立命館法学 1999年3号(265号) 169頁




税理士試験免除に係る一考察
- ドイツの判例を参考にして -


浪 花 健 三


 

一、は じ め に

二、税理士資格付与の変遷

三、税理士法八条の検討

四、ドイツ税理士法の試験免除規定

五、資格審査会(税理士法四九条の一五)の運用



一  は  じ  め  に


  税理士の職業専門家性は、今日、かなりの発展を遂げたといえる。しかし、その発展状況は、必ずしも十分なものとはいえない。その原因として、次のような問題点を指摘することができる。
  まず、税理士の独立性という問題である。この点については、税理士の職業専門家性という視点から、「税理士の使命」を規定した税理士法一条の検討を行った(1)
  すなわち、税理士の独立性は、二つの概念を包含するものであり、一つは、税理士が委嘱者たる納税者に対して有する独立性であり、他の一つは税理士が税務官公署に対して有する独立性である。
  前者の独立性は、職業専門家たる自由職業人が一般的に有する専門的立場を意味する。職業専門家としての税理士が行う「税法」等に対する判断は、当然にして公正であり、何人からも拘束を受けるべきものではないという概念である。ときおり、税理士は委嘱者たる納税者に対して独立性を有することが強調される場合がある。しかし、当該独立性は、税理士に委嘱者に対する第三者的立場を要求するものではない。
  これに対して、後者の税務官公署に対する独立性は、税理士法において明確に規定されるべき性格を有するものである。税理士は、その使命を遂行する上で、税務官公署に対し完全なる独立性を有していなければならない。第一次シャープ勧告において指摘されているように「納税者の代理としての税務専門家(a tax technician as the taxpayer’s representative)というよりもむしろ上手な取引者(a skilled negotiator)」であってはならないのである(2)。この独立性が確保されることにより、税理士は、固有の職業専門家として存在し、発展していく可能性があるといえる。
  さらに、税理士が職業専門家であるためのもう一つの重要な視点が、免許資格制度確立の問題である。当該制度については、税理士の資格(税理士法三条)や税理士試験(税理士法五条、六条)そのものにも重要な論点が存在するが(3)、本稿では、税理士試験免除の規定(税理士法八条)に焦点を当てて検討したいと考える。
  そこで、まず税理士資格付与の変遷を見ることにより、現行の税理士試験免除規定の形成過程を確認したい。つぎに、当該免除規定の問題点を指摘し、さらに、日本と同様に国家資格としての税理士制度を有するドイツの税理士法における当該免除規定を比較検討したいと考える。その後、当該試験免除規定を制限的に運用する目的で、日本の弁護士法等を参考にして、現行税理士法における資格審査会(税理士法四九条の一五)の活用方法について検討を加える。

二  税理士資格付与の変遷


  税理士資格付与の問題は、税理士法制定時における「既得権擁護」を重視する立場に起因するものであり、その制定過程において次のような問題点を包含していた。
  昭和二六年の税理士法施行時における国および地方の税務職員は、所定の業務について一五年または二〇年の従事期間があれば、税理士試験委員の認定を受ければ税理士となる資格を有することができた(昭和二六年税理士法附則五項)。しかし、当該施行時から一定期間以後、国または地方の税務職員には、認定による税理士資格付与の途が閉ざされることになった(ただし、税理士試験を受ける場合に一定の従事期間等の要件を充たせば、税法に関する科目の全部または一部の免除が認められる規定は残っていた(昭和二六年施行税理士法八条五号から九号))。そのため、昭和二九年に税務職員組合から国税庁長官に対し、税務職員に対し税理士となる資格を付与すべきであるとの要望が出された。
  その後、税理士会側からの要望(4)と行政側の思惑の中、昭和三一年に「税理士法一部改正」が行われ、今後五年間に限り勤続二〇年以上の退職税務官吏等に対し特別な税理士試験(以下、「特別試験」という)が実施されることになった(5)
  当該試験の内容は、上記一定要件に該当する者は一般の税理士試験受験者が受ける「会計科目」につき、簡単な特別試験をもってそれに換えることができるというものであった。当時の大蔵省側は、税務職員等に実質的に無試験で税理士となる途を開くことについて、次のような見解を述べている。

  「(省略)弁護士及び公認会計士たるべき資格について考えてみると弁護士は人権の擁護においてまた、公認会計士は一般投資家の保護という点においてその責任は重大であり、したがってその資格要件は厳重にしておく必要がある。しかし、税理士たる資格要件について考えると、税理士は納税者の補助者たる機能をはたす者であり、この意味においてその機能は弁護士及び公認会計士と相異なるから、税理士の資格要件は弁護士、公認会計士ほど厳重にしておく必要はないであろう。更に税理士の資格はその試験に合格した者のみに与えられることについても問題があり、試験制度が万能でないことも考えねばならない(6)

