁護士強制主義を用いれば、弁護士と依頼人との対話を通じ、勝訴の見込みがない訴訟提起を事前に抑制することもできる。
  一九八九年一二月に国会に提出された民事訴訟法改正案(同案第八〇条ノ二)によると、高等法院以上の法院について積極的訴訟行為を行う場合に限り必ず弁護士を訴訟代理人に選任するようにする部分的弁護士強制主義を採り、これ以外の場合には本人自らの訴訟進行を許容した。但し本人訴訟が許容されるときにも他人に訴訟追行を依頼する際には、原則として弁護士によるようにしていた。この改正案は国会審議過程において削除された。そして現在進行している民事訴訟法改正案にはこの案を再び包含させている。韓国でもドイツに見られるような弁護士強制主義を採用するためには、先行しなければならない必要条件として第一に全国各地に実需要を充当できる弁護士数の確保が先行されなければならず、第二に勝訴者が支給した弁護士報酬の合理的部分は敗訴者が負担するという原則と同時に弁護士費用の法定化が必要であり、第三には経済的に弁護士費用のために提訴を放棄することがないようにするための法律扶助制度の強化、充実が必要である。
  このような条件が充足されなければ、弁護士の不足や経済的貧困により事実上提訴ができなくなり、国民の権利保護にむしろ障害の要因となる憂慮がある。

第四節  弁護士の報酬と訴訟費用

  民事訴訟において弁護士に支払った報酬のうち、大法院規則によって一定範囲内の金額は民事訴訟法第九九条ノ二(弁護士報酬と訴訟費用)「@訴訟代理をした弁護士に当事者が支払ったかまたは支払う報酬は大法院規則に定める金額の範囲内でこれを訴訟費用とする。A第一項の訴訟費用の算定に際して数人の弁護士が訴訟代理をした場合にも、一人の弁護士が訴訟代理をしたものと見なす。」との定めによって訴訟費用として認めることになった。その範囲を定める大法院規則によると当事者が弁護士に支払った報酬のうち、訴訟物価額の一〇%ないし〇・五%に相当する金額を訴訟費用として認めており、その比率は訴訟物価額が増加する比率に従って一〇%から〇・五%まで順次に逓減する(表17参照)。
この規定の趣旨は、勝訴者が支払った弁護士費用を訴訟費用化して、敗訴者から支払ってもらうようにすることによって、当事者が訴訟費用の増加を意識して濫訴と濫上訴を自制させるところにある。


第五章  公証制度

第一節  公証人制度の意義

  公証人とは、当事者その他関係者の嘱託により法律行為その他事件に関する事実について公正証書を作成し、また私署証書に対する認証と公証人法及びその他の法令の定める公証人の事務を処理するのをその職務とする者を称する。このような公証人という機関を設けて公証をさせる制度を公証制度という。国家が公証人制度を設けた一番の目的は、例えば私人の権利義務に関係する契約上の意思表示について明確な証拠を残すことによって紛争の発生を未然に防ぐことにある。同時に証拠を確保して訴訟に備える意味もある。なお公証人の作成する公正証書には一定の範囲で執行力を認めている(韓民訴法五二二条)。この限りでは公証制度は紛争予防的機能のほか紛争解決的機能も有する。

第二節  公証人の職務

  公証人の職務

  当事者その他の関係者の嘱託により法律行為その他の事件に関する事実に対しての公正証書の作成、私署証書に対する認証ならびにその他の法令が定める公証人の事務を処理することをその職務とする(韓公法二条)。これを以下の三つに分けて説明する。

  1  法律行為その他の事件に関する事実に対する公正証書を作成すること。
法律行為に関する公正証書を作成するとは、金銭消費貸借や売買等の意思表示が公証人の面前ではじめてなされるのを聞知し、それを記載して公正証書に作成する場合と、これらの契約が既に締結されたという当事者の陳述を聞き、その陳述内容を証書に記載して公正証書を作成する場合との二つの場合を含む。

  2  私署証書に認証をする
これには当事者に公証人の面前で私署証書に署名または捺印をさせるか、私署証書の署名または捺印を本人またはその代理人に確認させた後、この事実を証書に記載する原本認証(署名認証ともいわれる)と私署証書の謄本が原本と偽りないことを認証する謄本認証とがある(韓公法五七条)。認証の手続、記載事項については韓国公証人法五七条ないし六一条。

  3  その他の法令が定める公証人の事務
これには韓国商法二九二条及びその準用規定による定款の認証、韓国民法第一〇六八条による公正証書による遺言、拒絶証書令による拒絶証書の作成等がある。

  公証事務の代行

  地方検察庁の管轄区域内に公証人がいない場合、または公証人がその職務を遂行することができない場合には、法務部長官は地方検察庁検事または地方法院登記所長である法院書記をして管轄区域内において公証人の職務を行わせることができる(韓公法八条)。なお韓国において登記業務は裁判所の業務とされている。

第三節  公証人の任命及び所属

  公証人の所属及び定員

  公証人は地方検察庁の所属とする。各地方検察庁所属公証人の定員数は、地方検察庁の管轄区域ごとに法務部長官がこれを定める(韓公法一〇条)。

  公証人の任命

  公証人は、法務部長官が任命し、その所属地方検察庁を指定する(韓公法一一条)。

  公証人の資格

  次の条件を具備した者でなければ、公証人に任命されることができない。

    (i)  大韓民国国民であること

    (ii)  判事、検事または弁護士の資格を有する者(韓公法一二条)。

第四節  簡易手続による民事紛争事件

処理特別法による公証

  現行韓国公証人法は、一九六一年九月二三日法律七二三号として成立し施行された。その後六回の改正を経て現行公証人法に至っている。

  一九六五年六月三日法務部令第一一三号に公証人の定員は、ソウル地方検察庁九人、大邱地方検察庁三人、釜山地方検察庁四人、その他地方検察庁(六庁)各一人の計二〇名を規定した。
  その後民事に関する事件処理の遅延を防止し、国民の権利義務の迅速な実現と紛争処理の促進を期して、一九七〇年一二月三一日法律第二二五四号として「簡易手続による民事紛争事件処理特別法」が制定された。同法により公証人法と同様の公証業務を行うことのできる合同法律事務所の設立が認定されるに至った。よって公証業務を公証人のみならず弁護士によって構成される合同法律事務所においても取扱うことができるようになった。
  「簡易手続による民事紛争事件処理特別法」における合同法律事務所は、以下のような制度である。
  @  合同法律事務所の設立
大法院(注・最高裁判所)所在地においては、五人以上、高等法院、地方法院、支院所在地においては三人以上の弁護士が合同で法律事務に従事することを約定し、規約を作成し法務部長官の認可を受けることにより合同法律事務所を設立することができる(簡易特例法九条一項)。前記の規約には、公証証書原本の保管に関する事項を規定しなければならない(同条五項)。
  A  構成員の資格
全員が弁護士であり、五人以上の場合は三人、三人以上の場合は一人以上が一〇年以上法院組織法三三条各号の一つに該当する職にいた者でなければならない(同九条二項)。
*  法院組織法四二条は、法官の任用資格に関する規定である。@大法院長と大法官は一五年以上次の各号の職にあった四〇歳以上の者の中から任用する。(i)判事、検事、弁護士(ii)弁護士の資格がある者で国家機関、地方自地団体、国・公営企業体、政府投資機関、其他法人において法律事務に従事した者(iv)弁護士の資格がある者で公認された法科大学の法律学教授、助教授の職にあった者、A判事は次の各号の一に該当する者の中から任用する。(i)司法試験に合格して司法研修院の所定課程を終えた者(ii)弁護士の資格がある者、B第一項の各号に規定する二つ以上の職にあった者はその半数を通算する。
B  弁護士業務の制限
弁護士法第二四条の規定は合同法律事務所構成員にこれを準用する。

*  弁護士法第二四条(受任制限)弁護士は次の各号の一つに該当する事件については、その職務を行うことができない。第二号の事件の場合は、受任している事件の委任者が同意した場合は別である。

    1  当事者の一方から相談を受けてその受任を承認した事件の相手側が委任した事件

    2  受任している事件の相手側の委任する他の事件

    3  公務員、調停委員または仲裁人として職務上扱った事件

第五節  監督及び懲戒
  公証人は、法務部長官がこれを監督する(韓公法七八条)。同法八二条二項において「各地方検察庁検事長は、その管轄区域内の公証人に関し、懲戒に該当する事由があると認めるときは直ちにこれを法務部長官に報告しなければならない」と規定し、法務部長官による直接の監督権を強化している。なお同法八五条は「@法務部に懲戒委員会を置く。A懲戒委員会に関して必要な事項は、大統領令で定める。」と規定する。


