契約法における「消費者保護」の意義(二)(谷本)
立命館法学  一九九八年四号(二六〇号)




契約法における「消費者保護」の意義(二)
 − 適用範囲に限定に着目して −

谷 本 圭 子






目    次

序    章

  T  問題意識

  U  考察対象

第一章  ドイツにおける適用範囲限定

  T  序論

  U  法律規定の概観

  V  特徴

  W  人的適用範囲限定基準の内容確定

  X  最近の法改正

  Y  小括              (以上二五九号)

第二章  立法理由

  T  序論

  U  AGBG(約款規制法)



V  訪問取引撤回法

  W  消費者信用法

  X  AGBG改正法(二四条a)

  Y  小括

第三章  従来の契約法との関係

  T  序論

  U  AGBG(約款規制法)

  V  訪問取引撤回法

  W  消費者信用法

  X  AGBG改正法(二四条a)

  Y  小括              (以上本号)

第四章  検討

第五章  学説

終    章



第二章  立  法  理  由

T  序      論

  第一章においては、物的及び人的適用範囲双方を限定する一連の消費者保護契約法を対象として、適用範囲限定の基準を明らかとした。そこで、次に、適用範囲を限定する理由について明らかにしていきたい。

  しかし、本稿が目指すところの、適用範囲が果たしている役割を解明するためには、適用範囲を限定する理由のみを明らかにするだけでは不充分であり、具体的規律(1)の理由をも明らかにしておく必要がある。つまり、前述のように、適用範囲の限定は具体的規律すなわち特別な規律の理由としての役割を果たしていることが予想されるからである。そこで、本章においては、適用範囲を限定する規定のみならず、主な具体的規律に関する規定についても、その立法理由を明らかにする。また、法律全体としての立法理由も示しておきたいと思う。個々の法規定の正当性が要求されると同様に、法律全般に通じる理念及び正当性も必然的に要求されるからである。さらに、一口に理由といっても、そこには問題とする現状認識、それに対する一定の評価、そして守られるべきとされる価値や達成が意図されている目的が含まれており、それを整理する必要があろう。

  本章の考察においては、一九九七年成立時のAGBG(約款規制法)、訪問取引撤回法、消費者信用法、一九九六年AGBG改正法それぞれにつき、法律制定時の立法理由を草案理由などから事実として明らかにしていきたい。その際立法理由について現状認識・評価・価値ないし目的の各側面に着目しつつ、法律全体としての立法理由及び、個別規定の立法理由という視点から、適用範囲を限定する規定並びに主な具体的規律に関する規定それぞれにつき整理していきたい。
  なお、検討対象とする主な具体的規律に関する規定(仮訳)を以下に示しておく(適用範囲を限定する規定については、前述第一章U及びX参照)。

@  AGBG(約款規制法)

二条【契約への組込】

  (1)  AGBは以下の場合にのみ契約の構成部分となる。すなわち、約款利用者が契約締結に際して、

    1.相手方に明白に、または明白な指摘がその契約締結方法のために著しく困難な場合には、契約締結場所での読みやすく明らかな掲示により、AGBを指摘し、かつ、

    2.相手方に、期待可能な方法でAGBの内容を知る可能性を与え、かつ、相手方がAGBの適用を了解した場合。

  (2)  契約当事者は、一項の要件に従い、特定種類の法律行為につき特定のAGBの適用を事前に合意することができる。

九条【一般条項】

  (1)  AGB中の定めは、それが利用者の相手方を信義誠実の命令に反して不当に不利にする場合、無効である。

  (2)  不当な不利益は、疑わしいとき、以下の場合に認められる。すなわち、ある定めが、

    1.乖離されているところの法律上の規律の本質的基本思想と一致しない場合、または、

    2.契約の性質から生ずる本質的な権利または義務を、契約目的の達成が危殆化するほどに制限する場合。

A  訪問取引撤回法

一条(前述第一章U参照)

B  消費者信用法

四条【書面方式;必要的記載事項】

  (1)  信用契約は書面方式を要する。その方式は、申し込みと承諾が契約当事者によりそれぞれ別に書面上で意思表示されていることで足りる。与信者の意思表示は、自働機械でなされる場合には、署名を要しない。消費者により署名されるべき意思表示は、以下の記載を要する。すなわち、

    1.信用契約一般においては、

      a  実質信用額、または、信用額の上限、

      b  信用額の弁済並びに利息およびその他費用の支払いのために消費者により支払われるべき分割払い全ての総額が信用契約締結時に全期間にわたって確定する場合には、分割払い全ての総額。さらに、分割払いで弁済される信用が可変的条件を伴う場合には、契約締結時に基準となった信用条件に基づき総額を記載することを要する。限度額まで自由に利用できる信用の場合には、総額の記載を要しない。

      c  信用の返済の種類および方法、または、これに関する合意が予定されていない場合には、契約終了の規律、

      d  利率、および、その他の費用については、額が知れている限りで個別に挙げ、そうでない場合にはその根拠につき記載することを要する。消費者の負担すべき仲介費用がある場合には、その他の費用にこれも含む。

      e  実質年利、または、利率の変更もしくはその他の価格決定要素が留保されている場合には、始めの実質年利;始めの実質年利と共に、価格決定要素がいかなる要件で変更可能であるか、および、不完全な支払いまたは信用額への増額から生ずる負担が、実質年利の算定にあたりどの期間につき決済されるかも、記載することを要する。

      f  残債務保険、または、信用契約と関連して締結されるその他の保険の費用、

      g  設定予定の担保。

    2.分割払いに対する特定物の提供又はその他特定の給付の実施を対象とする信用契約においては、

    ・・

  (2)  ・・省略

  (3)  ・・

六条【方式瑕疵の法律効果】

  (1)  書面方式が総じて守られていないとき、または、四条一項四分一号aないしfおよび二号aないしeに規定される記載事項の一つを欠くときは、信用契約は無効である。

  (2)  前項による瑕疵にもかかわらず、四条一項四文一号の信用契約は、消費者が貸付金を受領もしくは信用を請求する限りで、有効である。しかし、その記載が実質年利や始めの実質年利の記載またはbによる総額の記載を欠くときは、信用契約の基礎となっている利率(四条一項四文一号d)は法定利率に縮減される。記載されていない費用を消費者は負担しない。合意された分割払いは、縮減された利率及び費用を考慮して新たに算定されることを要する。いかなる要件で価格決定要素が変更可能であるかについての記載がないときは、これらの要素を消費者の不利に変更することはできない。担保の記載を欠くときは、これを越えて要求することはできない;ただし、実質信用額が一〇万マルクを超える場合はこの限りではない。

  (3)  ・・省略

  (4)  ・・

七条【撤回権】

  (1)  信用契約の締結に向けた消費者の意思表示は、消費者がこれを一週間以内に書面により撤回しないときはじめて有効となる。

  (2)  期間遵守のためには撤回を適時に発信したことで足りる。期間は、印刷技術上明瞭になされ、かつ消費者により特別に署名された、一文の規定、撤回権、三項による失効、ならびに撤回受領者の氏名・住所についての記載(Belehrung)が消費者に交付されたときはじめて経過し始める。消費者が二文に従った記載を受け取っていないときは、撤回権は双方が完全に給付をなした後にはじめて、しかし遅くとも信用契約の締結に向けた消費者の意思表示がなされた一年後には消滅する。

  (3)  四条一項四文一号の場合には消費者が貸付金を受領しているとき、撤回は、消費者が撤回の意思表示または貸付金の支払い後二週間以内に貸付金を返還しない場合には、なされなかったものとみなす。

  (4)  ・・

  省略

  (5)  ・・

九条【結合取引(Verbundene Gescha¨fte)】

  (1)  売買契約は、信用が売買代金の融資に役立ちかつ二つの契約が経済的一体とみなされるとき、信用契約と結合した取引を形成する。経済的一体は、与信者が信用契約の準備または締結に際して売主の協力を利用するとき、特に認められる。

  (2)  結合した売買契約の締結に向けた消費者の意思表示は、消費者が信用契約の締結に向けた自己の意思表示を七条一項により撤回しないときはじめて有効となる。七条二項二文により要求される撤回権についての記載は、撤回の場合には結合した売買契約も有効に成立しない旨の記載を含むことを要する。七条三項の適用はない。実質信用額が既に売主に支払われているとき、与信者は消費者との関係において撤回の法律効果に関して(七条四項)売買契約に基づく売主の権利および義務に加わる。