  この発言から、当時の政府が税理士制度に対してどのような認識および姿勢を持っていたかが窺える。当時の各税理士会は当然に反対していたのであるが、結果として特別試験の制定を容認せざるを得なかった。
  その他、特別試験の見返りとも考えられる「会員の税理士会に対する間接強制加入制度」(登録即入会ではなく、税理士会に入会しない者は、税理士業務を行うことができないとする制度)等が、この改正により実施された。
  続く昭和三六年の改正で、特別試験の存続期間の延長が行われた。この改正により、前回の改正で五年間の期限で制定された特別試験が、「当分の間」という表現を用いることにより無期限的に存続されることになった(特別試験は、昭和六一年三月三一日まで実施された)。
  当該試験は、筆記試験(一〇問中一定の要件で四問選択で、一問五〇点で二〇〇点満点)と口頭試問(八科目中一定の要件で一科目選択で一〇〇点満点)で構成されており、六〇パーセントの一八〇点で合格になる。ただし、合格点に達していない者には、実務経験年数に応じて参酌点(例えば、実務経験三〇年の場合は六〇点)が加算され合否の判断がされる(同法施行令附則一〇、一一、一二項)。この試験構成からも窺えるように、当該試験は「一般の税理士試験」(以下、「税理士試験」という)に比べてかなり簡単なものであった。このことは、昭和五四年の国会答弁で政府委員が当該試験の昭和五三年度の合格率が七八パーセント(昭和五三年「税理士試験」科目合格者の平均合格率は一一・六パーセントである)であると述べていることからも明らかである(7)
  この特別試験についての判例として、「税理士特別試験実施公告処分取消等請求事件」(東京地裁昭和五四年九月二〇日判決・行裁例集三〇巻九号一五九八頁、東京高裁昭和五六年九月七日判決・行裁例集三二巻九号一五五六頁)が存在する(8)
  この裁判は、大阪合同税理士会(現在は、近畿税理士会に統合されている)の税理士試験合格者六名が、特別試験は税理士試験に比し著しく不合理な差別をし税務職員に対してのみ特権を与えるものであるとして、特別試験の無効確認等を求めたものである。
  裁判所は原告適格について、「原告らは、当該処分(特別試験)の無効確認を求めるにつき『法律上の利益を有する者』に該当しない」との判断を示し、また、特別試験の合憲性については、「憲法第一四条第一項は、不合理と考えられる理由に基づく差別を禁止するものであるところ、一定の職業専門家としての資格を付与するに際しては必ずしも単一の試験制度を採用しなければならないものではなく、いかなる試験制度を採用するかは立法政策の問題に属するものであり、異なる受験資格ごとに異なる試験制度を採用することも、合理的な理由がある限り憲法第一四条第一項に違反することにはならないものである」との判断を示した。
  しかし、税理士試験と極度に異なる内容の特別試験制度を採用することは、強度の非合理性を有するものというべきであった。判決は、税理士業務についての認識に誤りがあり、当該認識は、「税理士業務は、税務官公署との折衝を重要な内容とする」という国会における政府側答弁をそのまま引用したものである。
  そもそも税理士は、納税者の税務に係る代理をすることを中心的業務とするものであり、税務官公署から完全に独立した立場でなければならない。したがって、税務職員が相当の期間税務官公署において実務経験を積んだとしても、そのことが即、当該税務職員については、特別に簡単な試験で税理士としての能力を判定し得るとする考え方に対する合理性は見いだせない。一歩譲って、税務職員の実務経験を税理士の資格付与に考慮するとしても、当該事例当時の税理士法八条一項五号から九号(現行税理士法四項から九項にも存在)に税理士試験における税法科目の免除規定が存在することだけで当該実務経験への配慮としては十分である。ただし、当該税法科目免除の規定についても、十分検討し直す余地は存在する。例えば、税務職員の実務経験の内容には格差があること、さらに、税務職員への採用段階においても種々相違が存在していること等は、当該税法科目免除の際の一つの判断基準として考慮されるべきことである。
  このように多くの問題を抱えた特別試験の廃止が法律上決定されたのは、昭和五五年の税理士法改正時である。当該審議がなされた衆議院大蔵委員会で政府委員は、特別試験廃止について次のように発言している。

 「−(省略)−、(昭和)三一年から特別税理士試験制度を採用して、途中(昭和)三六年の経過がございましたけれども、今日まで特別税理士試験制度を行ってまいりました。しかし、−(中略)−こういう附則で行っております特別税理士試験制度でございますから、暫定措置であるから廃止をして本来の一般試験に一本化すべきだというご意見もございますし、げた履きの試験でございますから、そんな試験をやめてしまって別の制度を設けるべきだというご意見もありました。
  今回、税理士制度全般を見直す機会を得ましたので、特別税理士試験制度について検討を行いまして、この制度を廃止して、一般税理士試験制度に一本化するとともに、一定の要件を備える者について会計学試験免除制度を採用することにいたしたわけであります(9)

  当該改正により、一つの免許資格制度に二つの試験が長期間存在するという異常な事態は終了したのであるが、その一方で、免除科目制度の拡大という大きな問題点を残す結果となった。すなわち、昭和五五年の税理士法改正により、一定の勤務年数を有する税務職員等(現行税理士法八条一項四から九号)で、税理士審査会(税理士法四八条の二)の指定した研修を終了した者については会計学科目の免除を行うこととされ(同法八条一項一〇号)、実質的に一定の税務職員等については、税理士試験の全科目が免除される結果となったのである(10)
  当該結果が導き出される根拠は、当時の政府が税理士を独立した職業専門家として認知していないことに起因する。すなわち、税理士は、納税者と税務官署の連絡役たる税務署の補助的機関と考えていたのである。このことは、同国会の政府側答弁で「税理士という業務の内容は広範にわたりますけれども、基本的には税務官署との折衝を中心とする業務でございます。(中略)今回の税理士法改正に当たりましても、従来特別試験の制度が附則としてあったわけでございますけれども、その資格付与に当たってそういう実務の実績をそれなりに評価するという制度を明確にするという内容を持っておるのでございます(11)」と述べていることからも明らかである。
  上記のような問題を包含するのではあるが、ともかく現行法で税理士試験としては、一般の税理士試験のみが存在することになった。そこで税理士資格付与の問題としては、税理士試験免除の規定(税理士法八条)の内容が問題となる(12)