*  懲戒委員会は、委員長一人と委員四人からなる。委員長は、法務部長官がなり、委員は法務次官と同局局長及び検事の中から法務長官が任命し、その他幹事及び書記を各一人ずつ置く。地方検事長は、所属公証人に公証人法所定の懲戒事由があるときには、懲戒委員会に懲戒を要求しなくてはならない。同委員会は、懲戒に関する審議終了後、委員長を含めた在籍委員過半数の賛成を経て懲戒を議決する(一九七〇年六月二三日大統領令第五一二三号公証人懲戒委員会規程)。

第六節  公証人人員及び公証事務処理件数の推移

  表18・表19参照。

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第六章  法務士制度


         第一節  法務士制度の意義

  法務士(司法書士)とは、他人の委任によって法院と検察庁に提出する書類を作成し、また登記供託に関する書類の作成、申請代理を行うことを業務とするものである。法務士がその業務を適正に遂行するには、一定の専門的知識と経験を必要とするため、法務士の資格を法律に規定し、それらの者に業務執行上、一定の権限と義務を与えるとともに、また監督・懲戒に服させることとするのが法務士制度である。法務士制度の目的は、訴訟手続等について、法院、検察庁等に提出する書類の作成をそれに関して専門的知識と経験を有する者に行わせ、また登記・供託事件のように一般人には期待できない技術性の高い法的手続に、これに関する専門的知識と経験を有する者を代理人として関与させることによって、国民の法律生活の便宜を図り、司法制度の発展に寄与しようとするところにある(法務士法一条)。

     第二節  法務士の業務

  業務の内容

  法務士の業務は他人の委任による裁判事務と登記・供託の二つに大別される。(i)裁判事務は法院・検察庁に提出する書類の作成に限られ、委託者を代理することまでは含まない(法務士法二条二項)。(ii)登記・供託事務は登記所・地方法院長または地方法院支院長が指定する供託事務を処理する所属法院書記官または法院事務官、但し市法院・郡法院の場合は地方法院長または地方法院支院長が指定する法院主事または主事補に提出する書類の作成(法務士法二条一項三号)のみでなく、登記の申請、供託等について委託人を代理することも含む(同条同項四号)。具体的には次の事務が法務士の業務とされる。

  (1)  法院・検察庁に提出する書類と法院・検察庁の業務に関連する書類の作成とは、訴状(韓民訴法二二六条)、答弁書(同法一三七条参照)、準備書面(同法二四五条)、証拠申請書(同法二六二条)、民事調停申請書(民事調停規則二条)、家事訴訟申請書(家事訴訟法一二条)、家事非訴事件審判申請書(家事訴訟法三六条)、家事調停申請書(家事訴訟法四九条)支給命令申請書(民事訴訟法四三四条)、告訴状・告発状(韓国刑訴法二三七条)等を指す。

  (2)  登記所、供託事務を処理する法院書記官または法院事務官・法院主事または主事補に提出する書類とは、登記申請書(不動産登記法四〇条)、供託書(供託法四条)、供託物の受領、回収請求書(供託法八条)等を指す。

  (3)  登記の申請、供託等について委託人を代理するとは、法務士が登記の申請・供託等について委託を受けたときは、自己の法律的判断に基づいて委任の趣旨に適した登記の申請、供託に関して代理行為をすることを指す。なお法務士が委託を受けるに際し、委託人が如何なる趣旨の委託をすべきかを決める前提としての法律相談に応ずることも許されるものと解される。

  業務の限界

  (1)  法務士は、法務士法第二条一項一号ないし三号に規定されている書類であっても、その書類の作成が他の法律において制限されているものについては、これを行うことはできない(法務士法二条二項)。

  (2)  法務士は、上述した業務の範囲を超えて他人間の訴訟その他の事件に関与してはならない(法務士法二一条)。これに違反すると懲戒処分を受けるだけでなく(同法四八条)、五年以下の懲役または一千万ウォン以下の罰金に処せられる(同法七二条)。他人間の訴訟その他の事件に関与するとは、他人間の権利、義務に関する紛争の解決に報酬を得る目的の有無を問わず、積極的もしくは消極的影響を与える行為、例えば鑑定、裁判上または裁判外の行為の代理、仲裁・和解の斡旋、債権の取立て、事件の目的たる物または権利の譲り受けなどを指す。

  これらの行為を法務士に対して禁止しているのは、訴訟事件の代理権は法律専門職である弁護士に限って認められるものであって(韓国弁護士法二条、三条)、法務士にはその資格要件の上でこれらの行為を適正に行い得るだけの法律的素養を有することの保証がないからである。この理由によって法務士の業務の内容を訴訟事件に関しては書類の作成に限定したのである。現在、法務士の業務処理の実際においては、法律に訴訟事件関与の禁止規定があるのにもかかわらず、他人の訴訟事件に関与することが稀ではない。しかし、この禁止に反する行為の私法上の効力は別であり、当然のことながら無効ではない。


*  例えば法務士のように弁護士資格のない者による訴訟行為の効果に関しては、見解が対立している。

    (i)  有効説  有効説によると、訴訟代理人として弁護士資格が要求されるのは、非弁護士に対しては弁論能力を制限するためである。従って弁護士資格は訴訟代理権の発生・存続の要件でもない。もちろん、法院は非弁護士の訴訟関与を排除することができるが、非弁護士が訴訟代理人として行った訴訟行為または非弁護士に対して相手側当事者が行った訴訟行為は有効とみなさなければならないと主張する。しかし、弁論能力制度が単純に円滑な訴訟審理と司法の健全な運営という公共目的に過ぎず、形式的には訴訟能力があるが実質的には法院の釈明の内容を理解し、適切に対応できる能力を欠缺する当事者の保護と平等確保にもあるという点を看過しているため、この説に従うことはできない。

    (ii)  無効説  無効説によると、当事者は弁護士資格がある者により代理されなければならず、弁護士資格は訴訟委任による訴訟代理の発生・存続の要件であり、非弁護士または非弁護士に対する訴訟行為は無効であると解釈する。従って、非弁護士の訴訟関与を法院が看過し、排除しなかった場合には、非弁護士のまたは非弁護士に対する訴訟行為は無効であり、当事者はこれに拘束されない。つまり弁護士資格の存在は訴訟代理権の発生・存続の要件であるため、非弁護士の訴訟行為は無効である。

    (iii)  折衷説  折衷説によれば、非弁護士によるまたは非弁護士に対する訴訟行為は、絶対的な無効ではなく、無権代理人の行為の追認が認定されること(民訴第五六条・第八八条)と同様に本人の追認によってその行為は有効となると解釈する。但し、本人が非弁護士であることをわかっていながらも、訴訟委任を行い、その結果が自己に有利な場合追認を行えれば、公平に反するため、本人が非弁護士であることを知らなかった場合に限り追認を認定しなければならないであろう。非弁護士が金品、接待その他の利益を得たり、得ることを目的に他人の訴訟代理人として訴訟行為を行った場合には、韓国弁護士法第九〇条第二号に規定された強行法規に違反し刑事処罰の対象となるため、この行為は追認の余地なしに絶対無効であると解釈しなければならないであろう。


        第三節  法務士の地位

  法務士となる資格

  法務士となる資格については、法務士法第四条に定める要件を充たした者のみが法務士となる資格を取得する。その要件とは次の通りである。

  (1)  法院、憲法裁判所、検察庁の事務職または麻薬捜査職の公務員として一〇年以上勤務した者の中、五年以上五級以上の職に在職した者と、上記の公務員として一五年以上在職した者の中、七年以上七級以上の職に在職した者で、大法院長が法務士業務の遂行に必要な法律知識と能力があると認めた者

  (2)  法務士試験に合格した者


*  法務士試験は定期的に実施されるのではなく、法務士の補充が必要と認められた場合に実施することになっている(大法院規則四条一項)。

  登  録

  法務士となる資格を得た者が、法務士として業務を行うには、大法院規則に定める研修教育を終えた後、大韓法務士協会に登録しなければならない(韓国法務士法七条)。登録はまず登録希望者が加入を希望する地方法務士会を経て、大韓法務士協会に登録申請書を提出しなければならない。大韓法務士協会は、登録申請者が法務士法が定める法務士となる資格要件を充たすかを審査して、その要件を充たさない場合は登録を拒否しなければならない(同法九条)。

  事務所の設置

  (1)  法務士個人事務所の設置

  法務士が登録を終えて業務を開始する場合、所属地方法務士会を監督する地方法院の管轄区域内に一ヶ所に限って事務所を設置して、地方法務士会を経て大韓法務士協会に申告しなければならない(同法一四条)。