  (3)  消費者は、結合した売買契約に基づく抗弁により売主に対して給付拒絶権限を有する限りで、信用の返済を拒絶することができる。ただし、融資される売買価格が四〇〇マルクを超えないとき、ならびにその抗弁が売主と消費者との間で信用契約の締結後に合意された契約変更に基づくものであるときは、この限りではない。消費者の抗弁が給付された物の瑕疵に基づいており、かつ消費者が契約上または法律上の規定に基づき補修もしくは代替物の給付を求める場合は、補修もしくは代替物の給付が失敗に終わったときにはじめて信用の返済を拒絶することができる。

  (4)  一項ないし三項は、物の提供以外の給付についての対価を融資するために認容される信用に準用する。

一一条【遅延利息;一部給付の充当】

  (1)  消費者が信用契約に基づき負担する支払いを遅滞する限りで、債務額には、その時のドイツ連邦銀行の手形割引率の五%増しの利息が付加される。ただし、与信者または消費者がより高額またはより低額の損害を証明するときはこの限りではない。

  (2)  遅滞発生後に生じた利息は、別の口座に入れることを要し、債務額やその他の与信者の債権との交互計算の中に入れることを禁止する。この利息に関してBGB二八九条二文は、与信者は損害賠償を法定利率の限度でのみ要求することができるという条件で適用する。

  (3)  弁済期の到来した全債務の弁済に満たない消費者の支払いは、BGB三六七条一項とは異なり、訴訟費用、その他の債務額(一項)、利息(二項)の順に充当する。与信者は一部給付を拒絶してはならない。利息を求める請求権には、BGB一九七条及び二一八条二項は適用しない。その主たる債権が利息である執行名義に基づいて支払いが履行される限りで、一文ないし三文の適用はない。

一二条【分割払い信用の場合の期限の利益喪失】

  (1)  与信者は分割払い信用において、以下の場合にのみ、消費者の支払遅滞に基づき信用契約を解約することができる。すなわち、

    1.消費者が、分割払い全部または一部につき少なくとも二度連続して遅滞し、かつ、その額が信用の額面額または分割払い価格に対して少なくとも一〇%、信用契約期間が三年を超える場合には五%に達しており、かつ、

    2.与信者が、期間内に支払いがない場合には残債務全額を要求する旨を表示して、消費者に未払い額の支払いのために二週間の期間を設定したが効果がなかった場合。

  与信者は、消費者に遅くとも期間設定と同時に、合意による規律形成の可能性についての話し合いを申し出るべきである(sollen)。

  (2)  与信者が信用契約を解約した場合、残債務は、段階的に算定すれば解約の効果発生後の期間に割り当てられる利息及びその他の期間にかかわる費用の分、縮減される。

一三条【与信者の解除】

  (1)  与信者は、分割払いと引換の物の提供またはその他の給付の提供を対象とする信用契約を、一二条一項の要件の下でのみ、消費者の支払遅滞に基づき解除することができる。

  (2)  ・・

  省略

  (3)  ・・

C  AGBG改正法

二四条a(前述第一章U参照)

U  AGBG(約款規制法)

  同法は、一九七五年の連邦政府草案を基礎として(2)、法務委員会の提案(3)による若干の修正を受けて成立した。約款の規制については、従来から連邦通常裁判所(以下ではBGHと略称)が大きな役割を果たしてきたが、BGH判例をより前進させる方向での立法が実現されたのである。

  1.法律全体

  同法の根底には、「一方的に事前に形成された類型化された契約条件」が、市民契約法が前提とする「自由に交渉されかつ合意された契約という類型」を追い出してそれに代わっている、との現状認識が存在する(4)

  歴史的に見れば、産業革命によりAGBは誕生し、一九世紀後半の技術的・経済的拡大が契約を標準化・類型化するという要求を生み出した。法的対処としては、ライヒ裁判所の判例は、AGBを「完成して用意された法秩序」と見て、提供者について、良俗に反するような独占的地位が存在する場合にのみ、BGB一三八条(5)に基づきAGBの実質的内容を検討してきた。これに対して、BGH判例は、AGBが契約内容となるためのいわゆる組込要件として、それに相応する合意を要するが、これには顧客のAGBについての認識又は認識可能性及び事業者がAGBの下でしか締結の意思がないことについての認識可能性があれば十分としていた。また、AGBの内容コントロールについては、BGB一三八条のみでなく同法二四二条(6)をも根拠として、利用者はAGB設定の際に既に契約自由を一方的に利用しているのだから、将来の相手方の利益を信義誠実にしたがって十分考慮する必要がある、としていた。一九七〇年代にはこのような判例による対処ではなく立法者による処置が必要であるとの法政策的議論が盛り上がり、一九七四年第五〇回ドイツ法曹大会においては、1.規律に際しては、契約形成の自由が不当なAGBの利用によって濫用されないという思想が指導的となること、2.人的適用範囲は原則として無制限とされること、ただし、消費者保護のために付加的な規律をおくこと、3.内容コントロールに際しては、必ず許されない条項のカタログをおくこと、通常許されない条項のカタログをおくこと、及び受け止め要件としての一般条項を予定すること、が決定された(7)

  AGBに対しては、それが有するプラスの機能として、大量契約の展開を合理化・簡易化するという点、法律に規律されていない生活・事実領域を法的に明確に秩序付けするという点、取引リスクの計算可能性を高めるという点、大量契約の基準となる契約規定を迅速に変化し続ける経済的・技術的展開に適合させるという点があげられる。他方、AGB利用者がAGBを通じて相手方の負担で自己の利益を一方的に追求しており、それにより、契約自由及び契約の正当性という原則が破壊されているし、また、「平等な当事者間で、契約条件の自由な交渉によって、契約の正当性を作り出す」という契約自由の機能が妨害されているとする(8)

  AGBを設定する契約当事者に対しては、この者は他方当事者に対して常に組織的に優位しており、この組織的な優位が事前形成に優越を生み出すとされる。さらに、この優位性は、相手方が経済的あるいは知識的に劣位にあることにより強力となることがまれではないとされる(9)

  以上のような現状認識及びAGBに関する評価の下、個人の法律行為上の自己決定は自由な人格発展の構成要素であるとの価値規定、及び、憲法上の社会的な国家目的により、私法取引における形成自由の濫用を防止することが要請され、立法者には相手方保護のために規律をなすべきことが要請されている(10)

  契約自由の機能は、自由かつ法律行為について自己決定する能力ある当事者間での契約の自由交渉によって、契約の妥当性を創設するという点にあるため、AGBにより妨害されている契約法の機能を復旧する必要がある。そのためには、契約形成におけるAGB利用者の優位を適切かつ理性的に調整すること(この目的以上に私的自治を制限することなく)が要請される(11)

  2.適用範囲を限定する規定

@  一条(物的適用範囲(12))

  一条一項に規定されるAGBの認定基準につき、「一方当事者が相手方に契約締結に際して設定した」という事実からは、交渉がなく、相手方は内容形成について何の影響も与えることはできないという、負担の一方性が明白である。また、「大量契約のために事前に形成された」という事実は、負担の一方性を認定するための形式的な基準として役立つものである。他方、一条二項にはAGBが認められないための要件として、「個別に交渉されていること」が問題とされているが、この事実は合意が双方当事者の自問による検討、慎重な考慮、影響力行使の結果を示しているとされる(13)

A  二四条(人的適用範囲)

  同法は第一に最終消費者の保護の改良を目的としているが、しかし信義誠実の原則の現れであるという理由から、原則として契約当事者の人的地位を考慮しない。

  ただ、同法成立時には二四条一文一号に関して、商人間の法律行為については商慣習・慣習・取引慣行・法律行為の経験のために、契約法規範の融通性が頼りにされていることを考慮して、一般的な保護規定は別としても、消費者取引とは区別して規定されるべきとされていた(14)。一般的保護規定を越えて双方の取引に共通の規定を確定しようとすれば、商人間取引が強力に締め付けられ、他方、消費者の保護が広く切り崩されすぎるという危険が隠蔽されることになる、一〇条・一一条の危険転嫁は商人間取引では受容可能である、なぜなら、一度きりの契約締結では与えられないようなその他の利益によって給付が均等になるからである、もし均等性が否定される場合には九条の適用で十分であるとされていた。完全商人と小商人とを区別して取り扱うことについては、保護の必要性という点では区別して評価されるべきとしながらも、他方で、営業的取引活動における法的安定性を減ずることになり小商人に不利ともなるため、拒絶されている(15)。もっとも同規定は、最近の商法改正法により変更を受けていることは既に述べたとおりである。変更の直接的理由は、HGBの改正により従来の小商人が商人概念から除外される結果小商人もAGBGの適用範囲に入ることを阻止することにあった。しかし、結果的には、従来よりも適用範囲から除外される者の範囲が拡大されることとなったのである(前述第一章X参照)。このような新たな規律の根拠としては、これにより適用範囲から除外される者はAGBに対する保護の必要性が少ないこと、そしてAGBG二四条a、消費者信用法、訪問取引撤回法などの人的適用範囲に適合することしか言われていない(16)