三  税理士法八条(税理士試験免除規定)の検討


  当該条文には、二つの分野に係る科目免除が規定されている。一つは、学識経験によるもの(税理士法八条一項一号、二号)、他の一つは、税務職員等の実務経験によるもの(同条一項四から九号)である。さらに税務職員等のなかで一定の要件を満たすものについては、実務経験による免除に加えて研修による(具体的には、税理士審査会(税理士法四八条の二)が指定した研修修了)免除が追加される(同条一項一〇号)。
  ここでまず確認すべき点は、ある職業群が職業専門家として存在するためには免許資格制度の確立が不可欠であるということである(13)。すなわち、税理士が職業専門家である以上その資格は、国家試験に合格することによって取得されることが原則である。特別試験に係る判決においても、「税理士業務の公共性や納税義務者の保護等の政策的観点から税理士制度を設け、税理士の資格を有しない者が右業務を行うことを禁止した税理士法の趣旨にかんがみても、税理士資格を付与するについては、できる限り適正公平な方法によるべきことは、改めていうまでもない。この観点からすれば、(中略)公平な一般の競争試験によつて税理士資格を付与するのを相当とする者を選抜するのが適当な方法というべきであろう」と判示されている(14)
  すなわち、当該免除規定は、免許資格制度における特例条項であり、税理士資格を取得するためのいくつかの方法の一つであってはならない。特例条項は厳格に運用される必要があり、その結果、特例による資格取得者の人数は少なくなるのが適正であり、当然である。したがって特例による資格取得者が多量にいる税理士の現況は(15)、決して好ましい状況とはいえない(16)
  確かに、税理士業務を行うに際し、当該試験合格者以外で特殊な能力を有する者が税理士となることは、当該職能団体全体としての能力を向上させる結果となる場合がある。しかし、同法八条一項に該当する者が、当該試験合格者と比して税理士業務に対する特殊な能力を有し、税理士職能団体全体の能力を向上させることに寄与しうるのかどうかについては疑問がある。なぜならば、同条一項一号、二号及び四号から九号については、当該免除者の範囲が広く、さらに明確な基準が存在していないからである。
  同条一項一号、二号は、学識による当該免除者の範囲について、大学の教授から学位授与者(一般に修士号取得者と解されている)までを同列の評価として揚げている。
  また、同条一項四号から九号の規定は、税理士業務のうち税務代理(同法二条一項一号)を行う場合に、当該免除規定該当者が特殊な能力を有し、税理士職能団体全体の能力を向上させるとは言い難い。なぜならば、当該税務代理は、税理士が納税者の税務に係る代理をすることであり、税務官公署から完全に独立した立場で行われなければならない。すなわち、税務職員が相当の期間税務官公署において実務経験を積んだとしても、それは税理士業務とは全く正反対の立場での職歴であり、そのことが即当該税務職員については、税理士試験合格者に比し当該業務に関し特に優れた能力を有しているとはいえない。例えば当該条項が、「国税不服審判官を一〇年以上した者」等であれば、当該経験をもって税理士資格を与えることには合理性があるともいえる。なお、当該免除者の範囲については、後に、ドイツの税理士法における当該条項との比較を試みる。
  一方、日本における他士業においても試験免除規定は存在している。
  弁護士では、弁護士法五条一号から四号に弁護士の資格の特例が規定されている。しかし、その内容は、税理士法の当該条項に比しかなり厳しい要件を設定している。
  例えば、同条一号は、非常に限定された職種である最高裁判所の裁判官の職にあった者であり、同条二号は、基本的に司法試験に合格した者である。ただ、同条三号の規定(五年以上別に法律で定める大学の学部、専攻科又は大学院において法律学の教授又は助教授の職に在った者)は、その対象者に若干の範囲を持たせていることから、当該資格取得の確認に係るいくつかの判決事例が存在している(17)
  このように、これらの特例に該当する者は、司法修習生の修習を終えていないものの、これを終えた者と同等の法律専門家としての実質を有すると考えることができる。他面、当該条項の存在は、「画一的な弁護士と多少その出身を異にし、その従事した職域における法律的知識と経験を生かして特殊な能力を発揮することにより、弁護士職全体としての職能の充実を期待しうるものであることを想定している(18)」ことに対しても同意できる。
  公認会計士については、公認会計士法九条により、一定の学識経験者に対して所定の二次試験(短答式及び論文式とも)が免除される。ただし、その業務上、官庁等の実務経験による免除規定は存在しない。さらに、同条項により二次試験を免除された者についても三次試験は受験しなければならない。
  このように、日本における他士業と比較をしても税理士法八条の内容には問題があり、当該免除規定の存在が、税理士を職業専門家として発展させていくことの弊害となっていることは明らかである。
  つぎに、ドイツ税理士法の当該試験免除に係る規定を検討する。ドイツは、日本と同様に国家資格としての税理士制度を有し、税理士業務が独立した職業専門家として確立されている数少ない国家の一つであり、その税理士法には参考にすべき多くの規定が存在する。