  (2)  法務士合同事務所の設置

  同一地方法務士会に所属する三人以上の法務士によって構成される法務士合同事務所を設置することができる。合同事務所は、所在地を管轄する地方法院の管轄区域内に法務士分事務所を置くことができる(同法三五条)。

  (3)  法務士合同法人の設立

  構成員になることを希望する五人以上の法務士が、定款を作成して主事務所所在地の地方法務士会を経て、大法院長の許可を得なければならない。五人以上の法務士の中二人以上は法務士法四条一項一号(上述1(1)参照)に該当するか、一〇年以上法務士業務に従事したものでなければならない。法務士合同法人が構成員でない所属法務士を置く場合、主事務所所在地の地方法務士会を経て地方法院長にこれを申告しなければならない(同法三三条以下)。

第四節  懲      戒

  地方法院長は、法務士が法務士法またはこの法による大法院規則、その他法務士法四八条に列挙された事項に違反した際には、法務士法四九条の規定による法務士懲戒委員会の懲戒議決を要求して、それに従って懲戒処分を行う(韓国法務士法四八条)。懲戒の種類は、除名、一ヶ月以上二年に以下の業務停止、二〇〇万ウォン以下の過怠料、譴責である。

第五節  法務士団体

  地方法務士会

  地方法院の管轄区域ごとに地方法務士会を設立しなければならない。地方法務士会は法人であり、法務士の強制加入が認められている。地方法務士会の設立目的は、法務士の品位保全、業務の向上、会員の指導および連絡を図ることである。地方法務士会には紛争調停委員会を設置して、委任者と法務士間または法務士相互間の職務上の紛争の調整や不満を処理する。地方法務士会は、大韓法務士協会およびその所在地を管轄する地方法院長の監督に服する。

  大韓法務士協会

  地方法務士会は連合して法人として大韓法務士協会を設立しなければならない。大韓法務士協会の目的は、法務士の品位保全、業務の向上、地方法務士会とその会員の指導および連絡に関する業務と法務士の登録に関する事務を行うことである。

  大韓法務士協会入会人員の推移

  法務士の法律専門職としての国民の法律生活、経済生活においてその役割がますます大きくなるのと比例して法務士人口も増加しているのが目立つ。(表20)

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第二編  韓国民事訴訟法改正案の概要


第一章  民事訴訟法改正の背景


  今回の民事訴訟法改正案成立の背景およびその内容を理解するためには、まず一九九〇年度と一九九四年度の民事訴訟法の全面的改正の背景およびその内容を考察しなければならない。その理由は、今回の改正案では一九九〇年と一九九四年の民訴法改正の骨組みに基づいてそれをさらに補完したものであるからである。

        第一節  一九九〇年の民訴法全面的改正の背景と内容

  背  景

  一九六〇年に民事訴訟法が施行されて以来三〇年間二次にわたる部分的改正があったに過ぎず、民事訴訟法典はそのまま維持しながら特別法によって実質的に改正補完を行った。


*  民事訴訟法の改正

    (i)  第一次改正法(一九六一年九月一日法律第七〇六号)

      ・アメリカ法の交互訊問制度の導入(民訴第二九八条)

      ・違憲問題に関する特別上告制度(民訴第四〇八条ノ二)

      ・判決書作成の簡易化(民訴第一九三条第一項第三号)

    (ii)  第二次改正法(一九六三年一二月三日法律第一四九九号)

      上記特別上告制の廃棄と上告理由の修正等

*  特別法の制定

    (i)  民事訴訟に関する臨時措置法(一九六一年六月二一日法律第六二八号)

      @  期日変更の制限

      A  仮執行宣言の原則化および国家が被告になった場合、訴訟においては仮執行宣言の禁止

    (ii)  仲裁法(一九六六年三月一六日法律第一七六七号)

          一九六〇年廃止された仲裁法の復活

    (iii)  簡易手続による民事紛争事件処理特例法(一九七〇年三月一六日法律第二二五四号)

*  配当要求における平等主義の相対的制限(同法第五条)

    (iv)  少額事件審判法(一九七三年二月二四日法律第二五四七号)

      少額事件に関する迅速な簡易裁判手続である

    (v)  訴訟促進等に関する特例法(一九八一年一月二九日法律第三三六一号)

      民事訴訟に関する臨時措置法の廃棄に代わる大幅な補完改廃を行った。

        @  訴求債権の遅延損害金に対する法定利率の高率化

        A  許可上告制の採択(上告の防止)

        B  弁護士報酬の訴訟費用算入

        C  原審裁判長の上訴状審査権

        D  少額裁判制度の改善

        E  刑事訴訟手続に付帯する賠償命令制度の導入

      なお特別法の制定に加えて注目すべきことは、一九八三年九月一日から制定、施行された民事訴訟規則の主要内容である。

        (i)  訴訟救助決定を受けた場合、訴訟費用の国庫立替

        (ii)  当事者の事前調査整理義務および争点明確化義務

        (iii)  訴訟終了宣言の明文化

        (iv)  要約準備書面制の新設と準備手続の補完

        (v)  弁論の速記・録音方式の具体化

        (vi)  期日変更の制限

        (vii)  証人不出席の場合の申告義務

        (viii)  簡易送達及び弁護士相互間の送達

        (ix) 準備手続を経た事件に対する継続審理主義

        (x)  期日前の証拠調査


  しかし、その間韓国社会は全般にわたって急激な変化と発展によって訴訟事件の顕著な増加と共に訴訟の慢性化、遅延化、強制執行の機能低下ないし沈滞化の病弊が顕著に表れてきたために訴訟の促進と簡素化を目指す民事訴訟法の全面的改正が要望された。
   韓国政府(法務部)では、一九八四年四月に法曹実務界と法学界の専門家による民事訴訟法改正特別委員会を設置して、これまで民事訴訟を特別法の制定によって部分的に改正補完を行ってきたのを民事訴訟法典の中に吸収させると共に、判決手続と強制執行手続の全般にわたる画期的改正を断行して、名実共に民事訴訟手続の基本法としての位置を確保させた。この改正案は一九八九年末に国会を通過して、一九九〇年九月一日から施行された。

  内  容

  一九九〇年の改正の主要内容は次の通りである。
1  民事訴訟法第一条に「裁判所は訴訟手続が公正、迅速かつ経済的に進行するように努力するべきであり、当事者と関係者は信義に従い誠実にこれに協力すべきである」とする規定を新設することによって、民事訴訟の理想と信義則を明文化した。

2  訴訟当事者の便益のため、勤務地の特別裁判籍と小切手に対しても、手形と同じ特別裁判籍を規定すると共に、航空機事故による損害賠償の訴の到着地の特別裁判籍と共同訴訟に対しても関連裁判籍が認められる要件を新たに規定した。

3  訴訟費用と訴訟救助においては、訴訟費用担保提供を保証保険証券または金融機関の支給保証書等の提出によってもできるようにして、訴訟費用担保提供方式を改善し、また訴訟救助要件の緩和及び救助の範囲拡大と弁護士報酬を訴訟費用に含める規定を明文規定した。

4  釈明義務の拡大(民訴法一二六条の釈明権条項に四項を新設して「法院は、当事者が明白に看過したと認められる法律上の事項について当事者に意見陳述の機会を与えなければならない」と規定することによって、法的観点の指摘義務を明文化した)、公正証書による証言制、証拠保全手続において訊問した証人の弁論における再訊問制を規定した。

5  提訴前の和解における代理人選任権の委任禁止を規定することによって当事者の訴訟追行能力の不平等を実質的に補い、また訴訟追行の便宜を図る規定を置いた。

6  訴訟の迅速と公正を図るため、訴訟促進等に関する特別法に規定されてあった除斥・忌避権濫用禁止、弁護士選任命令に応じないとき、訴えまたは上訴却下、集中審理の宣言、仮執行宣言の原則化、原審裁判長の上訴状審査権、各種調書及び決定命令等の記名捺印代替、支給命令に対する既判力の排除の規定を民事訴訟法典の中に規定した。