  また、同条一文二号に関しては、最終消費者の保護に合わせて作られている規定は公法の法人又は特別財産についても不適切であるとされる(17)

  3.具体的規律に関する規定

@  二条(契約への組込要件)

  二条を規定する一般的目的としては、AGBにつき展開されてきた判例の流れとは異なるが、BGBにより基準となるところの、法律行為としての契約意思という境界線に再び固定されるべきことが言われる。

  また、二条の具体的な条文内容との関連も指摘されている。まず、「利用者が自己の条件を明らかにし、かつ契約への組込につき相手方に指摘すること」が組込の要件とされている点については、相手方に自己の意思表示の射程距離を測ることを可能にし、望まない不当な条件を阻止する機会を与えることにより、契約当事者双方の意思の合致という要件を維持するという目的が言われる。これにより、従来の判例によって確立されてきた「相手方がAGBの存在につき知るべきであった場合には、合意なくとも契約内容となる」という定式に反対している。この定式は、軽率な意思表示という危険を生み出すし、また、商業活動をなしていない顧客との取引を考慮していないと批判される(18)。さらに、「相手方がAGBの適用を了解したこと」も組込の要件とされている点については、これにより、相手方が意思表示に関する一般原則に従って明白に、あるいは推定可能な態様(schlu¨βiges Verhalten)によりAGBの適用を自分は理解していることを意思表示できることになるとされる(19)

A  九条ないし一一条(内容規制)

  AGBに関しては契約関係者の利益を信義誠実の命令により適切に調整する(20)必要があるため、不当な個別条項のカタログを作成し(一〇条・一一条)、実務のために法的安定性を確保し訴訟を予防すると共に、受け止めのために一般条項(九条)をおくべきとされる(21)

  具体的には、事前形成された契約条件の利用者は、契約自由を通常自己のために利用しており、かつ、相手方の自由を締結の自由のみに限定しているとの評価の下、双方的な利益調整に向けられた任意法規を排斥する者は信義誠実の命令により相手方の利益を適切に調整する義務を負う。このことは、基本法に根拠をもつ社会国家の原理に一致するものであり、これを実現するためには、判例は包括的であり見通しが利かないので、一般条項により根本的原理を明示する必要があるとされる(22)

V  訪問取引撤回法

  同法は、一九八五年の連邦参議院による法律草案を土台として成立した(23)。当時、ECにおいても同年一二月二〇日には「事業所以外で締結された契約における消費者保護に関するEC理事会指令」が採択されているという状況下にあった。同法は、このEC指令を直接国内法化したものではないが、立法にあたっては、同指令を考慮したものとなっている(前述第一章U注(7)参照)。

  1.法律全体

  同法が規定する取引にあっては他の販売に比して、顧客が求めていないのに口頭で契約を始め、かつ、これに際しては顧客の熟慮の可能性が制限されているという典型的な特殊性が存在している。顧客は交渉に際して不利な地位に立たされているし、望んでいない契約締結へと説得させられる。また、自己の決定を十分かつ影響力なしに熟慮する機会をもたず、決定期間は短縮されている。他方、契約相手方はこのような状況に条件づけられて優位に立っている。したがって、契約相手方の優位性を調整し、契約決定の自由を回復する必要があるとされる(24)

  2.適用範囲を限定する規定

@  一条(物的適用範囲)

  一条一項一号が規定する「私的住居への訪問」が要件となっている点については、電話による交渉を含まないとされるが、その理由として、顧客への影響が相手方がその場にいるよりも強烈ではないことがあげられる。また、二号が規定する「休暇行事」については、これにより行事の主たる目的を見落としてしまい、かつ、売却努力をまくことは困難になってしまうことが指摘される。さらに、三号が規定する「交通機関・公共の通路」については、話しかけられた者が決定の自由において制限されていると感じること、顧客への話しかけが不意打ち的である結果、顧客には冷静かつ適切な判断が不可能であることが言われる(25)

A  六条(人的適用範囲)

  顧客について、「独立の取得活動の実施において」契約締結した場合には、同法の適用を排除する。この場合には、顧客は頻繁にそのような取引を扱っており、経験があるため、訪問取引における特別の状態を十分解決するだけの力があり、都合の悪い契約締結に対して自己の身を守ることができるからである。また、割賦取引法八条におけるように商業登記簿に登記された商人だけでは、同法適用が排除される範囲として狭すぎるとの配慮がある。自己の私的な需要のために契約締結する顧客についてのみ保護の必要性が存在し、この顧客こそが訪問取引の典型的な危険に関係しているとされる(26)

  他方、契約相手については、「取引として行為していない」場合に、同法の適用を除外している。この場合には、契約締結のイニシアチブは顧客から出ていることがほとんどであり、また、契約当事者間の交渉力の典型的な不平等は欠けているとされる。この場合の契約締結は私人間のものであるため撤回の説明は通常なさないであろうし、そうすると不当に長期間未決定の状態が続き、これは契約相手に不利益を生じさせることになる。この場合には契約相手は顧客を訪問取引の場合に想定されるような状態に置くことはないとされる(27)

  3.具体的規律に関する規定ー一条(撤回権)

  同法の名称が示すように、撤回権付与はまさに同法の中心的規律である。撤回権付与は数ある方法の中でもバランスの採れた方法であると認識されている。なぜなら、満足した顧客は滅多に撤回せず、撤回するのはまさに望んでいない契約を締結させられた顧客だけだからである。撤回権付与の目的としては、顧客の信頼を強化し、提供者の質を改善し、また、契約締結を簡易化することがあげられる。と同時に、同法は直接販売を排斥したり、他の販売業者に比して不当に不平等に扱うものではないこと、及び競争法による一般的な禁止までは不要であることが言われる。

  基本法との関係について、撤回権付与は、基本法二条一項「経済的な展開自由」及び基本法一二条一項「職業実施の自由」と一致しているとされる。つまり、基本法二条一項によれば、自由な活動をなす権利は、他者の権利及び良俗法により制限されているし、経済的な交渉自由の制限は、顧客の交渉自由の利益及び信義誠実の命令によって正当化される。また、基本法一二条一項の自由な職業実施の権利への介入は公共の利益=顧客保護によって正当化されるとする(28)

W  消費者信用法

  同法は、一九八六年一二月二二日の「消費者信用についての加盟国の法規定及び行政規定の調整に関するEC理事会指令」を国内法化することを主たる目的として、一九八九年の政府草案を基礎に制定された(29)。成立した消費者信用法は、政府草案に対して、参議院の見解並びに一九九〇年二月二二日の「消費者信用指令の変更に関するEC理事会指令」に基づき一定の変更を受けている。また、同法は一九九三年四月二七日に一部改正されている(30)

  1.法律全体

  消費者信用法は、先述のようにEC指令を国内法化するという目的の下成立した。したがって、同法の目的として挙げられるものは大枠としてはEC指令の目的である。

  信用量が甚大に増加していること、そして新たな信用形態も含め信用類型が絶え間なく多様に拡大していることが、EC指令における統一的な消費者保護の根拠である。そして、それと結びついている負担と危険をもはや十分に判断することができないという危険を消費者は冒す。したがって、EC指令の意図は、消費者が信用を受けることと結びついている自己の義務、特に信用費用について、契約締結以前及び契約締結に際して適切に知らされることを担保することにある。また、消費者は今後一般に、正当化されない方法で彼を不利にする条件から保護されるべきとされる(31)

  他方、EC指令の国内法化と並んで、同法においては、信用債務者の状態改善へ向けた、いわゆる「現代の債務者監獄(moderner Schuldturm)」問題解決に向けた長年にわたる法政策的な要求も、実現されている(32)。さらに、同法の制定により廃止されることとなった割賦取引法の規定も、同法の中に組み込まれている(33)。検討に際しては、このように同法が多様な目的を同時に採り入れている点に留意する必要があろう(34)