四  ドイツ税理士法の試験免除規定


  税理士法は、ヨーロッパにおいては数少ない税務に係る職業法である。ただオーストリアにおいて、ドイツの税理士法と比較し得る経済管理士(Wirtschaftstreuha¨nder)の職業法が一九五五年六月二二日に制定されている(Wirtschaftsteurha¨nder−Berufsordnung:BGBl. Nr. 125/1995)。ただし、オーストリアの当該法律は、「宣誓計理士(beeideten Buchpruefer)と税理士」の職業団体を包含したものである。他のヨーロッパ諸国(一九九二年一〇月二〇日の法律によるチェコ共和国(Tschechischen Republik)を除いて)は、全般的に当該職業法または法的肩書きを有する者だけに限られた業務は存在していない。したがって、他のヨーロッパ諸国では、職業上の義務と職業監督は、原則として私法上団体の会則として定められているにすぎない(19)
  このようにヨーロッパでは、税理士のみに係る職業法として日本の税理士法と比較しうる法律が存在するのはドイツのみである(20)。当該ドイツの税理士法は、近年、EC加盟国等の関連において数回の改正が行われている。
  一九八九年六月九日に、第四次ドイツ税理士法改正(BGBl. I. S. 1062)が行われた。当該改正は、一九八〇年六月一八日付け(BVerfGE 54, 301)と一九八二年一月二七日付け(BVerfGE 59, 302)の連邦憲法裁判所の決定により必要となった改正が行われたものである(21)
  税理士法第五次改正(BGBl. I. S. 2756)は、一九九〇年一二月一三日に実施された。当該改正のきっかけは、一九八八年一二月二一日のEC会議の「少なくとも三年間の実務経験を終了した大学卒業者の承認に対する一般的規定についての考え方」によるものである(ABl. EG Nr. L 19, 1989 S. 16)。これにより、加盟国の義務は、一九九一年一月四日までにいわゆる制限された行動に対して、原則的に他のEC加盟国の大学卒業証明や実務経験を認めることにより、当該者に当該制限された行動への参加を可能にすることであった。これを受けた今回の改正により、税務に係る法的職業に関しドイツでは、税理士法三六条四項から五項、三七b条二項から四項、三七c条の新しい条項を定めることにより、当該志願者がドイツでの適性試験(Eignungspru¨fung)を受験することにより、ドイツでの税理士業務への参入を可能なものにしたのである。
  また、この機会に、税理士法施行令(Verordnung zur Durchfu¨hrung der Vorschriften u¨ber Steuerberater, Steuerbevollma¨chtigte und Steuerberatungsgesellschaften)に定められていた税理士試験に関する重要な規定が、税理士法において規定されることになった。すなわち、第五次税理士法改正までは、税理士法に税理士試験の目的及び内容の規定がなく、税理士法施行令に規定されていたのみであったが、当該改正により、税理士試験に関する内容等が税理士法上に明確に規定されることになったのである。当該改正は、税理士となる要件が原則的に税理士試験に合格しなければならないものであり、税理士業務を整然と履行できるという志願者の適性は、税理士試験をとうして確認されなければならないということの確認でもある(22)
  一九九四年六月二四日に実施された税理士法第六次改正(BGBl. I. S. 1387)は、弁護士の職業倫理規制についての連邦憲法裁判所の判決(BVerfGE 76, 171 SS. 196 SS.)に基づくもので、税理士法八六条二項二号を連邦弁護士規則に合致させたものである。税理士の職業規則は、弁護士の職業規則より法的にきびしく規定されており、連邦憲法裁判所の判決は、弁護士規則に税理士規則を押しつけることができないとしていた(BVerfG, DstR 1993 S. 530)。その他、当該改正においていくつかの規制緩和が行われている。
  現行のドイツ税理士法で、日本税理士法八条に該当する試験免除規定は、ドイツ税理士法三八条に定められている(23)。当該ドイツの免除規定は、日本の税理士法八条同様、学識経験による免除と税務領域における実務経験による免除に区分されている。前者に該当する条項は三八条一項一号で、以前は「ドイツの大学又は専門大学において少なくとも五年間租税領域の授業を行ってきた教授」と規定されていた。しかし、当該条項は税理士法第四次改正で新しく改正され、「ドイツの大学において少なくとも一〇年間租税領域の授業を行ってきた教授」とされた(なお、解釈上「ドイツの大学」には専門大学を含む)。
  当該三八条一項(ただし、ドイツ税理士法第四次改正前)について、連邦財政裁判所で争われた事例が存在する(連邦財政裁判所一九八六年一一月四日判決(24))。
  当該申立て内容は、連邦財政学院(Bundesfinanzakademie)の教官に、税理士試験免除の規定(ドイツ税理士法三八条一項一号)が適用されるかどうかについて争われたものである。
  原告は、ジークブルグの連邦財政学院(日本における税務大学校に該当すると考えられる)の元教官であるが、被告で被上告人(大蔵大臣)に対して税理士法三八条一項一号により税理士試験の免除を申請した。その理由として原告が主張したことは、「連邦財政学院の教官の仕事は、専門大学の教授の仕事と同じであり、自分は免除規定を充たしている」というものであった。
  州大蔵大臣の下にある許可委員会(Zulassungsausschuβ)はこの申請を拒否した。この拒否決定に対して行った原告の訴えは退けられた。財政裁判所は、「原告は税理士法三八条一項一号の構成要件を充たしていない。連邦財政学院在任中、彼は教授の地位を得ていたわけでもないし、総合大学または専門大学での教鞭をとったわけでもない。この規定の文言は、緩やかに解釈されることは許されない。税理士業務に無試験で算入を認めることは例外的規定であり、拡大解釈を許さない例外規定が焦点となることからしても、このような緩やかな解釈は禁じられている」と判示したのである。