第二節  一九九四年の司法制度全般にわたる改正と

上告審手続に関する特例法の制定

  背  景

  大法院においては、一九九〇年の民事訴訟法の全面的改正後まもなく今度は社会与件の変化に副応して司法制度及び裁判制度を革新することを試みた。即ち、国民の権益を保証し、国民のための司法として国民の便益を増進するとともに裁判の独立を一層確実に保証できる制度的装置を作ることによって司法に対する国民の信頼を高めるために、一九九三年一一月三日法曹界、学界、国会、言論界及び社会団体を代表する三二名を委員とする汎国民的司法制度発展委員会を構成して、三個の分科委員会に各々、法院組織、法官人事、裁判制度と手続に関して十分討議させて、その結果を全体会議で審議し、一七個の事項にまとめ司法制度改革案を一九九四年二月一六日に大法院長に報告した。大法院長は、同委員会の作成した司法制度改革法案を全面的に受容して国会に提出し、その議決を経て法院組織法中改正法律、各級法院判事定員法中改正法律、各級法院の設置と管轄区域に関する法律中改正法律、法官の報酬に関する法律中改正法律の改革法律と上告審手続に関する特例法が一九九四年七月一四日公布され、同年九月一日から施行された。

  内  容

  一九九四年の司法制度に関する改正の内容は次の通りである。

1  法院組織中改正法律

  (1)  行政法院の新設  従来、高等法院が第一審行政訴訟事件を担当したものを改めて、地方法院級の行政法院が担当するようにすることによって行政訴訟事件に対しても三審制度を採択した。なお行政審判の前置を任意的なものに変えた(法組三一条但書削除)。

  (2)  特許法院の新設と技術審理官制度の導入  従来、特許、実用新案、意匠等の産業、財産権訴訟に関しては、特許庁の審判及び抗告審判を経て大法院に上告するようにすることによって法院の審判が単審であった。改正法律では特許庁の審判を経た後、高等法院級の特許法院が第一審としてこれを審理した後、大法院に上告するようにすることによって二審制を採択した(法組二八条、一四)。なお特許法院には技術審理官制度を導入して技術審理官を訴訟審理に参加させ、技術的事項について訴訟関係者に対して質問することができるようにし、また裁判の合議においても意見を陳述することができるようにした。

  (3)  市・郡法院の設置  従来、地方法院及び家庭法院の事務の一部を処理するために、その管轄区域内に設置してあった巡回審判所を市・郡法院に改変、新設した。

2  法院の人事制度の改正法律

  (1)  予備判事制度の新設  判事の任用資格を強化して司法府に対する国民の信頼を高めるために判事を新規任命する場合、二年間予備判事に任命した後、勤務成績を参酌して判事に任命する。予備判事は各級法院で事件の審理及び裁判に関する調査・研究業務を担当する。

  (2)  司法補佐官制度の導入  司法業務の能率的処理と人力確保のために従来の法院調査官、家事調査官及び少年調査官を吸収して、司法補佐官制度を導入した。

  司法補佐官は判事の事務中裁判以外の事務、裁判資料の蒐集その他事件処理に必要な調査業務を行う。

  (3)  法官職級の廃止  従来、高等法院長、地方法院長、家庭法院長、高等法院、地方法院及び家庭法院の部長判事、高等法院判事に対して規定されていた別途の任用資格基準を削除して、法官には大法院長、大法官と判事の職級だけを認めた(法院組織法四二条)。


*  法官の職級を廃止することによって法官の昇進に対する負担を除去して身分保証を実質化すると共に、経歴法官の退職を防止して完熟した法官による裁判を達成するのに意義がある。

  (4)  その他法院の地位と権限の強化  大法院長に法院の組織、人事、運営、裁判手続、登記、戸籍その他法院業務に関連する法律の制定または改正が必要と認められた場合、国会に意見を提出することができる制度を新設した(法院組織法九条三項)。なお法院の予算を編成する時には司法部の独立性と自立性を尊重しなければならないと規定し(法院組織法八条二項)、他の国家機関から法官の派遣勤務を厳格に制限した(法院組織法五〇条)。

3  上告制度の改善については大法院の法律審としての本来の業務と機能を適切に遂行することができるようにするには、下級審の事実認定の当否の判断は下級審の役割にして、大法院業務の負担軽減を図る必要がある。

  (1)  韓国民訴法における上告制限の沿革

    (イ)一九六一年から一九八一年までは、上告審を法律審とすることによって法律違反だけを上告理由に制限した。しかし法律違反を理由として掲げる限り、上告が制限なく認められた。その結果、濫上告が頻発して、大法院の負担加重を招き、その機能を十分発揮することができなかった。

    (ロ)一九八一年三月一日訴訟促進等に関する特例法によって許可上告制度(@憲法違反、A命令、規則、処分の法律違反、B法律、命令、規則または処分に対する大法院判例に相反する場合)に限って権利として上告することができ(権利上告)、上記の@ABに該当しないその他の法律違反の場合は、大法院の裁量による許可を得た場合に限って上告できるようにする(許可上告)が新設された。


*  この許可上告制度の施行によって大法院の負担が軽減され訴訟促進に多くの寄与をした。

    (ハ)一九八九年国会に提出された民事訴訟法の全般的改正案の審議において、改正法案に含まれていた許可上告制度は、在野法曹の反対を克服することができず、国会を通過することに失敗して一九九〇年改正民訴法の施行と共にその効力を喪失して一九八一年以前の過去の状態に戻った。

    9720上告手続に関する特例法は、上述した司法制度と共に一九九四年七月二七日に公布され同年九月一日から施行された。

  (2)  特例法における上告審改革の内容

    「上告審手続に関する特例法」における上告審の改革においては、重大な法令違反に関する事項(@憲法違反、A命令、規則、処分の法律違反、B法律、命令、規則または処分に対する解釈の大法院の判例違反、C法律、命令、規則または処分に対する大法院判例がない場合、または大法院判例を変更する必要がある場合、D上記の@ABCの他に重大な法律違反がある場合、E民訴法第三九四条第一号ないし第五号(絶対的上告事由))が上告理由に含まれていないか、含まれている場合にも上告理由それ自体によって理由がないか原審判決に影響を及ぼさない場合は、審理不続行事由になり、これを理由として上告棄却判決を行い、この判決には理由を記載しないこともできまた宣告なしに送達によって効力を発生するという内容の上告審理不続行制を採択し、一九九四年一月一日から施行することにした。この特例法の採択の結果、実質的に上告理由を制限することによって上告審の負担を軽減し、上告審の法律審としての機能回復と訴訟の促進を図った。

        第三節  今回(一九九八年度)の

民事訴訟法改正案の成立

  一九九〇年の民事訴訟法の全面的改正と一九九四年の司法制度全般にわたる改革(主に法院の組織、人事制度、上告制度の改善)は、新しい時代に相応した司法制度の骨組みを新しく組立てた点で高く評価すべきである。特に上記の改正は訴訟促進もその主眼とするものの一つであったが、重症化する訴訟遅延の弊害への対応策としては期待した成果をもたらさなかった。そこで裁判実務の側から新たな審理充実方策が模索され、立法措置に先立って集中審理方式に関する論議が活発となった。訴訟手続の規律をもっと国民に利用しやすく、わかりやすいものとし、訴訟遅延の弊害も取り除くための実務改革の気運が盛り上がった。これに答えて一九九四年八月に大法院に司法政策研究室を新設し、その重要な研究課題を民事訴訟法の改正作業に決めた。一九九五年四月に実務界と学界を網羅した一三人の委員によって構成された「民事訴訟法改正着眼点提案を作成する特別委員会」を発足させて、同年一一月まで七次にわたってまず訴訟手続編に対する改正着眼点についての提案を綿密に議論して、同年一二月に「訴訟手続改正着眼点」と題する報告書を発刊し、実務界と学界に配布してその意見を要請した。この要請に応じて韓国民訴学会をはじめ、大韓弁護士協会、各級法院から賛反ないし修正意見が数多く提出された。

  一九九六年九月大法院司法政策研究室では、学界、実務界(法院、検察庁、弁護士)を網羅した一五人の委員で「民事訴訟法改正委員会」を構成し、上述の民事訴訟法改正の着眼点とそれに対する各界の意見を収斂した資料を基礎にして民事訴訟法改正案の審議を行い、一九九七年二月まで十次にわたる会議を開催して「民事訴訟法(訴訟手続編)改正事項」を公刊した。

  「民事訴訟法改正案」は、上記の改正事項に基づいて条文作成と共に民事訴訟法を国民に利用しやすく、わかりやすいようにするための条文の文章表現の修正作業が終了した後、公聴会を開催して、修正補完し、大法官会議の審議を経て、最終的に国会に提出する改正案が確定する予定になっている。


第二章  一九九八年度改正案の内容


         第一節  新訴訟手続

  総  説

  現行審理方式においては、訴えの提起後第一回弁論期間までの間、事実上何の訴訟準備が行われず、時間が浪費されている。訴訟審理においても随時提出主義と当事者の非協力、法院の無関心等によって訴訟事件が焦点を失って漂流し、争点整理の方法、証拠調査の時期等においても手続が弾力性を失っている。控訴審においても新しい主張と証拠の提出において事実上何らの制限がなく第一審の裁判が形式化、形骸化して控訴率が増加している。