  2.適用範囲を限定する規定

@  一条(物的適用範囲(35))

  物的適用範囲については、同種の経済的事実が統一的な法的取り扱いを受けることに意味が見いだされている(36)

A  一条(人的適用範囲)

  同法の人的適用範囲は割賦取引法よりも限定的なものとなっているが不当ではない、なぜなら、同法は割賦取引法と比べて物的適用範囲も広く、規定内容も多様であるため、そうしなければ商業取引に不適切に負担を強いることになるからであるとされる(37)

  また、小規模事業者の保護の必要性は認識されているが、範囲画定が困難であるため、不可能とされている。

  私的な与信行為が適用範囲から除外される点については、これは実務上意義が小さく、かつ、方式規定は商業信用にあわせてつくられていることが理由としてあげられる。また、受信者側での適用範囲限定については、除外される者は修練・職業経験により自己の契約決定の射程距離を見通すことができることがあげられる(38)

  3.具体的規律に関する規定

@  四条ないし六条(方式要件)

  四条ないし六条は、適切な契約決定を可能にすることを目的としている。まず、書面方式を要求することにより、本質的な信用条件に関する情報を担保し、かつ、軽率な融資約束につき消費者に警告している。また、必要的記載事項を規定することにより、確実な土台の下に契約締結についての適切な決定を可能にしている(39)

A  七条(撤回権)

  同法における撤回権付与は、契約題目の経済的意味、経済的影響範囲、並びに難しさが第一の根拠となっており、訪問取引撤回法におけるような不意打ち・性急さは後退している。軽率な契約決定から消費者を包括的に保護すること、消費者が財政上無理をしている「ひ弱な(anfa¨llig)」信用関係を始めから成立させないことに撤回権付与の目的は存在し、これにより、自己の決定を根本的にかつゆっくりと熟慮する可能性を与え、解消する可能性を与えると言われる(40)

B  九条(結合取引)

  同条は、信用供与が売買契約またはその他のサービス提供契約と分離して融資銀行により引き受けられる、第三者融資取引における特別な問題を規律している(41)

  第三者融資取引(特に融資売買)については、七〇年代から立法による規律の必要性が議会において問題とされてきたが、立法化が実現されることはなかった。ただ、BGHは、BGB二四二条の適用や割賦取引法準用の下にいわゆる「抗弁貫徹(Einwendungsdurchgriff(42))」や売買契約など消費賃借契約双方の無効などを認めることにより、一定の実効性ある処理を行ってきたのである。このように、従来の立法への努力、割賦取引法が消費者信用法へ組み入れられることになったこと、そして、EC指令もこの取引に関して法律による規律を加盟国に要求していることから、消費者信用法の中に第三者融資取引に関する規律をおくべきとされた(43)

C  一一条(遅延利息の制限等)

  まず、現状認識として、信用が原因となって借主は経済的困窮状態に陥ることがある点が指摘される。当初の段階としては、借主の家庭での予期しなかった経済的圧迫(失業・短期労働・病気・離婚)、及び、強力な利息負担が原因となって支払いが不可能となる。より重要なのは次の段階であり、遅滞後の残額の弁済期到来、高額の遅延利息・BGB二八九条二文(44)による重利の算定・BGB三六七条(45)の充当の規律によって、債務は急速に増大する。また、遅延利息の算定については法的不安定性が支配している。つまり、一方では返済の遅滞があっても信用関係は事実上継続しており、約定の遅延利息条項が妥当するとする見解が、他方では遅延による弁済期到来でもって与信者は約定の利息を求める請求権を放棄しており、したがってBGB二八四条以下による純粋の遅延損害のみを請求できるとする見解が対立している。もっとも、一九八八年四月二八日のBGH判決(46)は遅延時の市場に通常の総貸付利息を算定の基礎とするとの独自の方法を採っているが、信用経済からは非実用的であるとの批判を受けている。

  以上のような現状認識の下、遅滞した借主の状況改善のため、法律の改正及び明確化が必要とされる。与信者と遅滞した消費者との間の適切な調整を担保し、そして、遅延利息の決定に関して存在していた実定法上の法的不安定を除去するという目的の下、消費者の債務負担が急速に増大することが規制されるべきことが言われる。債務者に対して債務を徐々に弁済するチャンスと刺激を与えることにより、与信者にも利益をもたらすことになるとする。

  この目的を実現するため、遅延利息を損害賠償の観点より算定し、約定利息に依拠することは排除される。また、遅滞発生後に生じた利息についての遅延損害は法定利率に制限される。純粋な経済的考察によれば利息も与信者の損害を引き起こし、利息請求権を基礎づけるのだが、純粋な経済的考察は、消費者信用の領域で債務者の義務を免除する社会的理由から、その妥当領域を制限される。与信者には「債務者監獄問題」の解決のために寄与することが義務づけられるのである。さらに、一部給付の充当順序につき、遅滞発生後に生じた利息よりも債務額に先に充当されるとすることにより、債務者は自己の返済の苦労が報いられており、債務が実際に切り崩されていくのを直接に認識することができることになる(47)

D  一二条・一三条(解約・解除の制限(48))

  信用が原因となり借主が経済的困窮状態に陥ることが多いことは既に述べたとおりであるが、その第一の原因をなすのは、期限の利益喪失の発生である。つまり、期限の利益喪失は関係者にとって痛烈な財政上の効果を有するものである。第一に、これにより借主は即座に償還されるべき高額の残額と対決することになり、借主の経済状態はたいてい、割賦金の支払いのために一度も金銭を支払うことができないほどに危機的な状態になる。即座に清算をなさないと、「継続的な強制的信用関係」の中に陥るという危険が生ずることになる。事前の弁済期到来は借主にとって本質的な転機である。

  以上の現状認識の下、遅滞した借主の状況改善が必要であるとされる(49)

  この目的を実現するため、事前の弁済期到来のための要件が、規定されている。まず、特別の信用危険を推量させる必要があるとの視点から、遅滞回数及び未払い金額に限定を付している。さらに、期限の利益喪失の予告と共に再猶予の設定を要求することにより、消費者に信用の危機的状況を明白にし、二週間の期間内で信用を維持する最後のチャンスが与えられる。また、商品信用の分野では、これにより商品利用への消費者の保護に値する利益は担保され、短期間の一次的な支払い能力の支障の場合にまで消費者から商品が奪われることが防止されることになる(50)

X  AGBG改正法(AGBG二四条a)

  AGBG二四条aは、一九九三年四月五日の「消費者契約における濫用条項に関するEC理事会指令」を国内法化することを目的として、新たにAGBGに挿入された規定である。同条は、一九九五年の「AGBGの変更についての法律に関する政府草案」を土台として規定された(51)

  ただ、同法がEC指令の国内法化のみを目的とするため、同政府草案の理由書にはEC指令の国内法化という目的・立法理由以外には、実質的な規定理由が述べられていない。したがって、以下ではEC指令において挙げられている考慮理由、及び、政府草案理由書に見られるEC指令の解釈の中から、AGBG二四条aの規定理由を拾い上げていきたい。また、ここでは一つの条文のみが問題となるにすぎないため、法律全体・個別規定の区別はなさない。

  まず、EC加盟諸国の法が著しく相違していること、そして、売主またはサービス提供者の力の濫用、特に売主により一方的に定められた標準約款契約・契約における諸権利の濫用的排除が存在していること、が問題として認識されている(52)。また、消費者が条項内容に影響を及ぼすことができなかったことが問題ともされる(53)。規定目的としては、一方では他のEC指令と同様、域内市場の創設により、競争の平等の確保、消費者による発注の促進、消費者へのより大きな選択の機会提供を実現することが挙げられる。また、他方では、濫用条項の領域における消費者保護があげられる(54)。そのため、統一的な法令を制定すること、そして契約からの濫用条項の排除が必要とされるのである(55)

Y  小      括

  本章の考察においては、複数の消費者保護契約法につき適用範囲を限定する規定並びに具体的内容を規律する規定につき、その立法理由を事実として明らかにした。その結果、それぞれの法律の立法理由と並び、複数の法律に関連または共通する以下の事柄も明らかとなったと思われる。

  まず、適用範囲の限定と具体的な規律内容との関連性が、常に何らかの形で意識されているということである。これは、本稿が検討の前提とすることでもあり、この点が現実の立法理由としても明白となったことは意味深いと思われる。