  上告において上告人(原告)は、「連邦財政学院は少なくとも専門大学と同格である。このことは、合憲的に緩やかに解釈したり、同様に税理士法三八条一項一号を緩やかに解釈すれば明らかである。行政内部の研修機関の教官に対する免除規定の準用はできないという財政裁判所の見解は、確かに税理士法発行時の立法者の意図には合致している。しかし、この立法者の歴史的意思は、今日ではもはやこの決定のための根拠として持ち出すことはできない。なぜならば、実際の状況は変化してしまったからである。税理士法施行後、ハンブルグ、バーデンビュッテンブルグ、ベルリン、ノルトライン・ベストファーレン及びヘッセンにある税務行政の上級職研修所は、専門大学に組織変更され、そこの教官には教授の資格が付与された。同様に、連邦大蔵省に属していたシグマリンゲンの税関専門研修所も専門大学として分離された。この立法者は、これらの大学改革により、税理士法三八条一項一号により優遇される人的範囲を拡大したのである。それにより、上級税務官僚の研修を任ぜられている連邦財政学院の教官もまた優遇規定の対象に含められることになるべきである。なぜならば、連邦財政学院の教官の仕事は専門大学の教官と同じ程度であり、また、原告に与えられた連邦財政学院教官の資格は、教授と同価値であるからである」と述べ、原審の取消と、州大蔵大臣に対して上告人に税理士試験を免除するよう義務づけることを求めたのである。
  一方、大蔵大臣は上告を却下することを求めた。彼はその理由として、「税理士法三八条一項一号の文言は、原告に税理士法の免除規定の適用することを許さない。なぜならば、連邦財政学院は行政内部機関で、連邦大蔵大臣が管轄する連邦施設であり、大学に相当する法律上の規定を欠いているため総合大学や専門大学ではない。そして、原告が教授であるわけでもないからである」と述べた。
  判決は、「総合大学または専門大学の教授に対する税理士試験免除規定(税理士法三八条一項一号)は、ジークブルグの連邦財政学院の教官には適用されない」というものであった。
  現行法において税理士試験が免除される教授は、大学大綱法四二条の解釈により、大学法(Hochschulgesetze)により任命された教授に限られる。学術大学の他のスタッフ、非常勤講師(Lehrbeauftragte)、講師(Dozenten)、特別職任務の講師(Lehrkra¨fte fu¨r besondere Aufgaben)、客員教授(Honorarprofessoren)、員外教授(auβerplan−ma¨βige Professoren)などは、対象とされない。
  この大学という概念は、大学大綱法一条により設立された大学のみであるが、それに加えて、総合大学の一部である専門大学も対象とされている。ただし、他の教育期間、たとえば成人学校、行政・職業・そして経済学院等は対象とされない。税務に関する連邦財政学院もまた対象外とされる。
  さらに、当該教授が試験免除を受けるためには、連邦または州の租税領域に関する授業担当を一〇年間行っていなければならない。この法律では、研究目的の休職その他の理由で授業を行っていない年限は、当該一〇年として考慮されない。同様に、病気休暇期間も対象とされない(25)。このように、ドイツ税理士法上学識経験者として税理士試験を免除される者は、日本税理士法八条一項一号、二号に比較してかなり厳しく限定されている。
  また、上記判例の判決理由でも述べられているが、当該条項により税理士試験が免除される場合には、その教授が属する研究機関の自治権が確立されていることも重要な要件とされている。その理由の一つとして、「ドイツ税理士法三八条一項による当該試験免除者の大学及び専門大学教授は、税理士を兼任することができる」(同法五七条三項四号)という条項の存在があげられる。すなわち、自治権を有する大学等の教授は、独立した職業専門家たる税理士業務を兼任することができ、さらに、税理士業務の実務経験を通して得た知識・経験等をその教授としての研究成果に還元することができるという考え方である。
  一方、実務経験による免除に該当する条項は、同条一項二、三、四号である。当該条項では、該当者の実務内容とその職務上の資格により、元財政裁判官、高級職(ho¨heren Dienstes)の元官吏(Beamte)及び被傭者(Angestellte)と上級職(gehobenen Dienstes)の元官吏及び被傭者に区分され、それぞれ実務経験の最低必要年限が定められている。
  元財政裁判官は、一〇年の実務経験により税理士試験が免除される。高級職の元官吏及び被傭者は、原則として大学の予備教育を必要とする高級職の官吏及び被傭者を対象とするものである。それについて、財政裁判所は、「高級職」とは「その業務機能であり経歴ではないとする考え」を否定する見解を示している(FG Duesseldorf, EFG 1963 S. 486)。
  さらに、当該免除対象者は、その一〇年間の期間中、部門責任者、あるいは少なくとも同等の地位で活動した者でなければならない。「高級職」と並んで当該免除要件の一つとされるこの「部門責任者」という概念は、税務署業務規則(Gescha¨ftsordnung fu¨r die Finenza¨mter)第六条の規定にもかかわらず(BStBl. 1954US. 66)、独自の意義を有している。すなわち、税務署規則では、すべての高級職官吏が部門責任者であるとされるが、当該官吏がすべて税理士法三八条の部門責任者として活動している者であることを意味しないことが確認されている(FG Mu¨nchen, EFG 1971 S. 514)。また、当該活動は、連邦または州の租税領域において活動していなければならない。これにより、志願者が税理士業務に必要な知識を財務行政官庁において取得したことが明確となるからである。例えば、組織・予算・人事・財産管理あるいは会計領域で活動した官吏または被傭者は、当該一項三号の要件を充たさない。
  財務行政庁の上級職の元官吏及び被傭者は、原則として高級職の元官吏及び被傭者の場合と同様の税理士試験免除要件が適用される。異なる点は、少なくとも一五年間の勤務期間が必要なことである。さらに、当該免除対象者は、部門担当者または少なくとも同等の地位での一五年間の活動が要求される。なお、同条二、三、四項による税理士試験免除者は、官吏等を退官している必要がある(同条二項)。
  当該実務経験による税理士試験免除に係る連邦財政裁判所の事例が存在する(連邦財政裁判所一九九六年一月三〇日判決(26))。
  この裁判では、つぎの点が争点とされた。原告は、一九九一年九月一五日以来、ベルリン他の信託公社の租税領域の仕事に従事し、一九九五年一月一日に連邦連合の特別任務を離職していた。この期間が、税理士試験免除に必要な一〇年間の実務経験の対象期間となるかどうかの問題であった。
  原告で上告人は、大学で法学の勉強をして二次司法試験合格後、財務行政官庁で三年六ヶ月、そして連邦経済省で五年四ヶ月働いた。当該期間の仕事は、税理士法三八条一項三号a、bの規定により、原告の税理士試験免除に必要な実務経験に該当することについては、利害関係者間で意見は一致していた。