  改正法における新訴訟手続においては、訴えの提起から第一回弁論期日の間に争点整理を徹底させ、訴訟審理においても当事者の協力と法院の関心の傾注によって能率的、弾力的に行われるように改正を図った。なお控訴審においても現行法の続審構造を維持しながらも第一審判決による厳格な失権的効果により控訴審における新しい攻撃防御方法が制限されるようにし、第一審の強化を図った。

  訴状提出

  訴えの提起は、原告が訴状を管轄裁判所に提出することによって行われる。訴状の記載には、訴訟主体と訴訟客体を特定しなければならない。訴訟客体の特定は、請求の趣旨と請求の原因の記載から訴訟客体の同一性が識別される程度で足りるとする同一識別説が通説となっている。訴訟実務においては、この他にも訴状を準備書面として兼用させる場合が多い。訴状が準備書面を兼ねる場合には、訴訟客体を特定させる請求の趣旨と原因のほかに「請求を理由づける事実」(請求原因事実)、「提出する証拠の要旨及び主張と証拠との関係」、「被告との交渉に於いて現れた争点の核心」、を記載し、「将来の訴訟の進行に必要な事項」も記載することができた。なお「すべての書証も付加え、必要な証拠申請」も可能であった。

  新訴訟手続においては、現行法の随時提出主義と当事者の非協力、法院の無関心等によって訴訟遅延の弊害が生じることを防ぎ、早期に争点整理を充実させるために、一九九一年一二月三〇日に民事訴訟法規則四九条ノ二を新設して、「裁判長は訴状の審査において、原告に対して請求の原因に対応する証拠方法を具体的に記載して提出するように命ずることができる。原告が訴状に引用した書証の謄本を付加えない場合には、その謄本の提出を命ずることができる」と規定することによって訴訟実務において原告により任意に行われていたのを裁判長の訴状審査において原告に強制することができるようになった。

  裁判長の訴状審査と答弁催告

1  現行法上、訴状調査の対象になるのは、訴状に必要な記載事項が具備されているか、所定の印紙が貼られているかという形式的事項についてなされ、これらに不備があれば裁判長は原告に対して相当な期間を定めて、補正を命じる(韓民訴法二三一条)。新訴訟手続において、特に注目すべき点は、補正命令において請求の原因に対応する証拠方法を具体的に記載して提出するように、訴状に引用した書証の謄本を提出するように命ずることができる。なお必要な証拠申請をすることができることを告知することである(民訴規則四九条ノ二〈本条新設一九九一年一月三〇日〉)。

2  訴状審査において、訴状の要件を具備していると判断されたときには、被告に訴状の副本を送達する。訴状の副本を送達するに際して、改正案では被告が原告の請求を争う場合は、訴状の副本の送達日から三週間以内に答弁書を提出しなければならないことと必要な場合は証拠申請をするように被告に催告しなければならない(改正案二三二条ノ二)。

  なお裁判長は、訴状の副本を送達する際に被告が訴状副本送達時から三週間以内に答弁書を提出しない場合と、被告が答弁書に原告主張事実を全部自白する趣旨を陳述し、他に抗弁を提出しない場合には、弁論なしに原告の請求を認め、無弁論判決を宣告する期日を通知することができる(改正案二三二ノ三、三項)。

  無弁論の請求認容判決

1  被告が公示送達以外の適法な送達を受けた日から、三週間以内に原告の請求を争う趣旨の答弁書を提出しない場合は、原告が訴状で主張した事実を自白したものとみなして、原告の期日出席の負担を省き、訴訟の促進と法院の負担軽減を期するために期日を開くことなく弁論なしに請求を認容する判決を下すことができる。ただし、職権調査事項があるか、法院が当事者の主張に拘束されない事件、例えば共有物分割、境界確定等の訴訟の場合、特に判決宣言日まで被告が原告の請求を争う趣旨の答弁書を提出した場合は、裁判の適正を図り無益な控訴を防止するため、無弁論請求棄却判決を行わないで弁論を経て判決すべきである(改正案二三二条ノ三、一項)

2  被告が原告の主張事実を全て自白する趣旨の答弁書を提出し、他に抗弁を提出しない場合、または被告が答弁書で提出した抗弁が原告の請求を排斥する法律上正当な事由に値しない場合も弁論なしに請求容認判決を下すことができる(改正案二三二条ノ三、二項)。


*  被告の擬制自白または自白の場合に原告の請求を一部認容すべきであると判断された場合には、無弁論一部請求認容判決を下すか、あるいは審理を進行させて原告に主張・立証の機会を与えるべきかは法院の判断に任せる。

*  無弁論請求棄却判決制度の不採択

    「期日(争点整理期日または弁論期日)を開く前まで記録(訴状、準備書面等)上、原告の請求理由がないことが明白な場合には、弁論なしに請求棄却判決を行うことができる」とする規定を新設する提案があったが採択されなかった。

  理由は、@この制度によって判決する事件がごく少ないことと予想される。少額事件審判法(同法九条)にこの制度があるが、ほとんど利用されていない。A主張事実に対する立証資料不足の理由で弁論なしに棄却するのは不当である。B控訴審にもこの制度が準用されたら原告に苛酷である。

*  無弁論判決に対する不服方法は、異議申請と控訴があるが、大部分の場合、無弁論判決に対する不服は擬制自白による判決に対応するのに活用されることが予想されるので、より容易な不服方法である異議申請を認めると被告による訴訟遅延の手段に悪用される可能性もあるので、控訴の方法によるようにするのが妥当である。従ってこれに対して別に規定する必要がない。


  争点整理手続

1  争点整理手続の強化の目的

  現行法上においては、訴えが提起されると遅滞なく弁論期日または準備手続期日(事件が複雑な場合)を指定して、双方当事者を召喚するよう規定されている(韓民訴法二三三条)。従って、訴えの提起後弁論期日または準備手続期日を指定することなく、準備書面の交換等の方法によって手続を進行することは禁止されていると解することができる。

  なお現行法上の準備手続制度は、有名無実なものであるので、これを活性化、実質化するためには、@争点整理手続の単独事件まで拡大、A必要な場合、争点整理法官の証拠決定および証拠調査、B争点整理法官の証拠決定に関する異議に対する合議部の裁判、C裁定期間の導入と幅広い弁論期日前の証拠調査活用等の改正の必要性を切実に感じていた。

  また訴訟の実務においては、訴訟の初期に弁論期日を開いてもただ準備書面の交換とその陳述、証拠申請だけで期日が進行されるのが通例になっているので、期日が指定されることによってかえって次の期日まで期間の付与を受けたように認識され、手続の進行がなお遅延されがちな傾向もあった。

  改正案においては弁論期日指定前に単独事件まで含めて、書面による争点整理方式と争点整理期日方式のうち一つまたは二つを順を追って併用して、争点を鮮明に浮彫りにして集中審理を可能にさせ、和解が促進されるようにした。なお争点整理後、調停による解決が望ましい事件については、調停に回付することによって調停制度の効率的運用を期することも可能にした。

2  争点整理手続総説

  (1)  被告の答弁書が提出された後、法院は無弁論判決をすべきか否かを確認した後、例えば争点が単純明瞭な事件、すでに争点が明確に整理された事件、公示送達事件のように争点整理手続を経る必要がないと認めた場合は、遅滞なく弁論期日を定めて、当事者を召喚しなければならない。争点整理手続を経る必要があると認めた場合は、単純事件まで含めて遅滞なく争点整理手続に回付しなければならない。

  (2)  争点整理手続においては、弁論が効果的、集中的に実施されうるように、当事者の主張と証拠を整理して、訴訟関係を明瞭にしなければならない。

  (3)  現行法上の準備手続に関しては、弁論開始前に争点整理手続を行うのが原則であるが、新訴訟手続においては弁論手続に入った後においても特別な事情がある場合、例えば訴えの変更、反訴の提起等によって事件が複雑になった場合には、弁論期日後にも争点整理手続に回付できることになっている。

  (4)  合議事件において争点整理手続に回付すること及び争点整理を担当する法官(以下争点整理法官という)を指名することは、単純な訴訟指揮以上の意味があるため、裁判長の権限でなく法院の権限に属する。