  次に、複数の法律において同様の規律内容が存在する場合がある(例ー撤回権)が、その立法理由は異なる点に見いだされることである。そして、立法理由の違いを導いているのは、まさしく適用範囲の違いなのである。ここにおいても、適用範囲が具体的な規律内容と関連していることが明白である。また、このことは言い換えれば、適用範囲が異なり立法理由も異なるにも関わらず、同じ法的処置が規定されることがあるということである。では、その理由はどこに見いだされるのか、これを検討する必要があろう。

  また、複数の法律において、一見異なる規律内容が存在しているが、その立法目的に遡れば同様の目的が見いだされることがある(例ーAGBG二条、消費者信用法四条ないし六条)。これはつまり、適用範囲も具体的な規律内容も異なるが、立法目的に共通性が見いだされるということである。この意味も検討する必要があろう。

  以上のように、本章における検討により検討対象がさらに拡大することとなった。しかし、その具体的な検討に入る前に、次章において、適用範囲を限定するが従来の契約法規律とどのような関係に立つかを、事実として明らかにしておきたいと思う。


(1)  以下の考察では、AGBGにおいては二条(組込要件を規定)、九条(内容コントロールを規定)、訪問取引撤回法においては一条(撤回権付与)、消費者信用法においては四条(方式要件を規定)、七条(撤回権付与)などの規定を、「具体的規律」と呼び、「適用範囲を限定する規律」とは区別する。

(2)  Gesetzentwurf der BundesregierungーEntwurf eines Gesetzes zur Regelung des Rechts der Allgemeinen Gescha¨ftsbedingungen (AGB−Gesetz), BT−Drucks. 7/3919, S. 9.

(3)  Antrag des Rechtsausschusses (6. Ausschuβ), BT−Drucks. 7/5412.

(4)  BT−Drucks. 7/3919, S, 9.

(5)  BGB一三八条【良俗違反の法律行為;
暴利】

  (1)  良俗に反する法律行為は、無効である。

  (2)  特に、他人の窮迫、軽率、または無経験に乗じてある給付に対して自己または第三者に財産的利益を約束または提供させる法律行為は、その財産的利益が当該事情によれば著しく給付と均衡を失する程度に給付の価値を超えるときは、無効である。

(BGB条文訳については、柚木馨『現代外国法典叢書(1)・(2)ー独逸民法〔T〕・〔U〕(復刊版)』(一九五五年・有斐閣)を参照した)

(6)  BGB二四二条【信義誠実に従った給付】

  債務者は、取引慣習を考慮して、信義誠実の要求に従い給付をなす義務を負う。

(7)  BT−Drucks. 7/3919, S. 10ff.

(8)  BT−Drucks. 7/3919, S. 9.

(9)  BT−Drucks. 7/3919, S. 13.

(10)  BT−Drucks. 7/3919, S. 9.

(11)  BT−Drucks. 7/3919, S. 13.

(12)  物的適用範囲については二三条も適用除外という形で規定するが、考察の対象外とする。

(13)  BT−Drucks. 7/3919, S. 15ff.

(14)  BT−Drucks. 7/3919, S. 14.

(15)  BT−Drucks. 7/3919, S. 43.

(16)  Gesetzentwurf der BundesregierungーEntwurf eines Gesetzes zur Neuregelung des Kaufmanns− und Firmenrechts und zur A¨nderung anderer handels− und gesellschaftsrechtlicher Vorschriften(HandelsrechtsreformgesetzーHRefG), BT−Drucks. 340/97, Begru¨ndung zu Artikel 2 (A¨nderung des AGB−Gesetzes).

(17)  BT−Drucks. 7/3919, S. 44.

(18)  BT−Drucks. 7/3919, S. 17.

(19)  Bericht des Rechtsausschusses (6. Ausschuβ), BT−Drucks. 7/5422, S. 5. 政府草案においては、相手方の態様については「事情によればAGBの適用を了解しているものと見なされうる」ことで十分とされていた。その理由として、「了解についての明白な意思表示まで要求するとすれば、実際的でないばかりか無益な形式主義に陥ることになる」ことが言われていた(BT−Drucks. 7/3919, S. 17)。法務委員会の提案を受け修正されたのである。

(20)  政府草案では、「利益の適切な調整」が一般条項(政府草案七条。BT−Drucks. 9/3919, S. 5)においても基準とされていた。しかし成立した規定においては「不当な不利益」が基準とされている。これは、AGBの有効性を一義的かつ事前に判断するという法取引の利益に合わせるという目的の下、法務委員会により提案されたものである(BT−Drucks. 7/5422, S. 6)。したがって、「不当な不利益」という基準は、「適切な利益調整」の命令を具体化したものと考えられる。したがって、政府草案で言われる「利益の適切な調整」という目的は本質的には変わっていないと思われる。

(21)  BT−Drucks. 7/3919, S. 14.

(22)  BT−Drucks. 7/3919, S. 22.

(23)  Gesetzentwurf des BundesratesーEntwurf eines Gesetzes u¨ber den Widerruf von Haustu¨rgescha¨ften und a¨hnlichen Gescha¨ften, BT−Drucks. 10/2876. 同草案にいたるまで、訪問取引の規制をめぐっては、一九七五年の連邦参議院による同名の草案を皮切りとして、多くの草案が時には法律名を異にして(「消費者保護法」)作成されてきたという経緯がある。

(24)  BT−Drucks. 10/2876, S. 7f.

(25)  BT−Drucks. 10/2876, S. 11ff.

(26)  BT−Drucks. 10/2876, S. 10 und 14.

(27)  BT−Drucks. 10/2876, S. 10 und 15.

(28)  BT−Drucks. 10/2876, S. 7f.

(29)  Gesetzentwurf der BundesregierungーEntwurf eines Gesetzes u¨ber Verbraucherkedite, zur A¨nderung der Zivilprozeβordnung und anderer Gesetze, BT−Drucks. 11/5462.

(30)  Gesetz zur A¨nderung des Bu¨rgerlichen Gesetzbnchs (Bauhandwerkersicherung) und anderer Gesetze, vom 27. 4. 1993 (BGBI. IS, 509).

(31)  BT−Drucks. 11/5462, S. 11.

(32)  遅延利息、重利の制限、弁済の充当順序の変更(一一条)、及び、信用仲介(一五条ないし一七条)に関する規律がそうである。

(33)  撤回権(七条)及び期限の利益喪失(一二条及び一三条)に関する規定などがそうである。

(34)  Vgl. BT−Drucks. 11/5462, S. 11ff.

(35)  物的適用範囲については三条も適用除外という形で、本法全体の適用が除外される信用契約、ならびに一部の規定の適用が除外される信用契約につき規定するが、考察の対象外とする。

(36)  BT−Drucks. 11/5462, S. 12.

(37)  BT−Drucks. 11/5462, S. 12.

(38)  BT−Drucks. 11/5462, S. 17. もっとも、受信者(消費者)の範囲は、政府草案においては現行法とは若干異なっていた。現行法においては消費者から除外される者につき、営業活動もしくは独立の職業活動について「既に実施されている」という限定が付されているが、政府草案においては、そのような限定はなかった。この変更の理由について法務委員会からは、職業開始の時は職業経験によって契約締結の効果を見積もることができないことが挙げられている(Beschluβempfehlung und Bericht des Rechtsausschusses (6. Ausschuβ), BT−Drucks. 11/8274, S. 20)。いずれにせよ、政府草案における規定理由は現行法においてもそのまま妥当するであろう。

(39)  BT−Drucks. 11/5462, S. 12 und 19.

(40)  BT−Drucks. 11/5462, S. 12 und 21.

(41)  ドイツにおける第三者融資取引をめぐるBGH判例・学説・消費者信用法の規律については、泉圭子「ドイツ第三者融資取引に関する一考察ー第三者与信型信用取引の法的構造解明に向けてー(二)−(六・完)」同志社法学二三三号一〇五頁以下、二三四号一〇三頁以下、二三五号六四頁以下、二三六号一六九頁以下、二三七号一〇五頁以下(一九九四年−一九九五年)参照。

(42)  我が国の割賦販売法三〇条の四の規定内容と同様に、売買契約などに何らかの障害がある結果購入者が目的物を手に入れることが出来なかったり瑕疵ある物しか手に入れることができない場合に、購入者は信用機関の貸付金返還請求に対して、割賦金の支払いを拒絶することができるというものである。

(43)  BT−Drucks. 11/5462, S. 23f.