  財政裁判所は、「信託公社の税務領域における原告の仕事は、税理士法三八条一項三号bに定める必要な実務経験に該当しない。なぜならば、信託公社の仕事は、『ある種の州又は連邦の最高官庁』の仕事として扱われていない。原告は今でも連邦経済省の公務員であるというが、そのことは認められない。なぜならば、その雇用関係は、給料無しのはっきりとした休暇により停止しているのである。また、原告は税務領域における責任ある職務についていたというが、そのことは原告に対する試験免除を同様に正当化するものではない。原告の主張を認めることは、本法における試験免除者の適用範囲を逸脱することになる」と判示した。
  原告は上告審にて「財政裁判所は、原告が休暇中ずっとなお連邦経済省で働いていたということを十分考慮していない。原告が休暇中ずっと連邦最高庁で、自ら仕事をしていなかったことは取るに足りないことである。原告は、原告の雇い主と加えて公共の利益のために、信託公社と連邦連合の特別任務で働いていたのであり、以前もその時においても元通り連邦経済省に在職していたのである。そして、もっぱら連邦又は州財務官庁の租税領域の仕事をしており、少なくとも専門分野の責任者と同等の地位にあったのである。したがって、原告は、税理士法三八条一項三号bの規定を充たしている」と述べ、税理士法三八条一項三号の規定適用を訴え、「原告は税理士試験免除の要件を充たす」というドイツ税理士法施行令七条に基づく拘束力のある教示が、財務行政官庁に対して出されることを要求した。
  それに対し財務行政官庁は上告却下を要求したのであるが、連邦財政裁判所は、逆転判決を言い渡した。
  裁判所は、「ある最高連邦官庁を休職した公務員は、この休職の期間に信託公社にて税務領域の仕事をしていた。したがって、信託公社での当該仕事は、税理士試験の免除要件たる実務経験として認められるべきである」と判示したのである(27)
  当該実務経験による税理士試験免除で注目したいのは、先に検討を加えた日本の税理士法八条の試験免除規定に比べて、その対象が具体的に限定されている点である。すなわち、当該免除対象者は、公務員等としての就職時の資格が審査される。さらに重要な点は、その者の実務経験内容が具体的に審査検討されるということである。
  また、同条二項には、「税理士試験を合格することにより、税理士資格が付与されることが原則であり、税理士試験免除規定はあくまでもその特例にすぎない」ことを確認させられる条項があり、それに係る判例が存在する(連邦財政裁判所一九八六年四月二九日判決(28))。
  この判例は、ドイツ税理士法三八条の適用につき、税理士試験の受験要件を定めた同法三七条三項一号(「受験者が税理士としての職業義務を充たさないであろうとの疑いを抱かせるような行動をとっている場合、当該受験者の受験資格は認められない」)を根拠として、許可委員会が当該志願者に対する試験免除を拒否した事例である。
  原告で上告人は、一五年間以上部門責任者として租税領域の仕事をしていた。原告は、出願書を提出して、税理士試験免除を要望した。その出願に対して、被告で被上告人の許可委員会は、「当該志願者が、財政上の利益を獲得するために自己のためあるいは他のために虚偽の申し出(具体的には、奨学金の受給)を行った事実が存在する。そのことは、当該者が税理士としての職業上の義務を充たさないであろうと推測できる根拠となり得るものであり、実際にその危険性もあると考えざるを得ない」として拒否の回答を行った。
  それに対し、原告は、「許可委員会の決定取消し、被告は法解釈を遵守し原告に対して税理士試験を免除するように義務づけるべきである」と訴えたのである。
  これに対し裁判所は、「原告は、官庁に自分が公務員であるためその研究が充分に行えないことを知らせずに、追加勉強のため援助金を得ることで違法の経済的利益を手に入れた。税理士は、その報告が経済的結果を有する場合、格別により良心的に真実の報告をする義務を有している。ところが、志願者の行動は、真実でない報告をすることにより自分や他人のために経済的利益を得ることに専念する可能性を有しており、原告が税理士の職務を遂行できないという心配を直ちに否定できないことを推測させ得るものである」と述べ、「税理士試験免除志願者が税理士としての職務を遂行できないという不安を有しており、それに根拠がある場合には、税理士試験免除の拒否は可能である」と判示したのである。
  この判例のように許可委員会は、本来税理士試験を受けるべき者に対する特例として存在する試験免除規定の適用について、個々に厳しい判断を下していることが窺える。
  以上、ドイツ税理士試験免除規定各号についての検討を行ってきたが、当該免除規定全般について注目すべき特徴としては、許可委員会の構成であり、その判断内容である。
  上記三つの判例にもあるように、試験免除の申請については許可委員会が決定を下すことになっている(ドイツ税理士法施行令一条一項)。日本の税理士審査会が、三名の租税に関する学識経験者で構成されるのに対し(日本税理士法四八条の三)、ドイツの当該許可委員会は、一名の高級職官吏と税理士会が推薦する税理士二名により構成されている(ドイツ税理士法施行令二条、ドイツ税理士法七六条二項九号)。この構成は、税理士資格及びその試験が、実務に依拠するものである点に重点がおかれた結果といえる。そして、申請があれば、当該許可委員会は、受験許可又は試験免除のための個々の要件について、拘束力を有する教示を与えることができるのである。
  ここで重要なことは、許可委員会の過半数が税理士会推薦の税理士で構成され、かつ、志願者の受験要件や試験免除要件について個別の判断を行っていることである。さらに、その判断基準の根底には、「この試験免除規定の文言は、税理士業務に無試験で算入を認める例外的規定であり、拡大解釈をすることは許されない」という基本姿勢が存在していることである。また、その拒否決定に対して当該申請者は、財政裁判所への訴えにより、直接取消しの請求をすることができ(AO三四九条三項二号)、実際多くの判例が存在している点も見逃せない。
  今後の日本税理士法改正において、当該試験免除規定がより適正なものに変更されるべきではあるが、それにはかなりの時間が必要と思われる。そこで、これらドイツ税理士法上の規定及び日本の弁護士法等の規定を参考に、日本税理士法上の他の規定を適用することにより、日本税理士法八条の免除規定を結果として限定的に解釈・運用できないかを試みたい。