  (5)  合議事件においては、法院は部員に争点整理手続を担当させるようにするが、例外的に受託判事を指定して争点整理手続を担当することができるようにした。

  (6)  争点整理手続は、「書面による争点整理方式」または「争点整理期日方式」のいずれかによって行われる。

3  書面による争点整理方式

  (1)  被告の答弁書が提出された後、法院は無弁論の判決をするか否かを確認し、争点整理手続を経る必要が認められる場合に、書面による争点整理方式と争点期日整理方式のうち、書面による争点整理方式によって争点整理を行うのが妥当であると判断したときには、書面による争点整理手続に回付する。具体的には事件の性質によって書面による争点整理方式によって争点整理を簡単に早期に済ませ、即時に争点整理期日方式によって争点を整理することも考えられる。

  (2)  書面による争点整理方式は、継続的に準備書面を交換し、必要な証拠申請をし、争点整理法官が必要と認めた場合、適切な時期に書面による釈明権を行使し、証拠申請を促求する方法によって争点を整理する。また和解を勧告することができる。

    (イ)  争点整理法官は、一定の主張の提出、証拠申請に関して裁定期間を定めることができ、その期間を経過すると原則的に失権の効果が発生する。
    (ロ)  書面による争点整理の過程で被告が争点全部について自白した場合は、無弁論請求認容判決を行うことができる。但し、書面による争点整理の過程で訴訟記録上、原告の請求が理由がないことが明白になった場合においても、無弁論請求棄却判決は認められないことは上述した。

  (3)  事件が書面による争点整理手続に回付された後、当事者が争点整理法官の定めた期間内に準備書面を提出しないなど、その他これ以上新しい主張が提出されないとき、または争点整理期日が指定されず、二ヶ月が経過した場合には、書面による争点整理手続を終了させ、争点整理法官の判断によって口述による争点整理が必要な事件については争点整理期日を(改正案二五三条ノ三)、争点が単純明快な事件や、すでに争点が明確に整理された事件等については裁判長が弁論期日を指定しなければならない。

4  争点整理期日方式

  (1)  被告の答弁書が提出された後、法院が無弁論判決をするか否かを確認し、弁論期日を指定する前に、争点整理手続において書面による争点整理方式よりも争点整理期日方式によるのが妥当であると判断した場合、または事件を争点整理手続に回付した後、書面による争点手続期間も含めて三ヶ月が経過するか、その他書面による争点手続においてこれ以上新しい主張がない場合に、書面による争点整理手続を終了して、争点整理期日方式によってより徹底した争点整理が必要と判断された場合には、即時に争点整理期日を指定して争点整理期日方式による手続が開始される(改正案二五三ノ三)。


*  争点期日整理方式による争点整理が弁論期日における争点整理と比べ長所がどこにあるのかという疑問がある。争点整理期日制度は、@非公開の場所で争点整理法官と当事者が事件の争点と訴訟の進行について自由に議論するため、当事者の協力を得やすく、またこの制度によって和解が成立する可能性が高くなる。A争点整理段階で必要な場合、争点整理法官によって証拠決定と証拠調査が行われるので、証拠の整理と調査が弾力的に、迅速に行われるだけでなく、合議部法官全員がその証拠調査に関与する必要がないこと等を挙げることができる。

  (2)  争点整理期日が指定されると、争点整理法官は双方の当事者(当事者は争点整理法官の許可を得て争点整理期日に第三者と共に出席することができる。改正案二五三条ノ五)、代理人と共に、@訴状と答弁書、準備書面及び釈明によって最終的争点および証拠の整理、A和解の勧告、B弁論期日進行等を協議する。


*  書面による争点整理方式を用いた争点整理が先行された場合は、書面による争点整理の結果とその間の証拠申請の結果に基づいて争点を圧縮し、不必要な証拠申請を撤回させて、さらに相手側に対して釈明を求めると同時に、釈明に対する答弁と証拠申請の内容を中心に(争点整理期日及び)弁論期日の進行に関して協議する。

  (3)  争点整理法官は、効率的争点整理と迅速な裁判進行のために、必要と認められる場合は争点整理段階においても自ら当事者の証拠申請に対する採否決定をし、証拠の内容、証拠調査の所要時間等を参酌して証拠調査(例えば文書送付、測量、嘱託、賃料鑑定、身体鑑定等)を行うことができる(改正案二五三条ノ四、一項)。但し、証人訊問は、韓民訴法二八四条の各号の一に該当する場合に限って行うことができる(改正案二五三条ノ四、二項)。


*  韓民訴法二八四条(受命法官、受託判事による証人訊問)  次の場合には受命法官または受託判事をして証人を訊問することができる。

    1  証人が正当な事由により受訴法院に出席することができないとき

    2  証人が受訴法院に出席するには過多な費用または時間を必要とするとき

    3  その他相当な理由があり当事者の異議がないとき


  (4)  争点整理法官は、争点整理に必要であると認める場合には、証拠決定をすることができる。合議事件の場合、この証拠決定に対する当事者の異議については、韓民訴法一二八条の準用により、法院(合議部)が裁判する(改正案二五三条ノ四、二項)


*  韓民訴法一二八条(合議体による監督)  当事者が弁論の指揮に関する裁判長の命令または一二六条(釈明権、求問権)、一二七条(釈明準備命令)の規定による裁判長または合議部員の措置に対して異議を申立てた際には、法院は決定によってその異議に対して裁判する。

  (5)  書面による争点整理手続の場合と同様に、争点整理法官は必要と認める場合に一定事項の提出に関して裁定期間を定めることができ、この期間を徒過したときは原則として失権的効果が発生する。その他争点整理期日の進行とその期日における訴訟行為等については、現行法上の準備手続期日に関する規定に服する(釈明、双方不出席取下げ看做等)。

  (6)  争点整理法官は、双方の当事者に対して積極的に和解を勧告するか(韓民訴法一三五条)、または事件の内容と程度を考慮して調停担当判事の調停に回付することができるようにして(韓民訴法六条)、和解、調停を活性化させ、訴訟遅延を防止する。和解が成立しないか、調停が成立しないため訴訟に復帰したときは、即時に裁判長が弁論期日を指定する。

  (7)  原則的に争点整理期日が終了すると失権的効果が発生するので、当事者は整理された争点について必要な主張と証拠申請を最終的に整理し提出しなければならない。

  ハ  争点整理期日は全体的に書面による争点整理の期間を含めて三ヶ月を経過するか、または当事者が争点整理法官の定めた期間内に準備書面を提出しないか、争点整理期日に出席しないときは、争点整理法官は争点整理手続を終了しなければならない。但し、争点整理を継続しなければならない相当な理由がある場合はこの限りでない(改正案二五七条)。争点整理手続が終了したと判断されたら、裁判長は即時に弁論期日を指定しなければならない(改正案二三三ノ二項)。

5  争点整理の効果(失権的効果)

  (1)  当事者は弁論において争点整理手続の結果を陳述しなければならない。

  (2)  書面による争点整理手続において書面に記載されていない事実は、相手側が出席していない場合には、弁論においてこれを主張することができない。但し、書面による争点整理手続を経る必要がないと認められた場合はこの限りでない(改正案二三三条ノ二、一項)。

  (3)  争点整理期日手続を経た事件においては、その期日が終了すると原則的に攻撃防御方法の失権的効果が発生する。失権的効果の例外事由は、現行準備手続終了の場合と同じく、@職権調査事項、A顕著に訴訟を遅延させない事項、B重大過失なく争点整理期日まで提出できなかった事項である(改正案二五九条一項)。また裁定期間を定めた事項については、その期間を経過すると原則的に失権効果が発生するが、上述の例外事項は同一に適用される(改正案一三六条ノ二)。なお訴状または争点整理手続前に提出した事項も失権的効果の例外となる(改正案二五九条三項)。

6  適時提出主義と裁定期間制度

  (1)  改正目的と内容

  現行法は、攻撃防御方法の提出時期について随時提出主義の原則を採択し(韓民訴法一三六条)、例外的に失機するか釈明に応じなかった攻撃防御方法の却下(同法一三八条)、準備手続を経た場合に新しい主張の制限(同法二五九条)等を規定しているので、随時提出主義を採る現行法の下でも法院の適切な訴訟指揮に当事者が積極的に協力すれば訴訟を円滑かつ迅速に行うことが不可能ではない。

  しかし訴訟の実務においては、当事者の協力不足により訴訟が遅延しており、一部の当事者の中には随時提出主義の原則を根拠にして訴訟の遅延を図っている者もあるのが実情である。失機した攻撃防御方法の却下も法律上法院の裁量に任されているので、実務上失機した場合にも適切に却下されることは稀である。現在においては裁判長や受命法官が準備書面の提出期間を定めることができるとする規定(同法二四七条、二五六条)の他には手続の迅速な進行のための一般的裁定期間制度も存在しない。

  改正案では訴訟の進行に協力する義務がある当事者としては攻撃防御方法を訴訟の進行に応じて適時に提出するのが原則であるため、その提出時期に関する理念的方向として適時提出主義を採択した。