(44)  BGB二八九条【重利の禁止】

  利息については遅延利息を支払うことを要しない。遅滞により生じた損害の賠償を求める債権者の権利はこれにより影響を受けない。

(45)  BGB三六七条【利息と費用への充当】

  (1)  債務者が、主たる給付のほかに利息及び費用を支払うべき場合には、全債務の弁済に満たない給付は、費用、利息、主たる給付の順に充当される。

  (2)  債務者が他の充当を定めるときは、債権者は給付の受領を拒絶することができる。

(46)  BGHZ 104, 337=NJW 1988, 1967.

(47)  BT−Drucks. 11/5462, S. 13f. und 25ff.

(48)  一二条及び一三条の規定目的は広義では一一条と同じく借主が経済的困窮状態に陥ることの防止と言えるが、個別に検討したいと思う。

(49)  BT−Drucks. 11/5462, S. 13f.

(50)  BT−Drucks. 11/5462, S. 27f.

(51)  Gesetzentwurf der BundesregierungーEntwurf eines Gesetzes zur A¨nderung des AGB−Gesetzes, BR−Drucks. 528/95.

(52)  Richtlinie des Rates vom 5/4/1993 u¨ber miβbra¨uchliche Klauseln in Verbrauchervertra¨gen (93/13/EWG), ABl. Nr. L61/14 vom 21. 4. 1993, Erwa¨gungsbru¨nde 3 und 9.

(53)  BR−Drucks. 528/95, S. 6.

(54)  ABl. Nr. L61/14 Erwa¨gungsgru¨nde 2 und 5 ff.

(55)  ABl. Nr. L61/14 Erwa¨gungsgru¨nde 6 und 10.

第三章  従来の契約法との関係

T  序      論

  今まで見てきた消費者保護契約法が、契約法分野の規律を形成していることは自明の事柄である。その限りにおいては、それが制定される以前の契約法規律との関係が問題となったはずである。すなわち、新たな規律が制定される限りは、その規律は、従来の規律に何らかの変更を加えるか、あるいは、不明確な規律につき明確化するものであるはずである。

  このことは、消費者保護契約法において二つの点で意味がある。つまり、「適用範囲限定」と「具体的規律」においてである。したがって、双方から従来の契約法規律との関係を解明する必要がある。既に述べたように、「適用範囲限定」と「具体的規律」との関係の裏には、「従来の適用範囲」と当該「適用範囲」との関係、及び「従来の具体的規律」と当該「具体的規律」との関係が存在しているはずだからである。

  そこで、以下では、適用範囲の限定が果たす役割を解明するため、AGBG、訪問取引撤回法、消費者信用法、AGBG改正法を素材として、適用範囲が限定された結果としての規律対象及び具体的規律が、従来の契約法規律とどのような関係に立つのかにつき見ていきたいと思う。この場合、一方では、一般契約法との関係及び従来の特別法との関係が問題となるし、他方では、同じ法律の中で改正があった場合には改正以前の規律との関係が問題となろう。具体的規律の検討においては、要件・効果の別に検討をなすことになる。

U  AGBG(約款規制法)

  1.規律対象

  AGBGにおいては、一条が規定する「AGBという契約条件」に適用対象が限定されている。これに対して、BGBはAGBという契約条件に着目していない。AGBG制定以前に約款規制を行ってきたBGH判例によれば、規律対象として「不特定の大量契約のために」事前形成されたという事実、及び「条項のボリューム」が問題とされることもあった(1)。しかし、「不特定」かどうか、さらに条項の「ボリューム」は、AGBGにおいて顧慮されなくなっている。政府草案理由によれば、AGBGは不意打ち的または理解困難な条件を規律することに限定されないことが言われている(2)

  人的範囲につき規定する二四条については、最近の法改正により、同法制定当時とはその内容に変更が生じていることに注意する必要がある。まず、制定当時の内容については、HGB上の概念を基礎にしていることは既に述べたとおりである。従来のBGH判例によっても産業の各生産段階での法律関係(例えば、消費者対商人、商人間取引)の間では、異なる原則が妥当する可能性が指摘されていた(3)。他方、最近の改正法によれば、従来よりも適用範囲から除外される者の範囲が拡大することとなっている。

  また、二四条は適用除外規定であるため、一条がもつ意義と二四条のもつ意義とは異なる可能性がある(同じことは後述の訪問取引撤回法六条と一条との関係にも妥当する)。

  2.具体的規律

@  二条

  まず、二条が予定する効果は、AGBが契約の構成部分となる、というものである。このために必要とされる要件は、「利用者によるAGBの明示の指摘又は掲示」(A1)、「利用者による相手方への、期待可能な方法でのAGBの認識可能性付与」(A2)、及び、「相手方によるAGB適用への了解」(A3)である。これにより合意が確保されるとする(4)

  他方、一般契約法によればAGBなどの契約条件が契約の構成部分となるという効果を導くために必要とされる要件は、契約当事者双方の合意である。これを充たすためには「AGB利用者が自分はこのAGBでしか締結の意思がないことを相手方に何らかの方法で認識させたこと」(B1)及び「相手方が異議を申し立てないことの中に存在する推定可能な態様(schlu¨βiges Verhalten)により相手方がこれに同意していること」(B2)で十分とされる(5)。もっとも、従来のBGH判例によれば、「相手方がAGBの存在につき知るべきであった場合には、合意なくとも契約内容となる」とされていた(6)

  まず、従来のBGH判例と比較すれば、そもそもある契約条件が契約内容となり当事者がそれに拘束されるには合意が必要という一般契約法の原則に立ち戻っている。他方、一般契約法と比較すると、合意のために必要な中身としてA3の要件とB2の要件は同じ内容であるが、A1及びA2の要件とB1の要件は異なる内容となっている。

  A  九条ないし一一条

  以下では九条ないし一一条が規定する「内容コントロール」の一般規定である九条のみにつき検討していく。

  まず、九条が予定する効果は、AGB中の定めが無効というものである。このために必要とされる要件は、AGB中の定めが「信義誠実(Treu und Glauben)に反して」「相手方を不当に不利にすること」である。九条(ないし二条)の規定は「契約自由=形成自由の原則」に正面から介入するとされる(7)

  他方、一般契約法上の規律によれば、ある契約条件が無効という効果をもたらすものとしては、判例も引用していたようにBGB二四二条の規定が挙げられる。同条は、「債務者は、取引慣行を考慮して信義誠実の命ずるところに従って、給付をなす義務を負う」と規定する(8)。この規定は、無効という効果をもたらす要件として、AGBG九条と同じく「信義誠実」を問題としている。

  この両者の規定の関係については、九条一項は、同法の規律対象についてはBGB二四二条に代わるもの(9)とか、BGB二四二条による判例原則を法典化または強化するものである(10)と言われる。九条においては、「相手方を不当に不利にするかどうか」が要件として問題とされている限りにおいて、要件が具体化・類型化されていると言えよう。したがって、抽象的に「信義誠実」に反しているかどうかのみでなく、具体的な要件が加わることとなっている。

  また、BGB二四二条と九条の適用関係であるが、九条をBGB二四二条の具体化あるいは特別法と捉えるのであれば、契約条件の無効を問題とする限りはAGBGの適用範囲においてBGB二四二条が適用される余地はないということになる(11)

V  訪問取引撤回法

  1.規律対象

  訪問取引撤回法の規律対象は、一条一項が規定するように「有償の給付に関する契約締結に向けられた意思表示の決定」の「状況」によって限定されている。これに対して、BGBはこのような意思表示の決定の状況を問題とすることはない。

  人的範囲については適用除外の形で六条において限定されているが、この限定基準は従来の契約法が知らなかったものである。

  2.具体的規律

  同法の具体的規律の核心部分は、一条一項に規定される撤回権の認容である。

  「意思表示の決定」の「状況」が一条一項の要件を充たす場合には、その意思表示は「顧客が当該意思表示を一週間以内に書面により撤回しないときはじめて有効となる」旨が規定されている。参議院草案理由によれば、「期間内に撤回がなされた場合には契約は成立しない」「撤回期間が経過するまでは割賦取引法一条bと同じく停止条件の成就前または許可を要する法律行為の許可を受ける前とよく似た未決定状態が存在している」とされる(12)。したがって契約成立という効果を導くためには、消費者が一週間以内に書面により撤回しないことが必要ということになる。