五  資格審査会(税理士法四九条の一五)の運用


  税理士となる資格を有する者が、税理士となるには、日本税理士会連合会(以下、「日税連」という)に備えられた税理士名簿に所定の事項を登録されることを要し(税理士法一八、一九条)、当該登録を申請する者は、所定の登録申請書を、税理士会を経由して日税連に提出しなければならない(同法二一条)。また、税理士は、登録を受けた事項に変更が生じたときは、遅滞なく変更の登録を申請しなければならない(同法二〇条)。この変更登録についても、所属の税理士会を経由して日税連に変更登録申請書を提出しなければならない(税理士法規則一〇条)。
  日税連は、当該登録申請書を受理した場合は、その申請者が税理士となる資格を有し(同法三条)、かつ、登録拒否事由(同法二四条)に該当しない者であると認めたときは税理士名簿に登録し、その者が税理士となる資格を有せず、又は登録拒否事由に該当していると認めたときには、登録を拒否しなければならない。この場合において、税務署長等から税理士になる資格を有しない旨、もしくは登録拒否事由に該当する旨の報告を受けた者につき登録を行おうとするとき、または、登録を拒否しようとするときは、資格審査会(同法四九条の一五)の議決に基づいて行われなければならない(同法二二条一項)。
  ここで、「税務署長等から税理士になる資格を有しない旨もしくは登録拒否事由に該当する旨の報告を受けた者」とは、登録申請書を受理した税理士会が、その副本各一通ずつを当該申請者の住所地の所轄税務署長ならびに当該住所地を管轄する市町村長及び都道府県の長に送付(同法二一条二項)した結果、何らかの通知があった場合のことである(同法二三条一項)。弁護士法及び公認会計士法には、このような登録申請書の副本を所轄各官庁等へ送付する定めはない。これは、税理士法八条に、税務官庁等における実務経験を持って税理士となる資格を有する制度が規定されているため、当該資格を各税務官庁等に照会するものと解したい。これを「登録事務の適正な運営を担保するため関係機関にかかる義務を課しているものと解する(29)」と考えると、職業専門家の集団である日税連の自治性がより希薄なものになってしまう。
  一方、弁護士となるには、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」という)に備えた弁護士名簿に登録されることを要し(弁護士法八条)、それには、入会しようとする弁護士会を経て、日弁連に登録の請求をしなければならない(弁護士法九条)。また、その所属弁護士会を変更し、あるいはその業務をやめようとするときは、所属弁護士会を経て、日弁連にそれぞれ登録換又は登録取消の請求をしなければならない(弁護士法一〇、一一条)。更に、所属弁護士会及び日弁連は、一定の事由がある者に対しては、登録又は登録換を拒絶することができるし(弁護士法一二、一五条)、虚偽の申告によって登録を受けた者に対しては、弁護士会がその登録の取消を請求することができる(弁護士法一三条)。
  このように弁護士法は、弁護士の身分の問題について、弁護士会及び日弁連にその自治の立場から強力な権限を与えている。それゆえ、当該権限の行使は、適正かつ慎重になされなければならない。そこで、同法は、弁護士会及び日弁連が登録に関して有する当該権限の適正かつ慎重な行使を保障するために、資格審査会制度を設けている(弁護士法五一条(30))。
  また、公認会計士になるには、日本公認会計士協会に備え付けた公認会計士名簿に登録されることを要求し(公認会計士法一七、一八条)、当該登録を受けようとする者は、登録申請書を日本公認会計士協会に提出しなければならない(同法一九条一項)。日本公認会計士協会は、登録を受けようとする者が公認会計士となることができる者であると認めたときは、遅滞なく当該登録を行い、当該者が公認会計士となることができない者であると認めたときは、資格審査会(同法四六条の一一)の議決に基づいて、登録を拒否しなければならない(同法一九条三項)。
  このように、日本の多くの士業(少なくとも職業専門家と称されるもの)は、その職能団体の自治性を尊重する意味で、各業務を行う場合には、当該団体に強制加入しなければならない規定を有している。なかでも、弁護士会及び日弁連は、その自治性において特に優れている。ただし、弁護士法一二条の進達拒絶については、「弁護士法が一定の資格条件を掲げて、これを充足する者が弁護士となりうると規定しておきながら、一方において登録制度をとり、かつ、弁護士会に強制加入すべき義務を課し、その入会にあたって特定の事由があるとして登録請求の進達を拒絶することができるとして、その者が弁護士となることを拒否するのでは、職業選択の自由を不当に奪うものではないかという(31)」という見解も存在する。しかし、弁護士会の会員として弁護士は各自が自制し、自治によって品位の向上を図らなければならないのであるから(弁護士法三一条)、「弁護士会としては、会員の指導監督の徹底を期するためには、当初から会員たるに適しない者を加入させない処置が要請される。このような見地から、本条の規定は憲法に抵触するものではないとして制定された(32)」と解されている。
  同様に税理士法上も税理士会及び日税連は、その自治性において「税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善に資するため、会員等に対する指導、連絡及び監督をしなければならない」(税理士法四九条六項、同法四九条の一二・二項)と規定されている。したがって、税理士においても、登録申請者に対して弁護士同様の厳格な登録調査が行われても問題がないし、そうされるべきと考える。
  すなわち、同法八条の試験免除者に係る登録申請があった場合、税理士会及び日税連は、同法二一条と二四条及び資格審査会(同法四九条の一五)に基づき、当該職能団体の自治性を尊重する意味で、当該申請者を当会に入会させるかどうかの実質的判断を行うべきである(33)
  その場合、問題となるのは、登録申請者についての税理士となる資格(税理士法三条)の有無及び欠格事由(同法四条)の存否についても日税連に審査権限があるかという点である。この点については、税理士の資格審査会に係る判例は存在しないが、弁護士法の資格審会についての東京高裁昭和四〇年一月二九日判決(行裁例集一六巻一号一〇三頁)が参考になる。
  当該判決において、「原告は弁護士名簿への登録請求を受理した弁護士会は、弁護士法第一二条第一、二項所定の事由がある場合に限り右請求の進達を拒絶し得るのであり、右請求が同法第五条第三号所定の資格を有するとしてなされたものである場合においても、右の資格を有するか否かの点については審査権限を有しない旨主張する。−(中略)−しかしながら、同法第四条又は第五条各号所定の弁護士の資格を有しない者、あるいは同法第六条各号所定の欠格事由がある者から登録請求があった場合には、これを許容し得ないことはもちろんであるから、被告連合会としてはもし弁護士会からそのような登録請求の進達を受けた場合にはこれを拒絶すべきが当然であるし、また弁護士会としても登録請求を単に被告連合会へ中継するのみでなく、弁護士法第一二条により前記同条列挙の事由の存否につき実質的審査をなしたうえその進達をなすか否かを決する権限を与えられているのであるから、右法条所定の進達拒絶事由の存否のみでなく、さらにその前提要件である請求者についての法定の積極的資格の有無及び消極的資格としての欠格事由の存否についても審査をなすべきであり、もしその点についての要件に欠缺があり登録請求が拒絶されるべきものであることが明らかとなつたならば、被告連合会への進達を拒絶すべきものと解するのを相当とする」と判示した。
  したがって、税理士法上の資格審査会においても、弁護士法上の資格審査会同様の実質的審査を行うことが可能である。この実質的審査を行うことにより、税理士法八条の広範囲にわたる試験免除規定をより適切に運用できるものと考える。
  例えば、税理士法八条一項一号、二号の研究対象科目の吟味及び学位についての「基本通達」一六条(学位の意義)の解釈等については、時代の変遷に沿った税理士会による実質的判断が必要である。また、税理士審査会(税理士法四八条の二による国税庁の附属機関)が同条同項十号に基づき規定する研修(税理士法施行規則二条の三の規定により公告された内容)は、現行の税理士試験の「簿記論」、「財務諸表論」の難易度等と比較しても問題があり、上記同様の実質的判断がなされるべき問題点を包含していると考える。
  ただし、税理士法と弁護士法を比較した場合、それぞれの職能団体が有する自治性には、まだ格差があるのは事実である。よって、税理士法上の資格審査会は、段階的にでも、当該実質的審査を行うことができる機能を充実させていくべきである。先ずは、当該適正な実質的判断を下すために、日税連はその客観的判断基準の自主的作成を試みるべきであり、また、ドイツの事例のように司法等の判断を仰ぐことが必要な場合もあると考える。当該裁決及び判決を重ねることにより日税連は、自ら当該問題条項をより合理的な規定に変更させて行く努力をする必要がある。そのためには、資格審査会等は、日税連が推薦した税理士が中心的役割を果たす構成とされるべきことも重要である(税理士法四九条の一五、同法施行令一二条の二、日税連会則五一条から五三条)。