  また随時提出主義の違反による失権効については、現行法上の失機した攻撃防御方法の却下(同法一三八条)は、上述したように実務上活用されていないので、これだけでは不充分である。裁判長が特定の主張の提出または証拠申請を行う期間を定めて、その期間に違反した場合は訴訟を遅延させないか、やむをえない事由があるときを例外として必ず却下することにする裁定期間制度を採択した(改正案一三六条ノ二)。

  適時提出主義と裁定期間制度があいまって訴訟手続の迅速かつ弾力的進行が可能となり、集中審理制度実現の前提となる。この裁定期間の違反に対する失権効は、控訴審まで及ぶので訴訟審理の第一審集中の効果も得られることと予想される。

  (2)  改正条文

    (イ)  一三六条(適時提出主義)  攻撃または防御の方法は、訴訟の程度に応じて適切な時期に提出しなければならない。
    (ロ)  一三六条ノ二、一項(提出期間の制限)  裁判長は、当事者の意見を聞いて、一方または双方の当事者に対して、特定の事項に関して主張の提出または証拠の申請をする期間を定めることができる。
    (ハ)  一三六条ノ二、二項(提出期間不遵守の効果)  当事者が第一項の期間を経過したときは、これを提出することができない。但し、その提出により訴訟の完結を遅延させないとき、または当事者がやむを得ない事由によりその期間内に提出ができなかったことを疎明した場合はこの限りではない。

7  和解の勧告と書面による和解

  (1)  改正目的と内容

  訴訟の実際においては、法院、受命法官、受託判事が単純に口述による和解を勧告したとき(韓民訴法一三五条)、微妙な部分において意見の一致に到達しなかったり、もし裁判を継続する場合、和解よりも相対的に有利な判決を受けることができるだろう、との漠然たる期待により和解に応じない場合が稀ではないのが実状である。このような状況の下で改正案においては、法院、受命法官、受諾判事が職権で当事者の利益、その他すべての事情を考慮して原告の請求趣旨に反しない範囲で和解の条項を書面化して、決定による裁判の方式により和解勧告の内容が法院の明示的、公開的、判断であることを表示し、不服とする場合は二週間以内に法定手続(異議の申請)を採るようにすることによって、その勧告の権威と公正性に対する信頼を当事者に与えて和解勧告の成功率を高めようとした。


*  現行法上、改正案のような法院の決定による和解勧告の効果と同様な効果を得る手続としては、受訴法院が事件を調停に回付する決定をして(民調法六条)、当事者双方に対して調停期日の召喚をし、その期日に調停担当判事が当事者間の合意事項を調書に記載して調整(和解)を成立させるか、または当事者の合意が成立しない場合は、職権によって当事者の利益その他すべての事情を考慮して、原告の請求趣旨に反しない範囲で事件の公平な解決のための決定をする、いわゆる「受訴法院の職権による調停決定」を当事者に送達しても当事者が送達を受けた日から二週間以内に異議を申立てない場合、調停(和解)が確定する(民調法七条二項三項、三〇条、三四条)、いわゆる「調停に代わる決定」の方法によって拘束力ある調停勧告(和解勧告)がある。

  改正案における法院の決定による和解勧告制度は、上述のような調停ないし職権調停の複雑な手続を経ることなく訴訟進行中に何時でもこのような和解勧告ができるようにした。このような和解勧告制度を新設することによって和解勧告の手続が訴訟手続と有機的に関連を持つことになり、迅速かつ融通性のある手続となる効果がある。


  (2)  改正案条文

一三五条ノ二(決定による和解勧告)

  @  第一三五条(和解の勧告)の場合、法院、受命法官、または受託判事は職権で当事者の利益その他すべての事情を参酌して、原告の請求趣旨に反しない範囲内で事件の公平な解決のための和解勧告決定をすることができる。

  A  第一項の決定には、当事者に勧告する和解条項を表記し、第一項の趣旨を記載しなければならない。

  B  当事者は第一項の決定に対してその決定の正本の送達を受けた日から二週間の不変期間内に異議を申請することができる。但し、決定正本が送達される前にも異議を申請することができる。

  C  第二項の期間内に異議申請があるときは、法院、受命法官または受託判事は、異議申請の相手側に即時にこれを通知しなければならない。

  D  法院、受命法官、受託判事は、異議申請が不適法であると認めたときは、決定で異議申請を却下しなければならない。異議申請が不適法であるにもかかわらず、受命法官、受託判事がこれを却下しないときには、受訴法院が決定でこれを却下する。

  E  第五項の決定に対しては、即時抗告することができる。

  F  異議申請をした当事者は、その審級の判決が宣告されるときまで、相手側の同意を得て異議申請を取下げることができる。この場合、第二三九条、(訴えの取下げ)第三項ないし第六項を準用するのであるが、”訴え”は”異議申請”とみなす。

  G  次の各号の一つに該当する場合に、第一項の決定は裁判上の和解と同じ効力がある。

    1  第三項の規定による期間内に異議申請がないとき

    2  異議申請が取下げられたとき

    3  異議申請に対する却下決定が確定されたとき

8  書面による和解、認諾、放棄の意思表示

  (1)  改正目的と内容

  現行法においては、和解、認諾、放棄を行うには当事者が準備手続期日または弁論期日に出席して、その趣旨を必ず口頭で陳述しなければならず、その趣旨の書面の提出では、その成立を否定する説と、欠席した当事者が書面提出によってその趣旨を表明した以上、期日出席の労力、時間、費用を省くために陳述擬制制度の趣旨を考慮して書面陳述によるその成立を肯定する説が対立していた。判例は否定説であるが、学説は肯定説が通説であった。今度の改正案は通説に基づいて改正案一三七条二項を新設し、立法的に解決した。


*  韓民訴現行法一三七条(当事者一方の不出席)  原告または被告が弁論期日に出席しないか、または出席しても本案弁論をしなかったときは、その提出した訴状、答弁書その他準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし、出席した相手側に対して弁論を命ずることができる。

  (2)  改正条文

一三七条二項新設

  第一項の規定によって当事者が陳述したものとみなす。答弁書その他準備書面に和解、請求の放棄または認諾の意思表示が記載されたときは、法院はその趣旨に応じて訴訟を終結しなければならない。


*  改正案一三七条二項の書面による場合、その意思の真正を確認する方法は、大法院規則よって適切に規定されなければならない。

        第二節  控訴審の審理

  更新権の制限

1  改正理由  現行法の控訴審における更新権

  現行民事訴訟法における控訴審も事後審でなく続審であるので、準備手続の終了、第一審の弁論終結による失機した攻撃防御方法に対する失権的効力は控訴審においてもそのまま維持されると解する。

  しかし訴訟実務においては、控訴審においても当事者はほとんど無制限に新しい主張と証拠を提出しており、法院もまたこれを許容しているのが実状である。従って、当事者や訴訟代理人は第一審の審理に集中することなく、第一審においては適当に結論を出して、控訴審において本格的に補充するという態度をとっているので、第一審判決はますます形式化、形骸化され、控訴率も高くなり訴訟遅延を招いている。

2  改正案

  (1)  改正案においても、現行法と同じく第一審で提出しなかった攻撃防御方法は、原則的にその攻撃防御方法の失権的効果が控訴審まで維持される。失権的効果の例外的事由は、(i)職権調査事項、(ii)顕著に訴訟遅延させない事項、(iii)重大過失なく争点整理期日まで提出できなかった事項(この場合は第一審弁論終結時点までに提出できなかった事項)である(改正案三八〇条一項)。また裁定期間を定めた事項は、上述の(i)(ii)(iii)の失権的効果の例外的事由の留保をして、原則的に失権的効果が控訴審まで維持されると解される(改正案一三六条ノ二)。


*  第一審で提出することができたが、提出しなかった攻撃防御方法を控訴審で提出することができるとすれば、@第一審における争点整理と審理集中を期待することが難しい。Aなおこの場合争点整理期日手続を経た事件にだけ失権的効果を与えるとすれば、争点整理期日よりももっと重要な弁論期日を経た以上、必要な攻撃防御方法はすべて提出されたとみなすのが妥当であるから矛盾である。B改正案においては随時提出主義が原則であったが、適時提出主義の原則に変わったため、第一審で提出することができた主張や証拠申請を控訴審で提出することは適時提出主義の原則に反するから失権的効果を与えるべきである。