  他方、一般契約法によれば契約成立のための要件としては「合意」で十分である。

  これらの規律の関係については、従来から存在した契約成立のための要件に加えて新たな要件が付加されたということができる。

W  消費者信用法

  1.規律対象

  消費者信用法においては、一条一項により規律対象が「消費者対与信者」間での「信用契約」と規定されている(13)

  「信用契約」という概念はEC指令一条二項(C)からそのまま採り入れたものである。したがって、BGBはこの概念を知らず、「信用契約」に含まれる「消費貸借(Darlehen)」につき六〇七条ないし六一〇条に規定が置かれているにすぎない。また、消費者信用法の施行により廃止された割賦取引法によっても、その規律対象とされていたのは「信用契約」に含まれる「割賦取引」に限定されていた。

  「消費者」及び「与信者」という概念もEC指令一条二項(a)及び(b)からほぼそのまま採り入れたものであり、BGBにおいてこの概念は存在していない(14)。もっとも、割賦取引法八条によれば、商業登記簿に登記された商人はその保護の対象から除外されていたところであり、割賦取引法と比べると人的範囲はより狭くなっている

  2.具体的規律

@  四条ないし六条

  四条においては、信用契約につき書面方式が要求され、さらに、その書面に一定事項の記載が要求されている。その上で、四条違反の場合につき、六条は原則として当該契約が無効である旨を規定する。すなわち書面方式及び一定事項の記載を要件として契約の有効性が認定されるということになる。これにより確実な土台の下に情報を獲得することができ、適切な契約決定が可能になるとされる(15)

  従来の契約法によれば、契約一般あるいは消費貸借につき、有効性のために一般に、書面形式や一定事項の記載は要求されていない。もっとも、割賦取引法においては、割賦取引につき書面方式や一定事項の記載は要求されていたが、その違反の効果について同法には規定がなく、方式瑕疵の場合の一般的規定であるBGB一二五条(16)によって無効とされていたにすぎない。

  これらの規律の関係については、従来から存在した契約の有効性認定のための要件に加えて新たな要件が付加されたと言うことができる。

A  七条

  七条によれば、消費者の意思表示は「消費者が当該意思表示を一週間以内に書面で撤回しないときはじめて有効となる」旨が規定されている。政府草案理由によれば、「期間内に撤回がなされた場合には契約は成立しない」「撤回期間が経過するまでは停止条件の成就前または許可を受ける前とよく似た未決定状態、不確定無効(schwebend unwirksam)の状態が存在している」とされる(17)。したがって契約成立という効果を導くためには、消費者が一週間以内に書面により撤回しないことが必要であるということになる。

  他方、一般契約法によれば契約成立のための要件として「合意」で十分である。もっとも、割賦取引法一条bにおいては、割賦取引に関してほぼ同内容の撤回権が認められていた。

  これらの規律の関係については、従来から存在した契約成立のための要件に加えて、新たな要件が付加されたと言うことができる。

B  九条

  九条は、いわゆる「第三者融資取引」について規律している。この規定は、信用契約と売買契約などの結合を要件としてこの結合体を「結合取引」という名の下におき、一定の効果を認めるものである。したがって、四条ないし六条や七条とは異なり、規律対象にさらなる要件が加わった上での規定内容といえる。とはいえ、以下の考察では結合取引を認めるための要件規定(一項)をも検討対象に含めることにする。

  まず一項により、信用契約が売買契約の融資を目的としていること、及び、売買契約と信用契約との経済的一体性を要件として、結合取引が認定される。二項において、結合した売買契約の締結に向けられた消費者の意思表示は、信用契約の締結に向けられた意思表示を消費者が撤回しないときにはじめて有効となること、三項においては、結合した売買契約に基づく抗弁により消費者が売主に対して自己の給付を拒絶する権限を有する限りでは、貸付金の返済を拒絶することができる旨が、すなわち、いわゆる「抗弁貫徹」が規定されている。

  従来から、第三者融資取引に関してどのような効果が認められるかについては議論されていたが、学説においては、何らかの契約法上の規律により九条とほぼ同様あるいはそれ以上の効果が認められていた(18)。また、BGHも九条一項とほぼ同じ要件の下に、割賦取引法六条の類推適用により九条二項と同様の効果を(19)、BGB二四二条の適用により九条三項と同様の効果を(20)認めていた。

  政府草案理由によれば、九条の規定は大枠において従来のBGH判例を踏襲しているとされる(21)。たしかに、九条が予定する効果は従来からBGH判例及び学説が一致して認めてきたものである。しかし、その根拠については、BGH判例のようにBGB二四二条や割賦取引法の類推適用の下に認める見解から、学説におけるように行為基礎の脱落に基づいて一般的に認めるものなど様々であった。

C  一一条

  一一条は、三つの規律を内容としている。第一に、債務額に関する遅延利息の算定法につき、遅延利息は損害賠償の観点によって発見されるべきであり、約定利息に頼ることは原則として排除されるとして利率を固定している。すなわち、その時のドイツ連邦銀行の手形割引率の五ポイント増しという利率で遅延利息が付加される。この五ポイント増しという数字は通常の再融資費用(三%)と銀行の処理費用(二%)を填補するものとして統計的に算出されたものである(22)。第二に、遅滞発生後に生じた利息に関する遅延損害についても固定し、法定利率(四%)に制限している。第三に、弁済期が到来している場合の一部給付の充当順序について、訴訟費用・その他の債務額・遅滞発生後に生じた利息の順と規定している。

  従来、遅延利息の算定法については、様々な見解が主張されており、法的に不安定な状態にあったこと、この論争にBGHは一九八八年に一次的な決着を付けたが、これに対しては、実務界から強烈な批判がなされていたことは既に述べたとおりである。

  利息に関する遅延利息については、BGB二八九条一文によれば原則として禁止されているが、同条二文によれば遅延損害については要求することができる。従来の学説及び判例によれば、債権者は利息の利息付けを損害賠償の方法で請求することができるとされていた。

  また、一部給付の充当順序については、BGB三六七条一項によれば、費用・利息・主債務となる。

  まず、遅延利息の算定法については、従来存在していた法的な不安定さが除去され、かつ、実務界から批判のあったBGH判決による解決も排除されることとなった。

  利息に関する遅延損害については、遅滞発生後に生じた利息に限っては利率が固定され大きな変更があったと言える。

  一部給付の充当順序についても、大きな変更があったと言える。この変更は、「遅滞発生後に生じた利息」に関する遅延損害については「債務額」に関する遅延利息よりも低利率が認められていることと連動して、はじめて債務者の責任を軽減する効果を生ずるものである。つまり、充当の内訳の一つにつきより低率での利息付けがなされる場合にのみ、債務者がより高率で利息が付加される内訳について真っ先に履行できることが、債務者の責任軽減にとって意味あるものとなるのである(23)

  注意すべきなのは、一一条においては、従来のような「利息」と「主債務」ではなく、主債務よりも広く利息をも含む概念である「債務額」と「遅滞発生後に生じた利息」という概念を用いて区別している点である(24)。従って、新たな枠組みの下に、完全に従来の規律からの転換を図るのではなく、部分的にできるだけ債務を軽減していこうという意図がうかがえるのである。

D  一二条・一三条

  両規定は、消費者が支払いを遅滞した場合に、与信者が解約(一二条)または解除(一三条)をなすことにより全債務について弁済期を到来させるためには、一定の要件充足を要する旨を規定している。両規定は分割払信用についてのみ適用されるため、その規律対象はより限定されたものとなる。

  まず、分割払いが二度連続して滞ること、及び、未払い金が信用の額面額または分割払い価格に対して一定の割合に達していることが、さらに、未払い債務の支払いのための猶予期間(二週間)を設定すること、そして、その期間内に支払いがなされなかった場合には残債務の全額を要求する旨を説明することが、必要とされる。

  双務契約の一方当事者が給付を遅滞した場合につき、BGB三二六条(25)は、他方当事者は給付のための適切な期間を定めて、期間経過後は給付を拒絶することができること、及び契約を解除することができる旨を規定している。また、BGB四五五条(26)は、購入者が支払を遅滞した場合に売主は留保所有権を行使していつでも契約を解除することができる旨を規定している。割賦取引については、割賦取引法四条二項は期限利益喪失条項が有効であるためには一定の要件が必要であることを規定していた。