(1)  拙稿「税理士制度の問題点」大阪商業大学論集一〇五号一九一頁
(2)  「シャープ使節団日本税制報告書  附録巻・第四編E節附帯問題第四巻  納税者の代理」(社団法人神戸都市問題研究所  地方行財制度資料刊行会編『戦後地方行財政資料別巻一シャープ使節団日本税制報告書』(勁草書房一九八三年)二八七頁
(3)  拙稿「免許資格制度について」税理士界一〇三〇号「論壇」にて、試験制度について若干の検討を加えている。
(4)  税理士会側の要望としては、「税理士の名称を用いて会計に関する整理立案等を行うことができること」、「税務計算書類の監査証明を税理士業務に加えること」等である(日本税理士会連合会編纂『税理士制度沿革史』(増補改訂版)(日本税理士会連合会事業一九八七年)一一七頁)
(5)  税理士法附則三一項にて、一、官公署における国税又は地方税に関する事務にもっぱら従事した期間が通算して二〇年以上で政令(税理士法施行令附則八項)で定める事務の区分に応じ政令(税理士法施行令附則八、九項)で定める年数以上になる者、二、計理士又は、会計士補の業務に従事した期間が通算して一〇年以上になる者と規定していた。
  この場合、計理士に関してはその資格制度自体がすでに廃止されており、計理士の当該試験対象者は一定の人数に限られていた。したがって、当該計理士に対する特別な税理士試験の実施は、後々の問題とならない性格のもである。
(6)  前掲書『税理士制度沿革史』一一九頁
(7)  米山政府委員発言「昭和五四年六月五日衆議院大蔵委員会議録」
(8)  この判例を紹介したものは、北野弘久『税理士制度の研究』(税務経理協会一九九五年)二七〇頁、阿部照哉「最新判例批評・税理士特別試験制度の合憲性」判例時報九八五号一四五頁等がある。
(9)  高橋政府委員発言「昭和五五年四月一日参議院大蔵委員会議録」
(10)  当時の国会において、当該研修の基準等について質疑が行われた。
  政府側は「−(中略)−制度発足までに具体的基準を決定するよう税理士審査会にお願いしてまいろうと、このように考えております。いずれにいたしましても、研修を通じて税理士の資質の向上が全体として図られるよう我々としては期待しておりますので、その方向ですべてのものをうごかしてまいりたいと、このように考えております」(伊豫田政府委員発言「昭和五五年四月一日参議院大蔵委員会議録」)と述べている。
  結果として当該研修は、昭和五七年六月一六日税理士審査会会長名で「税理士法八条第一項第一〇号に規定する研修の指定の公告」により、「税務大学校の本科、専科、通信研修会計学及び自治大学校の税務専門課程税務会計特別コース等」と指定された。
(11)  梅澤説明員発言「昭和五五年一月二四日衆議院大蔵委員会議録」
(12)  弁護士及び公認会計士に対して、無条件で税理士となる資格を有するとしている現行税理士法三条一項三号及び四号についても問題はある。当該事項については次の機会に検討を加えるが、ドイツの「税理士となるためには、公認会計士等でも、ある一定の税理士試験を受験しなければならない」(ドイツ税理士法三七条b一項等)という規定は参考になる。
(13)  西島教授は、「職業専門家とは、@業務に係る一般原理の確立、A免許資格制度の確立、B職能団体の結成と自律制の確保、C営利制の排除(公益性の存在)、D主体性・独立性の確立、の各要素を充たす職業群を指す」とされる(西島梅治「プロフェッショナル・ライアビリティ・インシュアランスの基本問題」有泉享監『現代損害賠償法講座八  損害と保険』(日本評論社一九七三年)一四一頁)。
  川井健教授は、専門家の特色として次の4つをあげる(川井健「問題の提起」『専門家の民事責任』別冊 NBL 二八号一頁)。
    @  資格を必要とする。その資格は、国家試験制度に基づくことが多く、特定の専門家集団が形成される。また、その団体は、自律性を有する。
    A  特殊な領域についての判断が仕事の内容とされ、高度の裁量権が委ねられる。
    B  仕事の対価は、比較的高額となる。その理由は、その仕事が、特殊な教育や高度の技能を必要とするからである。
    C  社会的地位は、高いことが通常である。
  しかし、一方においては「専門家」という言葉をどのように使うかは、議論の多いところでもある(座談会「『専門家の責任』法理の課題」法律時報六七巻二号三〇頁での、潮見教授発言他)。
(14)  前掲判例(注8)参照
(15)  拙稿「修士号取得に係る試験免除(アンケート結果報告)」税理士界一一三四号「論壇」一四頁において、つぎのような検討を行った。
  一九九八年一〇月に税理士法八条一項一号、二号について、首都圏、東海地方及び近畿圏の経営、経済、法学の各研究科を有する大学に対して、郵送により一五項目の質問を行ったものである。全部で一七九通(うち、国公立二九科)を郵送し、そのうち一〇九通(経営学・商学系四三科、経済学系三六科、法学系三〇科、全回答のうち国公立は一四科、修士課程のみ有する研究科は二七科)の回答を得た。
  「−(中略)−アンケートの結果から、年間四八〇人余の「会計学二科目」又は「税法三科目」の試験免除者が排出されることになる(回答に「何人から何人」と幅があるため、その中間値を取って計算した。なお、回答をいただいた大学だけでこの数値であるから、実体はさらに多いと推測される)。この数値は、平成一〇年度の試験合格者(最終合格者)が、一、〇二五人(ただし、この合格者のなかには、当該一部試験免除者を含む)であることに比し無視できない数値である」。
  ただし、この数値は修士号取得により試験を免除される数値であるから、税理士法八条の他の要件により免除される人数を加えると、税理士として業務を行っている者のなかにしめる税理士法八条の免除者数は、かなりの割合を占めることになる。
(16)  職業専門家であるための要件の一つに、職能団体を結成することがあげられている。税理士法八条における特例の原則化は、当該団体内の運営等に係る基本的意見の相違を招く結果となっている。このような状況は、税理士が職業専門家として発展していくための弊害である。
(17)  弁護士法五条三号に係る判決として、東京高裁昭和四〇年一月二九日判決(行裁例集一六巻一号一〇三頁)、最高裁第二小法廷昭和四三年一一月一五日判決(民集二二巻一二号二五七八頁)、最高裁第二小法廷昭和四三年一二月六日判決(民集二二巻一三号二九〇八頁)等がある。
(18)  福原忠男『増補弁護士法』(第一法規出版一九九〇年)六九頁
(19)  Horst Gehre Steuerberatungsgesetz 3. Auflage S. 27 Verlag C.H. Beck 1995
(20)  一九九八年にポーランドにおいて税理士制度ができたようであるが、詳しい資料は未入手である。また、韓国にも税理士法が存在するが、昨今、規制緩和との関連において、基本的な部分での改正が計画されているようである。詳しい検討は、別稿としたい。
(21)  この改正の主な内容は、税務援助に係る帳簿記録作成特権の制限およびそれに係る公告禁止の緩和と税理士会社に対する資本拘束の導入などである。当法改正について紹介されたものに、波多野弘「西ドイツ税理士法について(2)」税法学四七九号三四頁がある。
(22)  三七条aは、税理士試験の内容を規定している。試験の構造は三科目の筆記試験(税理士法施行令一六条)と口頭試験(税理士法施行令二六条)からなる。
  三七条bは、二種類の特例試験を規定している。一つは、公認会計士(Wirtschafspruefer)及び宣誓計理士(vereidigte Buchpruefer)は、申請により税理士試験の一部を免除して受験することができることを定めている。他の一つは、EC諸国等のドイツ税理士試験志願者で一定の要件を充たすものは、適性試験の一部が免除されることを規定している。ただし、当該判断は許可委員会が決定をする。
(23)  本稿におけるドイツ税理士法各条項(第四、五、六次改正後も変更のない部分)の邦訳文は、原則的にホルスト・ゲーレ著、飯塚毅訳『ドイツ税理士法解説』(第一法規一九九一年)による。
(24)  BFH/NV 一九八七、一二五
(25)  Horst Gehre, a. a. O., S. 119
(26)  BFV/NV 1996, 515
(27)  信託公社は特殊な時代背景(東西ドイツの統合)のもとで設立された機関であることが、この判決に影響を与えていることは無視できない。
(28)  BFH/NV 一九八七、一二七
(29)  日本税理士会連合会編『新税理士法要説』(三訂版)(税務経理協会一九九〇年)九二頁
(30)  日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法』(弘文堂一九九六年)三六九頁
(31)  福原忠男『増補弁護士法』(第一法規出版一九九〇年)九六頁
(32)  前掲書『増補弁護士法』九七頁
(33)  「登録拒否事由の同法二四条一号から五号までは客観的基準であるが、六号及び七号は主観的側面を有している。特に七号はその規定内容が抽象的であり、その認識について争いが生じる場合も考えられる。したがって、日税連が税理士の登録を拒否しようとするときは、日税連に設けられる資格審査会の議決に基づいて行うことを要し、さらに、あらかじめ、その申請者に登録を拒否しようとする旨を通知して、相当の期間内に申請者又はその代理人を通じて弁明の機会を与えなければならないとされている(同法二二条一項、二項)」(前掲書『新税理士法要説』(三訂版)九六頁