  (2)  第一審での無弁論の判決に対する控訴審の場合は、失権的効果が発生しない(改正案三八〇ノ三)。

  (3)  改正案においては失権的効果の例外事由を厳格に弾力的に運営する規定を新設する。

  第一審において却下された攻撃防御方法も、実務においては、控訴審の審理を基準にして手続を著しく遅延させない場合に、該当するとして失権効の例外を広く認めているのが実務の実状であった。しかし、このような実務の実状を認めると、実質的に訴訟遅延を理由とする却下はその意味を喪失することになる。改正案では、第一審で正当に却下された攻撃または防御方法は、控訴審で提出する新しい事情がない限り、再び提出することができないとする規定を新設した(改正案三八〇条二項)。

3  改正案条文

第三八〇条(攻撃防御方法の提出)

  @  第一審で提出しなかった攻撃防御方法は、第二五九条第一項各号(争点整理手続の効果としての失権的効果例外事項)に該当するときに限って控訴審で新しく提出することができる。

  A  第一審で正当に却下された攻撃または防御方法は、新しい事情がない限り、控訴審において再び提出することができない。改正案第三八〇条ノ三(弁論なしに判決した場合の例外)、第三八〇条(第一審で提出しなかった攻撃防御方法の控訴審での提出制限とその例外)と第三八〇条ノ二(控訴理由で示していない主張の弁論における提出禁止)は、第一審で弁論なしに判決した事件に対しては適用しない。


*  控訴審構造における続審主義の維持

      改正案においては控訴審の審理構造を第一審の審理を基礎にして、ここに新しい訴訟資料を追加し、事件に対して判断することによって、原審判決の当否を審理する続審主義を維持しながら、更新権の制限強化、控訴理由書提出制度の規定を新設した。控訴審の審理構造を第一審の訴訟記録を検査して、判決における事実の確定と理由の誤謬の有無を判断することによって原審判決の当否を審理する事後審主義制度への改正に対しては、次の理由で採択しなかった。

  事後審主義に改正するにはその前提として

      @  第一審の審理集中のために相当な経験のある判事が第一審(単独)判事に充員されなければならない。

      A  第一審の裁判が国民の信頼を得る程度に強化されなければならない。

      B  第一審の審理集中と適切な控訴理由の提出のためには、弁護士強制主義を導入しなければならない。

      C  擬制自白事件、理由の記載のない少額事件に対する対策を講じなければならない。

      D  重複する法律審の浪費を避けるために、上告の対象を非常に制限しなければならない。

    等の措置が必要であるが、現段階ではこれらの条件が成熟されているとは言えない。


    控訴理由と審判の範囲

1  改正理由  現行法上では、控訴人が控訴を提起するとき、控訴状に第一審判決を表示して、その判決に対する控訴の趣旨を記載するだけで十分である(韓民訴法三六七条二項)。

  従って、原判決のどの判断に対して不服とするか、その不服の理由は何かまた原判決に対してどの範囲で不服とするのかの記載は要求されていないので、それを記載するかしないかは、当事者の任意に任されている。即ち、控訴状に不服の理由と不服の範囲を記載するのは、控訴の適否とは関係がない。

  控訴状に不服理由と不服の範囲が記載されていないときは、控訴審法官は原審の記録を全部読み、自ら問題点を把握した後、弁論で当事者の陳述を聞いて、控訴理由と控訴の範囲を確認して初めて当事者の主張及び証拠申請が何であるかを知ることができる。従って、控訴審法官は、裁判の準備に多くの負担を負うことになり、能率的な審理を行うことができなくなる。

2  改正案

  (1)  控訴理由制度の導入  改正案においては、控訴審理構造の続審制を維持しながら、控訴審法官の裁判準備の負担を軽減し、能率的、集中的審理を図るために、控訴理由書制度を採択した。即ち、@控訴を提起するためには控訴状に第一審判決の表示とその判決に対する不服申請の範囲と具体的不服理由ならびに新しく提出する攻撃または防御方法を記載しなければならない(改正案三七一条ノ二、一項)。A控訴状に控訴理由を記載しなかったときは、控訴法院事務官等から控訴記録の送付を受けた趣旨の通知を受けた日から一カ月以内に控訴理由書を提出しなければならない(同条二項)。

  (2)  控訴理由書不提出の効果  控訴理由書を提出しなかったときは、控訴は決定で棄却しなければならない。但し、職権調査事項がある場合は例外とする(同条三項)。この決定に対しては、即時抗告を行うことができる(同条四項)とする規定を新設した。

  (3)  控訴理由と審判の範囲  控訴理由に明示していない新しい主張と証拠申請は、弁論に提出することができない。但し、重大過失なしに控訴理由に明示できなかったことを疎明したときには、提出可能である(改正案三八〇条ノ二)とする厳格な失権効の規定を新設した。


*  無弁論判決と控訴理由書

      無弁論判決に対する控訴状には、控告理由書の提出強制を適用すべきでないとの反論が強かった。その理由は、無弁論判決は主に擬制自白による原告勝訴判決であるが、判決の理由だけで不服の理由を把握することに難点があり、従って、控訴理由書提出の段階で特別の攻撃防御方法の提出を強制することは妥当でないので、失権効の適用を排除すべきであるとの主張があった。しかし、無弁論判決の場合でも控訴理由書制度を適用するのが、控訴審法官の負担軽減と訴訟促進に寄与する面があることを否定できないとの理由で採択されなかった。


3  改正条文

第三七一条ノ二(控訴理由書の提出)

  @  控訴状に控訴理由を記載しなかった場合には、控訴人は第三六九条三項(控訴法院事務官等により控訴記録の送付を受けた趣旨を当事者に通知)の規定による通知を受けた日から一ヶ月以内に控訴理由書を提出しなければならない。

  A  控訴理由に次の事項を明示しなければならない。

    1  原判決に対する不服申請の範囲と具体的な不服理由

    2  新しく提出する攻撃または防御方法

  B  控訴人が第一項の規定に違反して控訴理由書を提出しなかったときは、決定で控訴を棄却しなければならない。但し、職権で調査すべき事由がある場合はこの限りでない。

  C  第三項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

第三八〇条ノ二(控訴理由に明示していない主張)

  第三七一条ノ二、二項(控訴理由書の記載事項)の控訴理由に明示していない新しい主張は、弁論に提出することができない。但し、重大な過失なく控訴理由に明示できなかったことを疎明したときはこの限りでない。


*  控訴答弁書制度の不採択

      控訴理由書制度を導入する際には、第一審で主張されていない新しい攻撃防御方法が含まれているとき、その他控訴人の第一審判決取り消し事由に対する被控訴人の主張を明白にするために必要であると認める場合、充実した審理のために被控訴人の対応主張を前もって整理する必要があるので、裁判長はこのような場合一定期間内に控訴理由に対する答弁書の提出を命ずることができ、答弁書の提出がない場合、または定められた期間内に提出されないときには、控訴理由書の場合と同様に失権効の制裁を科する規定を新設することによって控訴理由書と答弁書に基づいて審理を効果的、能率的に進行させることができるとの提案があった。しかし、この答弁書提出に対する提出命令とその裁定期日内の不提出に対する失権効の規定は、改正案一三六条ないし一三六条ノ二の一般規定の適用によって同様の効果を得ることができるため採択されなかった。

*  控訴の制限制度としての不服価格制度と濫上訴に対する制裁制度の不採択

    ・財産権上の訴えにおいて、控訴の不服価額が三〇〇万ウォンを超えない場合は、決定により控訴を却下することができる。その決定に対しては即時抗告することができるとする条文新設の提案があった。この提案に対しては当事者の不服権に対する重大な侵害であるとの理由から採択されなかった。

    ・控訴を却下または棄却する場合、控訴人が訴訟を遅延させる目的で控訴を提起したと認められたときは、控訴状印紙額の一〇倍以下の金額を法院に納入するよう命じることができるとする条文新説の提案があった。この提案に対しては当事者の控訴権を侵害するだけでなく、控訴法院の感情的対応の虞れもあるとの理由で採択されなかった。


  反訴の活性化

1  改正理由と内容

  現行法上、控訴審で反訴を提起するには相手側の同意を要する。しかし、相手側の立場では自己に不利な手続の開始に同意を好まないだけでなく、同意することが稀であった。

  しかし、反訴制度の趣旨に照らして見ると、すでに本訴において反訴請求に関する部分も事実上審理されている状態の場合においては、相手側の同意を要することなく反訴を提起できるようにすべきである。なお相手側の同意を要するとしたのは、相手側の審級の利益を害する虞れがなければその同意の有無に関係なく反訴提起は許されるべきだからである。従来の通説と判例においてもそうであった。

2  改正案条文

  第三八二条(反訴の提起)@反訴は相手側の同意があるか、または相手側の審級の利益を害する虞れがない場合に提起することができる。A現行法と同じ。