  まず、割賦取引については、従来妥当してきた規律が、特別法たる一三条により排除あるいは変更されることとなった(27)。また、その他の分割払信用についても、一二条により新たに規律されることとなったのである。つまり、従来から存在した解約または解除権発生のための要件に加えて、新たな要件が付加されたと言うことができる。

X  AGBG改正法(AGBG二四条a)

  同改正法も、もちろんAGBGの規律の一部を構成するものであるが、二四条aの構造には注意する必要がある。つまり、二四条aは一方では独自の規律対象(消費者契約)を設定するものであると同時に、他方では一定要件(消費者契約)の下に従来の規律対象(AGB)を変更するものなのである。

  同条は、「消費者対事業者」間での契約(消費者契約)においては、AGBGの規定が異なる条件下で適用されること、すなわち、一つには規律対象たるAGBの概念が変更されること(「大量契約のために」「事業者が設定した」ことは原則として要求されない)、また一つには九条の適用にあたっては「契約締結に伴うすべての事情」を考慮すべきことを規定している。

  従来の規律として、まず、AGBの概念は既に述べた通りである。また、九条の適用にあたっては、従来BGH判例によれば、「類型的な考慮方法でもって一般化された検討基準が基礎とされねばならない」とされてきたのであり、「具体的・個別的な事情」は考慮されてこなかったのである(28)

  二四条aにより、まず、規律対象の要件が緩和されている。これにより約款利用者の相手方にとってはより有利な規律が出現することとなった。九条の適用にあたって考慮されるべき事情も変更されているが、この変更は相手方に有利に働くとは限らないものである(29)

Y  小      括

  本章においては、規律対象と具体的規律とを素材として、従来の契約法規律との関係を検討した。

  特徴的なこととしては、具体的規律については、従来の契約法規律との差異が明らかな規定と並んで、従来の契約法規律を法的安定性のために明文化したというものも多く見受けられることである。しかし他面において、規律対象に目を向ければ、法律により明確に適用範囲が画定される結果、従来の規律からの明確な変更が生じることとなっている。

  ところで、本章においては、規律対象の差異と具体的規律の差異との関係を検討していない。規律対象の差異と具体的規律の差異との関係を解明することは、適用範囲の限定が果たしている役割を明らかにするために必要な作業である。ただ、そのためには、まず消費者保護契約法における適用範囲の限定が具体的規律を真に理由づけているかを検討する必要がある。

  次章においては、適用範囲限定が果たしている役割を越えて、果たすべき役割にまで踏み込んで実質的な検討に入っていきたい。


(1)  BGHZ 33, 216, 218;BGH BB 1970, 1504.

(2)  BT−Drucks. 7/3919, S. 15ff.

(3)  BGHZ 22, 90, 96f. 河上正二『約款規制の法理』(一九八八年・有斐閣)三七一頁以下参照。

(4)  BT−Drucks. 7/3919, S. 17.

(5)  K. Larenz, Allgemener Teil des BGB, 7. Aufl. (1989), S. 553.

(6)  Vgl. BT−Drucks. 7/3919, S. 22. 河上・前掲書二一〇頁以下参照。

(7)  BT−Drucks. 7/3919, S. 22.

(8)  たしかに、BGB二四二条の文言においては無効という効果が明示されているわけではない。しかし、同条の機能から、法律効果は多様であり得るのであり、一方では付随義務が認められ、他方では、契約上の規律の内容が制限されるのであり、ここで問題とするのは後者の効果である(Vgl. G.H. Roth, Mu¨nchener Kommentar zum BGB, Bd. 2, 3. Aufl. (1994), § 242 Rdnr. 43 ff.)。

(9)  G.H. Roth, a. a. O.,§ 242 Rdnr. 92;P. Ulmer/H.E. Brandner/H. −D. Hensen (Brandner), AGB−Gesetz, 8. Aufl. (1997),§ 9 Rdnr. 34.

(10)  BT−Drucks. 7/3919, S. 22.

(11)  P. Ulmer/H.E. Brandner/H. −D. Hensen (Brandner), a. a. O.,§ 9 Rdnr. 34.もっとも、それ自体は有効な契約条件であるが個別的理由に基づき約款利用者が権利濫用的に行為するという場合には、BGB二四二条が個別の権利濫用を阻止するために機能することはありうるとされており、これは内容コントロールと区別して「行使コントロール」と呼ばれる(P. Ulmer/H.E. Brandner/H. −D. Hensen(Brandner), a. a. O., §9 Rdnr. 34ff;G.H. Roth, a. a. O., §242 Rdnr. 92)。

(12)  BT−Drucks. 10/2876, S. 11.

(13)  同法は一条一項により「消費者対信用仲介者」間での「信用仲介契約」をも規律対象とするが、これを規律対象とする規定は一五条ないし一七条にすぎないため、考察対象から除外しておく。

(14)  もっとも、BGB六〇九条a一項二号においては「消費者」と類似した内容で人的範囲が限定されていることは既に述べたとおりである(前述第一章参照)。

(15)  BT−Drucks. 11/5462, S. 12.

(16)  BGB一二五条【方式瑕疵による無効】

  法律が規定する方式を欠く法律行為は無効である。法律行為により定めた方式を欠く場合、疑わしいとき、同じく無効となる。

(17)  BT−Drucks. 11/5462, S. 22.

(18)  例えば、売買契約などが効力ない場合には消費貸借契約も無効であるという効果を「行為基礎理論」により導く説(K. Larenz, Zuru¨ckbehaltungsrecht im dreiseitigen Rechtsverha¨ltnisーZur Rechtslage des Ka¨ufers beim ’inanzierten Ratenkauf, Festschrift fu¨r Michaelis(1972), S. 193ff.;C.W. Canaris, Bankvertragsrecht, 2. Aufl. (1981), Rdnr. 1403ff.)や「法律行為為上の結合」に基づく「発生上の結合」により導く説(J. Gernhuber, Das Schuldverha¨ltnis(1989), S. 708ff.)、さらに、売主・購入者・信用機関の三者の間で「一つの契約」の存在を認め、そこから多様な効果を導く説(M. Vollkommer, Der Schutz des Ka¨ufers beim B−Gescha¨ft des :inanzierten Abzahlungskaufs, Festschrift fu¨r Larenz(1973), S. 703ff.)等である。

(19)  BGHZ91, 388=NJW1984, 2291;NJW1987, 848=WM1987, 308.

(20)  BGHZ95, 350=NJW1986, 43;NJW1987, 1813=WM1987, 401.

(21)  BT−Drucks. 11/5462, S. 23f.

(22)  BT−Drucks. 11/5462, S. 26.

(23)  BT−Drucks. 11/5462, S. 27;U. Seibert, Handbuch zum Verbraucherkreditgesetz(1991), §11 Rdnr. 15.

(24)  Vgl. U. Seibert, a. a. O., §11 Rdnr. 4.

(25)  BGB三二六条【遅滞;
拒絶予告を伴う期間設定】

  (1)  双務契約おいて当事者の一方がその負担する給付につき遅滞している場合、相手方は、期間の経過後は給付の受領を拒絶することを表示して、給付の実行につき相当の期間を定めることができる。給付が適時になされないとき、期間の経過後相手方は、不履行に基づく損害賠償を請求するか、または、契約を解除する権利を有する;この場合履行請求権は排斥される。期間が経過するまでに給付の一部の実行がないときは、三二五条一項二文の規定を準用する。

  (2)  遅滞により契約の履行が相手方にとり何ら利益とならないとき、相手方は、期間の定めをなす必要なく、前項の権利を有する。

(26)  BGB四五五条【所有権留保】

  動産の売主が代金の支払いあるまでその所有権を留保する場合、疑わしいときは、所有権の移転は代金の完済を停止条件としてこれをなし、かつ、買主が支払いを遅滞した場合売主は契約を解除する権利を有するものとする。

(27)  BT−Drucks. 11/5462, S. 28.

(28)  BGHZ 98, 303, 308=ZIP 1987, 85;BGHZ 105, 24, 31=NJW 1988, 2536.

(29)  一方では、契約締結の事情からは今までは生じなかったような不当性についての理由、すなわち、無効についての理由が生ずる可能性があるが、他方では、例えば消費者が銀行員であるような場合、この者に設定された与信条件を専門知識があるために適切に判断することができるときには、消費者の不利に機能する場合も生ずることになる(Vgl. H. −W. Eckert, Regierungsentwurf zur A¨nderung des AGB−Gesetzes, ZIP1995, S. 1460, 1462.)。